ベムラーゼラグード攻防戦

ヴォールコ星系第五惑星ベムラーゼラグード――

直径約8500km、公転周期713日、平均公転半径1.51AUと、特にこれといった特徴はない岩石型惑星である。ただ、古くからボラー連邦において交通の要所として重要な役割を果たしてきた惑星であり、そのことから惑星軌道上に全長12kmもの巨大な宇宙港が整備されていた。
この惑星に課せられた役割が大きく変化したのは、ボラー連邦首相にヤゾフ・ベムラーゼが就任してからであった。彼は自らの生まれ故郷でもあるこの惑星に、単なる港町以上の役割を求めたのである。

彼の始めた改革は、まず惑星の名前をヴォールコⅤという味気ない名前から変え、自らの名前を付けたところから始まった。次に惑星の象徴とも言える巨大な宇宙港にボラー連邦軍を駐屯させ、宇宙港を要塞化した。更に彼の改革は惑星そのものにも及んだ。軌道上に集光パネルを並べることにより、平均気温8℃の大地に暖かい光をもたらした。
また惑星上に新しい都市をいくつも建設し、新しい住民を積極的に誘致した (この政策の影響で、たかだか三億人程度しか居住していなかった田舎惑星であったベムラーゼラグードの総人口は、瞬く間に十億人を突破した)
これらの改革により、ベムラーゼラグードは単なる港町から戦略的重要拠点へと変貌を遂げたのであった。しかし重要拠点となったということは、それだけ敵から狙われやすくなるということである。

銀河大戦初期、ガルマンガミラス帝国軍は北部戦線においてヴォールコ星系の占領を最大目標として攻勢を実施した。ボラー連邦軍ヴォールコ星系守備軍は、グーデル大将率いる第一空間機甲師団になすすべもなく敗退し、惑星の支配権をガルマンガミラス帝国に明け渡した。
そしてボラー連邦最高指導者の名を冠したその惑星は、銀河大戦において再び最大級の激戦区となった。

きっかけとなったのは、ガルマンガミラス帝国軍第六空間機甲師団が逃避行の終着駅としてこの星を選んだことであった。いや、選んだというより、選ばざるを得なかったと言った方が正しい。第十六空間機甲師団を撃破したボラー連邦軍第二十五軍が、第六空間機甲師団の側背面に浸透し始めていたからである。
既にボラー連邦軍第一梯団と戦闘を行い戦力を消耗していた第六空間機甲師団にとって、ほぼ無傷の三個艦隊と戦い戦線を突破することは不可能であった。退路を完全に断たれた第六空間機甲師団は、ある程度の守備隊と備蓄物資が存在しているベムラーゼラグードに逃げ込み、救援が来るまで籠城を決め込んだ。

一方、第六空間機甲師団がとったこの行動に対して頭を抱えている人物がいた。第十一空間師団司令官のエルク・ヴァーレンシュタイン中将である。彼はデスラー総統から第六空間機甲師団救出作戦の指揮を担うよう勅命を受けており、どのようにして第六空間機甲師団を救出するか思案していた。しかし、歴戦の司令官でもある彼にとってしても、これは途方もない難題であった。
第六空間機甲師団の救出自体に異論はなかった。北部方面軍に所属する四個空間機甲師団の内、一個が文字通りこの宇宙から消滅し、二個が事実上壊滅したとなっては、唯一残っている空間機甲師団を是が非でも救出しなければならないというのは理解できる(それに、第六空間機甲師団は大ガミラス帝国最大の名将、エルク・ドメルが指揮していた事もある、大ガミラス帝国時代からの歴史ある師団であった)しかし、彼の手元にはある兵力は救出作戦を実施するにはあまりにも少なかった。

元々彼の指揮下にあった第十一空間師団は、ボラー連邦軍の奇襲攻撃によって戦力が半減していた。各星系の駐屯部隊は、大半が敵中に孤立しているかボラー連邦軍相手に絶望的な抵抗戦を実施している。グスタフ中将の第十二空間機動旅団が合流すべく急行しているが、彼の部隊は旅団と名前がついている通り五十隻前後の小規模な部隊であり、圧倒的に数で勝っているボラー連邦軍に対する戦力差を多少なりとも埋める効果しかなかった。デスラー総統は西部方面軍や南部方面軍から増援部隊を回すと確約したが、その増援部隊が到着するのは早くても二ヶ月後だ。増援の到着を待つことはできなかった。
既にボラー連邦軍はベムラーゼラグードに対する上陸作戦の準備を開始しており、ボラー連邦軍がベムラーゼラグードに上陸すれば、第六空間機甲師団は地上戦に巻き込まれ、最悪の場合同師団の艦艇が丸ごと鹵獲される可能性すらあった。既に第十六空間機甲師団が降伏し同師団の艦艇が敵に渡っている。これ以上の艦艇をボラー連邦軍に鹵獲されるわけにはいかなかったし、何よりも貴重な空間機甲師団の艦艇と将兵を失うわけにはいかなかった。

唯一の救いは壊滅したと思われていた北部方面軍直轄の第一空間機甲師団が、詳細な調査をしたところ想定よりも損害が少なかったことである(第一空間機甲師団の損害が過大に報告されていた原因としては、同師団に配備されていた艦艇は装甲品質や機関性能が通常艦よりも良い上級モデルであるにも関わらず、通常艦艇と同じ基準で損害具合を判断されており、実際には短期間の修復で戦線に復帰可能な艦艇が多く存在していたからであった)
だが、それですら彼の置かれた状況からしてみれば気休めにしかならなかった。事実上の戦力がたった一個半の師団で、ボラー連邦軍の大艦隊を突破し友軍を救出しなければならないのである。

