地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

2021年06月

 タイタンでの修理を終えて、月面基地に帰還した『薩摩』は、これまた接触事故による損傷の修理を終えた『周防』『丹後』と共に再び戦隊を編成した。なお、ヤマト発進時に堀田が行った独断行動に関しては、そもそも発端であるヤマトの発進が『当初から命令されたものだった』という形で処理されたためか咎められることもなく、上官たる安田からも何も言われずに終わった。

 (まあ正直なところ、こういう個人的な綱渡りに部下を付き合わせるのは感心できないな。今後は戒めることにしよう)

 内心でそう思い、再び訓練に次ぐ訓練の日々に戻った堀田だったが、それからさして間を置かないある日のこと、安田に呼び出されてその執務室を訪れていた。

 「我が戦隊を第一外周艦隊に、ですか」
 「そうだ。いよいよガトランティスとの本格的な戦闘が開始されると土方長官も見ているようだ。そこで、現在の月面基地艦隊の戦艦戦隊で最も練成が進んでいる第28戦艦戦隊を前線に送りたい、と命令が下った」

 第一外周艦隊は天王星基地を根拠地とした、太陽系防衛における最前線を担う艦隊である。ただ『薩摩』が海王星宙域にてガトランティス軍の小規模艦隊と交戦した際は演習中で、その援護に間に合っていなかった。
 この『前線にあってなお、援護が間に合わなかった』というのは大問題であったが、同時に現在の地球防衛艦隊の苦しい現状を示している事態でもあった。第一線に配備されている艦隊が、その根拠地周辺で訓練を繰り返さなければならないほど、乗員の練成が進んでいなかったのである。それ以前に乗員の数が揃わず苦しいやりくりが続いている地球防衛軍であるが、質的な問題まで抱えているとなれば、当然のこと今後のガトランティスとの戦いは苦戦を免れまい。

 「何より、君の戦隊は『薩摩』のみとはいえ実戦も経験した。それに俺の目から見ても、君の部隊の練成が一番進んでいるのは指揮官たる君の手腕によるところが大きいと思っている。それを前線部隊である第一外周艦隊で生かしてもらいたいのだが」
 「はい……」

 褒められているのはわかるが、それはあくまで自分の手の内に入れた一個戦艦戦隊での話である。これから新しい任地に配属されれば、当然のこと周囲には面識の浅い、あるいはない相手のほうが多いのだ。そこであまり腕を振るってしまうと、嫉妬を買ったりして全軍の和を乱しかねない。堀田は他人の評価をそう気にする性格でもなかったのだが、そういう内輪のもめ事に関しては軍にとって致命傷になりかねないという意味において、決して鈍感ではなかった。
 それに堀田にとって、配属先が第一外周艦隊というのも、一つの問題となるのだった。

 「……そういえば、君は谷さんとは仕事をしたことがあったか?」
 「いいえ」

 谷鋼三宙将補。現在の第一外周艦隊の司令長官であり、決して多くない現在の地球防衛軍の宙将補の中でも最年長の提督である。『思索生知』を座右の銘とする合理主義者として知られた人物で、その意味で言うなら、同じく合理的思考の強い堀田と相性が悪いとは考えにくい。だが、実は別の問題があった。
 谷は、堀田が反対した波動砲艦隊の推進派であり、かつその実行者として知られる人物でもあった。例えば波動砲を艦隊単位で発射するための陣形を『マルチ隊形』を呼ぶのだが、これを考案、命名したのも谷であるように、徹底した波動砲戦の研究家というのが衆目の一致するところである。そんなところに、波動砲艦隊に強く反発した自分が行って大丈夫なのか? 堀田としては谷のことを詳しくは知らないという事情もあり、全く不安がないと言えば嘘になってしまうのだ。
 しかし、安田としてはそのあたりの堀田の心理について、どうやらお見通しのようであるらしかった。

 「堀田君、君は上官を少し安く見過ぎているように見えるが?」
 「……」
 「谷さんは、君が波動砲艦隊に反対したからと言って、それで君を冷遇するような人ではない。俺はあの人と一緒に仕事をしたことが何度もあるが、有能で、公正な指揮官だと保証できる」
 「はい」
 「だから、安心して君の腕を振るって来い。何なら『波動砲を使わない』君の戦いを存分に見せてくればいい。そして、君は君の知らない波動砲を有効利用した戦い方を学べばいい。多くを学ぼうとする者に対して、谷さんは無碍な扱いをする人ではないからな」
 「わかりました、肝に銘じます」

 そう言って敬礼し、退出した。もちろん不安すべてを払拭できたわけではないが、ともあれ今度の任地は最前線なのだ。余計なことを考えている余裕などあるはずもないから、まずは自分の役割に集中しよう。そう思い直す堀田であった。


 そして、第28戦艦戦隊は数日のうちに月基地を出港、天王星基地へと向かった。なお、前線部隊への異動に伴って『薩摩』を旗艦とするこの戦艦戦隊は名称がが変更され、以後は『第3戦艦戦隊』として活動することとなった。
 天王星基地に到着してすぐ、堀田は谷に面会した。

 「君が堀田真司一佐か。海王星での君の奮戦は聞いている。我々の援軍が間に合わなかったこと、申し訳なく思う」
 「恐縮です」

 まずは丁寧と言うべき、谷の対応だった。

 「ところで、君は波動砲艦隊に反対だと聞いているが、今でもそう考えているかな?」
 「……実際に波動砲を用いて思いましたが、過去のことはさておき、現状ガトランティスから地球を守るために、あの力は必要だと痛感しました。ですが」
 「うん?」
 「あの力がいつか使われずに済む世界が来ることを、私は望まずにはいられません」

