地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。まだ作品は少なくブログ自体の体裁も整っておりませんが、細々ながら書き込んでいきますので楽しんで頂ければ幸いに思います。

カテゴリ:ヤマト外伝小説 > とある士官と戦艦と地球防衛軍

 「敵艦見ゆ、艦影多数、右舷4時より近づく」

 冥王星宙域。第一艦隊旗艦「キリシマ」艦橋で様々な報告が飛び交っているが「彼」は……名を明かすのは後のこととして、この言葉に特に耳を傾けていた。

 (さあ、どれだけ来る?)

 いずれにせよ、こちらは22隻。これでも現在の国連宇宙軍にとっては最大、最強の宇宙艦隊ではあるのだが、目前に迫る敵に比べてあまりに非力であることは目に見えている。「キリシマ」艦橋の左前方に座る彼は、その職務ゆえにそれを理解し尽していた。

 艦種識別、という艦長の問いに、レーダー手の返答は絶望的だった。

 「超弩級宇宙戦艦1、戦艦7、巡洋艦22、駆逐艦多数」

 自艦隊の総力と敵巡洋艦の数が等しいが、この巡洋艦部隊だけでも真っ向から勝負すれば味方は全滅だ。それでもなお、敵はほぼ全艦隊を出撃させてきているように思える。あるいは今の味方の行動が「囮」であることを承知しているのかどうか。

 (まあ、用兵の基本ではある。未確認の敵には常に最大戦力をぶつける。そして我が艦隊は実質地球にとって最後の艦隊。こうなるのは当然だろうな)

 妙に冷めた頭でそう考える彼だが、これから自分が何をすべきかは理解している。

 「戦闘配置」

 艦隊司令長官の命令に続いて、彼もまた艦内通信で指示する。

 「各砲、左旋回。距離7千5百、相対速度変わらず。測的開始、仰角合わせ」

 彼は、この「キリシマ」の砲雷長。戦闘において砲雷撃戦を指揮するのが役目なのだ。

 「地球艦隊より返信『馬鹿め!』」

 照準を合わせていたら、通信士のそんな声が聞こえた。恐らく降伏勧告でもあったのだろうが、今ここにいる長官ならそう答えるしか選択肢はないだろう。1年ほど前から「キリシマ」に砲雷長として乗り組んで以来この長官に仕えているわけだが、そういう強い信念の持ち主なのは承知している。
 敵がこの応答に砲撃で答え、何隻かの味方艦が爆発する。たった一斉射で1隻ずつ沈んでしまうのだが、味方が不甲斐ないのではない。敵が「悪魔と言うしかないほど」強すぎるのだ。
 
 「まだだ」

 長官の一声で、射程外なのに打ち返したくなった自分の衝動を抑える。そして、程なくだった。

 「敵艦、射程に入った。照準よしっ!」
 「全砲門開け、テーッ!」

 命令一下、彼は射撃用の引き金を引く。緑色の光線が深緑の敵艦に向かって進んでいく。

 (……どうなるかは、目に見えているがな)

 彼が思った瞬間、宇宙空間ではあり得ないにも関わらず、金属を叩いた音が聞こえたような感覚を覚える。それくらい見事に味方の砲撃は敵の光学装甲に弾かれていた。
 敵の攻撃は激しさを増し、次々と味方艦が沈んでいく。しかし、彼にはその光景を見ているだけの余裕はない。貫通せずともひたすら射撃し続け、敵の光学装甲だけでも少しずつ削っていく。そうすれば、いつか僅かながらでも反撃の機会は訪れるはずなのだ。

 (うっ!)

 いつの間にか、自分の乗る「キリシマ」が被弾したのは分かった。しかし、自らの左脇腹から妙な痛みを感じるまでには、いくばくかの時間を要した。
 そっと左手を当ててみると、手のひらが真っ赤になっていた。

 (くっ……こんなところで)

 まだ、自分は死ぬわけにはいかない。この「キリシマ」に乗る長官や艦長、そして自分を含めた多くの乗組員には、この戦いから生きて帰ってするべきことがあるのだ。

 「ヤマト計画」。

 それに参加するために「彼」こと現「キリシマ」砲雷長、堀田真司二佐は死ぬことが許されないのだった。



 そうこうしているうちに「キリシマ」も被弾が相次いでいた。仮にも戦艦であるから、他艦のように簡単に爆沈しないだけましではあるが、このまま戦闘が長引けばいずれどうなるか目に見えている。しかし死ぬことはもちろん許されないが、役目を果たすまではこの戦場を離れることもできないのだ。
 負傷していることを悟られないように、堀田は気力を振り絞って各砲塔へ指示を飛ばす。

 「落ち着け、敵の光学装甲は確実に削れている! このままいけばいずれ反撃の機会は必ず訪れる! 砲手、観測所の各員、決して諦めるなっ!」

 この声に、司令長官である沖田十三と「キリシマ」艦長の山南修の双方が驚いた。日常だろうと戦闘時だろうと、自分たちの知るこの砲雷長はこんな大声を発するような人間ではなかったからである。しかし、戦局はそれに構っていられるような状況ではなく、二人とも何も言わなかった。
 だんだん、堀田は意識が遠のきそうだったが、それでも引き金からは決して手を離さずに引き続ける。そして、待ちに待った声が聞こえた。

 「司令部に暗号を打電、天の岩戸、開く」

 沖田のその声は、この作戦で第一艦隊が果たすべき役割を果たしたということであり、同時に堀田もまた決断を下していた。

 「長官」

 今度は沖田や山南が知る、いつもの堀田の冷静沈着な声だった。

 「意見具申、これより砲雷撃による機動戦にて敵の陣形を崩し、戦場離脱の足掛かりとしたく」
 「許可する」

 沖田の声に応じ、山南が命令を下す。

 「砲雷長は敵艦隊の攪乱に入れ! 航海長、最初のミサイル発射後に直ちに最大戦速、敵艦隊を攪乱せよ!」
 「「了解」」

 航海長と堀田が同時に応答し「キリシマ」は8発のミサイルを発射し、これが光学装甲を削られたガミラスの小型艦に幾ばくかの損傷を与える。
 そして「キリシマ」は急加速と転舵を繰り返し、堀田もそれに合わせて命令を出す。

 「艦首魚雷、全門発射。その後直ちに二番砲塔は砲撃、敵の隊列を崩せっ!」

 これまでの、ある意味で単調だった砲撃戦とは違う急速機動。そしてこの機動あってこその堀田の戦闘指揮だった。彼の専門は宙雷、20世紀初頭から続く日本海軍、そして国連宇宙軍極東支部、実質日本宇宙海軍のお家芸たる雷撃戦こそが本領なのだ。

 この「キリシマ」の機動で、一瞬だけ敵艦隊の足が止まった。

 「第一艦隊は現時刻を以て作戦を終了、撤退する」

 その沖田の命令が出た直後、レーダー手が声を上げた。

 「左舷上方より敵駆逐艦近づく、速いっ!」

 艦橋に居た全員が視線を上に向けたが、その後ろに味方艦がいた。

 (「ゆきかぜ」)

 それが誰の艦か、堀田は知っている。こんな大胆な追跡戦をやる、やれる艦長は、もう地球にはそれほど多く残っていなかった。
 その「ゆきかぜ」が、見事に魚雷で敵駆逐艦を撃沈した。

 (古代君……君らしいな、助かったよ)

 心の中で礼を述べた、その次の瞬間だった。

 (う……)

 急に、堀田は自分の意識が途絶えそうになる感覚を覚える。何とか立て直そうとするが、もはやかなわないことだった。

 「砲雷長っ! 軍医、ただちに艦橋へ!」

 そこまでは聞こえたが、次に目が覚めた時、堀田はもう担架の上だった。

 「堀田君」

 沖田が声をかけてきた。

 「長官、申し訳ありません。堀田二佐、いったん下がらせていただきます」
 「しっかりするのだ。君には、まだやってもらわねばならんことがある。ここで死んではいかん」
 「……承知しております。あの艦に、乗らなければなりませんから」
 「……」
 「長官、いえ……沖田さん」

 思わず、姓で呼んでしまっていた。

 「万一、私にもしものことがあれば……後は古代君に任せてください。彼ならきっとやり遂げられます」
 「……わかった」

 その場の全員が「ああ、砲雷長は『ゆきかぜ』がどうなったか知らないのか」と悟った。

 「では、いったん……失礼いたします」

 右手で敬礼した次の瞬間、再び堀田の意識は失われ、それが戻るまでにひたすら長い時間を要することとなった。



 目が覚めた途端、自分が何をしているのか全くわからなかった。視野に入ったのは「キリシマ」の病室ではない真っ白な天井、そして自分がベッドに横たわっていることに気付くのに、堀田はいくらかの時間を要した。

