地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。まだ作品は少なくブログ自体の体裁も整っておりませんが、細々ながら書き込んでいきますので楽しんで頂ければ幸いに思います。

カテゴリ: ヤマト外伝小説

(本作にはお世話になっている八八艦隊さん、島(178cm)さんの作成したオリジナルキャラが登場します。今後も活躍していただく予定です。お二方、ありがとうございます。なお、これらオリジナルキャラの設定は八八艦隊さんの「高石範義 経歴書」、島さんの「明星、瞬いて」「明星の残光」というpixivに投稿されている作品をお読み頂くとより楽しめます)

 2201年初頭、地球連邦とガミラスの友好条約の締結によって月面に建設されたガミラス大使館。ここに駐在する武官たちの間で、地球防衛軍のある一佐について話題になることが多くなっていた。

 「地球にも、随分とできる士官がいるようだ」

 ガミラス軍は、伝統的に航空戦や宙雷戦といった、機動力を生かして敵を翻弄する戦闘を好んでいた。そのため地球に駐在する武官にもこの方面のエキスパートと言える人材が何人かいたのだが、その中で宙雷戦を得意とする武官たちが、地球防衛軍士官学校で宙雷科の教頭を務める「とある士官」を高く評価していたのである。
 もちろん、士官学校で一科の教頭を務めている以上、この士官は現在ガトランティス帝国と行われている地球、ガミラス連合艦隊の戦闘に参加したことがない。それでもなお高く評価されていたのは、彼がガミラスの士官たちと行った戦術シミュレーションにおいて、如何なる不利な状況からでも必ず引き分けまでには持ち込み、文字通り不敗を誇ったこと。そして、そんな力量があってもなお、たまにガミラス大使館を訪れて武官同士で戦術論に花を咲かせたり、過去のガミラス艦隊の戦闘記録、特にドメル司令のそれを熱心に学ぶ姿勢が、自分たちの専門分野に関しては誇り高いガミラス軍人たちから好意的に受け入れられていたからである。

 しかし、その地球の士官が一切口にしないので誰も知らなかったが、彼がガミラスとの戦いで婚約者と多くの教え子を失い、それでもガミラスを憎む気になれない自らの心理に疑問を抱きながら日々過ごしていることをもしガミラスの武官たちが知ったら、果たしてどんな事態になったろうか。
 だが、それは恐らく永遠の謎となるであろう。話題の防衛軍の一佐、堀田真司はそんな自分の過去を話す気を一切持たずにガミラス人と分け隔てなく付き合っていたのだから。


 「今のままでは、地球が再び焦土になる可能性も低くはない」

 これは堀田のみならず、彼の同期である高石範義、あるいはこの二人と互いに能力を高く評価している山南修という二人の宙将補などを含め、多くの地球防衛軍の士官が共有する危機感であった。
 確かにガミラスとの戦争は終わった。だが、そのガミラスと和平を結ぶ過程で、やむを得ない事情とはいえ今度はガトランティスという敵を新たに作ることになってしまった。まだ敵の正体が判明しない現状であったから、いつ太陽系が再び戦場になるかわかったものではなかったのである。

 堀田が自分の過去に触れないのは、それ自体を思い出したくないという個人的な事情もあったが、自身が恨み言を口にしてガミラスとの関係を悪化させることを懸念したということもあった。そういう意味では、堀田自身の言葉を借りれば「自分は生き残ったというだけで不相応に偉くなりすぎた」ということなのかもしれない。
 それに、過去を振り返る余裕は正直なところ、今の堀田にはなかった。彼には自分が所属する組織である地球防衛軍に大きな懸念があり、それを解決するには自分の力だけではどうすることもできない。だから、追放同然に閑職に回されることを受け入れようとしている恩師を、無理やりにでも再び表舞台に押し出さなければならないという課題があったのだ。


 ある日、堀田はその件で高石と二人きりで話をしていた。階級は上の相手だが、同期ゆえの気楽さか二人だけのときはいつも通りの口調で会話するのだった。

 「範さん、どうだろう。説得できそうだろうか?」
 「……難しいな、やはり沖田さんの約束を守りたいという気持ちが強すぎる」

 話題の人は、地球防衛軍の次の連合艦隊司令長官と目されながらも、ヤマト艦長である沖田十三がイスカンダルの女王スターシャと結んだ「波動砲は二度と用いない」という約束を守るためにその人事を受け入れようとしない、堀田の士官学校の教官時代からの恩師でもある土方竜だった。

 「土方さんは信念の人だ、確かに誰であってもそう簡単に動かせるわけはない。それに、地球の恩人であるスターシャ女王との約束を尊重したいというのもわかるが……」
 「真さん。俺もそう思わないでもないが、それで今の地球が守れると思うか?」
 「……」

 堀田は返事ができなかった。

 ガミラスとの戦争が終わり、波動機関という強力な動力源を得た地球防衛軍は、現在凄まじい勢いで軍拡を行っていた。これには「二度とガミラス戦役の悲劇を繰り返してはならない」という官民共同の意識があったから誰も反対するものはなく、堀田個人としても艦隊戦力を必要相応に準備することを否定する理由はない。問題はその内実だった。

 「防衛軍の首脳部は、波動砲に依存しすぎているのではないか?」

 堀田にはそんな疑問と不安があった。地球防衛軍が主力戦艦である「A型(ドレッドノート型)戦艦」の量産に手を付けたのは割と最近だが、それ以前に建造された巡洋艦や、果ては駆逐艦にまで波動砲が搭載されて建造されていたのである。

 艦隊戦術、特に機動戦を研究する宙雷科の士官である堀田は、この状況に危惧を抱いていたのだ。これまでの戦訓の検討や戦術シミュレーションの結果、波動砲は威力は絶大だがエネルギー充填に時間を取られるなどして、決して柔軟な運用に向いた兵器とは判断できなかったからである。実際、堀田は駆逐艦への波動砲搭載には強く反対したし、その際に、または宙雷科の士官や学生にすら一部見られるようになった波動砲へ傾斜する人々に対し「ガミラスは波動砲がなくても強かった」と口癖のように言うことを余儀なくされていた。
 とはいえ、艦隊戦というシステムの中において、時に波動砲によって数的劣勢を覆すことが必要な局面があることは、堀田も砲術の専門家である高石との交流で理解するところではあったから、波動砲を全面的に否定するという考え方もなかった。スターシャとの「約束」も守れるならそれに越したことはないが、現状の地球防衛軍でそれが許されるのかと言えば、これまた甚だ心もとないというのも承知していた。

 「もし防衛軍の首脳部がもっとバランスの良い艦隊を志向してくれるなら、土方さんの志を曲げさせる必要もないんだが……」
 「……そうだな、だが難しいだろうな」

 高石が答える。もし土方が連合艦隊司令長官を辞退すれば、その座は恐らく山南に回ってくるだろうと予想されていた。だが山南、あるいは同じ宙将補である高石は能力は土方に劣るものではないが、やはり「格」という点で見劣ってしまうのは、当人らの責任ではないが致し方ない。ゆえに防衛軍の上層部と真っ向からやり合って、艦隊を率いる実戦担当の士官たちの意見を通すことは難しいだろう。そうなれば最悪、今後は波動砲を搭載した戦艦の数を増やせば十分、などという偏向した軍備がまかり通ることになりかねない。堀田や高石、そして立場上公言はしていないが山南もまた、そのことが心配で土方に表舞台に返り咲いてほしいと考えていたのである。

 しかし、当面はどうすることもできない。そんな話になって高石が去ったところで、それを待っていたかのように鳴り出した自分のデスクの電話を、堀田は手にした。
 だが、それは悲しい事実を知らせるものだった。会話を終えて受話器を置いた堀田はしばし呆然となり、そして傍目から見ても明らかにわかるほど肩を落としてしまっていたのだった。


 それから数日後。堀田は士官学校教員の制服に喪章をつけた姿で、かつての教え子の葬儀へと足を運んでいた。

 (武田君……これからという時に、こんなことになってしまうとは)

 武田夕莉。堀田にとっては彼女の父に士官学校候補生時代に世話になり、自らが士官学校の教官になってからその娘を指導する立場になるという縁もあって、他の生徒と差が出ない程度に「ほんの少しだけ」目をかけてきた生徒。そして、その堀田の指導に応えていつしかガミラス戦末期には艦列を並べて共に戦う「戦友」となった、有能でどこか人を惹きつける魅力のあった若き女性士官。
 その彼女が「輸送船団護衛任務の際に、ガトランティスの攻撃により戦死した」との知らせが入ったのが、ちょうど数日前の電話であった。

