(筆者より:こちらは現状、オリジナル全シリーズ(復活編除く)とPSゲーム版シリーズ、リメイク版3199の1章までを参考にし、そこに筆者の独自設定の世界観を混ぜた「書きかけ」の文章です。これ自体が作品というよりお話の種になればよいと考えて制作したものですので、色々と抜けているところがあるかもしれません。何かありましたらコメントなどご意見いただければ幸いです)
ガトランティス戦役終結後の軍備計画
2203年、ガトランティス戦役が終結したのを受けた地球防衛軍は『地球の規模に見合った軍備の最適化』という、いささか控えめな方針の下で新たな軍備計画を開始することになる。これは未だガトランティス帝国軍の残存部隊が太陽系外周に跳梁しているとはいえ、その本軍および本拠地たる都市帝国を壊滅させたことによって多少なりとも戦時体制の緩和が可能になったことが影響しているが、同時に『波動砲艦隊』と呼ばれた大型艦偏重の急速かつ大規模な軍備が地球連邦に多大な影響を与えた反省から、一時的に軍主導で軍備、特に艦艇の建造に一定の節度を設けることで市民および政府の支持を取り付けるという側面もあったと思われる。そのためこの頃の軍備を『軍主導による軍縮の時代』と評する識者も存在している。
(ただ、戦役によって大量に失われた人的資源の確保については防衛軍内でも特に優先的に予算が回されており、こちらに関しては軍の規模拡大を言われていた時期であることを留意する必要はある)
そうした事情から、防衛軍はガトランティス戦役で損失した艦艇の補充に関しては既存の艦そのまま、あるいはさほど大規模ではない改設計を施した艦艇を、それもガトランティス残存軍に対応可能な最低限の建造数で軍備を整えることとなった。これにはまず第一に「艦を多数建造しても、それに配備すべき乗員が存在しない」という苦しい事情があったが、当然のこと予算や資材などの不足も勘案すべきであることは言うまでもない。つまるところ、2204年中頃まで続いたガトランティス残存軍との交戦時期においては、防衛軍は「何もかも不足している」状況での軍備を迫られていたということになると言えるだろう。
その後、太陽系内における戦時下が終結を見た2204年後半から2205年初頭にかけて、地球防衛軍は改めて『地球の規模に見合った軍備の最適化』という方針はそのままに、新たな軍備計画の検討を開始する。
このときの『新たな軍備計画』は、それまでの戦役で得られた戦訓の多くを取り込んだ新たな艦艇増産計画が中心となっており、その中で当然、既存艦艇の大幅な改設計はもちろんのこと、艦隊側の一部から代替を検討すべきという主張があった中小型艦艇(これらはガトランティス帝国軍との交戦において「敵艦に比して艦型が小型なため戦闘力が不足している」と指摘されていた)を中心に新たに設計された新型艦を増備するなどの抜本的な改正が行われる予定だったことが、当時の資料を読み解くとある程度伺うことができる。
だが、2205年になってこの防衛軍の軍備計画を一変させる事態が勃発する。それは同盟国であるガミラス帝国によるガルマン星の占領とそれに伴うボラー連邦との戦争状態への突入、そして同時期に勃発した、デザリアム帝国による『イスカンダル事変』である。
新たな仮想敵に対応する軍備の再検討
2205年に生じたこれら事象の結果、同時に2つの星間国家(ガミラスからの情報がある程度期待できたボラー連邦に対して、デザリアム帝国のほうはまだ不明瞭な点のほうが多かったが)を仮想敵として抱えることになった地球連邦および防衛軍の衝撃は決して小さくなかったと推測できるが、当然、この状況に対応する必要が生じたのは言うまでもない。そのため防衛軍内で検討中であった再軍備計画はいったん廃案となり、改めて2206年度から『二国標準』と俗に呼ばれることとなる、想定されたボラー連邦およびデザリアム帝国の侵攻に対応する軍備計画の立案が開始された。
この俗称『二国標準』計画における、特に新鋭艦によって編成されることが予定されていた艦隊の大まかな骨子は以下の通りである。