 「自分は、何をやっていたんだ?」

 周りを見渡すと、医者がいる。しかし、その医者は自分の知る、そして敬愛する沖田の主治医ではなかった。

 「先生!」

 いきなり堀田に大声で呼びかけられ、医師は驚いたようだった。

 「ここはどこですかっ! 今はいったい、いつですか!?」
 「やめんか、堀田」

 今度は聞きなれた声が聞こえる。堀田にとっては航宙軍士官候補生学校の学生時代の恩師であり、沖田と並んで現在の地球で生き残った提督たちの中でも屈指の艦隊指揮官だ。

 「土方さん。ヤマトは、ヤマトはどうしましたかっ!」

 堀田の動揺ぶりとは対照的に、土方竜、現空間防衛総隊司令官はあくまで冷静な趣きだった。

 「ヤマトが発進してもう一週間になる。しかし、あの船に乗艦できず運が悪かったと嘆いてもらうわけにもいかん」
 「えっ?」
 「ヤマトの発進前に、坊の岬沖の基地がガミラスに露呈し、攻撃を受けてそこにいた要員は壊滅した。お前が「キリシマ」で無事だったら、恐らくそこで助からなかっただろう」
 「……」

 つまり、もし「キリシマ」で無事でも生きていられなかった、ヤマトに乗ることは叶わなかったということである。だが、今の自分はこうして生きている。これはどういうことか。

 「自分は、死に損なっ……」
 「馬鹿もん!」

 久方ぶりに聞いた、土方の叱咤だった。

 「この状況で死ぬことに逃げるのは俺が許さん。お前は生き残った。ならば、地球が救われるまで生き残った者としての務めを果たせ」
 「……」
 「その様子なら、治りも早いだろう。退院したらすぐ司令部に顔を出せ。ヤマトが発進してから、ただでさえ足りない人手がますます足りなくなっているからな。悠長に休んでいられては困る」
 「……はい」

 答えて、堀田はベッドから起き上がって土方に敬礼した。

 「堀田真司二佐、退院次第、直ちに国連宇宙軍司令部に出頭いたします」
 「よし、待っているぞ」

 言って、土方は去っていく。しかし、その背中を見送る堀田の心境は複雑だった。

 (ヤマトにも乗れず、仲間達からも死に遅れ……そして、大切な人はもういない。自分は、これから一体何をするべきなのか。何かできることがまだあるとでもいうのか)

 このとき、堀田は知る由もなかった。

 「死に損ない、ヤマトに乗り損なった」自分が、それ故に地球防衛軍の士官としての運命が大きく変わり、そして彼の知らないところで、多くの人々の運命もまた変えることになる将来を。
 だがそれは、人類滅亡までおよそ一年に迫った2199年の現在においては、到来するかどうかもわからない未来の話でしかなかった。


(筆者より 題名がどこかで聞いたような…と思われる方がいらっしゃるであろうことは理解しておりますが、筆者は実のところ「とある魔術~」「とある科学~」のどちらも視聴したことがありません(後者の主題歌は両方好きでよくカラオケで歌いますが)。そのため題名だけ参考にするような格好になってしまったことを両作のファンの皆様に深くお詫びいたします)

 「堀田真司二佐。療養を終え、軍務に復帰いたします」

 意識を回復した翌日、退院を許可された堀田は国連宇宙軍の司令部に赴いて軍務への復帰を申請した。
 彼は軍人であるから、最初に挨拶するのは国連宇宙軍の極東管区軍務局長である芹沢虎鉄ということになるが、手続きを済ませた芹沢は堀田に「これまで以上の活躍を期待する」という型にはまった発言しかせず、堀田もまた「努力いたします」と返事をしただけだった。

 実は、芹沢のほうは堀田について何とも思っていなかったようなのだが、堀田のほうが芹沢のことをひどく嫌っていたのだ。それは、他人を悪く言うことなどおよそないといってよい堀田をして、相当親しい友人には「あんな偉そうなだけの無能者に何ができるものか」と漏らすほどであった。
 これは、芹沢が最終的にガミラスとのファースト・コンタクトの際に攻撃を命じたことが現在の戦争を引き起こした事実を、軍機密として口止めされていたが堀田も知っていたこと。それに敬愛する沖田十三を一度は解任して閑職に追いやった件が加わっていたのが原因だった。私怨といえばそうなるかもしれないのだが、とにかく堀田は芹沢に対しては不信感と嫌悪感を拭うことができなかったのである。

 それはさておき、とりあえず形式的な挨拶を終えてから、堀田は当面、直属の上司となるはずである土方の待つ執務室へと足を向けた。

 「堀田二佐、参りました」
 「入りたまえ」

 ドアが開くと、土方が書類の山と格闘している最中だった。

 「もう怪我は大丈夫か?」
 「はい、ご迷惑をおかけしました。軍務局長の許可は頂いたので、本日より軍務に復帰いたします。ところで、現在「キリシマ」は?」
 「ああ、そのことだが」

 土方が、ここで驚くべきことを口にした。

 「堀田二佐。本日ただ今を以て、貴官の「キリシマ」砲雷長の任を解く」
 「えっ? しかし、それは……」

 これからの国連宇宙軍は、ヤマトが帰還するまで地球周辺の制宙権を維持し、同時にヤマトの帰路を確保することが求められる。また、現有戦力では不可能だが「メ2号作戦」というガミラス冥王星基地攻撃計画も「可能であればヤマトが行うが、航海の安全を優先せよ」ということになっており、戦力を回復させた後に地球に残存した国連宇宙軍が行う可能性がある。
 そうした任務において、金剛型宇宙戦艦の中で現状唯一の生き残りである「キリシマ」は主力艦としての任務が待っているはずだ。既に熟練した乗組員はほぼ払底しており、そんな状況で主力たる「キリシマ」から幹部乗組員を転属させる理由は堀田には見当がつかない。自分は軍艦乗りであって今更後方勤務で役立つとも思えず、それに当面は転属すべき他の艦も思いつかない。

 当惑する堀田に、土方は続けた。

 「変わって命ずる。坊の岬沖の造船所にて建造中の『駆逐艦A』艤装員長として、明後日までに同地へ赴くこと。以上だ」

 艤装員長とは、建造中の艦において作業員や後に乗員となる士官や兵たちを統率する役職で、殆どの場合、その艦が完成すれば艤装員長は初代の「艦長」となるのが通例だった。つまり土方のこの命令は、堀田に対し「新造駆逐艦の艦長になれ」と言っていることになる。
 しかし「駆逐艦A」という艦名はどうにも腑に落ちない。まだ進宙していない故の仮称かもしれないが、それでも量産艦なら番号なりを割り振って管理するのが普通である。それを「A」というアルファベット一文字で片づけてしまうとは、堀田の知る限りそんな先例はない。

 「質問をしても、よろしいでしょうか?」
 「構わん、言ってみろ」
 「その『駆逐艦A』とはどのような艦なのでしょう。それに坊の岬沖の造船所となると、あそこには確か……」
 「堀田」

 土方が堀田の言葉を遮った。

 「すまんが、そこから先は機密事項だ。君は命令通り動いてくれればいい。そして断っておくが、これは俺が軍務局長にお前を推薦した人事でもある」
 「提督が、ですか?」

 自分ほど毛嫌いしているわけでもないだろうが、実際のところ土方と芹沢の関係も良好と言えるかと問われれば相当に怪しい。それがわかっている堀田だから、わざわざ土方自らがねじ込んだ自分の人事がどんなものか、気になるのは仕方ないことだったろう。
 しかし「機密事項である」と言われてしまえばこれ以上は何も聞けない。「承知しました」と答えて退出しようとすると、その背中に土方が声をかけた。

 「待て、堀田」
 「はい?」
 「多少だが時間はある。だから彼女の……墓参りに行っておいたほうがいい。これから先、何が起こるかわからんからな」
 「……」

 そのことに触れられるのは堀田としては正直辛いのだが、これが不器用な恩師なりの配慮であるということも理解できる。だから、こう答えるしかなかった。

 「お気遣い、ありがとうございます。明日、出発前に行くことにします」

 敬礼し直して、堀田は退室した。


 そして出発の翌日、堀田は土方に言われたとおり、遊星爆弾の攻撃などで犠牲となった民間人を葬った墓地へと来ていた。
 どこへ行くべきかはわかっていたから、すぐに目的地となる墓の前へと着く。そこには「高室奈波 ここに眠る」と刻まれていた。

