地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。まだ作品は少なくブログ自体の体裁も整っておりませんが、細々ながら書き込んでいきますので楽しんで頂ければ幸いに思います。

このブログは、筆者ことA-140が、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイク版は問いません)の二次創作として制作しているヤマト世界の地球防衛軍の艦艇史、および本編で描かれていない、あるいはもっと盛り込んだほうが面白いと思われる艦隊戦について創作を行うために開設しました。

筆者はリアルタイムで旧作を見たファンというわけではない(厳密には3歳のときに映画館で完結編を見たようですが)ですが、幼児期からヤマトに親しみ、それが嵩じて軍艦ファンになって現在に至った人間です。そのためヤマト世界に主に1945年以前の海軍史(知識の関係上、日本海軍に関係したものが多くなりそうです)を持ち込んで色々考えながら創作を行っています。

もしヤマトという作品に出合わなければ、人間関係など私の人生は大きく違ったものになったはずで、色々な意味でこの作品には感謝し切れません。その気持ちを大事にして、自分なりのヤマト世界を広げて楽しませていただき、同時にこのブログを訪れた読者の皆様にも楽しんでいただければ幸いに思います。

なお、旧作リメイク問わず本編の設定を自分の考えで弄ったり、両方を混ぜて新しい設定を作るなど行うこともありますが、筆者はどの本編であろうと否定するつもりは一切なく、単に「ヤマトが好きだから、自分でその世界を描いてみたい」というスタンスで創作を行っています。特定個人や組織、作品に対して批判や不満などは一切持ち込まずに創作を行っていますので、その点はご了承いただければ幸いです。

遅筆にてどのくらいの頻度で更新できるかわかりかねる部分はありますが、どうぞよろしくお願いいたします。

なお、表示の関係で記事を個別に読むと前後編などの場合、後編から読むことになるようです。カテゴリーからは順番に読めるよう設定してありますので、左のカテゴリーから各記事をお読み頂ければと思います。

西暦2191年、外宇宙より飛来したガミラス帝国の艦船と、国連宇宙海軍の艦船が天王星沖にて初めて接触した。最初は友好的な関係を築けるものと期待されていたが、結果として交渉は決裂、両国は戦争状態に突入した。後に“ガミラス戦役”や“ガミラス戦争”などと呼ばれる戦争の開幕である。
当初、国連宇宙海軍上層部は太陽系内に侵入してきたガミラス軍など簡単に撃滅できると信じていた。敵の数は、多く見積もっても50隻。一方、我の兵力はすぐ戦線に投入可能な艦だけでも300隻(これは第二次内惑星戦争後、各地でゲリラ戦を行っている火星軍残党を討伐するため、一時的に多くの艦が現役とされていたのが大きい)6倍の戦力差というのは、通常の戦争では必勝を確信できるほど圧倒的な差である。
直ちに、国連宇宙海軍は討伐軍を派遣した。討伐軍の主戦力となるのは、当時の二大強国であった米国と中国である。彼らの艦隊だけで、討伐軍の6割を占めた。投入される艦艇は、火星軍残党の地球襲撃を警戒し月面基地及び地球各所に配備されていた艦艇群である。戦闘艦艇だけでも160隻、更に今回は史上初めての外惑星系への大規模遠征であった為、補給艦や病院船といった補助艦艇も存分に付けられた。かくして、総数200隻を超える大艦隊が、天王星へ向けてはるばる遠征を開始したのであった。
しかし、旅路は順調であるとは言い難かった。地球圏出発後も解決されていなかった問題として「誰がこの遠征軍の指揮を執るのか?」というものがあった。というのも総司令官として、北米方面軍のジョージ・パストーレ中将と、極東方面軍のハン・チューリン中将が共に立候補したからである。更に問題だったのが、遠征軍に所属する米中艦艇の数がほぼ同数だったことであった。指揮下の艦艇数が多い方が全軍をも指揮するというわけにはいかなかったのである。そして、両者の指揮能力はほぼ同等と言われていた。
結局、遠征軍は能力や政治的公平性を鑑みて、総司令官を極東方面軍のジューゾウ・オキタ宙将、副司令官をパストーレ中将及びハン中将に定めたが、両者の確執は完全になくなったわけではなく、むしろより深くなってさえいた。
この戦いは、地球側の完全敗北としてよく知られている。だが、その一言を聞いただけでこの戦いの全てを知った気になるのはあまりにも傲慢である。このような無様な戦いでも、自らの誇りを忘れずに敵に立ち向かった勇敢な艦がいるのだ。そして、我らが偉大なるウォースパイト号もその内の一艦だった。

西暦2210年10月24日 J・L

西暦2191年 国連宇宙海軍 欧州方面軍所属 ジャック・オブライエン少尉(当時)

初めに
オブライエン氏は二年前のディンギル戦役において、乗艦である戦艦ロイヤル・オークと運命を共にされています。しかし、生前にオブライエン氏が遺していた音声データがこの度提供されました。この場において、このような貴重な証言を残してくださっていたオブライエン氏と、それを提供して下さったオブライエン氏の奥様であるエリザベス氏に、改めて感謝の意を述べたいと思います。