この難題を解決する為、彼は同盟国を頼ることにした。この場合の同盟国とは、艦隊規模は少数ながらも巡洋艦以上の艦艇ほぼ全艦に、惑星すら破壊可能な戦略兵器を搭載している異様な星間国家、地球連邦に他ならなかった。彼は地球連邦艦艇が保有している戦略兵器、波動砲の威力に注目し期待したのである。
この頃の地球連邦は太陽の核融合異常増進という災害に見舞われ、人類の移住先探索の為に地球防衛軍に所属している艦艇の中で、航続距離が長い艦艇を銀河系各地に派遣していた。派遣された艦艇は単独行動が基本となる為、あらゆる任務に対応可能な汎用戦艦が多く、その中には当然、波動砲を搭載した艦も多く含まれていた。

「銀河各地に派遣されている地球防衛軍艦艇の一部を、第六空間機甲師団救出の為貸与してくれないか」

ガルマンガミラス帝国からこのような申し出が来たとき、当初連邦政府はこの申し出を拒否しようとした。
いくら同盟国の頼みとはいえ、ベムラーゼラグードがあるヴォールコ星系は地球から約三万七千光年も離れている。ただでさえ移住先探索は急を要する上に艦艇数も不足しているのに、そのような僻地に艦艇を派遣する余裕はないからであった。唯一派遣できそうな艦隊といえば、銀河大戦勃発に呼応し新設され、スーパーチャージャー装備の波動エンジンを搭載した新鋭艦および改装艦のみで編成されている第九艦隊があった。彼らであれば三週間以内にベムラーゼラグードへと到着することは可能であった。

だが、第九艦隊は地球防衛軍の文字通り虎の子である。来るべきボラー連邦軍主力との決戦の為、温存されなければならず「第九艦隊は即時出撃可能なよう態勢を整えた状態で待機する」との命令だけ下され、第九艦隊のベムラーゼラグードに対する派遣は見送られた。
このようにベムラーゼラグードへの防衛軍派遣に消極的であった連邦政府だが、ある情報が彼らの考えを一変させることとなった。ベムラーゼラグードに、護衛戦艦ビスマルクの生存者がいるというのである。

紫風作戦開始時、ガルマンガミラス帝国とボラー連邦の国境付近では、防衛軍所属の探査船団複数が活動していた。それらの探査船団の多くが、紫風作戦に巻き込まれボラー連邦軍の総攻撃をその身に浴びることとなったのである。一時期ベムラーゼ首相は地球防衛軍艦艇に対する攻撃を可能な限り控えるよう通達を出していたが、今回の紫嵐発動に伴い、今までとは正反対となる地球防衛軍艦艇に対する全面攻撃命令を下した。ガルマンガミラス帝国に対する全面攻撃を開始した以上、遅かれ早かれ地球防衛軍とは戦わなければならなくなった為、多少の損害を受けても可能な限り地球防衛軍の戦力を漸減しておこうと画策したからであった。

英王立宇宙軍所属の護衛戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、サウジアラビア宇宙軍所属の護衛戦艦アル・リヤド、阿弗利加管区所属の護衛巡洋艦アレクサンドリア以下AU-01船団――多くの艦艇がボラー連邦軍の攻撃によって宇宙の藻屑となった。

そしてボラー連邦軍の攻撃はビスマルクにも波及していった。ビスマルクにとって運が悪かったのは、彼らが敵対した相手が先日、ガルマンガミラス帝国軍所属の第十六空間機甲師団を撃破して士気が高まっているボラー連邦軍第二十五軍であったことだろう。いくら堅牢な装甲を誇るビスマルクといえど、一個軍計三個艦隊を相手取るのは非常に困難、というよりほぼ不可能であると言わざるを得なかった。
ビスマルクは持前の強力な探査設備を使用して、ボラー連邦艦隊の接近を事前に察知することが出来た。艦艇総数六百隻以上もの圧倒的な艦隊規模を見た船団司令官は覚悟を決め、探査船を逃がす為にビスマルクを盾にすることを決意した。良い羊飼いは羊の為に命を捨てる……古来より受け継がれて来た至言を実行する者の一員に、ビスマルクに乗艦する船団司令官も加わろうとしていた。

だが、現実は非情であった。彼らは自らの責務を全うすることすら許されなかったのである。
三隻の調査船がワープの準備を終えワープインしようとした瞬間、調査船の眼前にボラー連邦艦隊が出現したのである。第二十五軍の先遣部隊であり本隊と比べると数は少なかったが、それでも艦艇数は百隻を優に超えていた。第二十五軍の先遣部隊はワープアウトと同時に砲火を調査船団に集中させた。苛烈な砲火は装甲など無いに等しい三隻の調査船を瞬く間にスペースデブリへと変貌させた。そして彼らは、次なる矛先をビスマルクへと向けたのである。
守るべき羊たちを目の前で斬殺されたビスマルクの乗員達の心には、怒りと悲しみが混在していた。彼らの思いは、ビスマルクが装備する全ての兵装をボラー連邦艦隊に向けることで示された。調査船が全滅した以上、情報を地球に持ち帰ることが出来るのはビスマルクだけになったからである。
ボラー連邦艦隊を目前にしたビスマルクは、直ちに波動砲の充填を開始した。無論、波動砲の充填中は完全に無防備となるが、ビスマルクの堅牢な重装甲を信じている乗員達にとっては問題とならなかった。事実、先遣部隊の攻撃は遂にビスマルクを無力化することが出来なかったのである。

