地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

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初陣

春蘭の初陣としてよく語られるのが、就役して間もなく行われた試験航海の途上で発生した第二次シリウス沖海戦である(これより以前に、極秘裏にイスカンダル動乱に参戦していたという説があるが、具体的な証拠が存在せず、また就役時期との矛盾も生じる為ここでは扱わないものとする)

西暦2205年2月11日、人類領域に突如として襲来した暗黒星団帝国(デザリアム)は、瞬く間に太陽系の要所を無力化した後に地球へと侵攻、これを占領した。ここまで電撃的な侵攻を許した原因として、デザリアムが保有していた重核子爆弾によって各基地の駐留艦隊が迎撃行動を行う前に基地ごと無力化されたことや、唯一重核子爆弾の影響を受けなかった無人艦隊が運用ミスによって本来の実力を発揮しえないまま敗北してしまったことがあげられるが、ここでは詳細には触れないものとする。
当然ではあったが、デザリアムは太陽系のみを攻撃目標としていた訳ではなかった。太陽系外の地球の拠点、そして艦艇なども彼らの攻撃目標であった。そしてその中には、春蘭率いる第七艦隊も含まれていた。

異変を最初に察知したのは、元々防衛艦隊の旗艦として運用されることが想定されており、また無人艦隊の指揮統制も行わなければならないため、防衛軍艦艇の中で最も通信能力の高い春蘭であった。
春蘭の通信機器は、つい一週間ほど前に自分達が停泊していたシリウス星系の防衛軍基地からの通信が途絶したこと。そして太陽系内に謎の勢力が侵入し、現在防衛軍はこれと交戦中であること。この二つの情報と、それを裏付ける通信を傍受した。
これを聞いた第七艦隊司令長官の山南修宙将は、即時試験航海を中断し、艦隊をシリウス星系の防衛軍基地へと帰還させようとした。
しかし、突如として第七艦隊の正面に総数百隻以上もの大艦隊が出現した。そして大艦隊は、何の警告も無しに第七艦隊への攻撃を開始した。最初の攻撃でドレットノート級主力戦艦アイダホと陽炎型突撃宇宙駆逐艦子日が轟沈、また改ドレットノート級主力戦艦・丙型のイリノイと、妙高型宇宙巡洋艦羽黒が被弾した。
この攻撃を受け、山南宙将は所属不明の大艦隊を敵と断定、各艦に自衛戦闘の開始を下命した。
だが、第七艦隊の戦況は芳しくなかった。元々二十隻程度の小規模な艦隊だったことに加え、どの艦も就役してから日が浅く乗組員が艦に習熟していないこともあり、第七艦隊は艦の数を減らしつつ徐々に追い詰められていった。
山南艦長のとっさの機転により何とか小惑星帯の一角に身を隠すことには成功したものの、残存艦は春蘭を含め九隻、しかもどの艦も満身創痍であった。それに隠れられていた時間もそう長くはなかった。敵艦隊は第七艦隊の驚くべき奮戦によって三十隻前後(無傷な艦に絞れば二十隻程度)にまで減らされていたが、もはや戦う力の残っていない第七艦隊からしてみれば、まさに死神にも等しい存在であった。そして、小惑星帯に隠れていたところを遂に敵艦隊に発見され、山南以下第七艦隊の将兵達が覚悟を決めた

その時であった。
イカロス基地から飛び立ち、途中にて雪風改以下二隻を指揮下に置いたヤマトが戦場に到着したのである。ヤマトは敵に察知される可能性があるにも関わらずビーコンを作動させた上に、波動砲によってヤマトと第七艦隊との間に広がっていた小惑星帯を一掃し第七艦隊の退路を作り出した。また敵も第七艦隊を捜索する為に艦隊を分散していたことが災いして、ヤマトを発艦したコスモタイガー隊によって各個撃破されていった。
このようにして、春蘭以下第七艦隊は間一髪のところでヤマトに救われた。春蘭からしてみればいささか不本意な初陣かもしれなかったが、春蘭の乗組員達はそう思っていなかったようである。このことは、この戦いが終了した直後に山南宙将が発したと言われている「かつて俺はヤマトを助けた。今、その時の恩返しをされたってわけか。」との言葉が示している通りである。

だが、春蘭の戦いはまだ始まったばかりであった。
そもそもの混乱の発端は、急に地球から四十万光年も離れた場所まで遠征し、そこにある敵の母性と重核子爆弾の制御装置を破壊するという話になったからである。
これを聞いた生き残りの将兵達の内、主に航海科や主計科の面々から反対の声が多く上がった。
まず航海科の主な反対理由としては、未知の宙域、ましてや敵地でもある場所を手探りで往復八十万光年分も航行するのは危険が大きすぎるというものであった。そして主計科の主な反対理由は、長期間の航海が予想されるにも関わらず途中一切の補給を受けられないということから、艦隊将兵への給仕に責任が持てないというものであった。加えてヤマトなどの一部の艦艇を除き、地球防衛軍の艦艇は基本的には太陽系近辺で使用することを前提として建造されており、長距離航海には必須の装備ともさえ言えるOMCSや艦内工場も装備していない艦がほとんどであった。

しかし、最終的に第七艦隊は往復八十万光年もの遠征を行うことを決定した。これは山南宙将が将兵達に話した演説による効果が大きかったとされているが、詳細はここでは述べない。
そして遠征の準備が始まった。準備とは言っても、地球が占領下にある状況を考えると悠長に進めるというわけにはいかない。まずは戦闘終了後に急いでシリウス星系の防衛軍基地に帰還し、そこで積み込めるだけの水、食料、弾薬、それに補修用の資材などを積み込んだ。
また、基地内の修理施設を最低限度の修理が自動で可能になるようになるまで回復させ、そこに第七艦隊の残存艦艇と基地に停泊中に敵の攻撃を受け損傷した艦船を入渠させた。そして入渠させた艦船には修理が終了次第直ちに出撃し第七艦隊と合流せよ。との命令を下した。
ここまでの準備を行う為にかかった時間は約一日、その間、艦隊将兵各員は往復八十万光年もの大遠征についての期待と不安を胸に抱きながら作業に当たった。
そして準備が整った第七艦隊各艦は、慌ただしく基地を出港し大遠征へと旅立っていった。地球が敵の占領下にあり地球市民全員の命が人質となっている中、艦隊には一刻の猶予もなかったからである。軍楽隊の演奏もなく、見送りは入渠中の艦船の乗組員だけという何とも寂しい出撃であったが、将兵達の士気は高く艦内はこれまでにないほどの覇気で埋め尽くされていたという。

今回の出撃はほとんどの将兵が初めて経験する敵国領内への大規模遠征であり、これまでに防衛軍が何度も経験していた太陽圏内での迎撃戦とは意味合いが異なるものであった。やはり人間というものは“守勢”よりも“攻勢”を好む生き物であった。また、艦隊の中にはこれまで幾度となく地球の危機を救って来たヤマトも含まれており、そのことが将兵達の士気をより一層高めた(既にヤマトが幸運艦だということは防衛軍内では常識となっていた)
この大規模遠征中にて、春蘭はその能力をさまざまなところで発揮し続けた。知将ミヨーズ大佐の罠にかかり波動エンジンを停止して使用する波動砲が使用不可能になった時などは、双発という利点を生かし片方のエンジンで航行しつつもう片方のエンジンで拡散波動砲を充電し発射するという離れ業をやってのけた。
またブラックホール近辺での戦いになった時などは、敵の操舵干渉によって一旦ブラックホールに引きずり込まれるという珍事に見舞われるものの、ヤマトの艦内工場にて急遽製造された瞬間物質輸送機によって無事救出されている(このため、春蘭の乗組員には戦後報道関係者からの取材が殺到したという)

そして敵の母星での戦闘では、母星内部に突入したヤマトと雪風改を援護するべく第七艦隊の指揮を執り敵母星の北極の制宙権確保に専念した。その後ヤマトが敵母星内核の破壊に成功、そこから生じた星団規模の大爆発から逃れるため、春蘭以下の第七艦隊は無差別連続ワープを行った。この為各艦はバラバラの位置にワープアウトしたが、最終的には全艦が春蘭の下に集結した後に地球へと帰還している(この時、春蘭に装備された強力な通信設備が大いに役立ったとされる)
銀河大戦
デザリアム戦役後、春蘭は地球防衛軍聯合艦隊総旗艦となり第一艦隊に配属された。
そして西暦2206年7月30日、ボラー連邦の支援を受けた反ガミラス統治破壊解放軍の星間テロ攻撃(後の7.30事件)によって惑星間弾道弾が太陽に着弾、その結果太陽の核融合反応が異常な程促進されるという、所謂“太陽危機”が発生した。
当初、地球はガルマン・ガミラス帝国とガミラス共和国の二ヶ国に太陽の活動抑制作業への協力を要請、三ヶ国合同の技術団が結成され太陽の活動抑制作業に当たった。だが、太陽の活動抑制作業は失敗した。そして技術団は乗船していた船がプロミネンスの直撃を受け多くが帰らぬ人となった。

これにより、連邦政府は太陽の活動抑制作業を断念、地球防衛軍に所属している艦船の中でも長距離航海に適した艦が選抜され、太陽の暴走によって居住不能になると思われた地球の代わりとなる移民先を探す探査船団の護衛が行われた。
既にビーメラ4など人類の移住に適した惑星はいくつか発見されていたものの、今後またこのような事態になった時のリスク分散という意味合いもあり、移住先は出来るだけ多く見つける必要があった。
当初、デザリアム戦役時に長距離遠征の経験がある春蘭も船団護衛艦隊の編成艦候補となったが、きたるべきボラー連邦軍との決戦の為に春蘭は太陽系内で温存されることとなった。

やがてガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦という二大星間国家による大規模戦争(後の“第一次銀河大戦”)が勃発すると、地球もその惨禍に巻き込まれていくこととなった。旧ガミラス帝国時代からの同盟関係とあっては、ガルマン・ガミラス帝国からの参戦要請は断れなかったのである。
しかし、第一次銀河大戦が始まって以降ボラー連邦が地球領内に本格的な侵攻を仕掛ける事態は起こらず(これは、地球とボラー連邦とが直接国境を接していなかったことが大きかった。)探査船団の護衛艦隊や植民地惑星の守備艦隊、更には義勇軍としてガルマン・ガミラス帝国領内へと派遣されている艦隊から次々とボラー連邦との交戦報告が送られてくる中、春蘭の乗組員は銀河の命運をゆだねた戦いに参戦できない自らの不幸を呪った。
しかし、そんな春蘭にも大きな変化が訪れた。第一次銀河大戦終了間際に発生した“太陽沖海戦”である。


太陽沖海戦

第一次銀河大戦末期、永世中立国であるシャルバート王国から、地球は太陽の活動抑制を可能とするハイドロコスモジェン砲の入手に成功する。そしてハイドロコスモジェン砲を搭載した宇宙戦艦ヤマトが地球に帰還した後、太陽の活動抑制作業が直ちに始まった。
しかし、ボラー連邦がそのような行動を黙って見過ごすはずが無かった。彼らも地球がガルマン・ガミラス帝国にとって重要な同盟国であることは十分承知しており、その地球の国力を大いに低下させられる太陽の核融合異常促進を止めるような行為は、何としても阻止する必要があったからである。(この理由のほかにも、ボラー連邦がこの時期に太陽系への侵攻作戦を行ったのは、ベムラーゼ首相の保身とデスラー総統と決戦を行う為に太陽系に侵攻したという説があるが、ここでは詳細には触れない)

その為、ボラー連邦はベムラーゼ首相自ら機動要塞ゼスパーゼに搭乗し、温存していた親衛打撃艦隊一個を率いて太陽系へと侵攻して来たのであった。
戦いの発端は、太陽の活動抑制作業の準備を行っていたヤマトへ、ワープアウトして来たボラー連邦の部隊が奇襲攻撃を行ったことであった。ヤマトを護衛していた地球防衛軍第一艦隊は直ちに迎撃行動を開始し、ボラー艦隊と戦闘状態に移行した。
当初、戦局が大きく動くことはなかった。第一艦隊は全く戦闘に参加できないヤマトという護衛対象を背負っていたものの、地球防衛軍選りすぐりの艦艇や将兵が配備されている第一艦隊は、艦隊司令長官山南修宙将の巧みな指揮もあり、ボラー連邦の親衛打撃艦隊相手に互角以上の戦闘を繰り広げていた。
一方ボラー側の思惑としては、通常部隊よりも装備の質や将兵の練度で優っている親衛打撃艦隊で奇襲攻撃を仕掛ければ、地球艦隊など鎧袖一触だろうと楽観していた。しかし敵対した地球艦隊が思いのほか強力で、ボラー側としては想定外の苦戦を強いられることとなった。辛うじて物量という利点を生かして何とか均衡状態を保っていたものの、地球側が波動兵器の使用に踏み切れば均衡状態が一気に崩壊し艦隊が壊滅する恐れがあった。

