「艦長、ガミラス艦隊の司令から通信です」
 「パネルに出してくれ」

 パネルを見上げると、そこにゲーア少佐の顔が映し出される。この二人、互いの能力に関する限りは高く評価しあっていると言えたが、まだ面識はなかった。

 「ガミラス軍海王星駐屯艦隊司令、ガルノー・ゲーア少佐です。救援、感謝します」
 「戦艦『薩摩』艦長、堀田真司です。救援が遅れて申し訳ない。ゲーア少佐、そちらの艦隊の状況を教えていただきたい」
 「現在、残存艦は12。しかし、2隻は大破して戦闘不能ですので、海王星基地に撤退させます。残る10隻で、我が艦隊はこれより『薩摩』の指揮下で戦闘を継続します」

 一応、階級は堀田のほうが上になるから、こうなるのは必然である。

 「了解、僭越ながらお受けする。ゲーア少佐、火焔直撃砲への対処は貴艦隊は?」
 「可能です。ですが、我が艦隊は探知機能が不足していますので、データ収集はそちらにお願いしたく」
 「わかりました、では本艦からのデータを全艦リンクするようご命令いただきたい」
 「承知……では堀田一佐、ご命令を」
 「敵は戦艦である『薩摩』を狙ってくるはず。本艦は敵メダルーサ級戦艦へ接近戦を敢行するので、援護をお願いしたい」
 「了解、ザー・ベルク」

 スクリーンからゲーアの姿が消えると、堀田は改めて敵艦隊の陣形を確認する。

  (さて、接近戦を挑むとしてどうするか)

 4隻のカラクルム級戦艦が横隊を組み、中央を突破しようとする敵艦に集中砲火を加えようとしている。だが、隻数が少ないためだろう、1隻ごとの間隔は広めになっていた。

 「航海長」
 「はい」
 「全速で敵艦隊の中央、カラクルム級の間を突破する。回避運動を取りながらの機動になるから、衝突に注意してくれ」
 「艦長、少し強引ではありませんか?」

 三木が冷静に言うが、堀田は考えを変えなかった。

 「死中に活を求める形になるが、やむを得ない。迂回、あるいは正面切っての砲撃戦ではかえって被害が増えるだろう。何、この艦はそう簡単には沈まないさ」
 「わかりました」
 「すまない。それと、私が指示したら波動防壁を展開、その防御を以て敵の砲火を突破する」
 「了解、準備します」
 「よし……『薩摩』全速前進! 敵旗艦への接近戦を敢行する。戦術長は敵中央のカラクルム級を集中砲火で順次撃破してくれ。航海長、操艦には船務長からの情報に常に気を配ってくれ。あの火焔を一撃でも受けたらお終いだぞ!」
 「「了解!」」


 (さて、あの『蒼い駆逐艦』の艦長……どう戦うのか)

 通信を終え、ゲーアは考えた。正直、堀田真司という人物はもっと武人然とした風貌だと想像していたが、見ると歳に不相応な童顔の優男である。もちろん、それで侮る気にはならなかったが、もしこの戦いで無様な指揮を見せるようなら、自分たちは戦闘を放棄して離脱する。そういう考えが彼の中になかったら嘘になるのだった。

 だが、そんなことにはなるまい。かつての『神風』の戦いを知るゲーアは、そうも思っていた。

 「さあ、仕切り直しだぞ! 全艦、全力でテロン戦艦の突撃を援護しろ! ガミラス軍の戦いぶりを見せてやれ!」

 そう叱咤すると、部下たちも歓声を上げて応じる。この指揮官もまた、部下たちから相当な信望を集めていることが想像された。


 堀田の想像通り、敵旗艦は明らかに火焔直撃砲で『薩摩』を狙っていた。ガミラス軍は旗艦こそデストリア級重巡洋艦だが、残存艦の多くは駆逐艦である。火力において敵にとって最大の脅威が『薩摩』である以上、当然のことだった。
 ガミラス艦隊の援護があるとはいえ、集中砲火で『薩摩』に被弾が相次ぐ。しかし、そこは防衛軍が誇る新型主力戦艦である。多少のことではびくともしなかった。

 「波動防壁、展開!」

 頃合いを見て、堀田が指示する。敵が火焔直撃砲を回避してくる『薩摩』への集中攻撃を強化する気配を見せる直前だったが、この防御で多くの火力が無効化されてしまった。

 その間も、火焔直撃砲による攻撃は続いている。

 「来ますっ! 方位430!」
 「全速回避っ!」

 沢野の指示で初島が艦を動かす。ここまで、堀田も三木も操艦の命令は一切下していない。息の合った二人のコンビネーションに全て任せていた。
 林もまた、敵カラクルム級に主砲で砲撃を続けている。カラクルム級は正面装甲こそ強固だが、側面は脆い。艦が急速機動中で照準が困難な状況ではあったが、林はよく機を見て敵艦、それも側面を狙い撃ちして有効打を与え続けており、たちまち4隻のカラクルム級のうち、1隻を轟沈に追い込んだ。

