地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

このブログは、筆者ことA-140が、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイク版は問いません)の二次創作として制作しているヤマト世界の地球防衛軍の艦艇史、および本編で描かれていない、あるいはもっと盛り込んだほうが面白いと思われる艦隊戦について創作を行うために開設しました。

筆者はリアルタイムで旧作を見たファンというわけではない(厳密には3歳のときに映画館で完結編を見たようですが)ですが、幼児期からヤマトに親しみ、それが嵩じて軍艦ファンになって現在に至った人間です。そのためヤマト世界に主に1945年以前の海軍史(知識の関係上、日本海軍に関係したものが多くなりそうです)を持ち込んで色々考えながら創作を行っています。

もしヤマトという作品に出合わなければ、人間関係など私の人生は大きく違ったものになったはずで、色々な意味でこの作品には感謝し切れません。その気持ちを大事にして、自分なりのヤマト世界を広げて楽しませていただき、同時にこのブログを訪れた読者の皆様にも楽しんでいただければ幸いに思います。

なお、旧作リメイク問わず本編の設定を自分の考えで弄ったり、両方を混ぜて新しい設定を作るなど行うこともありますが、筆者はどの本編であろうと否定するつもりは一切なく、単に「ヤマトが好きだから、自分でその世界を描いてみたい」というスタンスで創作を行っています。特定個人や組織、作品に対して批判や不満などは一切持ち込まずに創作を行っていますので、その点はご了承いただければ幸いです。

遅筆にてどのくらいの頻度で更新できるかわかりかねる部分はありますが、どうぞよろしくお願いいたします。

なお、表示の関係で記事を個別に読むと前後編などの場合、後編から読むことになるようです。カテゴリーからは順番に読めるよう設定してありますので、左のカテゴリーから各記事をお読み頂ければと思います。

 土方からの「全艦隊、土星基地へと集結せよ」という命令が、第一外周艦隊……否、地球防衛軍の全艦隊に激震をもたらしたのは当然と言えたろう。本来、地球防衛軍の基本戦略は『敵艦隊の太陽系への襲来に際しては、太陽系各地に配備した艦隊の連続投入によって漸減作戦を行う』ことであり、当初から全艦隊を一カ所に集結させての迎撃は、基本的には考慮されていなかったからである。しかも、土星以遠の基地を放棄してまで、その基地に配備されている艦艇をも集結させるとなると、もはや防衛軍の戦略を完全に覆す、独断専行としか言えない命令だった。

 ただ、土方との付き合いが長いせいか、堀田個人としては少なくともこの命令に違和感を感じてはいなかった。

 (土方さんが考えなしにこんな命令を出すはずもない。ということは、襲来する敵艦隊の規模が防衛軍首脳部の想定を大幅に上回っている、そんなところだろうな)

 とはいえ、この命令に現在の上官である谷が従わなければどうしようもない。そこがいささか不安ではあったが、谷としても土方の命令に思うところがあったのか、すぐその指示に従い、第二外周艦隊との合流を麾下の全艦艇に命令したのだった。
 そして、第二外周艦隊との合流を終えた直後、太陽系へと向かっているガトランティス艦隊の規模が伝わってきた。それによると、現状確認できる艦艇だけでも500隻近くに達する大艦隊である、ということであった。

 (それほどの艦隊がやってくるとは……そうであれば、全軍を集結して立ち向かうより他にないな)

 何しろ、現在太陽系にいる外周、内周艦隊および各惑星基地配備の艦艇をかき集めても、やっと200隻に達する程度である。そこへ太陽系に駐屯するガミラス軍太陽系方面軍の艦隊を加えたとしても、敵に対してその兵力は半分にしかならない。そこに来て当初の漸減作戦にこだわっていては、地球防衛艦隊は各個撃破の対象となって壊滅するしかなかったろう。土方の決断は、下した時期も含めて最適だったと堀田は判断するに至った。

 (だが、苦しい戦いになるぞ)

 現状を鑑みれば、艦隊集結それ自体は何とか間に合うと判断できる。だが、それでも地球防衛軍の連合艦隊はこれから倍の数を誇る敵艦隊と交戦することになる。
 しかも、その敵艦隊はガトランティス軍の主力部隊ではない。いや、艦隊という機動戦力としては主力なのかもしれないが、白色彗星を有するガトランティス軍の本隊がそれに後続しているのだ。味方に倍する『前衛艦隊』の後に控える白色彗星……これから始まろうとしている戦いが『人類の存亡を賭けたものになる』と、堀田のみならず現状を知った将兵たちはおのずと覚悟を強いられたはずである。

 (だが、今は目の前の敵艦隊を叩くしか方法がない)

 堀田はそう割り切った。割り切るしかないのである。どのみち、前衛と言うべき敵の大艦隊に敗北すれば、その艦隊の攻撃によって地球は焦土と化し、人類は滅亡に追い込まれるしかないのだ。白色彗星が控えているということを理由に土方の戦略に異を唱えた防衛軍首脳もいたと聞くが、そのような先のことを考える余裕など、実際にはあろうはずもなかった。

 土星に到着する直前、堀田は『薩摩』以下の第三戦艦戦隊に所属する乗員に、指揮官として短い訓示を行った。

 「これから、我々地球防衛艦隊には苦しい戦いの連続になる。本戦隊もその一翼として奮闘しなければならないが、自分たちに求められるのは『勝ち続けること』となる。その覚悟を以て、諸氏の全力を尽くしてもらいたい」


 土星基地に到着してみると、既に土星以内から集まってきた外周、内周艦隊や基地に配備されていた艦艇の集結が始まっていて、タイタンの鎮守府には糸が張り詰めたような緊張感が漂っていた。確かに地球防衛艦隊の全戦力が集結すれば壮観な眺めになるだろうが、それに浸っている余裕など、少なくとも堀田にはあろうはずもなかっただろう。
 そして土星に到着したその日、堀田は個人的にも無視できない情報に接することになった。

 『十一番惑星に駐屯する第十一、第十六艦隊が敵ガトランティス艦隊と交戦、これを撃滅せり』

 第十一、第十六の両艦隊は、土方からの艦隊集結命令を受け取る直前に、主力とは別と思われるガトランティス艦隊を捕捉していたため、土星基地へは向かわずこの敵艦隊の迎撃にあたっていた。この艦隊は恐らく陽動部隊と思われたが、それでも100隻は軽く超すほどの規模を誇っていたというから、敵の戦力の底が知れたものではない。
 ただ、この会戦で総指揮を執ったのは、第十一艦隊を率いる堀田の同期である高石範義だったのは、堀田にとっては喜ばしいことだった。親友が生き残ってくれたこともさることながら、第十一、第十六の両艦隊は恐らく土星での決戦にこそ間に合わないだろうが、逆にこれを予備兵力と考えれば敵艦隊を挟撃できる可能性も生じる。まずはよしとすべき結果であった。


 そして5月6日、タイタン鎮守府で連合艦隊にとって最後となる作戦会議が行われた。ここでの会議で主な議論の的となったのは、敵艦隊がどのような進路で土星宙域に侵入してくるか、ということであった。
 土方の指示により、各地から集結した艦艇は連合艦隊として六個艦隊に再編されていた。そして土方からこの会議で示された連合艦隊の陣形は、明らかに『敵艦隊は正面突破を狙ってくる』ことを前提にして組まれたものだった。

 「この陣形では、側面を突かれた場合に対処できないのではないか?」

 幾人かの提督、艦長がその不安を指摘したが、土方は断言した。

 「敵は、必ず正面から来る」

 この断定的過ぎる発言は多くを驚かせたが、土方はいつもの口数の少なさからは想像しにくい勢いで自らの戦略を披露した。敵は数において、そして個艦の性能でこちらに優越しているという、ある種の『驕り』があるはずだ。その敵が数で劣る敵を前に小細工などするはずがない。必ず正面からこちらを叩き潰しに来る。それは、現状多いとは言えないが集めることができた偵察情報で判明した敵艦隊の兵力配備から見ても間違いない。
 一通り、土方が語り終えたとき、敵が側面から来たらどう対応するかと不安に思う者はいなくなっていた。それだけ土方の言葉には説得力と、そしてそれ以上に迫力があった。『鬼竜』とはよく言ったものだと、堀田は恩師の言葉を聞きながら内心で納得していたのだった。

 この会議が終わった直後、最終的な艦隊の配置が通達された。そのとき、堀田は自分に対する意外な命令に驚くことになる。

 『堀田真司一佐を代将待遇とし、第五艦隊の司令長官代理とする』

 第五艦隊は、土星本星のカッシーニの隙間に配置されることとなっていた、今回の会戦では『予備兵力』と位置付けられた艦隊である。本来は第一艦隊に所属するはずの、まだ竣工から日が浅く乗員の練成が不十分とされた艦で編成されたいくつかの戦隊に、ガミラス軍太陽系方面艦隊を加えた50隻の混成艦隊で、正直なところ、地球側の所属部隊は曲がりなりにも第一外周艦隊で猛訓練を積んでいた第三戦艦戦隊に比べると『大人と子供ほど』には練度の差があった。
 一方でガミラス艦隊は、太陽系という外地に派遣されてきた艦隊だからそれなりに練度は期待できたが、機動力にこそ優れるものの軽巡洋艦と駆逐艦が大半を占める編成であり、ガトランティス軍が保有する大型艦相手には正直なところ質量共に不安はある。こうなると、海王星沖で『薩摩』が経験した戦いでの損害が惜しまれてしまうところだった。

 そんな、戦力としては大きく期待できそうもない艦隊を預けるのに、防衛軍にとって数少ない将官を充てるのは難しいと言わざるを得なかった。そうなると、この第五艦隊で階級としては最上位にいる堀田が代将として艦隊を率いるのはやむを得ない。自分などには荷が重い、などという泣き言は、堀田自身も言っている場合ではないし土方も許してくれないだろう。黙ってお前の責任を果たせ、という土方の無形の言葉を、ただ受け入れるしかなかったのである。


 第五艦隊がタイタン鎮守府を出撃する直前、堀田は『薩摩』でガミラス太陽系方面艦隊の指揮官の訪問を受ける。だが、その相手はもう見知った相手だった。

 「堀田一佐、お久しぶりです」
 「ゲーア少佐! あなたがガミラス艦隊の指揮官だったか」

 先の海王星沖での戦闘で、結果的に堀田が『命を救う』形になったゲーアが、今はガミラス大使であるバレルの指示でガミラス太陽系駐屯艦隊の全軍を率いているという。

 「あなたがガミラス艦隊を率いているとは心強い。予備戦力扱いということで申し訳ないが、機会が訪れれば存分に戦っていただきたい」
 「お心遣い、感謝いたします。小官も先日の海王星でのご恩、お返ししたく思っております」

 お互い、その力量と人格には信頼を置いているのだから、ことに堀田としては心強い限りだった。もっとも、実は堀田がガミラス艦隊を含む第五艦隊の代将に任じられた理由の一つが、ゲーアが「我らは地球艦隊の指揮下で戦うことに異存はないが、それならば是非堀田一佐の麾下で戦いたい」と土方に強く希望したからでもあったのだ。もちろん、堀田自身はそのことを知る由もなかったが。

 「先日の海王星での戦いは、あなたに命を助けられた。私の麾下にはそのとき命を永らえたものもおりますから、皆、そのときのご恩をお返ししようと張り切っております」
 「……いや、あのときは我が軍の不備もありましたから。それに、味方を見捨てる戦いは地球防衛軍にはないものです。そのことはもう気になさらず」
 「いえ、ガミロン軍人として一度受けた恩を返さずにいるのは恥というもの。僅かな戦力ではありますが、我が艦隊の総力を挙げてこの戦いに望む覚悟でいます」
 「……」

 表情だけは穏やかさを装ったが、堀田は二の句が継げなかった。確かに決戦を前に高揚しているということもあろうが、ゲーアの『覚悟』が妙な気負いなように感じられたのだ。海王星のときも彼は独断で敵艦隊の迎撃に出たのだが、それは蛮勇というより『自分たちが何とかしなければ』という責任感の発露だろうと堀田は思っていたから、自分に示したこの強い覚悟が悪いほうに向かなければいいのだが……と考えるしかなかったのだ。

 (それをうまく抑えて、無駄死にに追い込まないことも私の仕事、ということになるだろうな……)

 ゲーアに「あなた方の奮戦に期待しております」と、社交辞令的に声をかけて見送ることになった堀田は、内心でそう思いつつも言い知れぬ不安感を拭いされずにいた。そして、悲しいかなこの不安は現実のものになってしまうのである。


 そして、ついに連合艦隊全艦に出撃命令が下る。実は半日ほど前、堀田の上官だったこともある安田俊太郎宙将補が率いる第三艦隊(空母機動部隊)がヤマトと共に出撃していたのだが、これは敵主力艦隊の後方に『いると思われる』敵空母部隊への奇襲を企図した艦隊であった。空母の数が違い過ぎるから、まともな航空戦になれば制空権は必ず敵に明け渡すことになる。敵の所在が不特定という意味で賭けではあるが、制空権喪失を防ぐために航空先制攻撃を仕掛けるというのも、至極まっとうな戦略だと堀田は考えたのだった。

 (自分も、土方さん始め諸先輩のようにまっとうに艦隊を率いられるのかどうか……)

 カッシーニの隙間への移動中、内心でそう考える。これまで堀田が率いてきた最大級の兵力は一個戦隊がいいところで、今の第五艦隊より規模が小さい分艦隊の指揮を執った経験すらない。それが予備兵力とはいえ、代将として決して規模の小さくない50隻の艦隊を率いろというのである。しかも同盟国であるガミラスの艦隊まで預けられたというのは、本音を言えば土方に「正気ですか?」と詰め寄りたいくらいだった。
 しかし、仮に詰め寄る機会があったとしても、土方が取り合ってくれる見込みもなかった。ある『薩摩』乗り組みの士官が小耳に挟んだという話をたまたま聞いたところによると、実際、堀田に代将として第五艦隊を率いさせることには反対意見も多かったようだ。その方がむしろ当然だから堀田としては腹を立てようもないのだが、土方はその意見に全く耳を貸そうとしなかったのだという。

 (『試され続ける』ということはどこまでも変わらない、か)

 思えば、士官学校最上級生のときに知己を得てから、土方は常に自分に重すぎる課題を与え、それに応えることを要求してくる。今まで何とかしてこれたからこそ今の自分の立場があると堀田も頭では理解しているが、楽はさせてもらえないな、と時折思う。もっとも、自分とて土方に連合艦隊司令長官という今の立場を押し付けたのだから、人のことを言えた義理もないのだが。
 しかし、いきなり一個艦隊を預けてくるという今回の課題は、失敗することが絶対に許されない。まず多くの将兵の命を預かっているということはもちろん、これから戦われる会戦は文字通り人類の命運がかかっている。そこで一個艦隊が戦力にならないという事態を招けば、味方の敗北に繋がることは必至だ。これまでの自分に与えられた責任とは重さが明らかに違うことを、堀田は自分なりにだが理解しているつもりだった。

 そして、理解しているからこそ、その責任から逃げるつもりもない。今後、ガトランティス帝国との戦いがどのように進み、いつまで続くか想像もつかない。しかし、誰が相手でも勝ち続けるしか道はない。そうでなければ、地球と人類には滅びの道が待っているだけだ。

 「第五艦隊、全艦配置につきました」

 報告を受けて、堀田は立ち上がって檄を飛ばす。

 「さて、苦しい戦いになるだろうが、勝って地球と人類を守り抜こう。各員、全力を尽くしてくれ!」

 土星会戦、その『本戦』と言うべき艦隊同士の激突が、間もなく始まろうとしていた。

新型巡洋艦計画の停滞

 2200年にガミラス大戦が終結した当時、地球防衛軍の主力巡洋艦といえば、言うまでもなく多数建造された(大戦における損耗が激しく、この時点で残っている艦はほんの一握りだったが)村雨型巡洋艦だったが、一隻だけ、村雨型とは全く異なる外観を持つ巡洋艦が存在した。それは『レコンキスタ』作戦において太陽系宙域回復艦隊の旗艦を務めた『矢矧』という艦だった。

 『矢矧』は、同じくレコンキスタ戦のために先に建造された駆逐艦『神風』の設計を拡大した艦型を持った、現在の地球防衛軍では『軽巡洋艦』と言うべき規模と武装(主砲は15.5cm連装砲3基)を有する艦であった。戦時の新規設計かつ急造による粗製乱造が原因で運用には相当な苦労を伴ったと伝えられているが、戦場において発揮した性能はほぼ満足すべきものであり、ガミラス大戦終結後の一時期、防衛軍もこの『矢矧』を発展させた新型巡洋艦の建造計画を立案しようとした形跡が認められる。
 だが、この新型巡洋艦はやはり戦時の急造艦であり、戦訓などの再検討の結果、艦の問題の多くが原設計に起因していることが判明した。もし、この『矢矧』をベースに新型巡洋艦を量産するのであれば設計の手直しが必要になるのだが、ガミラス大戦において艦隊戦力の大半を失っていた地球防衛軍にそのような悠長さは許されず、当面、波動機関搭載の量産艦としては既存の金剛型戦艦および村雨型巡洋艦を改装して用いることになった。そのため『矢矧』も早期に特務艦に艦種類別が変更されて第一線を退き、更にガトランティス軍との対戦における『カラクルムショック』の影響で早急に新型量産戦艦(後のD級戦艦)を設計、建造する必要が生じたため、地球防衛軍の艦艇設計を司る艦政本部は、この時点で新型巡洋艦の量産はおろか、設計を行う余裕すら失ってしまったのである。

 この状況下で、当面は見送られた新型巡洋艦の計画であるが、当時の地球防衛軍としてはこれにそこまで焦りを感じてはいなかったようだ。その理由の最たるものは、既に波動機関搭載の改良を行った金剛改型戦艦や村雨改型巡洋艦が、実質的に巡洋艦あるいは駆逐艦が行う任務を代替できていたからである。そこへ量産が決定されたD級戦艦が戦列に加われば、早急に新型巡洋艦を整備せずとも、ある程度バランスのとれた艦隊を編成できると防衛軍首脳部は考えていたらしい。
 この時点においては、その思惑は成功したと言えるだろう。しかしガトランティス軍との戦闘が激化するにつれ、地球防衛軍は巡洋艦においてもなお「既存艦艇の力量不足」という無視できない課題に直面することになるのである。


