地球型波動機関の研究と完成

 2199年、ヤマト発進。このことで「これで地球は救われる」と市民レベルではそうした雰囲気も散見されたが、当時の国連宇宙軍にとっては「新たな戦いの始まり」でしかなかった。
 元々「メ2号作戦(ガミラス冥王星基地攻略作戦)」はヤマト計画の一部に組み込まれてはいたが優先度が低く、太陽系に残留するガミラス軍への対処は、基本的にはメ号作戦で残存する艦隊戦力の大半を消耗した国連宇宙軍の役目だったからである。そして彼らには、少なくとも地球本土への直接攻撃を防ぐ、またヤマトの帰路を確保するために、冥王星基地を壊滅させられずとも太陽系ガミラス軍の戦力を可能な限り漸減することが求められていた。

 2198年にイスカンダル王国から波動機関の設計図がもたらされる以前から、地球でもガミラスの鹵獲艦を用いた波動機関の研究と試験が行われていた。特にガミラス軍と国連宇宙軍との絶望的とも言える艦艇の性能差は波動機関の有無であることは明白だったから、技術本部としては何としても波動機関の製造、量産にこぎ着けるため最大限の努力が払われていた。
 しかし、設計図を入手するまでは、文字通り地球にとってオーバーテクノロジーであった波動機関を地球で量産するなど夢物語にすぎず、図面を得たことで研究自体は加速したものの、まず波動機関に必要な希少金属の調達、そして波動コアのコピーに全く見通しが立たない以上、波動機関搭載艦の量産など途方もないことだった。そして、当然のことながらこの時期は「ヤマト計画」のための宇宙戦艦「ヤマト」の完成が最優先であり、2199年のヤマト発進まで、地球型波動機関の研究は実質停止に近い状況であったと伝えられる。

 しかし、ヤマトが出撃した以上、地球には波動機関を搭載した艦は一隻も存在しない。そして波動機関を搭載していない艦も、メ号作戦を生き残った戦艦「キリシマ」の他は僅かな巡洋艦と駆逐艦のみで、これらだけではガミラス艦隊の一分隊すらまともに相手にできる見込みはなく、ヤマトが土星圏を脱出した直後、国連宇宙軍首脳部はある決断を下すことになる。

 「鹵獲したクリピテラ級駆逐艦の機関を流用し、新造艦を一隻建造する。これを以て護衛艦とし調査船団を編成、木星圏のガミラス基地跡地と土星衛星エンケラドゥスを調査、技術調査と希少金属、物質の採取を行う」

 この「新造艦」は、後に「A型駆逐艦」と呼ばれるグループの原型となる小型艦だったが、鹵獲品ながらも波動機関を搭載することによって、ヤマトの副砲として採用が検討されていた(実際にはより大口径の試製九九式20cm陽電子衝撃砲が採用されていた)九八式15.5cm陽電子衝撃砲の連装砲を2基搭載することが可能になっていた。これなら計算上、ガイデロール級戦艦はともかくデストリア級重巡洋艦までなら何とか対抗可能と判断されていたから、もし敵艦隊に遭遇しても船団の護衛任務は十分に果たせると考えられていた。

 この新型艦は当面駆逐艦として扱われることになり、建造はヤマト建造の際にいくらか物資の余剰が発生していた極東地区(日本)が担当した。艦名は乗り組み予定の乗員たちから公募され「神風」。まさに国連宇宙軍極東地域の乗組員たちが命がけだったことが伺える。
 そして「神風」を護衛艦とした船団は、途中数度にわたってガミラスの小艦隊と交戦したものの「神風」の奮闘でこれを乗り切り、ヤマトの波動砲で破壊された木星のガミラス浮遊大陸の残骸調査とエンケラドゥスにおいてコスモナイト90、そして太陽系内に浮遊する様々な物質を最大限採取することに成功した。
 (なお、この船団による作戦は後に「エンケラドゥス急行」と呼ばれることになる)

 木星の浮遊大陸の調査は、波動砲による破壊の度合いが大きく調査の成果は殆どなかったが、エンケラドゥスにおいてコスモナイト90を一定量確保できたことに加え、たまたま発見されたエンケラドゥスにて放棄されていたガミラス基地(ヤマトはこれを発見できていなかった)で見つかった資料から、太陽系内に散らばる物質のいくつかを加工および合成すれば、イスカンダル製のオリジナルコアほどではなくても、ガミラスのそれと同等あるいはそれを上回る程度の波動コアの生成が可能だということが判明したのである。
 (木星の浮遊大陸やエンケラドゥスの基地などをガミラスが設けようとしたのも、これらの要素を研究するためだと現在は推測されている)