ビスマルクにはアリゾナ級やライオン級、紀伊型などと異なり波動砲チャージャーは搭載されていない。初期の頃の波動砲よりも充填時間は短縮されているとはいえ、それでもなお二分近い充填時間が必要であった。ただ、ビスマルクの波動砲は通常の波動砲とは異なっていた。それはある意味ではドイツ製らしい、優れた科学技術と凝った仕掛けが生み出した産物であった。
誘導波動砲――後にブルーノア級戦略指揮航宙戦闘母艦にも搭載されることとなるこの兵器は、端的に言ってしまえば重力制御を用いて拡散波動砲の子弾一つ一つに誘導性能を持たせたものであった。拡散波動砲よりも更に大軍殲滅に特化した誘導波動砲の威力はビスマルク乗組員を十分に満足させるものであった。第二十五軍の先遣部隊は、乗組員達が自分の身に何が起こったのかを理解する間もなく文字通り消滅した。
調査船の仇であるボラー連邦艦隊を一撃で粉砕したことにより、ビスマルク乗組員の士気は天を突かんばかりに上昇していた。無論彼らも栄えある職業軍人であり、戦闘宙域でお祭り騒ぎを始めるほど無能な集団ではない。だが彼らも人間である。溢れ出る感情を制御する為には、一瞬だけ気を緩めざるを得なかった。ビスマルク艦内は歓声で溢れかえり、乗組員の目には希望が浮かんでいた。そんな一瞬の気の緩みを狙ったかのように、ボラー連邦第二十五軍の本隊がビスマルクの周囲にワープアウトした。

ボラー連邦軍は、地球防衛軍の大型艦が保有している波動砲に深刻な脅威を抱いていた。たった数発で艦隊を殲滅可能なこの戦略兵器は、ボラー連邦軍の基本戦術となっている物量作戦を根底から覆しかねないものであったからだ。かと言って、波動砲を回避する為に艦隊を分散させることはできなかった。物量作戦とは戦力が密集してこそ効果を発揮するものだからである。そしてボラー連邦軍は波動砲発射直後の硬直時間に注目して、一つの波動砲対策戦術を発案した。一部の部隊を先行させ敵艦に波動砲を撃たせた上で、本隊を突入させるのである。
ボラー連邦軍の戦術は図に当たった。もしビスマルクに搭載されていた波動エンジンが波動砲発射後の硬直時間が減少した第三世代型であれば、あるいはビスマルクに兵装が復旧するまで援護してくれる僚艦がいれば、この危機を脱せられる可能性があったかもしれない。だが現実はそうではなかった。第二世代型波動エンジンを搭載したビスマルクは波動砲を発射した直後でほとんどの兵装が使用できず、身動きを取ることが出来ないままボラー艦隊の集中砲火に晒された。

それでもビスマルクは使用可能な全兵装(主に波動エンジンからのエネルギー供給がなくても使用可能な実弾兵器)を用いて反撃を実施し、少なくない数の敵艦を沈めた。しかしそれも限界が来た。第二十五軍先遣部隊との交戦開始から三十八分、孤軍奮闘を続けたビスマルクは、全身から爆炎を吹き出しながらゆっくりと沈んでいった。爆沈などという軽々しくない沈み方をせず、偉大なる好敵手として相応しい沈み方に深い感慨を抱だいた第二十五軍の司令官は、全軍に対して黙祷を命じた。ボラー連邦軍の中では珍しく敵手に対して敬意を抱く司令官ではあったが、その行動がきっかけで生じた緩みが、彼らの脱出するきっかけとなった。彼らはビスマルク艦長の最後の命令に従い、惑星探査用としてビスマルクの前部格納庫に搭載されていたコスモハウンドに、最低限の乗組員とこれまでの航海でビスマルクが収集したデータを乗せ発進、出力にものを言わせ第二十五軍の艦列を一気に突破した。
第二十五軍の追撃を振り切ったコスモハウンドは、宇宙の放浪者となった。空間跳躍機関を搭載していないコスモハウンドで長距離飛行を実施することは事実上不可能である。それでも彼らは飛び続けることしかできなかった。しかし、ここで彼らに救いの女神が現れた。彼らの飛行経路上に、ガルマンガミラス帝国軍所属の駆逐艦 KX-0107が航行していたのである。

KX-0107は、ガルマンガミラス帝国軍第十六空間機甲師団所属のコルカピア級駆逐艦であった。まだ大半の艦艇が戦闘能力を残していたにもかかわらず、自己の保身を図るためにさっさと降伏してしまった(無論KX-0107の乗組員が自らの視点を元に判断した主観的な意見であるが)司令官に失望したKX-0107の乗組員はボラー連邦軍への降伏を拒否、未だに抗戦を続けている友軍の元へと向かうべく第十六空間機甲師団から逃亡した。そこで第六空間機甲師団がヴォールコ星系へと向かっているとの情報を飛び交う通信の渦中から拾い上げ、自分達もヴォールコ星系へと向かうべく進路を変更したところに、ビスマルク所属のコスモハウンドを発見したというわけである。
ガルマンガミラス帝国の貴重な同盟国である地球の航空機を救助しない理由はなかった。KX-0107から乗艦許可が出たビスマルク乗組員はコスモハウンドを廃棄しKX-0107に移乗、珍しい客を乗せたKX-0107は一路ヴォールコ星系へと向かった。旅路の先に何が待ち受けているのかも知らずに。