 あえて思うところを隠さず述べたが、谷は表情を変えず、むしろ考え込むような様子を見せてから口を開いた。

 「……私が言うと信じてもらえないかもしれんが」
 「?」
 「私としても、あの波動砲というものの恐ろしさは、私なりにだが理解しているつもりだ。あれは、確かに使わずに済めばそれに越したことはないと私も考えている。だが、今の地球の状況はそれを許さないとも思う」
 「……」

 堀田は表情を消して黙っていたが、波動砲艦隊推進派の谷からこのような言葉を聞くとは、正直なところ考えてもみなかった。何より、波動砲の恐ろしさを知った上でなお使わざるを得ないと判断したのは、結局のところ自分も同じなのである。その『恐怖』を理解しているだけ、この指揮官もまた信頼に足る人物と見てよいように思えたのだった。

 「安田君から聞いたが……」

 谷が話題を変えた。

 「君は、戦艦戦隊の司令官代理にしては珍しく、運動戦による戦艦の運用を研究していたようだな」
 「はい。確かに波動砲や大口径ショックカノンの威力は絶大ですが、常にそれが使用できるとは限りません。私が宙雷を専攻していたということもありますが、使える手は幅広く持っておくのがよいと考えましたので」
 「なるほど、理にかなっているな」

 谷が、わずかに感心したような表情を見せた。

 「正直、私がそう仕向けておきながら言うのはおかしいが……今の防衛艦隊の若い士官は波動砲に傾斜した者が少なくない。そのために、波動砲が使えなくなった時点で思考が停止するものさえ出る始末なのだよ」
 「それは……」

 大問題ではないですか、と言いたくなったが、ここで谷に批判めいたことを言っても意味はない。

 「あえて言ってしまうが、君をここに呼んだのは安田君の推薦があったからだ」
 「安田提督の?」
 「私が『波動砲に頼らないで戦える士官はいないか?』と問うたら、君を紹介された。申し訳ないが、いささか履歴も調べさせてもらった。もちろん、私は波動砲戦の専門家としてその威力は大いに生かしたいと考えているが、同時に『それ以外のことができる士官』もまた欲しているつもりだ」
 「……」
 「これもまた『思索生知』と思うのだよ。君はこの艦隊で波動砲戦や通常の戦艦による戦いを学び、私やこの艦隊の士官は君からそれ以外の戦いを学ぶ。そうして皆が強くなれば、地球と人類を守り抜くこともできると私は信じている。君がここで存分に力量を振るうこと、期待させてもらおう」
 「承知しました、全力を尽くします」

 政治的な立場は、確かに異とした相手である。だが、谷もまた信頼に値する艦隊指揮官だと、今のやり取りで理解した堀田であった。


 「第3戦艦戦隊には『鬼』がいる」

 そんな評判が第一外周艦隊の内部で広がるのに、そう時間はかからなかった。

 谷から暗黙の了解を得たこともあり、堀田は月面基地以来の自分のやり方を一切変えずに、第一外周艦隊での任務に就いていた。それは当然のこと、波動砲戦や遠距離砲戦に終始したこれまでの第一外周艦隊の演習とは全く異なる、艦隊あるいは個艦の連続機動による運動戦に重点を置くものだった。
 当初、この第3戦艦戦隊の運動戦についていける戦艦戦隊はほぼ皆無であり、新たに配備された新型巡洋艦を有する戦隊ですら、追従できた部隊のほうが少ないという有様だった。これは練度の低さも問題だったが、波動砲艦隊に賛意を示さなかった士官の多くを後方勤務に追いやったこと、ガミラス大戦で機動戦を得意とするはずの宙雷士官の多くが命を落としていたことも原因ではあった。

 しかし、この現状は堀田を嘆かせるというより、焦燥感を与えるには十分すぎるものだった。

 (同じような戦いを同じようにするだけで、最終的に敵に勝てると思うのか?)

 このようになった原因の多くを防衛軍首脳部に求めることができるから、実際に現場の士官たちを叱りつけても意味はない。だが、放置しておけば本当に波動砲とショックカノンによる遠距離戦しか対応できない艦隊が出来上がってしまう。その前に自分がここに来れたのは幸いだったと思うしかないのだ。
 そうなれば、堀田は一佐として実はこの第一外周艦隊の中で最先任だったこともあり、積極的に艦隊訓練の方法に関して意見具申を行った。全てが取り上げられたわけではなかったが、谷が一定の理解を示したこともあり、堀田はこの時期の第一外周艦隊の訓練課程の殆どを管理していたと伝わっている。それゆえに、またその訓練の厳しさ激しさあればこそ、堀田は「第3戦艦戦隊の『鬼』」などと呼ばれるようになったのである。

 しかし、当然のことその厳しさは、堀田自身と彼の率いる第3戦艦戦隊にも向けられたものだった。彼は他の艦に運動戦中心の訓練を強いつつ、自らとその部隊には、これまで自分の不慣れから不十分だった波動砲戦の訓練を積極的に行っていた。そこで堀田が新たに発見したことも数多く、また練成不十分とはいえこの時期の地球防衛軍にあって『主力艦隊』と言うべき第一外周艦隊に身を置いていたことも幸いして、この頃の堀田が組み上げた訓練プログラムは自身のみならず、これ以降の地球防衛軍の将兵育成に大いに貢献する材料となるのである。もっとも、この時点ではそれはまだ未来のことではあったのだが。


