「敵艦見ゆ、艦影多数、右舷4時より近づく」
冥王星宙域。第一艦隊旗艦「キリシマ」艦橋で様々な報告が飛び交っているが「彼」は……名を明かすのは後のこととして、この言葉に特に耳を傾けていた。
(さあ、どれだけ来る?)
いずれにせよ、こちらは22隻。これでも現在の国連宇宙軍にとっては最大、最強の宇宙艦隊ではあるのだが、目前に迫る敵に比べてあまりに非力であることは目に見えている。「キリシマ」艦橋の左前方に座る彼は、その職務ゆえにそれを理解し尽していた。
艦種識別、という艦長の問いに、レーダー手の返答は絶望的だった。
「超弩級宇宙戦艦1、戦艦7、巡洋艦22、駆逐艦多数」
自艦隊の総力と敵巡洋艦の数が等しいが、この巡洋艦部隊だけでも真っ向から勝負すれば味方は全滅だ。それでもなお、敵はほぼ全艦隊を出撃させてきているように思える。あるいは今の味方の行動が「囮」であることを承知しているのかどうか。
(まあ、用兵の基本ではある。未確認の敵には常に最大戦力をぶつける。そして我が艦隊は実質地球にとって最後の艦隊。こうなるのは当然だろうな)
妙に冷めた頭でそう考える彼だが、これから自分が何をすべきかは理解している。
「戦闘配置」
艦隊司令長官の命令に続いて、彼もまた艦内通信で指示する。
「各砲、左旋回。距離7千5百、相対速度変わらず。測的開始、仰角合わせ」
彼は、この「キリシマ」の砲雷長。戦闘において砲雷撃戦を指揮するのが役目なのだ。
「地球艦隊より返信『馬鹿め!』」
照準を合わせていたら、通信士のそんな声が聞こえた。恐らく降伏勧告でもあったのだろうが、今ここにいる長官ならそう答えるしか選択肢はないだろう。1年ほど前から「キリシマ」に砲雷長として乗り組んで以来この長官に仕えているわけだが、そういう強い信念の持ち主なのは承知している。
敵がこの応答に砲撃で答え、何隻かの味方艦が爆発する。たった一斉射で1隻ずつ沈んでしまうのだが、味方が不甲斐ないのではない。敵が「悪魔と言うしかないほど」強すぎるのだ。
「まだだ」
長官の一声で、射程外なのに打ち返したくなった自分の衝動を抑える。そして、程なくだった。
「敵艦、射程に入った。照準よしっ!」
「全砲門開け、テーッ!」
命令一下、彼は射撃用の引き金を引く。緑色の光線が深緑の敵艦に向かって進んでいく。
(……どうなるかは、目に見えているがな)
彼が思った瞬間、宇宙空間ではあり得ないにも関わらず、金属を叩いた音が聞こえたような感覚を覚える。それくらい見事に味方の砲撃は敵の光学装甲に弾かれていた。
敵の攻撃は激しさを増し、次々と味方艦が沈んでいく。しかし、彼にはその光景を見ているだけの余裕はない。貫通せずともひたすら射撃し続け、敵の光学装甲だけでも少しずつ削っていく。そうすれば、いつか僅かながらでも反撃の機会は訪れるはずなのだ。
(うっ!)
