2203年初頭、太陽の核融合異常増進による人類滅亡の危機は、ヤマトがシャルバート星からハイドロコスモジェン砲を受け取ったことで収束に向かいつつあった。
 この時期、ヤマトによって行われていた第二の地球探査の過程において、ガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦による星間戦争に巻き込まれていた地球防衛軍は、市民の移住および太陽制御を前にして太陽系が攻撃を受ける可能性を考慮し、探査船団に参加しなかった艦艇と、移民船建造の合間に細々と建造していた新型艦を太陽系外周に配置、敵対勢力であるボラー連邦の侵攻に備えていた。

 ヤマトが太陽系に帰還し太陽制御に向かった直後、防衛軍が「カイパーベルトD宙域」と名付けた空間に配置されていた探査衛星が、ボラー連邦の大艦隊(少なくとも180隻以上)を遠距離で捕捉した。
 この知らせは真っ先に、太陽系内の最前線基地である第11番惑星基地、および同基地に駐屯し、この時点で同惑星軌道上において訓練を行っていた第3警備艦隊(臨時編成)にもたらされた。

 艦隊編成は以下の通り。


第3警備艦隊

司令官 堀田真司宙将補

第2戦艦戦隊
A3型戦艦「薩摩」(旗艦)
改A3型戦艦「ドレッドノート(Ⅱ)」

第29巡洋艦戦隊
A2型巡洋艦「サンディエゴ」「ヨーク」「ローン」

第5警備戦隊
警備艇(元改A2型パトロール巡洋艦)「和泉」「クアルト」

第44駆逐隊
A2型駆逐艦「ホプキンス」「ホットスパー」「ブレストーズ」「スローヴイ」

第52駆逐隊
改A2型駆逐艦「吹雪」「五月雨」「秋雲」「早霜」

第63駆逐隊
C1型駆逐艦「春月」「夏月」「花月」

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 第3警備艦隊旗艦時の「薩摩」。完成時のA3型戦艦に比べ、対空兵装強化と砲塔天蓋への増加装甲追加などの改装が行われている(画像制作:はたかぜ工廠様)


 現在この警備艦隊に所属している艦は、通常いくつかの小部隊に分かれての哨戒活動に従事していたが、新規に編入された第63駆逐隊との共同訓練のため合流して行動していたのは幸いだった。ただちにボラー艦隊迎撃に向かうべしと第3警備艦隊司令部は色めき立ったが、司令官の堀田提督はある疑問を感じていた。
 彼は11番惑星の警備艦隊司令官として着任して以来、何度かボラー連邦艦隊との小競り合いを経験してきた。しかし、ボラー連邦は過去のほぼ全ての戦いにおいて小規模な艦隊を分散してワープで、あるいはレーダー妨害を行いながら送り込んで来ており、数に劣る11番惑星の警備艦隊は時に翻弄されることもあった。その戦訓がありながら、なぜこうして大規模な戦力を集中して、それもこれ見よがしに存在を示しながら進撃してくるのか。

 今のボラー連邦が、地球人類が滅亡の危機に瀕していることを知らないはずはない。それなら敵対勢力である以上、その滅亡を促進するのはむしろ当然であり、そのために現在真っ先に目標とすべきはヤマトではないのか。

 「こちらを引き付けるための囮かもしれない」

 堀田提督はそう判断し、ただちに地球防衛軍司令本部と各太陽系惑星基地、そして太陽に向けて航行中のヤマトにボラー艦隊来襲の報を打電させた。しかし、既に太陽に極めて近い宙域を航行していたヤマトは不運にも太陽から発せられる電磁波の影響でこの通信を受け取ることができず、結果としてこの後、ベムラーゼ首相直隷の機動要塞および艦隊と単独で交戦することになる。
 もちろん戦後にわかったことだが、第3警備艦隊が向かっている先に存在するボラー連邦の艦隊は堀田提督の読み通り、ベムラーゼ首相指揮下の本隊が太陽系に侵入するのを支援するための囮部隊だった。とはいえ、囮だからと第3警備艦隊がこれを無視すれば、敵艦隊は悠々と太陽系の外惑星に攻撃を開始するだろう。この時期、冥王星にはA5型戦艦2隻を中心とする一定規模の艦隊が駐留していたが、地の利がない宙域で当時太陽系に残留している防衛艦隊の数倍にもなる規模の艦隊を止める術など、ヤマト以下の強力かつ新鋭の戦艦をすべて第二の地球探査に振り分け、太陽系内に配備された艦隊が従来艦と訓練未了の新型艦で編成されている現在の地球防衛軍には存在しない。ゆえに、第3警備艦隊は何があろうとこの敵艦隊を迎撃するしか道がなかった。

 再び、第3警備艦隊は味方に宛てて打電する。

 「我が第3警備艦隊はボラー連邦艦隊の太陽系侵入を阻止すべく、カイパーベルトD宙域に向かう。敵戦力極めて強大につき掩護を求むが、別方面からのボラー連邦軍の来襲にも注意されたし」

 同時に、11番惑星基地に対して戦闘機による支援要請も行われた。なお、これらの通信はボラー連邦の国家元首動くとの報を受けて太陽系に向かっていたガルマン・ガミラス帝国のデスラー総統直属艦隊にも傍受(発信されたのは暗号電文だったが、友好国であるため双方の暗号システムが一部共有されていた)され、同艦隊がヤマト掩護に急行するきっかけになったとされている。

