地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

このブログは、筆者ことA-140が、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイク版は問いません)の二次創作として制作しているヤマト世界の地球防衛軍の艦艇史、および本編で描かれていない、あるいはもっと盛り込んだほうが面白いと思われる艦隊戦について創作を行うために開設しました。

筆者はリアルタイムで旧作を見たファンというわけではない(厳密には3歳のときに映画館で完結編を見たようですが)ですが、幼児期からヤマトに親しみ、それが嵩じて軍艦ファンになって現在に至った人間です。そのためヤマト世界に主に1945年以前の海軍史(知識の関係上、日本海軍に関係したものが多くなりそうです)を持ち込んで色々考えながら創作を行っています。

もしヤマトという作品に出合わなければ、人間関係など私の人生は大きく違ったものになったはずで、色々な意味でこの作品には感謝し切れません。その気持ちを大事にして、自分なりのヤマト世界を広げて楽しませていただき、同時にこのブログを訪れた読者の皆様にも楽しんでいただければ幸いに思います。

なお、旧作リメイク問わず本編の設定を自分の考えで弄ったり、両方を混ぜて新しい設定を作るなど行うこともありますが、筆者はどの本編であろうと否定するつもりは一切なく、単に「ヤマトが好きだから、自分でその世界を描いてみたい」というスタンスで創作を行っています。特定個人や組織、作品に対して批判や不満などは一切持ち込まずに創作を行っていますので、その点はご了承いただければ幸いです。

遅筆にてどのくらいの頻度で更新できるかわかりかねる部分はありますが、どうぞよろしくお願いいたします。

なお、表示の関係で記事を個別に読むと前後編などの場合、後編から読むことになるようです。カテゴリーからは順番に読めるよう設定してありますので、左のカテゴリーから各記事をお読み頂ければと思います。

・作品への登場の経緯

 当初、島さんの構想では、作品で堀田さんの部下になっている永峰祐樹砲術長が『キリシマ』砲雷長になる予定だったとのことですが、私が自分のブログで『とある士官と戦艦と地球防衛軍』(以下『とある~2199』と略す)を書き始めた頃と制作開始時期が重なったことで、永峰砲術長のキャラ掘り下げに使えると島さんが考えられたのが動画登場へのきっかけになったと記憶しております。
 私としては自分のキャラが動画化されるなど想像の埒外だったのですが、使っていただけるということで喜んで協力させていただきました。一応、製作者サイドということになっておりますが、私が行った作業は堀田さんが絡む部分の脚本と人物関係の設定のみで、大したことはしていません。それでクレジットしていただいたのは大変恐縮ですが、制作総責任者の島さんにこの場にて改めてお礼申し上げたく思います。

・動画以前の来歴

 自分のブログの記事に分散して書いてはあることなのですが、動画から入られた方に親切とはとても言えない説明になっていますので、簡単にキリシマ乗り組み前の堀田さんの来歴を書いておきます。

 2193年の第二次火星沖海戦(『とある~』シリーズの世界観でもFGT2199さんの動画の設定を使わせていただいています)に、駆逐艦『フユツキ』砲雷長として参加、その後、2198年の3月末まで国連宇宙軍士官候補生学校空間戦術科の教官を務めていました。動画の中で永峰砲術長が「教官」と呼ぶシーンがあるのは、彼も堀田さんの教え子の一人であるからです。
 2198年4月に『キリシマ』砲雷長に着任、メ号作戦時は着任からほぼ一年経過したことになります。その間、ガミラス軍との小競り合いがあったとすれば、その一連の戦闘に参加していたわけです。なお専攻は宙雷で、この設定は後述しますが島さんが動画の中で生かしてくださってます。

・動画内での行動に関して

1.敵艦隊への砲撃

 専攻は宙雷ですが、砲撃に関しても同期や時に部下からも学び、相応の腕を持っています。ガミラス艦に効果がないのは動画の通りですが、当ててはいるのでこの方面の力量もあると見てよいでしょう

2.負傷と『大和』の残骸

 堀田さんは『ヤマト計画』の一員という設定があります。古代守(ちなみに、こちらのほうが一年後輩にあたります)の下で砲雷長になる予定だったので、負傷した際に『大和』を思い浮かべたというのが真相です。それでも艦橋に留まって戦闘指揮を執ったのは、他に頼れるだけの人材が残っていなかったことと、責任感の強さが悪いほうへ出たということかもしれません。

3.『ユキカゼ』突撃援護と沖田との関係

 宙雷屋たる堀田さんの見せ場その1。この『ユキカゼ』突撃シーンはむらかわ版コミックからの描写です。『ユキカゼ』の進路をこじ開けるのに自らの宙雷の技術を生かしたわけですが、これは動画制作者の島さんが適切に描写してくださいました。
 また、これは私的な設定ですが、沖田さんは私は宙雷屋だと思っています(沖田戦法のような突撃戦法を行っていることなどから)。なので簡単な指示で沖田さんは済ませ、堀田さんもそれに即応しています。この辺りの意思疎通は同じ宙雷屋だからうまくできたものと認識しております。

4.撤退のための機動戦

 宙雷屋としての見せ場その2。この機動戦は原作2199本編で『キリシマ』が行ったものですが、これも宙雷屋という設定を島さんが生かしてくれました。

5.「古代は無事か?」と聞いた理由

 自分の負傷が死に至る可能性を覚悟しており、そうなればヤマトの戦闘部門は古代守に全て任せることになる。逆に言えば任せることができると信頼していたからこそ、彼が無事だったことを「よかった」と言っています。その後気絶してしまい、地球に戻るまで意識が戻りませんので『ユキカゼ』の最後を知ったときどう思ったか、私としても知る由もありません。

6.永峰砲術長を後任に指名した理由

 『キリシマ』には『2205』に登場する仁科、坂巻コンビが乗り組んでいますが、堀田さんはそのどちらでもなく永峰を自分の下の砲術長にし、自らの後任にも指名していました。これは永峰のほうが幹部候補生課程を経て入隊したため先述の二人より階級が高いという理由もあるのですが、仁科、坂巻の二人について「この二人は上下関係をつけるとうまくいかなくなる可能性がある」と堀田さんなりに見抜いてこの人事を山南艦長にごり押ししたという裏設定があります。プロ意識の強い仁科、坂巻コンビに対する対応としては適切ではなかったかと思っております。

・動画後の話と『海王星沖海戦』の堀田さん

 何とか一命をとりとめ、ヤマトに乗り損なった堀田さんのその後は、当ブログの『とある~2199』にある通りです。この作品は今回の動画に合わせて改訂を入れたいのですが、当面ちょっと時間がありませんのでしばらくお待ちいただければと思います。
 なお、YouTube版で紹介された島さんの続編『海王星沖海戦』にも堀田さんは登場します。どんな形で登場するかはお話できませんが、それなりに重要な役どころが回ってくると思われます。今回、自然な形で冥王星海戦2199で役目を全う出来たと思う堀田さんですが、次回作、あるいは拙作においてもどうぞ末永くよろしくお願いいたします。

新型駆逐艦計画にあたっての論争

 2207年、デザリアム戦役による地球本土占領の被害復興もある程度の目途が立ち、地球防衛軍は損耗した艦隊の再編を行うべく軍備計画の立案を行おうとしていた。
 この時期の防衛軍はいわゆる『新・波動砲艦隊』と呼ばれる波動砲艦隊の再建を目指す派閥が多くを占めていたこともあり、その中核はB型戦艦(筆者注・原作完結編に登場する戦艦のこと)を中心とした波動砲搭載艦で、またデザリアム本星直撃によって戦役に勝利したことから、戦艦は元より巡洋艦、駆逐艦も既存艦より大型化、外宇宙における行動能力の拡充を図ることに主眼が置かれていた。