 ガミラス艦隊も奮戦していた。重装甲のカラクルム級相手ではあったが、動きの鈍さに付け込んだ機動戦で次々とミサイル、魚雷を敵艦に叩き込み、こちらも1隻撃沈の戦果を挙げる。このあたりの練度は、堀田が評した通りガミラス艦隊に一日の長があるようだった。

 「敵旗艦、間もなく主砲射程に入る!」

 林の報告を受け、堀田は正面の敵旗艦を見据える。と、ここで旗艦の直衛艦らしき2隻のククルカン級がこちらに向かってきた。

 「戦術長、護衛艦から撃破!」
 「わかりました!」

 『薩摩』の一、二番主砲塔が青い閃光を放ち、先行していた敵駆逐艦1隻を爆沈させる。と、ここで敵旗艦が後進で後退を始めた。

 「逃がさないっ!」

 林が声を上げ、初島も更に艦を増速させる。その『薩摩』の正面に立ち塞がるように、敵駆逐艦が艦首を向けて突っ込んできていた。

 (これは……っ!)

 それを見て、堀田はとっさに声を上げた。

 「航海長! 上昇スラスター全開、急上昇っ!」
 「は、はいっ!」

 初島が慌てて艦を急上昇させた直後だった。敵の火焔直撃砲がククルカン級……つまり味方を貫いて爆発させ、その火焔は『薩摩』の艦底部アンテナの半ばを切断して突き抜けていった。

 「艦底部アンテナ、使用不能!」
 「危なかった……しかし、生き残るためには味方も犠牲にすることを厭わないとはな」

 堀田が苦々しく言った。こんな指揮官でありたくないと思うしかなかったが、まだ戦闘は続いている。

 「よし、降下角30で敵旗艦に突っ込め! 戦術長、遠慮はいらんから主砲、全弾叩き込め!」

 敵のメダルーサ級も主砲で応戦し、既に波動防壁の効力が切れている『薩摩』は更に被弾を増やす。各部に相応の被害と火災が生じていたが、今はとにかく前に出るしかない。そのうち、後方からも生き残っているカラクルム級からの砲撃が襲い掛かってきた。

 「後方から敵戦艦2隻、接近!」
 「構うな! 敵旗艦に主砲連続射撃の後、敵艦下方へ突き抜ける!」
 「了解!」

 初島が応じると同時に、林が声を上げた。

 「主砲、撃ちまくれっ!」

 『薩摩』の41cm三連装砲塔が連続射撃を続ける。相次ぐ命中弾でメダルーサ級は艦橋付近から爆炎を上げていたが、まだ沈む気配はない。その艦首すれすれを『薩摩』は全速で駆け抜けていった。

 「三番砲塔、敵火焔直撃砲ユニットを狙え」
 「わかりました! 三番砲塔、最大仰角……テーッ!」

 林の掛け声と同時に発射されたエネルギー弾は、見事敵旗艦の火焔直撃砲ユニットを直撃。これで恐らく火焔直撃砲は使用不能になったはずだ。
 しばらく、堀田は艦が全速降下するに任せる。それから程なくして、初島に言った。

 「航海長、見事な操艦だった……減速、反転してくれ」
 「りょ、了解……しかし、敵がまだ」
 「うん? そうだね、だけど」

 堀田は、沢野に戦場をスクリーンに出すよう命じた。

 「ガミラス艦隊が、よろしくやってくれたようだ」

 既に沈没寸前だったとはいえ、敵旗艦はガミラス艦隊による集中雷撃が功を奏し、大爆発を起こして轟沈した。そして生き残った最後のカラクルム級が爆沈して程なく、海王星宙域の戦場に静寂が訪れたのだった。


 この戦闘における『薩摩』の被害は中破と判定された。主要防御区画は概ね無事であったが、被弾は大小合わせて20数発に及んでおり、それに伴う火災も含めて決して軽い損害とは言えなかった。
 何より、今度の戦いでは乗員に2名の戦死者が出た。堀田にとって、部下に戦死者を出したのは『レコンキスタ』戦における『神風』での5名のそれ以来だった。

 (無茶な突撃をしてしまったが、それがなければ彼らは死なずに済んだだろうか……)

 勝ち戦なのに、ついそんなことを考えてしまう。そして、戦いが終わると常に『もっとよい戦い方はなかったのか?』と自省する。そんな心理が、堀田を『防衛軍屈指の研究熱心な士官』にさせている最大の理由だったかもしれなかった。
 三木からの報告が終わった頃、ゲーア少佐が『薩摩』を訪れてきたので、艦長室に通すよう命じた。

 「堀田艦長、重ねながら救援感謝いたします」
 「ゲーア司令、こちらこそ海王星の艦隊が動かなくて申し訳ない。おかげでそちらに多くの犠牲を出してしまった」
 「いえ、撤退を判断した基地司令の判断は正しかったかと。小官としましては、むしろ自分が無謀な命令を出したと部下に申し訳なく思っております」