私はジャック・オブライエン、現在の階級は大尉だ。これから、私が経験したとある戦いについて話していきたいと思う。何故急にこんなことを始めたかって?年を取ってからというもの、自分がいつ死ぬか分かったもんじゃないのでね。こうして記録を残そうと思ったわけさ。これを見ている私以外の人間に言っとくが、このデータは私が死んでから公開するものだからな。決して、私が生きているうちに公開するんじゃないぞ。さて、では話を始めよう。
今回私が話すのは、私にとっての初めての戦いである天王星沖海戦についてだ。あの戦いは文字通り悲惨だった。だってそうだろ。人類史上、敵の三倍以上の戦力を投入して完敗した戦いがあるか?しかも相手には一隻も沈没艦が出ていないんだ。だがそんな戦いでも、私の乗艦であったウォースパイトは実に勇敢だった。乗っていたのが彼女でなかったら、私は今頃この世にはいなかっただろう。
さて、あの戦いで敗因と呼ばれているものはいくつかある。過度な慢心?司令部と前線指揮官の対立?不適切な艦隊運用?どれも私に言わせれば違うな。私が「天王星沖海戦での敗因は何だ?」と聞かれたらこう答えるね。“技術力の差”と。
今の地球防衛軍しか知らない奴には信じられないかもしれないが、当時は敵を傷つけることすら困難だったんだ。私は何度も見て来たよ。こっちの主砲が全弾命中して喜んでいたら、向こうは無傷でそれどころか反撃の砲火を放って来てるって場面をね。そんな光景を何度見ても生き残ってるのは、やっぱり運ってやつなんだろうな。まあ、その運も流石に底をついていそうだが。正直、ガミラスさんとの戦いでは一生分の運を使い果たした気がするね。
あの戦いに、我がロイヤル・スペース・ネイビーは保有するほぼ全ての戦力を投入していた。おそらく、政府のお偉いさん方はこの機に英国の実力を世界に見せつけようとしていたのだろう。今思えば実に馬鹿な話だった。そして偶然にも、我が軍は二ヶ月後に控えていた新国王即位式に乗じて行う予定だった観艦式の為、ちょうどモスポール保管されていた艦艇を引っ張り出していたところだった。だから、6隻のウォースパイト級と6隻のヨーク級を主力とするも、当然全艦が出撃可能だった。
圧巻だったよ。第二次内惑星戦争で活躍したウォースパイト、マレーヤ、バーラム、ヴァリアント、戦後に追加建造されたレナウン、レパルス。計6隻ものウォースパイト級が共に航行してる姿なんて、二度と見れないと思ったね。まあ、本来これは観艦式で見れるものだったのだろうけど。そうして、総数200隻に達する大艦隊は、野蛮な宇宙人を撃滅するために意気揚々と出撃していったってわけさ。考えが甘かったよ。外宇宙から飛来した宇宙人が、未だ太陽系すら制覇できていない人類よりも技術力が低いと思っていたなんてね。
この戦いは、まず序盤から躓いていった。最後まで宇宙人との開戦に反対していた、遠征軍指揮官のジューゾウ・オキタ提督が解任されたんだ。司令部が戦闘行動中(実際、領宙警備行動は発令されていた訳だし、こう言っても良いだろう)に前線指揮官を解任するなんて前代未聞だったよ。そして、これが原因で今まで鳴りを潜めていた米中軍のわだかまりが一気に沸騰したんだ。彼らは互いに相手の指揮下に入ることを承諾しなかった。これを抑え統率していたオキタ提督は、本当に素晴らしい人物だったと思うよ。で、米中両軍は、先遣艦のムラサメが敵の攻撃によって撃沈されたと知った瞬間、我先にと突撃していったよ。まだオキタ提督の後任の司令官も決まっていないのに。彼らは、物量の神話を未だ信じていたのだろう。多少強引な戦い方でも、物量で押しつぶせば勝てるってね。
でも実際はそうじゃなかった。敵?ガミラス帝国軍は、突撃して来た奴らから正確に旗艦だけを見抜いたんだ。そして奴らは、たった一航過で30隻以上の艦艇を血祭りに上げたよ。その中には、米宇宙海軍旗艦のニューヨークと、中国宇宙海軍旗艦のペキンも含まれていた。当然、遠征軍は大混乱に陥った。いくら第二次内惑星戦争を生き延びた精鋭が集まっているとはいえ、総司令官が解任された直後に副指令が戦死するなんて出来事に対処することはできなかった。結局、我々は戦力を分断され、奴らに各個撃破されていった。戦隊レベルで統制を回復していた部隊もあったようだが、その程度では圧倒的な力を誇る奴らには勝てなかった。そして、混乱する遠征軍をまとめ上げるべく新たな指揮官が任命された。それが、我らがウォースパイトに乗艦されていたロドニー・カニンガム中将だったというわけさ。とは言っても、混乱している部隊をまとめるのはとても困難だった。
まずカニンガム提督は、個人的な親交もあった極東方面軍第二空間護衛隊群司令官のオキタ提督(彼は全軍の指揮権こそ剥奪されたものの、自らが直接指揮している護衛隊群の指揮権は未だ有していた。)と共同し、二人が指揮していた王立宇宙海軍、航宙自衛隊、及び比較的損害が少なかった南亜方面軍、南米方面軍を中心に部隊を再編した。とは言っても、戦闘中にやっていることだからまともな再編成なんてできやしなかった。ただ、これは戦力を集中させるという意味合いが強かったから、その点では成功していた。
完全ではなかったが、生き残っていた艦艇のほとんどが集結したのを確認したカニンガム提督は、全艦に撤退命令を発令した。「ここで戦っても犬死にするだけだ。ならば今日の屈辱には耐え、明日勝利の芽を掴み取ろう。」そうカニンガム提督が言っていた。当然、多くの戦友が殺されているのにも関わらず、何の成果も得られないまま撤退することに関しては批判の声もあったよ。特に戦闘序盤で損害が大きかった米中軍に多かったかな?でも、そんな奴らに構っている暇はなかった。そうこうしているうちにも、味方の数はどんどん減り続けていたからだ。結局、カニンガム提督は撤退を頑なに拒む連中を放置し、そのまま撤退を開始したんだ。これに関しては、私は正しい選択だったと思う。というより、あの状況ではこれ以外の選択を取りようがなかったんだ。こうして、悲惨な撤退戦が始まった。因みに、この時点で半数以上の艦が宇宙の藻屑と化していた。
さて、ここに一枚のメモリーカードがある。これには一体、何が入ってると思う?実はこれにはな、天王星沖でのあの悲惨な撤退戦の通信記録が入ってるんだ。今からこれを流そうかと思う。こいつはまだ誰にも聞かせちゃいない。暇な時間を見つけては、ずっとこいつの解析ばっかりやっていた。その努力が実ったのか、ようやくテープの一部分が再生できるようになった。何でこんなものを持っているかって?私は通信兵でね。あの戦いではウォースパイトに通信士として乗り組んでいた。怒号、罵声、悲鳴、断末魔、色々聞いたよ。それを聞いていて、私は彼らの声を後世に伝えてやりたいと思ったんだ。こんな価値の低いデータなんて、帰還したら真っ先に削除されるに決まってる。そう思って、私は通信機からメモリーカードを抜き出そうとしたその時だった。ウォースパイトの艦橋付近をかすめた陽電子砲弾が、弾の表面から艦橋内部に向けてプラズマ流を放ってきた。それが直撃して、私の前に鎮座していた通信機は火花と破片を噴き出した。私はそれをもろに浴びてしまった。私の体には、今も多数の傷や火傷の痕が残っている。幸運にも顔だけはヘルメットをかぶっていたので無事だったがね。
もちろん、そのような大怪我を負えば後方へ移送されることは確実だった。そのことを十分理解していた私は、被弾のどさくさに紛れて黒焦げになった通信機からメモリーカードを回収したのさ。当然だが、外がまる焼けになっているのに中身は無事・・・なんてことにはなってなかった。中身もきちんと焼き上がっていたさ。でも、私はあきらめなかった。ここであきらめてしまうのは、あの戦いで死んでいった者達に申し訳が立たなかったから。あの怪我のおかげで、私は今まで生き残ってしまった。本当なら、私は火星沖で死ぬはずだったのに。ただ一人、私だけが生き残ってしまった。ふん、何だかこう言っていると、まるで私が死に場所を求めているようだな。安心しろ。私はまだ死ぬつもりはない。
前置きが長くなってしまったな。では再生するとしよう。死者達の遺言を。
【------ちら、北米方面空間戦------暫定旗艦、USSアーカンソー。現在敵艦隊と交戦中。我が方の被------大。救援を、救援を------------ガッデム!どう見ても全部当たってただろ!お前ら卑怯だ-----------にたくない、俺はまだ死にたくないんだよぉぉぉぉ!畜生めぇぇぇぇっ------------らはHMSバーラム。本艦は機関に重大な損傷を負い、地球への帰還が不可能となった。よって我々はこの宙域にとどまり、最後まで友軍の撤退を援護する。どうか地球で待っている人達にこう伝えてほしい。戦艦バーラムは最後まで勇敢に戦ったと・・・地球連邦万歳!英国万歳!神よ国王陛下を守り給え!------------ん、ばあちゃん。ごめん。俺今からそっちに行くわ------------そっ、------の救助は完了------------はい、見える限りは全員収------した!よしっ!機関始------大船速!早急に現宙域を離脱す------------えっ、広東が沈んだ・・・山東に天津も・・・残っているのは俺達だけか・・・------------ううっ・・・クレア・・・愛し・・・て・・・るぞ------------うおぉぉぉぉっ!生き延びてやる!絶対に、俺は生き延びてやるぞぉぉぉぉ------------こちら、JMS雪風。生存者はいませんか?誰か生きている人はいませんか?応答してください!誰か、誰か!------------】

天王星沖海戦、あの戦いでは実に多くの兵士が命を落としていった。だが、もはや彼らのことを覚えている人間はほんの一握りだ。そう、私のような者くらいだ。だからせめて、彼らのことを記憶の片隅にとどめていて欲しい。忘れても構わん。忘れたらまたこれを聞いて思い出してくれれば良い。どうか彼らの戦いを覚えていて欲しい。彼らの戦いを語り継ぐこと、それがこの私の最期の使命なのだ。
さて、では私はもう行かなければならない。何でも新造された戦艦に配属される新兵の教官をやって欲しいそうだ。この老兵に与えられた最後の仕事だ。今まで死んでいった者達の分まで、しっかりと働いてくるさ。ではまた、今後この音声がより多くの人の耳に届かんことを願う。

オブライエン氏の音声はここで終了していますが、最後に彼の最期について少しだけ述べたいと思います。
オブライエン氏はその後、再編された第一艦隊の戦艦ロイヤル・オークに配備され、新兵の教育を行っていました。ロイヤル・オークはデザリアム戦役の戦訓から有人化が推し進められており、何よりも乗組員の練度を高める必要があったからです。
そして、ディンギル帝国の艦隊が太陽系に電撃的に侵攻してきました。当時、主力艦隊は銀河中心部で発生した“異変”を調査すべく外宇宙へと赴いており、太陽系内で即応可能な戦力は再編中の第一艦隊だけでした。直ちに第一艦隊は、土星宙域に進軍中のディンギル帝国軍を迎撃すべく出撃して行きました。まだ乗組員の訓練が終了していなかったのに。その後第一艦隊は土星沖にて接敵、自艦隊の練度不足を懸念していた司令官は通常砲戦を断念、艦隊各艦に装備されていた拡大波動砲による先制攻撃で一気に殲滅しようと試みたのです。拡大波動砲の充填時間は波動砲チャージャーを接続すれば約6秒。絶対に回避できない攻撃のはずでした。
しかし、不幸にも拡大波動砲の発射するタイミングと、敵艦がワープするタイミングが一致してしまっていました。そして拡大波動砲発射直後で身動きの取れない第一艦隊に、計500隻以上の宙雷艇が襲い掛かったのです。正に“飽和攻撃”でした。しかし第一艦隊にはこれを防ぐことはできませんでした。第一艦隊には人員不足が原因で防空駆逐艦が定数の六割程度しか配備されておらず、更にその半数が月面基地で整備中だったからです。また肝心の防空戦闘でも、練度不足が原因で効果的な迎撃戦が行えませんでした。結局、第一艦隊は七割以上の艦艇を撃破され壊滅しました。
オブライエン氏の乗艦である戦艦ロイヤル・オークの最期は、随伴艦である巡洋艦バーミンガムが記録しています。最後に、バーミンガムの戦闘録を掲載して本稿を終わりにしたいと思います。

ロイヤル・オークに命中したハイパー放射ミサイルは三発であった。一発目は左舷中央部に命中した。しかし、これは中央部のバルジ状の部分が爆発を吸収したのか艦体にはそれほど損傷は見られなかった。続いて二発目が左舷対空砲群を直撃。この攻撃によって左舷対空砲群は全滅した模様である。更に三発目が艦橋中央部に着弾。この被弾でロイヤル・オークは戦闘能力を完全に消失した。この時点で艦内では、生き残った最上級士官が総員退艦を発令していた模様である。この光景を見て我々も乗組員救助の為に急行した。しかし我々は、ほとんどの人間を助けることが出来なかった。ロイヤル・オーク乗組員で救助出来たのはウィリアム・ライナー少尉以下46名であった。 