「装備兵器の能力不足を痛感す」

 波動機関を搭載した金剛改型、および村雨改型はその機動力に関しては、それぞれケルカピア級巡洋艦、クリピテラ級駆逐艦に匹敵すると評価され、ガトランティス帝国軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦にも対抗するに不足はなかった。だが、地球防衛軍にD級戦艦の設計、量産を決断させたカラクルム級の存在が、ここでも大きな問題となって立ちはだかることになったのである。
 無論のこと、波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型のこの時期の実質的な運用は、それぞれ巡洋艦、駆逐艦のそれに相当していたから、カラクルム級に正面切って挑むことまでは要求されなかった。あくまで『機動力の優越によって包囲し、これを撃破する』ことが前提になっていたのだが、問題はその『包囲してからの』戦闘にあった。

 金剛改型の一個戦隊(通常四隻編成)でカラクルム級一隻を包囲しても、撃沈するのが極めて困難だったのである。カラクルム級は戦訓の分析から『正面装甲は極めて強固だが、側面および下方は比較的脆い』と評価されていたのだが、金剛改型が装備していた36cm短砲身ショックカノンでは、その『脆い』という評価の側面や下面すら、確実に貫通して致命的な打撃を与えることが極めて難しかった。そのため金剛改型の戦隊でカラクルム級の撃沈を狙う場合、一番確実な方法とされたのは『宇宙魚雷および誘導ミサイルの飽和攻撃』となり、それも実戦においては、金剛改型が搭載するこれら実弾兵器の全弾を使用してようやく撃沈に持ち込んだという状況が多発していたのだった。

 (他にも『艦首48cmショックカノンの砲撃を繰り返す』ことでも撃沈は可能とされたが、カラクルム級と正面切って撃ち合うには金剛改型では性能不足が甚だしかったため、早期にこの戦術は放棄されている。この戦法が再検討され実施されたのは、金剛改型の艦首ショックカノンを小型波動砲に換装した艦が戦場に投入されてからであった)

 まだD級戦艦が量産されていない以上、金剛改型は当面は地球防衛艦隊の主力として活動することが求められていた。その一個戦隊でようやくカラクルム級一隻を撃沈できるかどうかとなると、それほど大量の艦艇を揃えられるわけではない地球防衛軍にとっては由々しき事態だった。撃沈できるだけまだいい、という考え方もできたが、一隻のカラクルム級に対してほぼ全ての宇宙魚雷や誘導弾を使い果たすような戦術は、その後の継戦能力が維持できないという点が艦隊側から問題視されたのである。
 まして、カラクルム級以外の艦艇との戦いでも短砲身ショックカノンの威力不足はかなり深刻な問題と受け止められていたようで『波動機関により機動性が大幅に向上した』と好評を得た金剛改型、あるいは村雨改型が一定の戦果を挙げられたのも、その短砲身ショックカノンでも接近戦に持ち込む機動力があるため敵ガトランティス軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦に対して威力不足を露呈せずに済んだという認識さえ、艦隊側の一部には存在していたとされている。ある戦闘の詳報で『装備兵器の能力不足を痛感す』という記述を見ることができるが、それが金剛改型、あるいは村雨改型が抱えている最大の問題点であるのは確実だった。


新型巡洋艦の設計と求められた任務

 地球防衛軍首脳部としても、艦隊側から指摘されたこの事態を傍観するわけにはいかなかった。D級戦艦の設計と試作に目途が立った頃、ようやく艦政本部も本腰を入れて新型巡洋艦計画を開始できる状況が整ったこともあり、早速、検討が開始されている。だが、この時期の防衛軍はいわゆる『新型巡洋艦』に、既存の村雨改型、あるいは実質的に巡洋艦として運用されるようになった金剛改型とは別の任務も求めていた。

 それは、D級戦艦を中心とする新鋭艦隊の『目』となる偵察艦としての任務だった。この時期、地球防衛軍は一定の航空母艦とそれに付随する艦載機の量産は続けていたが、搭乗員を多数失ったガミラス大戦の影響は大きく、当時の防衛軍の航空隊は攻撃戦力として以上に偵察能力の十分な確保さえ難しい状況だったのだ。まして、広大な太陽系のしかも外縁まで偵察活動を行うとなると、基地航空隊を含めても、航空機だけでは万全な哨戒網を張り巡らすことは困難と判断されたのである。
 そこで、偵察巡洋艦による哨戒を定期的に行うことにより、太陽系外周艦隊の運用を有機的に行うことが構想されたのである。当時のこうした哨戒網は探査衛星や偵察艦に改造された磯風改型駆逐艦を中心に、少数ながら探知能力を強化した村雨改型巡洋艦が投入されてはいたのだが、探査衛星は純粋に数が足りず、磯風改型や村雨改型はこと偵察艦としては間に合わせの急造艦という感が否めず、十分な索敵能力が確保されているとは言えなかった。防衛軍首脳部としてはまず、この『偵察能力の不足』を解消することに重点を置き、純粋な戦闘艦艇としての巡洋艦は当面のところ、D級戦艦の就役によって巡洋艦としての運用に切り替わることが予定されていた金剛改型によって賄うつもりであったようだ。

 しかし、艦隊の偵察艦としても太陽系宙域を哨戒する警備艦としても、村雨改型に毛が生えた程度の戦闘力では能力不全となることは明らかだった。艦隊の先頭に立つ偵察艦として、あるいは単独で哨戒中に敵艦と接触する可能性のある新型巡洋艦には、村雨改型を上回る攻撃力と可能な限りの継戦能力を必要とした。そして『継戦能力が必要』ということは、言い換えれば搭載量の関係で有限であるミサイル、魚雷兵装に大きく依存するのではなく、一定の威力を確保した中口径ショックカノンを用いることが前提になることは言うまでもなかった。
 この条件で新型巡洋艦を設計することになった艦政本部は、ここで『レコンキスタ』で活躍した『矢矧』に目を付けた。『矢矧』には、当初ヤマトの副砲の候補として開発された九八式15.5cm陽電子衝撃砲が搭載されていたのだが、この中口径ショックカノンはエネルギー量という点では金剛改型や村雨改型に優越するものではなかったが、長い砲身を有することで装甲貫徹力に関しては格段の差があった。これなら、同じショックカノンの門数(6門)でも村雨改型を大幅に上回り、砲の門数で勝る金剛改型に比しても伍する火力を与えられる。しかも『矢矧』というベースとなる艦が存在する以上、設計にもさして時間はかからない。当時の艦政本部にとっては渡りに船と言うべきものだった。

 この新鋭巡洋艦には既存の村雨改型巡洋艦と区別する意味合いで『パトロール巡洋艦(現場では『パトロール艦』と呼ばれることが多かったため、以下はこの呼称で記述する)』という名称が付与され、早速、設計が行われた。『矢矧』というベースが存在していたため設計は順調に進んだが、その途上、防衛軍首脳部の一部から横やりが入ったことで作業が一時停滞してしまう。
 それは、このパトロール艦に『波動砲を搭載せよ』というものだった。確かに船体規模からすれば、小型の集束波動砲であればギリギリ搭載できるのは確かだったが、本来は艦隊行動ではなく単独、少数による偵察活動を前提にした艦である。そんな艦に『波動砲は不要では?』という声が艦隊側の一部からも上がったが、この時期の防衛軍首脳部の多く、そしてその裏にいる連邦政府首脳部の一派が結びついたことで生み出された『波動砲艦隊構想』の影響から逃れることはできず、パトロール艦にも波動砲の搭載が強行されることになった。

 波動砲搭載という不測の事態こそあったが、パトロール艦の設計は順調に進み、早速試作および量産が開始された。だが、試作艦を含めて8隻が建造されたところで、艦隊側から『実戦の使用に耐え得る艦にあらず』という評価を下されてしまい、このため艦政本部と艦隊側の協議、および実艦を用いた各種実験が行われることになった。

 その結果、この新型パトロール艦の最大の問題点として、以下の要件が結論として導き出された。

 『波動砲艦としての防御力、搭載するショックカノンの威力と探知能力のいずれもが不足している』

 一言で言ってしまえば『与えられた任務に対して性能が中途半端だった』ということである。波動砲チャージ完了まで敵の攻撃に耐えられない防御力。短砲身砲より優れているとはいえ、巡洋艦として用いるには威力不足なショックカノン。そして、もっとも重視すべきであった探知能力が、艦の規模を村雨改型より大型化することが許されなかったことによって、同時に搭載機器の大型化も不可能となってその力量不足を露呈したこと。これらの問題点が重なった結果、艦隊側からの『実戦で戦力になり得ない』との評価に繋がったのだった。

 艦政本部はこれらの指摘を再検討したが、こうした問題の多くは『艦が小型すぎた』ということに起因しているという結論を出した。パトロール艦、ひいては巡洋艦として十分な能力を与えるには、艦を大型化する必要がある。防衛軍首脳部から許可を得た艦政本部は、早速既存のパトロール艦を大型化する改設計に着手することになった。純粋に艦型を変更せず大型化して能力を強化するのだから、さして手間のかかる作業ではなかったと思われる。設計は早期に終了し、再度の建造が決まった『新・新型パトロール艦』は以前のパトロール艦より大型化(全長152m→180m)され、同時に主砲もヤマトがイスカンダルへと出撃する直前に副砲として搭載した『九九式20cm(実口径20.3cm)陽電子衝撃砲』に換装して量産が再開されることとなった。

 この再設計が行われ、建造が再開された新型パトロール艦は、波動砲艦として用いることが可能な最低限の防御力、巡洋艦として相応と評価できる火力、そして大型化した船体に合わせて強化された探知機器による高い偵察能力を艦隊側からも高く評価され、一躍、D級戦艦と共に重要な量産艦として建造が継続されることになったのである。

 しかし、好事魔多し。一定数が艦隊に配備され、当初の偵察、哨戒任務のみならず時にガトランティス帝国軍との艦隊戦も経験することになったこの新型パトロール艦は、当初の防衛軍の思惑を超えたところで弱点を露呈し、その対策を防衛軍に強いることになったのである。

 2208年に始まった『太陽危機』は、同年後半にはもはや抜き差しならぬ事態にまで地球を追い込んでいた。地球政府主導による、並びに計画開始時には大いに期待されたガルマン・ガミラス帝国による太陽制御の失敗は、もはや人類に『太陽系の放棄やむなし』と諦観を抱かせるには十分すぎる現実だった。
 そこに来て、ガルマン帝国からの情報によって『第二の地球に足る』と人類に希望をもたらしたはずの惑星ファンタムでさえ、それ自体がコスモ生命体である以上は人類の居住に適するはずもなく、仮にガルマン帝国の攻撃によって破壊されなかったとしても、状況を好転させることはできなかったのである。この時点で人類絶滅のタイムリミットとされた時期まであと100日と少し。ヤマトをはじめ各国の探査船団による必死の調査が続けられていたが、朗報となるべき知らせはついぞもたらされていなかった。

 あげく、状況は更に悪化の一途をたどる。太陽危機が勃発した当初、行き違いからヤマトとガルマン帝国が交戦状態に陥っていたが、それが和解へとつながったこと、更に別の外交的要因も重なったことで今度はガルマン帝国の主敵であるボラー連邦と戦争状態に突入してしまい、後者が第二の地球探査を行っている各国の船団に攻撃を仕掛けるようになったのだ。
 このボラー連邦の行動は、ほぼ同時期に同国がガルマン帝国に向けて行っていた大規模攻勢作戦に巻き込まれる不運も重なり、汎用戦艦一隻程度に護衛された小規模な探査船団が数百隻のボラー艦隊によって攻撃されるという悲劇的な状況を多発させていた。その一連の戦闘においてつとに有名なのは、北米所属の汎用戦艦『アリゾナ』の奮戦により辛うじて探査船団だけは離脱できたというものだが、これは相当に幸運な事例であって、ほとんどの場合において護衛の汎用戦艦は圧倒的多数のボラー艦隊の攻撃を支えきれず撃沈され、同時に探査船団も壊滅へと追い込まれていたのである。もちろん彼らとてただ沈められるだけでなく、最大限の抵抗によってボラー艦隊に打撃を与え、同時にこれまでの探査によって得た情報を可能な限り地球に送信するなどの努力を払ったが、このまま各方面に展開した探査船団が文字通り全滅し続ければ、第二の地球探査そのものが破綻することは目に見えていた。

 地球にとって極めて過酷な状況が続いていたが、程なく、ヤマトからの『ある報告』が連邦政府の注目するところとなった。それはヤマトが惑星ファンタムから離脱した直後にもたらされた報告だったのだが、同艦が『惑星ファンタムでとある一人の異星人女性を保護した』というものだった。そして、その彼女……本人が名乗るところの『シャルバート星の王女・ルダ』なる人物がヤマト艦内、つまり地球人類が居住する環境に何の問題もなく適応したという事実が、連邦政府とそれに属する科学部門を震撼させたのである。

 何故なら、このルダ王女なる人物が示したのは、つまるところ『シャルバート星なる、地球人類が居住可能と思われる惑星が存在している』という、現状の地球にとっては救いでしかない事実であったからだ。

 この時点では、そのシャルバート星(と思われる惑星、と表現したほうが適切なのだが、本文ではこの名称で通すことにする)が移民船団の到達できる地球より1万5千光年の範囲内にあるかなど、詳細なことはルダ王女が何も語らなかったため、一切不明ではあった。だが、もし本当にシャルバート星が存在し、このルダという女性が『王女』であれば、地球に類似した人類の居住可能な惑星の情報を得られる、あるいはシャルバート星そのものに人類を移住させるなど、シャルバート政府(『王女』ということから王家であると想像されていたが)と交渉できるのではないか、という希望的観測が可能となったのである。

 もちろん、地球連邦政府には別の思惑もあった。一言で断じてしまえば『シャルバート星を侵略して第二の地球とする』と考える勢力が連邦政府、あるいは防衛軍首脳の一部に存在していたわけで、実際、防衛軍の内部で極秘裏に『(シャルバート星侵攻のための)艦隊の動員準備を行ってはどうか?』という提案が非公式ながら行われた形跡がある。だが、そうした意図を察したと思われる藤堂防衛軍統括長官によって、その提案は却下された。
 ただ、たとえ侵略行為を実行しないとしても、シャルバート政府との交渉の窓口としてルダ王女の手を煩わせる可能性がある以上、彼女の安全確保、そしてその信頼を得ることは、特に彼女を保護したヤマトとその乗員らにとって至上命題とされた。こちらは藤堂長官にも異論はなかったようで、極秘裏にではあったが、当時のヤマト艦長である古代進二佐に対して「ルダ王女をくれぐれも丁重に扱うように」との命令が下ったのは確かなようである。

 一方、一度は見送られた艦隊の出撃準備ではあったが、再び状況は劇的に変化し、シャルバート星への侵攻云々とは全く関係のないところで、防衛軍は一定規模の艦隊出撃を考慮する必要に直面することになった。その理由は、今度は盟友となったガルマン帝国からの要請によるものであった。
 当時、ガルマン帝国は銀河系北部方面(付け加えると、この方面は地球側から見て、ヤマトの受け持ち探査区域に向かう方向にあたっていた)においてボラー連邦の大攻勢に直面しており、当時、ベムラーゼラグードという地球から3万7千光年ほど離れた惑星において、ガルマン帝国軍の第六空間機甲師団がボラー連邦軍に包囲されていたのである。しかもその惑星に逃げ込んだガルマン帝国軍に交じって、ボラー軍の攻撃によって撃沈された汎用戦艦『ビスマルク』の生存者がいるとのことだったから、地球側としては同盟国への信義を果たす、危機に陥った味方を見捨てるわけにはいかないという事情が生じ、そのベムラーゼラグードに救援艦隊を派遣することを考えなければならなくなったのである。

 だが、本音としては連邦政府にせよ防衛軍にせよ、このベムラーゼラグード救援には乗り気ではなかった。地球から3万7千光年も離れた惑星に早急に援軍を出そうとすれば、そのための艦隊は必ず全艦が連続ワープを可能とするスーパーチャージャーを装備した波動機関を搭載している必要があったからだ。
 しかし、防衛軍が所有するスーパーチャージャーを搭載した艦は当時まだそれほど多くなく、更に艦隊に所属する全艦がこれを装備し、その運用にもある程度習熟している。もっと重要なのは、当然のことベムラーゼラグードを包囲するボラー連邦の大艦隊に対抗が可能であろう兵力。その条件を満たす可能性があり、なおかつ現状に即応可能な防衛軍の手持ちの部隊といえば、当時月面基地周辺で訓練を行いつつ有事(当初はガルマン帝国、現在はボラー連邦による地球侵攻)に備えていた第九艦隊のみであった。

 とはいえ、当然ながらこの第九艦隊は地球防衛軍にとって『地球本土防衛のための決戦兵力』であり、これを太陽系の外部へと動かしてしまうと、航続性能に優れる汎用戦艦など主力艦の多くを第二の地球探査に振り分けている(しかも、ボラー連邦との交戦によってそれらの損害も既に許容範囲を超えていると判断されていた)現在の地球からすれば、文字通り自らの勢力中枢を空にすることになる。その間隙を狙ってボラー艦隊あたりが侵攻などしてくれば、それこそ太陽危機とは無関係なところで人類が滅亡することは避けられないのである。

 そんなこともあり、内外において第九艦隊の派遣に関しては反対意見が多かったが、最終的に防衛軍は『状況に応じて第九艦隊の出撃を考慮するので、そのための準備は行う』という結論を出した。出さざるを得なかった、と言ったほうが正確だっただろう。ただでさえ人類が危機的状況にある中で同盟国の信頼を失う、それ以上に敵に包囲されている味方を見捨てることで将兵からの信頼を失墜させてしまうことは、大きなリスクを背負おうとも避ける他になかったのである。そのため、実際に出撃させるかの結論はまだ先送りにするとしても、準備をするという形式『だけ』でも整える必要がある。連邦政府と防衛軍が出した結論はそういうところにあったのだ。