 武田が戦死した際の状況を自分の伝手で聞いたとき、堀田は激怒を禁じ得なかった。

 「旧式の戦艦だけで護衛部隊を編成するとは、司令部は何を考えているのか!」

 思わず大声でそう口にしていた。彼女たちの部隊は波動機関に換装されたとはいえ、もはや旧式で第一線の任務には不適当な金剛型宇宙戦艦が四隻だけ。しかも機動力を有する駆逐艦などの支援もないという、艦隊任務を担当する士官からすれば非常識に過ぎる状況だったのだ。これでも二隻は輸送船団の全艦と帰還できたというのだが、それは堀田からすれば武田と、これまた自分にいささか縁のあった、このとき同時に戦死した品川幾二三佐の功績だったとしか言いようがなかった。
 本来なら品川の葬儀にも出席したかったが、子を授かったばかりで夫に死なれた彼の妻が「軍人なんてもう見たくない!」と取り乱してしまっていると聞いたので、遠慮したのである。

 儀式としての葬儀が一通り終わってから、堀田は人込みをかき分けて……これだけの人数が集まったのは明朗快活な武田の人柄が偲ばれると言うべきだが、その葬儀のまとめ役を務めていた女性士官の元へと歩み寄った。
 やはり、というべきなのだろうが、その女性士官の顔には生気が全く見受けられなかった。

 「藤堂君……」
 「……」

 やっとの思いで堀田は声をかけたが、返事はなかった。

 「藤堂君、今度のことは……」
 「教官、何も仰らないでください」

 ようやく返ってきたのは、弱々しいがきっぱりとした拒絶の返事だった。

 藤堂早紀、防衛軍三佐。

 堀田にとっては、士官学校の教官時代に武田と同じようにその能力を評価し、また彼女が独自に研究していたAIによる自動艦隊に関して、戦闘記録の提供や実戦士官として意見を述べるなど協力した教え子の一人だった。
 だが、正直なところAIによる自動艦隊に関しては堀田はさして興味はなく、あえて言うなら当時の校長だった土方から「彼女のような有能な士官を、むざむざ潰したくない」と告げられたこと。そして彼女の母親が恐らくまともな死に方をしておらず、そのことが早紀にとって心の重荷になっていることが目に見えてしまっていたから、せめて自分だけでも当時誰にも見向きされなかった彼女の研究にささやかながら協力しようと決めたのである。

 つまり、もちろんAI艦隊という未来の一つの可能性を広げるという意味合いもあったが、あえて言うなら藤堂早紀という個人のために付き合ったような話であった。これは堀田らしくない「ひいき」と言えなくもなかったろうが、早紀とのこれまでの付き合いで彼女が有能な士官であり、藤堂平九郎・現地球防衛軍統括司令長官の娘であるという事実を無視した上で、潰してしまうには惜しい人材だと承知してのことでもあるのだ。
 そんな彼女がここまで落ち込んでしまっているのは、無理からぬこととはいえ堀田としては居たたまれなかった。武田は早紀の士官学校時代の後輩で数少ない友人であり、その関係は姉妹のようなものだったのだから、こうなってしまうのはやむを得ないとわかっていてもである。

 「藤堂君、聞きたくないだろうが言わせてもらうよ」

 心を鬼にして、堀田は口を開いた。

 「どういう状況でこんなことになったかは、およそは知っている。あえて言う。君の指揮に問題があったからではない。指揮官に何のミスがなかったとしても、人が死んでいく。それが戦場だ」
 「……」
 「だから、君らを生かすために犠牲になった人たちに報いたいと思うなら、これからも自分の役割を全うすることだよ。今すぐには無理でも、君がいつか立ち直ってくれる。私はそれを待っているよ」
 「……」

 これが、単に教官任務しか経験のない士官の言葉だったら戯言だろう。だが、堀田はガミラス戦役においても地獄のような「カ号作戦」を初陣とし、その後は太陽系内でのガミラスとの戦闘を戦い抜いた歴戦の士官でもある。その言葉は、恐らく今の防衛軍の同年代の士官に比べればよほど重かったろう。
 だが、早紀は表情を曇らせたまま、黙って堀田の言葉を聞いているだけだった。

 (これ以上は、追い詰めるだけにしかならないか……)

 堀田はそう判断して、敬礼してその場を去った。早紀とはその後しばらく会う機会がなくなり、次に再会するときは驚くべき事態になっていたのだが、もちろんそんなことをこの時点で想像することなど不可能であった。


 「堀田さん、早紀が失礼しました」

 早紀の前を去り、式場を後にしようとしたその時、堀田は耳慣れた声に呼び止められた。

 「……永峰君か。こんな時に不謹慎だが、君や藤堂君だけでも生きて戻ってきてくれたのは、正直よかった」
 「いえ、俺もあの時は何もできませんでした。悔しいです」

 永峰祐樹一尉。先の作戦で早紀が座乗していた戦艦「明星」の副長で、彼女とは士官学校時代の同期生である。戦術科の士官だから堀田の教え子の一人であるし、ガミラス戦役時の日本艦隊旗艦「キリシマ」の砲雷長と砲術士官という関係でもあった。

 「少し、お時間をいただけますか?」

 永峰の問いに、堀田は「構わないよ」と答え、式場から少し離れた人気のない場所へと足を運んだ。

 「早紀のことですが……大丈夫でしょうか?」

 やはりそのことかと、堀田は思った。

 「初の実戦で妹同然の後輩を失った。いくら軍人だとはいえ、心理的に焼き切れたとしても批判することはできないよ。私が教えていた頃から……いや、恐らくそれよりずっと以前から、張り詰めた気持ちで生きてきたとしか思えないから」
 「教官もそう思われましたか……」
 「嫌でもわかってしまうよ。そして、よりによって長官の娘ということで政治的に利用しようと群がる人間もいる。その中でよく理性を保っていると褒めてあげたいくらいだよ」
 「……」

 永峰が黙ってしまうあたり、状況が深刻だと堀田は理解するしかなかった。永峰ほど早紀と付き合いが長く、その性格をよく知る同僚を堀田は知らない。その彼が明らかに「自分にはお手上げだ」という顔をしているのである。

 「教官、お願いがあります」

 そう切り出した永峰の顔が、引きつっているように思えた。

 「あいつが……早紀にこれから何があっても、教官は早紀の味方でいてあげてもらえませんか? あいつが士官学校でやってこれたのも、教官が誰も見向きしてくれなかった早紀の研究に協力してくれたからです。だから……」
 「永峰君」

 静かな、堀田の声だった。

 「別に藤堂君に限ったことではないと断っておくが、私は教え子に閉ざす扉を持ち合わせてはいないつもりだ。今は職場も違うし何もできることはないだろうが、何かあれば堀田真司という個人は決して悪いようにはしない。それだけは約束させてもらおう」
 「……その言葉を聞けただけで、少なくとも俺には十分です。ありがとうございました」

 少しだけほっとしたような表情を見せた永峰に、こちらは表情を消したままだったが堀田も少し安心したのだった。
 時間を取らせて申し訳ありません、と告げて去った永峰の背中を見送りながら、堀田はしかし考え込んでいた。

 (所詮、防衛軍全体としては一士官の死など、小さい出来事だろう。だが、今度のことは避けられた悲劇ではなかったのか。それはよく考えるべきことだが、それを考えられる人が、今の上層部に果たしてどれだけいるのか……)

 そこが心もとないだけに、堀田は自分の無力さもまた痛感していたのである。

 (ここは、やはりあの人に戻ってきてもらうしかない)

 これまでは、正直なところ「嫌と言っている」人間に何かを強要するのは好むところではなかったから、本腰を入れて堀田は土方に「連合艦隊を率いてください」と言ってこなかったように思う。しかし、こうして自分の縁ある人々が死に、そして苦しんでいる姿を見て、自らの甘さというものを改めて思い知らされる日となった気がした。

 「本気でやってみよう。こうなれば、刺し違えるくらいの覚悟をしてだ」

 自らも古流剣術の心得がある堀田はこのとき、そう心に決めたのだった。

自分の記事としてはお久しぶりです。地球防衛軍艦艇史も「とある士官と戦艦と地球防衛軍」も止まった状態で「新作?」と思われるかと存じますが、この両方に関わりのあるお話になります(その意味では、厳密には「新作」とは言えないかもしれません)。

題名は「とある士官と戦艦と地球防衛軍 2202」となります。

現在、このシリーズはガミラス戦役の部分で話が止まっていますが、ガミラス戦役の地球関連は原作にヤマト以外のシーンの描写がないためほぼ一からの創作になり、難易度が高くなっていること。また、話の後半に大規模な(といってもガトランティス戦ほどではないですが)艦隊戦を挿入した結果、それに関連して他の方とあるプロジェクトを進めることが決まったため、文章で表現する設定を超えたものを準備する必要も生じました。このため腰を据えてかからないとならず、現状申し訳ないのですが手に負えなくなっています。

そのため、このたびヤマト2202が完結し、それでガトランティス戦役を私なりにどういった方向で創作するか大よそ決まった(これに関しては後述します)ので、とりあえず取り掛かれるこの作品を書くことにしました。これは私が旧作で特に2を好んでいるという理由もあります。