いつの間にか、自分の乗る「キリシマ」が被弾したのは分かった。しかし、自らの左脇腹から妙な痛みを感じるまでには、いくばくかの時間を要した。
そっと左手を当ててみると、手のひらが真っ赤になっていた。
(くっ……こんなところで)
まだ、自分は死ぬわけにはいかない。この「キリシマ」に乗る長官や艦長、そして自分を含めた多くの乗組員には、この戦いから生きて帰ってするべきことがあるのだ。
「ヤマト計画」。
それに参加するために「彼」こと現「キリシマ」砲雷長、堀田真司二佐は死ぬことが許されないのだった。
そうこうしているうちに「キリシマ」も被弾が相次いでいた。仮にも戦艦であるから、他艦のように簡単に爆沈しないだけましではあるが、このまま戦闘が長引けばいずれどうなるか目に見えている。しかし死ぬことはもちろん許されないが、役目を果たすまではこの戦場を離れることもできないのだ。
負傷していることを悟られないように、堀田は気力を振り絞って各砲塔へ指示を飛ばす。
「落ち着け、敵の光学装甲は確実に削れている! このままいけばいずれ反撃の機会は必ず訪れる! 砲手、観測所の各員、決して諦めるなっ!」
この声に、司令長官である沖田十三と「キリシマ」艦長の山南修の双方が驚いた。日常だろうと戦闘時だろうと、自分たちの知るこの砲雷長はこんな大声を発するような人間ではなかったからである。しかし、戦局はそれに構っていられるような状況ではなく、二人とも何も言わなかった。
だんだん、堀田は意識が遠のきそうだったが、それでも引き金からは決して手を離さずに引き続ける。そして、待ちに待った声が聞こえた。
「司令部に暗号を打電、天の岩戸、開く」
沖田のその声は、この作戦で第一艦隊が果たすべき役割を果たしたということであり、同時に堀田もまた決断を下していた。
「長官」
今度は沖田や山南が知る、いつもの堀田の冷静沈着な声だった。
「意見具申、これより砲雷撃による機動戦にて敵の陣形を崩し、戦場離脱の足掛かりとしたく」
「許可する」
沖田の声に応じ、山南が命令を下す。
「砲雷長は敵艦隊の攪乱に入れ! 航海長、最初のミサイル発射後に直ちに最大戦速、敵艦隊を攪乱せよ!」
「「了解」」
航海長と堀田が同時に応答し「キリシマ」は8発のミサイルを発射し、これが光学装甲を削られたガミラスの小型艦に幾ばくかの損傷を与える。
そして「キリシマ」は急加速と転舵を繰り返し、堀田もそれに合わせて命令を出す。
「艦首魚雷、全門発射。その後直ちに二番砲塔は砲撃、敵の隊列を崩せっ!」
これまでの、ある意味で単調だった砲撃戦とは違う急速機動。そしてこの機動あってこその堀田の戦闘指揮だった。彼の専門は宙雷、20世紀初頭から続く日本海軍、そして国連宇宙軍極東支部、実質日本宇宙海軍のお家芸たる雷撃戦こそが本領なのだ。
この「キリシマ」の機動で、一瞬だけ敵艦隊の足が止まった。
「第一艦隊は現時刻を以て作戦を終了、撤退する」
その沖田の命令が出た直後、レーダー手が声を上げた。
「左舷上方より敵駆逐艦近づく、速いっ!」
艦橋に居た全員が視線を上に向けたが、その後ろに味方艦がいた。
(「ゆきかぜ」)
それが誰の艦か、堀田は知っている。こんな大胆な追跡戦をやる、やれる艦長は、もう地球にはそれほど多く残っていなかった。
その「ゆきかぜ」が、見事に魚雷で敵駆逐艦を撃沈した。
(古代君……君らしいな、助かったよ)
心の中で礼を述べた、その次の瞬間だった。
(う……)
急に、堀田は自分の意識が途絶えそうになる感覚を覚える。何とか立て直そうとするが、もはやかなわないことだった。
「砲雷長っ! 軍医、ただちに艦橋へ!」
そこまでは聞こえたが、次に目が覚めた時、堀田はもう担架の上だった。
「堀田君」
沖田が声をかけてきた。
「長官、申し訳ありません。堀田二佐、いったん下がらせていただきます」
「しっかりするのだ。君には、まだやってもらわねばならんことがある。ここで死んではいかん」
「……承知しております。あの艦に、乗らなければなりませんから」
「……」
「長官、いえ……沖田さん」
思わず、姓で呼んでしまっていた。
「万一、私にもしものことがあれば……後は古代君に任せてください。彼ならきっとやり遂げられます」
「……わかった」
その場の全員が「ああ、砲雷長は『ゆきかぜ』がどうなったか知らないのか」と悟った。
「では、いったん……失礼いたします」
右手で敬礼した次の瞬間、再び堀田の意識は失われ、それが戻るまでにひたすら長い時間を要することとなった。
目が覚めた途端、自分が何をしているのか全くわからなかった。視野に入ったのは「キリシマ」の病室ではない真っ白な天井、そして自分がベッドに横たわっていることに気付くのに、堀田はいくらかの時間を要した。
「自分は、何をやっていたんだ?」
周りを見渡すと、医者がいる。しかし、その医者は自分の知る、そして敬愛する沖田の主治医ではなかった。
「先生!」
いきなり堀田に大声で呼びかけられ、医師は驚いたようだった。