 これを地球防衛軍の宇宙軍化、地球連邦政府の侵略指向ではないかという批判もなくはなかったが、実際のところ連邦政府も防衛軍もそこまで考えていたわけではなかったようで、あくまで外宇宙において敵対勢力を迎撃することを志向した軍備であったようだ。だが、既存艦の多くを二線級に下げた上で新造艦の大量建造に走るあたり、そこに政府や軍、軍需産業の利権が関わっているのでは、という噂は当時から絶えなかったようである。

 ともあれ、新兵器である拡大波動砲を搭載した大型戦艦と、それを補助する集束、拡散波動砲を搭載する(どちらの波動砲を搭載するかについては、比率は1:1とされていた)巡洋戦艦と呼ぶべき巡洋艦の量産については、防衛軍首脳部の強い主張が通って紆余曲折がありながらも承認された。
 だが、ここで防衛軍首脳部と、実際にそれらの艦を運用する艦隊側とである議題が紛糾する。それは、このような過程でそれぞれが大型化した新鋭艦を護衛すべき、駆逐艦についてであった。

 防衛軍首脳部は、駆逐艦も巡洋艦に合わせてやはり大型化し、少数ながら戦艦と同等の主砲を搭載した『重駆逐艦』を提案した。しかし艦隊側、特にこれまで小型の、ガミラス大戦以来の突撃駆逐艦の系譜を受け継いだ艦を運用していた艦隊内の宙雷部門が、これに猛反発したのである。
 首脳部が提案した駆逐艦は、後に『秋月型』と呼ばれるようになるC型駆逐艦(筆者注・原作完結編に登場する駆逐艦)のほぼ原形と言ってよいものだった。そして、その原案を見た艦隊側は「駆逐艦としてはあまりに大きすぎる」という点を問題視し「際限のない駆逐艦の大型化は艦隊運動に対して悪影響を与える」と論陣を張った。

 その反対論を主張する者たちの代表になったのは、ガミラス大戦以来の歴戦の士官であり、デザリアム戦役まで艦隊指揮官を務め、当時は地球防衛軍司令部付きとなっていた堀田真司宙将補であった。

 彼は本来、政治的な閥を作る気など毛頭なく、防衛軍首脳部と激論を戦わせる意図もなかったようである。だが、事が自身の専門である宙雷戦に大きく関わること、そして艦隊指揮官の一人としていわゆる『宙雷閥』を代表することを強いられる立場であったことから(このことは極めて不本意だったと、後に彼自身が書き残している)、自身の経験に基づいて防衛軍首脳部と論戦を行うことになった。

 堀田がいわゆる『重駆逐艦』に対して示していた懸念は、具体的には以下の通りであった。

 ・大口径砲の搭載により砲の門数が不足し、多方向からの攻撃への対処が困難
 ・艦型が大に過ぎて戦術的機動力が低下し、敵が行う可能性のある機動戦に対処できるか甚だ不安がある
 ・大型化による被弾面積の増加は、機動戦を行う必要のある駆逐艦にとっては無視できない要素である
 ・船体の大型化により量産性が低下すれば、艦隊内における駆逐艦の絶対数が不足する危険がある
 ・魚雷の威力向上が遅れている現状、主兵装をショックカノンのみに依存するのは、それが通用しない局面において大きな問題が生じる

 これらの懸念から、堀田は「外宇宙における運用能力向上が必要なのは認めるが、そのために200m級まで艦を大型化する必要が本当にあるか再検討していただきたい」と進言したのだが、彼は普段の言行がいわゆる『上に厳しい』ものであり、また彼から見て必要以上に艦を大型化させることが、艦の建造費を高騰させているだけに写ったことから「この艦隊はあなた方の金もうけのためのものですか?」という激烈な批判を加えてしまったこともあって、この具申は全く無視されてしまい、ほぼ『予定通り』といった感じで『重駆逐艦』である秋月型(C型)駆逐艦の建造が決定されたのだった。


『堀田私案』とある試作艦の建造

 この決定に、特に宙雷閥の士官たちの不満は頂点に達していたが、一度決定されたことを覆すほどの政治力を当時の彼らは持ち合わせていなかったし、何よりその代表であるはずの堀田が「これ以上、上層部と争えば軍が割れる危険がある」となだめていたこともあって、当面の暴発は何とか防がれた。
 しかし堀田個人としては、決定されたこととはいえ将来を見据えて何かしら対処しなければ、自分が主張した懸念が現実となることを恐れた。繰り返すが、彼はガミラス大戦以来の艦隊士官であり、最初の敵手であるガミラス軍が機動戦を得意とし、ガミラスとの安保条約締結後はその戦法を熱心に学んできたのである。だから、自分の懸念がいつか現実化する危険を強く感じていた。

 そんな堀田にとって、実はある幸運が訪れていた。それは同期の親友であり、先に宙将に昇進していた高石範義が、デザリアム戦役終結後の人事で、艦艇の設計、建造を担当する艦政本部の部長に就任したことだった。
 いささか私的な縁を利用することになったが、堀田は自分の新型駆逐艦に対する懸念を高石に再度主張し、更に自らが『多目的運用が可能と思われる、護衛艦としても突撃駆逐艦としても使用できる駆逐艦』として概要を纏めた私案を提出したのである。

 高石は砲術が専門であり、正直なところ人的被害が大きくなりがちな宙雷突撃に関してはやや否定的な見解を持っていたようだが、堀田が提出した私案を自分なりに再検討してみたところ『必ずしも突撃のみを想定した艦ではない』と判断し、この私案を艦政本部で現実化してもよいのではないかと考えるようになった。
 だが、当時の艦政本部は新鋭艦の設計に多忙であり、とても量産の予定がない艦を設計するだけの余裕はなかった。まして波動砲艦隊閥から嫌われている堀田が出した私案を具体化するなど、発覚すれば下手をすると高石が更迭されるという事態まで考えられた。それでは元も子もないのだ。

 どうしたものかと思案した高石だったが、ここでもう一つの幸運が訪れる。地球防衛軍はこの時期『次世代型小型大出力波動機関の開発を行う』という計画を立案し、そのための試作艦を一隻のみだが、建造することに決定したのである。
 この試作艦は必ずしも駆逐艦を想定したものではなく、いかに大出力波動機関を小型化できるかに主眼が置かれたものだった(状況によっては、この小型機関を双発にした艦の建造も考えられていたと思われる)。だが、それは言い換えてしまえば『駆逐艦相当の艦で試作しても問題ない』ということでもあったから、高石はこれを利用することにした。そして、利用できる『種』はまだ他にもあったので、高石はそれも利用してこのような意見を提出した。

 『大出力小型波動機関を搭載する試作艦の建造は、船団護衛用小型艦の試作を兼ねて行いたい』

 確かに、C型駆逐艦は艦隊用の駆逐艦であり、船団護衛用としてはさすがに大型に過ぎた。また、ガトランティス戦役以来のA型、B型駆逐艦はさすがに装備が陳腐化しつつあったし、船団護衛に用いるには武装に不適当な面が多々見られた。ちょうど正面戦力たる艦隊整備に邁進していた防衛軍首脳部は護衛艦の建造に気が回っていなかったこともあり、この高石の意見を渡りに船と採用することにした。

 こうして『大出力小型波動機関を搭載した、次世代護衛艦の試作艦』という、一見アンバランスな艦の設計計画がスタートした。もっともこれは当時の防衛軍にとってことさら不合理だったわけではなく、何らかの形で大出力小型波動機関をテストでき、更に次世代型護衛艦の試作も同時に行えるというのは、量産艦を重視し極力試作艦を減らしたかった防衛軍首脳部にとっては都合のよいものだったのである。艦政本部の、というより高石を通した堀田の私案が奇妙とも言える形で採用に至ったのは、そうした事情があったものと考慮される。