 ともあれ、第九艦隊はベムラーゼラグード、つまり銀河系中心部に向けた遠距離航海の準備を開始した。この時点で人類が絶滅するであろうとされた日まであと80日あまり。タイムリミットまで踏まえると、やはりこのような危機的な時期に協力が期待できる同盟国や、何より味方の信頼を損なうことはできない。苦しい判断であったことは、当時第九艦隊の司令長官であり、その派遣においては反対といかずとも慎重論を唱えていた高石範義宙将も十分に理解するところだった。
 なお、高石提督はこの時期の防衛軍にとって数少ない宙将であると同時に、ガミラス大戦から艦隊士官として戦い続けた防衛軍を代表する艦隊指揮官だったから、所属している艦の全てがその機関にスーパーチャージャーを標準装備した新鋭艦と、大規模な改装によって大幅に性能が向上した艦で揃えられていたことも含めれば、第九艦隊が地球防衛軍にとって文字通り虎の子の決戦兵力であったと理解していただけるだろう。

 もはや人類絶滅まで3か月を切っているような状況であるため、第九艦隊の出撃準備は突貫で行われ、早期に完了した。だが、そのほんの僅かな時間の間に、再び状況は地球にとって更なる悪化を見せることになる。
 この時期、地球防衛軍はわずかに残された偵察兵力と情報網を総動員して、銀河系中心方向における地球より1万5千光年内のガルマン帝国、およびボラー連邦の動向を注視していたが、それによって二つの事実が明らかになった。

 まず問題になったのは、シャルバート星との交渉役として連邦政府が期待していたルダ王女の存在そのものだった。ボラー連邦は元よりガルマン帝国すら秘匿していたため把握が遅れたのだが、彼女が『シャルバート星の王女である』ということが、地球側の想像を超えた極めて重大な事実であったと判明したのである。

 そもそもシャルバート星とは、古の銀河系中心部において、その強大な武力によって秩序をもたらしたとされる惑星として、信仰の対象となったほどの惑星だった(この事実は、探査のため立ち寄ったバース星などでシャルバート信者たちと接触を持ったヤマトから報告があったが、太陽危機の状況に紛れて連邦政府は重要視していなかった)。そのため、シャルバート星の動向は常にガルマン、ボラー双方にとって最大級の関心事であり、今さらと言えばそれまでだが、この時期になって地球側もようやくその事実を認識したのである。
 ために、ルダ王女の存在そのものがガルマン、ボラー両国に狙われている状態であり、それを艦内に抱え込んでいるヤマトもまた、必然的に両国から監視されるような状況だったのだ。一応、ガルマン帝国とは曲がりなりにも同盟関係があり、このことでいきなりヤマトとの交戦が再開されるとは考えにくい。だが、ボラー連邦にはそのような遠慮をする理由が存在しないのだから、少なくともこちらのほうは、いつヤマトに牙を剥いたとしてもおかしくなかった。

 いずれにせよ、銀河系中心部においてはベムラーゼラグードの件のみならず、ガルマン帝国とボラー連邦の大規模戦闘が継続中なのだ。その状況で、両国からその身を狙われている人物を艦内に抱え込んでいるヤマトを放置しておけば、下手をすればヤマトがガルマン、ボラー双方から攻撃を受けることも考えられた。ガルマン帝国とて「ルダ王女をボラー連邦に奪われるよりは」と考えるようになれば、いっそヤマトごと沈めてしまえという決断に至る可能性とて当然ながら存在したのである。
 そうなれば、事はヤマト一隻の喪失では済まない。ルダ王女はガルマン、ボラー両国のみならず、シャルバート政権を介した移住、あるいはその本拠地奪取まで考慮している地球にとっても最重要人物であり、同時に最後の希望ともなり得る存在なのだ。それがヤマトごと宇宙の藻屑となれば、絶望的な第二の地球探査の現状を鑑みると、地球に残された希望があえなく失われることになる。それは何としても避けるべき事態であった。

 この情報が入って程なく、第九艦隊は太陽系を出撃した。だが、その目的はベムラーゼラグード救援ではなく『ルダ王女を保護しているヤマトへの援軍』に変わっていた。この出撃時期と前後して、ヤマトは受け持ち探査区域の最後の宙域であるスカラゲック海峡星団に進路を向けたが、第九艦隊はそこでヤマトとの合流を企図したのである。

 このとき出撃した第九艦隊の編成は、以下の通りだった。


第九艦隊(司令長官 高石範義宙将)

第一戦隊
B型戦艦(原作『完結編』戦艦)「紀伊」(総旗艦)「ダンケルク」「マサチューセッツ」
アリゾナ改級試作主力戦艦「ミズーリ」

第四戦隊(司令官 ロドニー・カニンガム宙将補(次席指揮官兼務))
ライオン級(改POW級主力戦艦)戦艦「ライオン」
POW級戦艦「アンソン」「ハウ」
改A4型戦艦(D級戦艦後期生産型・乙)「アイアン・デューク」

第六戦隊(司令官 島井七矢宙将補)
エクスカリバー級自動戦艦(原作『永遠に』無人艦大型艦)管制型「トライデントⅠ」
エクスカリバー級自動戦艦「ハルバードⅡ」「クレイモアⅡ」

第十二戦隊
A6型戦艦(D級戦艦後期生産型・丁 主砲艦首集中型)「ネルソン」「ロドネイ」

第十七戦隊
A2型戦艦(D級戦艦前期生産型 大改装終了後の状態)「ドイッチュラント」「デラウェア」「デュプレクス」

第一巡洋戦隊
B型巡洋艦(原作『完結編』巡洋艦)「アラスカ」「バーミンガム」

第六巡洋戦隊
ジャベリン級自動巡洋艦(原作『永遠に』無人小型艦)「ジャベリンⅠ」「カットラスⅡ」「スピアⅡ」

第十四巡洋戦隊
ジャベリン級自動巡洋艦「グングニルⅠ」「ゲイ・ボルグⅡ」「トリシューラⅡ」

第一駆逐隊
C1型駆逐艦(原作『完結編』駆逐艦改・艦隊用武装強化型)「秋月」「照月」
改C1型駆逐艦(原作『完結編』駆逐艦オリジナル・長期航海用居住性向上型)「涼月」「冬月」

第九一駆逐隊
C1型駆逐艦「ソヴレメンヌイ」「リベッチオ」
改C1型駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」「モントローズ」

艦隊付属 
A1型航空母艦(改)「天城」(PS版戦闘空母・前期型 コスモタイガーⅡ搭載)
改A2型航空母艦「ホーネット」(PS版戦闘空母・後期型 二式中型艦上爆撃機搭載)


 総数にして34隻。百隻単位の大艦隊が戦闘を繰り広げるガルマン、ボラー両国からすればささやかすぎる戦力であったが、この時期の地球防衛軍にとっては量産が開始されたばかりの新鋭艦と大規模な改装工事を終えた艦を揃えた、文字通り最強の艦隊だった。

 しかし、第九艦隊が太陽系宙域を離れた直後、艦隊指揮官の高石はいったん艦隊の足を止めることを余儀なくされた。この時点では出所が明確でない、あくまで未確認情報だったのだが、現状もガルマン帝国軍に対して大規模作戦を続行中だったボラー連邦軍について、無視できない情報が地球経由でもたらされたからである。

 それは『ボラー連邦軍の主力艦隊が、ルダ王女の捕縛、あるいは殺害を狙ってヤマトを追跡している』というものだった。

 先に述べたように、ガルマン帝国とは表向きだとしても同盟関係があることだから、ルダ王女の処遇について行き違いが生じたとしても、それが直ちに武力衝突に発展するとは限らない。しかしボラー連邦は現実に地球と敵対している相手であり、それゆえに探査船団のいくつかが既にボラー軍によって壊滅させられているのだ。
 しかも悪いことに、当時の地球連邦政府にはボラー連邦との交渉チャンネルが事実上存在していなかった。そのため、実際に地球連邦としてはボラー連邦に害意はなく事を構える理由もなかったのだが、それを相手に伝える術もなければ交渉する場を設けることすら困難だった。

 それに、そもそもボラー連邦と地球、正確にはヤマトが交戦状態に陥ったのも、バース星に寄港したヤマトに対してボラー側が相当に無理な理屈で地球に属国となることを要求したのが原因だったから、仮にヤマトがルダ王女の引き渡しを拒否した場合、というより引き渡すわけにもいかなかったのだが、問答無用でヤマトを沈めようとするほうが自然だったのである。

(※筆者注 バース星でのベムラーゼ首相と古代艦長の対立に関しては、原作『Ⅲ』の作品制作当時の時代背景からやむを得ないと思われますが、古代側の発言があまりに非常識で不自然すぎるため、拙作では不採用としボラー側の高圧的な態度に原因を求めています。この場面での古代の主張については、書く機会があればもう少し穏当かつ常識的なものへと再構成する予定です)

 ボラー連邦の主力艦隊と対決する可能性がある。となれば、如何に地球最強の艦隊である第九艦隊とはいえ、その戦力が不足しているのは明らかだったから、第九艦隊司令部としてもうかつに危険宙域となるであろうスカラゲック海峡星団に突入する判断を下すことはできなかった。だが、これは何も『ボラーの主力艦隊に勝ち目がない』という単純な話ではなく、もっと大きな危険が生じたことを指揮官たる高石が理解したのが最大の理由だった。

 「今度の戦いは、それ自体がもはや地球人類の存亡を賭けた決戦になる」

 何しろ、ボラー連邦軍の標的が第二の地球探査を行っている最中のヤマトである以上、もし交戦状態に陥った場合、その宙域は地球から1万5千光年以上に離れることはない。この、地球にとって文字通り『至近距離』と言うべき場所での戦闘でヤマトのみならず第九艦隊まで全滅すれば、もはやガルマンもボラーもシャルバートも何もない。地球までの宙域にボラー連邦の主力艦隊を止められる戦力は存在せず、太陽の核融合異常増進によるタイムリミットを迎えるまでもなく、人類はボラー連邦によって滅亡させられることは必至だったのだ。
 この時点で、ボラー連邦軍の主力艦隊がどの程度の規模になるかは不明だった。だが、第九艦隊にヤマトを加えたところで確実に戦力、特に量において劣ることは明白だ。高石が『人類の存亡を賭けた決戦になる』と認識したのは、実に正しかったと言うしかなかった。

 そのため一度は艦隊を止めた高石だったが、逆にこれから迎える戦いが『人類の存亡に関わる決戦である』以上、ここで太陽系に戻る選択肢はなお存在するはずもなかった。ここで第九艦隊だけ温存したところで、ヤマトがルダ王女諸共沈められれば、どのみち地球にとって希望の大半は失われるのだから、今さら逃げる余地などなかったのである。彼が艦隊を止めたのには別の理由があった。

 それは、これからの決戦を前にして、自艦隊を少しでも強化したかったからである。いったん艦隊の足を止めさせた高石は、直後に第九艦隊の進路をケンタウルス座のアルファ星に向けた。ここには太陽危機を迎える前、地球防衛軍が早期警戒用に小規模な基地を建設していたのだが、それが太陽危機勃発直後に交戦状態へと突入していたガルマン帝国軍に攻撃されたのである。
 地球側の初動が遅れたこともあって基地の救援は間に合わなかったが、ガルマン帝国軍と交戦していたバース星(ボラー連邦の衛星国)艦隊の攻撃によってガルマン軍が撤退したため、まだケンタウルス座は地球側の勢力圏に残っていた。そして、銀河系中心部方面からのガルマン、ボラー双方からの攻撃に備えて、当時の地球防衛軍にとっては中規模と言える艦隊が配備されていたのだった。

 その艦隊の艦艇総数は21隻。一応、艦隊に所属する艦の全てにスーパーチャージャーの搭載は行われており、第九艦隊の足手まといになる心配はなかった。だが、所属する全てがガトランティス戦役の前後に建造された艦、それも建造時期がバラバラで仕様が異なっていることが当然という、言ってしまえば『旧式艦の寄せ集め艦隊』だったのである。
 普通の指揮官であれば、この艦隊に多くを期待することなど考えないだろうから、第九艦隊の司令長官が高石でなければ、その存在など無視して進撃を続けていただろう。だが、高石は明確にこの艦隊を『追加戦力として期待して』アルファ星に立ち寄ってその指揮官に協力を求めたのである。

 そのアルファ星駐屯艦隊の指揮官の名は、堀田真司宙将補。

 地球防衛軍が発足する前の、航宙軍士官学校において高石と同期だったこの提督は、本来その戦歴からすればもう宙将になっていたはずだし、あるいは第九艦隊の司令長官がこちらだったとしてもおかしくないような、ガミラス大戦以来の歴戦の将官だった。ただ、当時の艦隊戦力の整備について防衛軍の上層部と折り合いが悪く昇進が遅れており、更にこの時期に主戦場から離れたアルファ星に配備された艦隊を率いている時点で『左遷されている』と表現するしかない立場でもあった。
 だが、その置かれた状況と提督としての力量はまったく別の問題である。堀田は長く士官学校において宙雷科の教官を務め、またガミラス大戦末期からデザリアム戦役までずっと艦隊の第一線で戦い続けて実績を積み上げてきた、高石の言葉を借りれば「艦隊指揮官としては自分などよりずっと上」と言われるような提督だったのだ。しかも教官職が長かったことがあってか、猛烈のみならず効率的な訓練を行い『どんな弱兵も強兵にする』と言われるような面もあったから、この寄せ集め艦隊も彼が指揮官である以上、高石にとっては十分に補充する戦力として当てにできたのだった。

 防衛軍司令部からの許可を取り付けた後、高石はアルファ星に立ち寄って堀田の旗艦である戦艦『薩摩』を訪問する。しかし、そこで彼は驚くべきものを目にすることになる。
 堀田の率いるアルファ星駐屯艦隊が、防衛軍首脳部から何の指示も与えられていないにも関わらず、出撃準備を終えて待機していたのである。高石が何故かと理由を聞くと、堀田はこう答えた。

 「いずれこの場に留まっていたところで、この艦隊が遊兵になることはわかっていた。もっとも、まさか範さんの艦隊まで投じられるとは思っていなかったから、先に動くことになるのはこちらと思っていただけだ」

 自分が堀田を戦力として期待したことの正しさを、高石はここで十分すぎるほど確信した。そして、自らが率いる艦隊、本来は地球防衛軍の決戦兵力たるはずの第九艦隊が出撃した理由と現在の状況を説明すると、

 「ならば、うちの艦隊を使わない理由はないな。連れて行って……いや、お連れ頂けますでしょうか? 高石提督」

 堀田はそう即答したが、内心、口に出せない不安を抱えていた。彼は現在の防衛軍上層部のうち、藤堂統括長官とその他に数名しか、まっとうに信頼できる人間がいないと考えていたのだ。それだけに彼らの計画する軍備を「あなた方の金儲けのための艦隊ですか?」などと激烈な批判を加えたことがあり、そうした言行が現在の『左遷同然』という立場に自分を追い込む結果になっていたのである。
 だから、もちろん高石はそのようなことは素振りも見せなかったが、そのシャルバート星の政府との交渉がうまくいかなければ……いや、堀田からすれば今の防衛軍あるいは地球連邦の首脳部からして、対話もそこそこにシャルバート星を侵略するつもりではないか。その疑惑を振り払うことができなかったのだ。

 そして何より、シャルバート星を侵略するとなれば、そのための兵力こそが第九艦隊でもあるのだ。そうなれば、堀田にとっては士官学校以来の大親友である高石が、まさにその侵略の尖兵にされてしまうことになる。
 そのような事態は、とても許容できるはずもない。しかし目前のボラー連邦の主力艦隊、そして太陽危機の現状から考えれば、もうそうした理想論を述べるような余裕がないのも確かである。ならば、堀田にとってできることはただ一つ。この大親友にとって不本意この上ないはずの侵略行為に自らも手を染め、共にその罪を背負うくらいしかなかったのだ。

 しかし、その覚悟とて、まずは目前の敵艦隊に対処してからのことである。言い合わせたわけでもなく、ほとんど同時に堀田そして高石も改めて、その思考を艦隊指揮官のそれに切り替えたのだった。

 堀田の艦隊が出撃準備をほぼ終えていたこともあり、早速合流した両艦隊はアルファ星を出撃することとなったが、ここで防衛軍司令部からそれぞれ名称が与えらえることが決まった。高石率いる第九艦隊は『第一遊撃部隊』、堀田の統率するアルファ星駐屯艦隊は『第二遊撃部隊』と呼称されることとなり、本文でもこれ以降、両艦隊についてはこの名称を用いることにする。なお、まだ紹介が終わっていない第二遊撃部隊の編制は以下の通りである。


第二遊撃部隊(元・アルファ星駐屯艦隊 司令長官 堀田真司宙将補)

第三戦隊

第一小隊(司令長官直卒)
A3型戦艦(D級戦艦中期生産型)「薩摩」(艦隊総旗艦)
改A3型戦艦(D級戦艦後期生産型・甲)「ドレッドノート(Ⅱ)」

第二小隊(座乗指揮官 第三戦隊司令官・福田定夫宙将補(次席指揮官兼務))
A1型戦艦d(D級戦艦試作型・旗艦施設強化型)「出羽」
改A2型戦艦b(D級戦艦前期生産型・主砲換装型)「相模」

第二六戦隊(司令官代理 永峰祐樹二佐(「羽黒」艦長))
A2型巡洋艦(原作『2』巡洋艦・前期生産型)「羽黒」
改A2型巡洋艦・甲(PS2版巡洋艦・後期生産攻撃強化型)「カールスルーエ」「アドミラル・マカロフ」

