2208年に始まった『太陽危機』は、同年後半にはもはや抜き差しならぬ事態にまで地球を追い込んでいた。地球政府主導による、並びに計画開始時には大いに期待されたガルマン・ガミラス帝国による太陽制御の失敗は、もはや人類に『太陽系の放棄やむなし』と諦観を抱かせるには十分すぎる現実だった。
 そこに来て、ガルマン帝国からの情報によって『第二の地球に足る』と人類に希望をもたらしたはずの惑星ファンタムでさえ、それ自体がコスモ生命体である以上は人類の居住に適するはずもなく、仮にガルマン帝国の攻撃によって破壊されなかったとしても、状況を好転させることはできなかったのである。この時点で人類絶滅のタイムリミットとされた時期まであと100日と少し。ヤマトをはじめ各国の探査船団による必死の調査が続けられていたが、朗報となるべき知らせはついぞもたらされていなかった。

 あげく、状況は更に悪化の一途をたどる。太陽危機が勃発した当初、行き違いからヤマトとガルマン帝国が交戦状態に陥っていたが、それが和解へとつながったこと、更に別の外交的要因も重なったことで今度はガルマン帝国の主敵であるボラー連邦と戦争状態に突入してしまい、後者が第二の地球探査を行っている各国の船団に攻撃を仕掛けるようになったのだ。
 このボラー連邦の行動は、ほぼ同時期に同国がガルマン帝国に向けて行っていた大規模攻勢作戦に巻き込まれる不運も重なり、汎用戦艦一隻程度に護衛された小規模な探査船団が数百隻のボラー艦隊によって攻撃されるという悲劇的な状況を多発させていた。その一連の戦闘においてつとに有名なのは、北米所属の汎用戦艦『アリゾナ』の奮戦により辛うじて探査船団だけは離脱できたというものだが、これは相当に幸運な事例であって、ほとんどの場合において護衛の汎用戦艦は圧倒的多数のボラー艦隊の攻撃を支えきれず撃沈され、同時に探査船団も壊滅へと追い込まれていたのである。もちろん彼らとてただ沈められるだけでなく、最大限の抵抗によってボラー艦隊に打撃を与え、同時にこれまでの探査によって得た情報を可能な限り地球に送信するなどの努力を払ったが、このまま各方面に展開した探査船団が文字通り全滅し続ければ、第二の地球探査そのものが破綻することは目に見えていた。

 地球にとって極めて過酷な状況が続いていたが、程なく、ヤマトからの『ある報告』が連邦政府の注目するところとなった。それはヤマトが惑星ファンタムから離脱した直後にもたらされた報告だったのだが、同艦が『惑星ファンタムでとある一人の異星人女性を保護した』というものだった。そして、その彼女……本人が名乗るところの『シャルバート星の王女・ルダ』なる人物がヤマト艦内、つまり地球人類が居住する環境に何の問題もなく適応したという事実が、連邦政府とそれに属する科学部門を震撼させたのである。

 何故なら、このルダ王女なる人物が示したのは、つまるところ『シャルバート星なる、地球人類が居住可能と思われる惑星が存在している』という、現状の地球にとっては救いでしかない事実であったからだ。

 この時点では、そのシャルバート星(と思われる惑星、と表現したほうが適切なのだが、本文ではこの名称で通すことにする)が移民船団の到達できる地球より1万5千光年の範囲内にあるかなど、詳細なことはルダ王女が何も語らなかったため、一切不明ではあった。だが、もし本当にシャルバート星が存在し、このルダという女性が『王女』であれば、地球に類似した人類の居住可能な惑星の情報を得られる、あるいはシャルバート星そのものに人類を移住させるなど、シャルバート政府(『王女』ということから王家であると想像されていたが)と交渉できるのではないか、という希望的観測が可能となったのである。

 もちろん、地球連邦政府には別の思惑もあった。一言で断じてしまえば『シャルバート星を侵略して第二の地球とする』と考える勢力が連邦政府、あるいは防衛軍首脳の一部に存在していたわけで、実際、防衛軍の内部で極秘裏に『(シャルバート星侵攻のための)艦隊の動員準備を行ってはどうか?』という提案が非公式ながら行われた形跡がある。だが、そうした意図を察したと思われる藤堂防衛軍統括長官によって、その提案は却下された。
 ただ、たとえ侵略行為を実行しないとしても、シャルバート政府との交渉の窓口としてルダ王女の手を煩わせる可能性がある以上、彼女の安全確保、そしてその信頼を得ることは、特に彼女を保護したヤマトとその乗員らにとって至上命題とされた。こちらは藤堂長官にも異論はなかったようで、極秘裏にではあったが、当時のヤマト艦長である古代進二佐に対して「ルダ王女をくれぐれも丁重に扱うように」との命令が下ったのは確かなようである。

 一方、一度は見送られた艦隊の出撃準備ではあったが、再び状況は劇的に変化し、シャルバート星への侵攻云々とは全く関係のないところで、防衛軍は一定規模の艦隊出撃を考慮する必要に直面することになった。その理由は、今度は盟友となったガルマン帝国からの要請によるものであった。
 当時、ガルマン帝国は銀河系北部方面(付け加えると、この方面は地球側から見て、ヤマトの受け持ち探査区域に向かう方向にあたっていた)においてボラー連邦の大攻勢に直面しており、当時、ベムラーゼラグードという地球から3万7千光年ほど離れた惑星において、ガルマン帝国軍の第六空間機甲師団がボラー連邦軍に包囲されていたのである。しかもその惑星に逃げ込んだガルマン帝国軍に交じって、ボラー軍の攻撃によって撃沈された汎用戦艦『ビスマルク』の生存者がいるとのことだったから、地球側としては同盟国への信義を果たす、危機に陥った味方を見捨てるわけにはいかないという事情が生じ、そのベムラーゼラグードに救援艦隊を派遣することを考えなければならなくなったのである。