その状況を見かねたベムラーゼ首相は、味方艦隊と敵艦隊が戦闘を行っている宙域にブラックホール砲を発射するよう命令した。このブラックホール砲の発射によって地球側の戦略大量破壊兵器(具体的には波動砲)の使用を封じ、更には味方将兵への示威的な意味も含まれていた。味方艦隊の後方からブラックホール砲を撃ち込むことによって、厭戦気分が蔓延している将兵達の士気を恐怖で今一度鼓舞しようと考えたのであった。
そして、地球艦隊とボラー艦隊との丁度中間地点にブラックホール砲が叩き込まれた。突然出現した人工ブラックホールを前に両軍ともブラックホールへの対処で精いっぱいで、とても戦闘を継続できる状態ではなくなってしまった。
まずブラックホール砲を自艦隊越しに撃ち込まれたボラー親衛打撃艦隊側としては、警告もなしにいきなりブラックホール砲が撃ち込まれたことにより、艦隊の最前列にて戦闘を行っていた艦艇数隻が発生した人工ブラックホールに巻き込まれた。そしてその怒りは後方の機動要塞、ひいては陣頭指揮を執っているベムラーゼ首相に向けられた。厭戦気分は確かに払底された。ただし、心の中での攻撃対象が変わってはいたが。

一方、本当に何も知らなかった地球防衛軍側の状況はもっと悲惨であった。そもそもブラックホール砲自体、初めて使用されたのがこの戦いであり、地球どころか二つのガミラスのデータベースにも載っていなかった兵器であった為、対策の施しようがなかったのである。
まず、敵艦隊に対し近接雷撃戦を挑もうとしていた巡洋艦阿武隈以下第一宙雷戦隊(一宙戦)がもろに直撃弾を食らった。一宙戦は、全艦艇が発生した人工ブラックホールのシュヴァルツヴァルト境界面の内側にいたのである。阿武隈とその配下の八隻の駆逐艦は、全艦が重力の井戸に飲み込まれ艦体が圧壊した。
そしてシュヴァルツヴァルト境界面の外側にいた艦艇も無事では済まなかった。
一宙戦を支援しようと戦隊を前進させていた巡洋艦アストリア以下第六巡洋戦隊の四隻は、人工ブラックホールの重力場に捕まり身動きが出来なくなったところを辛うじて統率を保っていた敵一個戦隊に滅多打ちにされた。四隻の内、旗艦のアストリアとシカゴはボラー艦隊の集中砲火を浴びて轟沈、そしてヴィンセンスとペンサコーラは、機関部を撃ち抜かれたことで出力が低下してブラックホールの重力場に抗えず吸い込まれていった。

こうして、第一艦隊は一瞬のうちに五隻の巡洋艦と八隻の駆逐艦を失ったのであった。ブラックホール砲が撃ち込まれる直前、第一艦隊は一宙戦を先頭に攻勢へと転じようとしていたが、もはや攻勢どころの話ではなかった。各艦ともに自らを守ることで精一杯であり、艦隊の統制力はほぼ失われていた。
そしてボラー艦隊の中で指揮統制が回復した一部の部隊が、人工ブラックホールを迂回して第一艦隊に差し迫って来た。第一艦隊が突破されれば、太陽の活動抑制作業の為全く動けず哀れな標的艦と化したヤマトと、それを支援する支援艦数隻が敵艦隊の門前に晒される。しかし第一艦隊は既に組織的な戦闘行動を行えるような状態ではなく、むざむざボラー艦隊にヤマトを生贄として献上することになろうとしていたその時であった。

突如接近中だった敵艦隊が紅色の閃光に包まれ消滅したのであった。第一艦隊の将兵達は、一体敵艦隊に何が起きたのかを理解できず首を傾げた。「あの閃光はどう見ても“あの兵器”だ。しかし、あれを搭載した艦は僅かだったはず。それに、こんなところまで来るような艦ではないはずだが?」
将兵達の疑問はすぐに解決した。忽然とワープアウトして来た艦隊から第一艦隊宛てに通信文が届いたからである。

《我、ですらー総統配下親衛部隊ナリ。貴艦隊トノ統制げしゅたーる・ばむ戦ヲ希望ス。ガーレガミロン。ガーレテロン。》

出現した艦隊は、ガルマン・ガミラス帝国の総統デスラー直属の親衛艦隊であった。
第一艦隊の将兵達は思わぬ援軍に涙が溢れるほど感謝し、その気持ちをそのまま通信文にして旗艦デウスーラⅢ世に送信した。

《了解、共ニ地ガ連合軍ノ誉ヲ見セン。》

ガルマン・ガミラス帝国軍が到着したことによって、戦局は一気にボラー側にとって不利になった。敵艦隊の編成は、旗艦デウスーラⅢ世以下、デスラー砲搭載の新鋭戦艦三十隻、及び随伴艦約百隻。依然として数ではボラー側が優っているものの、波動砲とほぼ同じ威力を発揮するデスラー砲を搭載した艦艇三十隻が問題であった。現に彼らは、ワープアウト直後に行った一斉射でボラー艦隊の二割前後を消滅させていたからであった(ワープ直後に迅速なデスラー砲発射が行えた原因として、地球側が供与した波動砲チャージャーの存在が大きかった)

再び不利な状況に置かれたボラー側からしてみれば、もはやなりふり構ってはいられなかった。そしてボラー側は、星系内でのブラックホール砲無差別使用という禁断の手段に訴えてしまった。
ベムラーゼ首相の下令と共に、機動要塞ゼスパーゼはその砲口をガルマン・ガミラス帝国艦隊へと向けた。しかしガルマン・ガミラス側の方が、対応が素早かった。波動砲チャージャーによって迅速にデスラー砲のエネルギー充電を完了させたガルマン・ガミラス帝国艦隊は、間髪入れずに第二射をゼスパーゼに向けて放った。
しかし、ゼスパーゼの強力なエネルギー偏向フィールドは、三十発以上のデスラー砲ですら受け付けなかった。お返しと言わんばかりに、ゼスパーゼからブラックホール砲が放たれた。放たれた砲弾はガルマン・ガミラス帝国艦隊の中心部にて炸裂、デスラー砲発射の為に密集隊形をとっていた艦隊は、そのほとんどが発生したブラックホールに吸い込まれていった。

そして何とか生き残った残存艦艇へも、ゼスパーゼは容赦なくブラックホール砲を叩き込んだ。結果として、四つ目のブラックホールが発生した時点でガルマン・ガミラス帝国艦隊は戦力の九割以上を損失しており、生き残りはデウスーラⅢ世以下十数隻だけというありさまであった。
第一艦隊は未だに統制が回復しておらず、頼りになる援軍だったはずのガルマン・ガミラス帝国艦隊は満身創痍、地ガ連合軍の誰もが負けたと思い、ボラー連邦の誰もが勝ったと思っていたが、一人の日本人の提案によって、事態は思わぬ方向へと進んでいくこととなった。

「山南司令、我が艦隊と敵さんとの間に発生したブラックホールを利用してスイングバイを行い、敵要塞に肉薄してみてはいかがでしょうか?」

そう提案して来たのは、一人の日本人戦隊司令官であった。彼は新鋭の夕張型軽巡洋艦二隻を率いており、また当時「宙雷の神様」との異名で呼ばれている堀田真司宙将補の教え子でもあった。そして彼の率いている夕張型二隻には、新型の波動魚雷が搭載されていた。
確かに波動カートリッジ弾よりも波動エネルギー量の多い波動魚雷なら、エネルギー偏向フィールドを無視して敵要塞にダメージを与えられるかもしれない(事実デザリアム戦役時、彼と春蘭自身が波動カートリッジ弾によって暗黒星団帝国のゴルバ型浮遊要塞を撃破していた)しかし、敵要塞の前面に展開している敵艦隊は、数は減っているとはいえ未だに半数は健在である。いかにスイングバイで加速しているとはいえ、たった二隻の軽巡洋艦に突破できるものだろうか?
その疑問に対する答えは、山南自身がすぐに思いついた。今こそ、春蘭の双発エンジンと大火力の見せ所であった。

かくして戦局は新たな局面へと移り変わった。機動要塞への突撃を慣行するのは、夕張型軽巡洋艦の夕張と名張、そしてそれを支援する春蘭と、直掩のエクスカリバー級自動超弩級戦艦二隻(トライデントⅢ&トライデントⅣ)の計五隻、これらで臨時の挺身隊が編成された(他の艦艇は、機関出力が不足しておりブラックホールの重力に対抗できない可能性があったのと、未だに指揮統制が回復しておらず、厳密な艦隊運動が行えないと判断されたので編成から外された)
そして春蘭は、機動要塞前面に展開している敵艦隊を突破する為、片方の波動エンジンで航行しつつもう片方の波動エンジンで拡散波動砲を発射するという離れ業をやってのけた。この戦法自体はデザリアム戦役時に経験済みではあるものの、今回はブラックホールでスイングバイを行った直後の発射であり、危険が大きすぎると警告の声が上がったものの、最終的には山南自身の判断によって実行されることとなった。
スイングバイ直後に発射された拡散波動砲は、狙い通りボラー艦隊のど真ん中で炸裂し、敵艦隊の中央部に大きな風穴を開けた。そして春蘭以下五隻の挺身隊は、一発の敵弾を受けることもなく敵艦隊を突破し、機動要塞へとたどり着いた。ボラー側は、挺身隊の速度があまりにも早すぎて挺身隊の艦船を捕捉することすらできなかった。
機動要塞前面にたどり着いた挺身隊は、まず加速中のエクスカリバー級二隻をそのままブラックホール砲の砲口へと突っ込ませた。全長四百メートル以上の巨大な質量弾頭と化した二隻のエクスカリバー級は“聖剣”の名に恥じぬ威力を発揮した。直撃を受けたブラックホール砲の砲口は一瞬にして崩壊し、その無残な姿を挺身隊の眼前にさらけ出した。

この機を逃すなと言わんばかりに、春蘭、夕張、名張の三隻は機動要塞に対して全面攻撃を開始した。春蘭の五一サンチ砲からは一発辺り二トン以上もの波動カートリッジ弾が、そして夕張型の六式魚雷発射管からは試製七式波動魚雷が発射され、それらすべてが機動要塞に向けて撃ち込まれた。
さしもの機動要塞ゼスパーゼも、連続して叩き込まれる波動カートリッジ弾と波動魚雷を前には抗いきれなかった。要塞各所から火の手が上がり、頼みの綱であったエネルギー偏向フィールドも機能を停止した。その為、通常の波動兵器でもゼスパーゼにダメージを与えることが可能となったのであった。
それを見逃さなかったのが、デスラー総統座乗のデウスーラⅢ世であった。ノイ・デウスーラと同様の複合式ゲシュタム機関を搭載したデウスーラⅢ世は、ブラックホールの重力場から難なく脱出することに成功していた。そして搭載しているハイパーデスラー砲(地球の拡大波動砲とほぼ同じ性能を保有するもの)をゼスパーゼに向けて撃ち込んだ。
既に波動カートリッジ弾と波動魚雷によってかなりの打撃を受けており、エネルギー偏向フィールドも機能しなくなったゼスパーゼにこれを防ぐすべはなく、機動要塞はハイパーデスラー砲のエネルギー奔流によって崩壊し、座乗していたベムラーゼ首相も要塞と運命を共にした。

ボラー連邦にとっては正に決戦兵器と呼ぶにふさわしかった機動要塞ゼスパーゼの損失とベムラーゼ首相の戦死、同時に起こったあまりにも重大すぎる二つの出来事は、ボラー連邦軍将兵達に大きな動揺を与えた。その動揺に乗じて一気に勝敗を決すべく、地ガ連合軍は総攻撃を開始した。両軍共に残存兵力はほぼ無いに等しかったが、挺身隊やデウスーラⅢ世が奮闘している間に何とか指揮統制を回復することに成功し、敵機動要塞を撃破したことによって士気が最高に高まっている第一艦隊とデスラー直属親衛艦隊を止められる者は、ボラー側には存在しえなかった。
地ガ連合軍は縦横無尽の活躍を見せ、遅れて戦闘に参加した他艦隊の強力もあって、統制が失われていたボラー艦隊を完膚なきまでに叩きのめした。逃亡と降伏どちらも含めても、ボラー側で生き残れた艦は二十隻程度であった。戦闘開始前の艦艇数が六百隻であったことを考えると、実に九割五分以上の艦船が沈められたこととなる。それほどまでに、地ガ連合軍は精強であった。

こうして後に“太陽沖海戦”と呼ばれることになる戦いは終結した。地球側は敵の大部隊が領宙内に侵入するという愚を犯してしまったものの、駆け付けたデスラー総統率いるガルマン・ガミラス帝国艦隊と共同して侵入した敵部隊の撃破に成功した。
一方ボラー連邦は、偉大なる指導者と残存していた戦力を一度に失ったことから求心力が一気に低下し、その結果地方の属国が次々とボラー連邦に反旗を翻し独立を宣言した。そして太陽沖海戦から一年後に発生した“銀河交錯事件”がボラー連邦に止めを刺した。一時は銀河の半数以上を支配していた巨大な星間連合国家は、遂にその歩みを止めたのであった。


