地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

2020年03月

 ガルノー・ゲーア少佐。ガミラス太陽系方面軍、海王星基地駐屯艦隊の指揮官である。

 彼は先のガミラス戦役時、当初はシリウス方面にて作戦していたが、冥王星基地の壊滅から始まる地球側の太陽系宙域奪還作戦『レコンキスタ』に対応し、太陽系内で地球艦隊と戦闘を行った経験があった。
 だが、その戦いは彼にとって無念さを禁じ得ないものだった。特に初戦となったアステロイドベルト宙域の会戦では、地球防衛軍の新型駆逐艦部隊に味方駆逐艦部隊は翻弄され、実に参加した11隻の駆逐艦のうち7隻を失うという惨敗を喫した。この駆逐艦の大量損失による偵察能力、敵軽快部隊に対する対応力の低下が、ガミラスが地球側の言う『レコンキスタ』で最終的な敗北を喫した理由の一つとなってしまったため、同僚や部下を多く失った彼の悔恨は更に深いものとなったのである。

 (あの『蒼い駆逐艦』……)

 地球側の新鋭駆逐艦部隊の、恐らく司令駆逐艦。この艦の見事な戦術機動と麾下の艦艇への指揮が、彼の見る自軍駆逐艦部隊の最大の敗因であった。そしておよそ三年が経過し、太陽系に赴いた機会にその駆逐艦を率いていた艦長の存在を求めていたのだが、彼はようやく見つけたのである。

 彼の言う『蒼い駆逐艦』が『レコンキスタ』戦当時、現在の防衛軍でパトロール巡洋艦などが採用している偵察艦用の青色迷彩を試験的に施していた『神風』であり、その艦長かつ駆逐隊司令代行だったのが『薩摩』艦長である堀田真司であることを、今のゲーアは承知していた。そして、今度は友軍となった堀田の実力をもう一度見極めると共に、訓練の場とはいえ内心密かに雪辱を期していたのだった。


 「海王星軌道も間もなくだ、艦の状況を報告してくれ」

 堀田が言うと、各部門の責任者がまず副長の三木に報告する。それを取りまとめた三木が言った。

 「各部、異常ありません。いたって順調とのことです」
 「そうか。これからの訓練は相当に実戦に近いものとなるだろうから、準備は怠らないようにな」
 「了解、伝えます」

 その訓練の相手が、かつて自分が敗北を味あわせた士官だということを、今の堀田は知らなかった。

 (海王星のガミラス艦隊は宙雷戦隊だと聞くが、その力量はなかなかのようだ。戦艦で宙雷襲撃にどう対応するか……私にとっては『逆の戦い』とも言えるが、色々試してみることにしようか)

 そんなことを考えていると、船務長の沢野から報告が入った。

 「海王星軌道に到達、海王星を確認しました」
 「そうか、パネルに……」
 「待ってください、これは……?」

 沢野が戸惑ったような反応を見せた。

 「どうした、船務長」
 「はい、少し海王星付近の様子が……パネルに出します」
 「頼む」

 艦橋のスクリーンが海王星とその周辺宙域を映し出す。沢野がなぜ戸惑った反応を見せたか、堀田以下他の乗員たちもすぐ理解した。

 「これは、何があったんだ?」

 海王星の周辺にガミラス艦隊の姿はなく、そこには自軍……つまり地球防衛軍のパトロール艦と護衛艦が合わせて10数隻ほど待機していた。これらは最近、軍備の変更で金剛型戦艦や村雨型巡洋艦と入れ替わりに配備されていた艦隊で、主に太陽系外周の哨戒を任務としていたため今回の訓練に参加する予定はなかった。

 「いずれにせよ、ガミラス艦隊がいないのは妙だな。通信長、海王星基地に通信を送ってくれ」
 「了解……海王星基地、出ます」

 スクリーンが今度は海王星基地の内部を映す。しかし、そこに現れたのは海王星基地司令の姿ではなく、堀田にとって会ったことのない士官の姿だった。階級章を見ると三佐のようだ。

 「海王星基地補給参謀、真壁誠三佐です。現在、基地司令は手が離せませんので、僭越ながら私が代わりに応対させていただきます」
 「『薩摩』艦長の堀田真司だ。真壁三佐、よろしく頼む。まずは現状、何が起こっているか説明してもらいたい」
 「はい。先ほど我が基地の偵察艦が、哨戒中にガトランティス艦隊を発見。ガミラス艦隊はこれを迎撃に向かいました」
 「敵艦隊だって! その規模は!?」
 「確認しただけでも40隻程度、若干の未確認艦も存在する可能性があります」
 「我々からすれば大艦隊だぞっ! なぜガミラス艦隊と共に迎撃に出なかった!?」

 堀田は大声で怒った。海王星基地艦隊は哨戒部隊とはいえ、パトロール艦も護衛艦もショックカノンは当然のこと、波動砲さえ装備しているのだ。それだけ一定の戦力として期待できる艦隊をなぜこんなところで遊ばせているのか? まさかガミラス艦隊を見捨てたのかという疑問を禁じ得なかったのだが、真壁はあくまで冷静な表情と口調で答えた。

 「敵戦力が強大であるため、当方はいったん軍民共に海王星から避難することを進言しましたが、ガミラス艦隊のゲーア司令が受け入れなかったのです。『我々が敵を食い止めている間に脱出せよ』と言われましたので、現在、我々は民間人を乗せた輸送船団の準備を行っています」
 「あちらが先走ってしまったのか……怒鳴ってすまなかった」

 そうは言ったものの、このままガミラス艦隊を放置しておいてよいのだろうか。堀田の脳裏にはこのとき、様々なことが去来していた。

 (かつての怨敵、か……)

 自分とて、婚約者をガミラスとの戦いで奪われた過去がある。この『薩摩』に乗り込んでいる乗員たちも、ガミラス戦役で家族や友人など大切な人々を奪われた者は少なくない。そうした事実を知るが故か、今の『薩摩』艦橋の全員が半ば呆然として堀田の様子を見ている。しかし、彼はこういう状況で動かないような腰の重い人間ではない。

 (いや、そんなことを考えている場合ではないな)

 気を取り直し、再びスクリーンの真壁に視線を向ける。

 「真壁三佐。海王星基地艦隊だけで、民間人を乗せた船団を後送することに問題はないか?」
 「敵の大部隊に奇襲されなければ、問題ありません。しかし……」
 「そうか、ならば君から聞くべきことはここまでだ」

 何か言いたげな真壁の言葉を、強引に遮った。

 「『薩摩』はこれより、ガミラス艦隊の援護に向かう。基地司令にはそう伝えてくれ」
 「……了解しました、ご武運を」
 「そちらも無事を祈る」

 最後まで表情を変えないまま敬礼する真壁がスクリーンから消えると、堀田は直ちに命令を下す。もちろん真壁が言ったように、目の前のガトランティス艦隊の他に敵艦隊がいないとも限らず、その別動隊に避難船団が攻撃される危険はある。だが、ガミラス艦隊が突破されてガトランティス艦隊がこの宙域になだれ込んでくれば、足の遅い避難船団は追い付かれて蹂躙されるだけだ。
 危険な賭けだが、堀田の手元にあるのは戦艦とはいえ1隻のみ。ここはまず、ガミラス艦隊が突破されることを防ぐしか方法はないと判断したのだ。

 「これより、ガミラス艦隊と共同してガトランティス艦隊の迎撃に向かう。全艦、第一種戦闘配置!」
 「「了解!」」

 幹部乗組員たちの声が気持ちよく響く。『薩摩』にとって初めての実戦は、あまりに唐突な状況で行われることになった。


 「くそっ、敵の数が多すぎる!」
 「あいつら、こっちの陽動に乗ってこない。どうする!?」

 味方艦から飛び交う通信を、ゲーアは苦々しく聞いていた。

 (何故だ、何故奴らは陣形を崩さない?)