露呈された欠陥

 太陽危機による建造数の縮小、移民船兼用艦への改造などの紆余曲折を経ながら、C型駆逐艦の量産は続行して行われた。だが、堀田らが懸念した通りその数は艦隊側にとって『護衛艦として』十分な数とは言い難いものであり、宙雷閥はこの点の問題を繰り返し主張したのだが、相変わらず防衛軍首脳部の容れるところにはならなかった。

 そんな状況で、ディンギル戦役が勃発する。この、ハイパー放射ミサイルという強力なミサイル兵器を有する多数の宙雷艇を用いた飽和攻撃を得意とした敵に対して、個艦としての防空能力は十分だったC型駆逐艦はその数の不足から艦隊単位での防空力の不足を露呈し、また艦が大型すぎたが故にディンギル軍の宙雷艇部隊に対して積極的な迎撃策を採ることができず、一連の会戦で奮戦しつつも大損害を出し、護衛すべき戦艦、巡洋艦部隊も壊滅的な被害を出した。戦役そのものは何とか地球側の勝利で終わったが、この許容範囲を遥かに超える犠牲は防衛軍首脳部、特に波動砲艦隊閥の者たちにとって全く想像できないものであった。
 また、この戦役でそれまで整備された『新・波動砲艦隊』が、その弱点を突かれると全く機能しないことが判明してしまったことで、以降、波動砲艦隊閥はその勢力を一気に減じ、防衛軍の主流から転げ落ちることとなった。

 そうした政治的なことは本題から外れるため深くは触れないが、いずれにせよ地球防衛軍は、当面の勢力圏、特に太陽系本土を防衛するための戦力を早急に整える必要に迫られた。しかし、大型化した戦艦や巡洋艦を再び多数建造するだけの国力も時間も残されておらず、必然、方法は他のものに限られた。

 防衛軍は、本土防衛の戦力として基地航空隊。そして比較的早急に建造できる、当時ようやく完成した新型の波動魚雷を搭載した中型駆逐艦によって編成された宙雷戦隊の整備を開始することとした。
 そして、その『中型駆逐艦』の雛型として目をつけられたのは、当時大出力小型波動機関の試験を終えて予備艦とされていた、仮称艦名『D-172』。いわゆる『堀田私案』の隠れ蓑となっていた、艦政本部が設計した試作艦だったのである。

パトロール艦の供給問題

 さて、実戦に投入されたパトロール艦が艦隊側から好評を博したのは既に述べた通りだが、ガトランティス軍との戦闘が日に日に激化していく中で、偵察行動中にせよ艦隊の戦列にあっても、相応に損耗が生じるようになった。既に村雨改型巡洋艦が実質駆逐艦として運用されるようになっており、金剛改型戦艦が巡洋艦の任務を代替しているような状況だったとはいえ、当然のことパトロール艦は期待の新型巡洋艦として、前線から損耗の補充は要求されたし更なる戦力増強も要望されていた。

 だが、地球防衛軍と艦政本部は、この艦隊側からの要求に対応し切れなかった。そして、それは波動砲艦としてより強力な戦艦に注力していたから、という艦隊側の一部と防衛軍首脳部の対立とは、全く別の要因で起こった事態だった。

 結論だけを述べると、パトロール艦は『建造費が高すぎた』のである。

 一説には『パトロール艦の建造費はD級戦艦の7割弱』と言われたこの建造費の高騰は、主に装備している強力な電探などの探知、通信機器に起因していた。その索敵能力だけならD級戦艦すら上回ると評されたパトロール艦の能力を支えるためには、大型電探や新旧問わず各種の探知、通信機器を多数搭載する必要があったのだ。そして当時の防衛軍には、パトロール艦を大量建造するために必要なそれら機材を揃えるだけの予算も不足していれば、機器そのものの製造能力も限界に達していたのである。
 そのため「このような貴重な艦を最前線に投入するのが間違いである」という批判が、防衛軍首脳部から艦隊側に向けられたこともあった。しかし艦隊側はこれに対し「探知能力も貴重ながら、パトロール艦が装備する波動砲や長砲身ショックカノンの兵器としての威力は無視できるものではなく、これを単に偵察艦としてのみ使用するのは戦力の無駄遣いである」と反論したのである。

 再び防衛軍首脳部と艦隊側の対立か、という懸念が各部門で生じたこともあり、とりあえず艦政本部が金剛改型戦艦に小型波動砲を搭載する改設計を行うことになった。しかし波動砲を搭載するのはよいとしても、金剛改型戦艦に長砲身ショックカノンを間に合わせに装備したところで、艦の構造上、パトロール艦と同等以上の火力を与えるのは、航洋性に悪影響を与えることもあって難しい。それに元々、金剛改型戦艦の巡洋艦運用に関しては『艦型がやや過大』という指摘もなされていたから、このような間に合わせだけで艦隊側が納得するはずもなかった。

 事ここに至って、防衛軍首脳部と艦政本部はようやく『まっとう』と言える判断を下す。それは『パトロール艦をベースにし、探知能力を低下させ建造費を圧縮した新型巡洋艦を設計、量産する』というものであった。


新型巡洋艦への再設計と量産

 パトロール艦を『純然たる戦闘艦艇としての巡洋艦』として再設計することについて、艦政本部はそれほど難しいと考えていなかったようである。元よりパトロール艦の規模と能力は巡洋艦として特に過不足なく、強いて言えば前線からの『敵の大型艦の比率が徐々に上がっているため、更なる戦闘力の向上を求む』という要求に応えられれば十分だったからである。
 まず、パトロール艦が装備していた波動砲と、三式融合弾などの実弾発射に対応した主砲はそのままとされ、前方への火力は維持された。ただし雷装強化の要求が艦隊側からあったため、探知機器を降ろして余剰となった重量とスペースを利用して艦下方両舷の魚雷発射管を三連装から四連装へと強化している(上方の発射管は次発装填装置の配置の関係上、三連装のままとされた)。

 また、パトロール艦はその主砲の射界がかなり艦後方にも広く取られていたが『艦の前後双方に向けられる火力の増強』が考慮されたことから、艦橋構造物下方の両舷に九八式15.5cm三連装陽電子衝撃波砲塔が一基ずつ、舷側砲として装備された。この砲塔の装備方式はD級戦艦の北米管区試作艦『アリゾナ(Ⅰ)』で試みられて失敗したものだったが、このときは実弾発射の機能が求められず揚弾機構の装備が必要なかったこと、砲塔天蓋の装甲圧を舷側装甲と同等まで強化したこともあり、実戦において特に問題は生じなかったようだ。
 なお、艦橋構造物後方に20.3cm連装砲を更に一基追加する案も出たが、この場所は機関部の至近で主砲塔を配置するには狭隘だったこと、また『個々の艦の任務によって、当該箇所の装備を変更する可能性がある』ことが想定されたため、原設計においては何も装備されていない。なお現場においては、対亜空間戦闘も考慮した八連装爆雷投射機や、宙雷戦隊旗艦として必要な通信用アンテナをこの箇所に装備した例が多かった。

 個艦としての探知、通信能力は、パトロール艦からは当然大きく削減されたが、巡洋艦としては当時の標準的な装備が維持された。これによってかなりの重量が余剰となったが、船体規模の関係で兵装強化の余裕に乏しかったため、この重量は主に防御力の強化に充てられた。そのため艦の重量はパトロール艦と大差なかったが、技術の進歩により主機関の出力が向上しており、速力はそれまでのパトロール艦より若干ながら向上している(なお、この新型主機関はパトロール艦の中期生産型以降の艦にも搭載されている)。

 2201年半ば、パトロール艦の派生として建造が決定された巡洋艦の性能は、以下のように纏められた。

全長 180m
全幅 31.9m

波動砲 零式タキオン波動集束砲 1門
主砲  零式二型20cm(実口径20.3cm)連装陽電子衝撃砲 3基6門
副砲  九八式15.5cm三連装陽電子衝撃砲 2基6門(艦尾)