気分屋で申し訳ないのですが、しがない二次創作者ということで、ご容赦頂ければ幸いに存じます。なお、第一話は土曜夜に公開予定ですので、あまり期待せずに、それでも楽しみだと思ってくださる方はお待ちいただければありがたく思います。

なお余談ですが、題名が「2202」なのに、第一話は2201年から始まる予定です。いきなりおかしいではないかと思われるでしょうが、見逃していただければと(笑)


一部独自設定の説明

簡単に「とある士官と戦艦と地球防衛軍 2202」の基礎設定というか、ある種の「前提」についてお話させていただきます。これがないと何でこんな描写になるかわからない、それどころか急にどうしてこんな話に?ということにもなりかねませんので、この説明を設けます。「それでもわからない」ということが万一ありましたら、コメントかツイッターにて質問を頂ければと思います。

・ベースは「旧作2」とし、そこに「2202」の要素を加える

これは「筆者は基本は艦艇マニアである」「人間ドラマに関しては2202以上のものは書けそうもない」というのが理由です。旧作2はヤマトシリーズにしては珍しく、比較的艦隊戦(土星会戦)が戦前の駆け引きから詳しい(ヤマト以外の)戦闘の描写があることから、これを膨らませてみるのが面白いと判断したこともあります。筆者のツイッターを読んでいただいている方には、前から「この方向でいきたい」とツイートしていますので、今更という感はあるかと思いますが一応お話しておきます。

・筆者の脳内設定と他の方の二次創作の設定は有効に利用する

「とある士官と戦艦と地球防衛軍」のガミラス戦の部分については、書ける状態ではありませんが筆者の頭の中にはどんな流れになるかおよそ固まっています。そのため作中ではこの頭の中の設定を(多少ぼかして)使うことが多々ありますので、主人公を始めとしてキャラたちが「こういうことをガミラス戦ではしていたんだな…」と想像して読んでいただければと思います。現状、筆者としましてはこの部分で致命的な破綻は生じないだろうと考えております。

また、ツイッターのDMにおいて筆者が参加しているヤマト二次創作の集まりでは、アイディアを出し合って様々な創作が行われ、私もいささか感想やご意見など差し上げたりもしています。
そんなこともあり、他の方が作られた二次創作の設定のうち(もちろん作者様のご許可はいただきます)、使える部分は使わせていただくことにしたいと思います。また、作中にてどの方のどの作品を参考にさせて頂いたかは、その都度後書きなどで明記させていただきます。

他に現状、少し細かいことで決まっていることを列記すると、

・本作の世界には時間断層が存在しません。そのため艦艇数は概ね「さらば」「2」準拠となります
・ガミラス戦役とその後の設定は「2199」「2202」のものを用います。そのため地球はガミラスと共にガトランティスと戦争中です
・本格的な戦役勃発前に、アンドロメダ級の量産は行われません。これは拙作の地球防衛軍艦艇史「アンドロメダ その1」に準じます(空母型が出てくるかはかなり怪しいです)。また、アンドロメダと主力戦艦(D級前衛戦列艦)のサイズを独自設定に変更しています。ヤマトのサイズに関しては2199設定の333mです
・重力子スプレッドですが、万能すぎるので創作では扱い切れない(本作の後で対戦するはずの敵に対しても有効性が高すぎる)ため、省略します。のみならず他の一部兵器も2202の設定を「なかったことにする」場合がありますが、ご了承ください

今のところはこんなところかと思います。このあたりの設定は動かすと作品全体を練り直すことになりかねませんので、動かし難くなりそうですが他の決まってないことに関しては様々な可能性を探りながら創作していこうと考えています

 「砲雷長」
 「は、はい」

 堀田に声をかけられて、林は振り向いた。

 「君は主砲の射撃に専念してくれ。悪いが、対空機銃と魚雷のスイッチはこちらが貰うよ」
 「了解しました、お願いします」

 「神風」には、メ号作戦で「ゆきかぜ」が使用した新型の空間魚雷が配備されていた。しかし今回は訓練ということで実弾は発射管4門にそれぞれ1発ずつしか搭載されておらず、かつこの魚雷自体が貴重品なので使わないに越したことはない。
 また、雷撃戦を得意とするガミラス艦に対しては、その魚雷を破壊するための対空機銃も重要な兵器だ。しかし「神風」は駆逐艦のため対空兵装は貧弱で使いどころが難しい。この戦いは「神風」にとって初陣であるから、この二つは堀田が扱ったほうが確かによかったろう。

 「操艦は航海長が航海士に指示を。船務長、敵が主砲の射程に入る一分前に砲雷長へ伝達。射程は今までの艦より長い、十分に注意してくれ」
 「「わかりました」」

 三木と沢野が答えると、堀田は敵艦が映し出されたモニターを再度確認した。

 (ガミラスの巡洋艦か。戦艦級ならともかく、この相手ならば)

 「神風」が搭載する4門の15.5cm陽電子衝撃砲でも対処は可能なはずだ。少なくとも計算上は、だが。

 「有効射程まで、あと一分」
 「了解!」

 沢野の声に林が答える。緊張が感じられるが、無理もないことである。彼女は戦場の経験はあるとはいえ、ショックカノンを撃つのは初めてなのだから。

 「落ち着け、砲雷長。いつも通りに狙って撃てばそれでいい」
 「はいっ」

 堀田が声をかけてやると、林もいくらか落ち着いたようだ。

 「敵艦、射程に入った。砲撃準備よし」
 「撃ちー方ー始めっ!」

 堀田の号令一下、林が主砲の引き金を弾く。「神風」の艦首上下に取り付けられた連装砲塔2基から青白いエネルギー流が4本生じ、敵艦へと向かっていった。

 「照準修正。砲雷長、次は君のタイミングで撃て」
 「了解!」

 その直後、最初の一斉射が敵巡洋艦を直撃。艦首が爆発して砕け散り、速力が一気に低下した。

 (全弾当てたか、いい腕をしている)

 内心、そう堀田は林を称賛したが、当の彼女や他の乗組員たちは驚いていた。今まで自分たちが乗って見てきた、あるいは話に聞いていた限り、これほど簡単にガミラス艦に打撃を与える艦など存在すら信じられなかったからである。何しろ彼ら彼女たちは「ヤマト」を知らないのだから。

 「砲雷長、一気に沈めてくれ」
 「はっ、はい!」

 我に返った林が照準を修正、今度は「自分のタイミングで撃て」と言われている。

 「主砲、発射!」

 再び4本のエネルギー流が敵巡洋艦を襲う。また全弾命中、ガミラス巡洋艦はたちまち爆発四散した。
 その光景を見た艦橋の乗員たちは、堀田を除いて呆然としていた。三木ですら唖然としている。今までのガミラス艦への常識からすれば、駆逐艦どころか巡洋艦級など絶望的な相手であったはずなのに、駆逐艦である「神風」はたった主砲二斉射で、相手に何もさせずに沈めてしまった。自分たちの乗っている艦がこのような威力を発揮するなど、実は表向き冷静さを保っているように見える堀田ですら驚きを禁じ得なかった。

 (これが、波動機関の威力か)

 しかし、驚いてばかりはいられない。まだ戦闘は終わっていないのだ。

 「右舷の駆逐艦、発砲!」

 沢野の声を聞き、三木が初島に指示を出す。

 「航海士、面舵30」
 「お、面舵30、よーそろ!」

 これも波動機関の威力なのだろう、これまでの磯風型駆逐艦すら上回る速度で「神風」は右舷から迫る敵駆逐艦に艦首を向ける。その船体ぎりぎりを、敵の砲撃がすり抜けていった。

 「主砲二番、テーッ!」

 堀田が指示し、林が撃つ。今度は軽快な駆逐艦が相手だったからか回避されたが、この回避運動は堀田と林の双方が計算していた。

 「一番、テーッ!」

 今度の砲撃は敵駆逐艦を捉え、爆散させる。残るは一隻だ。

 「後方、魚雷迫るっ!」
 「当たらないよ、進路そのまま」
 「わかりました」

 沢野の報告に、堀田と三木は慌てることなく応じる。すると、確かに発射された敵の魚雷四本は「神風」の両舷を通過していった。

 「前進、第一戦速!」
 「了解。航海士、速度を上げつつ進路反転180度」
 「よ、よーそろ。増速、反転180!」

 「神風」は敵駆逐艦を振り切るかのように速度を上げる。何せ主兵装が艦首に集中している「神風」だから、いったん敵を振り切って艦首を向け直さないと反撃ができない。そして幸いなことに「神風」の急加速を敵は予測していなかったようで、一気に距離が開いた。
 しかし、敵もさるもの。再び装填したらしい魚雷を発射、今度は正確に「神風」を捕捉していた。