 内心でそう思う。敵はラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦を中心とした軽快部隊であり、ゲーアとしてはガトランティス艦より自軍のケルカピア級高速巡洋艦やクリピテラ級駆逐艦の機動力が勝ることを生かし、機動戦で敵戦力を漸減するつもりでいたのだ。そうすれば勝算も十分にあった。
 だが、何故か敵はこちらの機動戦に乗ってこない。どれだけ撃沈、撃破艦を出しても、あくまで球形陣を崩さぬままにこちらの攻撃へ応戦してくるだけなのだ。

 そうなると、数の上で不利なガミラス艦隊のほうが厳しくなる。敵が機動戦に乗ってこない以上、こちらも足を止めて撃つしかないのだが、こうした消耗戦ではいずれ全滅するのは味方のほうなのだ。

 (このまま海王星方面へ転進し、地球艦隊と合同で仕切り直すか……)

 冷静にゲーアはそうも考えたが、すぐそれを打ち消した。それでは海王星の地球、ガミラス双方の民間人に被害が及ぶ可能性があり、何より自分が「敵を足止めする」と強硬に主張して出てきてしまったのだ。ここで退くのはガミラス軍人の誇りが許さなかった。

 「司令、我が軍の損失8艦! どうしますか!?」

 海王星に駐屯するガミラス艦隊の総数は24隻。すでに1/3の艦艇を失ったことを告げる通信士の悲鳴に近い言葉にも、ゲーアはすぐに命令を下すことができなくなっていた。


 「艦長、前方に交戦中のガミラス、ガトランティス艦隊発見!」
 「メインスクリーンに出してくれ」

 『薩摩』はレーダーの探知可能範囲限界から、交戦中の両艦隊を捕捉する。その状況を見て、堀田はすぐガミラス艦隊の不利な状況を理解した。

 (敵が機動戦に乗ってこない……あれではガミラス軍の長所が殺されて不利だが、敵も損害が大きくなる。いったいどういうことか)

 敵の意図が読めない。しかし、この状況をひっくり返す方法を『薩摩』は持っていた。

 (あれを、使うのか……)

 拡散波動砲。既に第八浮遊大陸戦で用いられていたため、それ以前にかけられていた使用制限が解除されていたからここで発射は可能だ。そして敵の密集した陣形は、この場から最大射程で拡散波動砲を発射すれば、間違いなく壊滅に追い込める状況なのだ。

 普通の士官なら、何のためらいもなく撃つ局面だったろう。だが……

 (それで、本当にいいのか?)

 沖田はじめヤマト乗組員たちの志を汲んで、自分も波動砲艦隊に猛反対してきた。その膨張を防ぐため、恩師である土方を無理やり全艦隊の指揮官に引っ張り込んだ。そこまでやった自分が、沖田とスターシャの約束を踏みにじることになるのだ。ためらいを覚えるなというほうが無理な話ではあったろう。

 「艦長……」

 林がつぶやくように声をかけてきた。彼女は戦術長として、今の状況で拡散波動砲を撃つ意味を理解していたはずである。だが、自分たちの艦長がこれまで何をしてきて、何を考えてきたか。それも承知しているから、押し切ることができないのだ。

 ほんの短い時間。しかし、当事者たちにとっては永遠とも思えるような時間が『薩摩』艦橋に流れていた。

 「ガミラス艦隊、戦力半減! 限界ですっ!」

 沈黙を破る沢野の声を聞き、堀田は顔を上げた。

 「やろう」
 「艦長!」
 「確かに、私は波動砲艦隊に反対してきた。沖田さんの遺志を無駄にしたいとも思わない。だが、ここは撃つべきだ。どんなことがあっても、味方を見捨てる戦いは地球防衛軍にはない。沖田さんや土方さん、ヤマトの彼らとてきっとここなら撃つ。私もその覚悟で臨もう」

 一つ、堀田は深呼吸する。そして、いつも以上に通る声で命令した。

 「拡散波動砲、発射用意!」
 「了解……拡散波動砲、発射シークエンスに入ります」

 三木が冷静に、しかしここぞを得たりと返事をする。

 「戦術長、すまないが引き金は私がもらうよ」
 「艦長、それはっ!」
 「これは、私が乗り越えなければならない壁だ。君らこの『薩摩』乗員や今、目の前にいるガミラス艦隊だけではない。これから先、多くの人を生かすための戦いに必要なことなんだ。だから、頼む」
 「……わかりました、お任せします」
 「ありがとう……通信長、船務長が示す座標から退避するよう、ガミラス艦隊に伝えてくれ」
 「了解、すぐ伝えます」

 その返事を聞き、艦長席の椅子で姿勢を正す。目の前には既に波動砲発射用のトリガーが準備されていた。

 (沖田さん、申し訳ありません。撃ちます!)

 引き金に指をかけ、内心でそう詫びる。それが済んだ次の瞬間、もう堀田の心から迷いはなくなっていた。

 「拡散波動砲、発射10秒前! 対ショック、対閃光防御!」

 全員が準備を整え、堀田がカウントダウンを始める。そして、ガミラス艦隊の退避が完了した直後……

 「3、2、1……拡散波動砲、発射!」

 目一杯の力で引き金を引く。そして次の瞬間『薩摩』の艦首から青白い、眩いばかりの閃光が打ち出された。

 (……行けるかっ!)

 閃光は、周囲のデブリを消滅させながらガトランティス艦隊に向けて直進していく。そしてその閃光は、着弾点の少し手前で『傘のように』拡散した。
 『薩摩』艦橋で見守る全員の前で大爆発が起こる。密集し『薩摩』の存在を探知するのが遅れていたであろうガトランティス艦隊は拡散波動砲になす術がなく、たちまちほぼ全艦がエネルギー流に飲み込まれて爆発、炎上して燃え尽きていた。

 「……敵艦隊、ほぼ消滅。ガミラス艦隊が残存艦の掃討に入った模様です」
 「了解した」

 短く答えた堀田だったが、映像でしか見たことのない波動砲の威力。そのあまりの破壊力に、彼らしくもなく呆然としていた。

 (『私たちのような愚行を繰り返さないでください』か……)

 スターシャが沖田に語ったという言葉が頭をよぎる。このような兵器に魅せられてしまっては、いずれ地球人もかつてのイスカンダル人のような愚行を繰り返すのかもしれない。いや、そんなことはさせない。それが自分の役目だと、改めて堀田は自覚するのだった。

 だが、その思考も長くは続かなかった。

 「航海長っ!」

 沢野が大声を上げた。

 「は、はいっ!」
 「今すぐ転舵……いや、この座標から離れて! 早く!」
 「わ、わかりましたっ! 右舷スラスター全開!」

 初島が『薩摩』を強引に左方向へと移動させる。これには堀田も驚いたが、更なる衝撃は次の瞬間だった。
 突如、炎の塊が『薩摩』の右舷を通過していった。それが何であるか、ヤマトの戦闘詳報も念入りに研究していた堀田は瞬時に理解した。

 (火焔直撃砲! まさかっ!)

