新型巡洋艦計画の停滞
2200年にガミラス大戦が終結した当時、地球防衛軍の主力巡洋艦といえば、言うまでもなく多数建造された(大戦における損耗が激しく、この時点で残っている艦はほんの一握りだったが)村雨型巡洋艦だったが、一隻だけ、村雨型とは全く異なる外観を持つ巡洋艦が存在した。それは『レコンキスタ』作戦において太陽系宙域回復艦隊の旗艦を務めた『矢矧』という艦だった。
『矢矧』は、同じくレコンキスタ戦のために先に建造された駆逐艦『神風』の設計を拡大した艦型を持った、現在の地球防衛軍では『軽巡洋艦』と言うべき規模と武装(主砲は15.5cm連装砲3基)を有する艦であった。戦時の新規設計かつ急造による粗製乱造が原因で運用には相当な苦労を伴ったと伝えられているが、戦場において発揮した性能はほぼ満足すべきものであり、ガミラス大戦終結後の一時期、防衛軍もこの『矢矧』を発展させた新型巡洋艦の建造計画を立案しようとした形跡が認められる。
だが、この新型巡洋艦はやはり戦時の急造艦であり、戦訓などの再検討の結果、艦の問題の多くが原設計に起因していることが判明した。もし、この『矢矧』をベースに新型巡洋艦を量産するのであれば設計の手直しが必要になるのだが、ガミラス大戦において艦隊戦力の大半を失っていた地球防衛軍にそのような悠長さは許されず、当面、波動機関搭載の量産艦としては既存の金剛型戦艦および村雨型巡洋艦を改装して用いることになった。そのため『矢矧』も早期に特務艦に艦種類別が変更されて第一線を退き、更にガトランティス軍との対戦における『カラクルムショック』の影響で早急に新型量産戦艦(後のD級戦艦)を設計、建造する必要が生じたため、地球防衛軍の艦艇設計を司る艦政本部は、この時点で新型巡洋艦の量産はおろか、設計を行う余裕すら失ってしまったのである。
この状況下で、当面は見送られた新型巡洋艦の計画であるが、当時の地球防衛軍としてはこれにそこまで焦りを感じてはいなかったようだ。その理由の最たるものは、既に波動機関搭載の改良を行った金剛改型戦艦や村雨改型巡洋艦が、実質的に巡洋艦あるいは駆逐艦が行う任務を代替できていたからである。そこへ量産が決定されたD級戦艦が戦列に加われば、早急に新型巡洋艦を整備せずとも、ある程度バランスのとれた艦隊を編成できると防衛軍首脳部は考えていたらしい。
この時点においては、その思惑は成功したと言えるだろう。しかしガトランティス軍との戦闘が激化するにつれ、地球防衛軍は巡洋艦においてもなお「既存艦艇の力量不足」という無視できない課題に直面することになるのである。
「装備兵器の能力不足を痛感す」
波動機関を搭載した金剛改型、および村雨改型はその機動力に関しては、それぞれケルカピア級巡洋艦、クリピテラ級駆逐艦に匹敵すると評価され、ガトランティス帝国軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦にも対抗するに不足はなかった。だが、地球防衛軍にD級戦艦の設計、量産を決断させたカラクルム級の存在が、ここでも大きな問題となって立ちはだかることになったのである。
無論のこと、波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型のこの時期の実質的な運用は、それぞれ巡洋艦、駆逐艦のそれに相当していたから、カラクルム級に正面切って挑むことまでは要求されなかった。あくまで『機動力の優越によって包囲し、これを撃破する』ことが前提になっていたのだが、問題はその『包囲してからの』戦闘にあった。
金剛改型の一個戦隊(通常四隻編成)でカラクルム級一隻を包囲しても、撃沈するのが極めて困難だったのである。カラクルム級は戦訓の分析から『正面装甲は極めて強固だが、側面および下方は比較的脆い』と評価されていたのだが、金剛改型が装備していた36cm短砲身ショックカノンでは、その『脆い』という評価の側面や下面すら、確実に貫通して致命的な打撃を与えることが極めて難しかった。そのため金剛改型の戦隊でカラクルム級の撃沈を狙う場合、一番確実な方法とされたのは『宇宙魚雷および誘導ミサイルの飽和攻撃』となり、それも実戦においては、金剛改型が搭載するこれら実弾兵器の全弾を使用してようやく撃沈に持ち込んだという状況が多発していたのだった。