ヴォールコ星系へと到着したKX-0107は第五惑星ベムラーゼラグードへと降下し、同地に駐屯している第六空間機甲師団と合流した。KX-0107の乗組員は強大な第六空間機甲師団と共に戦えることを誇りに思い、ビスマルクの乗組員は強大な守護者の庇護下に入れたことに安堵した。しかしそこに居たのは軍事パレードやニュースでよく見たガルマンガミラス帝国軍が誇る精強な空間機甲師団ではなく、敗残兵の集合体であった。
何とか沈まずに這う這うの体でヴォールコ星系へと逃げ込めた艦艇は定数の六割に過ぎず、更にその中の半数は艦体のどこかが大なり小なり損傷していた。これは第六空間機甲師団旗艦のビエルンも例外ではなく、武装の半数は使用不能、機関出力も70%しか発揮できず、凄惨たる有様であった。司令官のベルドリヒ・バルウス中将は幕僚と共にベムラーゼラグードからの脱出計画を立案していたが、健在な艦艇に第六空間機甲師団の将兵とヴォールコ星系の駐屯軍、および民間の脱出希望者を分乗させる計画の立案は非常に困難を極めていた。
更にヴォールコ星系にボラー連邦軍第二十五軍、計三個艦隊が出現、星系内の各惑星に艦隊を展開した。これにより第六空間機甲師団は事実上ベムラーゼラグードに閉じ込められてしまった。無論、KX-0107に乗艦しているビスマルクの生存者も例外ではない。

ビスマルク乗組員の救助は防衛軍にとって喫緊の課題となった。人道的な観点から見ても是非救助したいところであったが、それ以上に重要であったのが彼らがビスマルク艦内から持ち出した可能性がある、移住惑星の調査データであった。この時期の地球は移住可能惑星の探索に邁進しており、生存者が収集した調査データを沈没したビスマルクから持ち出しているかどうかは不明であったが、少しでも可能性がある以上地球連邦政府は藁をもつかむ思いでビスマルク乗組員の救助を防衛軍に強く要請した。
これの要請を受け、防衛軍内部でもヴォールコ星系に出撃可能な艦の選定が実施された。太陽系から艦隊を派遣するのでは通常艦隊では到底間に合わず、かといって虎の子である第九艦隊を派遣すれば文字通り太陽系内が“空”になる。防衛軍に残された選択肢はただ一つ……ヴォールコ星系周囲を航行している探査船団に割り当てている護衛艦にて臨時の任務部隊を編成、これを派遣することであった。
この選択は防衛軍にとって苦渋の決断であった。探査船団から護衛艦を抽出し任務部隊を編成するということは、残された探査船は居住可能惑星の探索を中断しなければならない。非武装の探査船を護衛なしで危険宙域に突入させることはできないから当然のことであるが、それは移住可能惑星を発見できる可能性を失ってしまうことを意味していた。
ただ、幸運にも割り当て宙域の探索が完了し、比較的短期間にて(と言っても一番近い艦船で二万光年以上は離れていたが)ヴォールコ星系へと派遣可能な艦艇が存在していた。防衛軍司令部は該当艦艇にヴォールコ星系への移動指示と作戦内容、そして部隊編成を伝達した。


防衛軍がヴォールコ星系に派遣した艦艇は以下の通りであった。

地球防衛軍 第一五一合同任務部隊(CTF-151)

突撃隊
ノーウィック級護衛戦艦「ノーウィック」(ロシア航空宇宙軍/任務部隊旗艦)

射撃隊
PoW級護衛戦艦「ヴィクラント」(インド宇宙軍) 「ユーコン」(カナダ王立宇宙軍)


僅か三隻……一個戦隊にすら満たないような小さな艦隊であるが、現状防衛軍がヴォールコ星系に派遣できる最良の艦隊戦力である。しかも三隻とはいえガルマンガミラス側が期待した通り波動砲搭載艦も二隻(旗艦「ノーウィック」のみが波動砲を搭載していなかった)存在していた。使い方によっては十分強力な艦隊戦力である。
ヴァーレンシュタイン中将は忠実な同盟国が少数とはいえ強力な艦隊戦力を派遣してくれたことに感謝すると共に、地球防衛艦隊を加えた上での作戦計画を練り始めた。

ガルマンガミラス帝国軍にとって至上命題となったのは、軌道上に展開するボラー連邦艦隊を打ち破り第六空間機甲師団を救出する作戦の立案であった。作戦自体は至極単純である。残存する全戦力をベムラーゼラグード軌道上のボラー連邦艦隊にぶつけ、包囲網に穴を開ける。そしてそこから脱出する第六空間機甲師団が戦場を離脱するまで援護する。たったこれだけである。だが、ヴァーレンシュタイン中将の保有する戦力でこの作戦を実行するには問題が多々あった。
まず、ヴァーレンシュタイン中将の元にあるのは半壊した第十一空間師団と指揮官を失った第一空間機甲師団の計二個師団のみである。そして包囲網突破を実施する為の頼みの綱とも言える地球防衛艦隊の到着予定は、どんなに急いでも作戦開始日の直前であり、事前に共同訓練するような時間は到底存在しない。更に派遣されて来る地球艦艇に搭載されている波動砲は、艦隊殲滅に特化した拡散波動砲ではなく通常型の収束波動砲である。敵艦隊に散開されると効果が低減する為、使いどころを意識しなければいけなかった。

第十一空間師団と第一空間機甲師団はヴァーレンシュタイン中将の元、ヴァーレンシュタイン軍団として統合再編された。既に北部方面軍司令部は壊滅しており、北部方面軍司令官代理に着任したヴァーレンシュタイン中将の元、指揮系統を一本に統一する為の措置であった。
紆余曲折あったものの、ガルマンガミラス帝国北部方面軍は第六空間機甲師団救出に向け何とか出撃準備を整えることが出来た。そして紫風作戦開始から丁度三週間後の11月3日、ヴァーレンシュタイン軍団は、未だにワープミサイルによって受けた被害の跡が生々しく残るニエドルプ星系の惑星ルキーの宇宙港を後にし、全艦出港した。
艦艇総数一九二隻。損傷箇所の応急修理だけ済ませて参加した艦や、一部ではあったが師団の戦力補充の為に中央方面軍より派遣されてきた艦も混じっていた。更に航路途上にて第十二空間機動旅団や地球防衛軍第一五一任務部隊とも合流し、総兵力二四五隻となった上でヴォールコ星系へと突入した。