 だが、本音としては連邦政府にせよ防衛軍にせよ、このベムラーゼラグード救援には乗り気ではなかった。地球から3万7千光年も離れた惑星に早急に援軍を出そうとすれば、そのための艦隊は必ず全艦が連続ワープを可能とするスーパーチャージャーを装備した波動機関を搭載している必要があったからだ。
 しかし、防衛軍が所有するスーパーチャージャーを搭載した艦は当時まだそれほど多くなく、更に艦隊に所属する全艦がこれを装備し、その運用にもある程度習熟している。もっと重要なのは、当然のことベムラーゼラグードを包囲するボラー連邦の大艦隊に対抗が可能であろう兵力。その条件を満たす可能性があり、なおかつ現状に即応可能な防衛軍の手持ちの部隊といえば、当時月面基地周辺で訓練を行いつつ有事(当初はガルマン帝国、現在はボラー連邦による地球侵攻)に備えていた第九艦隊のみであった。

 とはいえ、当然ながらこの第九艦隊は地球防衛軍にとって『地球本土防衛のための決戦兵力』であり、これを太陽系の外部へと動かしてしまうと、航続性能に優れる汎用戦艦など主力艦の多くを第二の地球探査に振り分けている(しかも、ボラー連邦との交戦によってそれらの損害も既に許容範囲を超えていると判断されていた)現在の地球からすれば、文字通り自らの勢力中枢を空にすることになる。その間隙を狙ってボラー艦隊あたりが侵攻などしてくれば、それこそ太陽危機とは無関係なところで人類が滅亡することは避けられないのである。

 そんなこともあり、内外において第九艦隊の派遣に関しては反対意見が多かったが、最終的に防衛軍は『状況に応じて第九艦隊の出撃を考慮するので、そのための準備は行う』という結論を出した。出さざるを得なかった、と言ったほうが正確だっただろう。ただでさえ人類が危機的状況にある中で同盟国の信頼を失う、それ以上に敵に包囲されている味方を見捨てることで将兵からの信頼を失墜させてしまうことは、大きなリスクを背負おうとも避ける他になかったのである。そのため、実際に出撃させるかの結論はまだ先送りにするとしても、準備をするという形式『だけ』でも整える必要がある。連邦政府と防衛軍が出した結論はそういうところにあったのだ。

 ともあれ、第九艦隊はベムラーゼラグード、つまり銀河系中心部に向けた遠距離航海の準備を開始した。この時点で人類が絶滅するであろうとされた日まであと80日あまり。タイムリミットまで踏まえると、やはりこのような危機的な時期に協力が期待できる同盟国や、何より味方の信頼を損なうことはできない。苦しい判断であったことは、当時第九艦隊の司令長官であり、その派遣においては反対といかずとも慎重論を唱えていた高石範義宙将も十分に理解するところだった。
 なお、高石提督はこの時期の防衛軍にとって数少ない宙将であると同時に、ガミラス大戦から艦隊士官として戦い続けた防衛軍を代表する艦隊指揮官だったから、所属している艦の全てがその機関にスーパーチャージャーを標準装備した新鋭艦と、大規模な改装によって大幅に性能が向上した艦で揃えられていたことも含めれば、第九艦隊が地球防衛軍にとって文字通り虎の子の決戦兵力であったと理解していただけるだろう。

 もはや人類絶滅まで3か月を切っているような状況であるため、第九艦隊の出撃準備は突貫で行われ、早期に完了した。だが、そのほんの僅かな時間の間に、再び状況は地球にとって更なる悪化を見せることになる。
 この時期、地球防衛軍はわずかに残された偵察兵力と情報網を総動員して、銀河系中心方向における地球より1万5千光年内のガルマン帝国、およびボラー連邦の動向を注視していたが、それによって二つの事実が明らかになった。

 まず問題になったのは、シャルバート星との交渉役として連邦政府が期待していたルダ王女の存在そのものだった。ボラー連邦は元よりガルマン帝国すら秘匿していたため把握が遅れたのだが、彼女が『シャルバート星の王女である』ということが、地球側の想像を超えた極めて重大な事実であったと判明したのである。

 そもそもシャルバート星とは、古の銀河系中心部において、その強大な武力によって秩序をもたらしたとされる惑星として、信仰の対象となったほどの惑星だった(この事実は、探査のため立ち寄ったバース星などでシャルバート信者たちと接触を持ったヤマトから報告があったが、太陽危機の状況に紛れて連邦政府は重要視していなかった)。そのため、シャルバート星の動向は常にガルマン、ボラー双方にとって最大級の関心事であり、今さらと言えばそれまでだが、この時期になって地球側もようやくその事実を認識したのである。
 ために、ルダ王女の存在そのものがガルマン、ボラー両国に狙われている状態であり、それを艦内に抱え込んでいるヤマトもまた、必然的に両国から監視されるような状況だったのだ。一応、ガルマン帝国とは曲がりなりにも同盟関係があり、このことでいきなりヤマトとの交戦が再開されるとは考えにくい。だが、ボラー連邦にはそのような遠慮をする理由が存在しないのだから、少なくともこちらのほうは、いつヤマトに牙を剥いたとしてもおかしくなかった。

 いずれにせよ、銀河系中心部においてはベムラーゼラグードの件のみならず、ガルマン帝国とボラー連邦の大規模戦闘が継続中なのだ。その状況で、両国からその身を狙われている人物を艦内に抱え込んでいるヤマトを放置しておけば、下手をすればヤマトがガルマン、ボラー双方から攻撃を受けることも考えられた。ガルマン帝国とて「ルダ王女をボラー連邦に奪われるよりは」と考えるようになれば、いっそヤマトごと沈めてしまえという決断に至る可能性とて当然ながら存在したのである。
 そうなれば、事はヤマト一隻の喪失では済まない。ルダ王女はガルマン、ボラー両国のみならず、シャルバート政権を介した移住、あるいはその本拠地奪取まで考慮している地球にとっても最重要人物であり、同時に最後の希望ともなり得る存在なのだ。それがヤマトごと宇宙の藻屑となれば、絶望的な第二の地球探査の現状を鑑みると、地球に残された希望があえなく失われることになる。それは何としても避けるべき事態であった。