あとがき

本来は春蘭の就役直後からその最後までを一つにまとめ上げようと考えていたのですが、あまりにも文章が長くなりすぎたのでここで一旦文章を分割しました。
現在は完結編から復活編までの、所謂空白の17年間(この文章の設定元にしているA-140さんの年表を元にしますと空白の12年間になりますが)での春蘭の活躍に関して執筆している最中です。
こちらも完成次第A-140さんのブログに掲載させてもらいますので、どうかもう少しだけ待っていただけると幸いです。
さて、今回は主に“宇宙戦艦ヤマトⅢ”の内容を中心に書かせてもらいました。“ヤマトよ永遠に”時代の春蘭の活躍に関しましてはPS2版にて存分に描かれていますので、私の文章では「PS2版のその後」を中心に書かせていただきました。
とは言っても、中心となったのは宇宙戦艦ヤマトⅢでいう第二十五話に当たるシーンで、本来は書かなければいけない第一次銀河大戦についてはほぼ書けなかったのが少し心残りです。
第一次銀河大戦に関しては今後別の作品でもう少し詳しく書きたいと考えていますので、こちらも気長にお待ちいただければ幸いです。
最後に、この文章を掲載してくださったブログ主のA-140さんと、この文章を読んでくださった読者の皆様に、改めて感謝の意を申し上げます。

地球防衛艦隊再編計画

ガトランティス戦役後、地球に何よりも求められたのは、同戦役で失った戦力の補充であった。何しろ主戦力をほぼ全て失い、更にはそれらを指揮する優秀な人材も同時に失っていた為、戦力再編は正に苦難の道であった。艦艇数の絶対的な不足、慢性的な人員不足、ガミラス戦役よりこの二つの問題に散々悩まされて来た地球防衛軍が出した解決策とは、徹底的な人員削減、及びそれを補う為の機械化であった。

機械化を推し進める為の第一段階として、まずはガトランティ戦役時に実験的に建造した無人艦の増産と配備促進をより推し進めていった。
上記のように、ガトランティス戦役時にも無人艦は一定数配備されていた。しかしそれは既存のアンドロメダ級やドレットノート級の艦体を流用した暫定的な物にすぎず、またプログラムの未発達により運用には有人艦の引率が不可欠で、更に肝心の戦闘能力も有人艦よりは大きく劣るものであった。

そこで地球防衛軍上層部は、有人艦を無人艦に改造するよりも始めから無人艦として建造してしまった方がより性能の良い艦を建造できると判断し、直ちに艦政本部に設計を指示した。これが後に地球防衛軍の艦船史に大きく名前を残すこととなる、エクスカリバー級自動超弩級戦艦となるのであった。

しかし、ここに来て大きな問題が一つ立ちはだかった。エクスカリバー級の全長は三百メートルを超える。勿論それだけ巨大な艦体なのだから、当然設計では自律型の指揮装置が搭載され、艦を人間が一切関わることなく動かすことが可能になるとされていた。だが、自律型指揮装置のプログラム開発チームは「この艦が完全に自動で動けるようなプログラムを製作するには、最低でも十年はかかる。」と断言した。これは非常に大きな問題であった。いくら外側が完成していても、肝心の艦を動かすプログラムが完成しないのであれば“また”有人艦に引率してもらう必要が生じるからであった。

「有人艦に引率されるのに変わりがないのであれば、結局は従来の有人艦に合わせた運用しかできなくなってしまう。それならば、従来艦を改造した無人艦で十分なのでは?」無人兵器反対派はそう言って攻勢を強めた。彼らも無人兵器の必要性は十分承知していたが、かといってこれ以上配備を推し進める必要はないと感じていたのである。
これに対し推進派は「では“無人艦の全能力を引き出せるような有人艦”を新たに建造すれば良い。」と考え、艦政本部に開発を指示した。これが後に地球防衛軍の中で最大級の戦艦を生み出すきっかけとなったのであるが、この時点ではまだ誰もがそのようなことは予見していなかった。


飛躍する要求、拡大する性能

当初艦政本部は「エクスカリバー級の有人艦仕様を建造し、それに無人艦の指揮統制装置を搭載すれば良い。」として、エクスカリバー級の有人艦仕様の建造を上層部に提案した。上層部はこの提案を承認し、運用側もアンドロメダ級と同等の砲戦能力を持つエクスカリバー級には大きな期待を寄せていたのでこの決定を支持した。
しかし、それはしばらくして無理があると判明した。エクスカリバー級の有人艦仕様自体は技術的には十分に可能であった。問題は「いかにして無人艦の指揮統制装置を搭載するか?」であった。というのもエクスカリバー級クラスの大型戦艦を複数統制できる指揮統制装置の大きさは、そのエクスカリバー級にすら収まりきらないほど巨大だったのである(実際、この指揮統制装置の多くは艦船ではなく地上に配備されている。)

そして、この指揮統制装置を搭載してなおかつ無人艦の高機動に随伴できるような艦を設計した場合、必要不可欠であると言われた艦の全長は五百メートル、地球防衛軍最大の戦艦であるアンドロメダ級を二回りほど上回る巨大な艦であった。その為運用側から「これなら鹵獲したカラクルム級にこの指揮統制装置を載せた方が早いのではないか?」と言われる始末であった。地球の技術力の限界を見た艦政本部はエクスカリバー級の有人艦仕様を指揮統制艦にする計画を破棄、同時に巨大な指揮統制装置を搭載する為新規設計で新たな艦を建造することを決定した。

設計の基礎となるのは、ガトランティス戦役時に計画されたものの結局建造されることはなかった“A-260型戦略指揮戦艦”と呼ばれる艦であった。これはアンドロメダ級の拡大発展版と言えるような艦で、戦時中に計画された艦ということもあってか徹底的な簡略化がなされていた。艦体や主砲はアンドロメダ級の流用であり、単純にアンドロメダ級の指揮統制能力や総合戦闘能力を強化したような艦であった。設計案はA案からT案までの二十種類、中には全ての主砲を艦首側に集中したN案や、実弾の装填機構を廃止した砲塔を十基も搭載するM案、更には波動実験艦銀河の艦橋を流用し探査型としたK案など、純粋に戦闘能力を強化した艦から本来の目的を外れたような設計の艦まで、実に多種多様であった。

しかし、単純に昔の設計図通りに作ればよいというわけではなかった。元よりアンドロメダ級の艦体では新型の指揮統制装置を搭載することは不可能だと判明しており(アンドロメダ級にも指揮統制装置が搭載されたことはあったが、それは大戦中に無理やり搭載された一時的なものであり、今問題となっている新型指揮統制装置とは直接統制可能な艦艇数だけでも四倍の差があった)どうしても艦体は新規で建造するしかなかったからである。

そしてその新型指揮統制装置を搭載するにあたって、全長は五百メートル、重量は三十万トンと定められた。そして武装については、当初は戦闘を随伴の無人艦に任せれば良いと思われていたので、最低限度の自衛兵装以外は搭載しないこととなっていた。しかしここで連邦政府が「これだけ巨大な艦なのに、何故武装がほとんど付いていないのか?君達は巨額の国家予算を投入して、地球一高価な標的艦を作るつもりなのか?」と追及して来た。この追及は一部の運用側からも寄せられていた。そこで艦政本部はこの追及を回避する為、武装の大幅な強化を行った。主砲の口径拡大及び門数の増加、波動砲の装備、更には艦載機運用能力の付与まで行われた。そして艦政本部は「この艦をアンドロメダに代わる新たな地球防衛軍の象徴としてしまおう。」と提案した。地球防衛軍上層部や連邦政府も、再建された地球艦隊の象徴的な艦は欲しかったので、この提案に乗っかった。

こうして建造は始まった。建造自体は月面基地の工廠で行われ、資材は第十一番惑星や土星などに浮遊しているガトランティス艦を解体したものを流用した。建造は2203年から始まり、約2年をかけて完成まで持ち込むことが出来た。(経験したことのない大型艦であるにもかかわらず建造期間が異様に短い理由については、本艦が新規設計とはいえアンドロメダ級より多くの物を流用できたこと、ガトランティス軍の残党撃滅と地球復興の為戦時生産体制を維持し続けていたこと、ガミラス製高性能作業機械の大量導入などがあげられる)そして紆余曲折を経た末に完成した艦は、これまで地球が全く保有したこともないような大型艦となった。


アンドロメダ改級超弩級戦略指揮戦艦 春蘭(しゅんらん) 諸元

全長:508メートル
艦体重量:33.4万トン
機関:
兵装:四式次元波動爆縮放射器(クラスター型波動砲)3基3門
二式51サンチ4連装収束圧縮型陽電子衝撃砲 6基24門
   一式41サンチ3連装収束圧縮型陽電子衝撃砲 3基9門
   二式大型対艦砲(艦橋砲) 1基6門
重力子スプレッド発射機 連装4基8門
   零式4連装対艦グレネード投射機 2基8門
   二式速射魚雷発射管 単装4基4門
   一式亜空間魚雷発射管 連装4基8門
   一式多連装ミサイル発射管 16門
   九八式二型短魚雷発射管 16門
   九九式二型垂直軸ミサイル発射管 単装10基10門
搭載機:各種空間艦上戦闘攻撃機 48機
    各種汎用輸送機 8機
    各種救命艇 4機


これらの性能表から読み取れることとして、まず圧倒的な砲撃力があげられる。主砲の51サンチ砲の砲門数は24門、これはアンドロメダ級の二倍の数であり、単純計算で春蘭はアンドロメダ級の二倍の砲戦能力を持っていることとなる。更に、これらに加えて9門の41サンチ砲も装備されていることから、総合的な砲戦能力は二倍以上であろう。
なお主砲として51サンチ砲が搭載されている理由は、単に新しい砲を開発する時間が無かったこと、弾薬の共通化、エクスカリバー級やアンドロメダ級と統制砲撃戦を行う為、などとされている。

次に宙雷兵装であるが、これはアンドロメダ級と大差がないどころかむしろ減らされている。というのも、巨大な指揮統制装置や合計9基もの陽電子衝撃砲、更に後述の艦載機の搭載区画まで設置するとなると、いかに春蘭の巨大な艦体といえども目一杯であり、そのしわ寄せとして宙雷兵装が減らされたといういきさつがあった。
そして春蘭の航空設備であるが、これにもかなりのスペースが割かれた。随伴予定のエクスカリバー級には航空機の運用能力がほぼ無かった(エクスカリバー級を改造した航空母艦の計画もあったが、無人艦載機の調達数削減の影響に伴って開発が中止されていた。)ことが理由である。その為春蘭には、合計で60機もの艦載機が搭載可能であった。

搭載可能な航空機であるが、基本的には地球防衛軍が保有している全ての艦上機を運用可能であった。主力となる戦闘攻撃機は、九九式空間艦上戦闘攻撃機“コスモファルコン”や零式空間艦上戦闘機“コスモゼロ”に一式空間艦上戦闘攻撃機“コスモタイガーⅡ”、更には四式自律型空間艦上戦闘攻撃機“コスモライトニング”も運用可能であった。(後の近代化改修で一八式空間艦上戦闘攻撃機“コスモパルサー”の運用能力も付与されている)そして輸送機は、九七式空間汎用輸送機“コスモシーガル”や後継機の五式空間汎用輸送機“コスモハウンド”も運用可能であった。(ただしコスモハウンドは機体サイズの関係上、搭載可能機数が4機のみな上に艦首エレベーターでの運用は不可能である)

なお肝心の無人艦の指揮統制能力であるが、最新鋭の五式指揮統制装置を搭載した為、同時管制可能艦数はアンドロメダ級の4隻をはるかに上回る16隻となっている。これは勿論防衛軍艦艇の中では最大数であった。更にエクスカリバー級の両舷にウェポン級を外付けしたブースター運用を行うことで、運用方法は限定されるが同時管制可能艦数を48隻に増やすことも勿論可能であった。(余談であるが、ブースター運用とはガトランティス戦役時に指揮統制装置の能力不足に悩まされた防衛軍が、同時管制可能艦数を可能な限り増やす為に実施した苦肉の策ともいえるべき代物である。戦艦クラスの無人艦の両舷に駆逐艦クラスの無人艦を重力アンカーにて接続することによって、泥縄式ではあるが同時管制可能艦数を3倍に増やすことが可能となった。今では無人艦の標準的な運用方法として定着している)
春蘭とその同型艦

アンドロメダ改級改め春蘭型超弩級戦略指揮戦艦には、当初は合計で6隻もの建造計画があった。そして半数の3隻が実際に竣工したものの、全く同じ形状の艦がいないという稀有な艦でもある。以下は春蘭とその同型艦が、どのような姿で生まれ、そしてどのような末路をたどったかの記述である。


春蘭型超弩級戦略指揮戦艦 同型艦一覧

一番艦:春蘭(しゅんらん)
二番艦:リヴァイアサン(Leviathan)
三番艦:ヴォルケンクラッツァー(Wolkenkratzer)
四番艦:未竣工(仮称あまてらす)
五番艦:未竣工(仮称インビンシブル)
六番艦:未竣工(仮称あらはばき)

一番艦:春蘭

その名の通り春蘭型のネームシップであり、そして唯一純粋な戦艦型として建造された艦である。西暦2205年に竣工して以来、デザリアム戦役を初陣にさまざまな戦闘に参加している。西暦2220年、第二次移民船団を護衛中にSUS連合軍の攻撃を受け戦没。