第三九戦隊(司令官 中村一士二佐)
改A2型巡洋艦・乙(PS2版巡洋艦・後期生産速力強化型)「春日」「ピッツバーグ」

第五警備艇隊
警備艇(元・原作『2』パトロール巡洋艦)「和泉」「クアルト」

第三一駆逐隊
A2型駆逐艦(原作『2』駆逐艦・前期生産型)「陽炎」「親潮」「ベンハム」

第四五駆逐隊
A2型駆逐艦(原作『2』駆逐艦・前期生産型)「フォルバン」「レーベリヒト・マース」「オンスロート」

第五二駆逐隊
改A2型駆逐艦・乙(PS版後期生産型駆逐艦・乙 雷撃力強化型)「峯風」「五月雨」「秋雲」「早霜」

 先にも述べたことだが、書類上は同型艦でありながら、生産時期などの関係で仕様が異なったり、改装の有無によって装備が異なったりと、とかく統一感のない艦隊ではあった。だが、デザリアム戦役において白色銀河までの遠征に参加した艦が多数配属されており、実戦経験の豊富な乗員が多く残っていたこと。スーパーチャージャーが標準装備されていることなどから、ともあれ第九艦隊の足手まといになる心配をしなくてよいというのは幸いだったと言うべきである。

 さて、二個艦隊が合流して進撃を開始した第九艦隊だったが、それでも艦艇数は50隻を僅かに上回る程度でしかない。それに、もしスカラゲック海峡星団において会敵するとすれば、その相手がボラー連邦の主力艦隊であることは確実と見られていたが、まず敵の規模がわからなければ対処しようがないのだ。
 第一、第二遊撃部隊の司令部が協議した結果、まず第五警備艇隊の『和泉』『クアルト』の二隻がそれぞれ別ルートからスカラゲック海峡星団に近接、その遠距離探知機能を総動員して宙域の状況を把握することとなった。

 第五警備艇隊が進発して数日後、第九艦隊はスカラゲック海峡星団まで2千光年ほどの距離にあった。ここからなら、スーパーチャージャーによって強化された第九艦隊のワープ性能を以てすれば、半日ほどで目的宙域に突入し戦闘を開始できる体勢であった。

 この時点において、ヤマトに通信を送って共同して行動する、という選択肢は高石も堀田も考慮していなかった。それは、もしヤマトへの通信がボラー連邦、更にはガルマン帝国に傍受されれば『ヤマトに援軍が向かっている』と露呈することになる。そうなれば、敵……こうなればどちらか、あるいは双方が敵になるかわかったものでもないが、ともかく相手側も更に戦力を呼び集めて第九艦隊に対処しようとする可能性が高い。そうなってしまっては、ただでさえ数において不利であろうことが想像できる状況を、自らの手で更に悪化させることに繋がるのだ。
 そのため、先行して偵察に向かった第五警備艇隊にも無線封止の指示が出されており、更に両艦はコスモシーガルなど汎用輸送機を搭載する設備しか有していなかったのだが、非常時ということでコスモシーガルを一時的に降ろし、そのスペースに各1機のコスモタイガーⅡ(ミサイルを搭載する施設が両艦に存在しなかったため、偵察仕様として増槽のみ装備)の搭載が強行されている。もし変事を把握したら、即座に偵察機を発進させて第九艦隊司令部に報告を行うことになっていたのである。

 いずれにせよ、間もなく戦闘が開始される可能性が高い。そう判断されたことにより、ここで第一、第二遊撃部隊それぞれの司令部による合同作戦会議が催された。そしてその大勢の意見は、次のようなものであった。

 「ガルマン、ボラーいずれの艦隊、あるいは双方を相手とするには、我が艦隊では兵力が不足している。ここは敵対しているガルマン、ボラー両軍を噛み合わせ、双方が疲弊したところに我が艦隊を投入してはどうか?」

 つまり、漁夫の利を得ようということである。その思考に至ることも無理からぬことであったが、総指揮官である高石、そして次席指揮官である堀田もまた、沈黙して考え込むような表情を見せるのみであった。
 そこへ、第五警備艇隊の『クアルト』から発進した偵察機が到着したとの報告が入る。そして、それによってもたらされた情報は、明らかにその場にいた全員の想像を超えた悪い知らせだった。

 「現在、スカラゲック海峡星団にはガルマン帝国軍の艦隊が到着。現状、ヤマトと対峙している状況である。なお、その総数は70隻程度と見積もられる」

 つまり、少なくともガルマン帝国側には先手を取られてしまったのである。こうなってしまうと、第九艦隊がスカラゲック海峡星団に突入するのはもちろん、ヤマトに通信を送ることすら危険になってしまう。これをやると、第九艦隊の存在そのものがガルマン側を刺激してしまい、不測の事態を招く可能性が大いにあるからだ。
 この情報がもたらされたことで、作戦会議は停滞してしまう。そして数時間後、今度は『和泉』搭載の偵察機から更なる報告が届いたのだが、これはもう最悪レベルとしか言えない凶報だった。

 「スカラゲック海峡星団の外縁部にボラー連邦のそれらしき大艦隊を確認。その総数は少なく見積もっても600隻程度の規模と思われる」

 600隻を超える大艦隊……かつてガトランティス戦役で戦われた一大艦隊決戦である『土星沖会戦』ですら、そのときのガトランティス艦隊の総数は400隻を少し超える程度であった(しかも、その一部である空母機動部隊は決戦前のフェーベ航空戦で壊滅している)。それを上回る数の艦隊と、第九艦隊は当時の地球防衛軍連合艦隊の約1/4の艦艇数で挑めというのである。しかも同盟国であり本来は味方として期待したいところであるガルマン帝国の艦隊とて、今回に限ればよくて武装中立、下手をすれば敵に回る可能性すらあるのだ。
 まして、よしんばガルマン帝国艦隊が味方となったとしても、なお相手は5倍以上の兵力を有しているのだから、普通にやり合うならば勝ち目などあるはずもない。もはや『危機』という言葉が生やさしく聞こえるほどの状況であると、作戦会議に参加した全員が理解するしかなかった。

 『和泉』からの報告は会議に参加した全員を黙らせるのに十分すぎるものであったが、しばらくして高石が口を開いた。

 「作戦参謀、スカラゲック海峡星団の宙域図はあるか?」

 何を言い出すのかと訝しがるものが多かったが、高石は第五警備艇隊の事前調査によってもたらされた、大まかなものではあったが、スカラゲック海峡星団の宙域図に目を通して再び口を開いた。

 「……多数の岩塊を有する、狭い回廊状の宙域か。なるほど『海峡星団』とはよく言ったものだ」

 そう呟くと、高石はその視線を堀田に向ける。

 「真さ……堀田提督、どう思うか?」
 「ヤマトを見捨てることが許されませんから、いずれ我々は突入するしかありません。問題はそのタイミングだけです」
 「具体的には?」
 「ガルマン、ボラーを問わず、ヤマトが交戦状態に入ったのと同時に突入を開始し、ヤマトの戦闘を援護するのが適切だろうと。ただ一つ、問題が」
 「問題とは?」
 「今度の敵は……両者を問わず、こちらの『切り札』が何かを理解しています。ですから、戦闘開始時の統制波動砲戦はまず不可能である、ということです」

 ガルマン帝国が波動砲を知っていることなど、ほぼ同じと言ってよい兵器を持っている以上、今更言うに及ばない。だが、ボラー連邦とて地球防衛軍の新鋭戦艦が装備する新型波動砲、つまり『拡大波動砲』は既知なのだ。これはボラー連邦の大艦隊と交戦した北米の汎用戦艦『アリゾナ』が戦況に迫られて発射したからだが、第九艦隊はこの情報を『アリゾナ』の奮戦で生き残ることができた北米探査船団から戦訓として受け取っていた。つまり、それだけ波動砲、それも新型の拡大波動砲は警戒される兵器だということである。

 そのように敵から警戒されている兵器を、戦闘開始早々に使用することは危険が大きく、実際には不可能に近かった。確かに拡大波動砲は速射が可能な波動砲であるが、速射モードである『拡大モード』は危害半径が小さく数の差を埋めるには不向きだった。
 そのため、可能であれば拡散波動砲の強化型である『爆雷モード』のほうを用いて敵艦隊の多数を一気に撃滅したいところなのだが、爆雷モードは拡大モードのそれに比べてチャージ時間が長く、また敵艦隊がある程度密集していなければ効果はどうしても薄くなる。更にはヤマト、あるいは敵に回さずに済む、共同軍として戦列を並べる可能性が残るガルマン艦隊を巻き込む危険まで考慮すると、やはり早期の波動砲戦は無理と言わざるを得なかった。

 「しかし、こちらも長引かせるわけにはいかない」

 高石が言う。確かにここで速戦を仕掛けるのは困難だが、長引かせてしまうと、この時点で人類絶滅の日までもう60日も残っていない現状なのだ。少なくともボラー連邦の主力艦隊だけでも撤退に追い込み、何とかルダ王女をシャルバート星に送り届けて移住なりの交渉を開始したい。上層部の思惑を気にせずとも高石、あるいは堀田とてそれはわかっているから、正直なところ焦りもあるのだ。

 ここで「よろしいですか?」と別の声がかかる。声の主は堀田の参謀長である真壁誠二佐だったが、彼は現在の地球防衛軍の各艦隊に配属されている参謀長としては唯一と言ってよい、兵站を専門とする人物だった。この時点で堀田の参謀長になってから4年ほど経過しているが、自分が兵站については知識不足と認識していた堀田に乞われてその参謀長になったほどの専門家である。
 だが、それは逆に言えば、真壁のほうも純然たる艦隊戦について知識と経験が足りていない、ということでもあった。そのため彼の堀田に対する進言のほとんどが一般論あるいは常識論、でなければ自分の本分である兵站に関することであったから、こうして艦隊戦を前に自ら発言を求めるなど、上官である堀田ですらこれまで見たことがなかった。

 「真壁参謀長、意見があるなら聞こう」

 高石に促されて、真壁はこう言った。

 「こちらにも時間はありませんが、敵も大軍かつ長躯の遠征で、恐らく補給面に大きな問題を抱えていると推測されます」
 「なるほど、それは道理だ。それで?」
 「敵に早期決戦を強いるために、正面戦力が苦しいことは理解できますが、一部戦力を割いてボラー艦隊の後方に展開。その補給線に打撃を与えてから交戦に持ち込むのは如何でしょうか?」
 「……」

 高石は考え込んだ。人類滅亡まで時間がない現状、ボラー連邦の大艦隊に消耗抑制の持久戦など選択されては、第九艦隊がいくら奮戦したところで意味がない。そうでなくても、スカラゲック海峡星団という宙域そのものが、先も述べたように障害物を多数有した、いわば『防御地形』なのだ。先にボラー艦隊にその宙域に侵入されてしまった以上、そこに正面切って挑むのは無謀すぎた。
 だが、高石としては真壁の意見がいささか悠長に思えた。今になってボラー艦隊の補給路を遮断する時間が残っているのか、それが疑問だったのである。第一、その方面にただでさえ少ない艦隊戦力を割いてしまっては、まず第九艦隊の最大の任務である『ヤマトの防衛』が果たせるのだろうか。

 堀田に意見を求めようとした高石だったが、先に堀田が呟くような声を発した。

 「……この戦い、敵を『撤退させる』では済まないぞ。それこそ『完膚なきまでに殲滅する』必要があるだろうに」

 驚くべき発言だった。本来、堀田はこのような過激な戦いを志向する提督ではないし、それによって部下に危険を冒させるような人間ではないからだ。

 「どういうことか? 堀田提督」
 「地球からたった1万5千光年の宙域に、かつてのガトランティス艦隊を上回る戦力が存在する。この状況が危険であることは、ここにいる全員が言うまでもなく承知のことと思います。その大艦隊を単に『撤退させる』で済みますか? 一時的に退かせたとはいえ、それが別方面……例えば太陽系に突入してこないとどうして言い切れますか? 確かに、無茶なことは私自身も承知しています。ですが、今度の戦いで我々に求められているのは『敵を殲滅した上での必勝』と考えます。その覚悟を固めておくべきかと」
 「……」

 高石はじめ、全員が沈黙した。堀田らしくない多弁さもさることながら、その内容の過激さに驚くしかなかった。そして、その過激すぎる発言が『確かに自分たちに求められていること』を正確に言い当てていると理解できたのである。

 「では、真壁君の作戦では難しいか?」
 「いえ、逆と考えます」

 また、高石は意外さを禁じ得なかったが、堀田は静かに続けた。

 「確かに敵を殲滅できればそれが理想ですが、彼我の戦力差は埋めようがありません。ですから当面、我々の考えるべきは『いかにヤマトを守り抜くか』のみに絞る他にないでしょう。そのために、申し訳ないことですがこの第九艦隊すべてをすり潰すことになっても、それでヤマトを、ひいては地球が救えるならよしとする。それだけの心構えが必要であろうかと」
 「……」
 「ですが、勝つべくして勝つために何をすべきか? それを考えるのであれば、私は真壁君の意見に賛成します。戦略的機動性に優れた部隊を抽出し、ボラー艦隊の補給部隊を徹底的に叩く。そうすれば、確かにこちらにも時間はありませんがある程度の持久戦を考慮する余地、あるいはヤマトだけでも脱出させられる可能性を大きくできると思われます。ですので、むしろやっていただきたく思います」
 「……!」

 恐らく、互いに表情には何も出さなかったと思う。だがこのとき、高石は堀田が何を考えているか理解し、そして戦慄していた。しかし、このまま黙っていることも許されない。

 「戦略的機動性に優れた部隊とは、具体的に?」
 「新鋭艦を中心に編成された第一遊撃部隊の全戦力を以て、敵補給部隊を撃滅し、兵站線の切断をお願いしたく」

 やはりそうなるか、と高石は思わず天を仰ぎたくなった。そして、わかり切った質問をあえてぶつける。

 「……第一遊撃部隊を敵補給部隊に向けるとして、誰がヤマトを守るのか?」
 「それこそが、第二の役割と心得ております」
 「捨て石になる気か! 真さん!」

 思わず、冷静沈着なはずの高石が大声を出してしまっていた。高石にとっても堀田は大親友だったから、彼が何を意図しているかわかる。第一遊撃部隊が敵の補給部隊を攻撃し、主戦場に戻るそのときまでヤマトを守り抜く。恐らく、そのことしか頭にはないのだろうと考えるしかなかったのだ。
 しかし、当然ながら第二遊撃部隊にはそれだけの戦力が存在しない。もし第一遊撃部隊が敵の補給部隊撃滅に手間取ってしまえば、あるいはヤマトだけは脱出させられるかもしれないが、第二遊撃部隊は恐らく一隻とて帰ってくることはできないはずだ。そんな状況になって、自らを生き残らせるはずもない堀田であることを、高石は承知していた。

 「……範さん、捨て石になんかなりはしないさ」

 堀田もまた、友人としての少し砕けた口調に変わっていた。

 「私の身勝手で、部下たちを無為に死なせるような無責任なことをするほど、私だって血迷ってない。それに……いや、私のことはいいでしょう。ともかく、スカラゲック海峡星団のこの地形を見たとき、私は敵の補給線を切断さえできれば、数において劣るとも勝負になると考えました」
 「……その方策は?」
 「地形を利用した漸減戦術によって、敵艦隊に消耗を強いて焦らせます。そこへ補給物資の払底が加われば、焦るどころでなく敵は継戦能力を失って自滅しますから、必ず自分たちからこちらへ総攻撃を仕掛けてくるはずです。そうなれば……」
 「そうなれば?」
 「第一が間に合いさえすれば、あなたが十一番番惑星でやった統制波動砲戦……それを行う機会も訪れるのではないでしょうか?」

 そう言って、堀田はほんの少しだけ『にやりとした』顔を高石に向ける。それは、

 「お前さんのやるべきことはわかってるだろう? こちらもわかっているから任せておけ。お互い、信頼だけはし合っているのだから」

 と、言いたげなものだった。

 その表情を見て、高石は断を下した。

 「……よろしい。では、第一遊撃部隊を以てボラー連邦艦隊の補給部隊を捜索、これを殲滅する。第二遊撃部隊はその間、ガルマン帝国艦隊の動向に注意しつつ、ボラー艦隊の攻撃からヤマトを防御してほしい。なお、ヤマト防衛に関する第二遊撃部隊の行動については堀田提督に一任する。存分にやってもらいたい」
 「承知しました。それと、一つお願いがあるのですが」
 「何か?」
 「『天城』を、第二遊撃部隊に編入していただくことは可能でしょうか?」

 『天城』は元・第九艦隊、つまり第一遊撃部隊に付属している空母2隻のうちの1隻である。ガトランティス戦役を生き残った古参の空母だったが、長く前線にあったことから航空艤装の改装が遅れ、そのため『ホーネット』に搭載されている二式中型艦上爆撃機が搭載できず、今回の作戦における搭載機は戦闘機であるコスモタイガーⅡのみで構成されていた。

 「理由は?」
 「敵にどれだけの空母があるかわかりませんが、これまでの戦訓から想定される敵戦闘機の性能からすれば、ヤマト航空隊と共同して『天城』戦闘機隊の協力を受けられれば、制空権の確保が可能であると思われますので」

 遅滞戦術を行おうとしている第二遊撃部隊からすれば、戦場の制空権確保は絶対条件である。焼け石に水、という可能性もなくはないが、ここはやれる限りの手は打っておこう。そう判断し、高石は堀田の申し出を承認することにした。

 こうして方針が定まったところで、会議は散会する。そして自らの旗艦である『薩摩』へ戻ろうとした堀田を、高石は個人的な理由で呼び止めた。

 「真さん……」
 「……何だ?」
 「まさか、死ぬ気ではないよな?」
 「当たり前だ。部下を犬死にさせるのは私にとって最大の恥であるし、それに……連れ合いを未亡人にはしたくないからね」