 「奈波さん、来たよ」

 実に静かで、穏やかな声だった。

 高室奈波。堀田の婚約者だった女性だが、二年前に遊星爆弾の攻撃により命を落としていた。ガミラスとの戦争前から天涯孤独同士だった幼馴染の二人で、その仲は周囲が羨むほどだったが、奈波の訃報を聞いた堀田は、しかし何も言葉を発することができなかった。

 (あのとき、自分の心は死んでしまって、もう二度と生き返らないのかな。そうなると、今の自分はただやるべきことをやるだけの人形のようなものだが……)

 そう思ってもみたが、実際に士官として部下を持つと、彼ら彼女らに責任を持つ必要もあるし、自分のことだけで何もかも放り出すことは許されない。そして、軍人という道を選んだ自分である以上、こうした事態がいつか来るかもしれない。非情とも言えるが、無意識に堀田はそんな覚悟をしていたのかもしれなかった。
 だが、それでも奈波のことを忘れることも、大事に思えなくなることもない。といってガミラスを憎もうとしても何故か憎み切れない。そんな自分ですら苛立つような煮え切らなさが、今の堀田の内心にはあった。

 「ずっと来れなくて、ごめんね。でも、今日帰ったらまたしばらく来れない。そして、二度と来れなくなるかもしれない」

 どのみち、宇宙で死ねば同じ地球で眠ることはできない。でも、死んでしまえば地球も宇宙も差があるものでもないか、と内心で思う堀田だった。

 「それに……何となくだけど、私はまだそちらには行かせてもらえないような気がするんだ。本当に『そんな気がする』だけだけど、また死に損なったからね。今回は正直、もう寿命が来るまで死に損ない続けるのかな、とか思ったよ」

 そう言ってから、持ってきた花束を供える。

 「それじゃ、ね。運がよかったら、またここに来るから」

 そう言って墓前を離れて歩いていると、自分と同じように家族や大切な人たちを失った墓参りの人々の姿が目に映る。

 (そうだ……もうこれ以上、誰も死なせてはいけないんだ。そのために自分は戦う。戦って、戦って、最後の一人になっても絶望しない)

 沖田がよく言っていた言葉を、ここで思い出した。

 (今度の任務も、そのためにやり遂げないといけないよね。奈波さん)

 そう締めくくって、堀田は坊の岬沖の造船所へ向かう便が待つステーションへと足を向けた。


 翌日、堀田の姿は坊の岬沖に「ヤマト」建造のため設けられた造船所にあった。ここが軍事機密だったのはもちろんヤマトを建造しているからだったのだが、他にも理由があることを彼は知っていた。

 (波動機関の研究……あるいは進展があったのかもな)

 国連宇宙軍とガミラス軍の圧倒的な差、それは地球人類にとってオーバーテクノロジーだった「波動機関」というものが使えるかどうかという一点に尽きると言うしかなかった。この機関が使えない国連宇宙軍はガミラス軍に比して艦艇の性能で一方的な差をつけられ、魚雷などの実体弾、あるいは決戦兵器である「陽電子衝撃砲」を用いて敵にできる限りの出血を強いて、何とか地球本土への直接攻撃を防いでいるという状況だった。
 一年前にイスカンダル王国から波動機関の設計図がもたらされたことにより、それまでは僅かなガミラス軍からの鹵獲艦や地球技術陣の独自の努力で研究が続けられていた波動機関の開発にも目鼻がついたという噂もある。自分が艤装員長を拝命した「駆逐艦A」はあるいはその波動機関に関係があるのか。この坊の岬沖の造船所は波動機関の研究所も兼ねていたから、その可能性は大いにあると見るべきだった。

 「堀田さ……いえ、堀田二佐。お久しぶりです」

 ヤマトがいなくなって、がらんどうになっていた造船所でそんなことを考えていたら、後ろから声をかけられる。堀田が振り返ってみると、そこにはよく知った顔があった。

 「……三木君? 三木君じゃないか! 無事だったのか!?」

 三木幹夫一尉。堀田にとっては航宙軍士官候補生学校の最上級生だった時に一年生だった後輩である。二人とも冷静沈着さで相通じるものがあったが、やや強情なところがある堀田と、飄々とした面を持つ三木は不思議と気があって、これまで堀田が三木に戦術面の指導をしたり、共に艦列を並べて戦ったりと、先輩後輩の間柄を超えた「戦友」でもあった。
 先に戦われた「メ号作戦」では、三木が航海長を務めていた駆逐艦「追風」も参加予定だったが、冥王星宙域に到着する前に機関不調を来して地球へと引き返していた。そのとき不時着を試みるも最後の段階で機関が停止、墜落して乗員の多くが殉職したと聞き「三木君も駄目か……」と思っていた堀田だったから、こうして無傷の彼に会えたのは喜ばしいことだった。

 「それにしても、どうしてここに?」
 「貴方と同じですよ。私も土方提督からの命令でここに来ました。『貴方をよろしく補佐してくれ』とのことでした」
 「補佐……ということは?」
 「はい、私が『駆逐艦A』の航海長を拝命し、先任将校となります。艤装員長……いえ『艦長』。よろしくお願いします」

 駆逐艦は乗員数が少ないため、巡洋艦以上の艦と異なり「副長」という役職が存在しない。ゆえに各部門の兵科将校の中で最先任の者が副長に替わって艦長を補佐するのだが、互いをよく知る堀田と三木の組み合わせというのは、人材の有効活用もあろうが、あるいは土方の粋な計らいだったかもしれない。

 「しかし」

 堀田が言う。

 「君の方が先にここへ来たようだから聞くが、例の『駆逐艦A』とはどんな艦なんだい? 私には波動機関に関係があるようにしか思えないが」
 「百聞は一見に如かず。ご案内しますよ、どうぞこちらに」

 三木の案内で造船所の別区画に行ってみると、確かに新造艦が一隻、建造されている。その姿は堀田にとって今まで見たことのないものだった。

 (これは……)

 作業現場などで使われるパイロンを横にしたような船体……紡錘形という意味では金剛型戦艦が近いだろうが、何よりその大きさが目を引いた。駆逐艦だと説明されていたから磯風型突撃駆逐艦のような小型艦を想像していたが、目の前の艦は少なくとも村雨型巡洋艦と同等クラスの大きさがあるようにしか見えない。

 「三木君、これで駆逐艦というのは?」
 「大きいのには理由があるんですよ、それがこの艦の秘密でもありますから。まずそこからお見せしましょう」

 すれ違う幾人かと敬礼を交わしながら、堀田は三木の案内でこの駆逐艦の船体後部、機関室と思われる場所に通された。
 そして、そこにあったものは堀田を驚愕させるには十分すぎるものだった。

 「これは、波動機関! まさか地球型の機関が完成したというのか!」

 ヤマト計画の一員という予定があっただけに、恐らく経歴と年齢から戦術長なり砲雷長になっていたはずの堀田だが、講習の段階で波動機関がどういう形状のものかは理解していたから、目の前のそれがそうであることはすぐわかった。
 しかし、一時の衝撃が治まってみると、この波動機関の出所に堀田はある仮説を立てることができていた。

 「三木君」
 「はい」
 「これはイスカンダル型でも地球型ではなく、ガミラスからの鹵獲品だね。それも駆逐艦の。私も他の実物を一度だけ見たことがあるが、それは確かにこんな機関だった」
 「……その通りです」

 現在の地球の技術力、そして保有している希少金属の絶望的な不足を考えれば、ヤマトにそれらのリソースを投入した以上、それ以外の波動機関を製造する術などない。ならば、研究に用いていたガミラスからの鹵獲機関を使ってせめて1隻でも波動機関搭載艦を建造したいという意図は理解できる。
 そして、そんな無茶振りが通ってしまうような状況で建造された艦が、恐らく簡単な任務に投入されるはずはないだろう。堀田はそこまでは読むことができた。

 「艤装員長」

 後ろから、乗り組み予定と思われる兵が声をかけてきた。

 「司令部から極秘の暗号電文が届きましたので、お届けにあがりました」
 「ご苦労さま、下がっていいよ」

 そう言って兵を下がらせてから、堀田はその場で内容が記された文書に目を通す。この場には他に三木しかいないし、先任将校である彼にはいずれその内容を話す必要があるから、ここで隠したところで意味はない。