「ここはどこですかっ! 今はいったい、いつですか!?」
「やめんか、堀田」
今度は聞きなれた声が聞こえる。堀田にとっては航宙軍士官候補生学校の学生時代の恩師であり、沖田と並んで現在の地球で生き残った提督たちの中でも屈指の艦隊指揮官だ。
「土方さん。ヤマトは、ヤマトはどうしましたかっ!」
堀田の動揺ぶりとは対照的に、土方竜、現空間防衛総隊司令官はあくまで冷静な趣きだった。
「ヤマトが発進してもう一週間になる。しかし、あの船に乗艦できず運が悪かったと嘆いてもらうわけにもいかん」
「えっ?」
「ヤマトの発進前に、坊の岬沖の基地がガミラスに露呈し、攻撃を受けてそこにいた要員は壊滅した。お前が「キリシマ」で無事だったら、恐らくそこで助からなかっただろう」
「……」
つまり、もし「キリシマ」で無事でも生きていられなかった、ヤマトに乗ることは叶わなかったということである。だが、今の自分はこうして生きている。これはどういうことか。
「自分は、死に損なっ……」
「馬鹿もん!」
久方ぶりに聞いた、土方の叱咤だった。
「この状況で死ぬことに逃げるのは俺が許さん。お前は生き残った。ならば、地球が救われるまで生き残った者としての務めを果たせ」
「……」
「その様子なら、治りも早いだろう。退院したらすぐ司令部に顔を出せ。ヤマトが発進してから、ただでさえ足りない人手がますます足りなくなっているからな。悠長に休んでいられては困る」
「……はい」
答えて、堀田はベッドから起き上がって土方に敬礼した。
「堀田真司二佐、退院次第、直ちに国連宇宙軍司令部に出頭いたします」
「よし、待っているぞ」
言って、土方は去っていく。しかし、その背中を見送る堀田の心境は複雑だった。
(ヤマトにも乗れず、仲間達からも死に遅れ……そして、大切な人はもういない。自分は、これから一体何をするべきなのか。何かできることがまだあるとでもいうのか)
このとき、堀田は知る由もなかった。
「死に損ない、ヤマトに乗り損なった」自分が、それ故に地球防衛軍の士官としての運命が大きく変わり、そして彼の知らないところで、多くの人々の運命もまた変えることになる将来を。
冥王星宙域。第一艦隊旗艦「キリシマ」艦橋で様々な報告が飛び交っているが「彼」は……名を明かすのは後のこととして、この言葉に特に耳を傾けていた。
(さあ、どれだけ来る?)
いずれにせよ、こちらは22隻。これでも現在の国連宇宙軍にとっては最大、最強の宇宙艦隊ではあるのだが、目前に迫る敵に比べてあまりに非力であることは目に見えている。「キリシマ」艦橋の左前方に座る彼は、その職務ゆえにそれを理解し尽していた。
艦種識別、という艦長の問いに、レーダー手の返答は絶望的だった。
「超弩級宇宙戦艦1、戦艦7、巡洋艦22、駆逐艦多数」
自艦隊の総力と敵巡洋艦の数が等しいが、この巡洋艦部隊だけでも真っ向から勝負すれば味方は全滅だ。それでもなお、敵はほぼ全艦隊を出撃させてきているように思える。あるいは今の味方の行動が「囮」であることを承知しているのかどうか。
(まあ、用兵の基本ではある。未確認の敵には常に最大戦力をぶつける。そして我が艦隊は実質地球にとって最後の艦隊。こうなるのは当然だろうな)
妙に冷めた頭でそう考える彼だが、これから自分が何をすべきかは理解している。
「戦闘配置」
艦隊司令長官の命令に続いて、彼もまた艦内通信で指示する。
「各砲、左旋回。距離7千5百、相対速度変わらず。測的開始、仰角合わせ」
彼は、この「キリシマ」の砲雷長。戦闘において砲雷撃戦を指揮するのが役目なのだ。
「地球艦隊より返信『馬鹿め!』」
照準を合わせていたら、通信士のそんな声が聞こえた。恐らく降伏勧告でもあったのだろうが、今ここにいる長官ならそう答えるしか選択肢はないだろう。1年ほど前から「キリシマ」に砲雷長として乗り組んで以来この長官に仕えているわけだが、そういう強い信念の持ち主なのは承知している。
敵がこの応答に砲撃で答え、何隻かの味方艦が爆発する。たった一斉射で1隻ずつ沈んでしまうのだが、味方が不甲斐ないのではない。敵が「悪魔と言うしかないほど」強すぎるのだ。
「まだだ」
長官の一声で、射程外なのに打ち返したくなった自分の衝動を抑える。そして、程なくだった。
「敵艦、射程に入った。照準よしっ!」
「全砲門開け、テーッ!」
命令一下、彼は射撃用の引き金を引く。緑色の光線が深緑の敵艦に向かって進んでいく。
(……どうなるかは、目に見えているがな)
彼が思った瞬間、宇宙空間ではあり得ないにも関わらず、金属を叩いた音が聞こえたような感覚を覚える。それくらい見事に味方の砲撃は敵の光学装甲に弾かれていた。
敵の攻撃は激しさを増し、次々と味方艦が沈んでいく。しかし、彼にはその光景を見ているだけの余裕はない。貫通せずともひたすら射撃し続け、敵の光学装甲だけでも少しずつ削っていく。そうすれば、いつか僅かながらでも反撃の機会は訪れるはずなのだ。
(うっ!)