 そうして訓練に明け暮れる日々を送っていた時期の堀田に、というより地球防衛軍に対してある知らせが届いた。

 『ヤマト、テレザート星の解放に成功せり』

 また、これに付随してもたらされたヤマトからの情報により、ガトランティス軍による大規模な地球侵攻作戦が開始されることが判明した。これに伴い、地球防衛軍の各艦隊は第一級戦闘配備に入り、来るべき決戦に備えることとなった。

 「いよいよですね、艦長」

 三木に言われて、しかし堀田は即答できなかった。先日、土方との会話であったように、地球防衛軍が『バランスの取れた艦隊』を手にしているとは言い切れない現状、襲来が予想されるガトランティス軍の大艦隊に対応するだけの力が自分たちにあるのか。自信があるとはとても言い切れなかったのである。
 黙ってしまった堀田に、その内心を理解したのか三木が言った。

 「艦長、今は土方さんはじめ、諸先輩と将兵たちを信じましょう。それに、この第一外周艦隊……地球の主力艦隊は貴方が鍛えたようなものではありませんか。それを疑ってどうするのです」
 「……そうだな、すまなかった」

 詫びて、思考を切り替える。確かに戦力的には不安が大きい。だが、太陽系内で戦うなら地の利と補給線の短さ、何より『地球と人類を守り抜くための防衛戦争』ということで将兵たちの士気も高い。今はそれらの要素を信じて戦うしかない。否応なくそういう時期に来たのだと、堀田は理解したのだった。

 それから、数日が経過する。その日、土方から第一外周艦隊……否、地球防衛艦隊の全てを激震させる命令がもたらされた。

 「太陽系第一、第二外周艦隊は1宇宙時間以内に合流、直ちに土星基地へと集結せよ」

 後に『人類の運命を賭した一大艦隊決戦』として歴史にその名を残す『土星会戦』は、もう間もなくへと迫っていた。

 海王星沖での戦闘で損傷を受けた『薩摩』は、戦闘終了後に土星の衛星タイタンへと向かっていた。これは被害が思いの他大きかった『薩摩』には比較的大規模な修理が必要であり、それができる設備を有する一番近い基地がタイタン鎮守府の工廠だったからだが、堀田としては別の思惑もあった。

 (これからガトランティスと本格的なの戦闘が始まるなら、その前に土方さんと話をしておきたい)

 当時、地球のほぼ全艦隊の指揮権を委ねられていた土方は、土星のタイタン鎮守府で各外周、内周艦隊の指揮を執っていた。今回の海王星沖での戦闘の戦訓を報告すると共に、個人的な意見交換になってしまい公私混同と言われかねないのだが、今後の地球防衛艦隊の戦略について話をしたい。そう思っていたのである。


 タイタン基地に到着し、早速『薩摩』は入渠し修理に入る。作業にある程度の目途が立ってから、堀田は残務を三木に任せて、自分は土方に面会を申し入れた。
 相手は連合艦隊司令長官という要職にある人物だから、さすがにすぐに会えるわけではない。一日待たされたが、ともあれ許可が下りて土方と面会できることになった。

 「何をしに来た、自分の艦を放り出して」

 対面していきなり、土方はそう言った。だが、別にこれは叱責したわけではない。何せ堀田が士官学校の最上級生だったときから、生徒と校長してのみならず、教官と校長、そして戦場でも部下と上官として長く付き合ってきた間柄である。味方からも恐れられる人物とはいえ、堀田には多少なりとも気安さがあったのかもしれない。

 申し訳ありません、と謝罪してから、堀田は海王星沖における戦闘の状況を事細かく説明した。

 「……そうか、お前も撃つと覚悟したか」

 自分と同じように、波動砲艦隊構想に強硬に反対してきた堀田である。ヤマト乗員たちほどではなかったかもしれないが、沖田とスターシャとの約束を守りたいという気持ちが強いことを土方は知っていたから、波動砲の使用に至るまでどれだけ悩み、そして最終的に、それこそ身を削るような覚悟を秘めて引き金を引いたか、なまじ付き合いが長いだけにわかってしまうのである。

 「味方を見捨ててまで、自分の感情を納得させるようなことはしたくありません。それでは後々、より大きな後悔を生むだけだと思いました」

 そっけないと言えるような口調で堀田はそう答えたが、こういうときの彼は普通に話すときより、内心でよほど強い葛藤を抱え込んでしまっている。これもまた、土方には容易に理解できることであった。
 ここで、土方は話題を変えた。

 「それで、お前は実際にガトランティスと戦ってどう思った?」
 「……勝つために手段を選ばない相手であるようです。こういう相手に勝とうと思えば、戦力において相手が勝るであろうことを踏まえますと、容易ならざることと思いました」
 「味方を犠牲にしても勝ちを得ようとする……どうやら、少なくともかつて戦ったガミラスとは違ったメンタルを持った相手のようだな」
 「そう考えます。こちらはそうした戦いは許されませんが、並々ならぬ覚悟はしておくべきかと」
 「そうだな」