二番艦:リヴァイアサン

春蘭型の二番艦、建造途中に暗黒星団帝国軍の攻撃を受け、艦体後部が大きく破損する。それをきっかけに航空戦艦に改装される。その為後部主砲2基を撤去し、空いたスペースに格納庫と飛行甲板を増設した航空戦艦として竣工した。なおこの改造によってリヴァイアサンは、実に120機(6個飛行隊108機+予備機12機)を搭載可能となった。これは後継艦のブルーノアが就役するまで防衛軍艦艇の中では最大の搭載数であった。西暦2207年に竣工、直後に発生したディンギル戦役においてはその広大な搭載数を生かして大量の避難民を輸送する。その後2220年には第二次移民船団護衛艦隊に参加、同船団護衛戦にて戦没する。

三番艦:ヴォルケンクラッツァー

この艦は建造中に暗黒星団帝国、そしてディンギル帝国の攻撃に計二回晒され、その結果艦体は大きく損傷した。一時は廃艦処分も検討されたが、旧式化した波動実験艦銀河の後継艦としてこの艦を波動実験艦に改造することとなる。改造には建造中止となった四番艦アマテラスの資材も流用され、西暦2212年に竣工する。西暦2220年、銀河中心部にて突如発生した移動型ブラックホールの調査の為、銀河中心部へと派遣されるも一か月後に消息を絶つ。

*各艦の詳細なエピソードについては次巻の“運用・戦歴編”を参考にされたし。


春蘭、竣工

紆余曲折はあったものの、春蘭は遂に西暦2205年3月2日に竣工した。竣工と同時に春蘭は直ちに地球防衛軍第七艦隊へと配備され、初代艦長には第七艦隊司令官も兼任している山南修宙将が就任した。そして春蘭を旗艦に据えた第七艦隊は、シリウス星系にて演習を行う為慌ただしく月面基地を出港していった。最後に春蘭就役時に地球連邦大統領が述べた演説から一部を抜粋し、この文章を終わらせたいと思う。

「五年前のガミラス戦役、そして二年前のガトランティス戦役、この数年の間に、人類はこれまでに経験したことが無い大規模な戦争を二回も経験してきました。この戦争で、親しい人を無くされた方も多いでしょう。しかし、人類は幾度となく滅亡の危機に晒されようとも、その度に這い上がって来ました。ご覧ください。今地球は再び蘇り、そして新たな力を手に入れました。皆様の、そして地球と宇宙に平和と安寧をもたらす新しい力です。私はここに、地球連邦政府を代表して宣誓します。もう二度と、皆さまを戦争の惨禍に巻き込まないことを。もう二度と、親しい人、愛する人を失う恐怖を味あわせないことを。」


次巻“運用・戦歴編”へ続く

第一次火星沖海戦、国連宇宙海軍が計画したオペレーション・マルス(カ号作戦)に基づき火星を絶対防衛線と設定。火星沖に集結した国連宇宙軍連合艦隊と、侵攻してきたガミラス帝国艦隊の間にて発生した戦闘である。結果は知っての通り、参加した兵力の八割を失った国連宇宙海軍の敗北に終わった。
この戦いにおいて、ウォースパイト級は六番艦のレパルスを残して全艦が沈没した。我々は、幸運にも彼女らの最期を看取った者と接触、そしてインタビューを行うことに成功した。彼女らは一体、どのように戦い、そして沈んでいったのか。それらの謎を解き明かす貴重な証言を得られたことに感謝する。

西暦2210年11月10日 J・L

西暦2193年 国連宇宙海軍 極東方面軍所属 イズミ・カオル一佐(当時)