いつの間にか、自分の乗る「キリシマ」が被弾したのは分かった。しかし、自らの左脇腹から妙な痛みを感じるまでには、いくばくかの時間を要した。
そっと左手を当ててみると、手のひらが真っ赤になっていた。
(くっ……こんなところで)
まだ、自分は死ぬわけにはいかない。この「キリシマ」に乗る長官や艦長、そして自分を含めた多くの乗組員には、この戦いから生きて帰ってするべきことがあるのだ。
「ヤマト計画」。
それに参加するために「彼」こと現「キリシマ」砲雷長、堀田真司二佐は死ぬことが許されないのだった。
そうこうしているうちに「キリシマ」も被弾が相次いでいた。仮にも戦艦であるから、他艦のように簡単に爆沈しないだけましではあるが、このまま戦闘が長引けばいずれどうなるか目に見えている。しかし死ぬことはもちろん許されないが、役目を果たすまではこの戦場を離れることもできないのだ。
負傷していることを悟られないように、堀田は気力を振り絞って各砲塔へ指示を飛ばす。
「落ち着け、敵の光学装甲は確実に削れている! このままいけばいずれ反撃の機会は必ず訪れる! 砲手、観測所の各員、決して諦めるなっ!」
この声に、司令長官である沖田十三と「キリシマ」艦長の山南修の双方が驚いた。日常だろうと戦闘時だろうと、自分たちの知るこの砲雷長はこんな大声を発するような人間ではなかったからである。しかし、戦局はそれに構っていられるような状況ではなく、二人とも何も言わなかった。
だんだん、堀田は意識が遠のきそうだったが、それでも引き金からは決して手を離さずに引き続ける。そして、待ちに待った声が聞こえた。
「司令部に暗号を打電、天の岩戸、開く」
沖田のその声は、この作戦で第一艦隊が果たすべき役割を果たしたということであり、同時に堀田もまた決断を下していた。
「長官」
今度は沖田や山南が知る、いつもの堀田の冷静沈着な声だった。
「意見具申、これより砲雷撃による機動戦にて敵の陣形を崩し、戦場離脱の足掛かりとしたく」
「許可する」
沖田の声に応じ、山南が命令を下す。
「砲雷長は敵艦隊の攪乱に入れ! 航海長、最初のミサイル発射後に直ちに最大戦速、敵艦隊を攪乱せよ!」
「「了解」」
航海長と堀田が同時に応答し「キリシマ」は8発のミサイルを発射し、これが光学装甲を削られたガミラスの小型艦に幾ばくかの損傷を与える。
そして「キリシマ」は急加速と転舵を繰り返し、堀田もそれに合わせて命令を出す。
「艦首魚雷、全門発射。その後直ちに二番砲塔は砲撃、敵の隊列を崩せっ!」
これまでの、ある意味で単調だった砲撃戦とは違う急速機動。そしてこの機動あってこその堀田の戦闘指揮だった。彼の専門は宙雷、20世紀初頭から続く日本海軍、そして国連宇宙軍極東支部、実質日本宇宙海軍のお家芸たる雷撃戦こそが本領なのだ。
この「キリシマ」の機動で、一瞬だけ敵艦隊の足が止まった。
「第一艦隊は現時刻を以て作戦を終了、撤退する」
その沖田の命令が出た直後、レーダー手が声を上げた。
「左舷上方より敵駆逐艦近づく、速いっ!」
艦橋に居た全員が視線を上に向けたが、その後ろに味方艦がいた。
(「ゆきかぜ」)
それが誰の艦か、堀田は知っている。こんな大胆な追跡戦をやる、やれる艦長は、もう地球にはそれほど多く残っていなかった。
その「ゆきかぜ」が、見事に魚雷で敵駆逐艦を撃沈した。
(古代君……君らしいな、助かったよ)
心の中で礼を述べた、その次の瞬間だった。
(う……)
急に、堀田は自分の意識が途絶えそうになる感覚を覚える。何とか立て直そうとするが、もはやかなわないことだった。
「砲雷長っ! 軍医、ただちに艦橋へ!」
そこまでは聞こえたが、次に目が覚めた時、堀田はもう担架の上だった。
「堀田君」
沖田が声をかけてきた。
「長官、申し訳ありません。堀田二佐、いったん下がらせていただきます」
「しっかりするのだ。君には、まだやってもらわねばならんことがある。ここで死んではいかん」