(他にも『艦首48cmショックカノンの砲撃を繰り返す』ことでも撃沈は可能とされたが、カラクルム級と正面切って撃ち合うには金剛改型では性能不足が甚だしかったため、早期にこの戦術は放棄されている。この戦法が再検討され実施されたのは、金剛改型の艦首ショックカノンを小型波動砲に換装した艦が戦場に投入されてからであった)
まだD級戦艦が量産されていない以上、金剛改型は当面は地球防衛艦隊の主力として活動することが求められていた。その一個戦隊でようやくカラクルム級一隻を撃沈できるかどうかとなると、それほど大量の艦艇を揃えられるわけではない地球防衛軍にとっては由々しき事態だった。撃沈できるだけまだいい、という考え方もできたが、一隻のカラクルム級に対してほぼ全ての宇宙魚雷や誘導弾を使い果たすような戦術は、その後の継戦能力が維持できないという点が艦隊側から問題視されたのである。
まして、カラクルム級以外の艦艇との戦いでも短砲身ショックカノンの威力不足はかなり深刻な問題と受け止められていたようで『波動機関により機動性が大幅に向上した』と好評を得た金剛改型、あるいは村雨改型が一定の戦果を挙げられたのも、その短砲身ショックカノンでも接近戦に持ち込む機動力があるため敵ガトランティス軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦に対して威力不足を露呈せずに済んだという認識さえ、艦隊側の一部には存在していたとされている。ある戦闘の詳報で『装備兵器の能力不足を痛感す』という記述を見ることができるが、それが金剛改型、あるいは村雨改型が抱えている最大の問題点であるのは確実だった。
新型巡洋艦の設計と求められた任務
地球防衛軍首脳部としても、艦隊側から指摘されたこの事態を傍観するわけにはいかなかった。D級戦艦の設計と試作に目途が立った頃、ようやく艦政本部も本腰を入れて新型巡洋艦計画を開始できる状況が整ったこともあり、早速、検討が開始されている。だが、この時期の防衛軍はいわゆる『新型巡洋艦』に、既存の村雨改型、あるいは実質的に巡洋艦として運用されるようになった金剛改型とは別の任務も求めていた。
それは、D級戦艦を中心とする新鋭艦隊の『目』となる偵察艦としての任務だった。この時期、地球防衛軍は一定の航空母艦とそれに付随する艦載機の量産は続けていたが、搭乗員を多数失ったガミラス大戦の影響は大きく、当時の防衛軍の航空隊は攻撃戦力として以上に偵察能力の十分な確保さえ難しい状況だったのだ。まして、広大な太陽系のしかも外縁まで偵察活動を行うとなると、基地航空隊を含めても、航空機だけでは万全な哨戒網を張り巡らすことは困難と判断されたのである。
そこで、偵察巡洋艦による哨戒を定期的に行うことにより、太陽系外周艦隊の運用を有機的に行うことが構想されたのである。当時のこうした哨戒網は探査衛星や偵察艦に改造された磯風改型駆逐艦を中心に、少数ながら探知能力を強化した村雨改型巡洋艦が投入されてはいたのだが、探査衛星は純粋に数が足りず、磯風改型や村雨改型はこと偵察艦としては間に合わせの急造艦という感が否めず、十分な索敵能力が確保されているとは言えなかった。防衛軍首脳部としてはまず、この『偵察能力の不足』を解消することに重点を置き、純粋な戦闘艦艇としての巡洋艦は当面のところ、D級戦艦の就役によって巡洋艦としての運用に切り替わることが予定されていた金剛改型によって賄うつもりであったようだ。
しかし、艦隊の偵察艦としても太陽系宙域を哨戒する警備艦としても、村雨改型に毛が生えた程度の戦闘力では能力不全となることは明らかだった。艦隊の先頭に立つ偵察艦として、あるいは単独で哨戒中に敵艦と接触する可能性のある新型巡洋艦には、村雨改型を上回る攻撃力と可能な限りの継戦能力を必要とした。そして『継戦能力が必要』ということは、言い換えれば搭載量の関係で有限であるミサイル、魚雷兵装に大きく依存するのではなく、一定の威力を確保した中口径ショックカノンを用いることが前提になることは言うまでもなかった。