ヴァーレンシュタイン軍集団がヴォールコ星系にワープアウトしたのは、11月8日、地球標準時11時40分のことであった。だがそこで彼らが見たのは、既にベムラーゼラグードへと上陸を開始しているボラー連邦軍強襲揚陸部隊と、それを支援する為に艦砲射撃を開始しているボラー艦隊であった。惑星表面では既に地上戦が始まっており、事態は一刻を争っていた。
一方、ベムラーゼラグード軌道上に展開しているボラー連邦第二十五軍も、ヴォールコ星系にガルマンガミラス帝国軍の艦隊が出現したことは早期に察知していた。しかし第二十五軍は上陸作戦の支援任務中であった為、ヴァーレンシュタイン軍集団に対する迎撃行動は消極的であった。あくまでも敵軍の動きを偵察するにとどめ、ほとんどの艦艇はベムラーゼラグード軌道上にとどまったままであった。その為ヴァーレンシュタイン軍集団は特に大きな抵抗を受けることなく、一路ベムラーゼラグードを目指し進撃を続けた。

ヴァーレンシュタイン軍集団が進撃している最中にも地上戦は進行し続けた。バルウス中将は当初から惑星全土の防衛は不可能と判断しており、手持ちの戦力を全て北半球のエルマハフ高地に集結させ、同高地において徹底抗戦の構えを見せた。第六空間機甲師団は、航行不能となった艦艇を擱座させて作り上げた砲台陣地を中心に、即席の要塞を作り上げていた。
一方、ボラー連邦軍上陸部隊の主力は空挺部隊であったが、猛吹雪により空挺部隊の降下が遮られたことに加え重装備を保有しておらず、第六空間機甲師団が作り上げた強固な防衛要塞を前にして大きな損害をたたき出していた。軌道上の艦隊で要塞の撃破を試みたものの、擱座した艦艇は山岳などを利用し巧妙に隠匿されていた上に、第六空間機甲師団が陣取っていた場所が火山帯の真上であり、噴火を誘発しないようにする為ボラー連邦軍の保有する大火力が生かせなかった。更には山岳内部をくりぬいて建設された航空基地や擱座した航宙母艦からゼードラーⅢやドルシーラⅡが発進、地上砲撃の為低空に降下してきたボラー艦艇を散発的に攻撃することにより、擱座した艦艇を直接攻撃されないよう防衛していた。これによりベムラーゼラグード上の地上戦は果てしなき消耗戦へと陥っていた。

第六空間機甲師団がボラー連邦軍の上陸部隊と凄惨な地上戦を繰り広げて入る傍ら、バルウス中将は密かにベムラーゼラグード脱出に向けた準備を始めていた。負傷兵や民間の脱出希望者を優先して輸送艦へと分乗させていたが、人数が多いため輸送艦は直ぐに満員となってしまった。そこで最終的には、戦闘能力が減少又は喪失したものの航行には支障がない艦艇などにも搭乗させることで、何とか全員が脱出できるよう配慮した。
第六空間機甲師団が脱出する為には、ベムラーゼラグード軌道上に居座るボラー艦隊を撃破することが必須事項であった。上昇中の無防備な状態を狙われたら、いくら強固な軍艦とてひとたまりもない。負傷兵や民間人を乗せた貧弱な輸送艦などは猶更であった。
軌道上に居座るボラー艦隊を殲滅する為の切り札としてヴァーレンシュタイン中将が期待したのが、地球艦艇が保有する波動砲であった。ボラー連邦軍の注目がヴァーレンシュタイン軍団に集まっている間に、ボラー側が探知できないよう瞬間物質輸送機によって集光パネルの裏側にワープアウトした第一五一任務部隊は、ベムラーゼラグード軌道上のボラー艦隊に向け波動砲を放った。
たった二門の収束波動砲……拡散波動砲や拡大波動砲を十数門保有している通常の地球防衛艦隊とは比較にならないほど小さな火力であったが、波動砲クラスの大量破壊兵器を両軍が保有していないこの戦場では、正に戦局を“回天”させる兵器となった。
軌道上のボラー艦隊は地上支援の為密集隊形を敷いており、拡散波動砲などと比べて殲滅力がない収束波動砲でも十分に威力を発揮した。この攻撃でボラー連邦第二十五軍は総兵力の一割に該当する五十隻超が撃沈又は戦闘不能となり、残った艦艇も波動砲の第二撃を回避する為に各艦が勝手な回避運動を開始したことにより、艦隊は分散し隊列は大きく乱れていた。

そし11月10日、地球標準時13時20分。ヴァーレンシュタイン軍団はベムラーゼラグード軌道上に到達、ボラー連邦第二十五軍との交戦状態に突入した。

ヴァーレンシュタイン軍団を待ち構えていたのは、波動砲による打撃を受けてもなお500隻以上の艦艇を有するボラー連邦第二十五軍であった。総兵力では未だに彼らの方が二倍ほど勝っており、第二十五軍とヴァーレンシュタイン軍団との間で繰り広げられた戦闘は、激化の一途を辿っていった。
第二十五軍はヴァーレンシュタイン軍団の接近に対し、波動砲によって乱れた隊列を再編しつつ艦隊を軌道上全面に幅広く展開させた。これは波動砲への対策と陣形中央部に突入して来るヴァーレンシュタイン軍団を包囲殲滅せんと目論んだ結果ではあったが、ヴァーレンシュタイン中将は第二十五軍がとったこの陣形を逆手に取った。主力となるドメラーズ級重航宙戦闘艦や改ゼルグート級一等航宙戦闘艦を戦列前方に結集させ、重装甲部隊の打撃力をもってして第二十五軍を強引に突破しようと試みたのであった。
元々第二十五軍の背後には惑星ベムラーゼラグードがあり陣形の縦深を広く取れなかったこともあり、戦闘開始から僅か十五分ほどでヴァーレンシュタイン軍団は第二十五軍の隊列中央部を突破、ベムラーゼラグードと外宇宙に回廊を形成することに成功した。
ヴァーレンシュタイン軍団が回廊を形成するのを確認したバルウス中将は、直ちに出航可能な艦艇から出航し、ベムラーゼラグードから離脱するよう下令した。無論、ボラー連邦側も第六空間機甲師団の動きから意図を把握し、彼らの脱出を阻止するべく攻撃を試みた。だが、そのようなことをヴァーレンシュタイン軍団が黙って見過ごすはずがなく、両軍の死闘は終わる気配を見せなかった。