 「砲雷長、主砲で魚雷を撃ち落とせ」
 「え、えっ?」
 「聞こえなかったのか、君ならできるはずだ!」
 「わ、わかりましたっ」

 主砲塔二基が左舷に急旋回し、突き進む魚雷を照準器が捉える。

 「撃てっ!」

 一番砲塔、僅かに遅れて二番砲塔が射撃する。林の腕は確かだったようで、四本の魚雷のうち三本はこれで破壊できた。しかし、一本は撃ち漏らしている。

 「魚雷、回避できませんっ!」
 「……」

 沢野が悲鳴のような声を上げたが、堀田はこの時は何も指示しなかった。

 「魚雷、命中まであと200っ!」
 「対空防御、始め!」

 ようやく堀田が対空パルスレーザー砲の発射ボタンを押す。限界まで引き付けていたこともあって「神風」の貧弱な対空砲火だったが見事に魚雷を撃破した。
 そして、程なく「神風」は敵駆逐艦に艦首を向け切っていたが、敵は先ほどの魚雷攻撃を機に砲撃戦へと持ち込むつもりだったのだろう。加速して正面から突っ込んできた。

 「機関長」

 機関室の来島を、堀田は呼び出した。

 「機関全力、まだ行けるか?」
 「今のところは大丈夫でしょうが、あんまり無茶させないで下さいよ。まだ先があるんでしょう?」
 「あと一回だけだ、頼む」
 「しゃーないですな、了解です」
 「すまない」

 マイクを置くと、今度は林に声をかける。

 「砲雷長、すまないが主砲も貰うぞ。航海士は舵を航海長へ頼む」
 「「は、はいっ」」
 「両舷全速、舵そのままで敵艦正面へ突撃! 船務長、敵との相対距離をこちらに送ってくれ」
 「了解しました!」

 「神風」は再び加速し、しばらくして全速に達する。一方で敵艦も全速で正面から挑んでくるらしく、程なく砲撃を開始する。しかし、それを初島から舵を受け継いだ三木が絶妙の操艦で回避していく。

 「距離、千五百!」

 沢野の声が響いた。

 「主砲二番、撃て!」

 船体下部の二番主砲が発射されるが、敵は急上昇でこの射撃を回避する。しかし、堀田はこの瞬間を待っていた。

 「主砲一番、最大仰角……撃てっ!」

 一気に敵艦の下方に飛び込んだ「神風」が上方へ主砲一閃。これが敵駆逐艦の下部中央を貫通して大爆発。その爆炎の中を「神風」は全速で駆け抜けていた。

 「……敵艦隊、全滅を確認」

 レーダーを見届けていた沢野が、呟くように報告した。

 「よし。各部、被害状況を報告せよ」

 堀田が指示すると、程なくして「被害なし」という知らせが入った。

 「ふう……」

 三木がため息をついた。他の乗員たちも安心したような表情を見せる。完成して最初の航海が戦闘になるとは誰も思っていなかったから、こうなるのは致し方ない部分ではあったろう。

 「こら」

 強い口調ではないが、堀田が口を開いた。

 「一度の戦闘が終わったからといって、そんなにほっとされても困るぞ。船務長、再度周囲に敵影がないか、確認してくれ」
 「は、はいっ」

 沢野が再びレーダー画面を確認し、一分後に言った。

 「レーダー探知圏内に、本艦以外の艦影は認められません」
 「そうか」

 ここでようやく、堀田も軽く深呼吸する。そしてマイクを手に取り、艦橋に居る要員を含めた全乗員に声をかける。

 「皆、よくやってくれた。本艦は初陣を飾り、その威力がガミラス軍に対抗できることを証明した。しかし、本当の戦いはこれからだ。厳しいものになるだろうから、覚悟しておいてほしい」

 そう重めの口調で言ってから、今度は少しだけ軽めに付け加えた。

 「だが、とにかくみんなよくやった。これより各部の点検のためいったん地球に帰還する。通信長、その旨を本部に打電してくれ。それと、手の空いている者は少し楽にしてよろしい」
 「はい」

 河西が通信を送り終わったところで静かになった艦橋が、しかし次の瞬間、突然騒がしくなった。

 「艦長、艦長!」

 声の主が、凄い勢いで艦橋に飛び込んできた。その声の主を見たとき、堀田は「ああ、来たか」と思った。

 「何つー無茶してくれやがるんですか! こちとら完成したばかりの艦であれこれ調整が大変だってのに、何かあったらどうしてくれたんですか、いったい!?」
 「……すまない」

 一言だけ、堀田は謝った。相手は技術長の菅井貴也二尉。今度の航海では「神風」の機器に異常が発生しないように目を配るのが仕事だったが、その最初の航海でいきなり戦闘を始めるなど、確かに無茶もいいところである。
 しかもこの菅井という人物、技術科に身を置いているのにも関わらず、妙に口調が荒く上官に対しても遠慮がないのだ。もっとも技術者としての腕はヤマトの副長でもある真田志郎が認めるほどであり、何より彼を見込んで自分の艦に引っ張り込んだのは堀田なのだ。それだけに素直に謝るしかない。

 「まあ、でも戦闘でこの艦の威力を発揮できたのは上出来だったし、何より君のおかげもあって艦に異常もない。ここはまず、それでよしとしよう」
 「言ってくれますね……まあ、いいですけど」

 菅井はぶっきらぼうに答えたが、上官にはこうでも同僚や部下にはざっくばらんで気取らない性格で人望はあるし、堀田も彼を見込んだのはそうした面があるからでもあった。

 「とりあえず、念のために重要箇所だけもう一度点検を頼む。細かいところは地球に戻ってからやろう」
 「へいへい、わかりましたよ。あ、でも一つだけちょっと見てもらいたいもんあるんで、ちょいといいですかい?」
 「わかった。副長、しばらくここを頼む」
 「わかりました」

 堀田と菅井が艦橋を出ていくと、三木が口を開いた。

 「どうしたんだ? みんなぼんやりしているようだが」
 「……」

 確かにこの場の全員が驚いていた。これまでの核融合反応機関とは全く違う、波動機関とそれによって汎用兵器に変貌を遂げた陽電子衝撃砲に。だが、三木を除いたメンバーの驚きはそれだけではなかった。

 「あの……」

 林がおずおずと口を開いた。

 「艦長は宙雷が専門とお聞きしていましたが、魚雷を一発も使わないでここまで冷静に戦われるとは……正直、驚きです。あれなら最初から艦長が全ておやりになったほうがよかったような、その」

 林は砲術が専門だけに、その驚きは大きかったようだ。その疑問に、三木は静かに答える。

 「それが堀田さんという人だよ。一度部下とした人間には、最後の責任を背負って任せてくれる。そして、及ばないところがあれば手助けしてくれる。私も士官学校時代、あの人にどれだけお世話になったか知れない」
 「……」
 「だから、任せてもらった分だけ頑張って報いればいい。艦長は特にそうやって、君たち若い者が成長するのを見るのを楽しむ人だからね」

 自分も顔はともかく、そんなに歳は食っていないはずだがな……と三木は思ったが、口にはしなかった。

 「だからみんな、これは先任士官としての私からのお願いだが、あの艦長は盛り立ててあげて欲しい。これから苦しい戦いだろうが、あの人とならきっと乗り越えられるはずだから」
 「「はいっ!」」

 「神風」の若い艦橋要員たちは声を揃えた。今の戦闘は自艦がガミラス軍艦艇に引けを取らないことを証明したのも収穫だったが、若い艦長がそれ以上に若い乗組員たちから信頼を勝ち得たのが一番大きかったのではないか。そう、堀田を第一に補佐するべき立場の三木は心から思ったのだった。


 「神風」はいったん出撃した坊の岬沖のドックへと戻り、再度各部の総点検を行う。異常がないことが判明した翌日、堀田は技術長の菅井と機関長の来島とドック内の一室で話していた。

 「そうか……そこまで長くは持たない、ということだな」

 堀田の声は重い。あまりいい話ではなさそうだった。

 「はい、まあ何せ扱ったことのないもんですから確実に言い切れはしませんが、あんまり無茶を続けると波動コアが駄目になる、というのは間違いないでしょうな」
 「だーから、初陣からあんな無茶をしちゃいかんと言ったんですよ……と言いたいところですがあれは大して関係ないようですね。ですが、今後はそこらのことを踏まえて艦を動かしてもらわないとならんわけです」

 来島と菅井が言う。彼らの話題は「神風」が搭載しているガミラスから鹵獲した波動機関のことについてだった。
 元々、ガミラス艦の波動コアはイスカンダルから送られヤマトに搭載された本格的なものより簡略化されていたから、条件さえ整えば地球でも一定数のコピーを行い、それで波動機関を製造することは可能という目途は立っていた。しかし、冥王星基地がまだ存在していたつい先日までは、必要な物資収集を行おうにも警戒は厳重で不可能だったし、何より絶望的に何もかも足りていない現在の地球では、当然ながら物資を集めるための船舶もそれを護衛する軍艦も、多くは整備不良で動かせるものは不足を極めていた。