その他武装
    九九式三連装魚雷発射管2基 同四連装2基(艦前方)
    九八式対空迎撃ミサイル発射管 単装8基(二番主砲塔直後両舷)
    九八式短魚雷発射管 単装8門(片舷あて4門)
    一式40mm連装拡散型対空パルスレーザー砲 2基(司令塔後方)
    その他、艦の全周各部に埋め込み式対空パルスレーザー砲を装備(門数不明)
    (零式八連装対亜空間爆雷投射機 1基(艦尾 オプション装備))

主機  艦本式次元波動エンジン 1基

搭載機 九八式汎用輸送機『コスモシーガル』1機
    救命艇1機
    その他救命ボートなど


 元来が実績のあるパトロール艦の派生ということもあり、改めて試作艦を建造する必要も認められなかったことから、設計終了後直ちに予算獲得と量産準備が行われ、村雨改型巡洋艦を代替し、パトロール艦の不足を補う新型巡洋艦として建造が各地の造船所で開始された。特にD級戦艦に比して100mほど短い船体は、D級戦艦の建造を可能とする規模を持たない小規模な造船所での建造も可能にしていたから、この時期、さすがに「量産が追いついていない」と防衛軍首脳部を焦らせていたD級戦艦を補完する艦として大いに期待されていたことが、当時の資料から散見することができる。なおこの期待は、まだ宇宙軍の規模が小さい地球連邦所属の国家にとって、A型巡洋艦が主力艦足り得る性能を有していたことにも起因していたと思われる(実際、この時期の小規模な宇宙軍の基幹戦力として運用されたA型巡洋艦は数多い)。

 そして、量産が開始された新型巡洋艦には『A型巡洋艦』という名称(同時にパトロール艦には『A型パトロール巡洋艦』という名称が付与されている)が与えられ、北米管区で最初に竣工した『ノーザンプトン』がクラス名となった。この時期、前線における村雨改型巡洋艦の能力不足、パトロール巡洋艦の不足が深刻化していたこともあって、A型巡洋艦は続々と建造されて前線部隊へと配属されていった。


A型巡洋艦の評価とガトランティス戦役

 A型巡洋艦の前線での評価は「長砲身ショックカノンおよび副砲により、巡洋艦としての火力は十分である」など好評であったが、当初から近接対空兵装の不足が指摘されており、この点については「早期に改善を求む」という要望が艦隊側から出されていた。しかしガトランティス帝国との戦闘が日々激化している状況下で、艦政本部としても新たな装備をA型巡洋艦に施す余裕はなく、当面は装備の改良などは行われなかった。もっとも、パトロール巡洋艦のほうは装備機器の不足が相変わらず解消されず、建造予定の艦が間に合わずA型巡洋艦に振り替えられるような状況だったから、この時点ではどうしようもなかったと言える。

 ただ『戦役後の改良として考慮する』ことを前提にいくつかの改良案が出されていたのも確かで、以下に列挙しておく。

・主砲および副砲を収束圧縮型衝撃波砲に換装、対空戦闘能力の強化
・パルスレーザー砲の増備など、対空兵装の強化
・艦後部に飛行甲板を設け、少数かつ限定的な艦載機の運用能力を付与する

 これらの案は出された時点では日の目を見なかったが、ガトランティス戦役後にA型巡洋艦の後期生産型が建造される際に参考になったとされている。

 そしてガトランティス戦役が本格的に開始され、運命の土星会戦を迎えたその日、A型巡洋艦はパトロール巡洋艦9隻を含めた70数隻が、連合艦隊の戦列において巡洋艦戦隊や宙雷戦隊の旗艦としてこの戦いに臨むことになるのである。

 堀田が、麾下の艦隊に第一艦隊の頭を抑えようとしている敵高速艦隊の前面に立ちはだかるよう命じたとき、彼の手元にある戦力は戦艦4、巡洋艦3、残りはガミラス軍の主に軽巡、駆逐艦で編成された28隻。総数35隻というのはそれなりの数ではあるが、これから交戦しようとする敵高速艦隊は探知の結果、60隻は下らないと判明した。いかにやむを得ない状況とはいえ、倍近い数の敵に練度に不安がある、しかも混成の艦隊をぶつけるのは無謀と言って差し支えなかったろう。

 だが、この場面で苦しいのは敵も同じだった。会戦当初、高速艦で編成された前衛艦隊を拡散波動砲の一斉射撃で失ったガトランティス艦隊、特に中央部隊にとってこの高速艦隊は『第一艦隊の頭を抑えることができる最後の駒』でもあったのだ。
 無論、それを堀田が知る由はなかったが、いずれにせよここで第一艦隊が敵に先んじられて敵本隊と挟撃されれば、一気に地球側の中央戦線が崩壊することに直結する。そうなれば右翼、左翼が各個撃破されるのは自然のことであり、地球艦隊に勝ち目はなくなることになる。

 そこまで考えれば、敵になお大兵力が控えていようと、第五艦隊は第一艦隊を支援するために前に出るしかなかった。とにかく敵の高速部隊の足を止めて時間を稼げば、第一艦隊はその間に体勢を立て直して砲撃戦へと移行できる。そうすれば『新型火焔直撃砲を搭載した敵旗艦が土星の輪の中に居続ける』限り、その砲撃戦は地球側にとって優位に推移するはずなのである。
 土星の輪は、その組成の大半が氷の破片によるものだった。敵旗艦がこの輪の中にいる限り、火焔直撃砲は使用することができないのだ。もしまかり間違って土星の輪の中で発砲などすれば、7万度と推定される超高温のブラスターを転送システムで送り込む火焔直撃砲の発射プロセスの関係上、火焔の転送を行う前に水蒸気爆発が発生することは必定だったからである。そうなれば火焔直撃砲自体が破損する可能性はもちろんのこと、それ以上の不測の事態を招く可能性すらある。敵とてそれは理解しているはずだが、第一艦隊が後退したからには追撃せねばならず、一気に土星の輪を抜けて再び火焔直撃砲による第一艦隊の殲滅を狙うのは当然の戦術だった。

 土方はそこに付け込んだのである。敵旗艦を土星の輪の中に留めておき、その間に体勢を立て直してショックカノンによる砲撃戦に持ち込む。火焔直撃砲を除いた通常火力の撃ち合いなら地球側の現有戦力があれば十分に敵と渡り合える。だが、それも敵高速艦隊に先んじて頭を抑えられれば破綻する構想である。土方の狙いを理解していた堀田が、数に劣るのを承知で敵艦隊に仕掛けたのはそうした事情があったのだ。

 と、言うだけなら簡単なことであるが、第五艦隊には苦戦が予想された。敵高速部隊に戦艦がいないのは幸いだが、倍以上の敵を相手にしなければならないことには変わりはない。しかも艦隊の主力たるガミラス艦隊は波動防壁を装備していないから、長期の足止めをするための防御力は持ち合わせていない。かといって、得意の機動戦に持ち込もうにも敵の数が多すぎる。
 必然、地球艦7隻が艦隊の前面に立ち、ガミラス艦隊を防御しながらの戦闘を強いられることになる。そうなれば、当然のこと『足を止めての砲撃戦』という堀田の本分からかけ離れた戦闘を強いられるし、波動砲の発射も不可能である。敵旗艦の火焔直撃砲を間接的に封じている土星の輪を自ら吹き飛ばしては元も子もないからだ。

 ともかく、戦闘は今にも始まろうとしている。敵の足を止めるため、堀田は地球艦7隻を半月型に並べ、これを前面に押し立てた。この7隻の波動防壁で、後方に分散配置したガミラス艦隊を守りつつ敵艦隊と交戦しようというのである。