 この一言で、堀田はゲーアが信頼できる指揮官であると判断した。

 「……自軍の不備をそちらへ口にするのも申し訳ないですが」

 堀田は、少し口調のトーンを低くした。

 「ここは海王星、仮にも最前線と言うべき場所です。ガトランティスとの戦いが続いているこの現状で、この星に相応の兵力を配備していないということが問題だったのです」
 「……」
 「もちろん、艦隊司令部はそれを理解しています。しかし、今まで波動砲装備艦に軍備が偏重した弊害で、適切な兵力配備をしようにも艦の不足でできない状況になっているのです。これは現在の司令長官が上と掛け合っていますから、今度の戦いもよい教訓となるでしょうし、いずれそちらへの負担は少なくできるかと考えています」

 これまでの堀田の言葉をゲーアは黙って聞いていたが、内心、その率直さに呆れを禁じ得なかった。つい2年ほど前までは敵だった自分たちに対して、ここまで身内の不備を嘆いて見せるとは。しかも、かつての仇敵であったはずの自分らへの気遣いまで見せる。彼の呆れは、そのまま堀田への好意の裏返しになっていた。

 「堀田艦長」

 ゲーアが口を開いた。

 「あなたのお気遣い、ガミラス軍人として心から感謝します。しかし、我々は先の戦争であなた方を絶滅寸前にまで追い込んでいます。それは我ら一介の軍人にはどうにもならなかったとはいえ、今の我々はその償いをしなければならないと考えているのです。何より……」
 「?」
 「あなたは、我々の攻撃で婚約者を亡くされたと聞いております」

 一瞬、堀田は表情を厳しくしたように見えた。が、次に発せられた言葉はあくまで穏やかなものだった。

 「……それは、戦争という状況を考えればどうすることもできないことです。それに、私も先の戦争で多くのガミラスの人たちを殺している。つまり、私は自分でも私のような境遇の人間を多く生み出したということでもあります。戦争にどちらが良い、悪いもないですから」
 「しかし……」
 「ともあれ、かつてはともかく今は地球とガミラスは盟友です。だからこうして、我々は協力して共通の敵を打ち破ることができた。紆余曲折があったとはいえ、今はそうした状況になったことを喜びたい。それが私の正直な気持ちですよ」
 「艦長……」

 ゲーアは、過去へのこだわりを持っていた自分のほうが恥ずかしくなっていた。太陽系に駐屯するガミラス軍人の間で、堀田は『研究熱心だ』という評判と同時に『過去にこだわらなさすぎる変わり者だ』という評価もあったのだが、今それが何を意味しているかよく分かったような気がした。そして、この『蒼い駆逐艦の艦長』が決して単なる戦術家というだけでなく、人物として極めて信頼に値すると理解したのである。

 (今度の借りは、私の命に替えても返さなければなるまい。それがガミラス軍人としての自分の生きる道だ)

 そう覚悟を決めさせたことが、後に堀田を大いに後悔させることになってしまうのだが、今の段階では先の話であった。


 ゲーアが『薩摩』を退艦するのを見送って、堀田が艦橋に戻ってみると、通信長の河西が三木に青ざめた表情で報告していた。

 「副長、通信長、何かあったか?」
 「か、艦長……十一番惑星の前線基地に、ガトランティス軍の攻撃があったとの知らせが入りました」
 「何だって!?」

 堀田は驚いたと同時に、それが極めて危険な知らせであることを瞬時に理解した。海王星に押し寄せた敵艦隊は撃滅したが、代わりに十一番惑星基地が敵に占領されては、どのみち敵に前線基地となり得る惑星を与えてしまうことになって元も子もない。あるいは敵の本当の狙いは十一番惑星であり、海王星への攻撃は陽動だった可能性もある。
 いずれにせよ、戦闘で損傷した『薩摩』に十一番惑星へ向かう余力はない。そうと考えるに至って顔色を変えた堀田に、三木が声をかけた。

 「艦長。ですが幸い、十一番惑星基地を攻撃した敵艦隊はヤマトがこれを撃退。駐屯していた空間騎兵隊も20数名の生存者ながら、ヤマトに収容されたとのことです」
 「そうか……それなら地球侵攻のための前線基地を敵に作られる危険は、とりあえず避けられたということだな」

 ひとまず落ち着いた堀田ではあるが、その内心は決して楽観できる要素があったわけではなかった。

 (いよいよ、本格的に太陽系に敵の手が伸びることになるのか……)

 そうなれば、今まで辛うじて避けられていた地球とガトランティスとの全面戦争が勃発することになる。土方の手による地球防衛艦隊の再編も未だ途上だ。勝ち目がある、などと言い切れるものではない。

 (一度、土方さんと話をしておいたほうがいいかもしれない)

 そう思った堀田は、新たに命令を下した。

 「これより『薩摩』は、艦の修理のため土星宙域タイタン鎮守府の基地へと向かう。総員、準備にかかってくれ」

 自分が地球防衛軍全艦隊の司令長官という職務を『押し付けた』相手と直接会うことが叶えば、それは1年半ほど以来ということになるのだった。