 この朗報は国連宇宙軍首脳部を狂喜させたが、既に調査船団の各船はもちろん「神風」も土星軌道までの航海で機関の疲弊が著しく、とても太陽系内の物質収集に使える状態ではなかった。そのため、この「たった一回の調査船団がかき集めた」使える物資すべてを投入し、国連宇宙軍は太陽系の宙域回復、並びにヤマトの帰路確保のために必要な艦艇の建造を決定した。

 これでは極めて少数の波動機関装備艦しか建造できないのは明白だったが、ヤマトがメ2号作戦を決行した結果、ガミラス冥王星基地が壊滅したことがこの時点で報告されていたため、例え少数でも波動機関、そしてその機関が可能とする砲塔型陽電子衝撃砲を装備した艦艇を揃えれば、残りわずかと思われる太陽系内のガミラス戦力の排除は可能である、と判断されたのである。
 (なお、この時点で「キリシマ」を始めとする既存の艦艇に波動機関を搭載することが放棄されたのは、万一地球オリジナルの波動機関が失敗した場合、機関換装工事を行った従来艦まで戦力として機能しなくなることを恐れたからとされている)


「レコンキスタ」作戦

 国連宇宙軍の号令一下、各地域の突貫工事によって以下の艦艇が建造された。

 試製A型巡洋艦 「エムデン」
 試製A型駆逐艦 「神風」(機関を地球仕様に換装)
         「ジョンストン」
         「グローウォーム」
         「グレミャーシチイ」

(この「試製」とは「後にその艦型のベースとなったため」に筆者がつけたもので、当時そう呼ばれていたわけではないのでご注意頂きたい)

 この5隻の艦隊によって、冥王星基地壊滅後にまだ太陽系に残っていたガミラス戦力(もっとも補給の問題で多くは既に脱出済みであったが)の掃討が決定され、作戦名は「レコンキスタ」(8世紀から15世紀に行われたスペインの国土回復運動にちなんだもの)と名付けられた。

 しかし、作戦こそ開始されたものの、まずこの艦隊は戦闘以前に、未だ熟成されていない、そして波動理論の習得もそこそこの機関科員が扱う地球型波動機関の不調に悩まされることになる。
 波動理論自体は、地球がこれまで持つ核融合反応などの理論と極端な違いがあるわけではないから知識として覚えることに大きな困難はなかった。しかしその運用となると話は別で、不安定、かつしばしば急停止や暴走を繰り返す試作段階の地球型波動機関の不調は目に余るものがあり、唯一、ガミラス型の波動機関を扱ったことのある「神風」の乗組員は他艦の機関不調の度に呼び出されることになった。このため「神風」の乗組員たちは後に「自分たちの艦はいつから工作艦になったのやら」と苦笑めいた回想を残すことになる。

 しかし、苦闘を重ねながら開発、運用された地球型波動機関は、イスカンダル製のコアを用いたオリジナルに劣るとはいえ強力だった。

 何より、これまでは現在の波動砲のような決戦用、あるいは限定的な運用しかできなかった陽電子衝撃砲が柔軟な使用に耐えうる汎用兵器に変化したことは、この作戦に参加した各艦の乗組員たちを大いに驚かせた。ある戦闘では他艦を偵察に出したため「エムデン」「ジョンストン」の2隻のみでデストリア級重巡洋艦5隻と交戦するという、かつての国連宇宙軍にとっては絶望的とも言える状況であっても、見事に返り討ちにしたこともある。こうした小規模な戦闘を重ねつつ、徐々に「レコンキスタ」作戦の参加艦の乗組員たちは自信を深めていった。
 そして、彼らの艦隊は最終的に11番惑星に存在したガミラス物資集積基地を破壊することによって「レコンキスタ」を完遂、太陽系宙域の回復とヤマトの帰路確保に成功。地球人類の滅亡を防ぐことに大きな貢献を果たしたのだった。


 こうして地球型波動機関の開発と「エンケラドゥス急行」「レコンキスタ」の成功により、国連宇宙軍、すなわち後の地球防衛軍はヤマトの航海と同様に波動機関とその理論を学び、今後の軍備に生かすことになるのだが、それらの詳細に関しては「地球防衛軍艦艇史」において各艦型を解説する際に譲ることとしたい。


(筆者追記 本文中の「レコンキスタ」作戦は猫又滋郎氏の「地球防衛軍駆逐艦史」の記述を作者が膨らませたものです。氏に感謝したく思います。また「我が家の地球防衛艦隊」様の影響を受けている部分もありますので(極力被らないように注意はしましたが)、同じくお礼申し上げます)