はあ、私に話せることでしょうか?私よりも、他の方をあたった方がよろしいかと思います。何せあの艦は欧州方面空間戦闘群の所属ですし、私はあの艦の最期の瞬間を看取っただけで、それ以外のことはよう知らんのですが?えっ、それでも構わないって。分かりました。では話をさせてもらいましょう。
第一次火星沖海戦、この呼び名が広まったのはガミラス戦後です。ですから、当時の私どもはあの戦いを“カ号作戦”と呼んでおりました。そちらでは“オペレーション・マルス”なんていう名前で呼んでいたらしいですね。まあ、名前なんかどうでもいいんです。我々があの戦いで負けたという事実は変わりませんですから。
あの戦いは、正に総力戦でした。使える艦を片っ端からかき集めて、それに若造を乗せて火星に送り込んだっていう話ですから。まだ士官学校を卒業したばかりの奴らですよ?ですが、この時はまだ志願者だけだった分、まだ戦争末期よりはましだったのかもしれませんね。メ号作戦の時なんか、普通の大学生を「学徒動員だ!」って言って軍隊に引っ張って行ったらしいですから。そうやって連れていかれた若者は皆死んでいきました。生き残ったのはほんの一握りです。ですが、この時の地球はこうせざるを得ないほどに追い詰められていたのです。地球が崖っぷちに追い詰められたのは、ガミラスが遊星爆弾を地球に落とし始めるようになってからだという人がいますがあれは間違いです。2193年の時点で、地球は既に崖っぷちに立たされていたのです。
外惑星でガミラスとの圧倒的な力の差を見せつけられた国連宇宙海軍は、もはやなりふり構ってはいられない状態でした。そのため通常では考えられないような戦術を採用したのです。それは“徹底的な持久戦”でした。そしてそれは即ち大規模な消耗戦に陥ることを意味していました。でもそうするしか無かったのです。ガミラスと当時の地球との戦いぶりは、正に神様と虫けらの戦いでした。虫けらが神様に勝てる方法はただ一つ。大勢の仲間を集めてきて、たとえ仲間が何人死のうとも、神様があきれて返るまで戦いをやめないことでした。
味方が五隻沈んでも、敵を一隻沈められればそれでいい。たとえ全ての武器弾薬を消耗し、国連宇宙海軍の将兵全員が火星に墓標を立てることになっても、ガミラス軍を倒せればそれでいい。ガミラス軍に対して我々が唯一優っていた“数”という利点を最大限に生かした戦い方でした。これで来年度の予算がゼロになっても構わない。この戦いに負ければ、我々は来年度を迎えることすらできないのだから。国連宇宙海軍は本気で、この戦いで全戦力をすりつぶす気でした。
そしてカ号作戦が始まりました。手始めに、火星沖に500隻以上の艦艇が集結しました。開戦以降に就役した艦艇こそ少数でしたが、第二次内惑星戦争後予備役となり保管されていた艦艇が月面基地より大挙して出撃していきました。その中には、当時私が艦長を務めていた巡洋艦利根の姿もありました。
村雨型宇宙巡洋艦利根、二度の内惑星戦争を受けて大量建造された村雨型ですが、第二次内惑星戦争終結後は多数が予備役となりました。それらは地球を含む各惑星及び衛星、小惑星に置かれている基地にて保管されました。中でも一番保管数が多かったのが月面基地でした。月には地球と比較的近いという利点がありました。加えて大気が無いので艦体が錆びることもありません。そういった理由で、月面基地には200隻以上の艦艇が保管されていました。利根もその中の一艦でした。こうして私は、実に十三年ぶりに利根の艦長に就任した人間となったのです。
冥王星での攻防戦にて、私の乗艦が旗艦の比叡と共にガミラス軍に大損害を与えたことが評価されて、カ号作戦の直前には一佐に昇進することが出来ました。まあ、司令官の土方宙将を左遷してしまいましたから、せめて配下にて戦った者には良い思いをさせてやりたいみたいな上層部の思惑なのでしょうけど。その時は、こんな私でも一佐になれたことに感謝していました。一佐になれば普通は戦艦の艦長に就任するのですが、あの頃は戦艦なんてほとんど残っておりませんでしたから、私は艦長兼戦隊司令官ということで利根に配属されました。こうして、最低限の訓練を月面沖にて済ませた後に、私どもは三隻の僚艦を従えて火星沖へと向かいました。
あの時火星沖には、実に500隻以上の艦艇が集結していました。あれを見た時は心底驚きましたね。「一体地球圏のどこにこんな大艦隊が眠っていたんだ?」と。それに、集結した艦艇も選りすぐりの艦ばかりでした。戦艦だけでも、北米方面空間戦闘群所属のヴァージニア級五隻、極東方面空間戦闘群所属の金剛型二隻と火竜型四隻、欧州方面空間戦闘群所属のウォースパイト級三隻とリュッツオウ級三番艦アドミラル・グラーフ・シュペー、ノルマンディー級二番艦のリシュリュー、カイオ・デュイリオ級一番艦カイオ・デュイリオ。他にも南米とか南亜方面の空間戦闘群の戦艦もおりましたから、全部合わせたら二十隻くらい居たと思いますね。それに加えて200隻以上の巡洋艦と、300隻近い突撃駆逐艦。もう負ける気がしなかったですよ。
そちらのウォースパイト級であの戦いに参加したのは、確かウォースパイト、レナウン、レパルスの三隻だったかと思います。バーラムとマレーヤは天王星で、ヴァリアントは冥王星でそれぞれ沈んでいましたからね。でも、あの戦いまでで半数も残っていたら上出来だと思いますよ。他なんて軒並み二割から三割くらいしか残っておりませんでしたから。酷いところだと、初戦で艦隊が全滅していましたから。そうして全軍の配置が終了し、いつでも戦闘に入れる準備が整ったところにガミラス軍はやって来たのです。
とは言っても、私どもは最初から戦闘には参加しませんでした。別にさぼっていた訳じゃないんです。私どもはいわゆる“予備兵力”というやつでした。カ号作戦において、国連宇宙海軍の方針は徹底的な持久戦でした。敵を撃退するまで何日も戦うつもりでした。ですが、兵士もまた人間ですから、24時間戦いっぱなしというわけにはいきません。食事だってとらなきゃいけないし、睡眠だって必要です。そこで、三~四割程度の戦力を常に後方に待機させておき、ある程度時間が経過したら前線の艦と交代させる。前線で戦っていた艦は後方で簡単な修理と整備、それから乗員の休憩などを取ってから、また前線へと赴く。ローテーションってやつです。そうやって常に前線にいる艦の状態を最善に保ちつつ、攻撃の手を絶やさないようにしたわけですな。本当は前線にいる艦と後方にいる艦の比率を逆にした方がより良いのですが、何せ我々とガミラス軍の間には圧倒的な力の差がありましたからねぇ。ちょっとでも多くの艦を前線に張り付けておかないと気が気でなかったんでしょう。
とにかく、私どもは火星の衛星フォボスの宇宙港(第二次内惑星戦争時に建設された火星軍のフォボス要塞の跡地を転用したもの)にて、戦局を艦内に設置されたテレビの前で見守っていました。無論、命令があればすぐに出撃できるようにしていたのは言うまでもありません。最初の攻撃はガミラス軍からのものでした。まるで生き物のような姿をしている緑色の艦から幾つものビームが放たれました。しかし、紅色のビームは全て手前のデブリ帯にて青白い光を放って消滅しました。直前に展開が完了したばかりのビーム攪乱膜の効果が早速発揮されていたのです。これを見た私どもは皆歓喜し、艦内は歓声で溢れかえりました。当然の反応でした。今まで数多くの仲間を死地に追いやって来たビームが、今こうして自分の目の前にてその無力さをさらけ出しているのですから。ガミラス艦がビームを放てば放つほど、私どもの歓声はより大きくなっていきました。
しかしこれで終わりではなかったのです。業を煮やした何隻かのガミラス艦が、デブリ帯を突破しようと試みて来たのです。ですがその目論見は、デブリ帯内で待ち構えていた航空隊と宙雷戦隊によってあっけなく潰えました。艦内テレビに流れていた映像には、その決定的な瞬間がバッチリと映っていました。中継映像の視点が、後方に待機している巡洋艦のものから、デブリ帯内に潜んでいる突撃駆逐艦のものへと変わりました。そしてそこには、デブリの山を掻き分けて接近してくるガミラス艦が映っていました。彼らは、その鋭い牙をむいて敵に襲い掛かりました。
まず航空隊の攻撃機がガミラス艦に対して対艦ミサイルによる攻撃を行いました。しかし、航空機に搭載可能な大きさのミサイルでは、敵艦をひるませることはできても、沈めることはできません。ですが勇猛果敢な宙雷屋達が、この一瞬の隙を見逃すはずがありませんでした。突如デブリの陰から何隻もの駆逐艦が飛び出し、ガミラス艦に対して砲弾や魚雷を次々と叩き込んでいきました。撮影していた艦もその突撃に加わり、敵の駆逐艦に対して二発の砲弾と三発の魚雷を一斉に発射しました。砲弾が敵艦に吸い込まれ、敵艦の姿勢が崩れた直後に、そのどてっぱらに散発の魚雷が直撃しました。更に行きかけの駄賃と言わんばかりに、すれ違いざまに上下の高圧増幅光線砲を駆逐艦の艦橋部に撃ち込みました。その後敵駆逐艦はカメラの範囲外となってしまいましたが、轟沈とまではいかないにしても、あれだけの砲雷撃を受けた駆逐艦が無傷であるとは思えませんでした。そして後続艦から「敵駆逐艦一大破。」との報告が入り、それがテレビ前に居る私どもの耳に入った瞬間、私どもはこれまでにないほど歓声を上げました。あちこちで万歳三唱が唱えられ、感激のあまり泣きながら抱き合っている者もいました。たった一隻の駆逐艦、それも撃沈したわけじゃないのにも関わらず、艦内はまるでお祭り騒ぎのようでした。
こうして、私どもの間には早くも厭戦ムードが漂っていました。「行ける!これは勝てるぞ!」なんていうのはまだ序の口で、ひどい者だと「勝った!俺達は遂に勝ったぞ!」と、もうすでに敵に勝利したと勘違いしていたりしました。ですが、そう思いたい気持ちもわからなくはなかったですし、何より当の私ですらそのムードに飲み込まれつつあったのです。しかし、この時の私どもはまだ知らなかったのです。真の絶望、そして本当の敗北が差し迫っているということを。
突如、ガミラス艦隊の背後に、何十個もの紫色の光点が風車状に出現したのです。そしてその光点の中から、見たこともない形式のガミラス艦が次々と湧き出てきました。あれがワープアウトというものだというのは、この戦いの後に知りました。当時はただ、何もないところから敵艦が次々と現れているくらいにしか思っていませんでした。ですが、そのくらいの認識でも今私どもに差し迫っている脅威を理解するには十分でした。見たこともない形式(おそらく新型艦でしょう)が多数出現する。軍事知識が少しでもある者なら、敵の増援(それも数や艦隊の構成的にこちらが主力部隊)が到着したのだと考えるでしょう。この考えに至った時、私どもは先ほどまで高揚していた気分を、一気に奈落の底にまで叩き落されました。自分達があれだけ苦労して戦っていた奴らは、実は敵の一部でしかなかった。その一部ですらあれだけ脅威なのに、あんなに沢山の敵が一斉に攻撃して来たら、自分達は一体どうなってしまうのだろう?そう思ったその時、私どもは今自分達が何をすべきかに思い当たったのです。
私は全艦に警報を発し、直ちに全乗組員を配置につかせました。そして艦内各部のチェックを慌ただしく終えると、すぐに艦を出港させました。司令部から命令は出ていませんでしたが、命令を待っている余裕はありませんでした。何より、当の司令部も混乱の極みにあったのでまともな命令を下せない状態でした。私の乗艦である利根は、同じように慌ただしく出港して来た僚艦の最上、三隈、熊野の三艦と単縦陣を組んでから戦闘宙域へと急行しました。当時フォボスは戦闘宙域とは正反対の位置にありましたが、全速力で航行すれば三十分ほどで到着するはずでした。しかし私どもが戦闘宙域に到着した頃には、既に前線の艦隊は壊滅寸前でした。艦隊総旗艦のヴァージニアは沈み、各艦は個別にガミラス軍と戦闘を行っていましたが、それもガミラス軍の圧倒的な力によって殲滅されていきました。そのような状況の中、戦場に到着したばかりの私どもに悲劇が襲い掛かって来ました。
私どもは、同じように前線に向かいつつある艦同士で臨時に艦隊を組んでいました。とは言っても、別に統一された指揮系統があるわけではなく、ただ艦が集まっているだけでしたが。それでも味方と一緒に航行しているというのは、とても心強かったです。ですが、それは敵にとって格好の標的でした。
最初は、前方を航行していたピケット艦(確か艦名は白雪だったかと思います。)が「前方ニ敵艦見ユ。」との通信して来たのを最後に、通信が途絶したのが始まりでした。その報告から数十秒後、光学観測にて前方から接近してくるガミラス艦を捉えました。運が悪いことに利根の電探は故障していて、上手く敵艦を捕捉できなかったようです。利根が敵艦を捉えた時には、先に電探にて敵艦を捕捉していた艦が既に迎撃準備の為移動を開始していました。ですが各艦が勝手に移動している為、陣形は思うように変更できずに、ただ崩れていくばかりでした。そこにガミラス軍は襲い掛かって来たのです。
ガミラス軍が最初に狙いを定めたのは、艦隊の最前列にて航行していた中国軍の戦艦遼寧でした。遼寧は接近中のガミラス艦に対して、僚艦の蘭州級巡洋艦と共に猛烈な砲雷撃を浴びせました。しかし、ガミラス艦はそれをものともせずに接近し、すれ違いざまに陽電子ビームを遼寧に叩き込んだのです。遼寧の艦腹は赤黒く切り裂かれ、次の瞬間には艦体が風船のように膨らみ、そして周囲一帯に大量の破片をまき散らしながら破裂しました。そして遼寧の後に引っ付いていた四隻の蘭州級巡洋艦にもガミラス艦は容赦なかったのです。大量の空間魚雷を浴びせられた四隻の蘭州級巡洋艦の艦体は、瞬く間にくの字状に折れ曲がって爆発しました。私どもは丁度中国艦隊の右側を航行していましたから、中国艦隊の惨状はよく見えました。あれに襲われたら自分達もこうなる。そう悟った艦は次々と艦隊から離脱していきました。もはや秩序も何もあったものではありませんでした。そこに、ガミラス艦がまた襲い掛かって来たのです。
今度狙われたのは私どもの戦隊でした。私は無駄だと分かっていながら各艦に応戦と回避行動を取る様に下令しました。そして、接近中の敵巡洋艦に対して主砲による牽制射撃を行い、同時に四発の魚雷も放ちました。案の定、主砲は命中した全弾が敵艦の装甲にはじき返されてしまいましたが、幸運にも魚雷の方は一発も迎撃されることなく全弾が命中しました。これによって、ガミラス艦は大きく体制を崩しました。私はその一瞬を見逃さず、艦を敵陽電子砲の死角に滑り込ませました。
ガミラス艦といえども無敵ではありません。彼らが使用している無砲身砲塔には、ある重大な欠陥がありました。それは一切仰角や俯角が取れないことでした。これが戦艦型だと側面の砲身付き陽電子砲がある程度死角をカバーしているのですが、そういった装備がない巡洋艦型なら比較的死角に潜り込むことは容易でした。あの時敵は五隻ほどの艦隊を組んで互いの死角を減らすよう心掛けていたようでしたが、それでも完全に死角が消えたわけではありませんでした。利根は敵艦隊の死角を上手くついて、見事に敵艦隊を突破することに成功したのでした。
しかし、僚艦は利根ほど幸運ではありませんでした。まずは隊列を離れ、戦場から離脱しようとして大きく回頭していた巡洋艦最上が、陽電子ビームに艦尾を撃ち抜かれました。最上は一切の推力を失って宇宙を漂い始めました。しかし最上が漂って行った先には、同じ戦隊の巡洋艦三隈がおりました。二隻の乗組員は、おそらく最後の一秒まで衝突を回避しようと努力したのでしょう。しかしその努力も虚しく両艦は衝突、そこを陽電子ビームが串刺しにして二隻とも轟沈しました。艦列の最後尾でその光景を見ていた巡洋艦熊野の艦長が、果たしてあの時何を思ったのかは分かりません。ですが、彼が取った行動は実に日本人らしい行動でした。彼は乗艦である熊野の艦首を敵艦に向けると、そのまま全速力で突っ込んだのです。熊野の艦体には何発もの陽電子ビームが直撃し、たちまち火だるまと化しました。普通ならもう沈んでいてもおかしくないのにも関わらず、熊野はまるで乗組員の執念が宿ったかのように動き続け、そして敵艦に体当たりしました。いくらガミラス艦の装甲が強固とはいえ、150メートルもの金属の塊にぶつかられて耐えられる道理はありませんでした。熊野とガミラス艦の艦体を閃光が覆い隠し、続いて両艦は爆炎に飲み込まれました。こういった特攻や自爆攻撃を美化しているわけではないのですが、熊野の行動には一種の尊ささえ感じられました。そして私の頬には一筋の涙が走っていました。
こうして、利根に随伴していた全ての僚艦が沈みました。一隻戦場に取り残され途方に暮れていましたが、次の任務はすぐに見つかりました。味方艦からの援護要請があったのです。「こちらはHMSユリシーズ、敵駆逐艦が陣形内に侵入した。誰でもいい。誰か迎撃してくれ!」勿論すぐに急行しました。加えて要請があった宙域は私どもがいる宙域の隣でしたから、数分で要請宙域に到達出来ました。しかし、私どもが到着した頃には、既に敵駆逐艦はある艦への砲口を向けようとしているところでした。そして敵駆逐艦が砲口を向けていた艦というのが、あの戦艦ウォースパイトだったのです。
それにしても、敵駆逐艦の操艦は実に見事でした。思わず「あれなら私の部下としてもやっていけるのではないだろうか?」と思ってしまいました。しかし今こちらに向かって突撃している駆逐艦は味方ではなく敵でした。私は勇敢な敵駆逐艦を葬り去らなければなりませんでした。私は敵駆逐艦への砲撃を命令しましたが、部下は発砲しようとしません。「何故撃たん?」「今撃てばウォースパイトに当たります。」そう、射線上にウォースパイトが居たため、この瞬間に撃てば敵駆逐艦ではなくウォースパイトに当たる可能性があったのです。一瞬私は躊躇いましたが、すぐに迷いを吹っ切りました。「構わん、向こうは戦艦だ。」そう言った後、私は撃てと部下に命令しました。利根の主砲から緑色の光線が敵駆逐艦に向かって放たれます。しかし、光線が向かった先には既に敵駆逐艦はおらず、光線はただ虚空を切り裂くに終わったのです。そして利根の攻撃をよけた敵駆逐艦はウォースパイトに狙いを定めると、そのどてっぱらに陽電子ビームを叩き込んだのです。ウォースパイトの艦腹はショートケーキのように簡単に切り裂かれ、やがて破孔から炎が噴き出しました。炎はウォースパイトの全身を這いずり回り全てを焼き尽くしました。私どもは、その光景をただじっと眺めているしかなかったのです。
ウォースパイトが撃沈されてもなお戦闘は続きました。司令部(あの時まだそんなものが残っていたどうかは分かりませんが、話がややこしくなるのでここではこう呼びます)からの命令に従い、私どもはこの宙域から撤退しなければなりませんでした。逃げるだけなら簡単だと思われるかもしれませんが、実は戦闘で一番被害が大きいのは撤退戦なんです。秩序を失って逃走する軍隊というのは、それだけ脆いものなのです。こうして私どもの悲惨な撤退戦が始まりました。
最初はまず、利根に通信をくれた巡洋艦ユリシーズと合流しました。ユリシーズの艦体には若干の損傷が見られたものの、特に戦闘行動に支障はないようでした。この時はまだ名も無き普通の巡洋艦であったユリシーズですが、後にガミラス戦役時の三大幸運艦の一隻に数えられるだけのことはありますね。その幸運は、既にこのころから付きまわっていたのでしょう。そして利根とユリシーズの周りには次々と味方艦が集まって来ました。艦体に幾つもの破孔がある黄金色の戦艦、見事に艦橋を撃ち抜かれている紅白色の巡洋艦、装甲翼が半分欠けている赤白黄三色の突撃駆逐艦、集まって来た艦は皆どこかしら損傷していました。そして集まった十数隻の艦艇に、帰るべき基地を失った数十機の航空機が加わって、敗走艦隊の編成が完了しました。後は一目散にここから逃げるだけです。そう思ったその時でした、ガミラス艦隊がこちらに向かってきたのは。
分かっていたことではあるのですが、ガミラス軍がこのような格好の獲物をみすみす見逃してくれるわけがありませんでした。しかも敵艦隊の先頭には、今回の戦闘で初めて確認された敵の超弩級戦艦がいました。そいつの右隣にも同じ型の艦がおり、左隣には冥王星や天王星にて私どもを散々苦しめてきたあの超弩級戦艦がいました。ざっと見ただけでも超弩級戦艦が三隻、戦艦が十隻以上、巡洋艦と駆逐艦は合わせて約五十隻、到底勝てる相手ではありませんでした。この時私の脳裏には、ある一つの考えが浮かんでいました。それは「この利根を生贄として差し出せば、他の艦は逃げられるのではないか?」というものでした。無論、利根の乗組員全員を望まない英雄にはしたくありませんでした。しかし、どうせ誰かが死ぬのであれば、死ぬ者はより多くを生かす為に死ぬべきではないでしょうか?私はそう思い迷った挙句、乗組員に自分の考えを伝えようとしたその時でした。
突如、利根の右舷側を航行していた手負いの黄金色の戦艦が、急に敵艦隊に向かって行ったのです。その艦こそが、ウォースパイト級戦艦五番艦のレナウンでした。レナウンの艦長は、きっと私と同じ事を考えていたのでしょう。そして迷わず乗組員にその意思を伝え、行動に移したのでしょう。レナウンがやろうとしていたことは明白でした。しかし、私どもがそれに続くわけにはいきません。今ここで私どもが後に続けば、彼らの意思を踏みにじることになってしまいます。死ぬのは自分達だけで十分だ。そう思ったからこそ彼らは動いたのです。決して、他の仲間まで死地に引きずり込みたいわけではありません。この意志は他の如何なることよりも尊重されなければならないほど尊いものでした。
しかし、そんな彼らの意思に背いた一団がいました。艦隊の周りを飛んでいた航空隊の面々です。この戦いが終わった後に、私は無粋にもレナウンに付き従わず生還した搭乗員に「何故彼らは突撃したのか?そして何故君達はそれに加わらなかったのか?」と尋ねました。その言葉を耳にした搭乗員は、目に怒りの涙をにじませ、時々嗚咽を漏らしながら答えました。「あいつらの機体には燃料がもう無かったんだ。だからどうせ地球に帰る途中で死ぬのであれば、せめて敵に一矢報いて死にたい。そう思ったんだ。自分達だって突撃したかった。でも隊長がそれを許さなかった。隊長は生きろと言った。それは命令だった。隊長の命令は絶対だ。だから自分達は生きなければならない。どんな恥をかき、どんな屈辱にまみれても、自分達は生き延びなければならない。それが死んでいった戦友達への供養であり、最後の頼みでもあるのだから。栄光に呑まれて死んでいくのは、あの人達だけでもう十分だ。」その言葉を聞いた私は、何も言い返すことが出来ませんでした。
こうして、第一次火星沖海戦最後の地球側の攻撃が始まりました。七十隻近い敵艦隊に対し、突撃するのは満身創痍の戦艦一隻と、弾薬の尽きた航空機が約十機、傍から見れば自殺行為にしか思えなかったでしょう。でも彼らはやり遂げました。レナウンは見事、敵の超弩級戦艦に突入し、自身の質量と核融合炉の誘爆によって敵艦を呑み込みました。航空機も、何機かは敵艦への体当たりに成功した模様です。私どもは彼らとの距離を増しながら、それを遠くからじっと眺めていることしかできませんでした。せっかく彼らが生かしてくれた命です。自分達だけが生き残ってしまった悔しさはありましたが、これで私どもは何としてでもこの戦争を生き残らなければならなくなりました。
思えば私は、迷いによって生き残れたはずの命を見殺しにし、もうとっくに散っていたはずの命を生き残らせていたのかもしれません。私が迷わずに撃っていれば、ウォースパイトは救われたのかもしれない。私が迷わず突撃していれば、あの時死んでいたのは利根の乗組員だったかもしれない。歴史に“もしも”はありませんが、いつもそういうことを考えてしまうのです。でもそれが人間だと私は思います。人間は誰もが迷い、そして間違えます。でもそれは人間だからこそなんです。人間が迷うことをやめた時、それは自分達が人間であることを止めた時です。私どもは機械ではありません。機械には“意志”というものはありませんが、人間にはあります。そして人間は、死んでいった者達の“意志”を受け継ぐことができ、またそうする義務があります。過去にしか生きられなかった者達の“意思”を未来へと受け継ぐことが、生き残った人間の使命なのですから。