バーミンガム戦闘禄より一部抜粋

リンク集およびリンクページ紹介の記事に「コスモ・ウイングス」様 http://cwings.web.fc2.com/ を追加しました。詳細はリンクページ紹介の記事にてご確認お願いします。

第二次土星沖会戦の悲劇

 2207年に生じた銀河系中心部の大災害、当初地球防衛軍はヤマトを派遣しその調査にあたらせたのだが、そのヤマトが謎の敵対勢力(それがディンギル帝国とわかったのは第二次冥王星会戦の直前である)の攻撃を受け大破、自動航行で地球に帰還してきた。
 加えて、水惑星アクエリアスが謎のワープを開始し、僅か15日にして地球に迫るという非常事態が発生、これを受けた連邦政府は地球人類を一時的に宇宙コロニーや他の惑星、およびその衛星の基地に避難させる措置をとることにした。水惑星の水害による被害は恐らく尋常ではないだろうが、この時点では「水が引けばまた復興すればよい」という楽観的な見方が強かったのは否めない。

 しかも、ヤマトを攻撃した敵対勢力については「注意が必要」という認識はされたものの、艦隊は当面地球近辺に主力を配備し、避難の第一陣として土星タイタン基地および周辺の宇宙コロニーに出発した船団に護衛艦をつけなかったことは、地球防衛軍にとって取り返しのつかない失態になった。

 そして、その「ヤマトを攻撃した謎の敵対勢力」が太陽系に攻撃を仕掛けてくるということなど全く想定外で、外惑星の各基地には戦力にならない程度の艦艇しか残存していなかったため、たちまち11番惑星基地と冥王星基地が謎の大艦隊(以降はディンギル軍と記す)によって制圧されてしまった。この事態は、連邦政府や防衛会議、地球防衛軍の参謀本部にとってまるで考えの及ばない状況であった。
 上層部に話を通す暇はない、と判断した藤堂平九郎防衛軍統括司令長官の独断により、土星に向かっていた避難船団を掩護すべく、直ちに地球防衛軍の主力艦隊が発進した。このとき完成していたB型戦艦15隻のうち、テスト航海中に爆雷波動砲を最大出力で発射したカイパーベルトD宙域会戦以来、機関の不調に悩まされていた「マサチューセッツ」以外の14隻全艦がこの主力艦隊の中核戦力として出撃している。

 しかし、この「第二次土星沖会戦」と呼ばれる戦いは無残なものだった。避難船団は救援が間に合わずに全滅、そして避難船団を防衛すべしと急いでいた防衛艦隊は隊列が乱れており、戦場にたどり着いた第一陣のB型戦艦は、まずは敵艦隊の殲滅をと拡大波動砲の速射を行った。
 だが、その拡大波動砲の発射のタイミングに敵艦隊が戦術上の要件で(波動砲を回避するためのものではなかった、と後に判明した)ワープを行い、発射した拡大波動砲は回避されてしまう。しかも敵は強力なハイパー放射ミサイルを搭載した水雷艇部隊を既に発進させており、隊列を整えておらず満足な防空網を張ることができない状態でいた地球防衛艦隊に左側面から襲い掛かってきた。

 結局、側面を取られた状態からハイパー放射ミサイルによる飽和攻撃を受ける……奇しくも内惑星警備艦隊司令長官が鳴らした警鐘とほぼ同じ状況になった地球防衛軍の新鋭主力艦隊は、それでも防空駆逐艦であるC型駆逐艦の奮戦で相応の敵水雷艇とミサイルを撃墜はしたものの、その数に抗しきれず壊滅的な損害を出した。
 この会戦で失われたB型戦艦は12隻、生き残ったのは艦隊後方で損傷が中破に留まり、大勢が決した後に戦場を離脱した「スラヴァ」と、戦闘で大破して土星の衛星エンケラドゥスに不時着した「伊勢」のみだった。

 主力艦隊の壊滅、そしてアクエリアス接近まであと2週間。更に地球本土に行われた空襲で更なる艦艇と脱出用の輸送船の多くを破壊され宇宙への脱出も不可能、人類は絶体絶命の危機に追い込まれることとなった。


第二次冥王星会戦

 危機的状況に連邦政府と防衛軍はパニック状態に陥ったが、それでも藤堂長官を始めとする防衛軍の一部は諦めていなかった。殆ど戦時の状況を利用した独断の措置ばかりだったが、とにかく太陽系からのディンギル帝国軍の駆逐、水惑星アクエリアスのワープ阻止のため彼らは準備を始めた。

 まず、月基地および内惑星に温存されていた戦闘能力の低い艦、あるいは旧式艦をかき集めて護衛艦隊を編成。更にヤマトや「スラヴァ」「マサチューセッツ」といった修理が必要な艦に戦闘航海に支障がない程度の最低限の修理を施し、艦隊を編成して出撃させることが決定された。

 大まかだが、このとき準備された三つの艦隊の編成を挙げておく。

 第一遊撃部隊

 A3型戦艦「薩摩」(旗艦)
 A2型戦艦「カイオ・デュイリオ」
 改A3型戦艦「ドレッドノート(Ⅱ)」
 B型戦艦「マサチューセッツ」
     「スラヴァ」
 A2型巡洋艦4隻
 B型巡洋艦3隻
 C1型駆逐艦2隻
 A2型駆逐艦18隻

 第一陽動部隊

 A4型戦艦「ネルソン」
 改C1型駆逐艦10隻
 (防空は海王星基地戦闘機隊が担当)

 第二陽動部隊

 戦艦「ヤマト」
 B型巡洋艦「矢矧」
 改C1型駆逐艦8隻
 (防空は第64飛行隊(ヤマト搭載戦闘機隊)が担当)

 二つの陽動部隊の任務は、敵部隊、特に水雷戦隊を引き付け、敵艦隊の主要基地である機動要塞を破壊すべき第一遊撃部隊の突入を掩護することだった。そして波動砲発射が可能な戦艦を集中配備した第一遊撃部隊は、波動砲戦を以て敵艦隊および機動要塞の撃滅を行うことが期待されていた。
(なお、この第一遊撃部隊を率いていたのは、皮肉にも現状の軍備に警鐘を鳴らした内惑星警備艦隊司令長官であった)

 しかし、地球側にとって思わぬ事態が発生する。敵の残存する水雷艇部隊が事前の想定を上回っていたため、第一、第二陽動部隊に水雷戦隊を引き付けること自体は成功したものの、この両部隊のうち第一陽動部隊は文字通り全滅、第二陽動部隊もヤマトと駆逐艦1隻しか生き残ることができなかった上に、水雷戦隊の一部が第一遊撃部隊にも向かってきたのである。

 そのため、主力である第一遊撃部隊も過酷な戦闘を強いられることになった。向かってきた水雷艇の数は陽動部隊のそれに規模で劣ったが、大型艦の多さからたちまち主力部隊と察知され、敵艦隊の集中攻撃を受けることになったのだ。
 幸い、敵水雷艇にはガトランティス戦役以来の快速駆逐艦であるA2型駆逐艦によって対処できたが、それ以上の不幸は、時にワープを繰り返して通常航行時の速力の遅さを補う戦法を取るディンギル艦隊相手に早期の波動砲戦はほぼ不可能だったため(後にヤマトが波動砲戦を行って成功させたときは、小惑星帯での戦闘だったためディンギル軍はワープ戦法を有効利用できなかった)、敵に数で劣るにも関わらず通常の砲雷撃戦で対処するしかなかったことだった。

 このため、第一遊撃部隊司令長官は戦艦部隊の砲撃戦とA2型駆逐艦による機動戦を用いて何とか敵艦隊を一か所に集めさせ、強引に波動砲戦に持ち込みこれを壊滅させることに成功したが、犠牲はあまりに大きかった。第一遊撃部隊も旗艦「薩摩」と「ドレッドノート(Ⅱ)」、B型戦艦では「マサチューセッツ」が生き残ったものの、先の戦いで損傷していた「スラヴァ」は損害拡大のため放棄、戦闘終了後に自沈させる措置を取らざるを得なかった。また、残存艦および護衛艦も大半が失われるか例外なく大破しているという状況であり、今後の作戦行動が不可能となっていた。

 そして、最後に敵機動要塞および都市衛星ウルクを撃破し、更に自らを犠牲にして地球を救ったのはヤマトだった。そして戦役後、ヤマトに対してやむを得なかったとはいえ何も掩護ができなかったこと、自らの指揮で多くの将兵を死なせた悔恨も込めて、第一遊撃部隊司令長官は上層部に再び意見を具申した。

 「波動砲に依存しなければならない艦隊は実効戦力として意味がなく、今後一切必要ない。その上で、もし戦艦を建造するという選択肢があるならば、それは例え少数でも必ずヤマトに匹敵、あるいはそれ以上の攻防性能と機動力を、波動砲を問題とせずに持たせなければならない」