 「……そういうことか」

 読み終わって呟くと、堀田は届けられた文書を三木に手渡した。

 「艦長、これは」

 冷静な三木も、さすがに驚いた様子を見せる。それを見てから、堀田が口を開いた。

 「『貴艦は完成次第、木星圏および土星圏に進出。放棄されたガミラス基地群の調査。同時に各衛星における希少金属並びに浮遊物質の収集を行う調査船団を護衛せよ』か。なるほど、ヤマト計画に比べれば小さなことかもしれないが、これも重大な任務ではある」
 「……」

 先に述べたとおり、ヤマトがメ2号作戦を実行に移すかが不透明である以上、太陽系の地球および内惑星宙域を除けば、ガミラスの大小の部隊が多数存在していると見るしかない。その危険な空間でいくら波動機関搭載艦とはいえ、非武装の調査船団を護衛しながら戦いを挑みに行くことになるのだ。
 確かにヤマト計画ほどの壮大さはない。しかし、この作戦が失敗すればヤマトが戻る前に地球そのものがガミラスの攻撃によって壊滅、遊星爆弾による汚染を待たずに人類が滅亡する可能性さえある。それ故にこそ、ガミラス製波動機関のコピーでも何でも波動機関を入手するための物資を集める調査船団を送ろうというのだろうが、たった1隻の護衛艦で果たしてどこまでできるものかわかったものではない。

 「でも、我々がやるしかないだろうね。我々しかできないと言ったほうがいいか」
 「はい」

 堀田も三木も、この作戦の重要性はすぐに理解できていたから、今更司令部へ反対意見など述べる必要を感じない。それに波動機関搭載艦で挑む以上、他艦の掩護を求めても逆に足手まといにしかならないから、結局、自分たちの力でこの困難を克服するしかないということも承知済みだったのである。


 そして、堀田が「駆逐艦A」の艤装員長として着任した翌日、当面の国連宇宙軍にとって最大級の朗報が、ヘリオポーズ通過前に地球への最後の通信を行ったヤマトから入った。

 「去る六日前、ヤマトは『メ2号作戦』を敢行、ガミラス冥王星前線基地を壊滅せり」

 この知らせが坊の岬沖の造船所にもたらされたとき、その場にいた各員が狂喜乱舞の大騒ぎとなった。その中で堀田は静かに一人艦長室に入り、懐中から婚約者の生前の写真を取り出した。

 (私がやったわけじゃないけど、これで奈波さん、仇が取れたかな?)

 そう思ってから写真をしまうと、間もなく完成する自分の艦の作戦が、冥王星基地の壊滅により実現性が極めて高くなったことを改めて承知していた。

 (必ず、この作戦は成し遂げてみせる。地球のために)

 改めて、そう心を決める堀田であった。



あとがき

 主人公以外の新キャラ…ではなく、ゲーム版「さらば」に巡洋艦「すくね」艦長として登場する三木幹夫さんが参入です。この方はゲーム版では出番はやや少なかったですが、渋いキャラとその壮烈な最後で筆者に強い印象を残しました。ただ、やはりゲーム的には僚艦を動かすシステムのチュートリアルキャラという感じもあり、また簡単に死なせるには惜しいキャラだった…という思いもありまして、本作では「主人公の片腕兼フォロー役」として活躍していただくことにしました(結果的に巡洋艦「すくね」は艦名の命名基準の説明がつかないこともあり、筆者二次創作では「なかったこと」にしてしまいました。ファンの皆様、お詫び申し上げます)。

 今後は、少なくとも艦橋にいる幹部乗組員の設定をする必要があり、人物設定が終わっていないため少し時間がかかるかもしれません。いささかお時間を頂ければ幸いに思います。

堀田真司

 本作の主人公。2170年4月12日生まれ、千葉県佐倉市出身。「ゆきかぜ」艦長古代守の航宙軍士官候補生学校における1期先輩にあたる。専攻は宙雷だが、実戦を積み重ねるにつれて砲術、操艦にも優れた才能を発揮するようになる。
 2193年の「カ号作戦」「カ2号作戦」(第一次、第二次火星沖会戦)時は一尉。突撃駆逐艦「ふゆつき」砲雷長として参加し「ひびき」艦長考案による接近戦を模倣、応用して行い戦果を挙げ、実戦経験者を多く失っていた軍上層部から注目されるようになる。その翌年、三佐に昇進した際に士官候補生学校校長だった土方竜(堀田も彼に教えを受けている)に乞われて同校にて宙雷科の教官を4年務め、多くの優秀な人材を輩出している。
 2198年、二佐に昇進。今度は艦隊司令長官の沖田十三と旗艦「キリシマ」艦長の山南修の要請で「キリシマ」砲雷長となる。この頃「ヤマト計画」の一員として戦術長の内定を受け取るが「自分より古代(守)君のほうが優れています。彼の下でなら喜んで働けます」と辞退、当面はヤマト砲雷長の候補とされる。
 しかし2199年1月の「メ号作戦」で「キリシマ」が被弾した際に負傷し入院、ヤマト計画から外されるが、同時に坊の岬沖に待機していたヤマト計画要員がガミラスの攻撃を受け壊滅した際も無事だった。
 その後、土方から駆逐艦「A」の艤装員長を拝命、同艦を以て波動機関製造のための物資調達とガミラス基地の調査を命じられることになった。

 風貌はやや小柄で中肉、かなりの童顔。性格はいたって温和で物静かだが、戦場では鋭い感性と理性を発揮し、日本海軍から国連宇宙軍日本艦隊に伝わる「水雷魂」を発揮して勇敢に戦う。指揮官としては公正さを重んじ他人を分け隔てなく扱うことから、同僚や部下からの信望は厚い。そうした面と実戦経験から沖田、土方、山南ら艦隊勤務の上官からも高く評価されているが、やや強情で現場の状況を「理屈任せに厳しく上へ指摘する」面もあり、上層部の一部から煙たがられている節もある(堀田のほうも、軍務局長の芹沢虎鉄を異常なほど嫌っている)。ただ、ヤマト計画本部長でもある藤堂平九郎からはその人柄を信頼されている。

 高室奈波という婚約者がいたが、遊星爆弾の攻撃によって失っている。それでも何故かガミラスを恨み切ることができないでいる自分に苛立ちを感じている面もあるが、他人の前では一切表に出さず、当人は生涯「男寡婦」を貫くつもりでいる。


三木幹夫

 2173年生まれ、岐阜県出身。航宙軍士官候補生学校の一年生だった時に、最上級生だった堀田と知り合う。専攻は航海科。
 士官学校卒業後は各地を転戦。2199年の「メ号作戦」では駆逐艦「おいて(追風)」の航海長として参加予定だったが、火星付近で「おいて」が機関不調を生じて地球に引き返し、不時着寸前に機関が停止し艦は墜落、多くの乗員が殉職する中で生き残る(ただ、僅かでも生存者がいたのは三木の操艦のおかげ、と評価されている)。
 その直後、駆逐艦「A」の航海長(最先任の一尉であるため、先任将校も兼務)を拝命。これは土方からの直々の命令で、三木以外の大半を若い士官が占めることになる駆逐艦「A」の艦長を務める堀田を補佐する役目が言い含められているようである。

 一見、飄々とした性格だが、戦場では堀田以上に冷静沈着な人物。こと操艦に関しては2199年現在生き残った士官の中でも有数の名手とされる。風貌はやや老け顔で当人も(少しだけ)そのことを気にしている様子。「キリシマ」艦長の山南修に何となく似ている、という評もある。

(なお、本キャラはPSゲーム版「さらば」が出典ですが、キャラの外見および性格その他は(筆者の印象の限りで)同じです。ただし、ゲームに登場する巡洋艦「すくね」は筆者創作には登場しないため、ゲーム版の三木艦長のような最期を迎えることはなく、あくまで堀田の補佐役として最後まで活躍してもらう予定です。改変は申し訳ありませんが、ご了承ください)

 なお登場人物が増え次第、この項目は増えていくことになります。よろしくお願いします。

 「艦長」

 堀田が「駆逐艦A」艤装員長として着任して四日目、乗り組み予定の要員たちはもう皆が彼のことを「艦長」と呼ぶようになっていたが……艦橋でパネルの確認を行っていたところで声をかけられた。
 顔を上げてみると、砲雷長に内定している林美津保二尉がいた。まだ20歳だが航宙士官候補生学校でその砲雷撃戦の才能を見出され、僅かだが実戦経験もあるという、人材不足に悩まされる国連宇宙軍でも珍しい女性の戦術士官だった。ただ、彼女に雷撃戦の初歩を教えたのは士官候補生学校教官時代の堀田であったから、別に女性だからどうのと気にしたことはないし、彼女の才能と力量は十分に評価していた。