上昇中の無防備な艦艇を狙うべく、第二十五軍のアルパ級が攻撃を仕掛ける。これを阻止すべくヴァーレンシュタイン軍団に所属するコルカピア級駆逐艦やクリピテラ級駆逐艦が、アルパ級を横合いから殴りつける。何隻かは撃沈できたものの、全てのアルパ級を撃沈することなど到底できず、生き残ったアルパ級が次々と第六空間機甲師団の艦艇に喰らいついていく。この攻撃で力尽きた艦艇が次々と重力の井戸に引きずり込まれていき、大気圏の摩擦熱で艦体を紅く輝かせながら地表に激突していった。
何とか大気圏を離脱した艦艇にも苦難は引き続き降りかかってきた。艦隊を円柱状に展開させ、文字通り脱出路となる回廊の外枠や骨組みとなっているヴァーレンシュタイン軍団に対し、第二十五軍は情け容赦のない攻撃を仕掛けて来た。当然ながらその矛先は第六空間機甲師団にも向いており、ヴァーレンシュタイン軍団の艦艇は身を挺して彼らを死守した。ガルマンガミラス帝国軍が誇る重航宙戦闘艦も、多層式双胴航宙母艦を中核とする機動部隊も、苛烈な攻撃を前にじりじりと戦力をすり減らしていった。

戦闘開始から三時間四十二分後、脱出した第六空間機甲師団の艦艇から損傷の軽い艦艇を引き抜いてまで維持してきた円柱陣形の一角が遂に崩壊した。この時点で第六空間機甲師団の艦艇は約半数が星系からの脱出を完了しており、更に三割は回廊内部を未だに航行中、バルウス中将が座上する旗艦ビエルンと、その直掩艦も含めた二割の艦艇は未だに惑星上にあった。
ヴァーレンシュタイン中将は円柱陣を縮小させ、軍団内部の損傷した艦艇も撤退させつつ、残った艦艇でビエルン以下第六空間機甲師団残存艦艇の脱出援護を全力で実施した。ヴァーレンシュタイン中将はこの時点でも第六空間機甲師団全艦艇の救出を諦めてはいなかったが、彼の望みが実現されることはなかった。ベムラーゼラグード軌道上に、ボラー連邦軍の主力艦隊がワープアウトしたのである。

ベムラーゼラグード軌道上にワープアウトしたのは、ボラー連邦軍の第一・第二主力艦隊であった。艦艇総数は二個艦隊合計で約五百隻、通常の打撃艦隊よりも艦艇が増強された強化編成であり、更には艦艇や乗組員の質も通常のボラー艦隊よりも優れている(いわゆる親衛打撃艦隊と同等のものが配備されていた)正にボラー連邦軍の“主力艦隊”であった。
元々第一・第二主力艦隊は本作戦においても予備兵力として攻勢には投入されていなかったが、ガルマンガミラス帝国軍がヴォールコ星系に出現したこと、出現した部隊が北部方面軍の残存するほぼ全ての戦力であることが判明したことにより、ガルマンガミラス帝国軍と雌雄を決すべく総司令官グワン・バルコム大将直接指揮の元、ヴォールコ星系に投入されたのであった。
第一・第二主力艦隊がヴァーレンシュタイン軍団に対して総攻撃を開始したのは、17時35分のことであった。
第二十五軍と交戦し損耗していたヴァーレンシュタイン軍団に、第一・第二主力艦隊を撃退できるような力は既に残されていなかった。軍団壊滅という最悪の状況を回避する為、ヴァーレンシュタイン中将は苦渋の決断を実施した。

「戦局ハ既ニ決シタリ、各艦ハ各々ノ判断ニテ戦場ヲ離脱セヨ」

艦隊としてまとまって行動するのではなく、各艦がバラバラに行動し戦場から離脱することにより少しでも艦艇の生還確率を上げる……より多くの艦艇が帰還できる確率が上がる代わりに、戦力単位としてのヴァーレンシュタイン軍団は崩壊する。それでも、明日の戦いの為に少しでも多くの戦力を生き残らせることをヴァーレンシュタインは選択したのであった。

第一・第二主力艦隊の攻撃により、ヴァーレンシュタイン軍団は戦力単位としても実働部隊としても壊滅した。合計一二四隻もの艦艇(参加艦艇の五割に相当)が失われ、師団の中核となる重装甲部隊と空母機動部隊に関しては、全滅と言っても良い有様であった。また、戦場から離脱に成功した艦艇もジャンプアウトした地点がバラバラであり、再集結すら困難であった。
加えて高級将官多数(総司令官のヴァーレンシュタイン中将は重傷、バルウス中将はベムラーゼラグード上で戦死、中将以上かつ無傷で生還したのはグスタフ中将のみ。加えて佐官クラスにも死傷者多数)を失い、戦力の再編には途方もない時間がかかることが予想された。