 ガミラス大戦で婚約者を亡くしていた堀田であったが、一年前、ようやく新しい相手と家庭を持ったばかりだった。

 「ただ、私の意思に反して死ぬことは覚悟せんとな。何せ敵の数が多すぎるのは事実だから、ああは言ったものの、どこまでやれるかは正直わかったものじゃないからね」
 「……」
 「そんな顔をしなくていいよ。お前さんがきちんと間に合わせてくれると信じているし、例え一隻で守るべき対象とはいえ『地球の救世主たる戦艦』が一緒なんだ。そう簡単に負けはしない」
 「……わかった、俺もその言葉を信じることにする。だから真さん」
 「?」
 「死ぬなよ。俺に言えるのは、ただそれだけだ」
 「……ああ。お互いに、な」

 そう言って、別れる二人だった。

 そしてしばらくして、第一遊撃部隊司令部が中心となって詳細な作戦がまとめられ、各艦に伝達される。それに従い、第一、第二遊撃部隊は分離して行動を開始することになる。

 後年『歴史に埋もれた、しかし地球の命運を賭した決戦となった艦隊戦』と評されることになる、スカラゲック海峡星団会戦の火蓋が切られるのは、もう間もなくのことであった。

 艦隊が行動を開始する直前、総司令たる高石はこう訓示したとされる。

 「本会戦は『地球人類の存亡此の一戦に在り』と各々が心得て欲しい。諸君の奮戦に期待するや切である」


本文制作にあたって

 こちらの文章は、ヤマトMMD作者さんでいらっしゃる八八艦隊さんと共同制作になる「スカラゲック海峡星団会戦」の前史、戦闘開始直前の状況を示したものです。
 八八艦隊さんも後書きで書かれていますが、原作『ヤマトⅢ』におけるスカラゲック海峡星団会戦については、まず

 「どうやってヤマト1隻で数百隻規模の(と思われる)ボラー艦隊を全滅させられたのか?」

 という疑問からスタートしています。しかもそれを(制作上の都合で)1話で終わらされてしまったことで、ますます「どうして?」というのが、八八艦隊さんとこの会戦について話題になった際にぶつかった問題点でした。
 あまり難しくは考えず「いくらヤマトでもそれは無理では?」という結論に達するのに時間はかからなかったのですが、八八艦隊さんは完結編艦隊の活躍の場が欲しいという希望をお持ちだったこと、私はとにかく地球防衛軍が勝利する艦隊戦、ついでに自分の創作したキャラが登場する動画が見たいという気持ちがありましたので、今回の共同制作という形に相成りました。なので、八八艦隊さんの作成したキャラである高石提督と、私が作った堀田提督が(人間サイドにおいては)この動画の主人公、ということになろうかと思います。

 私自身は、そもそも動画制作の技術を全く持ち合わせていないので何も協力できず申し訳ないのですが、八八艦隊さんは既に「十一番惑星沖海戦」という傑作シリーズを完成させた実績をお持ちですので、私の拙いアイディアも生かして素晴らしい動画を作って下さると確信しております。その制作の中で私も助言などできればよいと思っていますが、割とあれこれ盛り込んでいるので簡単な作業ではないと思います。「動画の共同制作者」というのは私には荷が重いかもしれませんが、最大限努力しますので長くお付き合いいただければ幸いに存じます。

ベムラーゼラグード攻防戦

ヴォールコ星系第五惑星ベムラーゼラグード――

直径約8500km、公転周期713日、平均公転半径1.51AUと、特にこれといった特徴はない岩石型惑星である。ただ、古くからボラー連邦において交通の要所として重要な役割を果たしてきた惑星であり、そのことから惑星軌道上に全長12kmもの巨大な宇宙港が整備されていた。
この惑星に課せられた役割が大きく変化したのは、ボラー連邦首相にヤゾフ・ベムラーゼが就任してからであった。彼は自らの生まれ故郷でもあるこの惑星に、単なる港町以上の役割を求めたのである。

彼の始めた改革は、まず惑星の名前をヴォールコⅤという味気ない名前から変え、自らの名前を付けたところから始まった。次に惑星の象徴とも言える巨大な宇宙港にボラー連邦軍を駐屯させ、宇宙港を要塞化した。更に彼の改革は惑星そのものにも及んだ。軌道上に集光パネルを並べることにより、平均気温8℃の大地に暖かい光をもたらした。
また惑星上に新しい都市をいくつも建設し、新しい住民を積極的に誘致した (この政策の影響で、たかだか三億人程度しか居住していなかった田舎惑星であったベムラーゼラグードの総人口は、瞬く間に十億人を突破した)
これらの改革により、ベムラーゼラグードは単なる港町から戦略的重要拠点へと変貌を遂げたのであった。しかし重要拠点となったということは、それだけ敵から狙われやすくなるということである。

銀河大戦初期、ガルマンガミラス帝国軍は北部戦線においてヴォールコ星系の占領を最大目標として攻勢を実施した。ボラー連邦軍ヴォールコ星系守備軍は、グーデル大将率いる第一空間機甲師団になすすべもなく敗退し、惑星の支配権をガルマンガミラス帝国に明け渡した。
そしてボラー連邦最高指導者の名を冠したその惑星は、銀河大戦において再び最大級の激戦区となった。

きっかけとなったのは、ガルマンガミラス帝国軍第六空間機甲師団が逃避行の終着駅としてこの星を選んだことであった。いや、選んだというより、選ばざるを得なかったと言った方が正しい。第十六空間機甲師団を撃破したボラー連邦軍第二十五軍が、第六空間機甲師団の側背面に浸透し始めていたからである。
既にボラー連邦軍第一梯団と戦闘を行い戦力を消耗していた第六空間機甲師団にとって、ほぼ無傷の三個艦隊と戦い戦線を突破することは不可能であった。退路を完全に断たれた第六空間機甲師団は、ある程度の守備隊と備蓄物資が存在しているベムラーゼラグードに逃げ込み、救援が来るまで籠城を決め込んだ。

一方、第六空間機甲師団がとったこの行動に対して頭を抱えている人物がいた。第十一空間師団司令官のエルク・ヴァーレンシュタイン中将である。彼はデスラー総統から第六空間機甲師団救出作戦の指揮を担うよう勅命を受けており、どのようにして第六空間機甲師団を救出するか思案していた。しかし、歴戦の司令官でもある彼にとってしても、これは途方もない難題であった。
第六空間機甲師団の救出自体に異論はなかった。北部方面軍に所属する四個空間機甲師団の内、一個が文字通りこの宇宙から消滅し、二個が事実上壊滅したとなっては、唯一残っている空間機甲師団を是が非でも救出しなければならないというのは理解できる(それに、第六空間機甲師団は大ガミラス帝国最大の名将、エルク・ドメルが指揮していた事もある、大ガミラス帝国時代からの歴史ある師団であった)しかし、彼の手元にはある兵力は救出作戦を実施するにはあまりにも少なかった。

元々彼の指揮下にあった第十一空間師団は、ボラー連邦軍の奇襲攻撃によって戦力が半減していた。各星系の駐屯部隊は、大半が敵中に孤立しているかボラー連邦軍相手に絶望的な抵抗戦を実施している。グスタフ中将の第十二空間機動旅団が合流すべく急行しているが、彼の部隊は旅団と名前がついている通り五十隻前後の小規模な部隊であり、圧倒的に数で勝っているボラー連邦軍に対する戦力差を多少なりとも埋める効果しかなかった。デスラー総統は西部方面軍や南部方面軍から増援部隊を回すと確約したが、その増援部隊が到着するのは早くても二ヶ月後だ。増援の到着を待つことはできなかった。
既にボラー連邦軍はベムラーゼラグードに対する上陸作戦の準備を開始しており、ボラー連邦軍がベムラーゼラグードに上陸すれば、第六空間機甲師団は地上戦に巻き込まれ、最悪の場合同師団の艦艇が丸ごと鹵獲される可能性すらあった。既に第十六空間機甲師団が降伏し同師団の艦艇が敵に渡っている。これ以上の艦艇をボラー連邦軍に鹵獲されるわけにはいかなかったし、何よりも貴重な空間機甲師団の艦艇と将兵を失うわけにはいかなかった。

唯一の救いは壊滅したと思われていた北部方面軍直轄の第一空間機甲師団が、詳細な調査をしたところ想定よりも損害が少なかったことである(第一空間機甲師団の損害が過大に報告されていた原因としては、同師団に配備されていた艦艇は装甲品質や機関性能が通常艦よりも良い上級モデルであるにも関わらず、通常艦艇と同じ基準で損害具合を判断されており、実際には短期間の修復で戦線に復帰可能な艦艇が多く存在していたからであった)
だが、それですら彼の置かれた状況からしてみれば気休めにしかならなかった。事実上の戦力がたった一個半の師団で、ボラー連邦軍の大艦隊を突破し友軍を救出しなければならないのである。

この難題を解決する為、彼は同盟国を頼ることにした。この場合の同盟国とは、艦隊規模は少数ながらも巡洋艦以上の艦艇ほぼ全艦に、惑星すら破壊可能な戦略兵器を搭載している異様な星間国家、地球連邦に他ならなかった。彼は地球連邦艦艇が保有している戦略兵器、波動砲の威力に注目し期待したのである。
この頃の地球連邦は太陽の核融合異常増進という災害に見舞われ、人類の移住先探索の為に地球防衛軍に所属している艦艇の中で、航続距離が長い艦艇を銀河系各地に派遣していた。派遣された艦艇は単独行動が基本となる為、あらゆる任務に対応可能な汎用戦艦が多く、その中には当然、波動砲を搭載した艦も多く含まれていた。

「銀河各地に派遣されている地球防衛軍艦艇の一部を、第六空間機甲師団救出の為貸与してくれないか」

ガルマンガミラス帝国からこのような申し出が来たとき、当初連邦政府はこの申し出を拒否しようとした。
いくら同盟国の頼みとはいえ、ベムラーゼラグードがあるヴォールコ星系は地球から約三万七千光年も離れている。ただでさえ移住先探索は急を要する上に艦艇数も不足しているのに、そのような僻地に艦艇を派遣する余裕はないからであった。唯一派遣できそうな艦隊といえば、銀河大戦勃発に呼応し新設され、スーパーチャージャー装備の波動エンジンを搭載した新鋭艦および改装艦のみで編成されている第九艦隊があった。彼らであれば三週間以内にベムラーゼラグードへと到着することは可能であった。

だが、第九艦隊は地球防衛軍の文字通り虎の子である。来るべきボラー連邦軍主力との決戦の為、温存されなければならず「第九艦隊は即時出撃可能なよう態勢を整えた状態で待機する」との命令だけ下され、第九艦隊のベムラーゼラグードに対する派遣は見送られた。
このようにベムラーゼラグードへの防衛軍派遣に消極的であった連邦政府だが、ある情報が彼らの考えを一変させることとなった。ベムラーゼラグードに、護衛戦艦ビスマルクの生存者がいるというのである。

紫風作戦開始時、ガルマンガミラス帝国とボラー連邦の国境付近では、防衛軍所属の探査船団複数が活動していた。それらの探査船団の多くが、紫風作戦に巻き込まれボラー連邦軍の総攻撃をその身に浴びることとなったのである。一時期ベムラーゼ首相は地球防衛軍艦艇に対する攻撃を可能な限り控えるよう通達を出していたが、今回の紫嵐発動に伴い、今までとは正反対となる地球防衛軍艦艇に対する全面攻撃命令を下した。ガルマンガミラス帝国に対する全面攻撃を開始した以上、遅かれ早かれ地球防衛軍とは戦わなければならなくなった為、多少の損害を受けても可能な限り地球防衛軍の戦力を漸減しておこうと画策したからであった。

英王立宇宙軍所属の護衛戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、サウジアラビア宇宙軍所属の護衛戦艦アル・リヤド、阿弗利加管区所属の護衛巡洋艦アレクサンドリア以下AU-01船団――多くの艦艇がボラー連邦軍の攻撃によって宇宙の藻屑となった。

そしてボラー連邦軍の攻撃はビスマルクにも波及していった。ビスマルクにとって運が悪かったのは、彼らが敵対した相手が先日、ガルマンガミラス帝国軍所属の第十六空間機甲師団を撃破して士気が高まっているボラー連邦軍第二十五軍であったことだろう。いくら堅牢な装甲を誇るビスマルクといえど、一個軍計三個艦隊を相手取るのは非常に困難、というよりほぼ不可能であると言わざるを得なかった。
ビスマルクは持前の強力な探査設備を使用して、ボラー連邦艦隊の接近を事前に察知することが出来た。艦艇総数六百隻以上もの圧倒的な艦隊規模を見た船団司令官は覚悟を決め、探査船を逃がす為にビスマルクを盾にすることを決意した。良い羊飼いは羊の為に命を捨てる……古来より受け継がれて来た至言を実行する者の一員に、ビスマルクに乗艦する船団司令官も加わろうとしていた。

だが、現実は非情であった。彼らは自らの責務を全うすることすら許されなかったのである。
三隻の調査船がワープの準備を終えワープインしようとした瞬間、調査船の眼前にボラー連邦艦隊が出現したのである。第二十五軍の先遣部隊であり本隊と比べると数は少なかったが、それでも艦艇数は百隻を優に超えていた。第二十五軍の先遣部隊はワープアウトと同時に砲火を調査船団に集中させた。苛烈な砲火は装甲など無いに等しい三隻の調査船を瞬く間にスペースデブリへと変貌させた。そして彼らは、次なる矛先をビスマルクへと向けたのである。
守るべき羊たちを目の前で斬殺されたビスマルクの乗員達の心には、怒りと悲しみが混在していた。彼らの思いは、ビスマルクが装備する全ての兵装をボラー連邦艦隊に向けることで示された。調査船が全滅した以上、情報を地球に持ち帰ることが出来るのはビスマルクだけになったからである。
ボラー連邦艦隊を目前にしたビスマルクは、直ちに波動砲の充填を開始した。無論、波動砲の充填中は完全に無防備となるが、ビスマルクの堅牢な重装甲を信じている乗員達にとっては問題とならなかった。事実、先遣部隊の攻撃は遂にビスマルクを無力化することが出来なかったのである。

ビスマルクにはアリゾナ級やライオン級、紀伊型などと異なり波動砲チャージャーは搭載されていない。初期の頃の波動砲よりも充填時間は短縮されているとはいえ、それでもなお二分近い充填時間が必要であった。ただ、ビスマルクの波動砲は通常の波動砲とは異なっていた。それはある意味ではドイツ製らしい、優れた科学技術と凝った仕掛けが生み出した産物であった。
誘導波動砲――後にブルーノア級戦略指揮航宙戦闘母艦にも搭載されることとなるこの兵器は、端的に言ってしまえば重力制御を用いて拡散波動砲の子弾一つ一つに誘導性能を持たせたものであった。拡散波動砲よりも更に大軍殲滅に特化した誘導波動砲の威力はビスマルク乗組員を十分に満足させるものであった。第二十五軍の先遣部隊は、乗組員達が自分の身に何が起こったのかを理解する間もなく文字通り消滅した。
調査船の仇であるボラー連邦艦隊を一撃で粉砕したことにより、ビスマルク乗組員の士気は天を突かんばかりに上昇していた。無論彼らも栄えある職業軍人であり、戦闘宙域でお祭り騒ぎを始めるほど無能な集団ではない。だが彼らも人間である。溢れ出る感情を制御する為には、一瞬だけ気を緩めざるを得なかった。ビスマルク艦内は歓声で溢れかえり、乗組員の目には希望が浮かんでいた。そんな一瞬の気の緩みを狙ったかのように、ボラー連邦第二十五軍の本隊がビスマルクの周囲にワープアウトした。

ボラー連邦軍は、地球防衛軍の大型艦が保有している波動砲に深刻な脅威を抱いていた。たった数発で艦隊を殲滅可能なこの戦略兵器は、ボラー連邦軍の基本戦術となっている物量作戦を根底から覆しかねないものであったからだ。かと言って、波動砲を回避する為に艦隊を分散させることはできなかった。物量作戦とは戦力が密集してこそ効果を発揮するものだからである。そしてボラー連邦軍は波動砲発射直後の硬直時間に注目して、一つの波動砲対策戦術を発案した。一部の部隊を先行させ敵艦に波動砲を撃たせた上で、本隊を突入させるのである。
ボラー連邦軍の戦術は図に当たった。もしビスマルクに搭載されていた波動エンジンが波動砲発射後の硬直時間が減少した第三世代型であれば、あるいはビスマルクに兵装が復旧するまで援護してくれる僚艦がいれば、この危機を脱せられる可能性があったかもしれない。だが現実はそうではなかった。第二世代型波動エンジンを搭載したビスマルクは波動砲を発射した直後でほとんどの兵装が使用できず、身動きを取ることが出来ないままボラー艦隊の集中砲火に晒された。

それでもビスマルクは使用可能な全兵装(主に波動エンジンからのエネルギー供給がなくても使用可能な実弾兵器)を用いて反撃を実施し、少なくない数の敵艦を沈めた。しかしそれも限界が来た。第二十五軍先遣部隊との交戦開始から三十八分、孤軍奮闘を続けたビスマルクは、全身から爆炎を吹き出しながらゆっくりと沈んでいった。爆沈などという軽々しくない沈み方をせず、偉大なる好敵手として相応しい沈み方に深い感慨を抱だいた第二十五軍の司令官は、全軍に対して黙祷を命じた。ボラー連邦軍の中では珍しく敵手に対して敬意を抱く司令官ではあったが、その行動がきっかけで生じた緩みが、彼らの脱出するきっかけとなった。彼らはビスマルク艦長の最後の命令に従い、惑星探査用としてビスマルクの前部格納庫に搭載されていたコスモハウンドに、最低限の乗組員とこれまでの航海でビスマルクが収集したデータを乗せ発進、出力にものを言わせ第二十五軍の艦列を一気に突破した。
第二十五軍の追撃を振り切ったコスモハウンドは、宇宙の放浪者となった。空間跳躍機関を搭載していないコスモハウンドで長距離飛行を実施することは事実上不可能である。それでも彼らは飛び続けることしかできなかった。しかし、ここで彼らに救いの女神が現れた。彼らの飛行経路上に、ガルマンガミラス帝国軍所属の駆逐艦 KX-0107が航行していたのである。