この条件で新型巡洋艦を設計することになった艦政本部は、ここで『レコンキスタ』で活躍した『矢矧』に目を付けた。『矢矧』には、当初ヤマトの副砲の候補として開発された九八式15.5cm陽電子衝撃砲が搭載されていたのだが、この中口径ショックカノンはエネルギー量という点では金剛改型や村雨改型に優越するものではなかったが、長い砲身を有することで装甲貫徹力に関しては格段の差があった。これなら、同じショックカノンの門数(6門)でも村雨改型を大幅に上回り、砲の門数で勝る金剛改型に比しても伍する火力を与えられる。しかも『矢矧』というベースとなる艦が存在する以上、設計にもさして時間はかからない。当時の艦政本部にとっては渡りに船と言うべきものだった。
この新鋭巡洋艦には既存の村雨改型巡洋艦と区別する意味合いで『パトロール巡洋艦(現場では『パトロール艦』と呼ばれることが多かったため、以下はこの呼称で記述する)』という名称が付与され、早速、設計が行われた。『矢矧』というベースが存在していたため設計は順調に進んだが、その途上、防衛軍首脳部の一部から横やりが入ったことで作業が一時停滞してしまう。
それは、このパトロール艦に『波動砲を搭載せよ』というものだった。確かに船体規模からすれば、小型の集束波動砲であればギリギリ搭載できるのは確かだったが、本来は艦隊行動ではなく単独、少数による偵察活動を前提にした艦である。そんな艦に『波動砲は不要では?』という声が艦隊側の一部からも上がったが、この時期の防衛軍首脳部の多く、そしてその裏にいる連邦政府首脳部の一派が結びついたことで生み出された『波動砲艦隊構想』の影響から逃れることはできず、パトロール艦にも波動砲の搭載が強行されることになった。
波動砲搭載という不測の事態こそあったが、パトロール艦の設計は順調に進み、早速試作および量産が開始された。だが、試作艦を含めて8隻が建造されたところで、艦隊側から『実戦の使用に耐え得る艦にあらず』という評価を下されてしまい、このため艦政本部と艦隊側の協議、および実艦を用いた各種実験が行われることになった。
その結果、この新型パトロール艦の最大の問題点として、以下の要件が結論として導き出された。
『波動砲艦としての防御力、搭載するショックカノンの威力と探知能力のいずれもが不足している』
一言で言ってしまえば『与えられた任務に対して性能が中途半端だった』ということである。波動砲チャージ完了まで敵の攻撃に耐えられない防御力。短砲身砲より優れているとはいえ、巡洋艦として用いるには威力不足なショックカノン。そして、もっとも重視すべきであった探知能力が、艦の規模を村雨改型より大型化することが許されなかったことによって、同時に搭載機器の大型化も不可能となってその力量不足を露呈したこと。これらの問題点が重なった結果、艦隊側からの『実戦で戦力になり得ない』との評価に繋がったのだった。
艦政本部はこれらの指摘を再検討したが、こうした問題の多くは『艦が小型すぎた』ということに起因しているという結論を出した。パトロール艦、ひいては巡洋艦として十分な能力を与えるには、艦を大型化する必要がある。防衛軍首脳部から許可を得た艦政本部は、早速既存のパトロール艦を大型化する改設計に着手することになった。純粋に艦型を変更せず大型化して能力を強化するのだから、さして手間のかかる作業ではなかったと思われる。設計は早期に終了し、再度の建造が決まった『新・新型パトロール艦』は以前のパトロール艦より大型化(全長152m→180m)され、同時に主砲もヤマトがイスカンダルへと出撃する直前に副砲として搭載した『九九式20cm(実口径20.3cm)陽電子衝撃砲』に換装して量産が再開されることとなった。
この再設計が行われ、建造が再開された新型パトロール艦は、波動砲艦として用いることが可能な最低限の防御力、巡洋艦として相応と評価できる火力、そして大型化した船体に合わせて強化された探知機器による高い偵察能力を艦隊側からも高く評価され、一躍、D級戦艦と共に重要な量産艦として建造が継続されることになったのである。
しかし、好事魔多し。一定数が艦隊に配備され、当初の偵察、哨戒任務のみならず時にガトランティス帝国軍との艦隊戦も経験することになったこの新型パトロール艦は、当初の防衛軍の思惑を超えたところで弱点を露呈し、その対策を防衛軍に強いることになったのである。