当時ガルマンガミラス本国ではこの戦闘を「敵中に取り残された友軍部隊を華麗に救出した戦い」などと、美談として報道していたが、最終的に第六空間機甲師団の六割を救出した代償は非常に重たいものとなった。
ベムラーゼラグード攻防戦の結果、ガルマンガミラス帝国軍は北部方面軍に残されていた最後の機動戦力すら失ってしまった。これは当面における戦争の主導権をボラー連邦軍に完全に引き渡してしまったことを意味しており、西部及び南部方面軍から増援部隊が到着するまでの間、北部方面軍は絶望的な防衛戦闘を繰り広げなければならないことを意味していた。

なお本海戦に参加した地球防衛軍第一五一任務部隊であるが、終盤の混戦において護衛戦艦ユーコンが撃沈、ヴィクラントが大破した(同艦はガルマンガミラス帝国軍の浮きドック艦にて修理中に終戦) しかし当初の目標であったビスマルク乗組員の救出には成功していた。彼らは護衛戦艦ノーウィックに乗艦し、銀河大戦終結後地球へと帰還した。
ビスマルク乗組員が持ち帰った情報は当時の地球にとって非常に価値のあるものであった。第二の地球となり得る星こそ見つけられなかったものの、有力な資源を多量に埋蔵している鉱山惑星や、テラフォーミングの適正がある惑星の情報を多数持ち帰ってくれたのである。これらの情報は銀河大戦時にはあまり意味をなさなかったものの、銀河交錯事件後、地球がガルマンガミラス帝国に代わって銀河系各所に進出する際に役立つこととなった。


三軍、スカラゲック海峡星団へ

ベムラーゼラグード攻防戦後、ガルマンガミラス帝国軍北部方面軍は文字通り壊滅していた。
同攻防戦終盤にてバラバラにゲシュタムジャンプを実施した艦艇を再度集結させる目途すら立っておらず、防衛に関しては各星系の守備隊に依存するほかなくなっていた。機動戦力に関しては、損害が比較的少なかった第十二空間機動旅団を中核とし、ヴァーレンシュタイン軍団の残存艦艇を組み込むことで北部方面師団として再々編した。しかし、師団とは名ばかりで一般的なガルマンガミラス帝国軍師団の定数である百隻すら満たしていなかった。改めて北部方面師団司令官に就任したグスタフ中将は

「かつては大マゼラン雲全土を支配し、小マゼラン雲や銀河系に手を伸ばしていた精強なるガミラス帝国軍の末裔が、今ではこの有様とはな」

と、自分の指揮下にある部隊の惨状を見て嘆いたとされている。

ただ、彼にとって幸いだったのは悲観するようなことばかり起こってたわけではなかったことであろう。
中央総軍からデスラー総統直率の親衛師団が編成され出撃、早ければ二週間後には北部戦線へと到着する見込みであった。またこれに先発して出撃していた“猟犬”フラーケン率いる潜宙艦隊が数日後にニエドルプ星系へと到着予定であり、多数の次元潜航艦を有する潜宙艦隊は有力な兵力として活躍してくれることが期待されていた。
更にはガルマンガミラス帝国の友邦、地球連邦でも動きがあった。最新鋭の艦艇を中心に編成された一個艦隊を派遣してくれるとのことであり、聞くところによると地球の新鋭艦艇は連続でのゲシュタムジャンプを可能とする新型機関を搭載している為、戦略的機動性に優れているとのことである(ガルマンガミラス帝国でも同様の機関は研究・開発されていたが、一隻当たりの建造コストが大幅に増加する為、親衛隊や即応機動部隊などの一部部隊所属艦に配備されるにとどまっていた)
だが、これらの部隊はただ北部戦線への増援として派遣されて来たわけではなかった。

事の発端は、地球防衛軍の宇宙戦艦ヤマトが惑星ファンタムにて一人の少女を救助したことから始まる。彼女の名はルダ……かつて銀河系一帯を支配していた星間国家、シャルバートの王女であった。
当時、シャルバートはかつての超科学技術を使用し母星そのものを異空間に隠蔽していた為、通常の観測方法にて発見することは不可能であった。シャルバートの母星(以降、シャルバート星と表記)には、かつてシャルバートが銀河に覇を唱えていた時代に製造された兵器が今もなお保管されていると予想されており、失われた古代の超科学技術で製造された兵器群の存在は、星間戦争を続けているガルマンガミラス帝国・ボラー連邦の両国にとって魅力的に映らない訳がなかった。
そのシャルバート星への行き方を唯一知っていると思われていたのがルダ王女だったからこそ、両国とも彼女の身柄を狙っていたのであった。

一方、地球連邦の方は少々事情が異なっていた。太陽危機以降、必死になって居住可能惑星探索を実施していた地球連邦であったが、ヤマトがルダ王女の身柄を保護したところから状況は一変する。ヤマト艦内で実施されたルダ王女に対する身体検査及び聞き取り調査の結果、シャルバート星は十分に第二の地球たりえることが判明したのである。
人類絶滅までのタイムリミットが着々と迫りつつある地球にとって、もはや一刻の猶予もなかった。強硬派はシャルバート星の占領を主張したが、藤堂長官率いる穏健派がその主張を抑え込んだ。しかし居住可能惑星が人類にとって必要不可欠であることは穏健派の人間も十分理解している。

結局、シャルバート星への移住はあくまでも

「ルダ王女を通じて現地の住民又は政権と交渉した上で実施する」

とされた。

そして、ルダ王女並びにその身柄を保護しているヤマトを護衛する為に、地球防衛軍の虎の子であった第九艦隊が派遣されることとなったのである。

第九艦隊は高石範義宙将率いる第一遊撃部隊三十四隻に、ケンタウルス座アルファ星に駐屯していた堀田真司宙将補率いる第二遊撃部隊二十一隻を加えた計五十五隻。ガルマンガミラス帝国軍やボラー連邦軍の艦隊からしてみればその数はささやかなものであったが、全艦がスーパーチャージャー搭載型波動エンジンを搭載した艦艇であり、これら性能の優れた艦艇群をガミラス大戦以来から戦っている歴戦の二提督(防衛軍の中下級士官たちの一部はこの両提督を“防衛軍の双璧”と呼んでいた)が率いているとなれば、その戦力はガルマン・ボラー両軍と比較しても引けを取らず十分以上に対抗可能であるはずだった。