 砲撃戦が始まった。防御に長けたガトランティス艦とはいえ、巡洋艦や駆逐艦のそれは地球やガミラスのそれと比して秀でているわけではないし、波動防壁も有していない。ために巡洋艦クラスのショックカノンでもほぼ一撃で戦闘不能に追い込むことはできるのだが、何しろ数が違い過ぎる。後方のガミラス艦隊も奮戦していたが、彼らとて得意の機動戦を封じられて足止めされた状態で砲撃戦を行っているのだ。これでは、一気に敵に大打撃を与えるというわけにはいかない。
 この時点で、第一艦隊が反転、砲撃戦に移行できるまで30分ほどかかると計算されていた。この時間を持ちこたえられなければ、ここで前に出て敵部隊の頭を抑えた意味がなくなる。いや、そうでなくても30分後という時間は、下手をすれば敵の旗艦……あの新型火焔直撃砲を搭載した新鋭艦が土星の輪を抜けてくるかもしれないタイミングでもあった。

 「第一艦隊の状況はどうなっている?」

 冷静な声で沢野に聞く堀田だったが、内心、もはや表面上の冷静さを保つのがやっとという状態だった。

 「現在、カッシーニの隙間にて反転を開始しました。ですが、陣形を整えるまでにはやはり……」
 「そうか」

 状況に変化はない、ということである。いや、むしろ今は第五艦隊そのものの状況が悪化してきている。波動防壁による防御で被害は最小限に抑えられているとはいえ、このままでは敵高速部隊に半包囲される危険があったのだ。当然、ここで第五艦隊が崩れれば、第一艦隊に敵艦隊がなだれ込むのは言うを待たない。

 (やむを得ない、か……)

 ここで、堀田は苦渋の決断を下す。

 「全艦、陣形を維持しつつ徐々に後退せよ。敵高速部隊を第一艦隊の射程内に引き込み、共同してこれを殲滅する」

 このまま第五艦隊だけで交戦していては、敵高速部隊との戦闘に敗北するのは目に見えている。それなら、一時後退して敵部隊を第一艦隊の射程内に誘引、その一部……特に戦艦部隊を護衛している巡洋艦と宙雷戦隊を堀田は当てにしていたのだが、それらの火力支援を得て高速部隊を潰してしまうしかない。土方の判断に甘える、と言えばそれまでだが、今はそうする他に手段が見出せなかった。

 だが『後退する』という決断すら生やさしいものではなかった。ここで一時的にでも艦隊を下げれば、敵高速部隊が一気に押し込んできて第五艦隊の戦列が崩される恐れがあるのだ。そうなれば、第一艦隊の隊列の再編が終わらないうちに敵旗艦が土星の輪を抜けてくる、という最悪の事態を招きかねない。それが堀田にもわかっているから苦しい判断だったのだが、今は恩師の戦況判断に託すしかない。土方には全幅の信頼を置いている堀田だが、これは間違いなく『賭け』だった。
 後退を始めた第五艦隊に対して、案の定、敵高速部隊は攻勢を強めてきた。既に各艦の波動防壁も限界を迎えていたから、この攻撃で第六巡洋艦戦隊の『カルロ・アルベルト』が爆沈し、戦艦『コンテ・ディ・カヴール』も被害甚大で戦線を離脱、後に放棄、自沈という運命をたどることになる。ガミラス艦隊のほうも、やはり軽艦艇が多く防御力に難があったため、撃沈、損傷離脱艦がここにきて続出し始めた。

 (判断を誤ったか……?)

 一瞬、堀田の脳裏にそんな考えが浮かぶ。しかし、今さらそんなことを言っても意味がない。ここで一時後退を止めて再び敵高速部隊への攻勢を開始したが、既に半数近くに撃ち減らされていた第五艦隊に、これ以上の敵艦隊足止めは荷が重すぎた。

 (かくなる上は、最後までここで踏みとどまって第一艦隊の再編を援護すべきだ。そのために我が艦隊がどうなろうとも……)

 非情と言うべき決断を堀田が内心で固めたとき、ここで思わぬ救いの手が差し伸べられた。

 第一艦隊に所属する第三水雷戦隊が、自らの陣形再編を完了するや、直ちに第五艦隊への援護へと回ったのである。堀田にとっては後に知ることなのだが、これは第三水雷戦隊司令官の独断による行動だったそうだ。
 この第三水雷戦隊の来援は、敵高速部隊にとっても予想外だった。如何に第五艦隊より数で勝っていたとはいえ、ここまで彼らが出していた損害も許容範囲を超えようとしていたのである。それだけ第五艦隊の各艦が奮戦していたということだが、そこへ新手の高速部隊が突入してきたことにより、今度は敵高速部隊の戦線のほうが支えられなくなっていった。

 「よし、全面攻勢に出る。全艦、突撃っ!」

 そうなれば、宙雷の専門家である堀田にとって、ここが『突撃すべき機会』と理解するのに間は必要なかった。既に損傷艦も多かったが、第三水雷戦隊と共同して第五艦隊は敵艦隊に突撃を開始する。この絶妙なタイミングで行われた突撃によって敵高速部隊はたちまち陣形を崩され、散り散りになって遁走するに至った。
 そして、この敵高速部隊の実質的な壊滅は、バルゼー提督率いるガトランティス艦隊本隊に重大な影響を与えた。地球艦隊主力の頭を抑えるための駒が完全に失われたことにより、数が少ないとはいえ正面に第五艦隊が控え、更に現状では火焔直撃砲の使用も不可能。この状況で突出しては地球艦隊主力と火焔直撃砲なしで激突することになる。

 その危険性をバルゼーが悟ったとき、僅かにガトランティス主力部隊の足が鈍った。そして、彼らにとっての凶報が更に続く。地球側第二艦隊と交戦していたガトランティス左翼部隊が第二水雷戦隊の突破を許し、艦隊の最後方で待機していたミサイル戦艦群が第二水雷戦隊の接近雷撃戦を受け、自らのミサイルの誘爆によりたちまち全滅したのである。これにより左翼部隊の戦線が崩壊したことにより、バルゼー率いる本隊は第一、第二艦隊の挟撃を受ける可能性が生じた。これではなおのこと、迂闊に動くことは出来なくなってしまった。

 もちろん、そうした状況の変化を見逃すような土方ではなかった。

 「第一艦隊、戦列を整えて反転してきますっ!」

 冷静な船務長である沢野が思わず大声を上げてしまう。隊列を整え、未だ土星の輪の中にある敵主力に対し、第一艦隊はその下方に回り込んで砲撃戦を開始しようとしていた。

 (勝った……)

 表情を変えず、堀田はそう思った。この状況で第一艦隊が敵主力艦隊に砲撃戦を挑み、更に第二艦隊もこれに加わるとなれば、数で劣っても性能、特に通常火力で勝る地球艦隊にとって優位な体勢を作ることができた。後は火焔直撃砲を封じたまま敵旗艦を沈めてしまえば、現在は苦戦している第四艦隊も形勢を十分に逆転できるはずだ。ここでようやく、地球側はこの土星沖での決戦に勝機を見出すことができたのだ。

 しかし、そう思ってしまったことがあるいは油断だったのかもしれない。一息、堀田が深呼吸した直後、爆発が発生したかと思うと『薩摩』の船体が大きく振動した。

 「被弾したか、被害報告を」

 席から投げ出されそうになったのを何とかしのいだ堀田が問うが、もたらされた報告は信じられないほど悪いものだった。

 「こちら中央コンピュータ室、菅井です。艦長、大変です!」

 菅井らしからぬ真剣な声が、事態の深刻さを表しているように思われた。

 「どうした?」
 「今の被弾で、中央コンピュータの回線が多く破断したようです。主機関だけは何とか動きますが、武装その他の機能、殆ど全部やられてますぜ。至急の復旧はちょっと無理ですわ!」
 「何だとっ!」