 ここで、堀田は気になっていたことを口にした。

 「話は変わりますが……艦隊の整備は順調に進んでいるのでしょうか?」
 「正直、捗々しいとは言えない。お前の指摘した通り、戦艦の数はともかくそれを護衛すべき巡洋艦、駆逐艦は相変わらず不足している。均整の取れた艦隊の整備はまだ道半ば、だな」
 「……」

 土方が艦隊司令長官に就任する前、防衛軍首脳部は波動砲搭載戦艦の建造に躍起になっていた。巡洋艦や駆逐艦の代替として波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型が建造されてはいたが、やはりこれら旧式艦では性能に限界はある。ようやく新鋭の巡洋艦や駆逐艦の建造が開始されたのだが、土方の言う通りやはりこれらの量産は道半ば、というしかない。

 「……こうなることがわかっていたはずなのに、なぜ首脳部は波動砲に偏重した軍備という愚かなことをしたのか」
 「堀田」

 思わず呟いた言葉を耳にされて、堀田は土方から厳しい視線を向けられた。

 「相変わらず直らないようだが、お前は上に対する言葉に容赦がなさすぎる。俺に対しては構わないが、そういう言動は慎まなければいずれ不興を買うぞ。そうなれば地球のために働く場を失うことにもなりかねないのだから、そういうところは俺の真似をするな」
 「……申し訳ありません」

 謝るしかない堀田だったが、この『上に対する言葉に容赦がない』という点がなければ、実は彼が土方に見出されることはなかったということは、土方本人が語らなかったので知る由もなかったのである。


 堀田が土方と出会ったのは、ちょうどガミラス大戦が始まった年のことだった。戦時にあたって優秀な士官を育成するため、土方は国連宇宙軍首脳部の要請を受け、航宙宇宙軍士官学校の校長を引き受けたのである。
 当時、堀田はその士官学校で最上級生だったのだが、ある日、事件が発生する。土方の元へいきなり堀田が押しかけていって、ある教官が一部の生徒と結託して別の生徒を虐待しているという件を、正規のルートを経ずに告発したのだった。

 当然のこと、これは軍規違反である。そのため校内で簡易軍法会議が行われたのだが、堀田はその場でこのように述べている。

 「仮にも教官たる者が、生徒と結託して別の生徒を虐待するなど看過できません。私が校長に直接告発したのは、自分の告発が握りつぶされるのを恐れたからです。告発にあたって正規の手続きを踏まなかったことに関しての罰は甘んじてお受けしますが、私の行為が軍紀を乱したという批判は納得できません。私は既に存在している軍紀の乱れを明らかにしたのみです」

 激烈な言葉に、これを聞いた多くが「堀田は退学させられるだろう」と思ったそうである。だが、実際に告発とこの言葉を聞いた土方はこう思った。

 (こいつ、俺と軍組織を試しているのか)

 確かに、堀田を異分子として排除するのは簡単である。しかし、不正を明らかにした人間を追い出してしまえば、国連宇宙軍は『不正を告発したものを追い出す、信用できない組織』と市民に思われるのは必定である。それ以上に、校長である土方がその断を下してしまったら、当然のこと彼の信頼も失われてしまうのだ。
 土方自身としては、自分の名誉などどうでもいいことである。だが、仮にも内惑星戦争の英雄として沖田と並び称され、国連宇宙軍でも指折りの名将と評される彼が不正に加担するような行動を取ってしまったら、全軍に与える影響は計り知れないのである。

 だが、そこは『鬼』と恐れられつつも、提督として部下から絶大な信頼を得ている土方だ。彼はいかにも『彼らしいやり方』でこの問題を処理することにした。

 まず、堀田が告発した教官および生徒を配置転換、および退学処分ですべて士官学校から追放した。優秀な教官や生徒が混じっていたこともあって反対論もかなり根強かったが「部下から信頼を得られない教官や生徒は必要ない」と押し切ったのである。
 そして堀田には『正規の手続きを踏まずに告発した』という一点だけを罪に問い、一カ月の停学処分を加えた。こちらにも厳罰を、という声も小さくはなかったが、土方はただ一言「必要ない」とだけ述べて取り合わなかったと伝えられている。

 堀田自身はこのとき「これで自分を退学させるような組織なら、戦場に出された時点で生き残れそうもない。それなら今ここで追い出されても同じことだ」と割り切ってしまっていたのだが、停学処分に止まったことに違和感を感じていた。だが程なく、彼は自分が土方から、退学より遥かに重い『処分』を喰らったと知ることになる。

 「軍の規律を乱し、そこまで上を批判したなら退学で済むと思うな。今は戦時であるから、戦場で責任を果たせ」

 直接、本人から言われたわけではない。しかし、その後の自分が受けた土方の『指導と言う名のしごき』から考えると、そうした課題を突き付けられたと思うしかなかったのである。


 こうして出会うことになった二人だったが、これは双方にとって『僥倖』と言うべきものであったろう。堀田は土方の『しごき』に不平ひとつ言わずよくついていき、その知識や経験を吸収していった。告発の一件以前はあまり教官たちから注目されるところがなかった堀田だったが、秘めた力量については申し分ないものがあった。それを見抜き、認めることのできる校長を得たことで、その才能は最上級生になって大きく開花したのである。
 そして土方もまた、自分の厳しい指導についていく堀田にいささかの驚きを感じつつ、その士官としての才能に期待するようになった。ガミラスとの厳しい戦いで生き残れるかわかったものではなかったが、もし運よく命永らえれば、いずれ連邦宇宙軍を支える士官になるかもしれない。そう思うようになったのだ。もちろん『上に容赦なさすぎる』という点は直さなければ出世がおぼつかず、自分の期待も画餅に終わってしまうのだが。