2200年にガミラス大戦が終結した当時、地球防衛軍の主力巡洋艦といえば、言うまでもなく多数建造された(大戦における損耗が激しく、この時点で残っている艦はほんの一握りだったが)村雨型巡洋艦だったが、一隻だけ、村雨型とは全く異なる外観を持つ巡洋艦が存在した。それは『レコンキスタ』作戦において太陽系宙域回復艦隊の旗艦を務めた『矢矧』という艦だった。
『矢矧』は、同じくレコンキスタ戦のために先に建造された駆逐艦『神風』の設計を拡大した艦型を持った、現在の地球防衛軍では『軽巡洋艦』と言うべき規模と武装(主砲は15.5cm連装砲3基)を有する艦であった。戦時の新規設計かつ急造による粗製乱造が原因で運用には相当な苦労を伴ったと伝えられているが、戦場において発揮した性能はほぼ満足すべきものであり、ガミラス大戦終結後の一時期、防衛軍もこの『矢矧』を発展させた新型巡洋艦の建造計画を立案しようとした形跡が認められる。
だが、この新型巡洋艦はやはり戦時の急造艦であり、戦訓などの再検討の結果、艦の問題の多くが原設計に起因していることが判明した。もし、この『矢矧』をベースに新型巡洋艦を量産するのであれば設計の手直しが必要になるのだが、ガミラス大戦において艦隊戦力の大半を失っていた地球防衛軍にそのような悠長さは許されず、当面、波動機関搭載の量産艦としては既存の金剛型戦艦および村雨型巡洋艦を改装して用いることになった。そのため『矢矧』も早期に特務艦に艦種類別が変更されて第一線を退き、更にガトランティス軍との対戦における『カラクルムショック』の影響で早急に新型量産戦艦(後のD級戦艦)を設計、建造する必要が生じたため、地球防衛軍の艦艇設計を司る艦政本部は、この時点で新型巡洋艦の量産はおろか、設計を行う余裕すら失ってしまったのである。
この状況下で、当面は見送られた新型巡洋艦の計画であるが、当時の地球防衛軍としてはこれにそこまで焦りを感じてはいなかったようだ。その理由の最たるものは、既に波動機関搭載の改良を行った金剛改型戦艦や村雨改型巡洋艦が、実質的に巡洋艦あるいは駆逐艦が行う任務を代替できていたからである。そこへ量産が決定されたD級戦艦が戦列に加われば、早急に新型巡洋艦を整備せずとも、ある程度バランスのとれた艦隊を編成できると防衛軍首脳部は考えていたらしい。
この時点においては、その思惑は成功したと言えるだろう。しかしガトランティス軍との戦闘が激化するにつれ、地球防衛軍は巡洋艦においてもなお「既存艦艇の力量不足」という無視できない課題に直面することになるのである。
「装備兵器の能力不足を痛感す」
波動機関を搭載した金剛改型、および村雨改型はその機動力に関しては、それぞれケルカピア級巡洋艦、クリピテラ級駆逐艦に匹敵すると評価され、ガトランティス帝国軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦にも対抗するに不足はなかった。だが、地球防衛軍にD級戦艦の設計、量産を決断させたカラクルム級の存在が、ここでも大きな問題となって立ちはだかることになったのである。
無論のこと、波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型のこの時期の実質的な運用は、それぞれ巡洋艦、駆逐艦のそれに相当していたから、カラクルム級に正面切って挑むことまでは要求されなかった。あくまで『機動力の優越によって包囲し、これを撃破する』ことが前提になっていたのだが、問題はその『包囲してからの』戦闘にあった。
金剛改型の一個戦隊(通常四隻編成)でカラクルム級一隻を包囲しても、撃沈するのが極めて困難だったのである。カラクルム級は戦訓の分析から『正面装甲は極めて強固だが、側面および下方は比較的脆い』と評価されていたのだが、金剛改型が装備していた36cm短砲身ショックカノンでは、その『脆い』という評価の側面や下面すら、確実に貫通して致命的な打撃を与えることが極めて難しかった。そのため金剛改型の戦隊でカラクルム級の撃沈を狙う場合、一番確実な方法とされたのは『宇宙魚雷および誘導ミサイルの飽和攻撃』となり、それも実戦においては、金剛改型が搭載するこれら実弾兵器の全弾を使用してようやく撃沈に持ち込んだという状況が多発していたのだった。