KX-0107は、ガルマンガミラス帝国軍第十六空間機甲師団所属のコルカピア級駆逐艦であった。まだ大半の艦艇が戦闘能力を残していたにもかかわらず、自己の保身を図るためにさっさと降伏してしまった(無論KX-0107の乗組員が自らの視点を元に判断した主観的な意見であるが)司令官に失望したKX-0107の乗組員はボラー連邦軍への降伏を拒否、未だに抗戦を続けている友軍の元へと向かうべく第十六空間機甲師団から逃亡した。そこで第六空間機甲師団がヴォールコ星系へと向かっているとの情報を飛び交う通信の渦中から拾い上げ、自分達もヴォールコ星系へと向かうべく進路を変更したところに、ビスマルク所属のコスモハウンドを発見したというわけである。
ガルマンガミラス帝国の貴重な同盟国である地球の航空機を救助しない理由はなかった。KX-0107から乗艦許可が出たビスマルク乗組員はコスモハウンドを廃棄しKX-0107に移乗、珍しい客を乗せたKX-0107は一路ヴォールコ星系へと向かった。旅路の先に何が待ち受けているのかも知らずに。

ヴォールコ星系へと到着したKX-0107は第五惑星ベムラーゼラグードへと降下し、同地に駐屯している第六空間機甲師団と合流した。KX-0107の乗組員は強大な第六空間機甲師団と共に戦えることを誇りに思い、ビスマルクの乗組員は強大な守護者の庇護下に入れたことに安堵した。しかしそこに居たのは軍事パレードやニュースでよく見たガルマンガミラス帝国軍が誇る精強な空間機甲師団ではなく、敗残兵の集合体であった。
何とか沈まずに這う這うの体でヴォールコ星系へと逃げ込めた艦艇は定数の六割に過ぎず、更にその中の半数は艦体のどこかが大なり小なり損傷していた。これは第六空間機甲師団旗艦のビエルンも例外ではなく、武装の半数は使用不能、機関出力も70%しか発揮できず、凄惨たる有様であった。司令官のベルドリヒ・バルウス中将は幕僚と共にベムラーゼラグードからの脱出計画を立案していたが、健在な艦艇に第六空間機甲師団の将兵とヴォールコ星系の駐屯軍、および民間の脱出希望者を分乗させる計画の立案は非常に困難を極めていた。
更にヴォールコ星系にボラー連邦軍第二十五軍、計三個艦隊が出現、星系内の各惑星に艦隊を展開した。これにより第六空間機甲師団は事実上ベムラーゼラグードに閉じ込められてしまった。無論、KX-0107に乗艦しているビスマルクの生存者も例外ではない。

ビスマルク乗組員の救助は防衛軍にとって喫緊の課題となった。人道的な観点から見ても是非救助したいところであったが、それ以上に重要であったのが彼らがビスマルク艦内から持ち出した可能性がある、移住惑星の調査データであった。この時期の地球は移住可能惑星の探索に邁進しており、生存者が収集した調査データを沈没したビスマルクから持ち出しているかどうかは不明であったが、少しでも可能性がある以上地球連邦政府は藁をもつかむ思いでビスマルク乗組員の救助を防衛軍に強く要請した。
これの要請を受け、防衛軍内部でもヴォールコ星系に出撃可能な艦の選定が実施された。太陽系から艦隊を派遣するのでは通常艦隊では到底間に合わず、かといって虎の子である第九艦隊を派遣すれば文字通り太陽系内が“空”になる。防衛軍に残された選択肢はただ一つ……ヴォールコ星系周囲を航行している探査船団に割り当てている護衛艦にて臨時の任務部隊を編成、これを派遣することであった。
この選択は防衛軍にとって苦渋の決断であった。探査船団から護衛艦を抽出し任務部隊を編成するということは、残された探査船は居住可能惑星の探索を中断しなければならない。非武装の探査船を護衛なしで危険宙域に突入させることはできないから当然のことであるが、それは移住可能惑星を発見できる可能性を失ってしまうことを意味していた。
ただ、幸運にも割り当て宙域の探索が完了し、比較的短期間にて(と言っても一番近い艦船で二万光年以上は離れていたが)ヴォールコ星系へと派遣可能な艦艇が存在していた。防衛軍司令部は該当艦艇にヴォールコ星系への移動指示と作戦内容、そして部隊編成を伝達した。


防衛軍がヴォールコ星系に派遣した艦艇は以下の通りであった。

地球防衛軍 第一五一合同任務部隊(CTF-151)

突撃隊
ノーウィック級護衛戦艦「ノーウィック」(ロシア航空宇宙軍/任務部隊旗艦)

射撃隊
PoW級護衛戦艦「ヴィクラント」(インド宇宙軍) 「ユーコン」(カナダ王立宇宙軍)


僅か三隻……一個戦隊にすら満たないような小さな艦隊であるが、現状防衛軍がヴォールコ星系に派遣できる最良の艦隊戦力である。しかも三隻とはいえガルマンガミラス側が期待した通り波動砲搭載艦も二隻(旗艦「ノーウィック」のみが波動砲を搭載していなかった)存在していた。使い方によっては十分強力な艦隊戦力である。
ヴァーレンシュタイン中将は忠実な同盟国が少数とはいえ強力な艦隊戦力を派遣してくれたことに感謝すると共に、地球防衛艦隊を加えた上での作戦計画を練り始めた。

ガルマンガミラス帝国軍にとって至上命題となったのは、軌道上に展開するボラー連邦艦隊を打ち破り第六空間機甲師団を救出する作戦の立案であった。作戦自体は至極単純である。残存する全戦力をベムラーゼラグード軌道上のボラー連邦艦隊にぶつけ、包囲網に穴を開ける。そしてそこから脱出する第六空間機甲師団が戦場を離脱するまで援護する。たったこれだけである。だが、ヴァーレンシュタイン中将の保有する戦力でこの作戦を実行するには問題が多々あった。
まず、ヴァーレンシュタイン中将の元にあるのは半壊した第十一空間師団と指揮官を失った第一空間機甲師団の計二個師団のみである。そして包囲網突破を実施する為の頼みの綱とも言える地球防衛艦隊の到着予定は、どんなに急いでも作戦開始日の直前であり、事前に共同訓練するような時間は到底存在しない。更に派遣されて来る地球艦艇に搭載されている波動砲は、艦隊殲滅に特化した拡散波動砲ではなく通常型の収束波動砲である。敵艦隊に散開されると効果が低減する為、使いどころを意識しなければいけなかった。

第十一空間師団と第一空間機甲師団はヴァーレンシュタイン中将の元、ヴァーレンシュタイン軍団として統合再編された。既に北部方面軍司令部は壊滅しており、北部方面軍司令官代理に着任したヴァーレンシュタイン中将の元、指揮系統を一本に統一する為の措置であった。
紆余曲折あったものの、ガルマンガミラス帝国北部方面軍は第六空間機甲師団救出に向け何とか出撃準備を整えることが出来た。そして紫風作戦開始から丁度三週間後の11月3日、ヴァーレンシュタイン軍団は、未だにワープミサイルによって受けた被害の跡が生々しく残るニエドルプ星系の惑星ルキーの宇宙港を後にし、全艦出港した。
艦艇総数一九二隻。損傷箇所の応急修理だけ済ませて参加した艦や、一部ではあったが師団の戦力補充の為に中央方面軍より派遣されてきた艦も混じっていた。更に航路途上にて第十二空間機動旅団や地球防衛軍第一五一任務部隊とも合流し、総兵力二四五隻となった上でヴォールコ星系へと突入した。

ヴァーレンシュタイン軍集団がヴォールコ星系にワープアウトしたのは、11月8日、地球標準時11時40分のことであった。だがそこで彼らが見たのは、既にベムラーゼラグードへと上陸を開始しているボラー連邦軍強襲揚陸部隊と、それを支援する為に艦砲射撃を開始しているボラー艦隊であった。惑星表面では既に地上戦が始まっており、事態は一刻を争っていた。
一方、ベムラーゼラグード軌道上に展開しているボラー連邦第二十五軍も、ヴォールコ星系にガルマンガミラス帝国軍の艦隊が出現したことは早期に察知していた。しかし第二十五軍は上陸作戦の支援任務中であった為、ヴァーレンシュタイン軍集団に対する迎撃行動は消極的であった。あくまでも敵軍の動きを偵察するにとどめ、ほとんどの艦艇はベムラーゼラグード軌道上にとどまったままであった。その為ヴァーレンシュタイン軍集団は特に大きな抵抗を受けることなく、一路ベムラーゼラグードを目指し進撃を続けた。

ヴァーレンシュタイン軍集団が進撃している最中にも地上戦は進行し続けた。バルウス中将は当初から惑星全土の防衛は不可能と判断しており、手持ちの戦力を全て北半球のエルマハフ高地に集結させ、同高地において徹底抗戦の構えを見せた。第六空間機甲師団は、航行不能となった艦艇を擱座させて作り上げた砲台陣地を中心に、即席の要塞を作り上げていた。
一方、ボラー連邦軍上陸部隊の主力は空挺部隊であったが、猛吹雪により空挺部隊の降下が遮られたことに加え重装備を保有しておらず、第六空間機甲師団が作り上げた強固な防衛要塞を前にして大きな損害をたたき出していた。軌道上の艦隊で要塞の撃破を試みたものの、擱座した艦艇は山岳などを利用し巧妙に隠匿されていた上に、第六空間機甲師団が陣取っていた場所が火山帯の真上であり、噴火を誘発しないようにする為ボラー連邦軍の保有する大火力が生かせなかった。更には山岳内部をくりぬいて建設された航空基地や擱座した航宙母艦からゼードラーⅢやドルシーラⅡが発進、地上砲撃の為低空に降下してきたボラー艦艇を散発的に攻撃することにより、擱座した艦艇を直接攻撃されないよう防衛していた。これによりベムラーゼラグード上の地上戦は果てしなき消耗戦へと陥っていた。

第六空間機甲師団がボラー連邦軍の上陸部隊と凄惨な地上戦を繰り広げて入る傍ら、バルウス中将は密かにベムラーゼラグード脱出に向けた準備を始めていた。負傷兵や民間の脱出希望者を優先して輸送艦へと分乗させていたが、人数が多いため輸送艦は直ぐに満員となってしまった。そこで最終的には、戦闘能力が減少又は喪失したものの航行には支障がない艦艇などにも搭乗させることで、何とか全員が脱出できるよう配慮した。
第六空間機甲師団が脱出する為には、ベムラーゼラグード軌道上に居座るボラー艦隊を撃破することが必須事項であった。上昇中の無防備な状態を狙われたら、いくら強固な軍艦とてひとたまりもない。負傷兵や民間人を乗せた貧弱な輸送艦などは猶更であった。
軌道上に居座るボラー艦隊を殲滅する為の切り札としてヴァーレンシュタイン中将が期待したのが、地球艦艇が保有する波動砲であった。ボラー連邦軍の注目がヴァーレンシュタイン軍団に集まっている間に、ボラー側が探知できないよう瞬間物質輸送機によって集光パネルの裏側にワープアウトした第一五一任務部隊は、ベムラーゼラグード軌道上のボラー艦隊に向け波動砲を放った。
たった二門の収束波動砲……拡散波動砲や拡大波動砲を十数門保有している通常の地球防衛艦隊とは比較にならないほど小さな火力であったが、波動砲クラスの大量破壊兵器を両軍が保有していないこの戦場では、正に戦局を“回天”させる兵器となった。
軌道上のボラー艦隊は地上支援の為密集隊形を敷いており、拡散波動砲などと比べて殲滅力がない収束波動砲でも十分に威力を発揮した。この攻撃でボラー連邦第二十五軍は総兵力の一割に該当する五十隻超が撃沈又は戦闘不能となり、残った艦艇も波動砲の第二撃を回避する為に各艦が勝手な回避運動を開始したことにより、艦隊は分散し隊列は大きく乱れていた。

そし11月10日、地球標準時13時20分。ヴァーレンシュタイン軍団はベムラーゼラグード軌道上に到達、ボラー連邦第二十五軍との交戦状態に突入した。

ヴァーレンシュタイン軍団を待ち構えていたのは、波動砲による打撃を受けてもなお500隻以上の艦艇を有するボラー連邦第二十五軍であった。総兵力では未だに彼らの方が二倍ほど勝っており、第二十五軍とヴァーレンシュタイン軍団との間で繰り広げられた戦闘は、激化の一途を辿っていった。
第二十五軍はヴァーレンシュタイン軍団の接近に対し、波動砲によって乱れた隊列を再編しつつ艦隊を軌道上全面に幅広く展開させた。これは波動砲への対策と陣形中央部に突入して来るヴァーレンシュタイン軍団を包囲殲滅せんと目論んだ結果ではあったが、ヴァーレンシュタイン中将は第二十五軍がとったこの陣形を逆手に取った。主力となるドメラーズ級重航宙戦闘艦や改ゼルグート級一等航宙戦闘艦を戦列前方に結集させ、重装甲部隊の打撃力をもってして第二十五軍を強引に突破しようと試みたのであった。
元々第二十五軍の背後には惑星ベムラーゼラグードがあり陣形の縦深を広く取れなかったこともあり、戦闘開始から僅か十五分ほどでヴァーレンシュタイン軍団は第二十五軍の隊列中央部を突破、ベムラーゼラグードと外宇宙に回廊を形成することに成功した。
ヴァーレンシュタイン軍団が回廊を形成するのを確認したバルウス中将は、直ちに出航可能な艦艇から出航し、ベムラーゼラグードから離脱するよう下令した。無論、ボラー連邦側も第六空間機甲師団の動きから意図を把握し、彼らの脱出を阻止するべく攻撃を試みた。だが、そのようなことをヴァーレンシュタイン軍団が黙って見過ごすはずがなく、両軍の死闘は終わる気配を見せなかった。

上昇中の無防備な艦艇を狙うべく、第二十五軍のアルパ級が攻撃を仕掛ける。これを阻止すべくヴァーレンシュタイン軍団に所属するコルカピア級駆逐艦やクリピテラ級駆逐艦が、アルパ級を横合いから殴りつける。何隻かは撃沈できたものの、全てのアルパ級を撃沈することなど到底できず、生き残ったアルパ級が次々と第六空間機甲師団の艦艇に喰らいついていく。この攻撃で力尽きた艦艇が次々と重力の井戸に引きずり込まれていき、大気圏の摩擦熱で艦体を紅く輝かせながら地表に激突していった。
何とか大気圏を離脱した艦艇にも苦難は引き続き降りかかってきた。艦隊を円柱状に展開させ、文字通り脱出路となる回廊の外枠や骨組みとなっているヴァーレンシュタイン軍団に対し、第二十五軍は情け容赦のない攻撃を仕掛けて来た。当然ながらその矛先は第六空間機甲師団にも向いており、ヴァーレンシュタイン軍団の艦艇は身を挺して彼らを死守した。ガルマンガミラス帝国軍が誇る重航宙戦闘艦も、多層式双胴航宙母艦を中核とする機動部隊も、苛烈な攻撃を前にじりじりと戦力をすり減らしていった。

戦闘開始から三時間四十二分後、脱出した第六空間機甲師団の艦艇から損傷の軽い艦艇を引き抜いてまで維持してきた円柱陣形の一角が遂に崩壊した。この時点で第六空間機甲師団の艦艇は約半数が星系からの脱出を完了しており、更に三割は回廊内部を未だに航行中、バルウス中将が座上する旗艦ビエルンと、その直掩艦も含めた二割の艦艇は未だに惑星上にあった。
ヴァーレンシュタイン中将は円柱陣を縮小させ、軍団内部の損傷した艦艇も撤退させつつ、残った艦艇でビエルン以下第六空間機甲師団残存艦艇の脱出援護を全力で実施した。ヴァーレンシュタイン中将はこの時点でも第六空間機甲師団全艦艇の救出を諦めてはいなかったが、彼の望みが実現されることはなかった。ベムラーゼラグード軌道上に、ボラー連邦軍の主力艦隊がワープアウトしたのである。

ベムラーゼラグード軌道上にワープアウトしたのは、ボラー連邦軍の第一・第二主力艦隊であった。艦艇総数は二個艦隊合計で約五百隻、通常の打撃艦隊よりも艦艇が増強された強化編成であり、更には艦艇や乗組員の質も通常のボラー艦隊よりも優れている(いわゆる親衛打撃艦隊と同等のものが配備されていた)正にボラー連邦軍の“主力艦隊”であった。
元々第一・第二主力艦隊は本作戦においても予備兵力として攻勢には投入されていなかったが、ガルマンガミラス帝国軍がヴォールコ星系に出現したこと、出現した部隊が北部方面軍の残存するほぼ全ての戦力であることが判明したことにより、ガルマンガミラス帝国軍と雌雄を決すべく総司令官グワン・バルコム大将直接指揮の元、ヴォールコ星系に投入されたのであった。
第一・第二主力艦隊がヴァーレンシュタイン軍団に対して総攻撃を開始したのは、17時35分のことであった。
第二十五軍と交戦し損耗していたヴァーレンシュタイン軍団に、第一・第二主力艦隊を撃退できるような力は既に残されていなかった。軍団壊滅という最悪の状況を回避する為、ヴァーレンシュタイン中将は苦渋の決断を実施した。

「戦局ハ既ニ決シタリ、各艦ハ各々ノ判断ニテ戦場ヲ離脱セヨ」

艦隊としてまとまって行動するのではなく、各艦がバラバラに行動し戦場から離脱することにより少しでも艦艇の生還確率を上げる……より多くの艦艇が帰還できる確率が上がる代わりに、戦力単位としてのヴァーレンシュタイン軍団は崩壊する。それでも、明日の戦いの為に少しでも多くの戦力を生き残らせることをヴァーレンシュタインは選択したのであった。

第一・第二主力艦隊の攻撃により、ヴァーレンシュタイン軍団は戦力単位としても実働部隊としても壊滅した。合計一二四隻もの艦艇(参加艦艇の五割に相当)が失われ、師団の中核となる重装甲部隊と空母機動部隊に関しては、全滅と言っても良い有様であった。また、戦場から離脱に成功した艦艇もジャンプアウトした地点がバラバラであり、再集結すら困難であった。
加えて高級将官多数(総司令官のヴァーレンシュタイン中将は重傷、バルウス中将はベムラーゼラグード上で戦死、中将以上かつ無傷で生還したのはグスタフ中将のみ。加えて佐官クラスにも死傷者多数)を失い、戦力の再編には途方もない時間がかかることが予想された。