「……承知しております。あの艦に、乗らなければなりませんから」
「……」
「長官、いえ……沖田さん」
思わず、姓で呼んでしまっていた。
「万一、私にもしものことがあれば……後は古代君に任せてください。彼ならきっとやり遂げられます」
「……わかった」
その場の全員が「ああ、砲雷長は『ゆきかぜ』がどうなったか知らないのか」と悟った。
「では、いったん……失礼いたします」
右手で敬礼した次の瞬間、再び堀田の意識は失われ、それが戻るまでにひたすら長い時間を要することとなった。
目が覚めた途端、自分が何をしているのか全くわからなかった。視野に入ったのは「キリシマ」の病室ではない真っ白な天井、そして自分がベッドに横たわっていることに気付くのに、堀田はいくらかの時間を要した。
「自分は、何をやっていたんだ?」
周りを見渡すと、医者がいる。しかし、その医者は自分の知る、そして敬愛する沖田の主治医ではなかった。
「先生!」
いきなり堀田に大声で呼びかけられ、医師は驚いたようだった。
「ここはどこですかっ! 今はいったい、いつですか!?」
「やめんか、堀田」
今度は聞きなれた声が聞こえる。堀田にとっては航宙軍士官候補生学校の学生時代の恩師であり、沖田と並んで現在の地球で生き残った提督たちの中でも屈指の艦隊指揮官だ。
「土方さん。ヤマトは、ヤマトはどうしましたかっ!」
堀田の動揺ぶりとは対照的に、土方竜、現空間防衛総隊司令官はあくまで冷静な趣きだった。
「ヤマトが発進してもう一週間になる。しかし、あの船に乗艦できず運が悪かったと嘆いてもらうわけにもいかん」
「えっ?」
「ヤマトの発進前に、坊の岬沖の基地がガミラスに露呈し、攻撃を受けてそこにいた要員は壊滅した。お前が「キリシマ」で無事だったら、恐らくそこで助からなかっただろう」
「……」
つまり、もし「キリシマ」で無事でも生きていられなかった、ヤマトに乗ることは叶わなかったということである。だが、今の自分はこうして生きている。これはどういうことか。
「自分は、死に損なっ……」
「馬鹿もん!」
久方ぶりに聞いた、土方の叱咤だった。
「この状況で死ぬことに逃げるのは俺が許さん。お前は生き残った。ならば、地球が救われるまで生き残った者としての務めを果たせ」
「……」
「その様子なら、治りも早いだろう。退院したらすぐ司令部に顔を出せ。ヤマトが発進してから、ただでさえ足りない人手がますます足りなくなっているからな。悠長に休んでいられては困る」
「……はい」
答えて、堀田はベッドから起き上がって土方に敬礼した。
「堀田真司二佐、退院次第、直ちに国連宇宙軍司令部に出頭いたします」
「よし、待っているぞ」
言って、土方は去っていく。しかし、その背中を見送る堀田の心境は複雑だった。
(ヤマトにも乗れず、仲間達からも死に遅れ……そして、大切な人はもういない。自分は、これから一体何をするべきなのか。何かできることがまだあるとでもいうのか)
このとき、堀田は知る由もなかった。
「死に損ない、ヤマトに乗り損なった」自分が、それ故に地球防衛軍の士官としての運命が大きく変わり、そして彼の知らないところで、多くの人々の運命もまた変えることになる将来を。
だがそれは、人類滅亡までおよそ一年に迫った2199年の現在においては、到来するかどうかもわからない未来の話でしかなかった。
(筆者より 題名がどこかで聞いたような…と思われる方がいらっしゃるであろうことは理解しておりますが、筆者は実のところ「とある魔術~」「とある科学~」のどちらも視聴したことがありません(後者の主題歌は両方好きでよくカラオケで歌いますが)。そのため題名だけ参考にするような格好になってしまったことを両作のファンの皆様に深くお詫びいたします)
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