 この情報が入って程なく、第九艦隊は太陽系を出撃した。だが、その目的はベムラーゼラグード救援ではなく『ルダ王女を保護しているヤマトへの援軍』に変わっていた。この出撃時期と前後して、ヤマトは受け持ち探査区域の最後の宙域であるスカラゲック海峡星団に進路を向けたが、第九艦隊はそこでヤマトとの合流を企図したのである。

 このとき出撃した第九艦隊の編成は、以下の通りだった。


第九艦隊(司令長官 高石範義宙将)

第一戦隊
B型戦艦(原作『完結編』戦艦)「紀伊」(総旗艦)「ダンケルク」「マサチューセッツ」
アリゾナ改級試作主力戦艦「ミズーリ」

第四戦隊(司令官 ロドニー・カニンガム宙将補(次席指揮官兼務))
ライオン級(改POW級主力戦艦)戦艦「ライオン」
POW級戦艦「アンソン」「ハウ」
改A4型戦艦(D級戦艦後期生産型・乙)「アイアン・デューク」

第六戦隊(司令官 島井七矢宙将補)
エクスカリバー級自動戦艦(原作『永遠に』無人艦大型艦)管制型「トライデントⅠ」
エクスカリバー級自動戦艦「ハルバードⅡ」「クレイモアⅡ」

第十二戦隊
A6型戦艦(D級戦艦後期生産型・丁 主砲艦首集中型)「ネルソン」「ロドネイ」

第十七戦隊
A2型戦艦(D級戦艦前期生産型 大改装終了後の状態)「ドイッチュラント」「デラウェア」「デュプレクス」

第一巡洋戦隊
B型巡洋艦(原作『完結編』巡洋艦)「アラスカ」「バーミンガム」

第六巡洋戦隊
ジャベリン級自動巡洋艦(原作『永遠に』無人小型艦)「ジャベリンⅠ」「カットラスⅡ」「スピアⅡ」

第十四巡洋戦隊
ジャベリン級自動巡洋艦「グングニルⅠ」「ゲイ・ボルグⅡ」「トリシューラⅡ」

第一駆逐隊
C1型駆逐艦(原作『完結編』駆逐艦改・艦隊用武装強化型)「秋月」「照月」
改C1型駆逐艦(原作『完結編』駆逐艦オリジナル・長期航海用居住性向上型)「涼月」「冬月」

第九一駆逐隊
C1型駆逐艦「ソヴレメンヌイ」「リベッチオ」
改C1型駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」「モントローズ」

艦隊付属 
A1型航空母艦(改)「天城」(PS版戦闘空母・前期型 コスモタイガーⅡ搭載)
改A2型航空母艦「ホーネット」(PS版戦闘空母・後期型 二式中型艦上爆撃機搭載)


 総数にして34隻。百隻単位の大艦隊が戦闘を繰り広げるガルマン、ボラー両国からすればささやかすぎる戦力であったが、この時期の地球防衛軍にとっては量産が開始されたばかりの新鋭艦と大規模な改装工事を終えた艦を揃えた、文字通り最強の艦隊だった。

 しかし、第九艦隊が太陽系宙域を離れた直後、艦隊指揮官の高石はいったん艦隊の足を止めることを余儀なくされた。この時点では出所が明確でない、あくまで未確認情報だったのだが、現状もガルマン帝国軍に対して大規模作戦を続行中だったボラー連邦軍について、無視できない情報が地球経由でもたらされたからである。

 それは『ボラー連邦軍の主力艦隊が、ルダ王女の捕縛、あるいは殺害を狙ってヤマトを追跡している』というものだった。

 先に述べたように、ガルマン帝国とは表向きだとしても同盟関係があることだから、ルダ王女の処遇について行き違いが生じたとしても、それが直ちに武力衝突に発展するとは限らない。しかしボラー連邦は現実に地球と敵対している相手であり、それゆえに探査船団のいくつかが既にボラー軍によって壊滅させられているのだ。
 しかも悪いことに、当時の地球連邦政府にはボラー連邦との交渉チャンネルが事実上存在していなかった。そのため、実際に地球連邦としてはボラー連邦に害意はなく事を構える理由もなかったのだが、それを相手に伝える術もなければ交渉する場を設けることすら困難だった。

 それに、そもそもボラー連邦と地球、正確にはヤマトが交戦状態に陥ったのも、バース星に寄港したヤマトに対してボラー側が相当に無理な理屈で地球に属国となることを要求したのが原因だったから、仮にヤマトがルダ王女の引き渡しを拒否した場合、というより引き渡すわけにもいかなかったのだが、問答無用でヤマトを沈めようとするほうが自然だったのである。

(※筆者注 バース星でのベムラーゼ首相と古代艦長の対立に関しては、原作『Ⅲ』の作品制作当時の時代背景からやむを得ないと思われますが、古代側の発言があまりに非常識で不自然すぎるため、拙作では不採用としボラー側の高圧的な態度に原因を求めています。この場面での古代の主張については、書く機会があればもう少し穏当かつ常識的なものへと再構成する予定です)

 ボラー連邦の主力艦隊と対決する可能性がある。となれば、如何に地球最強の艦隊である第九艦隊とはいえ、その戦力が不足しているのは明らかだったから、第九艦隊司令部としてもうかつに危険宙域となるであろうスカラゲック海峡星団に突入する判断を下すことはできなかった。だが、これは何も『ボラーの主力艦隊に勝ち目がない』という単純な話ではなく、もっと大きな危険が生じたことを指揮官たる高石が理解したのが最大の理由だった。