 「何だい、砲雷長?」
 「東京の南部重工から本艦の主砲が届きましたので、ご報告にあがりました」
 「そうか、やっと来たか」

 「駆逐艦A」の艤装はほぼ終わりに近づいていたが、主砲となるべき火砲が未到着であり、これを取り付ければほぼ完成することになるのだった。

 「わかった。先任将校も呼んで、一緒に確認しよう」
 「お願いします」

 そうして、三木と林を連れて届いた火砲が補完されているエリアに足を運ぶ。そこには、三木と林には意外な、そして堀田には納得ができるものが鎮座していた。

 「これは……砲身型火砲の砲塔ですか? 私はヤマトにだけ準備されていると思っていましたが」
 「ああ、これはヤマトに副砲として搭載される予定だった砲だよ。もっとも、ヤマトの副砲にはもっと口径の大きい砲が採用されたから、宙に浮いていたんだ」

 林の疑問に、堀田がそう答えた。

 目の前にあった砲塔と砲身を持つ兵器……制式名称「九八式15.5cm陽電子衝撃砲」。堀田の説明通り、当初はヤマトに副砲として搭載される予定だったが、今年になって「試製九九式20cm陽電子衝撃砲」の目途が立ったことから「ヤマトにはより強力な兵器を」という軍首脳の意向があり、こちらが採用されたということを「ヤマト計画」で戦術科に関係していた堀田は知っていた。

 「しかし、波動機関に加えてショックカノンですか……お偉方はうちの艦に相当な期待をかけているようですね」
 「そうだね。もっとも、波動機関を使えるのが我々の艦のみという現状だ。今更出し惜しみもしていられないし、少数でもガミラス艦隊に単独で挑もうというなら、ショックカノンはどうしても必要な兵器ではあるよ」
 「……」

 三木と堀田が話しているところで、林は表情を硬くして沈黙していた。

 「砲雷長、どうした?」
 「あ、失礼しました。その……」
 「構わないよ、言ってみなさい」

 堀田に促され、林は口を開く。

 「あの、私は駆逐艦にしか乗ったことがなく、ショックカノンを撃ったことがありません。それで、その……」
 「最初は誰だって初めてなものさ。私だって「キリシマ」にいたときも殆ど撃った記憶はないよ。『カ2号作戦』以降はそもそも簡単に撃たせてはもらえなかったものだから」
 「そうだったんですか?」
 「そう。だから不安に思うことはない。波動機関を搭載している以上、ショックカノンもこれまでの通常兵器と同じように使える前提でヤマトに搭載されている。それはこの艦も同じと心得ておけばいい。それに……」

 僅かに、堀田は笑顔を見せた。

 「私は君の腕を知っているし、信頼している。任せたよ」
 「は、はいっ!」

 僅かに顔を紅潮させて、林は下がっていった。

 「彼女、どうですか?」

 三木が聞く。

 「砲雷長としての実力は恐らく問題ないよ。ただ消極的というか、ちょっと慎重すぎるかもしれない。元々は船務科志望だったのが戦術科に転向したから、仕方ない面はあると教えていて思ったけどね。だけど」

 確認するように、堀田は締める。

 「これから経験を積めばいくらでも育つさ、他の乗員もそうだけどね。そして、我々のように実戦に出て生き残った者たちは、彼ら彼女らを生き残らせてその未来を繋げないといけない。それは心しておこう」
 「そうですね……」

 静かに頷く三木だった。


 そして二日後、陽電子衝撃砲の搭載とその他の工事を終え、ここに「駆逐艦A」は完成した現役艦と認められることになった。

 「しかしご時世とはいえ、寂しい竣工ですなあ」

 艦橋で機関長の来島研三が言う。彼は一尉で三木より年上の28歳だが、一尉としては三木のほうが先任だったため先任将校にはなれなかった。だが、それに別段不満を抱くでもない、豪放な性格の持ち主だった。

 「元々が機密扱いの艦だからね。それに、こんな状況では仮にそうでなくても、派手に進宙式というわけにはいかないさ」
 「まあ、そうですわな」
 「ところで、機関の調子はどうだい?」
 「今は順調……ってとこですな。もっとも、敵さんの技術を信頼して命預けるってのは、どうにもいい気分はせんもんです」
 「そいつは仕方がない、背に腹は代えられないからね」

 もっとも、来島もわかっていて愚痴を言っていることはもちろん堀田も理解していた。

 「艦長」

 三木がやってきた。

 「乗組員総員53名。ここにいる我々を除く全員、艦長をお待ちしております」
 「わかった、すぐ行こう」

 艦外に整列している乗員たちを一瞥して、堀田は演台の上に立つ。

 「本艦の艦長を務める、堀田真司二佐だ。改めてになるが、貴官ら将兵が全力を発揮し、任務を果たすことを期待する。そして……」

 ここからが、大事なところであった。

 「ここにいる全員、今度の作戦をやり遂げて、生きて地球に戻るんだ。私が艦長でいる限り、無駄死には許さないし私も君らに決してそれを強いることはしない。どこまでも生き抜いて、地球人類のために戦い続けてもらいたい」

 諸先輩から教えられたこと。最後まで絶望しない、軍人として命ある限り、最後まで生きて戦い抜く。これを堀田は自分の部下たちにも伝えなければならないと自覚しているつもりだった。

 「艦長」

 堀田の右後ろに立った三木が声をかけてきた。

 「艦名の公募も終了しています。結果はこちらになりますので、艦長から読み上げていただきたく思います」
 「わかった」

 艦名を乗員から公募する。これはまずないことだが、彼らの乗る駆逐艦はその任務が極秘であるため、公式にはあくまで「駆逐艦A」としか扱われない。それはそれで仕方がないとはいえ、自分らの乗る艦がそんな取ってつけたような名前では乗員の士気に関わる。堀田はそう考えて、乗員たち「だけに」通用する艦名を公募で選ぶことにしたのである。

 その結果が記された紙を見て、一瞬、堀田は目前に整列する乗員たちの表情を見る。彼らの大半は20代前半、残りは各種学校を卒業したばかりの10代の少年少女たちだが、その顔は一様に硬さが感じられた。

 (それだけ覚悟して、この艦名を選んだということだな)

 内心でそう思ってから、言う。

 「なお、先に貴官らへ向けて行った艦名の公募の結果が出た。それに従い……」

 ここで、堀田は軽く深呼吸していた。

 「本艦を今後、駆逐艦『神風』と呼称する。あくまで非公式だが、かつての日本海軍駆逐艦である『神風』は大戦を最後まで戦い抜いた艦だ。その伝統に則り、我々も生きて任務を全うしよう!」
 「「オーッ!」」

 乗員たちから、大きな歓声が上がった。

 「神風」という名は、もちろん航空隊でこの名前を使えば忌避されるし、国連宇宙軍でも北米支部あたりはいい顔をしないだろう。しかし堀田が述べた通り、日本海軍の駆逐艦たる「神風」は数々の窮地を乗り越えて太平洋戦争を生き残った武勲艦だ。これまでは他国に遠慮して、磯風型駆逐艦のどれにも使われていなかった名前ではあるが「自分たちが元寇の際の神風のように地球の窮地を救う」「例え死すとも悔いなく戦い抜く」という乗員たちの覚悟を示した公募名のように堀田には思われた。

 「では、これより『神風』は最初の航海に出港する。総員、配置につけ!」

 先任将校の三木が号令を下し、乗員たちは各部ハッチから乗り組みを開始する。それを見て、自分も改めて艦長としての覚悟を決める堀田だった。


 艦橋の指揮席に着くと、艦橋要員たちが既に配置について、いささか硬い表情で堀田に敬礼を向けていた。
 先任将校と航海長を兼務する三木と、砲雷長の林。それに船務長の沢野有香三尉、通信長の河西智文三尉、それと先任将校として副長の役目を果たす三木に替わって普段の操艦を行う主席航海士の初島沙彩三尉。いずれも航宙軍士官候補生学校において成績優秀ということで選ばれたとはいえ、まだ19歳から20歳程度の若者たちだった。
 というより、機関の調整のためここにはいない来島と技術長の菅井貴也二尉、倉庫で物資の確認を行っている主計長の秦智哉三尉。彼らを含めても、実戦経験があるのは堀田と三木に来島、林の四人だけ。年齢も堀田、来島、三木が20代後半から中盤なのを除けば全員やっと20歳前後という、悲しいまでに現状の国防宇宙軍の人材不足が伺える艦首脳部だった。