 それ故にこそ「神風」建造が強行されたわけだが、そこは敵から鹵獲した機関の転用である。調査の結果、搭載されているガミラス製波動機関の波動コアは、来島と菅井の見るところ「あと数度の出撃で寿命が尽きる可能性がある」という状態のようだった。
 この報告を受け、仕方なく堀田は宇宙空間での「神風」の訓練を断念し、今は各々が航行中の状況を見立てて艦内で訓練をしている。しかし、このような状況が長く続けば、せっかく初陣の勝利で高まった乗員たちの士気にも悪影響は免れない。

 (調査船団の護衛、それが本艦の任務だが……司令部からは未だに何も言ってこない。船や乗員が集まらないのかもしれないが、このままぐずぐずしていては)

 何しろ、敵はもう「神風」の存在を知っているのだ。極端な話、その「神風」を脅威として太陽系に残っているガミラス艦が一斉に地球に押し寄せてきても不思議ではないから、調査船団を編成して出撃するなら早いに越したことはない。

 「艦長」

 そこへ三木がやってきた。

 「本部から命令を伝達しに、連絡要員の一尉が参りました。艦長に直接、命令書を手渡したいとのことです」
 「わかった、すぐに行こう」

 席を立った堀田だが、このとき、これから会う相手が自分に少なからず関わりのある人間であるということを、もちろん夢にも思ってはいなかった。

 「堀田真司一尉、本日を持ちまして『ふゆつき』砲雷長に着任いたしました。よろしくお願いいたします」
 「ご苦労、よろしく頼む」

 2192年も押し迫った頃、ガミラス戦役が激化する一方で続々と新造艦艇が建造されていたが、その一隻である磯風型突撃駆逐艦「ふゆつき」に新たな砲雷長が着任した。

 堀田真司。航宙軍士官候補生学校において「宙雷に関しては同期で右に出るものはない」とまで称され、戦術研究科にも選抜されて二年を過ごした秀才である。卒業後はしばらく本土で技術部の新型魚雷開発に協力していたが、間もなくであろうと見込まれたガミラス太陽系遠征軍との戦いに新型魚雷は間に合わないと見切りをつけられてしまい、ついに軍艦乗りとして宇宙に出ることになったのだ。

 当時の「ふゆつき」艦長は水谷信之三佐。このとき34歳で、階級が一つ下なだけの堀田が22歳ということを考えると「出世が遅い」と言われるのは仕方ない。だが、これは本人が無能だとかそういう問題ではなく、本来航海科士官だった水谷は国連宇宙軍の人材不足により宙雷に「転向させられた」ため教育期間が必要だったこと。また本人も戦功を求めて戦うという姿勢を見せず、あくまで戦場全体を見て自分の役割をしっかりと果たすことを志向する性格だったので、自然と地味さが拭えず上層部からあまり重んじられていなかったのである。
 だが、航海長として、そして僅かな経験だが砲雷長として、彼を部下とした士官、あるいは彼の下で戦った将兵たちは水谷を、特にその粘り強さにおいて高く評価しており、派手さはなくともこれからのガミラスとの戦いにおいても貴重な人材になると見る者が多かった。

 しかし、これらの評判いずれも、堀田の耳にはまだ届いていない。というより「そうした評判を耳にすると自分の人を見る目が曇る」という考え方をする彼にとって、自分を含めて軍において誰それがどうのという評判はあまり関心のないことであったのだ。

 形通りの挨拶を終えてから、堀田は水谷に艦長室……といっても申し訳程度の狭い個室だったが、そこに案内された。

 「君は、まだ戦場に出たことがなかったな」
 「はい、恥ずかしながら……」
 「そんなことは言わなくていい。後方で軍務に服すことも立派な役割であるのだから、堂々としていればよい。ただ……」
 「?」
 「今の国連宇宙艦隊には、苦戦続きのせいもあろうが若者たちを馬鹿にする傾向が見られる。正直よいこととは言えないし、私はこの艦においてそれは許していないつもりだが、君も侮られることがあるかもしれない。覚悟しておいてもらえるとありがたい」
 「はい」

 堀田の答えに、水谷は満足そうな表情を見せる。正直、風貌だけでも地味な人だと思わず堀田が思ってしまうような相手ではあるが、こうして話をしてくれるあたり、信頼に値する艦長であることは間違いないだろう。

 (自分は、どうやら恵まれたところからスタートすることになったようだ。後はそれに慢心しないことだな)

 艦長室から退室したとき、堀田はそう思っていた。


 そして、それからの「ふゆつき」での堀田の暮らしは、ある意味で地獄であったし、ある意味で納得できるものだった。

 何しろ訓練が凄まじく過酷なのだ。もちろんこれはガミラス戦役の厳しさから当然のことと堀田は思うのだが、さすがに体がついて行かなくなることも多々あった。この激しさは、士官学校で「鬼」と呼ばれる校長から教わったはずの彼でも「厳しい……」と思わず口に出かけたほどであった。
 だが、よいこともあった。水谷は「自分はこの艦で若者を侮ることを許していない」と語っていたが、その言葉の通り、自分より年上の乗員がほとんどを占める「ふゆつき」で、堀田は若さを理由に侮った態度を取られたことは、上下いずれを問わず一度もなかった。
 この「周囲に侮られることなく任務に専念できた」というのは幸運としか言いようがないが、後に堀田が指揮官となったときに自分の「ふゆつき」時代を顧みて行動したため「堀田さんは人を分け隔てなく扱ってくれる」という部下からの信頼を勝ち得る大きな財産となったのである。


 「お前さん、専攻は宙雷だよな?」

 ある日、堀田は先任将校である航海長からそう声をかけられた。

 「はい、そうです」
 「その割には、なかなか砲術もやるじゃないか。俺も別の艦で何人か砲雷長を見てきたが、お前さんほどうまく当てる奴はそういなかったもんだ」
 「恐縮です……士官学校の同期に砲術専攻の友人がいまして、彼から色々教わりましたので」

 その「同期の友人」には自分も宙雷戦術を教えていたが、それはここで言うことでもない。

 「へえ、男の友情ってやつはいいもんだよな。だけどな……」

 急に、航海長の声のトーンが下がる。

 「?」
 「……いや、俺も士官学校で友達になった奴は結構いたんだがな、もう半分も生き残っちゃいない。あのガミ公の悪魔にみんなやられちまった」
 「……」
 「俺は、船を動かすことしか能がないから、敵討ちと行きたくても大砲もミサイルも打てやしない。なあ、砲雷長さんよ。この艦の次の実戦がいつか知らねえけど、そんときは敵の1隻くらいは沈めてやってくれよな」
 「……わかりました、努力します」

 頼んだぜ、と言いながら去っていく航海長だったが、堀田は振り向くことすらできなかった。航海長の望む「敵の1隻くらいは沈める」ということが、実は絶望的に難しいと知っていたからである。

 彼は若いながらも雷撃戦の専門家であるし、それ故にしばらくは研究家としての活動が続いていたのだが、とにかくレーザー砲もミサイルも現状、ガミラス艦の大小を問わず殆ど通用しないのだ。訓練においてこれまで何とか撃沈したガミラス艦の装甲を参考にした仮想標的に砲撃や雷撃を加えても、それこそ体当たり寸前の近接戦闘でなければ貫通しないのである。たった今、会話した航海長と水谷艦長は操艦の名手だと堀田は知っていたが、それでも「体当たり寸前まで接近してください」とは言いにくかった。

 「砲雷長」

 水谷に声をかけられた。

 「あ、艦長」
 「何か考えていたか? ぼんやりしているようにも見えたが」
 「いえ、少し考えていました」
 「何をだ?」
 「……敵の装甲を撃ち抜く手段を。しかし、思いつきませんでした」
 「そうか」

 深刻な問題だが、水谷はいつもの物静かさを崩さなかった。

 「その前に砲雷長。一つ、君について気になることがあるんだが」
 「何でしょうか?」
 「君は、私たち……この「ふゆつき」の乗員たちを本当に信頼してくれているのか?」
 「えっ……それはいったい?」

 そんなことは考えたことがなかった。堀田にとって「信頼している」のが当然のことであって、水谷始めこの「ふゆつき」に乗艦している人たちを疑ったことなどないのだ。
 言葉に詰まる堀田に、水谷は続ける。

 「堀田君、信頼とは言葉にしないと通じないことがある。もちろん、人間であるから言葉にしにくいこともあるし、時に何もなくとも察さねばならないこともあるだろう。だが、まずは行動第一だが、必ず言葉も示せ。君はこれから士官として多くの将兵を率いていくことになる。私のような言葉足らずになってほしくないものだな」
 「……」

 反論の余地がなかった。堀田の性格が元々無口だったということもあるが、これまでの彼は「やるべきこと」とは「命令されてやること」であって、自分の考えを口にするということではなかったからである。この二か月あまりの訓練の間で、そんな堀田の問題点を水谷は正確に見抜き、そして自分と照らし合わせて「それではいけない」と指摘したのだから。