 厳しい戦いが予想されたが、それでも第3警備艦隊には一応の勝算があった。カイパーベルトの小惑星、および氷塊を利用した遅滞戦術を行えば、太陽系内に残留する防衛艦隊が集結して自艦隊の掩護ないし敵の別動隊に対処してくれる可能性はある。敵の1/10の戦力で長くは持たないかもしれないが、仮に自艦隊が壊滅しても太陽の制御にさえ成功すれば地球は救われるのだ。そうなれば、いかにボラー連邦の大艦隊といえど太陽系に留まる理由は低くなるはずだ。第3警備艦隊司令部はそこまで腹を括っていた。

 ともあれ、敵艦隊に先んじてカイパーベルトD宙域に到着した第3警備艦隊だったが、編成上は18隻と当時の地球防衛軍としては有力な艦隊ではあったとはいえ、その内情は決して楽観視できるものではなかった。
 先の暗黒星団帝国戦役における重核子爆弾の影響で、太陽系外周に配備されていた艦艇は艦そのものは無傷だったものの、その乗員全てを一度に喪失していたからである。当面は最前線に配備されるということもあり、第3警備艦隊の各艦に着任した乗員はまだ比較的練度に恵まれたほうではあったが、新鋭のC1型駆逐艦で編成された第63駆逐隊は艦隊行動に一応問題なく追従できる程度というレベルであり、C1型駆逐艦が既存の巡洋艦以上の大型艦となっていることも手伝って、とても駆逐艦らしい機動戦は期待できない。

 また、この時期の地球防衛軍の艦艇は、対抗すべきボラー連邦の艦艇に対して「衝撃波砲の通常エネルギー弾の威力不足」という大問題を抱えていた。もちろん中距離程度での射撃で多数の命中弾を与えれば通常弾でも敵艦の撃破は可能だったが、これまでアウトレンジ攻撃を志向し衝撃波砲の威力、射程の向上に躍起となっていた地球防衛軍にこの問題は大きなショックを与えていた。
 これには当時、地球防衛軍で最も大口径の衝撃波砲を搭載していたヤマトですら悩まされ、スカラゲック海峡星団会戦で敵の大艦隊と交戦した際には二式波動徹甲弾(波動カートリッジ弾)を撃ち尽くすまで乱射し、ようやく敵の前衛部隊を崩して勝利を収めたというほどであった。
 当然、これまでのカイパーベルト宙域で行われた戦闘でも、ヤマトより火力で劣るA型戦艦はその主砲の威力不足が深刻に受け止められていた。一応「ドレッドノート(Ⅱ)」は門数こそ少ないがヤマトと同じ九九式三型46cm砲を搭載し、二式波動徹甲弾も少数ながら配備されていたからまだよかったが、この新型徹甲弾に対応する改装が行われていなかった「薩摩」はこれまでの敵艦隊との交戦でかなりの難渋を強いられていた。また、A型戦艦の主砲を改良した砲(一式三型40cm衝撃波砲)を搭載したC1型駆逐艦は正面での撃ち合いにその速射性能を発揮することは期待できても、二式波動徹甲弾なし(元々運用能力が付与されていなかった)でどこまで有効打を与えられるかは、これまで実戦で戦った経験のない艦型だけに未知数だ。まして、現状は波動砲を撤去し20cm砲しか搭載していないA型巡洋艦クラスの艦に多くを望むのは無理がある。

 ならば雷撃戦はどうか。第52駆逐隊を構成する改A2型駆逐艦は新鋭艦に配備が始まった大型魚雷に対応した艦で、暗黒星団帝国戦役では内惑星宙域にいたため乗員が無事だったこともあり、その水雷襲撃には大きな期待が持てる。もう一方の第44駆逐隊も艦は白色彗星帝国戦役時と同じ旧来の雷装ではあるが、側面攻撃に成功すれば正面以外は脆いボラー連邦の大型艦にも相応の効果が見込めるはずだ。しかし、今回はあまりに敵艦の数が多く、突撃のタイミングを誤れば返り討ちは免れないだろう。

 では戦艦装備の波動砲はというと、少なくともこの時点で使用を考慮するなど論外である。あくまでカイパーベルトに浮遊する小惑星や氷塊を利用した遅延戦術が目的なのに、そのために必要な浮遊物を自ら吹き飛ばしては全く意味がない。

 このように寄せ集め、かつ決め手に欠く艦隊で、いくら囮と思われるとはいえ10倍の戦力を持つ敵に挑むなど、普通に考えれば無謀と言うしかない。しかし退くという選択肢は既になく、そして彼らにはまだ二つの幸運があった。
 一つは、艦隊司令官の堀田宙将補が、当年33歳と若いながらもガミラス戦役から暗黒星団帝国戦役までを戦い抜いて生き残った経験豊富な提督であること。
 そしてもう一つは、艦隊が戦闘予定地点に到着後程なく、恐らく天王星宙域から入った「ある一隻の艦」からの入電だった。

 「貴艦隊の支援要請を受信せり。これより、本艦は連続ワープにて直ちに掩護に向かう」

 この通信を受けた堀田提督は、事前にAからDまで用意してあった作戦プランに「E」を加え、敵艦隊が戦闘宙域に入る直前にその「プランBからプランEに移行する」作戦を準備、各艦の配置と「薩摩」「ドレッドノート(Ⅱ)」に搭載されていた偵察機各1機の発艦、そして「来援する一隻の艦」への具体的な行動要請も完了させていた。

 戦闘開始直前、堀田提督はこう全艦に訓示したと伝わる。

 「苦しい戦いだが、勝つための作戦は用意してある。各艦、この戦闘で総力を挙げての奮戦と、同時に生還を期待する」