 「今度の戦いは、それ自体がもはや地球人類の存亡を賭けた決戦になる」

 何しろ、ボラー連邦軍の標的が第二の地球探査を行っている最中のヤマトである以上、もし交戦状態に陥った場合、その宙域は地球から1万5千光年以上に離れることはない。この、地球にとって文字通り『至近距離』と言うべき場所での戦闘でヤマトのみならず第九艦隊まで全滅すれば、もはやガルマンもボラーもシャルバートも何もない。地球までの宙域にボラー連邦の主力艦隊を止められる戦力は存在せず、太陽の核融合異常増進によるタイムリミットを迎えるまでもなく、人類はボラー連邦によって滅亡させられることは必至だったのだ。
 この時点で、ボラー連邦軍の主力艦隊がどの程度の規模になるかは不明だった。だが、第九艦隊にヤマトを加えたところで確実に戦力、特に量において劣ることは明白だ。高石が『人類の存亡を賭けた決戦になる』と認識したのは、実に正しかったと言うしかなかった。

 そのため一度は艦隊を止めた高石だったが、逆にこれから迎える戦いが『人類の存亡に関わる決戦である』以上、ここで太陽系に戻る選択肢はなお存在するはずもなかった。ここで第九艦隊だけ温存したところで、ヤマトがルダ王女諸共沈められれば、どのみち地球にとって希望の大半は失われるのだから、今さら逃げる余地などなかったのである。彼が艦隊を止めたのには別の理由があった。

 それは、これからの決戦を前にして、自艦隊を少しでも強化したかったからである。いったん艦隊の足を止めさせた高石は、直後に第九艦隊の進路をケンタウルス座のアルファ星に向けた。ここには太陽危機を迎える前、地球防衛軍が早期警戒用に小規模な基地を建設していたのだが、それが太陽危機勃発直後に交戦状態へと突入していたガルマン帝国軍に攻撃されたのである。
 地球側の初動が遅れたこともあって基地の救援は間に合わなかったが、ガルマン帝国軍と交戦していたバース星(ボラー連邦の衛星国)艦隊の攻撃によってガルマン軍が撤退したため、まだケンタウルス座は地球側の勢力圏に残っていた。そして、銀河系中心部方面からのガルマン、ボラー双方からの攻撃に備えて、当時の地球防衛軍にとっては中規模と言える艦隊が配備されていたのだった。

 その艦隊の艦艇総数は21隻。一応、艦隊に所属する艦の全てにスーパーチャージャーの搭載は行われており、第九艦隊の足手まといになる心配はなかった。だが、所属する全てがガトランティス戦役の前後に建造された艦、それも建造時期がバラバラで仕様が異なっていることが当然という、言ってしまえば『旧式艦の寄せ集め艦隊』だったのである。
 普通の指揮官であれば、この艦隊に多くを期待することなど考えないだろうから、第九艦隊の司令長官が高石でなければ、その存在など無視して進撃を続けていただろう。だが、高石は明確にこの艦隊を『追加戦力として期待して』アルファ星に立ち寄ってその指揮官に協力を求めたのである。

 そのアルファ星駐屯艦隊の指揮官の名は、堀田真司宙将補。

 地球防衛軍が発足する前の、航宙軍士官学校において高石と同期だったこの提督は、本来その戦歴からすればもう宙将になっていたはずだし、あるいは第九艦隊の司令長官がこちらだったとしてもおかしくないような、ガミラス大戦以来の歴戦の将官だった。ただ、当時の艦隊戦力の整備について防衛軍の上層部と折り合いが悪く昇進が遅れており、更にこの時期に主戦場から離れたアルファ星に配備された艦隊を率いている時点で『左遷されている』と表現するしかない立場でもあった。
 だが、その置かれた状況と提督としての力量はまったく別の問題である。堀田は長く士官学校において宙雷科の教官を務め、またガミラス大戦末期からデザリアム戦役までずっと艦隊の第一線で戦い続けて実績を積み上げてきた、高石の言葉を借りれば「艦隊指揮官としては自分などよりずっと上」と言われるような提督だったのだ。しかも教官職が長かったことがあってか、猛烈のみならず効率的な訓練を行い『どんな弱兵も強兵にする』と言われるような面もあったから、この寄せ集め艦隊も彼が指揮官である以上、高石にとっては十分に補充する戦力として当てにできたのだった。

 防衛軍司令部からの許可を取り付けた後、高石はアルファ星に立ち寄って堀田の旗艦である戦艦『薩摩』を訪問する。しかし、そこで彼は驚くべきものを目にすることになる。
 堀田の率いるアルファ星駐屯艦隊が、防衛軍首脳部から何の指示も与えられていないにも関わらず、出撃準備を終えて待機していたのである。高石が何故かと理由を聞くと、堀田はこう答えた。

 「いずれこの場に留まっていたところで、この艦隊が遊兵になることはわかっていた。もっとも、まさか範さんの艦隊まで投じられるとは思っていなかったから、先に動くことになるのはこちらと思っていただけだ」

 自分が堀田を戦力として期待したことの正しさを、高石はここで十分すぎるほど確信した。そして、自らが率いる艦隊、本来は地球防衛軍の決戦兵力たるはずの第九艦隊が出撃した理由と現在の状況を説明すると、

 「ならば、うちの艦隊を使わない理由はないな。連れて行って……いや、お連れ頂けますでしょうか? 高石提督」

 堀田はそう即答したが、内心、口に出せない不安を抱えていた。彼は現在の防衛軍上層部のうち、藤堂統括長官とその他に数名しか、まっとうに信頼できる人間がいないと考えていたのだ。それだけに彼らの計画する軍備を「あなた方の金儲けのための艦隊ですか?」などと激烈な批判を加えたことがあり、そうした言行が現在の『左遷同然』という立場に自分を追い込む結果になっていたのである。
 だから、もちろん高石はそのようなことは素振りも見せなかったが、そのシャルバート星の政府との交渉がうまくいかなければ……いや、堀田からすれば今の防衛軍あるいは地球連邦の首脳部からして、対話もそこそこにシャルバート星を侵略するつもりではないか。その疑惑を振り払うことができなかったのだ。