 思わず聞き返してしまうが、そこへ副長の三木からの報告が入る。

 「艦長、各部署より報告。主砲はじめ全武装、操舵システムすべてに重大な機能障害が発生しています。本艦は現在、戦闘能力を喪失しております」

 冷静な声だったが、三木の顔は真っ青になっていた。無理もない。第五艦隊の旗艦である『薩摩』は敵高速部隊の残存戦力を追撃すべく先頭に立っていたのだ。しかも艦隊旗艦なのだ。それがいきなり戦闘力を完全に喪失したとなれば、今後の戦闘に悪影響を与えることは避けられない。

 「そうか……通信システムは生きているか?」
 「駄目です、受信だけは辛うじて可能ですが、発信は不可能です」
 「わかった。ならば探照灯で『丹後』に連絡。『我、戦闘不能。これより艦隊の指揮権をそちらに移譲する』と発信してくれ」
 「りょ、了解しました」

 『丹後』艦長は第三戦艦戦隊の次席指揮官である。本来、艦隊を代将として率いているのは堀田だから、ここで彼だけでも『丹後』に移乗して艦隊の指揮を執るという考え方もあったろう。
 だが、堀田の本来の職務はあくまで『薩摩』艦長であり、戦隊所属艦の最先任艦長だからこそいくつかの役職を兼務しているというだけである。その立場上『薩摩』を降りて他艦に移乗するわけにはいかないし、第一、混戦の最中で旗艦変更など行っている余裕はない。ここは『丹後』艦長に任せ、場合によっては土方の率いる第一艦隊と合流して今後の戦闘に参加すればよいはずだ。

 (ここに来て、この戦艦の弱点が出るとはな……)

 堀田は唇を噛んだ。艤装員長だった頃から、D級戦艦の中央コンピュータに依存したシステムに疑問がなかったわけではない。人員不足ゆえにやむを得ないと思っていたが、こうして戦闘中にこのような事態に遭遇してしまうと、たった一発の被弾で戦闘力を喪失してしまうという脆弱さに気づけなかったことを痛感せざるを得ないのである。

 「航海長」

 しかしそんな繰り言は口にせず、堀田は初島に声をかけた。

 「スラスターの多くも動かないだろうが、操艦は可能か?」
 「……困難ではありますが、戦場からの離脱は何とか。しかし全力発揮が出来ませんので、敵が追撃してきたらどうなるか」
 「それは今は考えなくていい。ここにいては味方の邪魔になるだけだ。直ちに戦場から離脱してくれ。副長、本艦はいずれ修理が必要になるが、どこの基地に向かうのが良いと思う?」
 「主戦場から離れているということから、木星ガニメデ基地が最適かと……しかし、今の本艦の状態でたどり着けるかは何とも」
 「可能性があるならやってみるしかない。航海長、ガニメデ基地へ何とか向かってくれ」
 「わ、わかりました」

 こうして『薩摩』は会戦半ばにして戦場からの離脱を余儀なくされた。しかし、ことに堀田個人にとって辛く、悲しい出来事はこの後に控えていたのである。


 旋回スラスターの大半が動かず、機関も全力発揮が不可能な『薩摩』の現状では、早急な戦場からの離脱はやはり難しかった。初島は苦しい状況下でよく操艦を続けていたが、やはり手負いの戦艦に目をつける敵はいたようで、7、8隻ほどの敵巡洋艦、駆逐艦が追撃を仕掛けてきた。彼らは先に第五艦隊に蹴散らされた高速部隊の所属艦だったから、その復讐という狙いもあったのだろう。

 「戦術長、反撃は可能か?」

 林に問うが、彼女からの返答は絶望的なものだった。

 「……駄目です、主砲、ミサイル兵装その他、全ての火器が使用不可能です」
 「わかった、ならば逃げるしかない。航海長、とにかく逃げられるだけ逃げるんだ。いざとなれば敵艦を引きつける囮となることも覚悟の上だ」
 「は、はいっ!」

 発揮可能な最大速力で逃げる『薩摩』だが、そもそも戦艦と巡洋艦、駆逐艦の機動力の差がある上に、全力で逃げることができない。たちまち射程内に追いつかれてしまった。

 (くっ……)

 もはやこれまでか、と堀田も覚悟するしかなかった。自分のことはいいとして、ここで『薩摩』の乗員たちを生かすためにどうすればいいかと思考だけは巡らしたが、何も思いつかなかった。
 だが、ここで驚くべきことが起こった。『薩摩』にいよいよ砲撃を加えようとした敵巡洋艦が、突如として爆沈したのである。

 「どうした、何が起こった?」

 レーダーも使用不能になっていたから、堀田は最初、何が起こったかわからなかった。そこで双眼鏡で艦後方の状況を確認してみると、そこには4隻のガミラス艦の姿があった。

 (ゲーア少佐!)

 それが、僅かに残ったゲーア率いるガミラス艦隊の生き残りと悟るのに、さして時間はかからなかった。

 「艦長、ゲーア少佐から通信です」

 河西の報告を受け、上方のスクリーンに視線を移す。受信も不安定になっているのか、ゲーアの顔を認識するのも難しいものになっていた。

 「堀田艦長、ここは我らが引き受ける。貴艦は直ちに戦場を離脱されたい」
 「……」

 堀田は黙ってしまった。『薩摩』は既に通信を発することができないから返信できないためだが、同時に、戦力規模が同じな巡洋艦と駆逐艦同士の戦闘になれば、数で劣るガミラス部隊に勝ち目がないことがすぐに理解できてしまったからである。
 本当なら「自分たちに構わずすぐに逃げろ!」と叫びたかった。それすらできないこと、そしてスクリーン越しに虚ろにしか見えないゲーアの表情が、明らかに『死』を覚悟したそれにしか映らなかったことに忸怩たる思いがあったのだ。

 「……貴方は、ここで死んではならぬお人だ」

 堀田が何も伝える術を持たないことを知ってか知らずか、ゲーアは独白するように続けた。

 「私が言うのは僭越だが、貴方はテロン、そして我がガミロンにとっても間違いなく、これからの戦いに必要な人だと私は思っている。貴方に助けられなかったら、私は海王星の戦いでとっくに命を失っていた。ここで貴方を生かすためにこの身を捨てるのも、惜しいことではない。それは私の部下たちも同じ気持ちでいる」
 「……ゲーア少佐っ!」

 絞り出すように声を出す堀田だったが、それが相手に伝わることはない。

 「ガトランティスとの戦い、私はこれからが本番だと思っている。そのときのために、貴方は生きて戦い抜いてもらいたい。ここは我らが引き受けた。さあ、すぐにり……」
 「受信機能に異常! 通信、間もなく切れますっ!」

 河西が悲鳴のような声を出す。だが、その声はもう堀田には聞こえていなかった。

 「……きみ……テロン……ガミロン……しゅくふ…あ、れ」

 通信が切れた。『薩摩』を追撃していたガトランティス艦は、新手のガミラス艦に全てが向かっており、もはや『薩摩』は危機を脱していた。しかし、この後ゲーアたちガミラスの将兵たちがどうなったかなど、事実を目の当たりにしなくてもどうなるか想像できてしまう。

 (……すまないっ!)