 しかし、ガミラスの攻撃により本来の要員を失ったヤマトでさえ、状況は似たようなものだった。その点で贅沢が言える状況ではなかったし、自分も士官学校で教育者として、そして「キリシマ」砲雷長として若者たちを見てきた堀田は、彼ら彼女らにむしろ希望さえ抱いていた。

 (この若い力を纏めるのが、私の役目だ。それが死に損なったものの務めであり、先達の務めでもある)

 もう、堀田はそうと腹を括っていたのである。

 「諸氏に、改めて申し上げる」

 丁寧だが、やや重い口調で言う。

 「諸氏は、本艦の首脳部として若い……諸氏も若いことは十分に承知しているが、この艦の乗組員を引っ張っていってもらうことになる。不安もあろうし、これから苦労も多いだろうが……」
 「……」

 聞いている乗員たちは、息を飲むだけでもちろん言葉を発さない。

 「艦長としてあえて言う。何事もやらなければ物事は進んでいかない。失敗を恐れていても何も解決はしない。私はこの艦の責任者として、作戦の成功と貴官らを生きて地球に帰すことに全力を尽くすつもりだ。しかし残念ながら、私は諸氏の命の保証はできない。だが、最後の責任は全て私一人で負う覚悟はしている。諸氏は失敗を恐れず、これから堂々と戦ってほしい。以上だ」
 「「はいっ!」」

 堀田さんにしては饒舌だなと三木は思ったが、若い乗員たちの顔が、堀田の言葉を聞いて安心とはいかずとも、やる気を感じさせるものに変化したことを感じ取った。そこは教官任務も長かったとはいえ、一連の「カ号作戦」や「メ号作戦」を生き残った士官だけに自分などとは訳が違うな、と感心もしたのだった。

 「では、艦長」

 その三木に促されて、堀田は命令を下した。

 「『神風』発進準備にかかれ!」


 そして1時間ほどで『神風』は成層圏を脱出して宇宙空間へと出ていた。これまでの核融合反応機関で稼働していた艦からすれば信じられないほどの速さであり、これはさすがに経験したことのない堀田も驚くしかなかった。
 ふと後ろを振り向くと、赤茶けた地球が見える。これを青い地球へと戻すために我々は戦っているのだ。成否はヤマトにかかるところが大とはいえ、自分たちの任務も決して疎かにできるものではない。

 「では、月軌道に入ったところで訓練を……」

 そう、堀田が言いかけた直後だった。

 「レーダーに艦影! 数、3。ガミラス艦と思われます」
 「何だと!」

 船務長の沢野の報告に、さすがの堀田も驚いた。冥王星基地が壊滅した今となっては、太陽系に残っているガミラス艦はさほど多くないはずで、まして地球を出港した直後に接触するなど思ってもみなかった。
 しかし、そこは歴戦の堀田であるから、冷静さを取り戻すのは速かった。

 (そうか、ヤマト出港後に地球がどうなっているか、冥王星基地から偵察に派遣されたのだろう。納得のいかない話ではないが、そうすると……)

 敵は、恐らく自分たちが帰るべき冥王星基地が、もう消滅しているということを知らない可能性を思い立った。

 「先任将校」
 「はい」
 「敵艦に気付かれず、振り切ることは可能だろうか?」
 「……難しいですね。ここで引き返しても発見される可能性は高いですし、そうなると」
 「追撃されて本艦は沈められ、これからの任務を果たせなくなるか……船務長」
 「はっ、はい」

 沢野が答える。

 「敵に我が艦は探知されているか?」
 「……今、探知された模様です。こちらに向かってきます」
 「わかった。現在、敵艦3隻はどういう配置になっているか、パネルに出してくれ」
 「りょ、了解……出ます」

 パネルに目をやると、3隻はかなり間隔を広く取って航行していた。偵察任務であるなら、こういう陣形で視野を広く、というのは理解できる。

 「敵艦識別。ガ軍巡洋艦1、駆逐艦2」

 砲雷長の林から報告が入る。それならばと、堀田は通信長の河西に声をかけた。

 「通信長、敵の旗艦……恐らく巡洋艦だろうが、交信回路は開けるか」
 「は、はいっ。可能ですが、どうするんですか?」
 「伝えてやるといい、お前たちの帰るべき冥王星基地はもう消滅している。ここで戦闘を始めても無意味だぞ、と」
 「戦闘を避けるのですか?」

 林が声を上げたが、堀田は冷静なままだった。

 「まだ完成して出港したばかりの本艦が、戦闘でその性能を発揮できる保証はない。避けられる戦闘は避けたほうがいい。もちろん、相手次第ではあるが……通信長、とにかく相手への交信を頼む」
 「りょ、了解」
 「艦長、あるいはその通信で敵が自暴自棄になる可能性もあります。ここは」

 三木の言葉に頷くと、堀田は艦内放送で全乗組員に伝達した。

 「総員、そのまま落ち着いて聞け。本艦は敵巡洋艦ならびに駆逐艦に発見された。交戦を避けるための手は打つが、うまくいかない可能性もある。まだ訓練すら行っていない本艦だが、ここで退避することは不可能だ。いざとなれば、全員で総力を挙げて生き残るために戦ってもらいたい……総員、第一種戦闘配置!」

 まさか出港早々、敵艦と交戦することになるなど想定外だが、戦場とはそうした想定外によって形作られていると言っても過言ではない。だが、堀田や三木ら歴戦の士官ならともかく、実戦経験の乏しい、あるいは皆無な乗員たちが大半で、しかも波動機関搭載艦とはいえ駆逐艦1隻のみ。3隻の敵艦を相手にするのは無謀としか言いようがないが、逃げることは確実に死を招くことになる以上、通信で敵が引かない限りは戦うしかない。

 そして案の定と言うべきか、敵艦3隻は「神風」の通信に返信すらして来ず、旗艦である巡洋艦が徐々に迫ってきていた。

 (こうなれば、妙な話だが敵の技術を信頼するしかない。そして……)

 この「神風」に乗り組んだ若い乗員たちの力を信じるのみ。そう意を決して、堀田は「神風」にとって最初となる戦闘開始を決断した。

 「堀田真司一尉、本日を持ちまして『ふゆつき』砲雷長に着任いたしました。よろしくお願いいたします」
 「ご苦労、よろしく頼む」

 2192年も押し迫った頃、ガミラス戦役が激化する一方で続々と新造艦艇が建造されていたが、その一隻である磯風型突撃駆逐艦「ふゆつき」に新たな砲雷長が着任した。

 堀田真司。航宙軍士官候補生学校において「宙雷に関しては同期で右に出るものはない」とまで称され、戦術研究科にも選抜されて二年を過ごした秀才である。卒業後はしばらく本土で技術部の新型魚雷開発に協力していたが、間もなくであろうと見込まれたガミラス太陽系遠征軍との戦いに新型魚雷は間に合わないと見切りをつけられてしまい、ついに軍艦乗りとして宇宙に出ることになったのだ。

 当時の「ふゆつき」艦長は水谷信之三佐。このとき34歳で、階級が一つ下なだけの堀田が22歳ということを考えると「出世が遅い」と言われるのは仕方ない。だが、これは本人が無能だとかそういう問題ではなく、本来航海科士官だった水谷は国連宇宙軍の人材不足により宙雷に「転向させられた」ため教育期間が必要だったこと。また本人も戦功を求めて戦うという姿勢を見せず、あくまで戦場全体を見て自分の役割をしっかりと果たすことを志向する性格だったので、自然と地味さが拭えず上層部からあまり重んじられていなかったのである。
 だが、航海長として、そして僅かな経験だが砲雷長として、彼を部下とした士官、あるいは彼の下で戦った将兵たちは水谷を、特にその粘り強さにおいて高く評価しており、派手さはなくともこれからのガミラスとの戦いにおいても貴重な人材になると見る者が多かった。

 しかし、これらの評判いずれも、堀田の耳にはまだ届いていない。というより「そうした評判を耳にすると自分の人を見る目が曇る」という考え方をする彼にとって、自分を含めて軍において誰それがどうのという評判はあまり関心のないことであったのだ。

