量産性向上と戦訓に応じた改設計
A型駆逐艦の量産性向上について、艦政本部が早期に出した結論は「武装の削減」というものだった。これは単に建造のための工数を減らすこともあったが、船体規模に対して過大気味だったA型駆逐艦の武装を削減することで、艦隊側が問題視した運動性や継戦能力の低さを改善することも目標としていた。
まず真っ先に、艦政本部は波動砲とそれに関連する機材の撤去を提案している。船体の半分ほどの面積を占有する波動砲の撤去は量産性向上のため確実な方法だったが、当然のこと波動砲搭載艦の建造を推進していた防衛軍首脳部は難色を示した。だが艦隊側、特に連合艦隊司令部がA型駆逐艦を波動砲艦として有効利用することの難しさを強硬に進言したこともあって、改設計初期の段階で波動砲の撤去が決まることになる。
波動砲以外の武装については極力、A型駆逐艦に搭載されたものを維持するという方針が立てられたが、製造能力に限界があって量産のためには不足をきたしていた主砲塔も、1隻あたりの使用数を減少させるため上甲板にある2番砲塔が撤去された。なお、これら武装の削減に対応する形で雷装は艦隊側からの要望もあって強化されることになり、三連装だった324mm宇宙魚雷発射管は四連装に変更、艦首下部の53cm宇宙魚雷発射管も倍の4門に強化された。
また、撤去された2番砲塔跡の甲板上に亜空間爆雷投射器が8門装備され、対空兵装は改設計された艦橋側面に13mm連装対空パルスレーザー砲が片舷あて2基搭載された。これと同時に、艦橋構造物の容積が減少されたことに伴って四連装対空ミサイル発射管が代償として撤去されている。
その他の装備については、A型駆逐艦で搭載された波動砲発射のための探知機器が多く降ろされており、これら波動砲関連の機材を撤去した空きスペースは予備魚雷の追加搭載と居住スペースの拡大に用いられた。同時に艦橋もより小型のものへと変更され、その後方の大型アンテナも撤去されている。また、艦首の波動砲口跡には亜空間用ソナーと波動防壁発生装置がコーン状のキャップ内に搭載され、特に後者はA型駆逐艦で不足とされた防御力を補う装備として重宝されたようだ。
こうしてまとめられた設計案は防衛軍に承認され、この際に『B型駆逐艦』という制式名称が与えられた。なお本型はA型『護衛』駆逐艦のように任務が制式名称には組み込まれなかったが、既にA型駆逐艦が実戦において護衛のみならず艦隊型駆逐艦として幅広い任務に従事していたこと、一部艦隊士官たちが「任務を制式名称に組み込むと、実戦において運用が硬直化する可能性が高くなる」と意見したこともあって、見送られたようである。
B型駆逐艦の特徴と評価
ここで、改設計されたB型駆逐艦の諸元を示す。
全長 113.8m
全幅 18.5m
主砲 Mk.42 12.7cm連装集束圧縮型陽電子衝撃砲 2基4門
その他兵装 Mk.33 76mm連装パルスレーザー砲 4基8門(艦尾全周)
Mk.32 324mm宇宙魚雷四連装発射管 4基(艦前部全周)
零式53cm宇宙魚雷発射管 4基4門(艦首下部)
九九式13mm連装対空パルスレーザー砲 4基8門(艦橋側面)
零式四連装対艦グレネード投射機 2基(対空兼務 船体側面)
零式亜空間爆雷投射器 8門(上甲板)
主機 艦本式次元波動機関 1基
搭載機 一式一一型艦上戦闘機『コスモタイガーⅡ』1機
(連絡、偵察用。戦闘装備での搭載は不可)
救命ボート複数
乗員 40名(戦時定数 33名程度で戦時運用が可能)
波動砲とその関連機器、一部兵装の増減などが目を引くが、船体構造や搭載兵器など大まかな仕様はA型駆逐艦とほぼ共通していた。
そして艦政本部の思惑通り、波動砲の撤去は量産性と機動性の向上双方に大きく寄与し、この点はA型駆逐艦の問題をほぼ解消していた。一方で波動砲と主砲1基の削減による火力低下は一部艦隊士官から懸念の声もあったが、設計当初のB型駆逐艦は単独ではなく艦隊での運用が前提となっていたことからか、実戦で特に大きな問題は発生しなかったとされる。
一方で雷装の強化は艦隊側、特に宙雷閥の士官からは大いに歓迎され、一部の士官からは『B型駆逐艦は磯風型駆逐艦の後継として理想の突撃駆逐艦である』との声も上がったという。反面、A型駆逐艦に続いて対空兵装に関しては(対空砲兼務の主砲が削減されたこともあって)更なる強化が求められたものの、こちらも単艦ではなく艦隊内で護衛艦として用いるに大きな不足ないと判断され、少なくとも建造開始当時はさほど重大な欠陥とはされなかったようだ。