 堀田はもちろん『薩摩』幹部乗組員の全員が一切声を発しなかった。それから10分ほどして三木が「本艦は戦場を離脱完了、安全圏に到達。これよりガニメデ基地に向かいます」と報告したが、その声すら堀田には聞こえていなかった。
 ただ帽子を深く被り、握りこぶしを強く握って席に座る。そんな苦渋の表情を見せる堀田に誰も声をかけることは出来なかった。

 だが、堀田にとって真の悲劇となる事態は、もう間もなくに迫っていたのだった。そしてゲーアが最後に言ったように、ガトランティスとの戦いはまさにこれからであり、それは未だ終わりを見せるものではなかった。

 地球にとって『試練』と言うべき魔物が大口を開けて待っていることを、この時の堀田には知る由もないことであったのだった。

 敵機動部隊への奇襲のため先に出撃していた第三艦隊を除いた、地球防衛軍連合艦隊の各艦隊が配置について程なくの宇宙時間1305時、その第三艦隊から朗報がもたらされた。

 『我が艦隊は敵機動部隊への奇襲攻撃に成功せり。敵空母の全滅を確認』

 土方はもちろんだったろうが、堀田もこの報に接して安堵を禁じ得なかった。数において劣勢であることが確実であるこれからの艦隊決戦において、制空権を確保した上で砲撃戦に持ち込めるのは、波動砲という決戦兵器とショックカノンという強力な汎用兵器を有する地球防衛艦隊にとって望ましい状況だったからである。
 もっとも、これで楽観できる状況なはずもなかった。言うまでもなく艦隊の規模は未だ敵の半分程度でしかないことは事実だし、更に第三艦隊からの報告がもたらされる5分前、白色彗星が太陽系に突入したという情報も届いていた。

 『可能な限り速戦で敵艦隊を叩き、しかる後、白色彗星と雌雄を決する』

 土方はそのつもりであったし、堀田もそれは理解していた。双方の艦隊前衛が接触するのは2100時頃と推測されていたが、数の劣勢を縮めるために、連合艦隊は最初にやっておくべきことがあった。

 (土方さんには志に沿わないことを押し付けてしまったが、事ここに至っては……)

 言い訳じみたことを、堀田は内心で思った。あくまで戦略予備とされている第五艦隊だから、しばらくは戦闘に参加する機会は訪れないはずである。ために当面は味方の戦いぶりを見届けるしかないわけだが、堀田は『数の劣勢を埋めるべく、連合艦隊が最初にするべきこと』が何か正確に理解しており、そして、それが土方の本来の志とは全く相容れないということを、自身が艦隊総司令官への就任を説得しただけあって誰よりも承知していたのだった。


 そして2100時過ぎ、連合艦隊の一部突出した部隊が敵艦隊の前衛部隊を探知した。このとき、ガトランティス軍前衛艦隊の司令長官が恐らく面食らっているであろうことが、堀田には容易に想像できた。
 連合艦隊の中で突出していた部隊、それは主力であるはずの第一艦隊だったからである。明確に主力であると示すものがあったかといえば微妙ではあるが、敵とて地球側の戦力はおよそ把握しているはずであり、そうなれば艦数からして、目の前に整列している敵艦隊が主力部隊であることは想定できたはずだ。まして、その部隊にはガトランティス軍にとって限りなく未知に近い新鋭の大型戦艦、すなわち『アンドロメダ』が含まれていたのだからなおさらである。

 (第六艦隊がうまくやってくれればいいが……)

 連合艦隊が『最初にするべきこと』とは、敵主力艦隊の前衛に、拡散波動砲による編隊一斉射撃を加えてこれを殲滅することであった。敵の前衛には高速艦が多く含まれていることが判明していたし、何より偵察艦隊の役割も果たすはずであろう前衛艦隊を開戦早々に潰してしまうのは、制空権奪取も含めて『敵の目を奪う』ことに繋がるから、確実にやっておきたいところだ。
 とはいえ、最大射程での波動砲編隊射撃になるから、当然のこと弾着観測を第一艦隊が行えば、いくら拡散波動砲の効果範囲が広いとはいえ、正確な射撃と敵の殲滅は見込めない。そのため、パトロール艦など基地配備の警備部隊の艦艇で編成された第六艦隊がヒペリオン軌道から出撃、敵の探知範囲外を維持しつつ、第一艦隊に向けて弾着観測を行うことになっていた。

 今は戦局を見つめるしかない堀田としては、いささかもどかしいところではあった。だがしばらくして、正面の第一艦隊から白銀の閃光が煌めいたのを確認したとき、彼は作戦の第一段階が成功したことを悟った。
 谷が考案した『マルチ隊形』による拡散波動砲編隊一斉射撃。実戦において連合艦隊という大規模艦隊で行われたのはこれが最初だったが、第六艦隊の弾着観測も正確だったのだろう。敵の前衛艦隊は拡散波動砲の広範囲攻撃に飲み込まれ、瞬時にして宇宙の藻屑と消えたのである。


 ガトランティス艦隊の総司令官、それが『バルゼー』という名であることを当然、地球側は知る由もなかったのだが、この前衛艦隊の壊滅を見て焦りを禁じ得なかったように見えた。麾下の艦隊の速度を上げて一気に地球艦隊の中央突破を狙ってきたのである。もちろん、敵も右翼、左翼にそれぞれ部隊を配しているから、地球側も両翼の第二、第四艦隊がこれに対応する。第一艦隊は再び波動砲へのエネルギー充填を開始し、敵本隊への射撃を試みているようだった。
 だが、ここで地球側にとって齟齬が生じる。波動砲の弾着観測に当たるべき第六艦隊が敵艦隊に探知されてしまい、予想外なことに敵主力はこれに相当な兵力を割いて向けてきたのである。第六艦隊も奮戦したが、基地艦隊から抽出した警備艦隊によって編成された艦隊だっただけに、敵主力の一部にでも狙われれば支えられるはずもない。一時間と経たずに第六艦隊は壊滅、司令部も全滅し残った僅かな艦も散り散りになって逃走するしかなかった。

 (これで弾着観測は出来なくなったが、土方さんはそれでも波動砲を撃つのか……?)

 未だ、第五艦隊には何も指示が来ていないから、できることは何もない。動くとしても、命令を待つか戦局の変化を見極めて判断するかのどちらかである。

 そう思った瞬間、しかし異変が起こった。

 『アンドロメダ』の右翼を固めていた第一艦隊の戦艦『バーラム』が、いきなり爆沈したのである。最初は波動砲のチャージ中の事故か?と思ってしまうほど急激な爆沈だったため、これには堀田も驚いた。

 「船務長、敵の攻撃か!?」

 沢野に問うてみると、直前に敵旗艦に何かしらのエネルギー発射反応があったという。そのため堀田は火焔直撃砲を疑ったが、それなら発射直前に転送システムのエコーを探知できたはずである。波動砲チャージ中で最初の一撃は回避できなかったろうが、ここでチャージを中断すれば回避運動は可能になる。そこまで脅威に感じることはないはずだった。
 だが、そこから堀田のみならず、地球防衛軍の全軍にとって驚くべき光景が目の前で展開される。第一艦隊の戦艦、巡洋艦の何隻かが、やはり火焔直撃砲と思われる一撃を受けて轟沈していったのである。この期に及んで土方が波動砲編隊射撃に固執するはずがないから、明らかにこの状況が不可解なことを悟るしかなかった。

 改めて沢野に状況を確認しようとすると、彼女は何やら熱心にデータを収集しているように見えた。

 「船務長、敵の攻撃に何か不自然な点はないか?」
 「……それについて、現状わかっていることのみ報告させていただきます」

 振り向いた沢野だったが、その表情は青ざめていた。

 「敵の攻撃は、確かに火焔直撃砲と同じエネルギー組成でした。ですが、発射前に確認できるはずの転送システムのエコーが全く探知できません。それに、速射性能も向上していることが判明しました」

 つまり、こちらにとっては未知となる新型の火焔直撃砲ということである。以前のそれより速射が可能で、しかも発射前のエコーが探知できなくなっていて、どこから火焔が現れるかわからなくなっている。これでは以前のような回避運動も不可能だから、手をこまねいていては第一艦隊の損害は膨れ上がるばかりだ。

 そこへ、土方から通信が入った。

 「堀田、どうやら新型の火焔直撃砲を搭載した艦が敵の旗艦らしい。しかも、その射程はこちらの拡散波動砲の倍はある。これでは波動砲戦は不可能だが、かといって接近戦に持ち込むまでに損害が蓄積すれば持ちこたえられまい」
 「わかりました、第五艦隊はこれより前進して援護します」
 「いや、お前はそこから動くな」
 「えっ?」
 「第一艦隊は、これより土星の輪を抜けてカッシーニの隙間に転進する。第五艦隊は第一艦隊の転進が終了次第、これと合流して戦線に参加してくれ」
 「しかし、それでは……」
 「大丈夫だ、策はある」