(他にも『艦首48cmショックカノンの砲撃を繰り返す』ことでも撃沈は可能とされたが、カラクルム級と正面切って撃ち合うには金剛改型では性能不足が甚だしかったため、早期にこの戦術は放棄されている。この戦法が再検討され実施されたのは、金剛改型の艦首ショックカノンを小型波動砲に換装した艦が戦場に投入されてからであった)
まだD級戦艦が量産されていない以上、金剛改型は当面は地球防衛艦隊の主力として活動することが求められていた。その一個戦隊でようやくカラクルム級一隻を撃沈できるかどうかとなると、それほど大量の艦艇を揃えられるわけではない地球防衛軍にとっては由々しき事態だった。撃沈できるだけまだいい、という考え方もできたが、一隻のカラクルム級に対してほぼ全ての宇宙魚雷や誘導弾を使い果たすような戦術は、その後の継戦能力が維持できないという点が艦隊側から問題視されたのである。
まして、カラクルム級以外の艦艇との戦いでも短砲身ショックカノンの威力不足はかなり深刻な問題と受け止められていたようで『波動機関により機動性が大幅に向上した』と好評を得た金剛改型、あるいは村雨改型が一定の戦果を挙げられたのも、その短砲身ショックカノンでも接近戦に持ち込む機動力があるため敵ガトランティス軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦に対して威力不足を露呈せずに済んだという認識さえ、艦隊側の一部には存在していたとされている。ある戦闘の詳報で『装備兵器の能力不足を痛感す』という記述を見ることができるが、それが金剛改型、あるいは村雨改型が抱えている最大の問題点であるのは確実だった。
新型巡洋艦の設計と求められた任務
地球防衛軍首脳部としても、艦隊側から指摘されたこの事態を傍観するわけにはいかなかった。D級戦艦の設計と試作に目途が立った頃、ようやく艦政本部も本腰を入れて新型巡洋艦計画を開始できる状況が整ったこともあり、早速、検討が開始されている。だが、この時期の防衛軍はいわゆる『新型巡洋艦』に、既存の村雨改型、あるいは実質的に巡洋艦として運用されるようになった金剛改型とは別の任務も求めていた。
それは、D級戦艦を中心とする新鋭艦隊の『目』となる偵察艦としての任務だった。この時期、地球防衛軍は一定の航空母艦とそれに付随する艦載機の量産は続けていたが、搭乗員を多数失ったガミラス大戦の影響は大きく、当時の防衛軍の航空隊は攻撃戦力として以上に偵察能力の十分な確保さえ難しい状況だったのだ。まして、広大な太陽系のしかも外縁まで偵察活動を行うとなると、基地航空隊を含めても、航空機だけでは万全な哨戒網を張り巡らすことは困難と判断されたのである。
そこで、偵察巡洋艦による哨戒を定期的に行うことにより、太陽系外周艦隊の運用を有機的に行うことが構想されたのである。当時のこうした哨戒網は探査衛星や偵察艦に改造された磯風改型駆逐艦を中心に、少数ながら探知能力を強化した村雨改型巡洋艦が投入されてはいたのだが、探査衛星は純粋に数が足りず、磯風改型や村雨改型はこと偵察艦としては間に合わせの急造艦という感が否めず、十分な索敵能力が確保されているとは言えなかった。防衛軍首脳部としてはまず、この『偵察能力の不足』を解消することに重点を置き、純粋な戦闘艦艇としての巡洋艦は当面のところ、D級戦艦の就役によって巡洋艦としての運用に切り替わることが予定されていた金剛改型によって賄うつもりであったようだ。
しかし、艦隊の偵察艦としても太陽系宙域を哨戒する警備艦としても、村雨改型に毛が生えた程度の戦闘力では能力不全となることは明らかだった。艦隊の先頭に立つ偵察艦として、あるいは単独で哨戒中に敵艦と接触する可能性のある新型巡洋艦には、村雨改型を上回る攻撃力と可能な限りの継戦能力を必要とした。そして『継戦能力が必要』ということは、言い換えれば搭載量の関係で有限であるミサイル、魚雷兵装に大きく依存するのではなく、一定の威力を確保した中口径ショックカノンを用いることが前提になることは言うまでもなかった。