 今度のこの意見を、無視できる防衛軍首脳部の人間は存在しなかった。


B型戦艦の現状とその未来

 ディンギル戦役終結後、B型戦艦は生き残った「マサチューセッツ」と、エンケラドゥスから浮揚、復旧された「伊勢」。そしてディンギル軍の空襲を免れて完工した「ロドネー」「日向」(「アイオワ」はディンギル軍の空襲で受けた損傷が大きく、建造が中止された)の4隻で第一戦艦戦隊を編成した。

 そして年も改まり、これまで「地球の守護神」として親しまれてきたヤマトを失い、連邦政府と地球防衛軍は市民から激しい非難を浴びた。そしてディンギル戦役における惨敗を招いた原因となる軍備を推進し、その結果として「地球防衛軍の象徴」たるヤマトを自沈に追い込んだ参謀本部は、艦隊に所属する将兵から激しい憎悪を向けられていた。
 そうした対立の結果、とうとう先日発生した「政略派(波動砲艦隊推進派)」と通称される勢力のクーデター事件を招くことになった。そして、このクーデターが失敗に終わったことで、波動砲艦隊を推進していた派閥の関係者は防衛軍から一掃され、新たに防衛軍統括司令長官に就任した山南修宙将の元、地球防衛軍は新たな軍備を行うことに決定した。

 それは、極力小型化した波動魚雷を搭載する運動性に優れた新型駆逐艦と、波動ミサイルを搭載した新型コスモタイガーⅡ(五三型と称される)を配備した航空隊を決戦兵力とする新たな編成で、その中でB型戦艦は「戦況が許せば波動砲を使用するが、主任務はその火力と防御力によって艦隊戦列の中核を維持すること」という、A型戦艦の初期案に戻った構想で運用されることになった。
 もちろん、現状B型戦艦は新鋭艦であり、駆逐艦や航空機の数が揃うまでは貴重な防衛戦力と認識されているため、ディンギル戦役の戦訓を取り入れて、また自軍に配備された波動弾頭を有する実弾兵器に対する防御方策も考慮され、限定的ながら改装工事が行われている。

 前期型というべき「マサチューセッツ」「伊勢」は修理時に、後期型とも呼べる「ロドネー」「日向」は建造工事中に以下の改装が加えられた(なお便宜上、本文では前期型と後期型に分けたが、A型戦艦と異なり防衛軍はB型戦艦を前期型と後期型に区分してはいないので注意されたい)。

 ・舷側装甲を二重化し、間に緩衝材を充填(20世紀のイタリア戦艦「ヴィットリオ・ヴェネト」級の装甲の構造に類似する)。これによりハイパー放射ミサイルおよび波動弾頭の爆発を装甲の外側で吸収する構造に変更
 ・艦内隔壁の強化
 ・艦尾上方のアンテナを艦尾下方に移設
 ・「マサチューセッツ」のみ、不調の機関を建造中止となった「アイオワ」用に準備されたものに換装

 この工事で防御力は限定的ながら向上したとされ、戦艦としては相応に有力と判定されることになった。だが、防衛軍の中にあって戦艦の存在感そのものが低下しており、また新鋭艦であるにも関わらず、ヤマトがこれまで担ってきた任務を完全に代替することができないB型戦艦に不満を持つ者は少なくなかった。そのためB型戦艦は「これ以上の追加建造は行わない」と決定され、以後はヤマトを始祖とする「汎用戦艦」の系譜を引き継ぐC型戦艦のみを少数建造し、A型、およびB型戦艦の系譜である「主力戦艦」は、建造そのものが当面ストップされることになった。

 今後すぐ、B型戦艦が地球防衛軍にとって「戦力とならない」と判断されることはないだろうし、その能力は例え行動可能な範囲が限られたとしても、敵に対する抑止力として十分に期待できる。しかし「曲がりなりにも新鋭艦である」ということが枷になってしまい、今後大改装が順次行われるA型戦艦の残存艦(こちらは旧式ゆえに「使いつぶしが効く」)のような積極的運用は難しいと思われるからか、あくまで噂だが「何隻かモスボールされる可能性がある」という極端な話まで聞こえてくる。それは極論としても、艦艇研究者としての筆者は戦争を望むところではないので、B型戦艦に地球防衛の戦力として期待しつつも、退役までその出番が来ないことを望む次第である。


おわりに

 B型戦艦は「強力な爆雷波動砲を搭載するためだけに」建造された艦であり、もしこれを諦めていればA型戦艦の拡大型として、あるいはヤマトの安価量産型としてバランスの取れた標準的な主力戦艦として世に出たかもしれない。
 とはいえ、B型戦艦は「砲塔型副砲がなく中距離での対空力に欠ける」という欠点はあったがそれ以外の完成度は十分に高く、そしてその問題に関しては本来、護衛艦である巡洋艦や駆逐艦が補うべきことであって、本艦の罪ではない。筆者としては、真に責任を負うべきは内惑星警備艦隊司令長官が指摘したように、B型戦艦にまるで合わせるように巡洋艦を大型化したり、運動性に欠ける駆逐艦を量産するなど、諸事情はあろうが十分な護衛兵力や機動戦を行える艦隊を用意しなかった当時の防衛軍参謀本部にあった、と断じるしかないところである。

 不幸なことだが、もし今後何かしらの戦禍が太陽系を脅かすとしたら、再びガトランティス戦役時代のバランスの取れた艦隊を志向し始めた現在の防衛軍なら、このB型戦艦の欠点を補った運用ができるかもしれない。しかし、繰り返すがそれはあくまで不幸とすべき出来事であるから、そうならないことを筆者は望む。だが、同時にそれはB型戦艦がその持ち得る能力を十全に発揮せずに役目を終えるということであり、上層部の思惑によって生み出された「軍備の歪さ」で未だ本当の活躍の場を得ていないB型戦艦は、文字通り「悲運の高性能戦艦である」としか、今の筆者には評する言葉が見当たらないのである。

金剛型宇宙戦艦――西暦2171年に一番艦金剛が就役して以降、世界中で数多くの同型艦が建造された。しかし、金剛型というのはあくまで極東管区(主に旧日本国領)での呼び名であって、その他の地域では違った呼称であったことはあまり知られていない。これはガミラス戦役後の世界の中心が極東に移ったことも一因であるだろうが、我々は少しでも記憶しておかなければならない。歴史の狭間に埋もれてしまった者達が、一体どのように戦い、そして散っていったのかを。私はジェームズ・リーランド少佐、地球防衛軍情報部第七〇七情報隊所属、歴史を未来に伝える者である。