 敵艦隊にメダルーサ級戦艦がいたのか、と思ったと同時に、沢野と初島に感謝しきれなかった。自分が一瞬、呆然となった瞬間を狙ったかのように、敵は火焔直撃砲を撃ってきたのだ。もし沢野が声を上げず初島も対応しなければ『薩摩』は撃沈されていたのである。何たる油断かと自分を責めつつも、優秀な自分の艦の乗員をありがたく思うのだった。

 「船務長、敵にメダルーサ級戦艦がいたのか?」
 「いえ、探知していません。探知したのは転送システムのエコーだけでした。それでもしやと思い……」
 「いや、見事な判断だった。船務長、そして航海長、ありがとう」

 二人に礼を言うや、前方で敵艦隊を掃討中だったガミラス艦隊から通信が入った。

 「艦長、先ほど撃破した敵艦隊の後方に主力と思われる艦隊を発見したとのことです。構成はメダルーサ級1、カラクルム級4、ククルカン級2」
 「わかった、ガミラス艦隊にはこちらへの合流を要請してくれ。本艦もただちに前進する」

 河西に指示を与えておいてから、堀田は下命した。

 「これより、敵主力艦隊を攻撃する。『薩摩』第一戦速にて前進!」

 海王星宙域での戦いは、未だ終わる気配を見せていなかった。

 その日『薩摩』は月面基地にて出撃準備を整えている途中だった。

 といっても、戦場に赴くための準備ではなかった。先日、ガミラス軍海王星基地駐屯艦隊から『地球防衛軍の一個戦艦戦隊と共同で演習を行いたい』との申し出があり、これを受けた防衛軍は、間もなく慣熟訓練を終える予定であった第28戦艦戦隊を差し向けることに決定したのである。
 だが、今回の訓練には『薩摩』のみが参加することとなっていた。先日の訓練中『丹後』と『周防』が接触事故を起こしてしまい、現在は両艦ともドックにて修理中だったからだ。

 「月面基地艦隊以外のガミラス軍との演習は、初めてですね」

 艦橋で言う三木の言葉に、艦長席に座った堀田もうなずく。

 「そうだな。聞くところでは、海王星艦隊は数こそ少ないが指揮官はなかなかに出来ると評判があるようだ。『薩摩』だけになってしまうのは残念だが、いい経験になるだろう」
 「艦長は、ガミラスの戦い方もかなり研究されたと聞きますが、どう思われます?」
 「やはり機動戦という点ではあちらに一日の長がある。波動機関を装備した艦に熟練していることもあるし、こちらは先の戦役で宙雷科の士官が壊滅しているからね……」

 その中に自分の先輩や同僚、後輩それに教え子が何人いたことか。今更ガミラスを恨もうとも思わないが、堀田もどうしても感傷的にはなってしまう。

 「だからこそ、学ばなければならない。同盟軍とはいえ、そうそう戦場で後れを取るわけにはいかないから」
 「そうですね」

 そう三木が言い終わった瞬間だった。

 「何だ?」

 突然、月基地全体に警報が鳴り響いた。明らかに異変を知らせるそれは、先日、地球の大気圏内まで突入してきた敵カラクルム級戦艦のことを思い出させた。

 「通信長、敵襲かどうか基地本部に問い合わせてくれ」

 堀田が河西にそう声をかけたが、河西はどうやらどこかと通信中のようだった。そしてそれが終わったと見るや、穏やかで比較的冷静な通信長の顔は明らかに青ざめていた。

 「か、艦長! 防衛軍本部より、き、緊急電です」
 「敵襲か? それとも事故か?」
 「いえ、違います。『これより『薩摩』は直ちに月基地を出撃。木星軌道上にて訓練中の『アンドロメダ』と合流せよ』とのことです」
 「何だって?」

 先に声を上げたのは三木だった。堀田はまだ表情を崩さない。静かに河西に問う。

 「通信長、本部は理由を言ってきたか?」
 「は、はい。それが……」
 「早く言いなさい」
 「はっ……『叛乱艦『ヤマト』を追撃せよ』とのことです」

 聞いて、堀田と三木は顔を見合わせていた。

 「か、艦長……どういうことでしょうか?」
 「……」

 三木もまた青ざめていたが、堀田はこのとき、先日自分が抱いた疑念がとうとう現実になってしまったことに強い悔恨の念を抱いていた。

 (また後手に回った。また、何もできなかったのか……)

 いつもそうだ。自分は実戦部隊にいるから、確かに広い視野に立って何かをするということは難しい。しかし、今度のことは全く予想できなかったことでもなかった。対応はできなかったのかという自責を禁じ得なかったが、今はそのような繰り言を口にしている余裕はない。

 「艦長、防衛軍本部が返信を求めていますが……」

 河西の言葉に、堀田は手のひらを前に出して「少し待ってくれ」という意思表示を示した。

 (さて、こうなった以上私はどうするべきなのだろうか……)

 仮にも地球を救った英雄たちが、今度は叛逆者の汚名を着ようとしている。それだけでも尋常なことではないが、堀田真司という人間にとって、今の防衛軍首脳とヤマト乗組員たち、どちらを信じるべきなのか? その一点だけを考えれば、およそ結論を出すにはそう時間はかからなかった。

 艦長室のコントロールパネルから、堀田は機関室への音声マイクのスイッチを入れた。

 「……出撃は不可能だ」
 「えっ?」
 「本艦『薩摩』は訓練航海への出撃準備中、機関部に破損を発見した。修理におよそ一日はかかる。突貫工事を行うが、即時の出撃は不可能である。防衛軍本部にはそう返事をしてくれ」
 「で、ですが……」

 それが嘘だと承知している河西は戸惑ったが、堀田の表情をしばらくまじまじと見つめるや、黙って口を開いた。

 「……了解しました。こちら『薩摩』。本艦は現在、機関部に発見された破損を修復中。出撃まで一日程度を要する。繰り返す……」

 河西の声を聞きながら、堀田は今度は三木を見やる。こちらも納得したような表情を見せていた。

 「やはり、守さんの弟さんは止められませんか」
 「だろうね。そして、今度の行動にはきっと何か重大な理由がある。私は進君たちヤマト乗組員らの判断を信じることにしたい」
 「個人的な思い入れからですか? それは」
 「全くないとは言わない。だが、多分そのほうが地球のためにもなると信じている」
 「わかりました。副長として、艦長がそのお覚悟なら何も申し上げることはありません」

 直後、機関室から来島の声が聞こえてきた。

 「艦長、機関破損って何のことです? それに……」
 「詳しい話は後だ、機関長。とにかく本艦の機関は『破損して』いるんだ。一日やるから、じっくりと修理にかかってくれ」
 「……へいへい、じゃ、取っかかるとしますか」
 「頼む」

 言い終わるや、堀田は三木に「しばらくここを頼むよ」と告げ、いったん自室へ引き取った。


 それから一時間ほど経っただろうか、何やら自室で物思いにふけっていた堀田は、艦長室に戦術長の林を呼んだ。

 「戦術長、今回の訓練航海に必要な物資が増えたのでね。ここに一覧を作っておいたから、主計長と相談して早速の積み込み頼む」
 「は、はい……」

 人の口に戸は立てられぬ、というが、林をはじめ『薩摩』乗員たちのすべてに、もう『ヤマト叛乱』という噂は流れていた。
 堀田から受け取った必要物資が網羅された紙を見て、林は明らかに愕然としていた。