この条件で新型巡洋艦を設計することになった艦政本部は、ここで『レコンキスタ』で活躍した『矢矧』に目を付けた。『矢矧』には、当初ヤマトの副砲の候補として開発された九八式15.5cm陽電子衝撃砲が搭載されていたのだが、この中口径ショックカノンはエネルギー量という点では金剛改型や村雨改型に優越するものではなかったが、長い砲身を有することで装甲貫徹力に関しては格段の差があった。これなら、同じショックカノンの門数(6門)でも村雨改型を大幅に上回り、砲の門数で勝る金剛改型に比しても伍する火力を与えられる。しかも『矢矧』というベースとなる艦が存在する以上、設計にもさして時間はかからない。当時の艦政本部にとっては渡りに船と言うべきものだった。
この新鋭巡洋艦には既存の村雨改型巡洋艦と区別する意味合いで『パトロール巡洋艦(現場では『パトロール艦』と呼ばれることが多かったため、以下はこの呼称で記述する)』という名称が付与され、早速、設計が行われた。『矢矧』というベースが存在していたため設計は順調に進んだが、その途上、防衛軍首脳部の一部から横やりが入ったことで作業が一時停滞してしまう。
それは、このパトロール艦に『波動砲を搭載せよ』というものだった。確かに船体規模からすれば、小型の集束波動砲であればギリギリ搭載できるのは確かだったが、本来は艦隊行動ではなく単独、少数による偵察活動を前提にした艦である。そんな艦に『波動砲は不要では?』という声が艦隊側の一部からも上がったが、この時期の防衛軍首脳部の多く、そしてその裏にいる連邦政府首脳部の一派が結びついたことで生み出された『波動砲艦隊構想』の影響から逃れることはできず、パトロール艦にも波動砲の搭載が強行されることになった。
波動砲搭載という不測の事態こそあったが、パトロール艦の設計は順調に進み、早速試作および量産が開始された。だが、試作艦を含めて8隻が建造されたところで、艦隊側から『実戦の使用に耐え得る艦にあらず』という評価を下されてしまい、このため艦政本部と艦隊側の協議、および実艦を用いた各種実験が行われることになった。
その結果、この新型パトロール艦の最大の問題点として、以下の要件が結論として導き出された。
『波動砲艦としての防御力、搭載するショックカノンの威力と探知能力のいずれもが不足している』
一言で言ってしまえば『与えられた任務に対して性能が中途半端だった』ということである。波動砲チャージ完了まで敵の攻撃に耐えられない防御力。短砲身砲より優れているとはいえ、巡洋艦として用いるには威力不足なショックカノン。そして、もっとも重視すべきであった探知能力が、艦の規模を村雨改型より大型化することが許されなかったことによって、同時に搭載機器の大型化も不可能となってその力量不足を露呈したこと。これらの問題点が重なった結果、艦隊側からの『実戦で戦力になり得ない』との評価に繋がったのだった。
艦政本部はこれらの指摘を再検討したが、こうした問題の多くは『艦が小型すぎた』ということに起因しているという結論を出した。パトロール艦、ひいては巡洋艦として十分な能力を与えるには、艦を大型化する必要がある。防衛軍首脳部から許可を得た艦政本部は、早速既存のパトロール艦を大型化する改設計に着手することになった。純粋に艦型を変更せず大型化して能力を強化するのだから、さして手間のかかる作業ではなかったと思われる。設計は早期に終了し、再度の建造が決まった『新・新型パトロール艦』は以前のパトロール艦より大型化(全長152m→180m)され、同時に主砲もヤマトがイスカンダルへと出撃する直前に副砲として搭載した『九九式20cm(実口径20.3cm)陽電子衝撃砲』に換装して量産が再開されることとなった。
この再設計が行われ、建造が再開された新型パトロール艦は、波動砲艦として用いることが可能な最低限の防御力、巡洋艦として相応と評価できる火力、そして大型化した船体に合わせて強化された探知機器による高い偵察能力を艦隊側からも高く評価され、一躍、D級戦艦と共に重要な量産艦として建造が継続されることになったのである。
しかし、好事魔多し。一定数が艦隊に配備され、当初の偵察、哨戒任務のみならず時にガトランティス帝国軍との艦隊戦も経験することになったこの新型パトロール艦は、当初の防衛軍の思惑を超えたところで弱点を露呈し、その対策を防衛軍に強いることになったのである。