 形通りの挨拶を終えてから、堀田は水谷に艦長室……といっても申し訳程度の狭い個室だったが、そこに案内された。

 「君は、まだ戦場に出たことがなかったな」
 「はい、恥ずかしながら……」
 「そんなことは言わなくていい。後方で軍務に服すことも立派な役割であるのだから、堂々としていればよい。ただ……」
 「?」
 「今の国連宇宙艦隊には、苦戦続きのせいもあろうが若者たちを馬鹿にする傾向が見られる。正直よいこととは言えないし、私はこの艦においてそれは許していないつもりだが、君も侮られることがあるかもしれない。覚悟しておいてもらえるとありがたい」
 「はい」

 堀田の答えに、水谷は満足そうな表情を見せる。正直、風貌だけでも地味な人だと思わず堀田が思ってしまうような相手ではあるが、こうして話をしてくれるあたり、信頼に値する艦長であることは間違いないだろう。

 (自分は、どうやら恵まれたところからスタートすることになったようだ。後はそれに慢心しないことだな)

 艦長室から退室したとき、堀田はそう思っていた。


 そして、それからの「ふゆつき」での堀田の暮らしは、ある意味で地獄であったし、ある意味で納得できるものだった。

 何しろ訓練が凄まじく過酷なのだ。もちろんこれはガミラス戦役の厳しさから当然のことと堀田は思うのだが、さすがに体がついて行かなくなることも多々あった。この激しさは、士官学校で「鬼」と呼ばれる校長から教わったはずの彼でも「厳しい……」と思わず口に出かけたほどであった。
 だが、よいこともあった。水谷は「自分はこの艦で若者を侮ることを許していない」と語っていたが、その言葉の通り、自分より年上の乗員がほとんどを占める「ふゆつき」で、堀田は若さを理由に侮った態度を取られたことは、上下いずれを問わず一度もなかった。
 この「周囲に侮られることなく任務に専念できた」というのは幸運としか言いようがないが、後に堀田が指揮官となったときに自分の「ふゆつき」時代を顧みて行動したため「堀田さんは人を分け隔てなく扱ってくれる」という部下からの信頼を勝ち得る大きな財産となったのである。


 「お前さん、専攻は宙雷だよな?」

 ある日、堀田は先任将校である航海長からそう声をかけられた。

 「はい、そうです」
 「その割には、なかなか砲術もやるじゃないか。俺も別の艦で何人か砲雷長を見てきたが、お前さんほどうまく当てる奴はそういなかったもんだ」
 「恐縮です……士官学校の同期に砲術専攻の友人がいまして、彼から色々教わりましたので」

 その「同期の友人」には自分も宙雷戦術を教えていたが、それはここで言うことでもない。

 「へえ、男の友情ってやつはいいもんだよな。だけどな……」

 急に、航海長の声のトーンが下がる。

 「?」
 「……いや、俺も士官学校で友達になった奴は結構いたんだがな、もう半分も生き残っちゃいない。あのガミ公の悪魔にみんなやられちまった」
 「……」
 「俺は、船を動かすことしか能がないから、敵討ちと行きたくても大砲もミサイルも打てやしない。なあ、砲雷長さんよ。この艦の次の実戦がいつか知らねえけど、そんときは敵の1隻くらいは沈めてやってくれよな」
 「……わかりました、努力します」

 頼んだぜ、と言いながら去っていく航海長だったが、堀田は振り向くことすらできなかった。航海長の望む「敵の1隻くらいは沈める」ということが、実は絶望的に難しいと知っていたからである。

 彼は若いながらも雷撃戦の専門家であるし、それ故にしばらくは研究家としての活動が続いていたのだが、とにかくレーザー砲もミサイルも現状、ガミラス艦の大小を問わず殆ど通用しないのだ。訓練においてこれまで何とか撃沈したガミラス艦の装甲を参考にした仮想標的に砲撃や雷撃を加えても、それこそ体当たり寸前の近接戦闘でなければ貫通しないのである。たった今、会話した航海長と水谷艦長は操艦の名手だと堀田は知っていたが、それでも「体当たり寸前まで接近してください」とは言いにくかった。

 「砲雷長」

 水谷に声をかけられた。

 「あ、艦長」
 「何か考えていたか? ぼんやりしているようにも見えたが」
 「いえ、少し考えていました」
 「何をだ?」
 「……敵の装甲を撃ち抜く手段を。しかし、思いつきませんでした」
 「そうか」

 深刻な問題だが、水谷はいつもの物静かさを崩さなかった。

 「その前に砲雷長。一つ、君について気になることがあるんだが」
 「何でしょうか?」
 「君は、私たち……この「ふゆつき」の乗員たちを本当に信頼してくれているのか?」
 「えっ……それはいったい?」

 そんなことは考えたことがなかった。堀田にとって「信頼している」のが当然のことであって、水谷始めこの「ふゆつき」に乗艦している人たちを疑ったことなどないのだ。
 言葉に詰まる堀田に、水谷は続ける。

 「堀田君、信頼とは言葉にしないと通じないことがある。もちろん、人間であるから言葉にしにくいこともあるし、時に何もなくとも察さねばならないこともあるだろう。だが、まずは行動第一だが、必ず言葉も示せ。君はこれから士官として多くの将兵を率いていくことになる。私のような言葉足らずになってほしくないものだな」
 「……」

 反論の余地がなかった。堀田の性格が元々無口だったということもあるが、これまでの彼は「やるべきこと」とは「命令されてやること」であって、自分の考えを口にするということではなかったからである。この二か月あまりの訓練の間で、そんな堀田の問題点を水谷は正確に見抜き、そして自分と照らし合わせて「それではいけない」と指摘したのだから。

 「申し訳ありません」
 「謝ることはない、私は自分がうまくできないことを君にしろと言っているのだから」
 「いえ、艦長。お言葉、大変ありがたく思っています。堀田一尉、これからは話すべきときは話すよう注意して参ります」
 「よし、わかってくれればそれでいい。頼むぞ」

 はい、と答えつつ敬礼しながら立ち上がろうとした堀田の胸のポケットから、一枚の紙が舞い落ちる。一瞬、しまったと思ったが水谷はそれを見逃さなかった。

 「砲雷長、それは?」
 「い、いえ、何でもありません」
 「そうか?」
 「はい、その……」
 「お、砲雷長が何か隠し事しているぞ」
 「そいつはいかんな。艦長、ここは艦長権限で砲雷長の隠し事を明らかにしましょう」

 さっき去っていったはずの航海長も含めて、何故か「ふゆつき」艦橋に普段詰める面々が集まってきていた。このとき、堀田の顔は真っ赤になっていた。
 軽く咳払いをして、水谷がにやりと笑って口を開いた。

 「砲雷長、艦長命令である。その落ちた紙を私に見せてくれたまえ」
 「……了解しました」

 艦長命令である以上、否やはない。堀田は水谷に紙……写真を差し出し、それに「ふゆつき」の艦橋要員たち全員が目をやる。

 「これは、別嬪さんだな」

 堅物の水谷ですら、思わずそうつぶやく綺麗な女性がその写真には写っていた。

 「お、砲雷長の恋人さんかな?」
 「ほう、我が艦の若手筆頭さんも隅に置けないな」
 「こいつぁ美人さんだ、こんな人を放ってあの世に行ったら罰が当たるぞ、なあ砲雷長?」
 「……」

 散々言われ放題で、堀田は結局何も言えなかった。しかもそればかりか、しばらくはその写真の女性……婚約者の高室奈波についてあれこれ聞かれ続けるという、これまでの訓練より厳しいとしか思えない状況に放り込まれる羽目になったのであった。


 そんな喧噪が一段落してから、堀田は水谷と航海長に相談を持ち掛けた。

 「接近戦で魚雷などの実弾を打ち込む、これでガミラス艦の小型艦までなら一定の効果が見込めます。そのための操艦は可能でしょうか?」

 彼自身が考えたように、実弾とはいえ殆ど体当たりに近い接射が必要なのである。もちろん1隻沈めても自分たちが沈められてしまっては、その戦法に全く意味はない。接近しつつ敵弾を回避し撤収する、そんな高度な操艦が要求されるのだ。

 「何だ、そうならとっとと言ってくれればいいじゃねえか」

 航海長が自信満々に言うのを、水谷は黙って聞いていた。

 「つまりあれだろ、魚雷を叩き込めれば何とかなる可能性はあるってことだな?」
 「そうです。それも本来の魚雷の性能を無視して、現地改造で射程を犠牲にして推進エネルギーを全て雷速に注ぎ込む。まだ理論上でやったことはありませんが、これなら僅かですが可能性はあります」
 「よし、ではやってみるとしよう」