 「こ、これは……これでは本艦は、ヤマトの叛乱に加担することになるのではないでしょうか?」
 「ヤマトが叛乱? 誰がそんなことを言ったんだい?」
 「艦長!」

 冗談では済まない。防衛軍からはもう『ヤマトを追撃せよ』という命令が下っているのだ。その命令を嘘をついてまで従わず、しかも自分が手にした紙に書いてある物資まで積み込むなど、林にはもはや正気の沙汰とは思えなかった。
 困惑している彼女に、堀田は静かに言った。

 「戦術長、私はこの艦の命名式のときに言っている。『最後に艦の責任を取るのは私だ』と。申し訳ないが、今回は命令違背を許すことはできない。もし私が罰せられたとしても、君たち『薩摩』乗員の他の誰一人として、累が及ばないようにする。今は私を信じてもらえないだろうか」
 「……」

 林は沈黙し、迷いの表情を見せる。しかし、それも長いものにはならなかった。今の防衛軍で、自分のこの上官以上に信じられる士官がいるのか? いないのである。

 「……わかりました。ご命令、直ちに実行いたします」
 「ありがとう」
 「しかし、もしこの基地の司令部から何か言ってきましたら……?」
 「私の命令だと言っておけばいい。ついでに『これからの任務に必要だから』と付け加えておけば、恐らく文句は出ないだろうよ。出たら、私がごり押しするから任せておきなさい」

 了解しました、と答えて下がる林の背中を見つつ、堀田は内心で考えていた。

 (安田さんなら、気づいても私の邪魔はしないだろうな)

 邪魔をする気なら『薩摩』が出撃命令を不可とした時点で、陸戦隊が乗り込んできて自分の艦の指揮権を奪うくらいの手が打たれているはずだ。堀田は決して、安田俊太郎という提督の人格と力量を見誤ってはいなかったのである。

 「アンドロメダが、ヤマトの追跡を開始したそうです」

 艦橋に戻ると、三木からそう報告を受ける。「そうか」とだけ答えると、堀田は艦長席に座ってまた考え始める。

 (進君、後は土方さんを納得させることができるかどうかだ……それ次第ではあるが)

 それが難問であることなど、もちろん百も承知であった。


 数時間ほどして、堀田はある二尉の訪問を受けた。想像通り、と言うべき来訪だった。

 「何かあったか、加藤君」

 やってきたのは、加藤三郎二尉だった。

 「はっ、非常に手前勝手なお願いではありますが……」
 「その前に、こちらから聞こう」

 加藤の言葉を遮り、続けた。

 「真琴さんは……君の細君は、何と言って君を送り出した?」
 「は?」
 「何と言って君を送り出したのか、と聞いている」

 このときの堀田の目には、まるで容赦がなかった。

 「『格好いい父ちゃんでいてよ。翼のために、そして……私のために』と」
 「……」

 一瞬、考え込む。それから、堀田は静かに口を開いた。

 「そうか、それならいい」
 「えっ?」
 「君が何を頼みに来たのかは、わかっている。『ヤマトに連れていけ』だろう?」
 「……」

 完璧に見透かされていて、加藤は返す言葉がなかった。

 「細君が止めるのを振り切ってきたのなら、私は君を無理やりにでもこの艦から降ろすつもりだったが、そういうことならそれでいい。君の頼み、引き受けることにするよ」
 「きょ、教官っ!」
 「ただし」

 堀田は、更に真剣さを増した表情を見せた。

 「生きて帰ってこい。そして、格好いい父ちゃんの姿を翼君に見せてやれ。それが細君だけではない、私との約束でもあると心得ておいてくれ」
 「はいっ!」
 「で、だ。君が乗る飛行機だが……どうする?」
 「あっ……」

 どうやら、そこまでは頭が回っていなかったらしい。今更、艦載機でヤマトを追いかけても途中で燃料が尽きてしまう。だから『薩摩』に連れて行ってほしいと要望に来た加藤だったが、身一つで行ったところで働きようがない。

 「それについては……」

 表情を変えず、堀田は言った。

 「これから、この艦の格納庫を見ておいてくれ。それで納得したら、ヤマトで存分に働いてくるといい」
 「……?」
 「ヤマトがなぜ発進したか、いろいろ聞きたいことはある。だが、それは本艦が出撃してからにするとしよう。さあ、格納庫を確認したら、君は密航者なんだ。主計長に言って仮の部屋を用意してもらいなさい」

 訝しさを残したまま、加藤は敬礼して艦長室を出る。だが格納庫に行ってみると、そこに自分が使っていたコスモタイガーⅡを見出して、驚愕と共に堀田に深く感謝するのであった。

 「艦長」

 一人の密航者を乗艦させてから数時間後、林が堀田の元へ報告にやってきた。

 「九八式48cm砲用の三式融合弾24発、本艦弾薬庫に収納いたしました」

 九八式48cm砲は、ヤマトに主砲として搭載された艦砲である。『薩摩』は41cm砲搭載艦であり、そしてこの月面基地には現在、九八式48cm砲を搭載した艦は配備されていなかった。

 「ありがとう、手間をとらせたね」
 「いえ……艦長」
 「何だい?」
 「この贈り物、生きるといいですね」
 「……そうだな」

 このヤマト主砲用と言うべき三式融合弾、そして加藤が月面基地で訓練に使っていたコスモタイガーⅡ、いずれも堀田が林に命じて『薩摩』に搭載させたものだった。出撃を一日引き延ばしてヤマトへの追撃に参加せず、これらの『贈り物』を準備した上でワープ航法によってヤマトを追いかける。
 それが、堀田の最初からの考えであった。自分が罰せられることを覚悟した上で、ヤマト乗組員たちの判断に彼は賭けたのである。ヤマトは決して間違っていない、と。

 (まあ、個人的な思い入れというだけのことではあるのだろうがな……)

 自分もやはり、現実の見えない夢見がちな船乗りなのだろう。そんな自嘲めいた心境になる堀田だったが、いよいよ『薩摩』出撃まで一時間となった翌日、再び防衛軍から全軍に緊急電が届いた。

 「司令部より、太陽系全域の地球艦隊に達する。ヤマトの追跡を中止せよ。ヤマトに対する叛乱の嫌疑は晴れた。繰り返す……」

 まずはよし。土方さんや藤堂長官を納得させられたらしい。もちろん何の力がそうさせたかなど堀田には見当もつかなかったが、彼としては自分の部下たちも叛乱の巻き添えにしなくて済んだことを安堵するしかないという心境であった。


 月面基地を出撃した『薩摩』は太陽系内では殆どの艦が行わないワープ航法を用い、半日後、土星空域を少し過ぎたところでヤマトに追いついた。

 「ヤマト、発見しました」

 船務長の沢野から報告されると、堀田は言った。

 「ヤマトの様子はどうだ? こちらを探知した気配は?」
 「その様子はありませんが……それが何か?」

 沢野の答えを聞くや、今度は林にいつも通りの静かな声をかけた。

 「戦術長。一番砲塔、射撃用意」
 「ええっ!」

 林はもちろん、艦橋にいる全員が驚いた。ヤマトへの嫌疑が晴れたというのに、ここで攻撃してどうするというのだ。だが、堀田は薄笑いすら浮かべているような表情を見せていた。