あとがき
初めまして、筆者の八八艦隊です。女王陛下のウォースパイト号シリーズも遂に三章まで終了いたしました。第二次内惑星戦争、天王星沖海戦、そして第一次火星沖海戦と、本編に一切描写がない戦闘ばかり扱ってきた本シリーズですが、ブログ主さん曰く結構好評らしいので、私としてはとても嬉しい限りです。この小説をブログに載せてもらったことに対して、改めてブログ主ことA-140さんに感謝の意を述べたいと思います。そして読者の皆様、今後とも私の作品をよろしくお願いいたします。

西暦2191年、外宇宙より飛来したガミラス帝国の艦船と、国連宇宙海軍の艦船が天王星沖にて初めて接触した。最初は友好的な関係を築けるものと期待されていたが、結果として交渉は決裂、両国は戦争状態に突入した。後に“ガミラス戦役”や“ガミラス戦争”などと呼ばれる戦争の開幕である。
当初、国連宇宙海軍上層部は太陽系内に侵入してきたガミラス軍など簡単に撃滅できると信じていた。敵の数は、多く見積もっても50隻。一方、我の兵力はすぐ戦線に投入可能な艦だけでも300隻(これは第二次内惑星戦争後、各地でゲリラ戦を行っている火星軍残党を討伐するため、一時的に多くの艦が現役とされていたのが大きい)6倍の戦力差というのは、通常の戦争では必勝を確信できるほど圧倒的な差である。
直ちに、国連宇宙海軍は討伐軍を派遣した。討伐軍の主戦力となるのは、当時の二大強国であった米国と中国である。彼らの艦隊だけで、討伐軍の6割を占めた。投入される艦艇は、火星軍残党の地球襲撃を警戒し月面基地及び地球各所に配備されていた艦艇群である。戦闘艦艇だけでも160隻、更に今回は史上初めての外惑星系への大規模遠征であった為、補給艦や病院船といった補助艦艇も存分に付けられた。かくして、総数200隻を超える大艦隊が、天王星へ向けてはるばる遠征を開始したのであった。
しかし、旅路は順調であるとは言い難かった。地球圏出発後も解決されていなかった問題として「誰がこの遠征軍の指揮を執るのか?」というものがあった。というのも総司令官として、北米方面軍のジョージ・パストーレ中将と、極東方面軍のハン・チューリン中将が共に立候補したからである。更に問題だったのが、遠征軍に所属する米中艦艇の数がほぼ同数だったことであった。指揮下の艦艇数が多い方が全軍をも指揮するというわけにはいかなかったのである。そして、両者の指揮能力はほぼ同等と言われていた。
結局、遠征軍は能力や政治的公平性を鑑みて、総司令官を極東方面軍のジューゾウ・オキタ宙将、副司令官をパストーレ中将及びハン中将に定めたが、両者の確執は完全になくなったわけではなく、むしろより深くなってさえいた。
この戦いは、地球側の完全敗北としてよく知られている。だが、その一言を聞いただけでこの戦いの全てを知った気になるのはあまりにも傲慢である。このような無様な戦いでも、自らの誇りを忘れずに敵に立ち向かった勇敢な艦がいるのだ。そして、我らが偉大なるウォースパイト号もその内の一艦だった。

西暦2210年10月24日 J・L

西暦2191年 国連宇宙海軍 欧州方面軍所属 ジャック・オブライエン少尉(当時)

初めに
オブライエン氏は二年前のディンギル戦役において、乗艦である戦艦ロイヤル・オークと運命を共にされています。しかし、生前にオブライエン氏が遺していた音声データがこの度提供されました。この場において、このような貴重な証言を残してくださっていたオブライエン氏と、それを提供して下さったオブライエン氏の奥様であるエリザベス氏に、改めて感謝の意を述べたいと思います。

私はジャック・オブライエン、現在の階級は大尉だ。これから、私が経験したとある戦いについて話していきたいと思う。何故急にこんなことを始めたかって?年を取ってからというもの、自分がいつ死ぬか分かったもんじゃないのでね。こうして記録を残そうと思ったわけさ。これを見ている私以外の人間に言っとくが、このデータは私が死んでから公開するものだからな。決して、私が生きているうちに公開するんじゃないぞ。さて、では話を始めよう。
今回私が話すのは、私にとっての初めての戦いである天王星沖海戦についてだ。あの戦いは文字通り悲惨だった。だってそうだろ。人類史上、敵の三倍以上の戦力を投入して完敗した戦いがあるか?しかも相手には一隻も沈没艦が出ていないんだ。だがそんな戦いでも、私の乗艦であったウォースパイトは実に勇敢だった。乗っていたのが彼女でなかったら、私は今頃この世にはいなかっただろう。
さて、あの戦いで敗因と呼ばれているものはいくつかある。過度な慢心?司令部と前線指揮官の対立?不適切な艦隊運用?どれも私に言わせれば違うな。私が「天王星沖海戦での敗因は何だ?」と聞かれたらこう答えるね。“技術力の差”と。
今の地球防衛軍しか知らない奴には信じられないかもしれないが、当時は敵を傷つけることすら困難だったんだ。私は何度も見て来たよ。こっちの主砲が全弾命中して喜んでいたら、向こうは無傷でそれどころか反撃の砲火を放って来てるって場面をね。そんな光景を何度見ても生き残ってるのは、やっぱり運ってやつなんだろうな。まあ、その運も流石に底をついていそうだが。正直、ガミラスさんとの戦いでは一生分の運を使い果たした気がするね。
あの戦いに、我がロイヤル・スペース・ネイビーは保有するほぼ全ての戦力を投入していた。おそらく、政府のお偉いさん方はこの機に英国の実力を世界に見せつけようとしていたのだろう。今思えば実に馬鹿な話だった。そして偶然にも、我が軍は二ヶ月後に控えていた新国王即位式に乗じて行う予定だった観艦式の為、ちょうどモスポール保管されていた艦艇を引っ張り出していたところだった。だから、6隻のウォースパイト級と6隻のヨーク級を主力とするも、当然全艦が出撃可能だった。
圧巻だったよ。第二次内惑星戦争で活躍したウォースパイト、マレーヤ、バーラム、ヴァリアント、戦後に追加建造されたレナウン、レパルス。計6隻ものウォースパイト級が共に航行してる姿なんて、二度と見れないと思ったね。まあ、本来これは観艦式で見れるものだったのだろうけど。そうして、総数200隻に達する大艦隊は、野蛮な宇宙人を撃滅するために意気揚々と出撃していったってわけさ。考えが甘かったよ。外宇宙から飛来した宇宙人が、未だ太陽系すら制覇できていない人類よりも技術力が低いと思っていたなんてね。
この戦いは、まず序盤から躓いていった。最後まで宇宙人との開戦に反対していた、遠征軍指揮官のジューゾウ・オキタ提督が解任されたんだ。司令部が戦闘行動中(実際、領宙警備行動は発令されていた訳だし、こう言っても良いだろう)に前線指揮官を解任するなんて前代未聞だったよ。そして、これが原因で今まで鳴りを潜めていた米中軍のわだかまりが一気に沸騰したんだ。彼らは互いに相手の指揮下に入ることを承諾しなかった。これを抑え統率していたオキタ提督は、本当に素晴らしい人物だったと思うよ。で、米中両軍は、先遣艦のムラサメが敵の攻撃によって撃沈されたと知った瞬間、我先にと突撃していったよ。まだオキタ提督の後任の司令官も決まっていないのに。彼らは、物量の神話を未だ信じていたのだろう。多少強引な戦い方でも、物量で押しつぶせば勝てるってね。
でも実際はそうじゃなかった。敵?ガミラス帝国軍は、突撃して来た奴らから正確に旗艦だけを見抜いたんだ。そして奴らは、たった一航過で30隻以上の艦艇を血祭りに上げたよ。その中には、米宇宙海軍旗艦のニューヨークと、中国宇宙海軍旗艦のペキンも含まれていた。当然、遠征軍は大混乱に陥った。いくら第二次内惑星戦争を生き延びた精鋭が集まっているとはいえ、総司令官が解任された直後に副指令が戦死するなんて出来事に対処することはできなかった。結局、我々は戦力を分断され、奴らに各個撃破されていった。戦隊レベルで統制を回復していた部隊もあったようだが、その程度では圧倒的な力を誇る奴らには勝てなかった。そして、混乱する遠征軍をまとめ上げるべく新たな指揮官が任命された。それが、我らがウォースパイトに乗艦されていたロドニー・カニンガム中将だったというわけさ。とは言っても、混乱している部隊をまとめるのはとても困難だった。
まずカニンガム提督は、個人的な親交もあった極東方面軍第二空間護衛隊群司令官のオキタ提督(彼は全軍の指揮権こそ剥奪されたものの、自らが直接指揮している護衛隊群の指揮権は未だ有していた。)と共同し、二人が指揮していた王立宇宙海軍、航宙自衛隊、及び比較的損害が少なかった南亜方面軍、南米方面軍を中心に部隊を再編した。とは言っても、戦闘中にやっていることだからまともな再編成なんてできやしなかった。ただ、これは戦力を集中させるという意味合いが強かったから、その点では成功していた。
完全ではなかったが、生き残っていた艦艇のほとんどが集結したのを確認したカニンガム提督は、全艦に撤退命令を発令した。「ここで戦っても犬死にするだけだ。ならば今日の屈辱には耐え、明日勝利の芽を掴み取ろう。」そうカニンガム提督が言っていた。当然、多くの戦友が殺されているのにも関わらず、何の成果も得られないまま撤退することに関しては批判の声もあったよ。特に戦闘序盤で損害が大きかった米中軍に多かったかな?でも、そんな奴らに構っている暇はなかった。そうこうしているうちにも、味方の数はどんどん減り続けていたからだ。結局、カニンガム提督は撤退を頑なに拒む連中を放置し、そのまま撤退を開始したんだ。これに関しては、私は正しい選択だったと思う。というより、あの状況ではこれ以外の選択を取りようがなかったんだ。こうして、悲惨な撤退戦が始まった。因みに、この時点で半数以上の艦が宇宙の藻屑と化していた。
さて、ここに一枚のメモリーカードがある。これには一体、何が入ってると思う?実はこれにはな、天王星沖でのあの悲惨な撤退戦の通信記録が入ってるんだ。今からこれを流そうかと思う。こいつはまだ誰にも聞かせちゃいない。暇な時間を見つけては、ずっとこいつの解析ばっかりやっていた。その努力が実ったのか、ようやくテープの一部分が再生できるようになった。何でこんなものを持っているかって?私は通信兵でね。あの戦いではウォースパイトに通信士として乗り組んでいた。怒号、罵声、悲鳴、断末魔、色々聞いたよ。それを聞いていて、私は彼らの声を後世に伝えてやりたいと思ったんだ。こんな価値の低いデータなんて、帰還したら真っ先に削除されるに決まってる。そう思って、私は通信機からメモリーカードを抜き出そうとしたその時だった。ウォースパイトの艦橋付近をかすめた陽電子砲弾が、弾の表面から艦橋内部に向けてプラズマ流を放ってきた。それが直撃して、私の前に鎮座していた通信機は火花と破片を噴き出した。私はそれをもろに浴びてしまった。私の体には、今も多数の傷や火傷の痕が残っている。幸運にも顔だけはヘルメットをかぶっていたので無事だったがね。
もちろん、そのような大怪我を負えば後方へ移送されることは確実だった。そのことを十分理解していた私は、被弾のどさくさに紛れて黒焦げになった通信機からメモリーカードを回収したのさ。当然だが、外がまる焼けになっているのに中身は無事・・・なんてことにはなってなかった。中身もきちんと焼き上がっていたさ。でも、私はあきらめなかった。ここであきらめてしまうのは、あの戦いで死んでいった者達に申し訳が立たなかったから。あの怪我のおかげで、私は今まで生き残ってしまった。本当なら、私は火星沖で死ぬはずだったのに。ただ一人、私だけが生き残ってしまった。ふん、何だかこう言っていると、まるで私が死に場所を求めているようだな。安心しろ。私はまだ死ぬつもりはない。
前置きが長くなってしまったな。では再生するとしよう。死者達の遺言を。
【------ちら、北米方面空間戦------暫定旗艦、USSアーカンソー。現在敵艦隊と交戦中。我が方の被------大。救援を、救援を------------ガッデム!どう見ても全部当たってただろ!お前ら卑怯だ-----------にたくない、俺はまだ死にたくないんだよぉぉぉぉ!畜生めぇぇぇぇっ------------らはHMSバーラム。本艦は機関に重大な損傷を負い、地球への帰還が不可能となった。よって我々はこの宙域にとどまり、最後まで友軍の撤退を援護する。どうか地球で待っている人達にこう伝えてほしい。戦艦バーラムは最後まで勇敢に戦ったと・・・地球連邦万歳!英国万歳!神よ国王陛下を守り給え!------------ん、ばあちゃん。ごめん。俺今からそっちに行くわ------------そっ、------の救助は完了------------はい、見える限りは全員収------した!よしっ!機関始------大船速!早急に現宙域を離脱す------------えっ、広東が沈んだ・・・山東に天津も・・・残っているのは俺達だけか・・・------------ううっ・・・クレア・・・愛し・・・て・・・るぞ------------うおぉぉぉぉっ!生き延びてやる!絶対に、俺は生き延びてやるぞぉぉぉぉ------------こちら、JMS雪風。生存者はいませんか?誰か生きている人はいませんか?応答してください!誰か、誰か!------------】