 堀田が諸々と留意したのか、とにかく無事に卒業した彼は順調に士官としての履歴を重ね『ヤマト完成以前、地球艦隊唯一の勝利』とされた第二次火星沖海戦にも参加して生還してきた。この直後、土方は士官学校校長としてある決断をする。

 「堀田一尉(当時)を、士官学校宙雷科の教官として迎える」

 一尉という階級はまだしも、当時の堀田はまだ23歳だった。若すぎる教官の登用にやはり反対論は多かったが、土方はまたしてもこの人事を強行した。そして、堀田はこの抜擢に対して『上に厳しく下に優しく、自分に対しては度を越して厳格ですらある』と評される公正な人格と、カ二号作戦から生きて帰ってきた戦場での経験、何よりも優れた宙雷戦術の専門家として土方の期待以上に見事な教官ぶりを発揮した。この教官時代に養われた人脈が後の堀田にとって大きな財産になったことも含めて、これもまた互いにとってよい人事であったと言うべきだったろう。
 更に時代が下り、ガミラス大戦末期においては、ヤマトの帰路確保と太陽系宙域回復作戦である『レコンキスタ』において、土方は地球残存艦隊の総司令長官として、堀田はその麾下にあった駆逐艦『神風』の艦長として、やはり縦横の活躍を見せた。こうしたことが続き、いつしか堀田は土方の『愛弟子』という評価を、周囲からされるようになったのである。


 こうした良好な関係にある二人だったが、そこは公私の別をよくわきまえたもの同士である。互いに立場に甘えることなく、あくまで『それぞれが己の責任を全うする』というスタンスで関係を継続していた。そうでなければ、どちらかあるいは双方がこの関係に見切りをつけてしまったであろうことは言うを待たない。彼らはそういう人間だった。

 「上に対してはともかく……」

 堀田が口を開く。

 「今の状況で、ガトランティスの大艦隊が押し寄せてきたとして、勝てるのでしょうか?」

 まさか大艦隊『以上』のものが襲来するなど、この時の堀田に想像するのは不可能だった。

 「勝てなければ、地球と人類が滅びる。それだけだ」
 「……」
 「勝つための戦いをするのが、地球の全艦隊を預かった俺の役目だ。お前が心配することではない。余計なことを考えず『薩摩』艦長、そして一個戦艦戦隊の司令官代理としての責任を果たせ。『自分の責任から逃げるな』と、俺はお前に教え続けてきたつもりなのだがな」
 「はい、出過ぎました。申し訳ありません」

 わかればそれでいい、と土方が答えたところで、面会の時間が終わりを告げた。そのため退出しようとする堀田の背中に、土方が声をかけた。

 「堀田、お前は今年で何歳になった」
 「?……32になりましたが、それが何か?」
 「そうか、今の防衛軍にとっては、もう熟練の士官と言うべき立場になったな」

 そう言って、土方は何故か少しだけ、表情を緩めたように見えた。

 「これからは、士官学校の教官としてだけでなく、若い者たちにより多くのことを教えなければならんな。そのために……お前が俺に艦隊司令の役目を押し付けたとき、俺は『俺より先に死ぬことは許さん』と言ったが、それは決して忘れるな」
 「……わかりました、微力を尽くします」
 「よし、それから」
 「?」
 「あのヤマトの無鉄砲……古代進は、お前も縁のある相手だ。今度のことを考えると、これからあいつはお前以上に苦労することになるだろう。だが同時に、あいつはお前と同じくらい、いやそれ以上に、多くの機会できっと地球と人類を救うような存在になり得るはずだ。俺はそう思っている」
 「進君であれば、さもあろうと私も思います」
 「そうか。ならばお前は古代の先輩として、今後色々と力になってやってほしい。あいつには真田くらいしか頼れる先輩がいない。子供のころから付き合いのあるお前が何かと力になってやれば、心強かろう」
 「……あまりひいきをしたいとは思いませんが、正直、教え子ということもあって彼のことは気にかけています。ですので、できる限りのことはしていきます」
 「それならいい、用件はそれだけだ」

 そう言われて再び背を向けた堀田に、また土方が声をかけた。

 「堀田」
 「……何でしょうか?」

 土方らしくないしつこさに、ここで堀田は違和感を感じていた。

 「死ぬなよ、いいな」
 「……」

 何か答えようとしたが堀田だったが、どうしても言葉が出てこず、黙って敬礼して土方の部屋を退出するしかなかった。

 恩師と生徒、その絆と縁を超えた関係で繋がっていたこの二人が、面と向かって直接会話をしたのは、このときが最後のことであった。

(※筆者注 本文内のD級戦艦のスペックに関しては、あくまで筆者の二次創作として原作『さらば』『2』に登場する『主力戦艦』も含めて考慮した独自のものとなっており、原作およびリメイク版『2202』の公式設定とは全く関係ないものとなっていますので、その点はご了承ください)

仕様決定と量産の開始

 四管区による試作艦建造とその試験を経て、最終的には『ドレッドノート(Ⅰ)』の船体に『出羽』の機関を搭載する、という決着を見た新型量産戦艦の仕様だったが、その他、細かい箇所の再検討などが再び艦政本部で行われ、2201年10月、その決定により新戦艦は以下の性能にまとめられ、防衛軍首脳部はこれを承認した。