 「申し訳ありません」
 「謝ることはない、私は自分がうまくできないことを君にしろと言っているのだから」
 「いえ、艦長。お言葉、大変ありがたく思っています。堀田一尉、これからは話すべきときは話すよう注意して参ります」
 「よし、わかってくれればそれでいい。頼むぞ」

 はい、と答えつつ敬礼しながら立ち上がろうとした堀田の胸のポケットから、一枚の紙が舞い落ちる。一瞬、しまったと思ったが水谷はそれを見逃さなかった。

 「砲雷長、それは?」
 「い、いえ、何でもありません」
 「そうか?」
 「はい、その……」
 「お、砲雷長が何か隠し事しているぞ」
 「そいつはいかんな。艦長、ここは艦長権限で砲雷長の隠し事を明らかにしましょう」

 さっき去っていったはずの航海長も含めて、何故か「ふゆつき」艦橋に普段詰める面々が集まってきていた。このとき、堀田の顔は真っ赤になっていた。
 軽く咳払いをして、水谷がにやりと笑って口を開いた。

 「砲雷長、艦長命令である。その落ちた紙を私に見せてくれたまえ」
 「……了解しました」

 艦長命令である以上、否やはない。堀田は水谷に紙……写真を差し出し、それに「ふゆつき」の艦橋要員たち全員が目をやる。

 「これは、別嬪さんだな」

 堅物の水谷ですら、思わずそうつぶやく綺麗な女性がその写真には写っていた。

 「お、砲雷長の恋人さんかな?」
 「ほう、我が艦の若手筆頭さんも隅に置けないな」
 「こいつぁ美人さんだ、こんな人を放ってあの世に行ったら罰が当たるぞ、なあ砲雷長?」
 「……」

 散々言われ放題で、堀田は結局何も言えなかった。しかもそればかりか、しばらくはその写真の女性……婚約者の高室奈波についてあれこれ聞かれ続けるという、これまでの訓練より厳しいとしか思えない状況に放り込まれる羽目になったのであった。


 そんな喧噪が一段落してから、堀田は水谷と航海長に相談を持ち掛けた。

 「接近戦で魚雷などの実弾を打ち込む、これでガミラス艦の小型艦までなら一定の効果が見込めます。そのための操艦は可能でしょうか?」

 彼自身が考えたように、実弾とはいえ殆ど体当たりに近い接射が必要なのである。もちろん1隻沈めても自分たちが沈められてしまっては、その戦法に全く意味はない。接近しつつ敵弾を回避し撤収する、そんな高度な操艦が要求されるのだ。

 「何だ、そうならとっとと言ってくれればいいじゃねえか」

 航海長が自信満々に言うのを、水谷は黙って聞いていた。

 「つまりあれだろ、魚雷を叩き込めれば何とかなる可能性はあるってことだな?」
 「そうです。それも本来の魚雷の性能を無視して、現地改造で射程を犠牲にして推進エネルギーを全て雷速に注ぎ込む。まだ理論上でやったことはありませんが、これなら僅かですが可能性はあります」
 「よし、ではやってみるとしよう」

 水谷が断を下す。

 「だが、魚雷の改造となると難しそうだが、見通しは?」
 「私も魚雷開発に携わっていましたので……応急改造で作業は危険ですが、不可能ではないかと」
 「わかった、ならば技術長から許可を貰ってくれ。それが駄目ならこの話はここまでだが、許可が下りれば私に異論はない。砲雷長の思うようにやってくれ」
 「はいっ!」

 堀田は「ふゆつき」の技術長に相談を持ち掛けたが、苦戦続きである前線を知っていた技術長も「やむを得ない」と判断してくれて魚雷の改造が許可され、早速、技術科員たちから志願者を募って魚雷の改造が行われた。
 幸い、改造中に爆発事故などは起こさず、堀田が考案した「応急改造の雷速に全振りした魚雷」が「ふゆつき」に搭載され、実験の日取りも決まった。ただ、この実験は上位組織には許可を取らずに行われることになった……これは「上申してもまず許可されないだろう」と水谷が判断したからだが、そのため「ふゆつき」単独の臨時訓練で密かに試験することになったのだ。

 「ふゆつき」は単独で演習場である月軌道に到着、そこに配置されていたガミラス艦の装甲に見立てた標的を捕捉した。

 「よし、航海長と砲雷長、頼んだぞ。『ふゆつき』全速前進!」

 水谷の命令一下「ふゆつき」は突撃機動に入る。

 「砲雷長、かなり荒っぽいがちゃんと当ててくれよな!」
 「了解しました!」

 堀田も大声で応じる。そして「ふゆつき」は水谷の適切な指示と航海長の巧みな操艦によって、標的から発射される訓練用エネルギー弾を絶妙に回避しつつ、徐々に装甲標的に近づいていった。

 「目標、距離500、400、300……」

 船務長が「まだなのか」と言いたげに距離を告げる。

 「200、100!」
 「魚雷、テーッ」

 やっと、堀田が魚雷の引き金を引く。直後、全速突撃状態だった「ふゆつき」は装甲標的を衝突寸前ギリギリのところで回避していた。

 「砲雷長、戦果確認を」
 「はいっ」

 水谷の命で、堀田は直ちに装甲標的の分析を行う。しかし……

 「……装甲、貫通を確認できず」

 「ふゆつき」艦橋の要員、特に堀田は落胆を隠せなかったが、水谷はただ一言「そうか」としか言わなかった。

 「砲雷長、技術長と共に原因を分析してくれ」
 「了解しました」

 技術長と共に艦橋を出ていく堀田だったが、その表情は真っ青になっていた。


 そして数時間後、装甲標的の分析を終えた堀田は、艦長室にいた水谷に報告した。

 「魚雷の頭部が起爆前に破砕したのが、標的を貫通できなかった理由でした。……申し訳ありません、私の計算ミスで現状の魚雷では雷速に耐えられないということに気付けませんでした」
 「……」
 「艦長、私を何かしらご処分願えないでしょうか?」
 「……理由は?」

 ここまで、あくまでも水谷は静かな口調だった。

 「魚雷の改造という危険な作業に技術科の要員に手伝ってもらいながら、何の成果も出せませんでした。また艦長や航海長の操艦のおかげで事なきを得ましたが……」
 「堀田君」

 水谷が堀田の言葉を遮った。

 「私は、君はよくやった、と褒めてやりたいところなのだがな」
 「えっ? ですが、私は失敗したのですが」
 「確かに実験は失敗した。しかし、君は自分の言う『危険な作業と操艦』を皆に実行させるのに何のためらいも覚えさせなかった。これがどういうことか、理解できるか?」
 「……いいえ」

 堀田の答えに、水谷は軽くため息をついた。

 「そこがわからんのが君の未熟だな。いいか、もし君が『砲雷長として乗組員に信頼されていなかったら』、誰がこんな成算があるかどうかわからない実験に付き合うと思う? 私を含め、今度のことで本艦が犯した危険全てが『君への信頼の証』と考えることはできんか?」
 「あっ……」

 確かにその通りだ。危険な操艦を引き受けた航海長、危険な魚雷の改造を請け負った技術科、そして上層部に秘匿してまで全てを容認した艦長。彼らがまだ着任二か月ほどの堀田を「信頼に値する砲雷長」と見ているのは明らかだった。

 「も、申し訳ありませんでしたっ!」

 今にも泣き出しそうな気持ちで頭を下げる堀田だったが、その彼に水谷は「まあ、座りたまえ」と着席を促した。

 「正直、君は不思議な男だよ」
 「え?」
 「着任二か月の砲雷長と考えれば、君の行動に誰かが反対すると私は思っていた。だが、失敗それ自体を他の乗組員たちがどう思っているかはともかく、事前に誰一人、君に『反対はしなかった』からな」
 「……」
 「私は、これでも色々な部署や艦を渡り歩いて、色々な人間を見てきた。だが、君のような……褒めすぎかもしれんが『人を惹きつける器』を持った男は見たことがない。君は生き残ってさえいれば、いつか地球のために大きな仕事をすることになるかもしれんな」
 「そんな……買い被りすぎです」

 戸惑う堀田に、水谷はまた「にやり」と笑って見せた。

 「君は私の人を見る目も疑うのかね? 安心しなさい、これでもその方面は悪いほうではないと自負がある」
 「……」
 「だから、君には特に言っておく」

 水谷の表情と口調が、今度は真剣なものに替わった。

 「今後実戦において、決して無駄死にになるような戦いをしてはならない。それが君のためでもあり、君に率いられる将兵、同僚たちのためでもある。そして、君はいつかそうした戦いができるようになると私は信じている。このことを忘れないでくれ」
 「……はい」