総じて艦隊側のB型駆逐艦に対する評価は『機動性と雷装強化による継戦能力の向上により、全般として駆逐艦の任務を全うするにふさわしい艦となった』というものであり、防衛軍首脳部がこだわっていた波動砲が撤去されたことについての批判はそれほど起こらなかったらしい。だがガトランティス帝国軍との戦闘が拡大していく中で量産が開始されたB型駆逐艦は、再び防衛軍首脳部と宙雷閥との間の論争に巻き込まれることとなるのである。
質か量か
B型駆逐艦の初期量産は、A型駆逐艦建造の中心となっていた北米管区ではなく、この当時比較的建造能力に余裕があった極東管区が担当することになった(北米管区規格の兵器は極東管区へ供給が行われることとなっていた。なお、量産が本格化した後は極東管区が提供した設計図を基に各管区がそれぞれ兵装などを製造して艦の建造を行っている)。そのため極東管区で完成した一番艦『綾波』がクラス名になったが、極東管区でB型駆逐艦が10隻ほど完成した頃、地球連邦を震撼させる事件が勃発する。いわゆる『カラクルム落下事件』である。
この事件の結果、地球はその座標をガトランティス帝国に露呈することとなった。そのため太陽系が直接その侵攻を受ける可能性が高まり、それに対応すべく防衛軍はD級戦艦など大型艦の追加建造を決定することになる。
そのため、当初相応に確保されていた中小型艦、特に駆逐艦はその予算を削られることになってしまう。また予算の制約がある中で、防衛軍首脳部の多くは再びA型駆逐艦の量産を行うことを考えるようになった。これは一にも二にもA型駆逐艦に波動砲が搭載されているということに起因していたが、今後太陽系にカラクルム級戦艦を含む大型艦が襲来した際に対応するためという意味では、この考えにも大義名分はあったといえる。
一方、先述した通り宙雷閥の強硬派はB型駆逐艦を理想の突撃駆逐艦であると考えていたから、防衛軍首脳部の考えに真っ向から反対した。そのため戦時にも関わらず再び不毛とも言える論争に発展する危機が生じたのだが、大規模な議論に発展する前に、連合艦隊司令部の意見具申がこの問題に決着をつけた。
『現状、護衛艦としての駆逐艦の不足を補うことが喫緊であり、それにはB型駆逐艦の量産で対応するのが最善である。波動砲艦についてはD級戦艦、そして運用によって補うことを前提にA型巡洋艦、あるいは波動砲を追加装備した金剛型宇宙戦艦の現有兵力で事足りる』
当時の連合艦隊司令長官である土方竜宙将が特に強く主張した意見だったと伝わるこの具申は、防衛軍首脳部のみならず突撃戦法に固執していた宙雷閥の強硬派をも黙らせる効果があった。波動砲を搭載することによって量産性を落としているA型駆逐艦の建造に固執する防衛軍首脳部、B型駆逐艦を護衛艦ではなく突撃駆逐艦として『のみ』用いることを考えていた宙雷閥の強硬派の双方が『量産性に優れたB型駆逐艦を汎用性のある駆逐艦』として幅広く運用するなど考えていなかったのである。
この両者の近視眼的な視野は後年、更なる問題を引き起こすのだが、ここでは本題から外れるので触れない。ともあれB型駆逐艦は極東管区のみならず他の管区でも建造体制に入り、ガトランティス帝国の太陽系侵攻に備えた量産が行われることになった。
必要を満たせなかった建造数
だが、B型駆逐艦の登場はわずかに『間に合わなかった』ものかもしれなかった。それは太陽系に舞台を移したガトランティス戦役初期、外惑星での小規模な戦闘に参加したある高級士官の言葉からもうかがえる。
「適切な兵力配備をしようにも、艦の不足でできない状況になっている」
この『艦の不足』という問題はこの士官のみならず多くの艦隊士官が痛感していたようで、前線において敵艦隊に即応できる機動力のある、また兵站線を確保するべく輸送船団を護衛すべき艦艇が必要であるのに、各基地および艦隊に配備されたA型、B型駆逐艦の不足は相変わらずで、必要とされる数量は満たせないままであった。
D級戦艦の増勢のために一度は予算をそちらに振り分けた防衛軍首脳部であったが、さすがにこの事態を看過することもできず、艦艇増勢のために準備された戦時予算の大半をB型駆逐艦の量産に集中投入する措置を取った(D級戦艦の中期生産型であるA3型戦艦の建造数が18隻に縮小したのは様々な要因があるが、この予算振り分けの変更も一因である)。
だが、予算の問題を解決しても、建造ドックや兵装など装備の確保を行う時間はこの時期の地球には残念ながらそれほど残されておらず、結果的にガトランティス戦役における最大の艦隊戦となった土星沖会戦においても、宙雷戦隊の中核、および艦隊主力の護衛艦という任務を担ったB型駆逐艦(少数だが、基地駐留艦隊に配備されていたA型駆逐艦も参加している)は100隻を少し超える程度にとどまっている。
ガトランティス戦役におけるA型、B型駆逐艦の戦歴については、次項で触れたいと思う。