・実際問題として、現在(2206年時)の地球に星間国家二ヵ国と互角の軍備を整える国力はない
・上記の前提から、可能な限り既存技術の改良によって保有する兵器を強化、特に波動砲の威力増大により敵大規模艦隊ないし大型移動要塞を確実に掃討することが可能な艦隊を整備する
・戦艦部隊を掩護すべき巡洋艦、駆逐艦については、最大限の大型化を視野に入れ他国同種艦に優る戦闘力を付与する
・これら新型艦艇によって編成された艦隊には、可能な限り太陽系より外縁、可能であればカイパーベルトより外の宙域で敵艦隊を迎撃、撃滅を可能とする外洋(参考資料の原文ママ)航行能力を与える
・現有艦艇の同型艦ないし改良型は順次建造を続行するが、可能な限り早期に新型艦艇の建造へと移行する。なお新艦隊整備の完了後に既存艦艇は二線級戦力とし、主に太陽系内の防衛任務に充当する
・将来的には、ガトランティス戦役時における連合艦隊(総数200隻程度)規模の新艦艇配備を目標とする
結果論からすればいかにも無理のある計画と言うしかないのだが、当時の防衛軍、ひいては地球連邦政府にとってボラー連邦と戦争状態に突入すること、あるいはデザリアム帝国がイスカンダル事変の報復として侵攻してくるのは最大限警戒するべきであり、最悪、これら両国が同時に侵略行動を開始する可能性も想定しなければならなかった以上、このような軍備計画が真剣に議論されたのも無理からぬことと筆者も考える次第である。
ともあれ、後にB型戦艦、B型巡洋艦、C型駆逐艦(※筆者注:いずれもオリジナル完結編に登場する艦艇のこと)となる、ディンギル戦役前に配備が開始された艦艇の原案については、この軍備計画に基づいて艦政本部で早期に検討が開始された。だが、これら新艦艇の設計案が完成する前に、再びその計画を狂わせる事態が勃発することになるのである。
デザリアム戦役による粛軍と派閥抗争
2207年、グランドリバースシステムを利用したデザリアム帝国軍の奇襲に対し、防衛軍は相応に対応策を用意していたものの、内通者の存在もあって地球そのものが占拠されるという非常事態に発展した。更にこのデザリアム戦役の勃発に加え、様々な要因からボラー連邦とも戦争状態に突入することとなってしまった地球連邦および防衛軍は、ガトランティス戦役と同等レベルの人類存亡の危機に立たされることとなってしまう。
結果として、地球はこの戦役を乗り越えることに成功し、ボラー連邦との慢性的な戦争状態という問題は残ったものの、人類滅亡の危機からは何とか逃れることができた。しかし人類の内部、特に防衛軍首脳部や軍に関わる軍需企業の中からデザリアム帝国への内通者を出したことにより、防衛軍は軍備計画以前にその組織の大幅な改変を迫られることとなった。
そのため、後に「2208年の大粛軍」と呼ばれる綱紀粛正が防衛軍内で行われた。この粛軍の影響は多岐に渡り、結果として防衛軍は多くの軍人、軍属を退役させざるを得なくなり、軍需企業もかなりの数が(国防兵力維持のため、ある程度の年限は設けられたものの)軍の発注から締め出されるという異常事態に立ち至ることとなる。
もちろん、デザリアム戦役前には開始の段階に至っていた『二国標準軍備』はこれによって実行がほぼ不可能となったのだが、戦役の被害を勘案、また軍内部で大きな粛正が行われた結果として再度軍備計画の大幅な路線変更を行うこともまた難しくなっており、やむを得ず防衛軍首脳部は艦政本部に新艦艇の設計のみならず、艦艇数の調整や実際の建造に必要な権限を追放された軍需産業から移管する方策を採ることとなった。
この措置は当時どうしても避けられないものだったと筆者も認識しているが、これによって今まで様々な部署が分担して行っていた艦艇の建造に関する権限が文字通り艦政本部によってほぼ完全に集約されたため、その『強化された艦政本部の権限を利用して』どのような軍備を行うかについて防衛軍内部で派閥抗争が勃発してしまう。