 堀田は立ち上がり、敬礼した。

 「艦長のお言葉、堀田真司、肝に銘じます」
 「そう、それでいい」

 水谷が頷き、そして用事が控えていた堀田が退室しようとしたその時、声がかかった。

 「あと、写真のあの綺麗なお嬢さんのためにもな」

 堀田は顔を赤くして「失礼しますっ」と逃げるように艦長室を後にした。


 水谷信之という人は、ガミラス戦役からディンギル戦役、更にそれ以降の戦役すら戦い抜いた古参の将官、そして「ヤマトの最後を看取った男」として知られる人物だが、肝心なところで負傷したり所属部隊に恵まれなかったりして、出世が遅れたまま50代を迎えることになった、ある意味で不運な提督であった。
 そして後年、その彼を最終的に将官として推薦し、自分の率いる部隊の副将格として登用を願い出たのは、実は階級で水谷を追い越してしまっていた堀田だった。

 「私の今があるのは、土方さんと沖田さんと山南さん、そして水谷さんのお陰です。あんな立派な識見と覚悟のある方を埋もれさせてしまうのは、防衛軍にとってあまりに惜しすぎます」

 水谷を将官に推薦する際、堀田はそう述べた。そして堀田が将官として「公正さという点で後ろ暗さが全く見受けられない」とまで称されたのは、若き日の「ふゆつき」で学んだ「人との信頼関係の大切さ」が大きかったのではないかと、後年、堀田真司という軍人を研究する学者たちの多くが認めるところなのは紛れもない事実である。


あとがき

 筆者が好きなヤマトキャラの中で随一の地味さを誇る?水谷「冬月」艦長(メ号作戦時に「ふゆつき」がいた(=それまで沈んでいない)ので、その艦長にもしてしまいました)が登場です。下の「信之」の名は筆者オリジナルで戦国武将の真田信之に由来しており「苦労が多いが我慢強く生き残るキャラ」という意味でつけました。まだこの時点では34歳ですが、自分作成の年表だとヤマト自沈時(完結編)では50歳になっているんですよね…台詞を書いていると、懐かしい小林修氏の声で脳内変換されてちょっと嬉しかったです。
 水谷艦長は本編でも生き残るキャラなので、外伝小説においてまれに登場したりすることがあると思います。そしていずれは主要キャラとして経験豊富な水雷戦隊指揮官として活躍してもらうつもりでいますので、いつになるかわかりませんが楽しみにしていただければと思います。

 なお、航海科から宙雷科に移籍、というのは、史実日本海軍の木村進提督(二度、駆逐艦部隊である第十戦隊を率いた海軍最後の水路部長)を参考に設定しました。この設定を決めた後に同じような設定がされた小説を拝見して変えようとも思いましたが、せっかくなのでそのままにしました。問題があるようでしたら考え直しますので、ご了承いただければ幸いです。

 「艦長」

 堀田が「駆逐艦A」艤装員長として着任して四日目、乗り組み予定の要員たちはもう皆が彼のことを「艦長」と呼ぶようになっていたが……艦橋でパネルの確認を行っていたところで声をかけられた。
 顔を上げてみると、砲雷長に内定している林美津保二尉がいた。まだ20歳だが航宙士官候補生学校でその砲雷撃戦の才能を見出され、僅かだが実戦経験もあるという、人材不足に悩まされる国連宇宙軍でも珍しい女性の戦術士官だった。ただ、彼女に雷撃戦の初歩を教えたのは士官候補生学校教官時代の堀田であったから、別に女性だからどうのと気にしたことはないし、その才能と力量は十分に評価していた。

 「何だい、砲雷長?」
 「東京の南部重工から本艦の主砲が届きましたので、ご報告にあがりました」
 「そうか、やっと来たか」

 「駆逐艦A」の艤装はほぼ終わりに近づいていたが、主砲となるべき火砲が未到着であり、これを取り付ければほぼ完成することになるのだった。

 「わかった。先任将校も呼んで、一緒に確認しよう」
 「お願いします」

 そうして、三木と林を連れて届いた火砲が補完されているエリアに足を運ぶ。そこには、三木と林には意外な、そして堀田には納得ができるものが鎮座していた。

 「これは……砲身型火砲の砲塔ですか? 私はヤマトにだけ準備されていると思っていましたが」
 「ああ、これはヤマトに副砲として搭載される予定だった砲だよ。もっとも、ヤマトの副砲にはもっと口径の大きい砲が採用されたから、宙に浮いていたんだ」

 林の疑問に、堀田がそう答えた。

 目の前にあった砲塔と砲身を持つ兵器……制式名称「九八式15.5cm陽電子衝撃砲」。堀田の説明通り、当初はヤマトに副砲として搭載される予定だったが、今年になって「試製九九式20cm陽電子衝撃砲」の目途が立ったことから「ヤマトにはより強力な兵器を」という軍首脳の意向があり、こちらが採用されたということを「ヤマト計画」で戦術科に関係していた堀田は知っていた。

 「しかし、波動機関に加えてショックカノンですか……お偉方はうちの艦に相当な期待をかけているようですね」
 「そうだね。もっとも、波動機関を使えるのが我々の艦のみという現状だ。今更出し惜しみもしていられないし、少数でもガミラス艦隊に単独で挑もうというなら、ショックカノンはどうしても必要な兵器ではあるよ」
 「……」

 三木と堀田が話しているところで、林は表情を硬くして沈黙していた。

 「砲雷長、どうした?」
 「あ、失礼しました。その……」
 「構わないよ、言ってみなさい」

 堀田に促され、林は口を開く。

 「あの、私は駆逐艦にしか乗ったことがなく、ショックカノンを撃ったことがありません。それで、その……」
 「最初は誰だって初めてなものさ。私だって「キリシマ」にいたときも殆ど撃った記憶はないよ。『カ2号作戦』以降はそもそも簡単に撃たせてはもらえなかったものだから」
 「そうだったんですか?」
 「そう。だから不安に思うことはない。波動機関を搭載している以上、ショックカノンもこれまでの通常兵器と同じように使える前提でヤマトに搭載されている。それはこの艦も同じと心得ておけばいい。それに……」

 僅かに、堀田は笑顔を見せた。

 「私は君の腕を知っているし、信頼している。任せたよ」
 「は、はいっ!」

 僅かに顔を紅潮させて、林は下がっていった。

 「彼女、どうですか?」

 三木が聞く。

 「砲雷長としての実力は恐らく問題ないよ。ただ消極的というか、ちょっと慎重すぎるかもしれない。元々は船務科志望だったのが戦術科に転向したから、仕方ない面はあると教えていて思ったけどね。だけど」

 確認するように、堀田は締める。

 「これから経験を積めばいくらでも育つさ、他の乗員もそうだけどね。そして、我々のように実戦に出て生き残った者たちは、彼ら彼女らを生き残らせてその未来を繋げないといけない。それは心しておこう」
 「そうですね……」

 静かに頷く三木だった。


 そして二日後、陽電子衝撃砲の搭載とその他の工事を終え、ここに「駆逐艦A」は完成した現役艦と認められることになった。

 「しかしご時世とはいえ、寂しい竣工ですなあ」

 艦橋で機関長の来島研三が言う。彼は一尉で三木より年上の28歳だが、一尉としては三木のほうが先任だったため先任将校にはなれなかった。だが、それに別段不満を抱くでもない、豪放な性格の持ち主だった。

 「元々が機密扱いの艦だからね。それに、こんな状況では仮にそうでなくても、派手に進宙式というわけにはいかないさ」
 「まあ、そうですわな」
 「ところで、機関の調子はどうだい?」
 「今は順調……ってとこですな。もっとも、敵さんの技術を信頼して命預けるってのは、どうにもいい気分はせんもんです」
 「そいつは仕方がない、背に腹は代えられないからね」

 もっとも、来島もわかっていて愚痴を言っていることはもちろん堀田も理解していた。

 「艦長」

 三木がやってきた。

 「乗組員総員53名。ここにいる我々を除く全員、艦長をお待ちしております」
 「わかった、すぐ行こう」

 艦外に整列している乗員たちを一瞥して、堀田は演台の上に立つ。

 「本艦の艦長を務める、堀田真司二佐だ。改めてになるが、貴官ら将兵が全力を発揮し、任務を果たすことを期待する。そして……」

 ここからが、大事なところであった。

 「ここにいる全員、今度の作戦をやり遂げて、生きて地球に戻るんだ。私が艦長でいる限り、無駄死には許さないし私も君らに決してそれを強いることはしない。どこまでも生き抜いて、地球人類のために戦い続けてもらいたい」

 諸先輩から教えられたこと。最後まで絶望しない、軍人として命ある限り、最後まで生きて戦い抜く。これを堀田は自分の部下たちにも伝えなければならないと自覚しているつもりだった。

 「艦長」

 堀田の右後ろに立った三木が声をかけてきた。

 「艦名の公募も終了しています。結果はこちらになりますので、艦長から読み上げていただきたく思います」
 「わかった」

 艦名を乗員から公募する。これはまずないことだが、彼らの乗る駆逐艦はその任務が極秘であるため、公式にはあくまで「駆逐艦A」としか扱われない。それはそれで仕方がないとはいえ、自分らの乗る艦がそんな取ってつけたような名前では乗員の士気に関わる。堀田はそう考えて、乗員たち「だけに」通用する艦名を公募で選ぶことにしたのである。