全長 280m
全幅 69.8m
全高 99.7m

波動砲 一式タキオン波動拡散砲(通称・拡散波動砲)1門
主砲  一式41cm三連装集束圧縮型陽電子衝撃砲 3基9門

その他武装
    九九式短15.5cm六連装陽電子衝撃砲 1基(司令塔頂部)
    零式四連装対艦グレネード投射機(対空兼務 前甲板両側面)
    一式亜空間魚雷発射管 単装4門(艦首両舷)
    零式小型魚雷発射管 単装8基(艦首両舷)
    九八式対空迎撃ミサイル発射管 単装8基(艦底部)
    九八式短魚雷発射管 単装12門(片舷あて6門)
    一式多連装小型ミサイル発射管 16門(片舷あて8門)
    司令塔防護用ショックフィールド砲 3基(司令塔前部および基部)
    零式短砲身六連装光線投射砲 2基(司令塔基部側面)
    九九式40mm連装対空パルスレーザー砲 2基
    一式76mm三連装拡散型対空パルスレーザー砲 2基
    その他、艦の全周各部に埋め込み式対空パルスレーザー砲多数(門数不明)

主機  艦本式次元波動機関 1基
補機  ケルビンインパルス機関 2基
    懸架式亜空間航行用機関 2基

搭載機 一式一一型艦上戦闘機『コスモタイガーⅡ』10機(うち2機は偵察機仕様)
    九八式汎用輸送機『コスモシーガル』2機
    救命艇2機
    その他救命ボートなど

 武装の特徴として、ヤマトに比して対空兵装が大幅に削減されたことがまず目につくと思われる。これは拡散型パルスレーザー砲の採用で十分な弾幕が形成できると判断されたこと、また主砲塔が大仰角を取れるように設計されており対空砲として使用可能なことが考慮された結果だが、後にこれが問題を引き起こす原因になった。ただ、その詳細については先に譲りたい。
 また本艦の搭載機についてだが、ヤマトと同様に艦載機運用にいささか不自由があったこと、後に本級を改造した航空母艦の建造が決定されたこと、原則として艦隊での運用が常であり単艦で行動することがほとんどなかったこと、そもそも搭載すべき戦闘機が搭乗員も含めて不足していたなどの理由が重なり、偵察機を除いた戦闘機を搭載して作戦行動を行ったという記録は現状見つかっていない。

 なお、本艦の補給、給糧設備に関しては『ヤマトほどの長期航海は前提としない』『長期航海を行う場合は補給艦の随伴を検討する』『状況が許せば、ガミラス基地からの補給も求める』などが考慮された結果、ヤマトのようO.M.C.S(食料合成装置)や大規模な艦内工場、慰安、給糧施設は省略されており、その代わり乗員一人当たりの居住スペースを拡大することで居住性の向上が図られていた。ただ、自艦の修理および弾薬の補給に必要な工場設備、乗員用の物資保管のスペースは必要と想定された状況に応じて十分に準備されている。

 設計完了後『波動砲艦隊』の早期実現を望む防衛軍首脳部と、カラクルム級という現有艦艇では対抗困難な強敵を抱えていた艦隊側の双方から早急な新戦艦を望まれたこともあり、ただちに量産計画が立てられた。防衛軍にとってはもちろん、地球連邦政府にとってもガミラス大戦からの復興期に、それもヤマトを除けばかつてない大型戦艦の量産は難行に違いなかったのだが、ガトランティスという目前の敵の存在、そしてガミラスとの政治的駆け引きを考慮すれば、躊躇する余地はなかったものと思われる。

 2202年度の予算要求で、D級戦艦(本来はA型戦艦と呼ぶべきだが、D級という通称が広く知られており、後のアンドロメダ級の通称『A級』と紛らわしいことから、以降は必要のない限りこの表記を用いる)はまず18隻分の予算が求められた。
 これは、当時の地球防衛軍の戦艦戦隊が4隻編成だったため、4個戦隊と予備艦2隻分の要求だったのだが、防衛軍士官学校において行われた、波動砲戦を含めた戦艦戦隊の戦闘要領の研究結果として『戦艦戦隊は3隻編成とし、2隻が波動砲発射体勢に入った際に1隻がこれを支援するのが最適』との意見が出されたこと、また当時の防衛軍に新造戦艦を予備として遊ばせておく余裕もなかったため、6個戦隊分に編成替えされている。
 (ただし、実戦部隊において4隻編成による戦隊が構成されたことも多々あり、少なくともガトランティス戦役当時においては、まだ3隻編成が完全に一般化していたわけではないようである)

 前例を見ない大型艦の大量、かつ急速建造であり、予算の折衝も難航すると思われたのだが、前述した通り『波動砲艦隊』を目指す連邦政府首脳と、ガミラス大戦による戦禍によって『自国の軍備が弱いことで何が起こるか』を理解せざるを得なかった多くの市民から支持を受け、予算案はすぐに成立。早速、防衛軍が立案した計画に従って建造作業が各地のドックで開始された。
 当初は一番艦が『ドレッドノート(Ⅰ)』ということもあり、艦名の頭文字のアルファベットをDに揃えることがイギリスから提案されたようだが『旧来の伝統ある艦名を継承できない』と多くの国から反発を受け、断念されている。以下は艦名を示しつつ、ガトランティス戦役終結までに量産されたD級戦艦をタイプ別に紹介したいと思う。