ここで言う『派閥抗争』とは主に兵科ごとに分かれた士官たち、それも各兵科の強硬派と言うべき者らが、極論すれば『自説の優位性について空理空論を並べ立て、不毛な議論を繰り返す』といったものであった。何人か調停を試みる将官も存在したが、地球防衛軍の創設以来、全軍の調停役として機能していた藤堂平九郎防衛軍統括司令長官が、身内からデザリアムとの内通者を出していたために当時その権限を十全に用いるのが困難になっていたことがあり、各派閥を融和させる努力はほぼ無に帰してしまった。
それでも、派閥抗争の主役となった各兵科の強硬派の士官たちがあまりに近視眼的なものであったことを危惧する士官も多く存在しており、特にこの時期に艦政本部長を務めて各派閥の調停に尽力した高石範義宙将や、自身の属する宙雷閥のみならず、かつて教官時代に培った人脈を生かして若い士官たちに自制を促した堀田真司宙将補、歴戦の士官として全軍の抑え役となり時に厳格な態度を示した山南修宙将らの努力が目立った。そして藤堂長官もまた防衛軍内部に対する調停工作、あるいは一部強硬派士官の予備役編入など硬軟織り交ぜた対応で派閥抗争に対処する姿勢を見せたことで、2209年度初頭には一応ではあったものの、防衛軍内部におけるこうした派閥抗争は沈静化することとなった。
この事態収拾は後の地球防衛軍における『再びの一致団結』への布石として重要な要素を占めるのだが、当面は新型艦による軍備の遅延、あるいは実施された軍備の歪さといった悪影響のほうが目立つことになる。ともあれ2208年の大粛軍を経て実施段階に入った地球防衛軍の新艦隊整備は、2209年度中頃には規模こそ『二国標準』の予定よりはかなり小規模であったものの、ある程度軌道に乗って新鋭艦が続々と艦隊に配備されるようになったのである。
『新艦隊の戦力発揮に不安あり』
だが新型艦艇の設計が急速に具体化していく中で、当初の『二国標準計画』で謳われた「新型波動砲の威力によって敵艦隊を殲滅する」という前提で整備された新艦隊に疑問を持つ士官が現れるようになる。
その代表は先述した堀田宙将補で、彼は戦艦戦力については「ほぼ問題ない」という立場だったものの、設計の段階で『不足する波動砲艦戦力を補うべく建造する』とされたB型巡洋艦については「D級戦艦に総合的な能力、特に防御で劣るB型巡洋艦に戦艦級の代替は困難ではないか?」と、B型巡洋艦の設計中に指摘している。だが、この頃は防衛軍内部の派閥抗争がまだ続いている状態だったため、堀田の意見は砲術科士官の強硬派によって封殺されてしまう。
また、堀田はやはり設計中のC型駆逐艦に関して「駆逐艦によって護衛すべき艦艇を多数抱えた艦隊内で、駆逐艦の重要な役割である機動副砲として用いるには相応の数量を揃える必要がある。それを鑑みるとC型駆逐艦は艦型が大きく量産性に不安があり、十全な数量を確保することが可能か疑問がある」との指摘も行ったが、こちらも「外洋航行能力を確保するために必要である」として容れられることはなかった。
そして、続々と竣工した新型艦が艦隊に配備され始めていた当時、堀田は内惑星警備艦隊司令長官の職にあった。この艦隊は二線級とされたガトランティス戦役前後に建造された中小型艦を中心に編成されていたが、新艦艇に一抹の不安を覚えた堀田は、自身が率いる艦隊と新艦艇で編成された小部隊との『訓練』を行い、その中で自説の正否を確かめることにしたのである。
新たに創設された地球防衛艦隊(連合艦隊ではない)の首脳部としても、新鋭艦のお披露目にはちょうどいいという判断があったのだろう。早速、互いに戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦8の編成で金星宙域において戦闘訓練が行われた。