西暦2210年10月20日 J・L

第一章 初陣

西暦2180年時 国連宇宙軍欧州方面軍所属 ロイ・キャメロン中尉(当時)の回想

私は今、アイルランド島にあるベルファストという街に来ている。ここは港街ということもあって、一昨年のアクエリアス危機(ディンギル戦役)の影響が色濃く残っている地域である。ガミラス戦役後この街は地球防衛海軍の軍港となったが、それ以外には特に何もないさびれた街である。ガミラス戦役以前は何かあったのかもしれないが、遊星爆弾で全てが吹き飛んでしまった今となっては知る由もない。しかし、ガミラス戦役以前のこの街を知っている者が一人、郊外の家で一人寂しく漁業を営んでいた。彼の名はロイ・キャメロン、とても65才には見えない屈強な体付きの男であり、かつては我らがロイヤル・スペース・ネイビーの一員だった漢であった。
「私が軍に居たのは、もうかなり前のことです。おそらく皆さんが一番興味をお持ちであろうガミラス戦役の時、私は既に第一線を退いていました。そのような私に話せることはあまりありませんが、それでもよろしいのですか?」キャメロン氏は、私と玄関で挨拶を交わし、最低限の家具しか置かれていない小さなリビングに私を招いた直後、そう私に尋ねて来た。
「構いません。私が求めているのは、むしろそのような話ですから。」そう私はキャメロン氏に自らの好奇心をありのまま伝えた。この時の私は、この文章を読む読者よりも彼の話に興味があったのかもしれない。
分かりました。それでは、少しばかり老人の長話に付き合ってもらいましょう。まず初めに、私が乗っていた艦の話をさせていただきたいと思います。私が乗艦していたのは、ウォースパイト級戦艦一番艦ウォースパイト。西暦2177年に就役した当時最新鋭の戦艦でした。
ウォースパイト級と名乗ってはいますが、実はこれ我が国・・・いえ、旧英連邦だけの呼称であったのです。あの戦艦の正式な名称は“国連宇宙海軍第三世代型主力戦艦”という、何とも味気無い名前でした。そこで各国は、この戦艦に独自の艦級名を付けていったのです。名前は国によってまちまちでした。今この戦艦を呼ぶときは、その活躍度から極東管区の“金剛型(コンゴウ・クラス)”という呼び名が一般的ではありますが、それ以外にも色々な名前がありました。
例えば、同じ極東管区でも当時中国と呼ばれていた国は、この戦艦を“火竜級(ファイヤードラゴン・クラス)”と呼称していました。この火竜級を中国は合計で16隻建造したらしいです。次に、今は北米管区となっている旧アメリカ合衆国、こちらでは“ヴァージニア級”と呼称されていました。こちらは細かな改修を重ねながら合計で20隻建造され、このクラスでは最大の建造数を誇ったらしいです。その他にも、旧ドイツ連邦共和国の“リュッツオウ級”、旧フランス共和国の“ノルマンディー級”、旧イタリア共和国の“カイオ・デュイリオ級”、旧ロシア連邦共和国の“アルハンゲリスク級”、旧インドの“ヴィクラント級”、旧ブラジル連邦共和国の“リオ・グランデ級”、など世界中で様々な呼称がありました。全ての同型艦を合わせたら70隻くらいは居たと思います。最も、これらの同型艦全てが一堂に会する機会は遂に訪れなかったのですが。もし70隻が同じ場所に集結したら、それはさぞ圧巻であったのでしょうね。
すみません。話がそれました。ともかく、私は戦艦ウォースパイトに栄光ある第一期生として乗り組んだのです。当時私は機関科に所属していましたので、当然ですがウォースパイトの機関室に配属されました。この搭載してある新型核融合炉がまた癖がありましてね、配備された直後はとても苦労したものです。でも最新鋭のエンジンに触れられるというだけでも、当時の私はすごく興奮しました。
やがてウォースパイトに配備されてから3年の月日が流れ、やっとエンジンの扱いにも慣れてきたころ、恐れていたことが遂に現実となりました。そうです、第二次内惑星戦争が始まったのです。少し前から多くのマスメディアが「地球と火星、数年以内に再び開戦か!」などと煽っていましたから、この事を聞いても私は「なんだ、また始まったのか。」と思うばかりでした。実に拍子抜けな言葉ですが、当時の私には戦争という言葉は誇大すぎたのです。
やがて私の初陣がやってきました。地球圏に侵入してきた火星軍を撃滅すべく、月面基地から次々と艦艇が飛び立っていきました。旧英連邦も、保有する4隻のウォースパイト級以下28隻(これは英連邦が保有する艦艇の7割弱に相当しました)の艦艇を出撃させました。もちろん、その中には私の乗るウォースパイトも含まれていました。そして艦隊は出撃してから二日後に火星軍と接触、後に“月軌道会戦”と呼ばれる戦いが勃発しました。
戦いの経緯としては、地球軍と火星軍は互いをほぼ同時に探知、しかる後に同航戦に突入。結果地球軍が圧勝したそうです。というのも実は、私は機関士ですから戦闘中は基本的に機関室に籠っています。戦闘が始まった途端に駄々をこねだすエンジンと向き合わなければならず、気が付いたら戦闘が終わってしまっていたのです。戦闘後、周りは「火星野郎の艦を何隻撃沈した。」だの、「俺の操舵で攻撃をギリギリのところで回避した。」だの会話が弾んでいましたが、私はその会話に加わることが出来ませんでした。それが悔しかった私は、次の戦いの時はこっそり機関室を抜け出して戦闘を見に行こうとさえ思いました。
そして月軌道会戦から数ヶ月後、軍令部である作戦が立案されました。少数の精鋭部隊をもってして火星沖に突入、当時地球に甚大な被害をもたらしていた遊星爆弾(ガミラスの物みたいに放射能が発生するわけではなく、火星軍のやつは単なる隕石です。)の発射基地を破壊する。というものでした。この作戦を聞いた瞬間、我々は飛び上がるように喜びました。何せ今までは地球に襲来する火星軍や隕石の迎撃ばかりを行っていた我々が、初めて攻めに転ずることが出来るのですから。この喜びは兵隊になった者にしかわからないでしょう。
早速、作戦は具体的なものへとなっていきました。火星沖に突入する部隊の指揮官には、極東方面軍所属の提督が任命されました。提督は国連宇宙海軍内で行われる合同演習の際、実に見事な戦法で自軍の三倍以上の敵に勝利したことがありました。それを見た北米方面軍の指揮官は当初「まぐれだ。次はああ上手くはいかんさ。」などと余裕の表情で発言したそうです。最もその自信も、次の演習で彼の部隊が提督の艦隊に全滅判定を叩き出されるまででしたが。このようなこともあって、上層部は彼の能力を高く評価していたらしいです。実際、先の月軌道会戦で一番戦功を挙げたのは彼の艦隊でしたからね。これは余談ですが、彼が旗艦としていた戦艦コンゴウの当時の艦長が、かの有名なアドミラル・オキタだったそうです。オキタの艦長としての能力の高さが、提督にあのような戦法を取らせることを可能にしたのだと思います。
そして我らがウォースパイト号が、栄えある突撃隊に参加することが決定したのです。この事を聞いた瞬間、私の中ではある思いが膨らみました。先ほど申し上げた「戦闘をこの目で見てみたい。」というものです。歴史の一ページに確実に書き込まれるであろう戦いに参加できるのです。どうせなら、特等席で見たいと思うのも自然な気持ちであると思います。
月軌道会戦より四ヶ月後、突撃隊が多くの人に見送られながら月面基地を離陸して行きました。戦艦4隻、巡洋艦12隻、駆逐艦16隻、計32隻の艦隊の姿はとても壮観でありました。突撃隊は月面上空にて艦隊陣形を組んだ後、火星へと進路を向けました。今ならここで敵前へのワープを行うところなのですが、当時はワープ航法など存在しなかったので、突撃隊は進路を欺瞞しつつ火星に接近しました。やがて我々は、火星側にその存在を知られることなく火星宙域に到着することが出来ました。完全なる奇襲でした。そして提督は次のような通信文を全軍宛てに発信しました。「我ラハ来タリ、ソシテ見タリ、誓ッテ共ニ勝タン。全軍突撃セヨ!」
火星宙域には、目標となるべき物が大きく分けて三つありました。一つ目は火星本星、火星政府の中枢は本星にありましたからこれは重要な戦略目標と言えました。二つ目は軌道上に浮かぶコロニー群、これらに居住しているのはほとんどが民間人でしたが、中には軍用ステーションも混じっていました。三つ目は火星の衛星フォボス、ここは火星軍が要塞を築き上げており、火星軍のほぼ全ての部隊がここに集結していました。またフォボスのマスドライバー基地が、地球に向けてあの忌まわしき遊星爆弾の雨を降らせていたのです。当然ながら、提督は三つ目の衛星フォボスを目標としていました。火星本星はいずれ叩かなければいけない目標とはいえ、早急に攻略する必要はありませんでした。コロニー群への攻撃は、民間人を戦闘に巻き込む可能性があったので攻撃目標から除外されました。いくら敵国人とはいえ民間人を戦闘に巻き込むべきではない。戦争に関して、提督はどちらかというと古いタイプの考えを持っている軍人でした。その点において、彼は国連宇宙海軍の善き部分を体現していた人間でした。それに、わざわざ敵が決戦の地を用意してくれているのにも関わらず、それを避けるかのような行為は武人である提督にとっては到底容認できなかったのでしょう。そして我々の主目標もまた、決戦の地にあったのですから。
かくして、後に“フォボス沖海戦”と呼ばれる戦いが勃発しました。旗艦コンゴウ以下、突撃隊は衛星フォボスに向けて突撃を開始しました。当然、艦のエンジンは常に最大出力で運転し続けなければならず、我々機関士は相当苦労させられました。外では両軍の砲火が飛び交い、いくつもの閃光がきらめく中、我々は必死にエンジンと格闘していたのです。