 そして何より、シャルバート星を侵略するとなれば、そのための兵力こそが第九艦隊でもあるのだ。そうなれば、堀田にとっては士官学校以来の大親友である高石が、まさにその侵略の尖兵にされてしまうことになる。
 そのような事態は、とても許容できるはずもない。しかし目前のボラー連邦の主力艦隊、そして太陽危機の現状から考えれば、もうそうした理想論を述べるような余裕がないのも確かである。ならば、堀田にとってできることはただ一つ。この大親友にとって不本意この上ないはずの侵略行為に自らも手を染め、共にその罪を背負うくらいしかなかったのだ。

 しかし、その覚悟とて、まずは目前の敵艦隊に対処してからのことである。言い合わせたわけでもなく、ほとんど同時に堀田そして高石も改めて、その思考を艦隊指揮官のそれに切り替えたのだった。

 堀田の艦隊が出撃準備をほぼ終えていたこともあり、早速合流した両艦隊はアルファ星を出撃することとなったが、ここで防衛軍司令部からそれぞれ名称が与えらえることが決まった。高石率いる第九艦隊は『第一遊撃部隊』、堀田の統率するアルファ星駐屯艦隊は『第二遊撃部隊』と呼称されることとなり、本文でもこれ以降、両艦隊についてはこの名称を用いることにする。なお、まだ紹介が終わっていない第二遊撃部隊の編制は以下の通りである。


第二遊撃部隊(元・アルファ星駐屯艦隊 司令長官 堀田真司宙将補)

第三戦隊

第一小隊(司令長官直卒)
A3型戦艦(D級戦艦中期生産型)「薩摩」(艦隊総旗艦)
改A3型戦艦(D級戦艦後期生産型・甲)「ドレッドノート(Ⅱ)」

第二小隊(座乗指揮官 第三戦隊司令官・福田定夫宙将補(次席指揮官兼務))
A1型戦艦d(D級戦艦試作型・旗艦施設強化型)「出羽」
改A2型戦艦b(D級戦艦前期生産型・主砲換装型)「相模」

第二六戦隊(司令官代理 永峰祐樹二佐(「羽黒」艦長))
A2型巡洋艦(原作『2』巡洋艦・前期生産型)「羽黒」
改A2型巡洋艦・甲(PS2版巡洋艦・後期生産攻撃強化型)「カールスルーエ」「アドミラル・マカロフ」

第三九戦隊(司令官 中村一士二佐)
改A2型巡洋艦・乙(PS2版巡洋艦・後期生産速力強化型)「春日」「ピッツバーグ」

第五警備艇隊
警備艇(元・原作『2』パトロール巡洋艦)「和泉」「クアルト」

第三一駆逐隊
A2型駆逐艦(原作『2』駆逐艦・前期生産型)「陽炎」「親潮」「ベンハム」

第四五駆逐隊
A2型駆逐艦(原作『2』駆逐艦・前期生産型)「フォルバン」「レーベリヒト・マース」「オンスロート」

第五二駆逐隊
改A2型駆逐艦・乙(PS版後期生産型駆逐艦・乙 雷撃力強化型)「峯風」「五月雨」「秋雲」「早霜」

 先にも述べたことだが、書類上は同型艦でありながら、生産時期などの関係で仕様が異なったり、改装の有無によって装備が異なったりと、とかく統一感のない艦隊ではあった。だが、デザリアム戦役において白色銀河までの遠征に参加した艦が多数配属されており、実戦経験の豊富な乗員が多く残っていたこと。スーパーチャージャーが標準装備されていることなどから、ともあれ第九艦隊の足手まといになる心配をしなくてよいというのは幸いだったと言うべきである。

 さて、二個艦隊が合流して進撃を開始した第九艦隊だったが、それでも艦艇数は50隻を僅かに上回る程度でしかない。それに、もしスカラゲック海峡星団において会敵するとすれば、その相手がボラー連邦の主力艦隊であることは確実と見られていたが、まず敵の規模がわからなければ対処しようがないのだ。
 第一、第二遊撃部隊の司令部が協議した結果、まず第五警備艇隊の『和泉』『クアルト』の二隻がそれぞれ別ルートからスカラゲック海峡星団に近接、その遠距離探知機能を総動員して宙域の状況を把握することとなった。

 第五警備艇隊が進発して数日後、第九艦隊はスカラゲック海峡星団まで2千光年ほどの距離にあった。ここからなら、スーパーチャージャーによって強化された第九艦隊のワープ性能を以てすれば、半日ほどで目的宙域に突入し戦闘を開始できる体勢であった。

 この時点において、ヤマトに通信を送って共同して行動する、という選択肢は高石も堀田も考慮していなかった。それは、もしヤマトへの通信がボラー連邦、更にはガルマン帝国に傍受されれば『ヤマトに援軍が向かっている』と露呈することになる。そうなれば、敵……こうなればどちらか、あるいは双方が敵になるかわかったものでもないが、ともかく相手側も更に戦力を呼び集めて第九艦隊に対処しようとする可能性が高い。そうなってしまっては、ただでさえ数において不利であろうことが想像できる状況を、自らの手で更に悪化させることに繋がるのだ。
 そのため、先行して偵察に向かった第五警備艇隊にも無線封止の指示が出されており、更に両艦はコスモシーガルなど汎用輸送機を搭載する設備しか有していなかったのだが、非常時ということでコスモシーガルを一時的に降ろし、そのスペースに各1機のコスモタイガーⅡ(ミサイルを搭載する施設が両艦に存在しなかったため、偵察仕様として増槽のみ装備)の搭載が強行されている。もし変事を把握したら、即座に偵察機を発進させて第九艦隊司令部に報告を行うことになっていたのである。

 いずれにせよ、間もなく戦闘が開始される可能性が高い。そう判断されたことにより、ここで第一、第二遊撃部隊それぞれの司令部による合同作戦会議が催された。そしてその大勢の意見は、次のようなものであった。