しかし、最終的な勝敗判定こそ新艦艇部隊の勝利に終わったこの演習は、実は新鋭艦たちにとっては想定外の苦戦の連続だった。内惑星艦隊を率いる堀田がガミラス大戦以来の熟練した宙雷士官だったことを割り引いても、小型軽快なB型駆逐艦(※筆者注:オリジナルさらば、2駆逐艦)部隊にしばしば戦線の突破を許して隊列の維持が困難になり、その隙に旧式となっていたD級戦艦や巡洋艦戦隊の砲撃に晒されるという失態を演じてしまったのである。
この演習で特に問題とされたのは、艦隊全体の防空に当たるC型駆逐艦の搭載砲過小によって生じた敵への対応能力の不足と、艦隊戦力全体を下支えするべき巡洋艦がこの時はすべて『戦艦』に類似した運動をすることで「防御力に劣る戦艦として動いてしまっている」という点だった。これを受けて、堀田は改めて防衛軍首脳部に意見具申をしている。
「現状の新鋭艦による艦隊は、戦艦、巡洋艦の大型化による被弾面積の増加、護衛の駆逐艦の砲門数不足といった問題から、特に敵軽快部隊に接近戦を挑まれた場合においてその十全たる戦力発揮に不安がある。対処法としては機動副砲の役目を果たすべき駆逐艦の砲を現在の大口径砲から中口径砲に換装し、それとは別に外洋航行能力を維持しつつ小型化した高速高機動な駆逐艦を可能な限り揃えることが最善と考えられる」
この意見は防衛軍首脳部でかなり真剣に検討されたようだが、当時の資料によるとC型駆逐艦の主砲を中口径砲へと換装する再設計を行う以外は今回も容れられることはなかった。これは度重なる戦役を経てその都度復興してきた地球にとって、想定外のものも含めて様々な状況に対応できるような艦隊を整備するのは、予算や資材の確保、粛軍の影響で規模が縮小された設計部門の多忙さなどから重荷となっていたのが大きな要因と考えられる。
(なお堀田は「新造が難しければ既存小型艦艇の有効活用を考慮しては」とも進言しているが、こちらは乗員の不足を理由に却下されている)
結局、敵軽快部隊への新艦隊の対処としては、C型駆逐艦が形成する速射砲による弾幕と、当時ようやく再建の目途がついた航空隊が共同して担当することとなった。こうして「拡大波動砲の威力を以て侵攻してくる敵戦力の大半を撃破、しかる後に通常兵器で残敵を掃討する」戦術を基本とした『新・波動砲艦隊』と一部で呼ばれることになる新鋭艦隊を一定数整備したところで、地球は2210年のディンギル戦役を迎えることになるのである。
ガトランティス戦役終結後の軍備計画
2203年、ガトランティス戦役が終結したのを受けた地球防衛軍は『地球の規模に見合った軍備の最適化』という、いささか控えめな方針の下で新たな軍備計画を開始することになる。これは未だガトランティス帝国軍の残存部隊が太陽系外周に跳梁しているとはいえ、その本軍および本拠地たる都市帝国を壊滅させたことによって多少なりとも戦時体制の緩和が可能になったことが影響しているが、同時に『波動砲艦隊』と呼ばれた大型艦偏重の急速かつ大規模な軍備が地球連邦に多大な影響を与えた反省から、一時的に軍主導で軍備、特に艦艇の建造に一定の節度を設けることで市民および政府の支持を取り付けるという側面もあったと思われる。そのためこの頃の軍備を『軍主導による軍縮の時代』と評する識者も存在している。
(ただ、戦役によって大量に失われた人的資源の確保については防衛軍内でも特に優先的に予算が回されており、こちらに関しては軍の規模拡大を言われていた時期であることを留意する必要はある)
そうした事情から、防衛軍はガトランティス戦役で損失した艦艇の補充に関しては既存の艦そのまま、あるいはさほど大規模ではない改設計を施した艦艇を、それもガトランティス残存軍に対応可能な最低限の建造数で軍備を整えることとなった。これにはまず第一に「艦を多数建造しても、それに配備すべき乗員が存在しない」という苦しい事情があったが、当然のこと予算や資材などの不足も勘案すべきであることは言うまでもない。つまるところ、2204年中頃まで続いたガトランティス残存軍との交戦時期においては、防衛軍は「何もかも不足している」状況での軍備を迫られていたということになると言えるだろう。