やがて戦闘も半ばにさしかかった時、それまでは何とか運転し続けていたエンジンに故障が発生したのです。とは言っても、その故障はどの艦でも日常茶飯事で起きているようなもので、平時であれば無視していても問題ないほどの小さなものでした。しかし、ここで私の耳に悪魔が囁いたのです。私は戦闘中なのにも関わらず、機関長に「交換用の部品を持ってくる。」と一言告げた後に、勝手に持ち場を離れて見張り所へと向かったのです。
見張り所から私が見た光景は、それまでエンジンに囲まれていた私からしてみれば幻想的にすら思えました。主砲から放たれたエメラルドグリーンのビームが、赤く塗装された火星軍の戦艦をまるで風船を割るかのように一撃で粉砕していました。ガミラス戦役時の記録映像をさんざん見せられた人にはとても信じられないかもしれませんが、当時、高圧増幅光線砲は「4発以上命中すれば撃沈確実。」と言われるくらい強力な兵装だったのです。また、我らがロイヤル・スペース・ネイビーのE級突撃宇宙駆逐艦が、敵の戦闘衛星に肉薄雷撃を行い撃破する様子も見ることが出来ました。ムラサメ型宇宙巡洋艦とヨーク級宇宙巡洋艦が統制砲撃を行い、フォボスの表面に設置された電磁加速砲を破壊する光景も見ました。
ですが、私の中で一番印象に残っている光景は、コンゴウとウォースパイトとの連携攻撃です。一方が攻撃を行っている最中、もう一方は常に反対側を警戒し続け火星軍の接近を許しません。更に二艦の機動も凄まじく、僚艦が随伴できないことがしばしばありました。本当にこの二艦のコンビネーションには圧倒されました。開いた口が塞がらないとは正にあのようなことを言うのだなぁ、などと思ったりもしました。そして私は、このような戦いぶりを見せられる艦の乗組員であることに改めて誇りを感じたものでした。やがて突撃隊はマスドライバー基地に到達すると、保有する全火力をマスドライバー基地に向かって叩き込みました。幾条もの光線やミサイルが降り注ぎました。装甲など無きに等しいマスドライバーが、この攻撃に耐えられる道理はありませんでした。攻撃は数分間続き、その後にマスドライバーは跡形もなく崩壊していきました。我々はその光景を見て歓喜しました。「これで戦争が終わるぞ!」「もう怯えながら空を見つめる必要はないんだ!」そのような歓声が艦内各所から聞こえてきました。私も彼らと同じ気持ちでした。しかし、現実は非情でした。この戦いには、まだ余興が残っていたのです。
火星宙域に、突撃隊より遅れて本隊が到着しました。到着してから直ぐに、本隊旗艦のヴァージニアから一通の電文が突撃隊全艦に向けて発信されました。その内容は次のようなものでした。「突撃隊ノ見事ナル奮戦ニ感謝ス、後ノ任務ハ我々ガ実施スル、諸君ラハ引キ続キ静観サレタシ。」これに疑問を抱いた人間はいませんでした。突撃隊の各艦は既に弾薬を消耗しつくしており、到底次の戦闘を行えるような状態ではなかったからです。しかし、この後に本隊が行ったことを鑑みると、私にはこの通信も我々にくぎを刺したように聞こえるのです。いや、彼らとしてはそのつもりだったのでしょう。彼らが行った行為は、常人なら後ろめたさを感じる程度では済まないことでしたから。
本隊の連中は、我々があれほど戒めた軌道上のコロニー群への攻撃を開始したのです。それも軍用ステーションだけではなく、民間ステーションへも攻撃を行ったのです。私は当初、彼らが何を行っているのか理解できませんでした。何故彼らは民間人を攻撃・・・・いや、虐殺しているのか?その答えは、母なる星地球にありました。当時、地球は火星からの遊星爆弾攻撃に晒されており、多くの市民が地下シェルター(後の地下都市)への避難を余儀なくされていました。鬱蒼とした地下での生活の中、地球市民は怒りの矛先を自然と火星人へ向けていました。そのような状況下、市民の感情は遂に爆発し、一部の人間は火星人の抹殺を唱えるまでになりました。これは地球の血塗られた歴史の再現でした。宇宙に進出するようになってもなお、人類の精神構造は何ら変化を見せていなかったのです。ガトランティスは全生命の抹殺を唱えていたらしいですが、果たしてそれとこれとはどう違うのでしょうか?ただ対象が小さくなっただけではないでしょうか?根本的にやっていることは変わらないと私は思います。
このような経緯があり、国連宇宙海軍は火星への虐殺的な攻撃を自国民と政府に後押しされる形で半ば強引に決定したのです。彼らが行った攻撃は、正に“虐殺”とか“過剰攻撃”などという言葉が似あったものでした。一部の軍用ステーションが僅かな抵抗を行っていましたが、ほとんどが無抵抗のまま爆発に呑まれていきました。後に彼らは「我々は抵抗者を攻撃しただけだ。降伏した者には寛大な処置を与えている。」と発言していました。詭弁もはなただしいものです。私はこの目でしっかりと見ました。火星の民間商船が、白旗を掲げた瞬間に高圧増幅光線砲に撃ち抜かれたところを。無防備都市宣言を出したコロニーが、隊列を組んだ艦隊によって完膚なきまでに破壊される姿を。しかし、本隊の人間全員がこの虐殺的攻撃を行っていたわけではありませんでした。中には攻撃命令を拒否した部隊もあったのです。そしてその中には、ウォースパイトの同型艦であるマレーヤ、バーラム、ヴァリアントの3隻も含まれていました。私は、偉大なるロイヤル・スペース・ネイビーとウォースパイト級が、この非人道的行為に参加していないことがせめてもの救いでした。
――国連宇宙海軍はコロニー群を壊滅させた後に火星本星への攻撃を慣行、首都であるアルカディアシティには無数の弾丸が降り注いだ。特に火星の玄関口との称されたアルカディアポートは徹底的に攻撃され、優雅なデザインの宇宙港は瓦礫へと変わった。準備射撃が終了した後、上空に待機していた強襲揚陸艦より空間騎兵隊が降下、ほぼ廃墟と化したアルカディアシティを占領した。火星政府首脳陣は、半数が砲撃で死亡し残りは降下してきた空間騎兵隊によって確保された。かくして、第二次内惑星戦争は終結したのである―― 
そう、歴史の教科書には書いてあります。ですが、あなたがたには是非とも知ってもらいたい。この光景を見ていた我々がどう感じ、どう思ったかを。
まず、あの後私は営倉にぶち込まれることを覚悟していました。当然です。戦闘中に無断で持ち場を離れたのですから。ですが、いつまでたっても何も起こりませんでした。不思議に思った私は、いつも営倉替わりに使われている空き部屋へと向かいました。(艦内スペースに余裕がないウォースパイトには、専用の営倉を設置する余裕はありませんでした。)するとそこには、本来であれば私をここに連れて来るはずであった機関長が居たのです。どうやら機関長は、コロニー群への攻撃をやめさせようとエンジンを緊急停止させ、それから機関室内に立てこもったらしいのです。隣の部屋に居た砲雷長も、似たような理由でここに入れられているようでした。「正直、あの時俺は本気で奴らを撃沈しようと思ったよ。」そう砲雷長は営倉内から私に話しかけてきました。砲雷長は、残存している火器を使用し、ウォースパイトの傍でコロニー群への攻撃を行っていた中国艦を撃沈しようとしたらしいのです。無論、実際に砲弾が放たれることはありませんでした。艦長が実力で止めにかかったからだそうです。「でさ、艦長が『お前の気持ちは十分に分かる。皆も同じ気持ちだ。だからと言って、皆が勝手な行動をとり始めたらおしまいだ。俺はどうなっても良い。だが、お前らには輝かしい未来があるだろう?』なんて言っちゃってさ。そう言われちゃったら、俺もおとなしくなるしかないじゃないか。畜生め!」そう砲雷長は壁の向こう側に向かって激昂していました。そしてこの次に機関長が言った言葉を、私は永遠に忘れることはないでしょう。「狂ってる。敵も味方も、皆狂ってる。」この言葉が、今の状況全てを表しているのではないかと当時の私は思いました。
第二次内惑星戦争後、私は退役しました。もう戦いはこりごりでした。ガミラス戦役の際には軍に戻らないかとのお誘いも受けました。あの時は人類が一丸となって戦っていたので、正直後ろめたさもありました。でも私は断りました。代わりに私は、戦闘以外で人類に貢献しようとしました。そういうわけで、ガミラス戦役時は地下都市に電気を供給する核融合炉の管理を行っていました。ウォースパイトの核融合炉を扱っていたくらいですから、民間の核融合炉を扱うなど造作もないことでした。ガミラス戦役後もしばらくは核融合炉をいじっていたのですが、やがて私の技術を次の世代に伝えることに専念していきました。その方がより良いと気が付いたのです。そして今から四年前、この街に移り住んで来ました。それからはずっとこの調子です。
「私の話はこれで終わりです。」そう言って、キャメロン氏は立ち上がった。そして彼は窓に近づいた。窓の外には、海岸線とそれに続く大海原が広がっている。既に日はだいぶ傾いており、夕焼けの光が窓から差し込んでいた。窓から差し込んでいる温かい光が、キャメロン氏の体を包み込んでいる。「ウォースパイト、実に良い艦でした。私のような軍人の最期を飾るには余りにも立派すぎる。でもそんな彼女も、第一次火星沖海戦で星の海へと還りました。その後、彼女の名前を継ぐ艦が誕生しましたが、私にとっては彼女こそが・・・・いえ、今もなお火星沖で眠っている彼女だけがウォースパイトなのです。」やがて日は沈み、辺りは漆黒に染まった。私はキャメロン氏にお礼を告げ、彼の家から立ち去った。漆黒の闇に浮かぶさびれた家には、時代の波に呑まれ、そして消えゆく老人がただ一人佇んでいた。