当時ガルマンガミラス本国ではこの戦闘を「敵中に取り残された友軍部隊を華麗に救出した戦い」などと、美談として報道していたが、最終的に第六空間機甲師団の六割を救出した代償は非常に重たいものとなった。
ベムラーゼラグード攻防戦の結果、ガルマンガミラス帝国軍は北部方面軍に残されていた最後の機動戦力すら失ってしまった。これは当面における戦争の主導権をボラー連邦軍に完全に引き渡してしまったことを意味しており、西部及び南部方面軍から増援部隊が到着するまでの間、北部方面軍は絶望的な防衛戦闘を繰り広げなければならないことを意味していた。

なお本海戦に参加した地球防衛軍第一五一任務部隊であるが、終盤の混戦において護衛戦艦ユーコンが撃沈、ヴィクラントが大破した(同艦はガルマンガミラス帝国軍の浮きドック艦にて修理中に終戦) しかし当初の目標であったビスマルク乗組員の救出には成功していた。彼らは護衛戦艦ノーウィックに乗艦し、銀河大戦終結後地球へと帰還した。
ビスマルク乗組員が持ち帰った情報は当時の地球にとって非常に価値のあるものであった。第二の地球となり得る星こそ見つけられなかったものの、有力な資源を多量に埋蔵している鉱山惑星や、テラフォーミングの適正がある惑星の情報を多数持ち帰ってくれたのである。これらの情報は銀河大戦時にはあまり意味をなさなかったものの、銀河交錯事件後、地球がガルマンガミラス帝国に代わって銀河系各所に進出する際に役立つこととなった。


三軍、スカラゲック海峡星団へ

ベムラーゼラグード攻防戦後、ガルマンガミラス帝国軍北部方面軍は文字通り壊滅していた。
同攻防戦終盤にてバラバラにゲシュタムジャンプを実施した艦艇を再度集結させる目途すら立っておらず、防衛に関しては各星系の守備隊に依存するほかなくなっていた。機動戦力に関しては、損害が比較的少なかった第十二空間機動旅団を中核とし、ヴァーレンシュタイン軍団の残存艦艇を組み込むことで北部方面師団として再々編した。しかし、師団とは名ばかりで一般的なガルマンガミラス帝国軍師団の定数である百隻すら満たしていなかった。改めて北部方面師団司令官に就任したグスタフ中将は

「かつては大マゼラン雲全土を支配し、小マゼラン雲や銀河系に手を伸ばしていた精強なるガミラス帝国軍の末裔が、今ではこの有様とはな」

と、自分の指揮下にある部隊の惨状を見て嘆いたとされている。

ただ、彼にとって幸いだったのは悲観するようなことばかり起こってたわけではなかったことであろう。
中央総軍からデスラー総統直率の親衛師団が編成され出撃、早ければ二週間後には北部戦線へと到着する見込みであった。またこれに先発して出撃していた“猟犬”フラーケン率いる潜宙艦隊が数日後にニエドルプ星系へと到着予定であり、多数の次元潜航艦を有する潜宙艦隊は有力な兵力として活躍してくれることが期待されていた。
更にはガルマンガミラス帝国の友邦、地球連邦でも動きがあった。最新鋭の艦艇を中心に編成された一個艦隊を派遣してくれるとのことであり、聞くところによると地球の新鋭艦艇は連続でのゲシュタムジャンプを可能とする新型機関を搭載している為、戦略的機動性に優れているとのことである(ガルマンガミラス帝国でも同様の機関は研究・開発されていたが、一隻当たりの建造コストが大幅に増加する為、親衛隊や即応機動部隊などの一部部隊所属艦に配備されるにとどまっていた)
だが、これらの部隊はただ北部戦線への増援として派遣されて来たわけではなかった。

事の発端は、地球防衛軍の宇宙戦艦ヤマトが惑星ファンタムにて一人の少女を救助したことから始まる。彼女の名はルダ……かつて銀河系一帯を支配していた星間国家、シャルバートの王女であった。
当時、シャルバートはかつての超科学技術を使用し母星そのものを異空間に隠蔽していた為、通常の観測方法にて発見することは不可能であった。シャルバートの母星(以降、シャルバート星と表記)には、かつてシャルバートが銀河に覇を唱えていた時代に製造された兵器が今もなお保管されていると予想されており、失われた古代の超科学技術で製造された兵器群の存在は、星間戦争を続けているガルマンガミラス帝国・ボラー連邦の両国にとって魅力的に映らない訳がなかった。
そのシャルバート星への行き方を唯一知っていると思われていたのがルダ王女だったからこそ、両国とも彼女の身柄を狙っていたのであった。

一方、地球連邦の方は少々事情が異なっていた。太陽危機以降、必死になって居住可能惑星探索を実施していた地球連邦であったが、ヤマトがルダ王女の身柄を保護したところから状況は一変する。ヤマト艦内で実施されたルダ王女に対する身体検査及び聞き取り調査の結果、シャルバート星は十分に第二の地球たりえることが判明したのである。
人類絶滅までのタイムリミットが着々と迫りつつある地球にとって、もはや一刻の猶予もなかった。強硬派はシャルバート星の占領を主張したが、藤堂長官率いる穏健派がその主張を抑え込んだ。しかし居住可能惑星が人類にとって必要不可欠であることは穏健派の人間も十分理解している。

結局、シャルバート星への移住はあくまでも

「ルダ王女を通じて現地の住民又は政権と交渉した上で実施する」

とされた。

そして、ルダ王女並びにその身柄を保護しているヤマトを護衛する為に、地球防衛軍の虎の子であった第九艦隊が派遣されることとなったのである。

第九艦隊は高石範義宙将率いる第一遊撃部隊三十四隻に、ケンタウルス座アルファ星に駐屯していた堀田真司宙将補率いる第二遊撃部隊二十一隻を加えた計五十五隻。ガルマンガミラス帝国軍やボラー連邦軍の艦隊からしてみればその数はささやかなものであったが、全艦がスーパーチャージャー搭載型波動エンジンを搭載した艦艇であり、これら性能の優れた艦艇群をガミラス大戦以来から戦っている歴戦の二提督(防衛軍の中下級士官たちの一部はこの両提督を“防衛軍の双璧”と呼んでいた)が率いているとなれば、その戦力はガルマン・ボラー両軍と比較しても引けを取らず十分以上に対抗可能であるはずだった。

他方、グスタフ中将の元へキーリング参謀総長からの命令が届いたのは、11月20日7時30分の事であった。その内容は以下の通りである。

「北部方面師団ハ全力ヲ上ゲすからげっく海峡星団ヘト出撃、同地ニテ活動中ノ宇宙戦艦やまとヨリ、るだ王女ノ身柄ヲ確保スベシ」

この命令がもたらされた時点で、北部方面師団は未だに再編途中であった。各地守備隊の増強やボラー連邦艦隊を無力化する為の通商破壊作戦をフラーケンの潜宙艦隊と共同で実施する為に、少なくない艦艇が駆り出されていたからである。それでも何とか七十隻ほどの艦艇を揃えることが出来たのは、北部方面軍の努力の賜物であろう。しかし、揃えられた艦艇もほとんどが突貫作業で修理し終えた艦ばかりで、完全に能力を発揮可能な艦はほぼ存在しなかった。
誰の目から見ても、絶望的な戦いになることは間違いなかった。それでも、ガミラス帝国時代から軍に仕えて来た歴戦の将官であるグスタフ中将からしてみれば、上層部からの命令は絶対である。ましてや、かつてガミラス帝国軍時代に戦う機会を得ることが出来なかったヤマトと一戦交えることすら望める(無論、あくまでも目的はルダ王女確保であったが、万が一交渉が決裂した場合は、限定的な戦闘が勃発する可能性があるとグスタフは考えていた)となれば、拒否する理由など存在しなかった。

そしてボラー連邦軍でも、ヤマトがルダ王女の身柄を確保したことを把握していた。ボラー連邦側からしてみれば、元々自分達がルダ王女の身柄を確保していたのにも関わらずシャルバート星の位置を割り出すことが出来なかった。その上で地球連邦が、ましてや地球連邦の同盟国でありボラー連邦の宿敵でもあるガルマンガミラス帝国がルダ王女の尋問に成功しシャルバート星を見つけることとなれば、ボラー連邦でルダ王女の身柄確保に関わった人物は怠慢の極みとして追及されることは間違いない。最悪の場合、ベムラーゼ首相の責任問題にも発展しかねない。
また、シャルバート星に保管されている古代の超兵器群を地球又はガルマンガミラス帝国が入手した場合、大成功を収めた紫風作戦の戦果が水泡と帰す可能性すらある。そうならないためにも、何としてもヤマトからルダ王女の身柄を“奪還”しなければならなかった。

ルダ王女奪還部隊は、バルコム大将率いる第一・第二主力艦隊及びやっとのことで再編を終えたハーキンス中将の第八親衛打撃艦隊(再編完了と言っても、親衛艦隊仕様の艦船や熟練度の高い乗組員など簡単に補充できるはずもなく、戦隊の統廃合などを実施し後方の予備戦力から最低限度の人員と艦艇を補充しただけであったが)の、計三個艦隊(艦隊戦力は支援艦艇も含め、三個艦隊合計で約六五〇隻)が充てられた。

第二十五軍はベムラーゼラグード攻防戦で受けた損害から未だに再編中で、ラグラチオにて第三空間機甲師団と交戦した第十五軍は進路を東へと転換し、ガルマンガミラス帝国軍東部方面軍と交戦中である。また初戦にて第六空間機甲師団と交戦した第三十二軍は後方にて再編成を終え進撃を再開し、北部戦線に点在するガルマンガミラス帝国軍の拠点を攻略中であった。
これらの事情からスカラゲック海峡星団にボラー連邦軍が投入可能な戦力は三個艦隊のみであったが、その三個艦隊はいずれも通常の打撃艦隊とは異なる精鋭艦隊ばかりであり、死にかけの北部方面軍や数が圧倒的にこちらより劣っている地球防衛軍を撃破することなど造作のないことだと、バルコム大将を含むボラー連邦軍の将兵達は自信に満ち溢れ、自らの軍が勝利することに対して絶対的な自信を抱いていた。

かくして、地球防衛軍、ガルマンガミラス帝国軍、ボラー連邦軍の三軍が、一同スカラゲック海峡星団に結集することとなる。そしてスカラゲック海峡星団において銀河系の命運をかけた一大決戦……スカラゲック海峡星団会戦が勃発することとなるのであった。


後書き

というわけで、現在鋭意製作中の二次創作作品「スカラゲック海峡星団会戦」の前史でした。
今回スカラゲック海峡戦を二次創作のテーマとするにあたって、本編でも大きな疑問となっていたことがあります。すなわち、

「なぜヤマト一隻で、グスタフ艦隊が大苦戦した第八親衛打撃艦隊の五倍の戦力を有する第一・第二主力艦隊をあれだけ容易く撃破できたのか?」

「なぜグスタフ中将は、デスラー総統率いる援軍が向かって来ているのにも関わらず、性急に体当たり突入などという戦法を選択してしまったのか?」

これらの疑問に対し、私と共同制作者のA-140さんが一緒に悩み、考えながら

「完結編艦艇を活躍させたい」

などの願望(私の場合は紺碧の鎮魂歌から、もっと言えば完結編を視聴したその時からこの願望は続いていますから、ここまでくるともはや呪いですねw)を混ぜつつ導き出した一つの答えを、これから物語として完成させていきたいと思います。

第十一番惑星沖海戦の時と同じく年単位の長い航海となるかと思われますが、また十一番の時のように末永くお付き合い頂ければ幸いです。

紫風作戦

西暦2208年中盤、二年前より継続されているガルマンガミラス帝国とボラー連邦による星間戦争――銀河大戦――は、大きな変革を迎えようとしていた。

変革のきっかけとなったのは、ボラー連邦が対ガルマンガミラス帝国用に配備した超空間飛行型惑星間弾道弾(ワープミサイル)であった。当初ボラー連邦はガルマンガミラス帝国に先んじてこの兵器を量産・配備することにより、絶対的な戦略的優位を手に入れようと目論んだ。実際、このワープミサイルはある程度の効果を上げており、特に昨年末の一斉攻撃にて、少数のワープミサイルがガルマンガミラス帝国本星の厳重な防空網を突破し、敵中枢に打撃を与えられたのは大きかった。

しかしこれは、ボラー連邦首脳部が望んでいた戦果からは程遠かった。彼らが望んでいた戦果というのは、降り注ぐ多数のワープミサイルにより敵本星が劫火に包まれ砕け散るようなものだったからである。そしてこのワープミサイルも完璧ではないとはいえ既存の技術でも対抗可能なことが証明されてしまい、ボラー連邦が得た戦略的な優位は限定的かつ一時的なものとなった。
そしてボラー連邦首脳部を驚愕させる報告が諜報部よりもたらされた。ガルマンガミラス帝国も、ボラー連邦のワープミサイルと同種の、しかも技術的には更に進んだ兵器を開発しているというのである。

ガルマンガミラス帝国が開発していた兵器というのは、俗に言う戦略型次元潜航艦であった。それは亜空間に潜航し敵の領域内に侵入、搭載された数十発の惑星間弾道弾、あるいは数十基の転送型デスラー砲を用いて、敵の重要拠点複数を一挙に破壊するというものであった。実際、この艦はガルマンガミラス帝国内でも計画はされていたものの未だに設計段階でとどまっており、実際に艦が完成するのはかなり先の話であるのだが、ボラー連邦に対抗する為あえて情報を流出させていた。

だが、故意に流出されたこの情報はガルマンガミラス帝国側の想像以上に相手を動揺させる結果となった。昨年末、ボラー連邦軍はガルマンガミラス帝国の本星を直接攻撃しており、ガルマンガミラス帝国が戦略型次元潜航艦を配備した暁には、その砲口がボラー連邦の本星、つまり自分達に向くと考えたのだ。

ただ当時のガルマンガミラス帝国首脳部(特にデスラー総統)にボラー連邦本星を戦略型次元潜航艦で攻撃する考えはなかったとされる。いくら全銀河系制覇の野望を達成するためとはいえ、主要敵国の本星をいきなり攻撃し敵国の首脳部諸共消滅させてしまうと、交渉チャンネルが失われ戦争を終結させることが事実上不可能となってしまうからである。そうなってしまった場合彼らを待っているのは銀河各地に点在するボラー連邦残党との終わりなき戦いであり、ガルマンガミラス帝国の保有する兵力からいってもそれら全てを鎮圧するのは現実的ではない。
だからこそお互いに相手の本拠地を直接攻撃可能な兵器を保有したことでお互いの行動を封じ、相互確証破壊となる状態を作り出した段階で何とか休戦協定を締結しようと企んでいたのであった(建国当初より急激な拡大政策と星間戦争を続けてきたガルマンガミラス帝国の経済状況は既に限界に達しており、このままでは年内に破綻するとさえ言われていた。)

しかしボラー連邦首脳部に自制を促し休戦協定へと持ち込むことを画策してあえて流出された情報は、結果として正反対の結果をもたらすこととなってしまった。すなわちボラー連邦首脳部はこう考えたのだ。「ガルマンガミラス帝国に対して一時的に戦略的優位を保持している今こそ攻勢をかけるときだ。ここで一気に攻勢を仕掛けガルマンガミラス帝国を滅亡させてしまうのだ。」と。

ボラー連邦軍は北部戦線における大規模攻勢を実施するにあたり、総兵力の約六割に相当する十二個艦隊三千二百隻を動員した。これは、今まで本星にて決戦兵力として待機していた第一主力艦隊から歴戦の第八親衛打撃艦隊、更には辺境防衛用の駐屯艦隊までも動員した、文字通りの決戦部隊であった。

そしてこれだけ大規模な兵力移動を行うのであるから、当然ガルマンガミラス帝国側にも察知されていた。しかしガルマンガミラス帝国側はボラー連邦軍の攻勢開始地点を東部方面だと予想していた。これは当時東部方面に長さ五十光年ほどの戦線突出部が存在しており、ボラー連邦軍は軍事的常識から考えてこの戦線突出部から攻勢を開始する可能性が非常に高いと判断されていたからであった。空間機甲師団四つを含む八個師団を所有する北部方面軍に、ボラー連邦軍が真正面から挑んでくるという可能性は低く見積もられていた。

更にボラー連邦軍の艦隊が東部方面へと移動するのが確認されたこと(この情報はボラー連邦側が故意に一部艦隊の移動を見せつけた欺瞞であった)が、ガルマンガミラス帝国側の判断を確信へと変えた。機動防御作戦の中核戦力である主力空間機甲師団こそ、北部方面軍総司令官のヴァンス・グーデル大将の強固な反対があったおかげで北部戦線から動かせなかったものの、代わりに定点防御用の二個空間師団を東部戦線に移動させた。

更に北部方面軍にとっては運が悪いことに、彼らの管轄区域内でファンタム事案が発生。ファンタム事案に対しては早急に対処するようデスラー総統直々に勅命が下っていた為、グスタフ・ヘルマイヤー中将の第十二空間機動旅団を惑星ファンタムに派遣していた。これにより北部戦線は一時的に前線を面で支える通常師団がエルク・ヴァーレンシュタイン中将の第十一空間師団しか存在していなかった。

北部方面軍の主戦略となっていた機動防御作戦とは、簡潔に説明するならば通常の空間師団で敵の攻勢を受け止めている間に、主力の空間機甲師団が機動打撃部隊として敵軍の側背面を攻撃する作戦である。空間機甲師団が側背面に回り込むまでに敵軍を食い止める通常師団の戦力が激減している以上、北部方面軍の主戦略である機動防御作戦の実施が事実上不可能となっていた。しかし長年にわたり研究と訓練が重ねられた作戦を今更大規模に変更するわけにもいかなかった。結局、機動打撃用の空間機甲師団の一部を戦線正面に振り分けることで、当初の予定通り機動防御作戦を遂行しようとした。しかし当初の作戦計画よりも戦力は大きく減少していた。