 「こちらに気づいてないということは、叛乱の嫌疑が晴れて彼らも安心し切っているのだろう。それで油断するようでは先が思いやられる。ここで一発、喝を入れてやるとしよう」
 「で、ですが……」
 「慌てるな戦術長、もちろんエネルギー量を最小まで絞った上での威嚇射撃だ。それでヤマトがどう反応するか、見物しようじゃないか」

 でなければ、今までのこちらの苦労が報われないのだ。多少のいたずら心はあるにせよ、教え子たちが多く乗艦するヤマトにはそれくらいの指導はしてやらねばなるまい。

 「わかりました。主砲一番、発射用意……準備完了!」
 「テーッ!」

 堀田の命令一下『薩摩』から発射されたエネルギー弾はヤマトの艦橋上を通り過ぎていく。その直後、スクリーンに映るヤマトはもう三番砲塔と二番副砲でこちらへの反撃の構えを見せていた。

 「さすがに歴戦の艦、油断はないようだ」

 内心嬉しい堀田だったが、まともに撃ち返されてはたまらないので、すぐ河西に通信を送るように命じるのだった。
 ヤマトから通信が入る。『薩摩』艦橋のスクリーンに映し出されたのは古代の顔だった。

 「……堀田艦長、悪戯が過ぎます」

 渋い顔をする古代である。

 「いや、油断していたら先が思いやられると思ってね……ところで、今のヤマトは君が指揮官か?」
 「はい、自分が艦長代理を務めています」
 「わかった。そちらの飛行隊長である加藤二尉と、月面基地に保管してあった三式融合弾を届けに来た。こちらも任務があってあまり時間がない。すぐに引き渡したいので接舷を許可されたい」
 「了解、感謝いたします」

 古代が敬礼するや、スクリーンからその顔が消える。そして『薩摩』は加藤機を発進させ、それからヤマトに接舷して弾薬庫に搭載した三式融合弾の移送を開始したのだった。



 その作業中、堀田はヤマト艦橋背面にある展望室で古代と話をすることにした。もちろん加藤からもある程度話を聞いているが、今回の計画の『首謀者』たる古代から、より詳しい話を聞く必要があった。

 「今回は思い切ったことをしたものだが、いったい何があったんだ? まさか理由もなしに君たちが叛乱覚悟で出撃するとも思えないが」
 「……申し訳ありません、教官にはご心配をおかけしました」
 「それはいいから、今は理由だけ教えてくれないか」
 「はい」

 古代の口から発せられた『理由』とは、ある程度わかっていたとはいえ驚くべきものだった。

 まず、第八浮遊大陸でのガトランティスとの戦いの直後、元ヤマト乗員たちだけが見た、死んでいった近しい人たちの『幻』。そして、それを彼ら彼女らに見せた女性『テレサ』の存在。
 そのテレサに導かれた者は、あるべき未来に従って成すべきを成さねばならない。これはガミラスの地球大使であるバレルから情報を得たのだというが、ガトランティスがこのテレサを狙っているということ。それが地球やガミラスのみならず、宇宙にとって脅威になるということ。

 (あるべき未来を成す、か……)

 それは、恐らく今の地球と違ったもののはずだ。堀田にもそんな想いが芽生えていたのは間違いなかった。

 「……それで、ヤマトはそのテレサという人を助けに行くと?」
 「はい、自分は沖田艦長から『ヤマトに乗れ』と言われました。それは助けを求めている人、それが例えどんな遠い宇宙にいようとも、ヤマトは行かなければならないということだと。自分を含めて、今この艦に乗っているクルーたち全てがその想いでいます」
 「……」

 やはり、古代も自分も、船乗りはみんな同じだ。夢見がちで、時に現実から足が離れる。しかし、そうした『希望にすがり、見出す心』がなければヤマトの航海は成功しなかった。地球の未来はなかったのである。だが、そのヤマトが持ち帰ったはずの『未来』は、間違いなく歪み始めている。堀田とてその自覚はある。ただ、自分には古代と違って行動を起こすための勇気と知識を欠いていた。それだけのことなのだろう。

 「不確かな話ではあるね、正直な感想としては」
 「……」
 「だが、止めはしない。今だから言えるが、もっと半端な覚悟と理由だったら、叛乱の嫌疑が晴れたというだけでは君たちを行かせるつもりはなかった。しかし」

 手すりに手をかけて、堀田は宇宙を眺めていた。

 「叛乱者の汚名を受けるところまで腹をくくったのなら、教官として、あるいは上官として。そして……」
 「……」

 振り返り、古代の左肩にそっと手を乗せる。

 「後輩の弟だ、快く送り出してやらないとな」
 「……堀田さん!」
 「私の手土産は、無駄にはならなかったらしい。後は、一つだけ約束してくれ」

 堀田の目は、これまでになく真剣だった。

 「君には艦長代理としての器がある。それは私が教官として保証する。後は、必ず生きて帰ってこい。そして君がそうと思っている、今のろくでもない未来を叩き壊せ。私もこれからの戦いを生き抜いて、君たちのために力を惜しむつもりはない」
 「はいっ、お約束します」
 「それを聞けて、今は満足だ。航海の無事を祈る」

 堀田がそう締めくくり、互いに敬礼を交わす二人であった。


 ヤマトへの物資移送が完了し、接舷状態を解く。『貴艦ノ航海ノ無事ヲ祈ル』と発光信号でヤマトに送信するや、堀田は命じた。

 「これより、ガミラス艦隊との共同訓練を行うべく、海王星に向かう。『薩摩』発進!」

 この命令が、これから始まる『薩摩』の戦いの引き金を引くことに繋がろうとは、もちろん堀田以下『薩摩』乗員たちにとっては想像だにしないことであった。

 竣工し、公試運転を終えた『薩摩』は、当面は月面基地の練成艦隊に配属されることになった。いずれ後続の艦が完成すれば、A3型戦艦3隻で戦艦戦隊を構成することも既に決まっていた。
 その戦艦戦隊の司令官であるが、これは本来宙将補のポストである。しかし現在の地球防衛軍はガミラス大戦でベテランの士官を多く失った影響で、上級士官、特に将官は極めて不足していた。その数少ない将官はたいていどこかしらの艦隊を指揮しているものであり、とても一個戦隊の指揮官に回す余裕などない。

 「自分が戦艦戦隊司令官の代理を兼務、ですか」

 『薩摩』が月面基地に配属されたその日、基地艦隊を率いる安田俊太郎宙将補の元へ挨拶に出向いた堀田は、まずそう告げられた。
 この安田宙将補は堀田が砲雷長を務めていた頃の『キリシマ』艦長で、現在は防衛軍士官学校で校長を務めている山南修と同期であり、地球防衛軍においては艦隊航空戦術の専門家として知られる人物だった。また、堀田の初陣でもある『カ二号作戦』では、第二次火星沖会戦にて支援隊を率いて獅子奮迅の活躍を見せた、熟練の艦隊指揮官でもある。

 「そうだ。『薩摩』と戦隊を組む艦の艦長は二佐が予定されているから、君が最先任の士官となる。『薩摩』のみならず、残る二艦の指揮も同時並行で行うことになると承知しておいてくれ」
 「了解しました」

 幸い、自分には三木という艦の指揮に関しては信頼できる副長がついている。実は駆逐隊司令代理の経験が一度しかなく戦隊指揮に熟練しているとは言い難い堀田ではあるが、そこは『薩摩』らの訓練と共に自分を鍛えていくよりないだろう。