A2型(前期生産型)
『ドレーク』『デヴァステーション』『ダンカン』
『ドイッチュラント』『ヘッセン』『バーデン』
『デラウェア』『ノース・ダコタ』『サウス・カロライナ』
『デュプレスク』『デュケーヌ』『ド・グラース』
『ドヴィエナザット・アポストロフ』『ペトロパブロフスク』『セヴァストーポリ』
『山城』『河内』『摂津』

 当初の予算案による18隻枠で建造された、D級戦艦最初の量産艦である。

 機関のみ『出羽』のそれが用いられた以外は、概ね『ドレッドノート(Ⅰ)』に準じて設計されたが、先述した旗艦設備の強化と、旋回性能の不足が指摘されたことから船体各部にスラスターが増設されるなどの改良が行われている。
 強化された旗艦設備は、戦艦戦隊旗艦から分艦隊(当時の地球防衛艦隊では30隻程度が想定されていた)旗艦まで問題なく務めることが可能とされ、当面は十分なものとされた。ただ、ガトランティス戦役が本格的に開始された頃に更なる旗艦設備強化の要望が艦隊側から出された関係で『バーデン』『サウス・カロライナ』『デュケーヌ』『ペトロパブロフスク』『河内』に小規模な改造工事が行われている。この5隻の艦橋構造物後方には艦隊司令部専用の通信アンテナが追加されているため、未改造艦との識別は容易である。

 また、当初から戦時定数150名程度、最低90名程度での戦時運用が要求されていたD級戦艦だったが、当時の深刻な人員不足は90名の乗員を確保することすら難しかったため、試作艦のそれ以上にAIなどを用いた自動化、省力化が推進された。これはこの時期の判断としてはやむを得ないものであったが、当時も艦隊士官の一部から『十全たる戦力発揮に不安あり』との指摘も存在しており、後のガトランティス帝国との戦いにおいても問題となっている。

 ともあれ、このA2型戦艦はガトランティス帝国が太陽系に侵攻してきた際は、文字通り艦隊の『主力戦艦』として第一線を担ったクラスだったと言える。それだけに損耗も多大なものとなったのだが、戦歴については今後紹介するタイプも含めて、別項にて記述したいと思う。


改A2型a(電探強化型 パトロール戦艦)
『テネシー』『リヴェンジ』

 2201年後半に追加建造が決まった4隻のD級戦艦のうちの2隻である。この頃はまだガトランティスとの本格的戦闘は始まっていなかったが、前線から『カラクルム級との遭遇機会が増えており、今後、敵に大規模な作戦を行う気配が感じられる』という報告があったため、一部の金剛改型、村雨改型の建造予算を転用する形でD級の追加建造が決まったのである。

 本型はその最初のものだったが、量産中のA2型戦艦とは運用目的が異なっていた。当初、本型は電探ならびに通信施設を強化することで、100隻を超えた大艦隊(当時、土星会戦における地球艦隊の総数200隻前後の艦隊編成は考慮されていなかったようだ)を指揮、統制するために建造が計画された。
 だが、実際には強化するとはいえ、D級程度の艦の規模で100隻以上の大艦隊を指揮するのは荷が重く、この判断が『戦略指揮戦艦』たるアンドロメダ建造の契機となる。そして、浮いた形になったこの2隻の戦艦枠に関しては、電探、通信能力の強化はそのままに、遊撃部隊として敵侵攻軍(当然、その仮想敵はガトランティス帝国軍である)の後背で破壊活動を行うべく編成が構想された第三艦隊に配備するための戦艦として計画が変更され、起工された。

 ところが建造開始直後、連合艦隊司令部から、その第三艦隊にD級戦艦に近い火力とより優れた航空機運用能力を有する空母(戦闘空母、としたほうが適切と思われる)の配備が構想され、これが防衛軍首脳部も認めるところとなったため、再びこの両艦が宙に浮くこととなった。
 とはいえ、搭載すべき武装や電探、通信整備は既に用意されていたため建造中止にすることもできず、艦政本部は再びこの両艦に若干の改設計を加え、今度は地球防衛軍にとって最前線と言うべき冥王星、海王星基地に配備される警備艦隊の旗艦用戦艦として建造が続行されることとなった。

 ベースとなったA2型戦艦からの、最終的な改造点は以下の通りである。

・艦隊旗艦用司令部施設と司令部要員用の居住区画を拡大
・改A2型パトロール巡洋艦と同型の大型電探を艦底部に装備、その他の探知機器もパトロール巡洋艦より更に強化して搭載
・代償重量として艦底部の九八式対空迎撃ミサイル発射管8門を撤去。ミサイル弾薬庫を縮小
・大出力通信機器に対応した専用アンテナを艦各所に追加

 この改造により、一見すると後に建造された『アンドロメダ』のようなアンテナ類が林立する特徴的な外見を持つこととなった。なお本艦の評価としては「通常型に比して機動性が若干低下し、操艦が難しくなった」というものが伝わっているが、兵装は概ね維持されていたし、また旗艦能力や探知、通信機能が非常に高かったため、実際に運用した冥王星、海王星の警備艦隊からは概ね好評だったようだ。

 本型は警備艦隊以外の運用は考慮されていなかった、という説もあるようだが、実際は平時における哨戒活動の他に、警備艦隊を率いて第一、第二外周艦隊との共同戦闘訓練を行っており、戦時においては警備艦隊と共に連合艦隊の戦列に加わることが既定事実となっていたようである。
 そのため、地球防衛軍において最大の艦隊決戦となる『土星会戦』にもこの両艦は参加しているのだが、その際の状況については別項に譲りたいと思う。