 「ガルマン、ボラーいずれの艦隊、あるいは双方を相手とするには、我が艦隊では兵力が不足している。ここは敵対しているガルマン、ボラー両軍を噛み合わせ、双方が疲弊したところに我が艦隊を投入してはどうか?」

 つまり、漁夫の利を得ようということである。その思考に至ることも無理からぬことであったが、総指揮官である高石、そして次席指揮官である堀田もまた、沈黙して考え込むような表情を見せるのみであった。
 そこへ、第五警備艇隊の『クアルト』から発進した偵察機が到着したとの報告が入る。そして、それによってもたらされた情報は、明らかにその場にいた全員の想像を超えた悪い知らせだった。

 「現在、スカラゲック海峡星団にはガルマン帝国軍の艦隊が到着。現状、ヤマトと対峙している状況である。なお、その総数は70隻程度と見積もられる」

 つまり、少なくともガルマン帝国側には先手を取られてしまったのである。こうなってしまうと、第九艦隊がスカラゲック海峡星団に突入するのはもちろん、ヤマトに通信を送ることすら危険になってしまう。これをやると、第九艦隊の存在そのものがガルマン側を刺激してしまい、不測の事態を招く可能性が大いにあるからだ。
 この情報がもたらされたことで、作戦会議は停滞してしまう。そして数時間後、今度は『和泉』搭載の偵察機から更なる報告が届いたのだが、これはもう最悪レベルとしか言えない凶報だった。

 「スカラゲック海峡星団の外縁部にボラー連邦のそれらしき大艦隊を確認。その総数は少なく見積もっても600隻程度の規模と思われる」

 600隻を超える大艦隊……かつてガトランティス戦役で戦われた一大艦隊決戦である『土星沖会戦』ですら、そのときのガトランティス艦隊の総数は400隻を少し超える程度であった(しかも、その一部である空母機動部隊は決戦前のフェーベ航空戦で壊滅している)。それを上回る数の艦隊と、第九艦隊は当時の地球防衛軍連合艦隊の約1/4の艦艇数で挑めというのである。しかも同盟国であり本来は味方として期待したいところであるガルマン帝国の艦隊とて、今回に限ればよくて武装中立、下手をすれば敵に回る可能性すらあるのだ。
 まして、よしんばガルマン帝国艦隊が味方となったとしても、なお相手は5倍以上の兵力を有しているのだから、普通にやり合うならば勝ち目などあるはずもない。もはや『危機』という言葉が生やさしく聞こえるほどの状況であると、作戦会議に参加した全員が理解するしかなかった。

 『和泉』からの報告は会議に参加した全員を黙らせるのに十分すぎるものであったが、しばらくして高石が口を開いた。

 「作戦参謀、スカラゲック海峡星団の宙域図はあるか?」

 何を言い出すのかと訝しがるものが多かったが、高石は第五警備艇隊の事前調査によってもたらされた、大まかなものではあったが、スカラゲック海峡星団の宙域図に目を通して再び口を開いた。

 「……多数の岩塊を有する、狭い回廊状の宙域か。なるほど『海峡星団』とはよく言ったものだ」

 そう呟くと、高石はその視線を堀田に向ける。

 「真さ……堀田提督、どう思うか?」
 「ヤマトを見捨てることが許されませんから、いずれ我々は突入するしかありません。問題はそのタイミングだけです」
 「具体的には?」
 「ガルマン、ボラーを問わず、ヤマトが交戦状態に入ったのと同時に突入を開始し、ヤマトの戦闘を援護するのが適切だろうと。ただ一つ、問題が」
 「問題とは?」
 「今度の敵は……両者を問わず、こちらの『切り札』が何かを理解しています。ですから、戦闘開始時の統制波動砲戦はまず不可能である、ということです」

 ガルマン帝国が波動砲を知っていることなど、ほぼ同じと言ってよい兵器を持っている以上、今更言うに及ばない。だが、ボラー連邦とて地球防衛軍の新鋭戦艦が装備する新型波動砲、つまり『拡大波動砲』は既知なのだ。これはボラー連邦の大艦隊と交戦した北米の汎用戦艦『アリゾナ』が戦況に迫られて発射したからだが、第九艦隊はこの情報を『アリゾナ』の奮戦で生き残ることができた北米探査船団から戦訓として受け取っていた。つまり、それだけ波動砲、それも新型の拡大波動砲は警戒される兵器だということである。

 そのように敵から警戒されている兵器を、戦闘開始早々に使用することは危険が大きく、実際には不可能に近かった。確かに拡大波動砲は速射が可能な波動砲であるが、速射モードである『拡大モード』は危害半径が小さく数の差を埋めるには不向きだった。
 そのため、可能であれば拡散波動砲の強化型である『爆雷モード』のほうを用いて敵艦隊の多数を一気に撃滅したいところなのだが、爆雷モードは拡大モードのそれに比べてチャージ時間が長く、また敵艦隊がある程度密集していなければ効果はどうしても薄くなる。更にはヤマト、あるいは敵に回さずに済む、共同軍として戦列を並べる可能性が残るガルマン艦隊を巻き込む危険まで考慮すると、やはり早期の波動砲戦は無理と言わざるを得なかった。

 「しかし、こちらも長引かせるわけにはいかない」

 高石が言う。確かにここで速戦を仕掛けるのは困難だが、長引かせてしまうと、この時点で人類絶滅の日までもう60日も残っていない現状なのだ。少なくともボラー連邦の主力艦隊だけでも撤退に追い込み、何とかルダ王女をシャルバート星に送り届けて移住なりの交渉を開始したい。上層部の思惑を気にせずとも高石、あるいは堀田とてそれはわかっているから、正直なところ焦りもあるのだ。