 一連の報告と命令が済んでから、安田が少し砕けた口調で声をかけてきた。

 「そういえば、山南が言っていたのが君か。堀田君」
 「はい?」
 「『俺の艦(『キリシマ』のこと)に面白い砲雷長がいる』と聞いていた」
 「は、はあ……」

 いささか戸惑った返事を返した堀田だったが、それを見た安田はにやりと笑った。

 「とにかく勉強熱心で研究心が旺盛、必要とあれば味方はおろか敵の模倣すらいとわない。生き残れればいずれ防衛軍にとって有用な人材になるだろうとも聞いたな」
 「それは、買い被りではないかと……」
 「いや『レコンキスタ』での君の奮戦を見ていて、山南の言っていることは間違いないと思った。君も慣れない戦艦の艦長という職務で苦労は多かろうが、きっと実力を発揮してくれると俺は期待しているよ」
 「ありがとうございます、最善を尽くします」

 その返事を聞いて、安田は少し表情を真剣なものへと変えた。

 「ときに堀田君、君は航空戦術を研究したことはあるか?」
 「いえ、専門的なことはまだ殆ど。偵察機による弾着観測など、基本的なことはある程度学んだつもりでいますが、実戦で有効に航空隊を生かすところまではまだまだかと……」
 「素直だな、そうとわかっているならそれでいい」

 安田が続ける。

 「自分で言うのも何だが、俺はその方面では一家言あるつもりだ。幸い、今は基地航空隊や空母戦隊もこの月面基地で練成を行っている。今後、君が戦艦戦隊の指揮官、あるいは戦艦艦長として航空隊と共同して戦う気があるのなら、俺も多少は教えられることがあるかもしれんな」
 「それは何よりです、是非学ばせて頂ければ私も幸いに思います。どうぞよろしくお願いします」

 土方、水谷、沖田、山南と、これまで『師と仰ぐ』先輩士官たちを得てきた堀田であるが、どうやら安田もまたその列に加わることになったようである。


 『薩摩』が月面基地に配属されてから程なく、共に戦隊を組むことになるA3型戦艦の8、9番艦『周防』『丹後』が配備されてきた。当面、この戦艦戦隊には『第28戦艦戦隊』という戦隊名が付与され、約三か月と設定された慣熟訓練が開始された。

 「厳しくやるつもりだから、覚悟しておいてもらえるとありがたい」

 面会一番『周防』『丹後』の艦長らにそう告げていた堀田だったが、その訓練の厳しさは月面基地でも評判になるほど常軌を逸していた。

 とにかく波動砲を主兵装とするはずの……これはあくまで防衛軍中央の認識であるが、その戦艦で構成される戦隊であるにも関わらず、運動戦の演習がこれでもかと続いたのである。波動砲発射の演習ですら、一隻、あるいは二隻が波動砲発射の体勢に入ったら残りの艦はこれを援護するという、他の隊では重視されないことも重点的に行っていた。また、訓練の過程で巡洋艦戦隊や宙雷戦隊との共同演習が繰り返され、ひたすら『足を止めて撃ち合うことを考えるな』という堀田の戦術思想が色濃く反映された訓練が続いていたのである。
 当然、階級の上下を問わず、他の戦艦乗員に比べて第28戦艦戦隊の人員に対する負担は大きくなった。当初はこれに不満を漏らす者も少なからずいたが、最上級の指揮官である堀田が自ら睡眠時間を削って演習を指揮し、終わればすぐその成果と課題を整理して次の訓練に備えている……などという熱心さを見せつけられ、また堀田の『休ませるときはきちんと休ませる』という姿勢が徐々に浸透したこともあって、そうした不満の声は程なく聞こえなくなった。

 この間、堀田自身は自らの戦隊指揮官としての未熟を自覚しつつ『薩摩』単艦の指揮は時に三木に任せつつも、可能な限り『薩摩』乗員と信頼関係の構築に勤しんだ。幹部乗員はともかく、それ以外の若い乗員たちは堀田をよく知らないものも多かったから、今のうちにと思ったのである。後に「『薩摩』とはすなわち堀田一家である」などと評されるようになるが、それはこの時の彼の努力によるところが大きかったようだ。
 また、安田に師事して本格的な航空戦も学びだした堀田は、自分が研究してきた宙雷襲撃との共通点や相違点、あるいは相互補完が可能な部分などを興味深く見るようになっていた。

 (宙雷襲撃は常に大損害というリスクがあるが、航空隊との共同作戦でそれを緩和できる可能性はないものかな?)

 この思考もまた、後の堀田にとって大きな財産となるのだが、今はまだ先の話であった。


 厳しい訓練の日々にも、ときには休日というものがある。そんなある日、堀田は月面に建設された『遊星爆弾症候群』の治療を行うサナトリウムに、とある一家を訪ねていた。

 「教官、すみません。お忙しいときに」
 「加藤君。来たくて来ているのだから、気にしなくていいよ」

 出迎えたのは、防衛軍の航空隊でもトップエースとして知られる加藤三郎二尉だった。航空隊と宙雷科ということでそれほど深い関係があるわけでもなかったが、堀田が士官学校宙雷科の新米教官だったころからの顔見知りである。もっとも、より深い縁があるのはその夫人のほうであった。

 「真琴さんと翼君の様子はどうだい?」
 「真琴はいいですが、翼は……」
 「そうか……」

 加藤の顔には生気がない。それだけで『翼』と呼ばれた加藤の息子の容態がよくないことを示していた。

 「会えないようなら帰るが、どうかな?」
 「いえ、会っていってください。二人とも喜びますから」
 「それはありがたい」

 翼のベッドに案内されると、加藤の妻の真琴が椅子に座り、翼が寝息を立ててベッドに横たわっていた。

 「堀田一佐、来てくださったんですか」
 「ああ、今日は訓練が休みなので。翼君とお話できるとよかったんですが……」
 「申し訳ありません」
 「いや、いいですよ」

 加藤真琴。旧姓原田だが、彼女は元ヤマトのメディックで、同じくメディックだった堀田の元婚約者である高室奈波の後輩である。
 真琴と会うと、堀田はどうしても嫌なことを思い出してしまうのだった。

 (誰が悪いわけでもない、などということは先刻承知なのだがな……)

 実は、奈波が遊星爆弾によって犠牲となったその日、彼女の行った現場に行くはずだったのは真琴だったのである。たまたま真琴が風邪をひいて代わりに奈波が出かけた結果が今の現実だった。奈波の葬式の時、真琴は「私のせいでっ……!」と泣きじゃくっていた。
 無論、堀田に真琴を責める気持ちはいかほどもなかった。

 「あなたのせいではない。もし奈波さんのことが気にかかるなら、こんなご時世であるけれど、あなたが幸せになればいい。それが奈波さんへの何よりの供養になると思ってほしい」

 そう声をかけたのが、昨日のことのように思い出される。そして真琴が加藤と結ばれ子ができたことは嬉しかったし、だがその翼が病魔に侵されていると知った時の絶望感はひとしおだった。
 そんなこともあって、月面基地に配属されてからの堀田は、時折このサナトリウムに顔を出して、加藤一家を極力励ましてきたのである。今では翼からもすっかりなつかれていたのだった。