天王星沖海戦、あの戦いでは実に多くの兵士が命を落としていった。だが、もはや彼らのことを覚えている人間はほんの一握りだ。そう、私のような者くらいだ。だからせめて、彼らのことを記憶の片隅にとどめていて欲しい。忘れても構わん。忘れたらまたこれを聞いて思い出してくれれば良い。どうか彼らの戦いを覚えていて欲しい。彼らの戦いを語り継ぐこと、それがこの私の最期の使命なのだ。
さて、では私はもう行かなければならない。何でも新造された戦艦に配属される新兵の教官をやって欲しいそうだ。この老兵に与えられた最後の仕事だ。今まで死んでいった者達の分まで、しっかりと働いてくるさ。ではまた、今後この音声がより多くの人の耳に届かんことを願う。

オブライエン氏の音声はここで終了していますが、最後に彼の最期について少しだけ述べたいと思います。
オブライエン氏はその後、再編された第一艦隊の戦艦ロイヤル・オークに配備され、新兵の教育を行っていました。ロイヤル・オークはデザリアム戦役の戦訓から有人化が推し進められており、何よりも乗組員の練度を高める必要があったからです。
そして、ディンギル帝国の艦隊が太陽系に電撃的に侵攻してきました。当時、主力艦隊は銀河中心部で発生した“異変”を調査すべく外宇宙へと赴いており、太陽系内で即応可能な戦力は再編中の第一艦隊だけでした。直ちに第一艦隊は、土星宙域に進軍中のディンギル帝国軍を迎撃すべく出撃して行きました。まだ乗組員の訓練が終了していなかったのに。その後第一艦隊は土星沖にて接敵、自艦隊の練度不足を懸念していた司令官は通常砲戦を断念、艦隊各艦に装備されていた拡大波動砲による先制攻撃で一気に殲滅しようと試みたのです。拡大波動砲の充填時間は波動砲チャージャーを接続すれば約6秒。絶対に回避できない攻撃のはずでした。
しかし、不幸にも拡大波動砲の発射するタイミングと、敵艦がワープするタイミングが一致してしまっていました。そして拡大波動砲発射直後で身動きの取れない第一艦隊に、計500隻以上の宙雷艇が襲い掛かったのです。正に“飽和攻撃”でした。しかし第一艦隊にはこれを防ぐことはできませんでした。第一艦隊には人員不足が原因で防空駆逐艦が定数の六割程度しか配備されておらず、更にその半数が月面基地で整備中だったからです。また肝心の防空戦闘でも、練度不足が原因で効果的な迎撃戦が行えませんでした。結局、第一艦隊は七割以上の艦艇を撃破され壊滅しました。
オブライエン氏の乗艦である戦艦ロイヤル・オークの最期は、随伴艦である巡洋艦バーミンガムが記録しています。最後に、バーミンガムの戦闘録を掲載して本稿を終わりにしたいと思います。

ロイヤル・オークに命中したハイパー放射ミサイルは三発であった。一発目は左舷中央部に命中した。しかし、これは中央部のバルジ状の部分が爆発を吸収したのか艦体にはそれほど損傷は見られなかった。続いて二発目が左舷対空砲群を直撃。この攻撃によって左舷対空砲群は全滅した模様である。更に三発目が艦橋中央部に着弾。この被弾でロイヤル・オークは戦闘能力を完全に消失した。この時点で艦内では、生き残った最上級士官が総員退艦を発令していた模様である。この光景を見て我々も乗組員救助の為に急行した。しかし我々は、ほとんどの人間を助けることが出来なかった。ロイヤル・オーク乗組員で救助出来たのはウィリアム・ライナー少尉以下46名であった。 

バーミンガム戦闘禄より一部抜粋

金剛型宇宙戦艦――西暦2171年に一番艦金剛が就役して以降、世界中で数多くの同型艦が建造された。しかし、金剛型というのはあくまで極東管区(主に旧日本国領)での呼び名であって、その他の地域では違った呼称であったことはあまり知られていない。これはガミラス戦役後の世界の中心が極東に移ったことも一因であるだろうが、我々は少しでも記憶しておかなければならない。歴史の狭間に埋もれてしまった者達が、一体どのように戦い、そして散っていったのかを。私はジェームズ・リーランド少佐、地球防衛軍情報部第七〇七情報隊所属、歴史を未来に伝える者である。