 ここで「よろしいですか?」と別の声がかかる。声の主は堀田の参謀長である真壁誠二佐だったが、彼は現在の地球防衛軍の各艦隊に配属されている参謀長としては唯一と言ってよい、兵站を専門とする人物だった。この時点で堀田の参謀長になってから4年ほど経過しているが、自分が兵站については知識不足と認識していた堀田に乞われてその参謀長になったほどの専門家である。
 だが、それは逆に言えば、真壁のほうも純然たる艦隊戦について知識と経験が足りていない、ということでもあった。そのため彼の堀田に対する進言のほとんどが一般論あるいは常識論、でなければ自分の本分である兵站に関することであったから、こうして艦隊戦を前に自ら発言を求めるなど、上官である堀田ですらこれまで見たことがなかった。

 「真壁参謀長、意見があるなら聞こう」

 高石に促されて、真壁はこう言った。

 「こちらにも時間はありませんが、敵も大軍かつ長躯の遠征で、恐らく補給面に大きな問題を抱えていると推測されます」
 「なるほど、それは道理だ。それで?」
 「敵に早期決戦を強いるために、正面戦力が苦しいことは理解できますが、一部戦力を割いてボラー艦隊の後方に展開。その補給線に打撃を与えてから交戦に持ち込むのは如何でしょうか?」
 「……」

 高石は考え込んだ。人類滅亡まで時間がない現状、ボラー連邦の大艦隊に消耗抑制の持久戦など選択されては、第九艦隊がいくら奮戦したところで意味がない。そうでなくても、スカラゲック海峡星団という宙域そのものが、先も述べたように障害物を多数有した、いわば『防御地形』なのだ。先にボラー艦隊にその宙域に侵入されてしまった以上、そこに正面切って挑むのは無謀すぎた。
 だが、高石としては真壁の意見がいささか悠長に思えた。今になってボラー艦隊の補給路を遮断する時間が残っているのか、それが疑問だったのである。第一、その方面にただでさえ少ない艦隊戦力を割いてしまっては、まず第九艦隊の最大の任務である『ヤマトの防衛』が果たせるのだろうか。

 堀田に意見を求めようとした高石だったが、先に堀田が呟くような声を発した。

 「……この戦い、敵を『撤退させる』では済まないぞ。それこそ『完膚なきまでに殲滅する』必要があるだろうに」

 驚くべき発言だった。本来、堀田はこのような過激な戦いを志向する提督ではないし、それによって部下に危険を冒させるような人間ではないからだ。

 「どういうことか? 堀田提督」
 「地球からたった1万5千光年の宙域に、かつてのガトランティス艦隊を上回る戦力が存在する。この状況が危険であることは、ここにいる全員が言うまでもなく承知のことと思います。その大艦隊を単に『撤退させる』で済みますか? 一時的に退かせたとはいえ、それが別方面……例えば太陽系に突入してこないとどうして言い切れますか? 確かに、無茶なことは私自身も承知しています。ですが、今度の戦いで我々に求められているのは『敵を殲滅した上での必勝』と考えます。その覚悟を固めておくべきかと」
 「……」

 高石はじめ、全員が沈黙した。堀田らしくない多弁さもさることながら、その内容の過激さに驚くしかなかった。そして、その過激すぎる発言が『確かに自分たちに求められていること』を正確に言い当てていると理解できたのである。

 「では、真壁君の作戦では難しいか?」
 「いえ、逆と考えます」

 また、高石は意外さを禁じ得なかったが、堀田は静かに続けた。

 「確かに敵を殲滅できればそれが理想ですが、彼我の戦力差は埋めようがありません。ですから当面、我々の考えるべきは『いかにヤマトを守り抜くか』のみに絞る他にないでしょう。そのために、申し訳ないことですがこの第九艦隊すべてをすり潰すことになっても、それでヤマトを、ひいては地球が救えるならよしとする。それだけの心構えが必要であろうかと」
 「……」
 「ですが、勝つべくして勝つために何をすべきか? それを考えるのであれば、私は真壁君の意見に賛成します。戦略的機動性に優れた部隊を抽出し、ボラー艦隊の補給部隊を徹底的に叩く。そうすれば、確かにこちらにも時間はありませんがある程度の持久戦を考慮する余地、あるいはヤマトだけでも脱出させられる可能性を大きくできると思われます。ですので、むしろやっていただきたく思います」
 「……!」

 恐らく、互いに表情には何も出さなかったと思う。だがこのとき、高石は堀田が何を考えているか理解し、そして戦慄していた。しかし、このまま黙っていることも許されない。

 「戦略的機動性に優れた部隊とは、具体的に?」
 「新鋭艦を中心に編成された第一遊撃部隊の全戦力を以て、敵補給部隊を撃滅し、兵站線の切断をお願いしたく」

 やはりそうなるか、と高石は思わず天を仰ぎたくなった。そして、わかり切った質問をあえてぶつける。

 「……第一遊撃部隊を敵補給部隊に向けるとして、誰がヤマトを守るのか?」
 「それこそが、第二の役割と心得ております」
 「捨て石になる気か! 真さん!」

 思わず、冷静沈着なはずの高石が大声を出してしまっていた。高石にとっても堀田は大親友だったから、彼が何を意図しているかわかる。第一遊撃部隊が敵の補給部隊を攻撃し、主戦場に戻るそのときまでヤマトを守り抜く。恐らく、そのことしか頭にはないのだろうと考えるしかなかったのだ。
 しかし、当然ながら第二遊撃部隊にはそれだけの戦力が存在しない。もし第一遊撃部隊が敵の補給部隊撃滅に手間取ってしまえば、あるいはヤマトだけは脱出させられるかもしれないが、第二遊撃部隊は恐らく一隻とて帰ってくることはできないはずだ。そんな状況になって、自らを生き残らせるはずもない堀田であることを、高石は承知していた。

 「……範さん、捨て石になんかなりはしないさ」

 堀田もまた、友人としての少し砕けた口調に変わっていた。

 「私の身勝手で、部下たちを無為に死なせるような無責任なことをするほど、私だって血迷ってない。それに……いや、私のことはいいでしょう。ともかく、スカラゲック海峡星団のこの地形を見たとき、私は敵の補給線を切断さえできれば、数において劣るとも勝負になると考えました」
 「……その方策は?」
 「地形を利用した漸減戦術によって、敵艦隊に消耗を強いて焦らせます。そこへ補給物資の払底が加われば、焦るどころでなく敵は継戦能力を失って自滅しますから、必ず自分たちからこちらへ総攻撃を仕掛けてくるはずです。そうなれば……」
 「そうなれば?」
 「第一が間に合いさえすれば、あなたが十一番番惑星でやった統制波動砲戦……それを行う機会も訪れるのではないでしょうか?」