だが、ボラー連邦軍からみれば、これだけ戦力が減少しても練度が非常に高いガルマンガミラス帝国の北部方面軍は大きな脅威であり、この部隊をどのようにして突破するかが大きな課題となっていた。

そこでボラー連邦軍第一軍団総司令官のグワン・バルコム大将以下、ボラー連邦軍参謀本部は次のような作戦を立案した。
まず前線において囮部隊が局地的な限定攻勢を実施しガルマンガミラス帝国軍の反応を誘う。次にあらかじめガルマンガミラス帝国領域内に潜伏していた諜報部隊や偵察部隊によって、敵北部方面軍司令官が座乗する機動要塞の位置を特定する。機動要塞の位置が特定出来次第、第八親衛打撃艦隊が連続ワープにより機動要塞を直接攻撃、敵司令官を司令部ごと抹殺し指揮系統を麻痺させる。指揮系統が混乱している隙を突き本隊が一斉に攻勢を開始、敵部隊を一気に突破する。というものである。

理論上では完璧な作戦であったが、本隊が敵部隊を突破するまでの間第八親衛打撃艦隊は敵中に孤立することとなり、包囲殲滅されてしまう可能性は十分にあり得た。更にこの作戦は敵司令部がある機動要塞の位置が囮部隊による限定攻勢が終了するまでの間に判明することが前提となっており、仮に敵司令部が機動要塞から移転していたり時間内に敵機動要塞の位置が判明しなかった場合、作戦そのものが瓦解する危険性もあった。
だがこれまでのように正面突撃を繰り返すだけでは精強なガルマンガミラス帝国軍を突破することは不可能であると言わざるを得ず、結局この作戦案は採用された。
ガルマンガミラス帝国側でもボラー連邦軍が戦力の大規模な配置転換を実施しているのは察知しており、ガルマンガミラス帝国北部方面軍司令部は、ボラー連邦軍のこの行動が大規模作戦の前兆であると推定。北部方面軍総司令官のヴァンス・グーデル大将は北部方面軍各部隊に対して警戒を厳とするよう通告した。

作戦名“紫風(パープルストーム)”

結果としてボラー連邦軍史上最大、そして最後となった攻勢作戦は、こうして始まった。

西暦2208年10月12日、地球標準時7時30分に『紫風作戦』は開始された。

先に攻撃を開始したのは当然ながらボラー連邦軍であった。第一四打撃艦隊、第一〇二打撃艦隊、中央銀河諸国連合艦隊の計三個艦隊からなる第一梯団第三十二軍が、ガルマンガミラス帝国北部方面軍の前線拠点二つに対して同時攻撃を仕掛けた。
これと同時にボラー連邦軍前線基地から、ワープミサイルがガルマンガミラス帝国軍の後方支援拠点計十二ヶ所に向け一斉に放たれた(ワープミサイルはガルマンガミラス帝国本星への攻撃以降一度も使用されておらず、弾数には十分余裕があった)更には大規模作戦に備え温存されていた潜宙艦隊が各所で通商破壊作戦を開始し、駄目押しとばかりにワープミサイルによる攻撃が及ばなかった拠点では、ボラー連邦軍特殊作戦部隊(ズベルナズ)による破壊工作も実施されていた。

<最前線から後方の敵まで、同時かつ連続的に攻撃する>

紫風作戦の第一段階は、長年にわたりボラー連邦軍が研究と訓練を重ねてきた縦深戦術そのものであった。
通常の軍隊であれば混乱の極みに達する程の熾烈な攻撃であったが、この強烈な一撃を受けてもなお北部方面軍司令部は冷静に戦況を観察していた。敵の第一梯団と正面衝突したベルドリヒ・バルウス中将指揮下の第六空間機甲師団は、当初の作戦計画通りに敵の攻撃を受け流しつつ戦略的撤退を開始していた。更に突出したボラー連邦軍を包囲すべく、ゲバルト・ヴァム・ルーンシュライト中将の第三空間機甲師団とグレムド・キルヒラー中将の第十六空間機甲師団が、敵第一梯団の両翼に展開を始めていた。
後方にて待機していたエルク・ヴァーレンシュタイン中将指揮下の第十一空間師団(実質的な予備兵力)が、ワープミサイルによる攻撃と軍港への破壊工作によって戦力が半減したのは計算外であったが、致命的な損害ではない。敵第一梯団の両翼に展開した二つの空間機甲師団は、今のところは予定通りに戦力展開を進めている。

ボラー連邦軍の攻勢は作戦目標を達成することなく、北部方面軍によって阻止されるはずであった。少なくとも、北部方面軍司令部はそう事態を楽観視していた。しかし戦局は彼らが予想もしなかった方向へと動くこととなった。ボラー連邦軍第八親衛打撃艦隊が、北部方面軍司令部が設置されている機動要塞に直接攻撃を仕掛けてきたのである。

ボラー連邦軍が抱えていた悩みの種として「どうやって敵の機動要塞を撃破するか」という問題があった。
機動要塞を発見すること自体はそこまで難しいことではない。戦闘が始まればいやでも司令部と前線の間で頻繁に交信が実施されることになる。大量に飛び交っている通信電波の発信源をたどれば、敵の司令部に到達するという算段だ。
だが、司令部の位置を突き止めて敵が強襲して来ることなど、ガルマンガミラス帝国側も想定済みだろうと思われていた。だからこそ、司令部を圧倒的な防御力を誇る機動要塞内に設置し、その護衛に司令部直属の第一空間機甲師団を置いているのであろうと予想された(ただ、グーデル大将から言わせてみればこの護衛戦力は過大であり、機動要塞の護衛部隊である第一空間機甲師団も、戦局によっては司令部の判断で即座に前線へと投入するつもりであったとされている)
更に今回の作戦では迅速に敵司令部を壊滅させることが要求されているので、周囲の制宙権を確保した上で強襲揚陸部隊によって要塞を占拠するという、従来の攻撃方法は使えなかった。

この難題に対して、第八親衛打撃艦隊司令官のパロム・ハーキンス中将は単純明快な作戦を提示した。それはある意味では非常にボラー連邦軍らしい作戦であった。バーティル級戦闘艦に搭載された惑星破壊用プロトンミサイルによる飽和攻撃である。
バーティル級戦闘艦(地球側呼称:ブラボー級戦艦)は、アルパ級戦闘艦(地球側呼称:アルファ級戦艦)と同様にボラー連邦軍の主力戦闘艦である。しかしバーティル級はアルパ級と異なりボラー連邦の抑止戦略の一環を担っている艦でもあり、艦底部に惑星破壊用プロトンミサイル一発が搭載可能であることはあまり知られていない。

ボラー連邦軍のプロトンミサイルは通常サイズの戦闘艦に搭載できるようサイズを調整した為、専用艦で運用することを前提にサイズを無視して製造されたガルマンガミラス帝国軍のプロトンミサイルと比べると、威力はどうしても劣る。
しかし専用艦を用意しなくてもよく、敵にプロトンミサイル搭載艦と識別され集中攻撃を受ける可能性を下げられるメリットがあった。
ただ、通常編制の艦隊に組み込まれる際はプロトンミサイルを降ろして運用されていることが多かった。艦隊戦においてプロトンミサイルは危険な積み荷でしかなく、多くのバーティル級艦長がプロトンミサイルを搭載したまま砲撃戦をすることを嫌ったからである。
ただ今回の作戦では、敵機動要塞にプロトンミサイルによる飽和攻撃を実施するという任務の特殊性上、第八親衛打撃艦隊に所属するバーティル級全艦にプロトンミサイルが規定数分搭載されていた。

第八親衛打撃艦隊がワープアウトした直後、計五十二隻のバーティル級がガルマンガミラス帝国軍の機動要塞に向けてプロトンミサイルを一斉に放った。放たれた五十二発のプロトンミサイルの内、総数の約一割に相当する五発が動作不良を起こしたものの、残りの四十七発は予定通り順調に機動要塞に向かって飛翔を続けていた。これに呼応して二十四隻のカーシャ級火力投射艦(地球側呼称:デルタ級ミサイル駆逐艦)が敵迎撃システムの麻痺を狙い、約三五〇発の対宙誘導弾(スペースロック)を放った。
正に絵に描いたように理想的な飽和攻撃であり、ガルマンガミラス帝国軍随一の戦闘部隊である第一空間機甲師団でも、この攻撃を防ぐことは非常に困難であると言わざるを得なかった。

約四〇〇発もの誘導弾による飽和攻撃に対抗する為、第一空間機甲師団に所属する各艦は直ちに迎撃態勢へと移行した。ガミラス帝国時代から続く経験と技術の蓄積で構成された迎撃システムはその真価を発揮し、飛来するスペースロックを次々と叩き落した。しかし肝心のプロトンミサイルは弾頭そのものに分厚い装甲が施されており、通常兵装ではほとんど撃墜出来なかった。
通常の迎撃手段ではプロトンミサイルを阻止不可能だと判断した第一空間機甲師団各艦は、高圧直撃砲によってプロトンミサイルに対して近接攻撃を加えた。高圧直撃砲は大型艦を一撃で沈めることが可能な威力を誇る兵器であるものの、その射程は非常に短く近接防空火器と同程度である。一歩間違えれば自艦がプロトンミサイルの誘爆に巻き込まれて沈む危険性すらあるが、第一空間機甲師団の各艦はひるむことなく高圧直撃砲での迎撃を継続した。
それでも破壊されずに飛翔を続けたプロトンミサイルに対しては、艦艇による体当たりでプロトンミサイルの軌道を逸らそうと試みた艦もいた。
そうした第一空間機甲師団の懸命な努力もあって、機動要塞に命中したプロトンミサイルはたったの二発にとどまった。命中率で言えば4%に満たない。しかし惑星を引き裂くほどの威力を誇る兵器にとっては、それだけの命中弾で十分であった。

二発のプロトンミサイルは、ガルマンガミラス帝国軍の機動要塞を完膚なきまでに破壊し尽くした。要塞から脱出できた人員は一人もいなかった。無論、グーデル大将以下北部方面軍司令部要員も、全員が要塞と運命を共にした。
この瞬間から、戦闘は一挙にボラー連邦軍側有利へと転換していく。北部方面軍司令部の壊滅と指揮系統崩壊は、それほどの影響力を持っていたのであった。戦場に点在している師団も、統一された指揮系統が存在しなければ烏合の衆でしかなく、北部方面軍は軍集団としては既に全滅したも同然であった。


ラグラチオ

復讐心をたぎらせた第一空間機甲師団の残存部隊による苛烈な追撃を振り切った第八親衛打撃艦隊は、敵機動要塞への攻撃成功をボラー連邦軍司令部に伝えた。敵の機動要塞が北部方面軍司令部と共に消滅したとの報告を受けたバルコム大将は、この勝利を更に大きな勝利へと繋げるべく次の命令を全軍に発した。

コード――ラグラチオ――

それは紫風作戦の第二段階でもあり、指揮系統が消滅し混乱の真っ只中にある敵北部方面軍を完全に殲滅する為の計画であった。
ラグラチオ発動に伴い、後方で待機していた第二梯団所属の二個軍団計六個艦隊が、ガルマンガミラス帝国軍の空間機甲師団全てを包囲殲滅すべく移動を開始した。彼らの最初の矛先は、ガルマンガミラス帝国軍の主力である二つの空間機甲師団に向けられた。

標的となったガルマンガミラス帝国軍第三空間機甲師団と第十六空間機甲師団は、当初の命令通りボラー連邦軍第一梯団を包囲すべく進撃を続行していた。この時点でどちらの師団にも北部方面軍司令部が全滅したことは伝達されておらず(ボラー連邦軍による通信妨害とズベルナズによる破壊工作により、北部方面軍の通信網は麻痺していた)与えられた命令を忠実に遂行することが随一の忠誠であると考えるガルマンガミラス帝国軍人達は、彼らの司令部が発した最後の命令を律義に守り続けていた。
どちらの師団も敵艦隊を包囲する為に、艦列が前後に長く伸び切っていた。この状態で側面から攻撃を受けたら部隊が分断され各個撃破される恐れがあり、何人かの参謀達がそう二人の司令官に進言した。しかし師団を指揮する二人の司令官は自らの部隊に絶対の信頼を置いており「そんなことはあり得ないし、万が一あり得たとしても逆にこちらが返り討ちにする」と、進言して来た参謀達の意見を一蹴した。

確かに、彼らが今まで対峙して来たボラー連邦軍であれば心配は要らなかった。ガルマンガミラス帝国軍お得意の電撃戦に、数頼みで突撃だけを繰り返すボラー連邦軍は全く対応できていなかったからである。だが彼らは油断からか重要なことを一つ忘れていた。自分達だけではなく、敵もまた相手から学習し、進歩するのだということを。

進撃を続ける二つの空間機甲師団に第二梯団が襲い掛かったのはほぼ同時刻であった。第二梯団はどちらの空間機甲師団にも三個艦隊ずつで襲撃を実施しており、二つの空間機甲師団は、自らの約三倍の兵力を相手に戦うこととなった。
更に今回のボラー連邦軍は、単に全軍を敵の正面に向けて突撃させるような愚策を採用しなかった。一個艦隊で敵師団の頭を押さえた上で、回り込ませた二個艦隊で敵の側面を攻撃・分断し各個撃破する戦法を取ったのである。無論、ルーンシュライト中将やキルヒラー中将も敵が守りの薄い側面を狙って、攻撃を仕掛けて来ることを事前に想定していた。彼らは伸び切った艦列を逆に利用して、艦列中央部を後退させた上で前部と後部を前進させ、側面を攻撃して来た敵艦隊を逆に包囲殲滅する腹積もりであった。

しかし、この戦術はボラー連邦軍によって完全に打ち砕かれた。艦列前部を攻撃されていた為に包囲網の形成に失敗した上に、ボラー連邦艦隊の機動がこれまでよりも素早く、後退を開始した直後の無防備な瞬間を攻撃されたからであった。
艦列中央部を食い破ったボラー連邦艦隊は二個艦隊をそれぞれ、孤立した艦列後部への攻撃と友軍艦隊と交戦中の艦列前部背面への攻撃へと向かわせた。
ここまでガルマンガミラス帝国軍側は、ボラー連邦艦隊に一方的にやられているだけであった。二つの空間機甲師団を取り巻く戦局は、まるで映し鏡のようにほぼ同等に推移していた。だが、二人の司令官が別々の決断をしたことによって、二つの空間機甲師団の運命は大きく異なっていった。

第三空間機甲師団は、司令官のルーンシュライト中将の元でボラー連邦艦隊に対し徹底抗戦した。これはルーンシュライト中将が旗艦の艦上で戦死し、艦隊が組織的抵抗力を失ってからも続いた。第三空間機甲師団の各艦は再三にわたり通告された降伏勧告を全て無視し、文字通り最後の一兵となるまで戦ったのであった。戦端が開かれてから第三空間機甲師団に所属している最後の艦艇が沈没するまで、実に九十三時間かかったとされている。第三空間機甲師団の生存者は僅か百三十七名(それも全員が重傷者)であった。

一方、第十六空間機甲師団は、艦列中央部が突破された段階で司令官のキルヒラー中将が「戦局は決した。もはやこれ以上の抗戦は兵をいたずらに失うだけで無意味である」と発言、直後ボラー連邦艦隊に対して降伏する旨を伝達した。早期に降伏したこともあって、第十六空間機甲師団は降伏した時点で七割程度の艦艇が健在であった。更に救助活動を実施する時間も十分に確保できたことから、人員の損害は戦闘規模の割には少なかったとされている。第十六空間機甲師団の将兵達はキルヒラー中将以下全員が捕虜となったが、彼らは第一次銀河大戦終結後に実施された捕虜交換において、大半が無事に本国へと帰還している(一部が収容中又は移送中に死亡)

二人の司令官がそれぞれとった行動に関しては、戦後においても戦史家たちの間で意見が分かれている。

ある戦史家は

「ルーンシュライト中将の第三空間機甲師団が敵を押しとどめてくれていたおかげで、ボラー連邦軍の進撃速度は大幅に遅延した。その間に多数の友軍部隊が撤退に成功しており、彼の功績は偉大なものである。一方、キルヒラー中将が早期に降伏したおかげで、彼の第十六空間機甲師団と対峙していたボラー連邦艦隊は難なく戦線を突破した。みすみす敵の進撃を許した彼の罪は大きい」
と、評した。

一方別の戦史家は

「キルヒラー中将が早期に降伏してくれたおかげで、結果として第十六空間機甲師団の人員や装備はほとんど失われることがなかった。これらの人員や装備は、後に銀河交錯事件やマゼラン・エクソダスにて大いに役立っている。それに対して、そのような貴重な人員や装備をルーンシュライト中将は、自らのプライドや僅かに稼いだ時間と引き換えにしてしまった。後世の観点から見ればどちらの功績が大きいかは明らかである」

と、評した。

二人の司令官に対する評価はこの他にも様々なものがあり、それは評価を実施した人間の考え方によって大きく異なっている。
ただ一つの事実のみを述べるならば、ラグラチオにてガルマンガミラス帝国軍が誇る二つの空間機甲師団は戦闘能力を喪失した。そしてそれは、以降のガルマンガミラス帝国軍がボラー連邦軍との戦闘において苦境に立たされることを意味していた。実際、ラグラチオ以降のガルマンガミラス帝国軍は、残った数少ない戦力を駆使して絶望的なまでの防衛戦を実施することとなる。銀河大戦において、ガルマンガミラス帝国軍にとって最も熾烈な戦闘の幕が上がった。
なお、ルーンシュライト中将は死後上級大将へと昇進した。一方、キルヒラー中将に関しては特に褒賞は与えられなかったが、逆に降伏したことに関して処罰されることもなかった。帰国後、キルヒラー中将は報道陣に対して何も語ることなくひっそりと軍を去った。

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