その後、太陽系内における戦時下が終結を見た2204年後半から2205年初頭にかけて、地球防衛軍は改めて『地球の規模に見合った軍備の最適化』という方針はそのままに、新たな軍備計画の検討を開始する。
このときの『新たな軍備計画』は、それまでの戦役で得られた戦訓の多くを取り込んだ新たな艦艇増産計画が中心となっており、その中で当然、既存艦艇の大幅な改設計はもちろんのこと、艦隊側の一部から代替を検討すべきという主張があった中小型艦艇(これらはガトランティス帝国軍との交戦において「敵艦に比して艦型が小型なため戦闘力が不足している」と指摘されていた)を中心に新たに設計された新型艦を増備するなどの抜本的な改正が行われる予定だったことが、当時の資料を読み解くとある程度伺うことができる。
だが、2205年になってこの防衛軍の軍備計画を一変させる事態が勃発する。それは同盟国であるガミラス帝国によるガルマン星の占領とそれに伴うボラー連邦との戦争状態への突入、そして同時期に勃発した、デザリアム帝国による『イスカンダル事変』である。
新たな仮想敵に対応する軍備の再検討
2205年に生じたこれら事象の結果、同時に2つの星間国家(ガミラスからの情報がある程度期待できたボラー連邦に対して、デザリアム帝国のほうはまだ不明瞭な点のほうが多かったが)を仮想敵として抱えることになった地球連邦および防衛軍の衝撃は決して小さくなかったと推測できるが、当然、この状況に対応する必要が生じたのは言うまでもない。そのため防衛軍内で検討中であった再軍備計画はいったん廃案となり、改めて2206年度から『二国標準』と俗に呼ばれることとなる、想定されたボラー連邦およびデザリアム帝国の侵攻に対応する軍備計画の立案が開始された。
この俗称『二国標準』計画における、特に新鋭艦によって編成されることが予定されていた艦隊の大まかな骨子は以下の通りである。
・実際問題として、現在(2206年時)の地球に星間国家二ヵ国と互角の軍備を整える国力はない
・上記の前提から、可能な限り既存技術の改良によって保有する兵器を強化、特に波動砲の威力増大により敵大規模艦隊ないし大型移動要塞を確実に掃討することが可能な艦隊を整備する
・戦艦部隊を掩護すべき巡洋艦、駆逐艦については、最大限の大型化を視野に入れ他国同種艦に優る戦闘力を付与する
・これら新型艦艇によって編成された艦隊には、可能な限り太陽系より外縁、可能であればカイパーベルトより外の宙域で敵艦隊を迎撃、撃滅を可能とする外洋(参考資料の原文ママ)航行能力を与える
・現有艦艇の同型艦ないし改良型は順次建造を続行するが、可能な限り早期に新型艦艇の建造へと移行する。なお新艦隊整備の完了後に既存艦艇は二線級戦力とし、主に太陽系内の防衛任務に充当する
・将来的には、ガトランティス戦役時における連合艦隊(総数200隻程度)規模の新艦艇配備を目標とする
結果論からすればいかにも無理のある計画と言うしかないのだが、当時の防衛軍、ひいては地球連邦政府にとってボラー連邦と戦争状態に突入すること、あるいはデザリアム帝国がイスカンダル事変の報復として侵攻してくるのは最大限警戒するべきであり、最悪、これら両国が同時に侵略行動を開始する可能性も想定しなければならなかった以上、このような軍備計画が真剣に議論されたのも無理からぬことと筆者も考える次第である。
ともあれ、後にB型戦艦、B型巡洋艦、C型駆逐艦(※筆者注:いずれもオリジナル完結編に登場する艦艇のこと)となる、ディンギル戦役前に配備が開始された艦艇の原案については、この軍備計画に基づいて艦政本部で早期に検討が開始された。だが、これら新艦艇の設計案が完成する前に、再びその計画を狂わせる事態が勃発することになるのである。
デザリアム戦役による粛軍と派閥抗争
2207年、グランドリバースシステムを利用したデザリアム帝国軍の奇襲に対し、防衛軍は相応に対応策を用意していたものの、内通者の存在もあって地球そのものが占拠されるという非常事態に発展した。更にこのデザリアム戦役の勃発に加え、様々な要因からボラー連邦とも戦争状態に突入することとなってしまった地球連邦および防衛軍は、ガトランティス戦役と同等レベルの人類存亡の危機に立たされることとなってしまう。