 そう言って、堀田はほんの少しだけ『にやりとした』顔を高石に向ける。それは、

 「お前さんのやるべきことはわかってるだろう? こちらもわかっているから任せておけ。お互い、信頼だけはし合っているのだから」

 と、言いたげなものだった。

 その表情を見て、高石は断を下した。

 「……よろしい。では、第一遊撃部隊を以てボラー連邦艦隊の補給部隊を捜索、これを殲滅する。第二遊撃部隊はその間、ガルマン帝国艦隊の動向に注意しつつ、ボラー艦隊の攻撃からヤマトを防御してほしい。なお、ヤマト防衛に関する第二遊撃部隊の行動については堀田提督に一任する。存分にやってもらいたい」
 「承知しました。それと、一つお願いがあるのですが」
 「何か?」
 「『天城』を、第二遊撃部隊に編入していただくことは可能でしょうか?」

 『天城』は元・第九艦隊、つまり第一遊撃部隊に付属している空母2隻のうちの1隻である。ガトランティス戦役を生き残った古参の空母だったが、長く前線にあったことから航空艤装の改装が遅れ、そのため『ホーネット』に搭載されている二式中型艦上爆撃機が搭載できず、今回の作戦における搭載機は戦闘機であるコスモタイガーⅡのみで構成されていた。

 「理由は?」
 「敵にどれだけの空母があるかわかりませんが、これまでの戦訓から想定される敵戦闘機の性能からすれば、ヤマト航空隊と共同して『天城』戦闘機隊の協力を受けられれば、制空権の確保が可能であると思われますので」

 遅滞戦術を行おうとしている第二遊撃部隊からすれば、戦場の制空権確保は絶対条件である。焼け石に水、という可能性もなくはないが、ここはやれる限りの手は打っておこう。そう判断し、高石は堀田の申し出を承認することにした。

 こうして方針が定まったところで、会議は散会する。そして自らの旗艦である『薩摩』へ戻ろうとした堀田を、高石は個人的な理由で呼び止めた。

 「真さん……」
 「……何だ?」
 「まさか、死ぬ気ではないよな?」
 「当たり前だ。部下を犬死にさせるのは私にとって最大の恥であるし、それに……連れ合いを未亡人にはしたくないからね」

 ガミラス大戦で婚約者を亡くしていた堀田であったが、一年前、ようやく新しい相手と家庭を持ったばかりだった。

 「ただ、私の意思に反して死ぬことは覚悟せんとな。何せ敵の数が多すぎるのは事実だから、ああは言ったものの、どこまでやれるかは正直わかったものじゃないからね」
 「……」
 「そんな顔をしなくていいよ。お前さんがきちんと間に合わせてくれると信じているし、例え一隻で守るべき対象とはいえ『地球の救世主たる戦艦』が一緒なんだ。そう簡単に負けはしない」
 「……わかった、俺もその言葉を信じることにする。だから真さん」
 「?」
 「死ぬなよ。俺に言えるのは、ただそれだけだ」
 「……ああ。お互いに、な」

 そう言って、別れる二人だった。

 そしてしばらくして、第一遊撃部隊司令部が中心となって詳細な作戦がまとめられ、各艦に伝達される。それに従い、第一、第二遊撃部隊は分離して行動を開始することになる。

 後年『歴史に埋もれた、しかし地球の命運を賭した決戦となった艦隊戦』と評されることになる、スカラゲック海峡星団会戦の火蓋が切られるのは、もう間もなくのことであった。

 艦隊が行動を開始する直前、総司令たる高石はこう訓示したとされる。

 「本会戦は『地球人類の存亡此の一戦に在り』と各々が心得て欲しい。諸君の奮戦に期待するや切である」


本文制作にあたって

 こちらの文章は、ヤマトMMD作者さんでいらっしゃる八八艦隊さんと共同制作になる「スカラゲック海峡星団会戦」の前史、戦闘開始直前の状況を示したものです。
 八八艦隊さんも後書きで書かれていますが、原作『ヤマトⅢ』におけるスカラゲック海峡星団会戦については、まず

 「どうやってヤマト1隻で数百隻規模の(と思われる)ボラー艦隊を全滅させられたのか?」

 という疑問からスタートしています。しかもそれを(制作上の都合で)1話で終わらされてしまったことで、ますます「どうして?」というのが、八八艦隊さんとこの会戦について話題になった際にぶつかった問題点でした。
 あまり難しくは考えず「いくらヤマトでもそれは無理では?」という結論に達するのに時間はかからなかったのですが、八八艦隊さんは完結編艦隊の活躍の場が欲しいという希望をお持ちだったこと、私はとにかく地球防衛軍が勝利する艦隊戦、ついでに自分の創作したキャラが登場する動画が見たいという気持ちがありましたので、今回の共同制作という形に相成りました。なので、八八艦隊さんの作成したキャラである高石提督と、私が作った堀田提督が(人間サイドにおいては)この動画の主人公、ということになろうかと思います。

 私自身は、そもそも動画制作の技術を全く持ち合わせていないので何も協力できず申し訳ないのですが、八八艦隊さんは既に「十一番惑星沖海戦」という傑作シリーズを完成させた実績をお持ちですので、私の拙いアイディアも生かして素晴らしい動画を作って下さると確信しております。その制作の中で私も助言などできればよいと思っていますが、割とあれこれ盛り込んでいるので簡単な作業ではないと思います。「動画の共同制作者」というのは私には荷が重いかもしれませんが、最大限努力しますので長くお付き合いいただければ幸いに存じます。