 「堀田真司一尉、本日を持ちまして『ふゆつき』砲雷長に着任いたしました。よろしくお願いいたします」
 「ご苦労、よろしく頼む」

 2192年も押し迫った頃、ガミラス戦役が激化する一方で続々と新造艦艇が建造されていたが、その一隻である磯風型突撃駆逐艦「ふゆつき」に新たな砲雷長が着任した。

 堀田真司。航宙軍士官候補生学校において「宙雷に関しては同期で右に出るものはない」とまで称され、戦術研究科にも選抜されて二年を過ごした秀才である。卒業後はしばらく本土で技術部の新型魚雷開発に協力していたが、間もなくであろうと見込まれたガミラス太陽系遠征軍との戦いに新型魚雷は間に合わないと見切りをつけられてしまい、ついに軍艦乗りとして宇宙に出ることになったのだ。

 当時の「ふゆつき」艦長は水谷信之三佐。このとき34歳で、階級が一つ下なだけの堀田が22歳ということを考えると「出世が遅い」と言われるのは仕方ない。だが、これは本人が無能だとかそういう問題ではなく、本来航海科士官だった水谷は国連宇宙軍の人材不足により宙雷に「転向させられた」ため教育期間が必要だったこと。また本人も戦功を求めて戦うという姿勢を見せず、あくまで戦場全体を見て自分の役割をしっかりと果たすことを志向する性格だったので、自然と地味さが拭えず上層部からあまり重んじられていなかったのである。
 だが、航海長として、そして僅かな経験だが砲雷長として、彼を部下とした士官、あるいは彼の下で戦った将兵たちは水谷を、特にその粘り強さにおいて高く評価しており、派手さはなくともこれからのガミラスとの戦いにおいても貴重な人材になると見る者が多かった。

 しかし、これらの評判いずれも、堀田の耳にはまだ届いていない。というより「そうした評判を耳にすると自分の人を見る目が曇る」という考え方をする彼にとって、自分を含めて軍において誰それがどうのという評判はあまり関心のないことであったのだ。

 形通りの挨拶を終えてから、堀田は水谷に艦長室……といっても申し訳程度の狭い個室だったが、そこに案内された。

 「君は、まだ戦場に出たことがなかったな」
 「はい、恥ずかしながら……」
 「そんなことは言わなくていい。後方で軍務に服すことも立派な役割であるのだから、堂々としていればよい。ただ……」
 「?」
 「今の国連宇宙艦隊には、苦戦続きのせいもあろうが若者たちを馬鹿にする傾向が見られる。正直よいこととは言えないし、私はこの艦においてそれは許していないつもりだが、君も侮られることがあるかもしれない。覚悟しておいてもらえるとありがたい」
 「はい」

 堀田の答えに、水谷は満足そうな表情を見せる。正直、風貌だけでも地味な人だと思わず堀田が思ってしまうような相手ではあるが、こうして話をしてくれるあたり、信頼に値する艦長であることは間違いないだろう。

 (自分は、どうやら恵まれたところからスタートすることになったようだ。後はそれに慢心しないことだな)

 艦長室から退室したとき、堀田はそう思っていた。


 そして、それからの「ふゆつき」での堀田の暮らしは、ある意味で地獄であったし、ある意味で納得できるものだった。

 何しろ訓練が凄まじく過酷なのだ。もちろんこれはガミラス戦役の厳しさから当然のことと堀田は思うのだが、さすがに体がついて行かなくなることも多々あった。この激しさは、士官学校で「鬼」と呼ばれる校長から教わったはずの彼でも「厳しい……」と思わず口に出かけたほどであった。
 だが、よいこともあった。水谷は「自分はこの艦で若者を侮ることを許していない」と語っていたが、その言葉の通り、自分より年上の乗員がほとんどを占める「ふゆつき」で、堀田は若さを理由に侮った態度を取られたことは、上下いずれを問わず一度もなかった。
 この「周囲に侮られることなく任務に専念できた」というのは幸運としか言いようがないが、後に堀田が指揮官となったときに自分の「ふゆつき」時代を顧みて行動したため「堀田さんは人を分け隔てなく扱ってくれる」という部下からの信頼を勝ち得る大きな財産となったのである。


 「お前さん、専攻は宙雷だよな?」

 ある日、堀田は先任将校である航海長からそう声をかけられた。

 「はい、そうです」
 「その割には、なかなか砲術もやるじゃないか。俺も別の艦で何人か砲雷長を見てきたが、お前さんほどうまく当てる奴はそういなかったもんだ」
 「恐縮です……士官学校の同期に砲術専攻の友人がいまして、彼から色々教わりましたので」

 その「同期の友人」には自分も宙雷戦術を教えていたが、それはここで言うことでもない。

 「へえ、男の友情ってやつはいいもんだよな。だけどな……」

 急に、航海長の声のトーンが下がる。

 「?」
 「……いや、俺も士官学校で友達になった奴は結構いたんだがな、もう半分も生き残っちゃいない。あのガミ公の悪魔にみんなやられちまった」
 「……」
 「俺は、船を動かすことしか能がないから、敵討ちと行きたくても大砲もミサイルも打てやしない。なあ、砲雷長さんよ。この艦の次の実戦がいつか知らねえけど、そんときは敵の1隻くらいは沈めてやってくれよな」
 「……わかりました、努力します」

 頼んだぜ、と言いながら去っていく航海長だったが、堀田は振り向くことすらできなかった。航海長の望む「敵の1隻くらいは沈める」ということが、実は絶望的に難しいと知っていたからである。

 彼は若いながらも雷撃戦の専門家であるし、それ故にしばらくは研究家としての活動が続いていたのだが、とにかくレーザー砲もミサイルも現状、ガミラス艦の大小を問わず殆ど通用しないのだ。訓練においてこれまで何とか撃沈したガミラス艦の装甲を参考にした仮想標的に砲撃や雷撃を加えても、それこそ体当たり寸前の近接戦闘でなければ貫通しないのである。たった今、会話した航海長と水谷艦長は操艦の名手だと堀田は知っていたが、それでも「体当たり寸前まで接近してください」とは言いにくかった。

 「砲雷長」

 水谷に声をかけられた。

 「あ、艦長」
 「何か考えていたか? ぼんやりしているようにも見えたが」
 「いえ、少し考えていました」
 「何をだ?」
 「……敵の装甲を撃ち抜く手段を。しかし、思いつきませんでした」
 「そうか」

 深刻な問題だが、水谷はいつもの物静かさを崩さなかった。

 「その前に砲雷長。一つ、君について気になることがあるんだが」
 「何でしょうか?」
 「君は、私たち……この「ふゆつき」の乗員たちを本当に信頼してくれているのか?」
 「えっ……それはいったい?」

 そんなことは考えたことがなかった。堀田にとって「信頼している」のが当然のことであって、水谷始めこの「ふゆつき」に乗艦している人たちを疑ったことなどないのだ。
 言葉に詰まる堀田に、水谷は続ける。

 「堀田君、信頼とは言葉にしないと通じないことがある。もちろん、人間であるから言葉にしにくいこともあるし、時に何もなくとも察さねばならないこともあるだろう。だが、まずは行動第一だが、必ず言葉も示せ。君はこれから士官として多くの将兵を率いていくことになる。私のような言葉足らずになってほしくないものだな」
 「……」

 反論の余地がなかった。堀田の性格が元々無口だったということもあるが、これまでの彼は「やるべきこと」とは「命令されてやること」であって、自分の考えを口にするということではなかったからである。この二か月あまりの訓練の間で、そんな堀田の問題点を水谷は正確に見抜き、そして自分と照らし合わせて「それではいけない」と指摘したのだから。

 「申し訳ありません」
 「謝ることはない、私は自分がうまくできないことを君にしろと言っているのだから」
 「いえ、艦長。お言葉、大変ありがたく思っています。堀田一尉、これからは話すべきときは話すよう注意して参ります」
 「よし、わかってくれればそれでいい。頼むぞ」

 はい、と答えつつ敬礼しながら立ち上がろうとした堀田の胸のポケットから、一枚の紙が舞い落ちる。一瞬、しまったと思ったが水谷はそれを見逃さなかった。

 「砲雷長、それは?」
 「い、いえ、何でもありません」
 「そうか?」
 「はい、その……」
 「お、砲雷長が何か隠し事しているぞ」
 「そいつはいかんな。艦長、ここは艦長権限で砲雷長の隠し事を明らかにしましょう」

 さっき去っていったはずの航海長も含めて、何故か「ふゆつき」艦橋に普段詰める面々が集まってきていた。このとき、堀田の顔は真っ赤になっていた。
 軽く咳払いをして、水谷がにやりと笑って口を開いた。

 「砲雷長、艦長命令である。その落ちた紙を私に見せてくれたまえ」
 「……了解しました」

 艦長命令である以上、否やはない。堀田は水谷に紙……写真を差し出し、それに「ふゆつき」の艦橋要員たち全員が目をやる。

 「これは、別嬪さんだな」

 堅物の水谷ですら、思わずそうつぶやく綺麗な女性がその写真には写っていた。

 「お、砲雷長の恋人さんかな?」
 「ほう、我が艦の若手筆頭さんも隅に置けないな」
 「こいつぁ美人さんだ、こんな人を放ってあの世に行ったら罰が当たるぞ、なあ砲雷長?」
 「……」

 散々言われ放題で、堀田は結局何も言えなかった。しかもそればかりか、しばらくはその写真の女性……婚約者の高室奈波についてあれこれ聞かれ続けるという、これまでの訓練より厳しいとしか思えない状況に放り込まれる羽目になったのであった。


 そんな喧噪が一段落してから、堀田は水谷と航海長に相談を持ち掛けた。

 「接近戦で魚雷などの実弾を打ち込む、これでガミラス艦の小型艦までなら一定の効果が見込めます。そのための操艦は可能でしょうか?」

 彼自身が考えたように、実弾とはいえ殆ど体当たりに近い接射が必要なのである。もちろん1隻沈めても自分たちが沈められてしまっては、その戦法に全く意味はない。接近しつつ敵弾を回避し撤収する、そんな高度な操艦が要求されるのだ。