結果として、地球はこの戦役を乗り越えることに成功し、ボラー連邦との慢性的な戦争状態という問題は残ったものの、人類滅亡の危機からは何とか逃れることができた。しかし人類の内部、特に防衛軍首脳部や軍に関わる軍需企業の中からデザリアム帝国への内通者を出したことにより、防衛軍は軍備計画以前にその組織の大幅な改変を迫られることとなった。
そのため、後に「2208年の大粛軍」と呼ばれる綱紀粛正が防衛軍内で行われた。この粛軍の影響は多岐に渡り、結果として防衛軍は多くの軍人、軍属を退役させざるを得なくなり、軍需企業もかなりの数が(国防兵力維持のため、ある程度の年限は設けられたものの)軍の発注から締め出されるという異常事態に立ち至ることとなる。
もちろん、デザリアム戦役前には開始の段階に至っていた『二国標準軍備』はこれによって実行がほぼ不可能となったのだが、戦役の被害を勘案、また軍内部で大きな粛正が行われた結果として再度軍備計画の大幅な路線変更を行うこともまた難しくなっており、やむを得ず防衛軍首脳部は艦政本部に新艦艇の設計のみならず、艦艇数の調整や実際の建造に必要な権限を追放された軍需産業から移管する方策を採ることとなった。
この措置は当時どうしても避けられないものだったと筆者も認識しているが、これによって今まで様々な部署が分担して行っていた艦艇の建造に関する権限が文字通り艦政本部によってほぼ完全に集約されたため、その『強化された艦政本部の権限を利用して』どのような軍備を行うかについて防衛軍内部で派閥抗争が勃発してしまう。
ここで言う『派閥抗争』とは主に兵科ごとに分かれた士官たち、それも各兵科の強硬派と言うべき者らが、極論すれば『自説の優位性について空理空論を並べ立て、不毛な議論を繰り返す』といったものであった。何人か調停を試みる将官も存在したが、地球防衛軍の創設以来、全軍の調停役として機能していた藤堂平九郎防衛軍統括司令長官が、身内からデザリアムとの内通者を出していたために当時その権限を十全に用いるのが困難になっていたことがあり、各派閥を融和させる努力はほぼ無に帰してしまった。
それでも、派閥抗争の主役となった各兵科の強硬派の士官たちがあまりに近視眼的なものであったことを危惧する士官も多く存在しており、特にこの時期に艦政本部長を務めて各派閥の調停に尽力した高石範義宙将や、自身の属する宙雷閥のみならず、かつて教官時代に培った人脈を生かして若い士官たちに自制を促した堀田真司宙将補、歴戦の士官として全軍の抑え役となり時に厳格な態度を示した山南修宙将らの努力が目立った。そして藤堂長官もまた防衛軍内部に対する調停工作、あるいは一部強硬派士官の予備役編入など硬軟織り交ぜた対応で派閥抗争に対処する姿勢を見せたことで、2209年度初頭には一応ではあったものの、防衛軍内部におけるこうした派閥抗争は沈静化することとなった。
この事態収拾は後の地球防衛軍における『再びの一致団結』への布石として重要な要素を占めるのだが、当面は新型艦による軍備の遅延、あるいは実施された軍備の歪さといった悪影響のほうが目立つことになる。ともあれ2208年の大粛軍を経て実施段階に入った地球防衛軍の新艦隊整備は、2209年度中頃には規模こそ『二国標準』の予定よりはかなり小規模であったものの、ある程度軌道に乗って新鋭艦が続々と艦隊に配備されるようになったのである。
『新艦隊の戦力発揮に不安あり』
だが新型艦艇の設計が急速に具体化していく中で、当初の『二国標準計画』で謳われた「新型波動砲の威力によって敵艦隊を殲滅する」という前提で整備された新艦隊に疑問を持つ士官が現れるようになる。