改A2型b(主砲換装タイプ前期型)
『相模』『コンテ・ディ・カヴール』

 改A2型a戦艦と同時に計画された艦だが、この両艦は誕生の経緯が少々特殊なものだった。

 詳細は後に譲るが、この時期のD級戦艦はいわゆる『一式41cm砲の散布界問題』に悩まされていた。そのため各種の解決法が艦政本部や技術本部で議論、実験されていたのだが、その中でこのような提案がなされていた。

 『ヤマトが搭載した九八式48サンチ陽電子衝撃砲を、D級戦艦に搭載することは可能だろうか?』

 確かに九八式48サンチ陽電子衝撃砲は、戦時下でそれが許されなかったという事情があったとはいえ、散布界過大など致命的な欠陥が発生しないよう、極めて堅実な性能で纏められた艦砲だった。そのためイスカンダルへの航海においても大きな問題は発生しなかったのだが、この砲をD級戦艦に搭載しようというのである。
 だが、この『九八式48サンチ陽電子衝撃砲を搭載したD級戦艦』は、既にロシア管区が建造した『ボロディノ』で試みられ、船体の大型化によって量産艦としては不採用になったという経緯がある。それを踏まえてのこの提案には、当然のこと『ボロディノ』とは違う特徴があった。

 『バーベット径の拡大を防ぐため、連装砲塔にて搭載してはどうか?』

 実はヤマトの設計案において、九八式48サンチ陽電子衝撃砲の連装砲案が存在しており、連装砲塔の設計も完了していた。これを流用すれば、D級の船体に対して最低限の改造を施せば、九八式48サンチ砲を簡易に搭載する目途があったのだ。
 そのためこの案は採用されたが、当時既に九八式48サンチ陽電子衝撃砲は砲身の生産が行われておらず、その建造にはガミラス大戦末期にヤマトの予備用として製造された砲身を転用するしかなかった。それでも、一隻でもD級戦艦の数が欲しい防衛軍首脳部と艦隊側の思惑が一致したこともあり、この改A2型b戦艦の建造は行われることになった。

 そうして実際に完成した改A2型b戦艦であったが、実際に運用した艦隊側は『主砲威力の向上、および散布界問題の解消は歓迎できるが、発射速度の遅さに大きな問題がある。可能であれば九八式二型48cm陽電子衝撃砲(2202年大改装後のヤマトが搭載した48cm砲)への換装を望む』と評価した。
 しかし、この提案が検討される前にガトランティス戦役が本格化、太陽系への攻撃が始まったため、両艦とも既存の主砲のまま戦役に参加している。


A3型(中期生産型)
『クイーン・エリザベス』『バーラム』『ヴァリアント』
『ノース・カロライナ』『ワシントン』『アラバマ』
『薩摩』『周防』『丹後』
『レジーナ・マルゲリータ』『エマニュエレ・フィリベルト』『サルディーニャ』
『ナッサウ』『ヘルゴラント』『オルデンブルク』
『ペレスヴェート』『シノープ』『ポペーダ』

 当初は2202年前半に、前期生産型各艦が戦闘によって損耗することを見越して9隻の整備が決まったものだったが、いわゆる『カラクルム落下事件』(当時はそう呼ばれず、単なる事故として扱われていたが)によって地球の座標がガトランティス側に露呈したのを受けて『可及的速やかに、かつ可能な限り多数を量産する』ことが決定され、戦時予算による更なる追加建造が決まったグループである。
 前期生産型であるA2型からは、以下の改良が施されていた。

・艦各部の簡易化(これは戦時下のためというより、量産による経験の蓄積から過剰と判断された部分を削った、と言うべきものである)
・艦内構造の一部変更、防御隔壁の強化
・電探、通信設備。並びに各種AI機器の更新
・散布界問題に悩まされていた主砲に、新型の発砲遅延装置を装備(本タイプ以前の艦にも逐次装備されている)
・中規模艦隊(50隻程度)向けの旗艦設備を標準装備

 特に艦内構造の変更は『ガイデロール級をモデルシップにした』本型にとっては大きな変更点であり、地球がガイデロール級を基礎にしつつ、独自の大型艦設計を行う契機となったと言えるだろう。

 戦時下ということで本タイプの量産は急がれ、ここに艦名を挙げた18隻はいずれも土星会戦に最新鋭艦として参加している。なお、艦隊側の運用評価はA2型戦艦とほぼ変わるところはなかったが、発砲遅延装置の搭載とAIの改良にも関わらず、相変わらず散布界問題が解決していないことが問題視されている。これは土星会戦においても大きな問題を引き起こしているのだが、詳細は別項にて触れたい。

 なお予定艦名が不明なため省略したが、A3型戦艦はこの18隻以降も追加建造が行われるはずだった。しかし太陽系に敵勢力が侵入する状況下で、連合艦隊司令部から『戦艦以上に、それを護衛する巡洋艦や駆逐艦の不足が深刻である』と強硬な要望があったことや、土星会戦後の太陽系各惑星および地球本土への攻撃によって工廠ごと失われた艦も多く、戦後はD級戦艦の建造が後期生産型へと移行したこともあって、最終的なA3型戦艦の整備は18隻で終了している。

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