 水谷が断を下す。

 「だが、魚雷の改造となると難しそうだが、見通しは?」
 「私も魚雷開発に携わっていましたので……応急改造で作業は危険ですが、不可能ではないかと」
 「わかった、ならば技術長から許可を貰ってくれ。それが駄目ならこの話はここまでだが、許可が下りれば私に異論はない。砲雷長の思うようにやってくれ」
 「はいっ!」

 堀田は「ふゆつき」の技術長に相談を持ち掛けたが、苦戦続きである前線を知っていた技術長も「やむを得ない」と判断してくれて魚雷の改造が許可され、早速、技術科員たちから志願者を募って魚雷の改造が行われた。
 幸い、改造中に爆発事故などは起こさず、堀田が考案した「応急改造の雷速に全振りした魚雷」が「ふゆつき」に搭載され、実験の日取りも決まった。ただ、この実験は上位組織には許可を取らずに行われることになった……これは「上申してもまず許可されないだろう」と水谷が判断したからだが、そのため「ふゆつき」単独の臨時訓練で密かに試験することになったのだ。

 「ふゆつき」は単独で演習場である月軌道に到着、そこに配置されていたガミラス艦の装甲に見立てた標的を捕捉した。

 「よし、航海長と砲雷長、頼んだぞ。『ふゆつき』全速前進!」

 水谷の命令一下「ふゆつき」は突撃機動に入る。

 「砲雷長、かなり荒っぽいがちゃんと当ててくれよな!」
 「了解しました!」

 堀田も大声で応じる。そして「ふゆつき」は水谷の適切な指示と航海長の巧みな操艦によって、標的から発射される訓練用エネルギー弾を絶妙に回避しつつ、徐々に装甲標的に近づいていった。

 「目標、距離500、400、300……」

 船務長が「まだなのか」と言いたげに距離を告げる。

 「200、100!」
 「魚雷、テーッ」

 やっと、堀田が魚雷の引き金を引く。直後、全速突撃状態だった「ふゆつき」は装甲標的を衝突寸前ギリギリのところで回避していた。

 「砲雷長、戦果確認を」
 「はいっ」

 水谷の命で、堀田は直ちに装甲標的の分析を行う。しかし……

 「……装甲、貫通を確認できず」

 「ふゆつき」艦橋の要員、特に堀田は落胆を隠せなかったが、水谷はただ一言「そうか」としか言わなかった。

 「砲雷長、技術長と共に原因を分析してくれ」
 「了解しました」

 技術長と共に艦橋を出ていく堀田だったが、その表情は真っ青になっていた。


 そして数時間後、装甲標的の分析を終えた堀田は、艦長室にいた水谷に報告した。

 「魚雷の頭部が起爆前に破砕したのが、標的を貫通できなかった理由でした。……申し訳ありません、私の計算ミスで現状の魚雷では雷速に耐えられないということに気付けませんでした」
 「……」
 「艦長、私を何かしらご処分願えないでしょうか?」
 「……理由は?」

 ここまで、あくまでも水谷は静かな口調だった。

 「魚雷の改造という危険な作業に技術科の要員に手伝ってもらいながら、何の成果も出せませんでした。また艦長や航海長の操艦のおかげで事なきを得ましたが……」
 「堀田君」

 水谷が堀田の言葉を遮った。

 「私は、君はよくやった、と褒めてやりたいところなのだがな」
 「えっ? ですが、私は失敗したのですが」
 「確かに実験は失敗した。しかし、君は自分の言う『危険な作業と操艦』を皆に実行させるのに何のためらいも覚えさせなかった。これがどういうことか、理解できるか?」
 「……いいえ」

 堀田の答えに、水谷は軽くため息をついた。

 「そこがわからんのが君の未熟だな。いいか、もし君が『砲雷長として乗組員に信頼されていなかったら』、誰がこんな成算があるかどうかわからない実験に付き合うと思う? 私を含め、今度のことで本艦が犯した危険全てが『君への信頼の証』と考えることはできんか?」
 「あっ……」

 確かにその通りだ。危険な操艦を引き受けた航海長、危険な魚雷の改造を請け負った技術科、そして上層部に秘匿してまで全てを容認した艦長。彼らがまだ着任二か月ほどの堀田を「信頼に値する砲雷長」と見ているのは明らかだった。

 「も、申し訳ありませんでしたっ!」

 今にも泣き出しそうな気持ちで頭を下げる堀田だったが、その彼に水谷は「まあ、座りたまえ」と着席を促した。

 「正直、君は不思議な男だよ」
 「え?」
 「着任二か月の砲雷長と考えれば、君の行動に誰かが反対すると私は思っていた。だが、失敗それ自体を他の乗組員たちがどう思っているかはともかく、事前に誰一人、君に『反対はしなかった』からな」
 「……」
 「私は、これでも色々な部署や艦を渡り歩いて、色々な人間を見てきた。だが、君のような……褒めすぎかもしれんが『人を惹きつける器』を持った男は見たことがない。君は生き残ってさえいれば、いつか地球のために大きな仕事をすることになるかもしれんな」
 「そんな……買い被りすぎです」

 戸惑う堀田に、水谷はまた「にやり」と笑って見せた。

 「君は私の人を見る目も疑うのかね? 安心しなさい、これでもその方面は悪いほうではないと自負がある」
 「……」
 「だから、君には特に言っておく」

 水谷の表情と口調が、今度は真剣なものに替わった。

 「今後実戦において、決して無駄死にになるような戦いをしてはならない。それが君のためでもあり、君に率いられる将兵、同僚たちのためでもある。そして、君はいつかそうした戦いができるようになると私は信じている。このことを忘れないでくれ」
 「……はい」

 堀田は立ち上がり、敬礼した。

 「艦長のお言葉、堀田真司、肝に銘じます」
 「そう、それでいい」

 水谷が頷き、そして用事が控えていた堀田が退室しようとしたその時、声がかかった。

 「あと、写真のあの綺麗なお嬢さんのためにもな」

 堀田は顔を赤くして「失礼しますっ」と逃げるように艦長室を後にした。


 水谷信之という人は、ガミラス戦役からディンギル戦役、更にそれ以降の戦役すら戦い抜いた古参の将官、そして「ヤマトの最後を看取った男」として知られる人物だが、肝心なところで負傷したり所属部隊に恵まれなかったりして、出世が遅れたまま50代を迎えることになった、ある意味で不運な提督であった。
 そして後年、その彼を最終的に将官として推薦し、自分の率いる部隊の副将格として登用を願い出たのは、実は階級で水谷を追い越してしまっていた堀田だった。

 「私の今があるのは、土方さんと沖田さんと山南さん、そして水谷さんのお陰です。あんな立派な識見と覚悟のある方を埋もれさせてしまうのは、防衛軍にとってあまりに惜しすぎます」

 水谷を将官に推薦する際、堀田はそう述べた。そして堀田が将官として「公正さという点で後ろ暗さが全く見受けられない」とまで称されたのは、若き日の「ふゆつき」で学んだ「人との信頼関係の大切さ」が大きかったのではないかと、後年、堀田真司という軍人を研究する学者たちの多くが認めるところなのは紛れもない事実である。


あとがき

 筆者が好きなヤマトキャラの中で随一の地味さを誇る?水谷「冬月」艦長(メ号作戦時に「ふゆつき」がいた(=それまで沈んでいない)ので、その艦長にもしてしまいました)が登場です。下の「信之」の名は筆者オリジナルで戦国武将の真田信之に由来しており「苦労が多いが我慢強く生き残るキャラ」という意味でつけました。まだこの時点では34歳ですが、自分作成の年表だとヤマト自沈時(完結編)では50歳になっているんですよね…台詞を書いていると、懐かしい小林修氏の声で脳内変換されてちょっと嬉しかったです。
 水谷艦長は本編でも生き残るキャラなので、外伝小説においてまれに登場したりすることがあると思います。そしていずれは主要キャラとして経験豊富な水雷戦隊指揮官として活躍してもらうつもりでいますので、いつになるかわかりませんが楽しみにしていただければと思います。

 なお、航海科から宙雷科に移籍、というのは、史実日本海軍の木村進提督(二度、駆逐艦部隊である第十戦隊を率いた海軍最後の水路部長)を参考に設定しました。この設定を決めた後に同じような設定がされた小説を拝見して変えようとも思いましたが、せっかくなのでそのままにしました。問題があるようでしたら考え直しますので、ご了承いただければ幸いです。

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