 この日はあいにく翼が寝ていたので、堀田は真琴と世間話を始めた。

 「どんな難病でも、人間はいつか克服してきた。翼君もきっと元気になると、私は信じていますよ」
 「……ありがとうございます」

 知り合った頃に比べると目に見えて痩せた真琴と、最後にこんな会話を交わす。彼女は堀田を見送りに来たのだが、加藤は翼のところについていてこの場にはいなかった。

 「……堀田一佐、私」
 「はい?」
 「最近、サブちゃん……いえ、夫がいつか遠いところに行くような気がしているんです」
 「えっ?」

 驚くべき言葉である。そしてこのとき、堀田はいつ頃からか……確か先日、第八浮遊大陸宙域で地球・ガミラス連合軍とガトランティス軍が戦闘を交えた直後と記憶しているが、その頃から流れてくる『噂』を思い出していた。

 それに曰く『元ヤマト乗組員たちに何か不穏な動きがある』。

 どうしてそのような事態になるのか、堀田には見当がつかなかった。政治に無関心であるがゆえに、彼には中央への情報網などといったパイプがない。高石にそれとなく訪ねたこともあったが、これといった返事は受けられなかった。

 「もし、夫に何かあったら……」

 真琴が静かに言う。それは、殆ど独り言に近いように堀田は思えた。

 「一佐は……いえ、堀田さんは夫のすることを理解してくれるでしょうか?」
 「……私は軍人だから、その立場から逸脱することは許されません。だけど」

 堀田もまた、静かに答える。

 「加藤君もあなたも、翼君も、みんな私の好きな加藤家の人たちだ。私という個人においては、決して悪いようにはしません。それはお約束します」
 「……ありがとうございます。つまらないことを言ってしまって、申し訳ありません」
 「いえ、気にせずに。では、これで」

 そう言って真琴と別れた堀田だったが、帰り道の途中で考え込んでいた。

 (ヤマトの元乗組員たちに不穏な動き……そうだな、進君なら今の状況に不満もあろうし、彼なら間違いなくヤマト乗員たちを引っ張っていく力がある。この場合は悪い意味になってしまうが……)

 古代進、ヤマト元戦術長。

 彼の兄である守は堀田にとって、士官学校における幹部候補生教育課程の後輩であった。同じ戦術科に配属されていたことから親しくしていたこともあって、その弟である進ともその少年時代から交流があり、進が士官学校に入校してからは教官として戦術の基礎を教えた間柄でもある。

 そして何より、もし『メ号作戦』で堀田が負傷していなかったら、進が座っている席には堀田が座っていたはずだったのである。

 (私が進君の立場だったら、あるいは……)

 暴発しない、とは言い切れない。堀田は自分の理性にそこまで自信がなかったし、何かきっかけがあれば、漠然とながら忌々しさを感じずにいられない現状に立ち向かう行動を起こすのも、確かに考えられることだ。
 もちろん、今はどういう形でヤマト元乗組員たちが動いているかなど知る由もないが、その彼ら彼女らを引っ張っていくだけの統率力を進は間違いなく持っている。元々、一見すると大人しい性格だが秘めた情熱と軍人としての才能を高く評価していただけに、そしてそれがイスカンダルへのヤマトの航海で証明されているだけに、堀田は急に不安を禁じ得なくなっていた。

 (進君、焦るなよ……)

 そう祈るしかないが、何が起こっているかすらわからない身としては、できることなどあるはずもないのだ。深刻な疑念を感じながらも、今は『薩摩』艦長として自分の責務を果たすことしか考えようのない堀田であった。

 土方の説得に成功したことで、結果的に堀田はいずれ士官学校宙雷科の教頭から、前線の部隊へ配属されることがほぼ確実になった。しかし、まだ年度の途中で現在教えている生徒たちを放り出すこともできない以上、今すぐ前線に転属ということにはなるまい。

 (ひょっとすると、今度の卒業生たちは私が最後に見る卒業生になるかもしれないな)

 そんな覚悟も必要となった、堀田にとっての2201年の年度末だった。なお、年が明けてすぐ堀田は一佐に昇進したが、これは彼にとっては前線へ転属になる単なる下準備としか思えなかった。それに元々、彼は『食べていくために』軍人になったのであり、個人的な名誉や出世には興味がなかったのである。
 そのため彼を支持する、あるいは彼の教え子である士官たちが『戦功に比べて昇進が遅すぎる』という不満を抱えていることにまるで気づいておらず、後にこれが禍根となるなど見当もつかなかった。

 2202年3月末、無事に士官学校の卒業生たちを送り出す。その少し前、堀田は防衛軍司令部から辞令を受け取っていた。

 『堀田真司一佐。4月1日を以て貴官の士官学校宙雷科教頭の職を解き、仮称艦名『BBA3-07』艤装員長に任ず』

 この『BBA3-07』とは仮称艦名であると同時に艦籍番号であったが『BBA3』は現在量産が進んでいる『A型戦艦』(1番艦の艦名から『D級戦艦』とも呼ばれる)の初期型を改良した『A3型戦艦』のことで、残る『07』はその7番艦であることを示していた。

 「7番艦とは、数字としては縁起がいいと言えるかな」

 あまりそうしたことを気にしない堀田だったが、何となくそう思ったのだった。


 そして『BBA3-07』への着任の日となり、建造中のドックへと公用車で移動する。その車中で、堀田は無言のまま思案にふけっていた。

 (私は宙雷屋だが、なぜ戦艦の艦長に任じられたのだろう)

 言うまでもなく、堀田は宙雷の専門家として防衛軍はもちろん、地球に駐屯するガミラス軍内部ですら広く知られた人物であり、一度しかない艦長経験も駆逐艦のそれであった上に、その艦で戦功も挙げている。確かにかつて『キリシマ』の砲雷長を経験し砲術も全くの素人というわけではないが、この人事には少し疑問が残った。もちろん、自分への今度の辞令が土方の肝いりであろうことを想定してではあるが。

 (戦艦を指揮するということは、必然、波動砲艦隊の一翼を担うことになる。自分の意見とあえてかみ合わない波動砲艦隊の中にあって実力を証明しろ、ということかな?)

 士官学校で土方の知己を得てから今まで、そういう『試され方』を続けられてきた堀田である。それに応えてきたからこその栄達……と言うと多少大げさだが、現在の軍内部における独特な立ち位置を築いてきたのも事実であるから、彼としても土方の意図が自分の想像通りなら、理解するのは簡単であると言えた。

 ともあれ、どんな任務であれ全力を尽くすのみだと考えたところで、公用車は『BBA3-07』の建造ドックへ到着する。そこで出迎えてくれたのは、その艦の副長に内定しているという士官と、今まで会ったことのない兵士の二人だった。

 「艤装員長、お待ちしておりました。まずは私が本艦をご案内させていただきます」
 「わかった、よろしく頼むよ」

 建造中の『BBA3-07』を案内される。ほぼ八割方は完成しているという状態で、堀田が希望すれば案内してくれた士官は手際よくその箇所を見せてくれた。

 (多くが自動化された最新鋭戦艦、か)

 堀田はこれまで、A型戦艦の図面はともかく実物を見たことがなかった。

 (今の防衛軍に人手がないからやむを得ない処置ではあるが、さて、ここまで自動に頼っていざというときに何も問題が起きないかというと……)