 その結果が記された紙を見て、一瞬、堀田は目前に整列する乗員たちの表情を見る。彼らの大半は20代前半、残りは各種学校を卒業したばかりの10代の少年少女たちだが、その顔は一様に硬さが感じられた。

 (それだけ覚悟して、この艦名を選んだということだな)

 内心でそう思ってから、言う。

 「なお、先に貴官らへ向けて行った艦名の公募の結果が出た。それに従い……」

 ここで、堀田は軽く深呼吸していた。

 「本艦を今後、駆逐艦『神風』と呼称する。あくまで非公式だが、かつての日本海軍駆逐艦である『神風』は大戦を最後まで戦い抜いた艦だ。その伝統に則り、我々も生きて任務を全うしよう!」
 「「オーッ!」」

 乗員たちから、大きな歓声が上がった。

 「神風」という名は、もちろん航空隊でこの名前を使えば忌避されるし、国連宇宙軍でも北米支部あたりはいい顔をしないだろう。しかし堀田が述べた通り、日本海軍の駆逐艦たる「神風」は数々の窮地を乗り越えて太平洋戦争を生き残った武勲艦だ。これまでは他国に遠慮して、磯風型駆逐艦のどれにも使われていなかった名前ではあるが「自分たちが元寇の際の神風のように地球の窮地を救う」「例え死すとも悔いなく戦い抜く」という乗員たちの覚悟を示した公募名のように堀田には思われた。

 「では、これより『神風』は最初の航海に出港する。総員、配置につけ!」

 先任将校の三木が号令を下し、乗員たちは各部ハッチから乗り組みを開始する。それを見て、自分も改めて艦長としての覚悟を決める堀田だった。


 艦橋の指揮席に着くと、艦橋要員たちが既に配置について、いささか硬い表情で堀田に敬礼を向けていた。
 先任将校と航海長を兼務する三木と、砲雷長の林。それに船務長の沢野有香三尉、通信長の河西智文三尉、それと先任将校として副長の役目を果たす三木に替わって普段の操艦を行う主席航海士の初島沙彩三尉。いずれも航宙軍士官候補生学校において成績優秀ということで選ばれたとはいえ、まだ19歳から20歳程度の若者たちだった。
 というより、機関の調整のためここにはいない来島と技術長の菅井貴也二尉、倉庫で物資の確認を行っている主計長の秦智哉三尉。彼らを含めても、実戦経験があるのは堀田と三木に来島、林の四人だけ。年齢も堀田、来島、三木が20代後半から中盤なのを除けば全員やっと20歳前後という、悲しいまでに現状の国防宇宙軍の人材不足が伺える艦首脳部だった。

 しかし、ガミラスの攻撃により本来の要員を失ったヤマトでさえ、状況は似たようなものだった。その点で贅沢が言える状況ではなかったし、自分も士官学校で教育者として、そして「キリシマ」砲雷長として若者たちを見てきた堀田は、彼ら彼女らにむしろ希望さえ抱いていた。

 (この若い力を纏めるのが、私の役目だ。それが死に損なったものの務めであり、先達の務めでもある)

 もう、堀田はそうと腹を括っていたのである。

 「諸氏に、改めて申し上げる」

 丁寧だが、やや重い口調で言う。

 「諸氏は、本艦の首脳部として若い……諸氏も若いことは十分に承知しているが、この艦の乗組員を引っ張っていってもらうことになる。不安もあろうし、これから苦労も多いだろうが……」
 「……」

 聞いている乗員たちは、息を飲むだけでもちろん言葉を発さない。

 「艦長としてあえて言う。何事もやらなければ物事は進んでいかない。失敗を恐れていても何も解決はしない。私はこの艦の責任者として、作戦の成功と貴官らを生きて地球に帰すことに全力を尽くすつもりだ。しかし残念ながら、私は諸氏の命の保証はできない。だが、最後の責任は全て私一人で負う覚悟はしている。諸氏は失敗を恐れず、これから堂々と戦ってほしい。以上だ」
 「「はいっ!」」

 堀田さんにしては饒舌だなと三木は思ったが、若い乗員たちの顔が、堀田の言葉を聞いて安心とはいかずとも、やる気を感じさせるものに変化したことを感じ取った。そこは教官任務も長かったとはいえ、一連の「カ号作戦」や「メ号作戦」を生き残った士官だけに自分などとは訳が違うな、と感心もしたのだった。

 「では、艦長」

 その三木に促されて、堀田は命令を下した。

 「『神風』発進準備!」


 そして1時間ほどで『神風』は成層圏を脱出して宇宙空間へと出ていた。これまでの核融合反応機関で稼働していた艦からすれば信じられないほどの速さであり、これはさすがに経験したことのない堀田も驚くしかなかった。
 ふと後ろを振り向くと、赤茶けた地球が見える。これを青い地球へと戻すために我々は戦っているのだ。成否はヤマトにかかるところが大とはいえ、自分たちの任務も決して疎かにできるものではない。

 「では、月軌道に入ったところで訓練を……」

 そう、堀田が言いかけた直後だった。

 「レーダーに艦影! 数、3。ガミラス艦と思われます」
 「何だと!」

 船務長の沢野の報告に、さすがの堀田も驚いた。冥王星基地が壊滅した今となっては、太陽系に残っているガミラス艦はさほど多くないはずで、まして地球を出港した直後に接触するなど思ってもみなかった。
 しかし、そこは歴戦の堀田であるから、冷静さを取り戻すのは速かった。

 (そうか、ヤマト出港後に地球がどうなっているか、冥王星基地から偵察に派遣されたのだろう。納得のいかない話ではないが、そうすると……)

 敵は、恐らく自分たちが帰るべき冥王星基地が、もう消滅しているということを知らない可能性を思い立った。

 「先任将校」
 「はい」
 「敵艦に気付かれず、振り切ることは可能だろうか?」
 「……難しいですね。ここで引き返しても発見される可能性は高いですし、そうなると」
 「追撃されて本艦は沈められ、これからの任務を果たせなくなるか……船務長」
 「はっ、はい」

 沢野が答える。

 「敵に我が艦は探知されているか?」
 「……今、探知された模様です。こちらに向かってきます」
 「わかった。現在、敵艦3隻はどういう配置になっているか、パネルに出してくれ」
 「りょ、了解……出ます」

 パネルに目をやると、3隻はかなり間隔を広く取って航行していた。偵察任務であるなら、こういう陣形で視野を広く、というのは理解できる。

 「敵艦識別。ガ軍巡洋艦1、駆逐艦2」

 砲雷長の林から報告が入る。それならばと、堀田は通信長の河西に声をかけた。

 「通信長、敵の旗艦……恐らく巡洋艦だろうが、交信回路は開けるか」
 「は、はいっ。可能ですが、どうするんですか?」
 「伝えてやるといい、お前たちの帰るべき冥王星基地はもう消滅している。ここで戦闘を始めても無意味だぞ、と」
 「戦闘を避けるのですか?」

 林が声を上げたが、堀田は冷静なままだった。

 「まだ完成して出港したばかりの本艦が、戦闘でその性能を発揮できる保証はない。避けられる戦闘は避けたほうがいい。もちろん、相手次第ではあるが……通信長、とにかく相手への交信を頼む」
 「りょ、了解」
 「艦長、あるいはその通信で敵が自暴自棄になる可能性もあります。ここは」

 三木の言葉に頷くと、堀田は艦内放送で全乗組員に伝達した。

 「総員、そのまま落ち着いて聞け。本艦は敵巡洋艦ならびに駆逐艦に発見された。交戦を避けるための手は打つが、うまくいかない可能性もある。まだ訓練すら行っていない本艦だが、ここで退避することは不可能だ。いざとなれば、全員で総力を挙げて生き残るために戦ってもらいたい……総員、第一種戦闘配置!」

 まさか出港早々、敵艦と交戦することになるなど想定外だが、戦場とはそうした想定外によって形作られていると言っても過言ではない。だが、堀田や三木ら歴戦の士官ならともかく、実戦経験の乏しい、あるいは皆無な乗員たちが大半で、しかも波動機関搭載艦とはいえ駆逐艦1隻のみ。3隻の敵艦を相手にするのは無謀としか言いようがないが、逃げることは確実に死を招くことになる以上、通信で敵が引かない限りは戦うしかない。

 そして案の定と言うべきか、敵艦3隻は「神風」の通信に返信すらして来ず、旗艦である巡洋艦が徐々に迫ってきていた。

 (こうなれば、妙な話だが敵の技術を信頼するしかない。そして……)

 この「神風」に乗り組んだ若い乗員たちの力を信じるのみ。そう意を決して、堀田は「神風」にとって最初となる戦闘開始を決断した。

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