他方、グスタフ中将の元へキーリング参謀総長からの命令が届いたのは、11月20日7時30分の事であった。その内容は以下の通りである。

「北部方面師団ハ全力ヲ上ゲすからげっく海峡星団ヘト出撃、同地ニテ活動中ノ宇宙戦艦やまとヨリ、るだ王女ノ身柄ヲ確保スベシ」

この命令がもたらされた時点で、北部方面師団は未だに再編途中であった。各地守備隊の増強やボラー連邦艦隊を無力化する為の通商破壊作戦をフラーケンの潜宙艦隊と共同で実施する為に、少なくない艦艇が駆り出されていたからである。それでも何とか七十隻ほどの艦艇を揃えることが出来たのは、北部方面軍の努力の賜物であろう。しかし、揃えられた艦艇もほとんどが突貫作業で修理し終えた艦ばかりで、完全に能力を発揮可能な艦はほぼ存在しなかった。
誰の目から見ても、絶望的な戦いになることは間違いなかった。それでも、ガミラス帝国時代から軍に仕えて来た歴戦の将官であるグスタフ中将からしてみれば、上層部からの命令は絶対である。ましてや、かつてガミラス帝国軍時代に戦う機会を得ることが出来なかったヤマトと一戦交えることすら望める(無論、あくまでも目的はルダ王女確保であったが、万が一交渉が決裂した場合は、限定的な戦闘が勃発する可能性があるとグスタフは考えていた)となれば、拒否する理由など存在しなかった。

そしてボラー連邦軍でも、ヤマトがルダ王女の身柄を確保したことを把握していた。ボラー連邦側からしてみれば、元々自分達がルダ王女の身柄を確保していたのにも関わらずシャルバート星の位置を割り出すことが出来なかった。その上で地球連邦が、ましてや地球連邦の同盟国でありボラー連邦の宿敵でもあるガルマンガミラス帝国がルダ王女の尋問に成功しシャルバート星を見つけることとなれば、ボラー連邦でルダ王女の身柄確保に関わった人物は怠慢の極みとして追及されることは間違いない。最悪の場合、ベムラーゼ首相の責任問題にも発展しかねない。
また、シャルバート星に保管されている古代の超兵器群を地球又はガルマンガミラス帝国が入手した場合、大成功を収めた紫風作戦の戦果が水泡と帰す可能性すらある。そうならないためにも、何としてもヤマトからルダ王女の身柄を“奪還”しなければならなかった。

ルダ王女奪還部隊は、バルコム大将率いる第一・第二主力艦隊及びやっとのことで再編を終えたハーキンス中将の第八親衛打撃艦隊(再編完了と言っても、親衛艦隊仕様の艦船や熟練度の高い乗組員など簡単に補充できるはずもなく、戦隊の統廃合などを実施し後方の予備戦力から最低限度の人員と艦艇を補充しただけであったが)の、計三個艦隊(艦隊戦力は支援艦艇も含め、三個艦隊合計で約六五〇隻)が充てられた。

第二十五軍はベムラーゼラグード攻防戦で受けた損害から未だに再編中で、ラグラチオにて第三空間機甲師団と交戦した第十五軍は進路を東へと転換し、ガルマンガミラス帝国軍東部方面軍と交戦中である。また初戦にて第六空間機甲師団と交戦した第三十二軍は後方にて再編成を終え進撃を再開し、北部戦線に点在するガルマンガミラス帝国軍の拠点を攻略中であった。
これらの事情からスカラゲック海峡星団にボラー連邦軍が投入可能な戦力は三個艦隊のみであったが、その三個艦隊はいずれも通常の打撃艦隊とは異なる精鋭艦隊ばかりであり、死にかけの北部方面軍や数が圧倒的にこちらより劣っている地球防衛軍を撃破することなど造作のないことだと、バルコム大将を含むボラー連邦軍の将兵達は自信に満ち溢れ、自らの軍が勝利することに対して絶対的な自信を抱いていた。

かくして、地球防衛軍、ガルマンガミラス帝国軍、ボラー連邦軍の三軍が、一同スカラゲック海峡星団に結集することとなる。そしてスカラゲック海峡星団において銀河系の命運をかけた一大決戦……スカラゲック海峡星団会戦が勃発することとなるのであった。


後書き

というわけで、現在鋭意製作中の二次創作作品「スカラゲック海峡星団会戦」の前史でした。
今回スカラゲック海峡戦を二次創作のテーマとするにあたって、本編でも大きな疑問となっていたことがあります。すなわち、

「なぜヤマト一隻で、グスタフ艦隊が大苦戦した第八親衛打撃艦隊の五倍の戦力を有する第一・第二主力艦隊をあれだけ容易く撃破できたのか?」

「なぜグスタフ中将は、デスラー総統率いる援軍が向かって来ているのにも関わらず、性急に体当たり突入などという戦法を選択してしまったのか?」

これらの疑問に対し、私と共同制作者のA-140さんが一緒に悩み、考えながら

「完結編艦艇を活躍させたい」

などの願望(私の場合は紺碧の鎮魂歌から、もっと言えば完結編を視聴したその時からこの願望は続いていますから、ここまでくるともはや呪いですねw)を混ぜつつ導き出した一つの答えを、これから物語として完成させていきたいと思います。

第十一番惑星沖海戦の時と同じく年単位の長い航海となるかと思われますが、また十一番の時のように末永くお付き合い頂ければ幸いです。