その代表は先述した堀田宙将補で、彼は戦艦戦力については「ほぼ問題ない」という立場だったものの、設計の段階で『不足する波動砲艦戦力を補うべく建造する』とされたB型巡洋艦については「D級戦艦に総合的な能力、特に防御で劣るB型巡洋艦に戦艦級の代替は困難ではないか?」と、B型巡洋艦の設計中に指摘している。だが、この頃は防衛軍内部の派閥抗争がまだ続いている状態だったため、堀田の意見は砲術科士官の強硬派によって封殺されてしまう。
また、堀田はやはり設計中のC型駆逐艦に関して「駆逐艦によって護衛すべき艦艇を多数抱えた艦隊内で、駆逐艦の重要な役割である機動副砲として用いるには相応の数量を揃える必要がある。それを鑑みるとC型駆逐艦は艦型が大きく量産性に不安があり、十全な数量を確保することが可能か疑問がある」との指摘も行ったが、こちらも「外洋航行能力を確保するために必要である」として容れられることはなかった。
そして、続々と竣工した新型艦が艦隊に配備され始めていた当時、堀田は内惑星警備艦隊司令長官の職にあった。この艦隊は二線級とされたガトランティス戦役前後に建造された中小型艦を中心に編成されていたが、新艦艇に一抹の不安を覚えた堀田は、自身が率いる艦隊と新艦艇で編成された小部隊との『訓練』を行い、その中で自説の正否を確かめることにしたのである。
新たに創設された地球防衛艦隊(連合艦隊ではない)の首脳部としても、新鋭艦のお披露目にはちょうどいいという判断があったのだろう。早速、互いに戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦8の編成で金星宙域において戦闘訓練が行われた。
しかし、最終的な勝敗判定こそ新艦艇部隊の勝利に終わったこの演習は、実は新鋭艦たちにとっては想定外の苦戦の連続だった。内惑星艦隊を率いる堀田がガミラス大戦以来の熟練した宙雷士官だったことを割り引いても、小型軽快なB型駆逐艦(※筆者注:オリジナルさらば、2駆逐艦)部隊にしばしば戦線の突破を許して隊列の維持が困難になり、その隙に旧式となっていたD級戦艦や巡洋艦戦隊の砲撃に晒されるという失態を演じてしまったのである。
この演習で特に問題とされたのは、艦隊全体の防空に当たるC型駆逐艦の搭載砲過小によって生じた敵への対応能力の不足と、艦隊戦力全体を下支えするべき巡洋艦がこの時はすべて『戦艦』に類似した運動をすることで「防御力に劣る戦艦として動いてしまっている」という点だった。これを受けて、堀田は改めて防衛軍首脳部に意見具申をしている。
「現状の新鋭艦による艦隊は、戦艦、巡洋艦の大型化による被弾面積の増加、護衛の駆逐艦の砲門数不足といった問題から、特に敵軽快部隊に接近戦を挑まれた場合においてその十全たる戦力発揮に不安がある。対処法としては機動副砲の役目を果たすべき駆逐艦の砲を現在の大口径砲から中口径砲に換装し、それとは別に外洋航行能力を維持しつつ小型化した高速高機動な駆逐艦を可能な限り揃えることが最善と考えられる」
この意見は防衛軍首脳部でかなり真剣に検討されたようだが、当時の資料によるとC型駆逐艦の主砲を中口径砲へと換装する再設計を行う以外は今回も容れられることはなかった。これは度重なる戦役を経てその都度復興してきた地球にとって、想定外のものも含めて様々な状況に対応できるような艦隊を整備するのは、予算や資材の確保、粛軍の影響で規模が縮小された設計部門の多忙さなどから重荷となっていたのが大きな要因と考えられる。
(なお堀田は「新造が難しければ既存小型艦艇の有効活用を考慮しては」とも進言しているが、こちらは乗員の不足を理由に却下されている)
結局、敵軽快部隊への新艦隊の対処としては、C型駆逐艦が形成する速射砲による弾幕と、当時ようやく再建の目途がついた航空隊が共同して担当することとなった。こうして「拡大波動砲の威力を以て侵攻してくる敵戦力の大半を撃破、しかる後に通常兵器で残敵を掃討する」戦術を基本とした『新・波動砲艦隊』と一部で呼ばれることになる新鋭艦隊を一定数整備したところで、地球は2210年のディンギル戦役を迎えることになるのである。