 土方は、自信もなく「策がある」などと発言する人物でないことなど、堀田は当然のこと知り尽くしている。

 「了解しました、第五艦隊はこのままカッシーニの隙間にて待機します。しかし、各戦線の状況に応じて対応しつつ、第一艦隊の転進の援護は行います」
 「そのための代将だ、今後の艦隊運用はお前の判断に任せる」
 「ありがとうございます。それと、こちらでやっておきたいことがあるのですが」

 そして、堀田は土方にあることを進言する。それが了承されて通信が切れたところで、堀田は『薩摩』の艦載機格納庫への通信スイッチを繋いだ。

 「早瀬飛行長、航空機の出撃準備はできているか?」
 「できています、出撃ですか?」

 『薩摩』を始めとするD級戦艦は、通常10機のコスモタイガーⅡの搭載が可能であったが、防衛軍全体で戦闘機および搭乗員が不足していたこともあり、今回の決戦にあたっても戦闘機は搭載されていない。ただ『薩摩』は第三戦艦戦隊旗艦になった際に複座型のコスモタイガーⅡが偵察機として1機だけ配備されており、飛行長、というより唯一のパイロットだったのだが、早瀬雄太一等空曹が偵察員の空士曹と共に送り込まれていた。

 「ああ、すまないが増槽を含めて燃料満載で出撃してくれ。ただし、空戦は絶対に避けてくれ。敵旗艦を発見し、これに高エネルギーの発射反応があったら、これを直ちに全軍に通報するのが任務だ」
 「たった1機でですか!? それはあまりに無茶では……」
 「敵の空母は全滅しているから、艦載機に襲われる心配はない。だが仮に、敵艦載機を探知したらすぐ逃げてくれて構わない。君ら自身の生存を最優先にしつつ、何とか今言った任務を達成してもらえるとありがたいが」
 「……わかりました、とにかくやってみます」
 「頼む」

 命令された早瀬としては、上官の命令であるから逆らいようもなかったのだが、それ以上に『薩摩』に配備されて以来の猛訓練ぶりから、堀田という艦長兼司令官代理が割とあっさりと無茶振りしてくること。そしてその無茶に対してちゃんと報いる道を知っていることを理解していたから、危険ではあるがやってみよう、という気にもなれたのだった。

 偵察機を発進させてからおよそ1時間と少し、まだ第五艦隊は動いていない。第一艦隊の撤退を援護するという前提はあったが、転進した第一艦隊の前衛がようやく土星の輪の中に入ったばかりであるからここで動き出すのはまだ早い。ただ、敵旗艦を遠距離から捕捉、触接を開始した早瀬機の報告により、エコー探知ほどの正確さはなくとも敵旗艦の火焔直撃砲発射のタイミングはある程度全軍に通報できるようになったため、その命中率は当初よりいくらかだが下がったようには見受けられた。
 しかし、それも現状では焼け石に水としか言えない。それに、両翼で敵艦隊と戦闘を継続している第二、第四艦隊、特に後者の戦況もまた思わしいと言い難い。どちらかが突破されて敵に迂回進撃を許せば、第一艦隊がカッシーニの隙間に到着する前に挟撃される危険があった。

 そうこうしているうちに時間が経過していったが、そのうち、第四艦隊の戦列に明らかな乱れが生じたのを堀田は見て取った。後でわかったことだが、旗艦『ペトロパブロフスク』が大破して司令部要員に損害が生じたため、一時的に指揮系統が麻痺したのが原因だった。

 ここで初めて、堀田は『代将として』独自の判断を下した。

 「第六戦艦戦隊、第五巡洋艦戦隊、第十水雷戦隊は直ちに第四艦隊の援護に向かえ。指揮権は第六戦艦戦隊司令官に委ねる。残りの艦はこのまま待機せよ」

 つまり第五艦隊の戦力のうち、1/3ほどを第四艦隊の援護に向けるということである。これは第一艦隊の支援に支障を来す可能性のある危険な決断だったが、堀田はあくまで『第四艦隊が突破されて敵に半包囲される』危険のほうが大きいと判断したのである。それを避けようとすれば、背に腹は代えられなかった。

 また幾ばくかの時間が経過して、今度は第三艦隊から発進したと思われる航空隊が敵中央部隊への攻撃を開始する。しかし敵機動部隊を相手取って大きな損害を出していた第三艦隊の航空隊では、やはり戦局は動かせないように見受けられた。敵艦隊は相変わらず追撃の手を緩める様子を見せなかったが、何とか第一艦隊の各艦が土星の輪の中央部分まで入り込むだけの時間を稼ぐこと、そして敵艦隊にそのまま土星の輪の中へ追い込むような艦隊運動を誘発させることはできたようだった。

 (恐らく、土方さんは待っているはずだ。敵が土星の輪の中に入り込むことを)

 自分が気づいているくらいだから、土方が気づかないはずはないという信頼からの思いだった。とにかく、今は調子づいて追撃してくる敵艦隊、それも新型火焔直撃砲を搭載した旗艦を土星の輪の中に入れてしまう。それを実現した上で、第一艦隊と第五艦隊が合流、反転して逆撃を加えれば、両翼の第二、第四艦隊が未だ持ち堪えている現状なら戦況をひっくり返せる可能性があるのだ。土方が「策がある」と言ったのは、その『敵旗艦が土星の輪の中に侵入してすぐに出られない状況を作り出す』ことにあると堀田は確信しており、それこそが戦況を動かす一手になるであろうことも承知しているつもりであった。

 しかし、その堀田の、そして恐らく土方の計算を狂わせかねない事態が生じる。敵の火焔直撃砲による攻撃は続いていたが、それとは別に、巡洋艦および駆逐艦で編成された敵艦隊の一部が、恐らく第一艦隊の頭を抑えるつもりなのだろう、旗艦より先に、第一艦隊の上方の宙域を狙って土星の輪へと突入してきたのである。

 (いかん)

 その高速艦隊の存在そのものが、土方の計画を狂わせる危険を堀田は察知した。そして、即座に命令を下す。

 「第五艦隊、全艦に達する」

 もちろん、第四艦隊に振り向けた部隊はこれに含まれない。

 「これより、我が艦隊は前進して敵高速艦隊の頭を抑える。全艦、前へ!」

 危険な賭けである。ただでさえ戦力の一部を第四艦隊援護に差し向けた数少ない戦力で、大型艦こそいない一部とはいえ敵主力艦隊に挑もうというのだから、あるいは無謀とも取れる行動だろう。しかし、ここで動かなければ僅かな勝機を失う恐れがある。堀田にとってそちらのほうが恐怖であり、ここで動くべきと判断するには十分すぎるほどの『危機』だった。

 第三戦艦戦隊以外は練度に不安のある第五艦隊の地球所属の部隊と、盟友ではあるが他国であるガミラス艦隊の混成部隊ながら、このときは堀田の期待以上の動きを見せた。各艦、内心はともかく恐れを表に出さず堀田の指示に従い、土星の輪が途切れるぎりぎりまで前進して隊列を整えた。そしてその艦隊行動は、間一髪ながら敵高速部隊が土星の輪を抜けてくるのに先んじていた。

 「全艦、砲撃準備!」

 堀田の命令一下、敵高速部隊に対して第五艦隊各艦が一斉射撃の準備を整える。第一艦隊はまだ全てがカッシーニの隙間に到着していない。ここから反転して体勢を整えるにはまだ多少の時間がかかるはずだ。

 地球人類の存亡を賭けた土星会戦、それは未だ勝敗を決する様相を見せるものではなかった。

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