 「何だ、そうならとっとと言ってくれればいいじゃねえか」

 航海長が自信満々に言うのを、水谷は黙って聞いていた。

 「つまりあれだろ、魚雷を叩き込めれば何とかなる可能性はあるってことだな?」
 「そうです。それも本来の魚雷の性能を無視して、現地改造で射程を犠牲にして推進エネルギーを全て雷速に注ぎ込む。まだ理論上でやったことはありませんが、これなら僅かですが可能性はあります」
 「よし、ではやってみるとしよう」

 水谷が断を下す。

 「だが、魚雷の改造となると難しそうだが、見通しは?」
 「私も魚雷開発に携わっていましたので……応急改造で作業は危険ですが、不可能ではないかと」
 「わかった、ならば技術長から許可を貰ってくれ。それが駄目ならこの話はここまでだが、許可が下りれば私に異論はない。砲雷長の思うようにやってくれ」
 「はいっ!」

 堀田は「ふゆつき」の技術長に相談を持ち掛けたが、苦戦続きである前線を知っていた技術長も「やむを得ない」と判断してくれて魚雷の改造が許可され、早速、技術科員たちから志願者を募って魚雷の改造が行われた。
 幸い、改造中に爆発事故などは起こさず、堀田が考案した「応急改造の雷速に全振りした魚雷」が「ふゆつき」に搭載され、実験の日取りも決まった。ただ、この実験は上位組織には許可を取らずに行われることになった……これは「上申してもまず許可されないだろう」と水谷が判断したからだが、そのため「ふゆつき」単独の臨時訓練で密かに試験することになったのだ。

 「ふゆつき」は単独で演習場である月軌道に到着、そこに配置されていたガミラス艦の装甲に見立てた標的を捕捉した。

 「よし、航海長と砲雷長、頼んだぞ。『ふゆつき』全速前進!」

 水谷の命令一下「ふゆつき」は突撃機動に入る。

 「砲雷長、かなり荒っぽいがちゃんと当ててくれよな!」
 「了解しました!」

 堀田も大声で応じる。そして「ふゆつき」は水谷の適切な指示と航海長の巧みな操艦によって、標的から発射される訓練用エネルギー弾を絶妙に回避しつつ、徐々に装甲標的に近づいていった。

 「目標、距離500、400、300……」

 船務長が「まだなのか」と言いたげに距離を告げる。

 「200、100!」
 「魚雷、テーッ」

 やっと、堀田が魚雷の引き金を引く。直後、全速突撃状態だった「ふゆつき」は装甲標的を衝突寸前ギリギリのところで回避していた。

 「砲雷長、戦果確認を」
 「はいっ」

 水谷の命で、堀田は直ちに装甲標的の分析を行う。しかし……

 「……装甲、貫通を確認できず」

 「ふゆつき」艦橋の要員、特に堀田は落胆を隠せなかったが、水谷はただ一言「そうか」としか言わなかった。

 「砲雷長、技術長と共に原因を分析してくれ」
 「了解しました」

 技術長と共に艦橋を出ていく堀田だったが、その表情は真っ青になっていた。


 そして数時間後、装甲標的の分析を終えた堀田は、艦長室にいた水谷に報告した。

 「魚雷の頭部が起爆前に破砕したのが、標的を貫通できなかった理由でした。……申し訳ありません、私の計算ミスで現状の魚雷では雷速に耐えられないということに気付けませんでした」
 「……」
 「艦長、私を何かしらご処分願えないでしょうか?」
 「……理由は?」

 ここまで、あくまでも水谷は静かな口調だった。

 「魚雷の改造という危険な作業に技術科の要員に手伝ってもらいながら、何の成果も出せませんでした。また艦長や航海長の操艦のおかげで事なきを得ましたが……」
 「堀田君」

 水谷が堀田の言葉を遮った。

 「私は、君はよくやった、と褒めてやりたいところなのだがな」
 「えっ? ですが、私は失敗したのですが」
 「確かに実験は失敗した。しかし、君は自分の言う『危険な作業と操艦』を皆に実行させるのに何のためらいも覚えさせなかった。これがどういうことか、理解できるか?」
 「……いいえ」

 堀田の答えに、水谷は軽くため息をついた。

 「そこがわからんのが君の未熟だな。いいか、もし君が『砲雷長として乗組員に信頼されていなかったら』、誰がこんな成算があるかどうかわからない実験に付き合うと思う? 私を含め、今度のことで本艦が犯した危険全てが『君への信頼の証』と考えることはできんか?」
 「あっ……」

 確かにその通りだ。危険な操艦を引き受けた航海長、危険な魚雷の改造を請け負った技術科、そして上層部に秘匿してまで全てを容認した艦長。彼らがまだ着任二か月ほどの堀田を「信頼に値する砲雷長」と見ているのは明らかだった。

 「も、申し訳ありませんでしたっ!」

 今にも泣き出しそうな気持ちで頭を下げる堀田だったが、その彼に水谷は「まあ、座りたまえ」と着席を促した。

 「正直、君は不思議な男だよ」
 「え?」
 「着任二か月の砲雷長と考えれば、君の行動に誰かが反対すると私は思っていた。だが、失敗それ自体を他の乗組員たちがどう思っているかはともかく、事前に誰一人、君に『反対はしなかった』からな」
 「……」
 「私は、これでも色々な部署や艦を渡り歩いて、色々な人間を見てきた。だが、君のような……褒めすぎかもしれんが『人を惹きつける器』を持った男は見たことがない。君は生き残ってさえいれば、いつか地球のために大きな仕事をすることになるかもしれんな」
 「そんな……買い被りすぎです」

 戸惑う堀田に、水谷はまた「にやり」と笑って見せた。

 「君は私の人を見る目も疑うのかね? 安心しなさい、これでもその方面は悪いほうではないと自負がある」
 「……」
 「だから、君には特に言っておく」

 水谷の表情と口調が、今度は真剣なものに替わった。

 「今後実戦において、決して無駄死にになるような戦いをしてはならない。それが君のためでもあり、君に率いられる将兵、同僚たちのためでもある。そして、君はいつかそうした戦いができるようになると私は信じている。このことを忘れないでくれ」
 「……はい」

 堀田は立ち上がり、敬礼した。

 「艦長のお言葉、堀田真司、肝に銘じます」
 「そう、それでいい」

 水谷が頷き、そして用事が控えていた堀田が退室しようとしたその時、声がかかった。

 「あと、写真のあの綺麗なお嬢さんのためにもな」

 堀田は顔を赤くして「失礼しますっ」と逃げるように艦長室を後にした。


 水谷信之という人は、ガミラス戦役からディンギル戦役、更にそれ以降の戦役すら戦い抜いた古参の将官、そして「ヤマトの最後を看取った男」として知られる人物だが、肝心なところで負傷したり所属部隊に恵まれなかったりして、出世が遅れたまま50代を迎えることになった、ある意味で不運な提督であった。
 そして後年、その彼を最終的に将官として推薦し、自分の率いる部隊の副将格として登用を願い出たのは、実は階級で水谷を追い越してしまっていた堀田だった。

 「私の今があるのは、土方さんと沖田さんと山南さん、そして水谷さんのお陰です。あんな立派な識見と覚悟のある方を埋もれさせてしまうのは、防衛軍にとってあまりに惜しすぎます」

 水谷を将官に推薦する際、堀田はそう述べた。そして堀田が将官として「公正さという点で後ろ暗さが全く見受けられない」とまで称されたのは、若き日の「ふゆつき」で学んだ「人との信頼関係の大切さ」が大きかったのではないかと、後年、堀田真司という軍人を研究する学者たちの多くが認めるところなのは紛れもない事実である。


あとがき

 筆者が好きなヤマトキャラの中で随一の地味さを誇る?水谷「冬月」艦長(メ号作戦時に「ふゆつき」がいた(=それまで沈んでいない)ので、その艦長にもしてしまいました)が登場です。下の「信之」の名は筆者オリジナルで戦国武将の真田信之に由来しており「苦労が多いが我慢強く生き残るキャラ」という意味でつけました。まだこの時点では34歳ですが、自分作成の年表だとヤマト自沈時(完結編)では50歳になっているんですよね…台詞を書いていると、懐かしい小林修氏の声で脳内変換されてちょっと嬉しかったです。
 水谷艦長は本編でも生き残るキャラなので、外伝小説においてまれに登場したりすることがあると思います。そしていずれは主要キャラとして経験豊富な水雷戦隊指揮官として活躍してもらうつもりでいますので、いつになるかわかりませんが楽しみにしていただければと思います。

 なお、航海科から宙雷科に移籍、というのは、史実日本海軍の木村進提督(二度、駆逐艦部隊である第十戦隊を率いた海軍最後の水路部長)を参考に設定しました。この設定を決めた後に同じような設定がされた小説を拝見して変えようとも思いましたが、せっかくなのでそのままにしました。問題があるようでしたら考え直しますので、ご了承いただければ幸いです。

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