西暦2210年10月20日 J・L

第一章 初陣

西暦2180年時 国連宇宙軍欧州方面軍所属 ロイ・キャメロン中尉(当時)の回想

私は今、アイルランド島にあるベルファストという街に来ている。ここは港街ということもあって、一昨年のアクエリアス危機(ディンギル戦役)の影響が色濃く残っている地域である。ガミラス戦役後この街は地球防衛海軍の軍港となったが、それ以外には特に何もないさびれた街である。ガミラス戦役以前は何かあったのかもしれないが、遊星爆弾で全てが吹き飛んでしまった今となっては知る由もない。しかし、ガミラス戦役以前のこの街を知っている者が一人、郊外の家で一人寂しく漁業を営んでいた。彼の名はロイ・キャメロン、とても65才には見えない屈強な体付きの男であり、かつては我らがロイヤル・スペース・ネイビーの一員だった漢であった。
「私が軍に居たのは、もうかなり前のことです。おそらく皆さんが一番興味をお持ちであろうガミラス戦役の時、私は既に第一線を退いていました。そのような私に話せることはあまりありませんが、それでもよろしいのですか?」キャメロン氏は、私と玄関で挨拶を交わし、最低限の家具しか置かれていない小さなリビングに私を招いた直後、そう私に尋ねて来た。
「構いません。私が求めているのは、むしろそのような話ですから。」そう私はキャメロン氏に自らの好奇心をありのまま伝えた。この時の私は、この文章を読む読者よりも彼の話に興味があったのかもしれない。
分かりました。それでは、少しばかり老人の長話に付き合ってもらいましょう。まず初めに、私が乗っていた艦の話をさせていただきたいと思います。私が乗艦していたのは、ウォースパイト級戦艦一番艦ウォースパイト。西暦2177年に就役した当時最新鋭の戦艦でした。
ウォースパイト級と名乗ってはいますが、実はこれ我が国・・・いえ、旧英連邦だけの呼称であったのです。あの戦艦の正式な名称は“国連宇宙海軍第三世代型主力戦艦”という、何とも味気無い名前でした。そこで各国は、この戦艦に独自の艦級名を付けていったのです。名前は国によってまちまちでした。今この戦艦を呼ぶときは、その活躍度から極東管区の“金剛型(コンゴウ・クラス)”という呼び名が一般的ではありますが、それ以外にも色々な名前がありました。
例えば、同じ極東管区でも当時中国と呼ばれていた国は、この戦艦を“火竜級(ファイヤードラゴン・クラス)”と呼称していました。この火竜級を中国は合計で16隻建造したらしいです。次に、今は北米管区となっている旧アメリカ合衆国、こちらでは“ヴァージニア級”と呼称されていました。こちらは細かな改修を重ねながら合計で20隻建造され、このクラスでは最大の建造数を誇ったらしいです。その他にも、旧ドイツ連邦共和国の“リュッツオウ級”、旧フランス共和国の“ノルマンディー級”、旧イタリア共和国の“カイオ・デュイリオ級”、旧ロシア連邦共和国の“アルハンゲリスク級”、旧インドの“ヴィクラント級”、旧ブラジル連邦共和国の“リオ・グランデ級”、など世界中で様々な呼称がありました。全ての同型艦を合わせたら70隻くらいは居たと思います。最も、これらの同型艦全てが一堂に会する機会は遂に訪れなかったのですが。もし70隻が同じ場所に集結したら、それはさぞ圧巻であったのでしょうね。
すみません。話がそれました。ともかく、私は戦艦ウォースパイトに栄光ある第一期生として乗り組んだのです。当時私は機関科に所属していましたので、当然ですがウォースパイトの機関室に配属されました。この搭載してある新型核融合炉がまた癖がありましてね、配備された直後はとても苦労したものです。でも最新鋭のエンジンに触れられるというだけでも、当時の私はすごく興奮しました。
やがてウォースパイトに配備されてから3年の月日が流れ、やっとエンジンの扱いにも慣れてきたころ、恐れていたことが遂に現実となりました。そうです、第二次内惑星戦争が始まったのです。少し前から多くのマスメディアが「地球と火星、数年以内に再び開戦か!」などと煽っていましたから、この事を聞いても私は「なんだ、また始まったのか。」と思うばかりでした。実に拍子抜けな言葉ですが、当時の私には戦争という言葉は誇大すぎたのです。
やがて私の初陣がやってきました。地球圏に侵入してきた火星軍を撃滅すべく、月面基地から次々と艦艇が飛び立っていきました。旧英連邦も、保有する4隻のウォースパイト級以下28隻(これは英連邦が保有する艦艇の7割弱に相当しました)の艦艇を出撃させました。もちろん、その中には私の乗るウォースパイトも含まれていました。そして艦隊は出撃してから二日後に火星軍と接触、後に“月軌道会戦”と呼ばれる戦いが勃発しました。
戦いの経緯としては、地球軍と火星軍は互いをほぼ同時に探知、しかる後に同航戦に突入。結果地球軍が圧勝したそうです。というのも実は、私は機関士ですから戦闘中は基本的に機関室に籠っています。戦闘が始まった途端に駄々をこねだすエンジンと向き合わなければならず、気が付いたら戦闘が終わってしまっていたのです。戦闘後、周りは「火星野郎の艦を何隻撃沈した。」だの、「俺の操舵で攻撃をギリギリのところで回避した。」だの会話が弾んでいましたが、私はその会話に加わることが出来ませんでした。それが悔しかった私は、次の戦いの時はこっそり機関室を抜け出して戦闘を見に行こうとさえ思いました。
そして月軌道会戦から数ヶ月後、軍令部である作戦が立案されました。少数の精鋭部隊をもってして火星沖に突入、当時地球に甚大な被害をもたらしていた遊星爆弾(ガミラスの物みたいに放射能が発生するわけではなく、火星軍のやつは単なる隕石です。)の発射基地を破壊する。というものでした。この作戦を聞いた瞬間、我々は飛び上がるように喜びました。何せ今までは地球に襲来する火星軍や隕石の迎撃ばかりを行っていた我々が、初めて攻めに転ずることが出来るのですから。この喜びは兵隊になった者にしかわからないでしょう。
早速、作戦は具体的なものへとなっていきました。火星沖に突入する部隊の指揮官には、極東方面軍所属の提督が任命されました。提督は国連宇宙海軍内で行われる合同演習の際、実に見事な戦法で自軍の三倍以上の敵に勝利したことがありました。それを見た北米方面軍の指揮官は当初「まぐれだ。次はああ上手くはいかんさ。」などと余裕の表情で発言したそうです。最もその自信も、次の演習で彼の部隊が提督の艦隊に全滅判定を叩き出されるまででしたが。このようなこともあって、上層部は彼の能力を高く評価していたらしいです。実際、先の月軌道会戦で一番戦功を挙げたのは彼の艦隊でしたからね。これは余談ですが、彼が旗艦としていた戦艦コンゴウの当時の艦長が、かの有名なアドミラル・オキタだったそうです。オキタの艦長としての能力の高さが、提督にあのような戦法を取らせることを可能にしたのだと思います。
そして我らがウォースパイト号が、栄えある突撃隊に参加することが決定したのです。この事を聞いた瞬間、私の中ではある思いが膨らみました。先ほど申し上げた「戦闘をこの目で見てみたい。」というものです。歴史の一ページに確実に書き込まれるであろう戦いに参加できるのです。どうせなら、特等席で見たいと思うのも自然な気持ちであると思います。
月軌道会戦より四ヶ月後、突撃隊が多くの人に見送られながら月面基地を離陸して行きました。戦艦4隻、巡洋艦12隻、駆逐艦16隻、計32隻の艦隊の姿はとても壮観でありました。突撃隊は月面上空にて艦隊陣形を組んだ後、火星へと進路を向けました。今ならここで敵前へのワープを行うところなのですが、当時はワープ航法など存在しなかったので、突撃隊は進路を欺瞞しつつ火星に接近しました。やがて我々は、火星側にその存在を知られることなく火星宙域に到着することが出来ました。完全なる奇襲でした。そして提督は次のような通信文を全軍宛てに発信しました。「我ラハ来タリ、ソシテ見タリ、誓ッテ共ニ勝タン。全軍突撃セヨ!」
火星宙域には、目標となるべき物が大きく分けて三つありました。一つ目は火星本星、火星政府の中枢は本星にありましたからこれは重要な戦略目標と言えました。二つ目は軌道上に浮かぶコロニー群、これらに居住しているのはほとんどが民間人でしたが、中には軍用ステーションも混じっていました。三つ目は火星の衛星フォボス、ここは火星軍が要塞を築き上げており、火星軍のほぼ全ての部隊がここに集結していました。またフォボスのマスドライバー基地が、地球に向けてあの忌まわしき遊星爆弾の雨を降らせていたのです。当然ながら、提督は三つ目の衛星フォボスを目標としていました。火星本星はいずれ叩かなければいけない目標とはいえ、早急に攻略する必要はありませんでした。コロニー群への攻撃は、民間人を戦闘に巻き込む可能性があったので攻撃目標から除外されました。いくら敵国人とはいえ民間人を戦闘に巻き込むべきではない。戦争に関して、提督はどちらかというと古いタイプの考えを持っている軍人でした。その点において、彼は国連宇宙海軍の善き部分を体現していた人間でした。それに、わざわざ敵が決戦の地を用意してくれているのにも関わらず、それを避けるかのような行為は武人である提督にとっては到底容認できなかったのでしょう。そして我々の主目標もまた、決戦の地にあったのですから。
かくして、後に“フォボス沖海戦”と呼ばれる戦いが勃発しました。旗艦コンゴウ以下、突撃隊は衛星フォボスに向けて突撃を開始しました。当然、艦のエンジンは常に最大出力で運転し続けなければならず、我々機関士は相当苦労させられました。外では両軍の砲火が飛び交い、いくつもの閃光がきらめく中、我々は必死にエンジンと格闘していたのです。
やがて戦闘も半ばにさしかかった時、それまでは何とか運転し続けていたエンジンに故障が発生したのです。とは言っても、その故障はどの艦でも日常茶飯事で起きているようなもので、平時であれば無視していても問題ないほどの小さなものでした。しかし、ここで私の耳に悪魔が囁いたのです。私は戦闘中なのにも関わらず、機関長に「交換用の部品を持ってくる。」と一言告げた後に、勝手に持ち場を離れて見張り所へと向かったのです。
見張り所から私が見た光景は、それまでエンジンに囲まれていた私からしてみれば幻想的にすら思えました。主砲から放たれたエメラルドグリーンのビームが、赤く塗装された火星軍の戦艦をまるで風船を割るかのように一撃で粉砕していました。ガミラス戦役時の記録映像をさんざん見せられた人にはとても信じられないかもしれませんが、当時、高圧増幅光線砲は「4発以上命中すれば撃沈確実。」と言われるくらい強力な兵装だったのです。また、我らがロイヤル・スペース・ネイビーのE級突撃宇宙駆逐艦が、敵の戦闘衛星に肉薄雷撃を行い撃破する様子も見ることが出来ました。ムラサメ型宇宙巡洋艦とヨーク級宇宙巡洋艦が統制砲撃を行い、フォボスの表面に設置された電磁加速砲を破壊する光景も見ました。
ですが、私の中で一番印象に残っている光景は、コンゴウとウォースパイトとの連携攻撃です。一方が攻撃を行っている最中、もう一方は常に反対側を警戒し続け火星軍の接近を許しません。更に二艦の機動も凄まじく、僚艦が随伴できないことがしばしばありました。本当にこの二艦のコンビネーションには圧倒されました。開いた口が塞がらないとは正にあのようなことを言うのだなぁ、などと思ったりもしました。そして私は、このような戦いぶりを見せられる艦の乗組員であることに改めて誇りを感じたものでした。やがて突撃隊はマスドライバー基地に到達すると、保有する全火力をマスドライバー基地に向かって叩き込みました。幾条もの光線やミサイルが降り注ぎました。装甲など無きに等しいマスドライバーが、この攻撃に耐えられる道理はありませんでした。攻撃は数分間続き、その後にマスドライバーは跡形もなく崩壊していきました。我々はその光景を見て歓喜しました。「これで戦争が終わるぞ!」「もう怯えながら空を見つめる必要はないんだ!」そのような歓声が艦内各所から聞こえてきました。私も彼らと同じ気持ちでした。しかし、現実は非情でした。この戦いには、まだ余興が残っていたのです。
火星宙域に、突撃隊より遅れて本隊が到着しました。到着してから直ぐに、本隊旗艦のヴァージニアから一通の電文が突撃隊全艦に向けて発信されました。その内容は次のようなものでした。「突撃隊ノ見事ナル奮戦ニ感謝ス、後ノ任務ハ我々ガ実施スル、諸君ラハ引キ続キ静観サレタシ。」これに疑問を抱いた人間はいませんでした。突撃隊の各艦は既に弾薬を消耗しつくしており、到底次の戦闘を行えるような状態ではなかったからです。しかし、この後に本隊が行ったことを鑑みると、私にはこの通信も我々にくぎを刺したように聞こえるのです。いや、彼らとしてはそのつもりだったのでしょう。彼らが行った行為は、常人なら後ろめたさを感じる程度では済まないことでしたから。
本隊の連中は、我々があれほど戒めた軌道上のコロニー群への攻撃を開始したのです。それも軍用ステーションだけではなく、民間ステーションへも攻撃を行ったのです。私は当初、彼らが何を行っているのか理解できませんでした。何故彼らは民間人を攻撃・・・・いや、虐殺しているのか?その答えは、母なる星地球にありました。当時、地球は火星からの遊星爆弾攻撃に晒されており、多くの市民が地下シェルター(後の地下都市)への避難を余儀なくされていました。鬱蒼とした地下での生活の中、地球市民は怒りの矛先を自然と火星人へ向けていました。そのような状況下、市民の感情は遂に爆発し、一部の人間は火星人の抹殺を唱えるまでになりました。これは地球の血塗られた歴史の再現でした。宇宙に進出するようになってもなお、人類の精神構造は何ら変化を見せていなかったのです。ガトランティスは全生命の抹殺を唱えていたらしいですが、果たしてそれとこれとはどう違うのでしょうか?ただ対象が小さくなっただけではないでしょうか?根本的にやっていることは変わらないと私は思います。
このような経緯があり、国連宇宙海軍は火星への虐殺的な攻撃を自国民と政府に後押しされる形で半ば強引に決定したのです。彼らが行った攻撃は、正に“虐殺”とか“過剰攻撃”などという言葉が似あったものでした。一部の軍用ステーションが僅かな抵抗を行っていましたが、ほとんどが無抵抗のまま爆発に呑まれていきました。後に彼らは「我々は抵抗者を攻撃しただけだ。降伏した者には寛大な処置を与えている。」と発言していました。詭弁もはなただしいものです。私はこの目でしっかりと見ました。火星の民間商船が、白旗を掲げた瞬間に高圧増幅光線砲に撃ち抜かれたところを。無防備都市宣言を出したコロニーが、隊列を組んだ艦隊によって完膚なきまでに破壊される姿を。しかし、本隊の人間全員がこの虐殺的攻撃を行っていたわけではありませんでした。中には攻撃命令を拒否した部隊もあったのです。そしてその中には、ウォースパイトの同型艦であるマレーヤ、バーラム、ヴァリアントの3隻も含まれていました。私は、偉大なるロイヤル・スペース・ネイビーとウォースパイト級が、この非人道的行為に参加していないことがせめてもの救いでした。
――国連宇宙海軍はコロニー群を壊滅させた後に火星本星への攻撃を慣行、首都であるアルカディアシティには無数の弾丸が降り注いだ。特に火星の玄関口との称されたアルカディアポートは徹底的に攻撃され、優雅なデザインの宇宙港は瓦礫へと変わった。準備射撃が終了した後、上空に待機していた強襲揚陸艦より空間騎兵隊が降下、ほぼ廃墟と化したアルカディアシティを占領した。火星政府首脳陣は、半数が砲撃で死亡し残りは降下してきた空間騎兵隊によって確保された。かくして、第二次内惑星戦争は終結したのである―― 
そう、歴史の教科書には書いてあります。ですが、あなたがたには是非とも知ってもらいたい。この光景を見ていた我々がどう感じ、どう思ったかを。
まず、あの後私は営倉にぶち込まれることを覚悟していました。当然です。戦闘中に無断で持ち場を離れたのですから。ですが、いつまでたっても何も起こりませんでした。不思議に思った私は、いつも営倉替わりに使われている空き部屋へと向かいました。(艦内スペースに余裕がないウォースパイトには、専用の営倉を設置する余裕はありませんでした。)するとそこには、本来であれば私をここに連れて来るはずであった機関長が居たのです。どうやら機関長は、コロニー群への攻撃をやめさせようとエンジンを緊急停止させ、それから機関室内に立てこもったらしいのです。隣の部屋に居た砲雷長も、似たような理由でここに入れられているようでした。「正直、あの時俺は本気で奴らを撃沈しようと思ったよ。」そう砲雷長は営倉内から私に話しかけてきました。砲雷長は、残存している火器を使用し、ウォースパイトの傍でコロニー群への攻撃を行っていた中国艦を撃沈しようとしたらしいのです。無論、実際に砲弾が放たれることはありませんでした。艦長が実力で止めにかかったからだそうです。「でさ、艦長が『お前の気持ちは十分に分かる。皆も同じ気持ちだ。だからと言って、皆が勝手な行動をとり始めたらおしまいだ。俺はどうなっても良い。だが、お前らには輝かしい未来があるだろう?』なんて言っちゃってさ。そう言われちゃったら、俺もおとなしくなるしかないじゃないか。畜生め!」そう砲雷長は壁の向こう側に向かって激昂していました。そしてこの次に機関長が言った言葉を、私は永遠に忘れることはないでしょう。「狂ってる。敵も味方も、皆狂ってる。」この言葉が、今の状況全てを表しているのではないかと当時の私は思いました。
第二次内惑星戦争後、私は退役しました。もう戦いはこりごりでした。ガミラス戦役の際には軍に戻らないかとのお誘いも受けました。あの時は人類が一丸となって戦っていたので、正直後ろめたさもありました。でも私は断りました。代わりに私は、戦闘以外で人類に貢献しようとしました。そういうわけで、ガミラス戦役時は地下都市に電気を供給する核融合炉の管理を行っていました。ウォースパイトの核融合炉を扱っていたくらいですから、民間の核融合炉を扱うなど造作もないことでした。ガミラス戦役後もしばらくは核融合炉をいじっていたのですが、やがて私の技術を次の世代に伝えることに専念していきました。その方がより良いと気が付いたのです。そして今から四年前、この街に移り住んで来ました。それからはずっとこの調子です。
「私の話はこれで終わりです。」そう言って、キャメロン氏は立ち上がった。そして彼は窓に近づいた。窓の外には、海岸線とそれに続く大海原が広がっている。既に日はだいぶ傾いており、夕焼けの光が窓から差し込んでいた。窓から差し込んでいる温かい光が、キャメロン氏の体を包み込んでいる。「ウォースパイト、実に良い艦でした。私のような軍人の最期を飾るには余りにも立派すぎる。でもそんな彼女も、第一次火星沖海戦で星の海へと還りました。その後、彼女の名前を継ぐ艦が誕生しましたが、私にとっては彼女こそが・・・・いえ、今もなお火星沖で眠っている彼女だけがウォースパイトなのです。」やがて日は沈み、辺りは漆黒に染まった。私はキャメロン氏にお礼を告げ、彼の家から立ち去った。漆黒の闇に浮かぶさびれた家には、時代の波に呑まれ、そして消えゆく老人がただ一人佇んでいた。

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