 いささか疑問がないとは言えない。例えばこの艦、主砲塔の内部に砲術科員の座る席や照準機構が搭載されていない。聞けば艦橋で一括してコントロールするそうだが、もし戦闘で艦橋になど被弾したら戦闘続行は可能なのだろうか?
 いや、それでもこの艦は半自動とでも言うべき艦だから、まだ人間のできることは多い。現在、研究が進んでいるというAI制御の自動艦隊は、人間が内部に乗り込まず外部からのコントロールに全てを託すのだという。

 (そんな艦隊が、果たして実戦で使い物になるものなのだろうか)

 かつて、教え子の自動艦隊の研究に協力していたが故に、堀田はそこに未だ払拭できない不安があった。その教え子……藤堂早紀が自分にとって目をかけるに足りる熱心さがあったことも、余計にその心配を煽るものにしかならなかったのである。


 一通り艦内を案内されてから、最後に艦長室へと通される。副長はついてきた兵士に「ご苦労さん」と言って下がらせた。

 「「……ふ、ふふふ」」

 兵士が下がった後、堀田と副長は顔を見合わせて笑顔を見せる。そして、

 「「はっはっはっは」」

 こらえきれず、大声で二人して笑い出してしまった。

 「三木君、君が副長とはね。全く土方さんも人が悪いよ」
 「そうですか? 私はまた艦長とご一緒できるのを嬉しく思っているのですが」

 三木幹夫三佐。かつてガミラス大戦末期、堀田が艦長を務めた駆逐艦『神風』で先任士官を務めた、堀田の後輩である。

 「いや、私も心強いよ。君とならまた存分に戦うことができるからね」
 「私だけではありませんよ、ご案内します」

 第一艦橋に通される。すると、

 「「「艦長、お待ちしておりました」」」

 見れば、懐かしい顔が並んでいた。

 戦術長・林美津保二尉
 航海長・初島沙彩二尉
 船務長・沢野有香二尉
 技術長・菅井貴也二尉
 通信長・河西智文二尉
 機関長兼先任将校・来島研三一尉
 主計長・秦智哉二尉

 いずれも、元『神風』幹部乗組員たち。堀田からすれば文字通り『股肱の乗組員』とでも言うべき新戦艦の首脳部であった。

 「君たちもいるのか……これはますます心強い。よく来てくれた」
 「何を言ってるんですか。辞令ですよ辞令。もっとも、俺達も嬉しいっちゃ嬉しいですけどね」

 菅井がいつもの軽口を叩くと、それを受けて来島が言う。

 「まあ、我々は土方提督から『お前たちの艦長を頼む』と言われていますから。あ、これは内緒にしておけと提督に言われてますけどね。また『神風』の時のように、頑張っていきましょうや」

 土方の配慮に、内心で深く感謝する堀田だった。彼ら彼女らと一緒であれば、例え艦に少なからず不安があろうとも、必ず難局を乗り越えられる。そう自信が持てた。

 「そういえば、航海長は君か。初島君」
 「は、はい……至らぬところはあるかもしれませんが、よろしくお願いしますっ!」

 初島沙彩という航海長は、かつて『神風』で主席航海士を務めており、三木が航海長として彼女を鍛えていた。いわば三木の弟子と言うべき存在だが、その技量は『防衛軍屈指の操艦の名手』と言われる三木、そして堀田からしても十分に信頼できるものだった。今回の航海長への格上げももっともな人事と言えた。

 いや、彼女だけではない。ここに集まった旧『神風』乗組員は、ガミラス戦役においてはヤマトに次ぐ激戦を経験することとなった作戦『レコンキスタ』の生き残りでもある。そこで鍛えられた彼ら彼女らは、今の防衛軍にとっては貴重と言える有能な若手士官たちだ。それをこれだけ揃えてくれたのだから、堀田としても土方のその期待には応えなければならないだろう、と覚悟させるのに十分なものだった。

 「艤装員長……いや、艦長に敬礼!」

 三木の一声で、全員が堀田に敬礼する。それに静かに挙手の敬礼を返す堀田のそれは、

 『防衛軍において、最も見事な敬礼である』

 と評されるものだった。


 それから程なくして『BBA3-07』は完成へと一気に近づいたが、一刻も早く新鋭艦を投入したいという防衛軍の焦りのようなものを堀田も感じ取っていた。それはガミラスに対して政治的に優位に立ちたいからであろう思惑も想像はされたが、彼としてはそのようなことはさておき、多くが若者を占める乗員たちを実戦で使い物になるようにするべく、思案することは山ほどあった。
 そして着任から一か月後『BBA3-07』は艦の命名式を執り行うこととなった。

 「艤装員長……いや、艦長として一言申し上げたい」

 その場において、堀田は乗組員たちにこう訓示した。

 「ガトランティスとの戦いも先が見えず、地球がいつ完全な平和を手に入れるか、正直なところ見当もつかない。私は本艦の艦長として諸氏の生命を全うさせることも任務だと思っているが、残念ながら諸氏の命を保証することはできない。いつ、誰が命を落とすかわからない。戦いとはそういうものと改めて覚悟してもらいたい」

 先日、亡くなった武田のことが脳裏をかすめていた。

 「だが、最後に艦の責任を取るのは私である。諸氏はそうと承知して、思い切った戦いを見せて欲しい。本艦にどのような任務が待ち構えているかわからないが、必ずそれを全うし、生きて帰ろう。私が諸氏に願うのはそれだけである」

 これを受けたおよそ80名ほどの新乗組員たちは、改めて表情を引き締めたようだった。それを確認してから、堀田は防衛軍本部から送られてきた『BBA3-07』の艦名が書かれた紙の入った封筒を開いた。
 それを一瞥し、乗組員たちにその紙を向ける。

 「本艦『BBA3-07』は本日を以て『薩摩』と命名された。これは、かつて日本海軍において最初の国産戦艦に与えられた艦名であり、由来である薩摩国は多くの優れた武者を輩出した土地である。我々はこの艦名に恥じない戦いをしよう」

 この堀田の言葉を聞くや、オーッ、と乗員たちから歓声が上がった。

 『BBA3-07』こと『薩摩』。その初代艦長である堀田は、これより防衛軍の士官としてこの戦艦とは8年ほどの付き合いを持つことになるのだが、そんな未来はもちろん知る由もない。だが、後年「まさしく『薩摩』は自分の愛艦であった」と言って憚らなかった堀田と『薩摩』の、言わばこれが馴れ初めであったのである。


 そして一週間後、ついに『薩摩』は完成し、その翌々日には公試運転の日を迎えていた。

  (二年ぶりの宇宙、か)

 ガミラス大戦終結直後に『神風』を退艦してから、堀田は宇宙への航海を殆ど経験していなかった。

 (今度もまた戦いのため、というのは本意ではないが、避けて通れる道ではない。油断なく、全力を尽くそう)

 『神風』よりいくらか広い艦橋を見渡し、発進準備に忙殺されている乗員たちを見る。自分に落ち度があれば自分のみならず、ここにいる乗員たちを含めた『薩摩』の全員が死を迎える可能性も十分にある。第一線に立つ戦艦の艦長として、これまで以上の覚悟を以て職務に精励する必要があるだろう。

 「艦長、発進準備整いました」

 副長の三木がいつも通りの冷静な声で報告する。それに応えて、堀田もまた通る声で命じた。

 「よし……戦艦『薩摩』発進!」

 建造ドックから重々しく出航していく『薩摩』。後に『ガトランティス戦役』と呼ばれることになる地球とガトランティス帝国との全面戦争が開始されるまで、あと三か月後に迫っていた。

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