地球防衛軍の巡洋艦という艦種は、その直接の始祖となる国連宇宙海軍時代の村雨型巡洋艦(2170年に一番艦竣工)に大きく影響を受けたものとなったのは、地球の海上海軍の時代から変わらない「巡洋艦」という類別からすれば必然だったと言うべきかもしれない。

 村雨型巡洋艦という艦は、当時行われていた火星との戦争において「艦隊戦列の中核を成すために」計画、建造されたものだったが、一般的に巡洋艦の任務のイメージとして存在するであろう「様々な任務に用いる艦」という要素はあまり盛り込まれていなかったようだ。当時、火星にて遭難した異星文明の艦(それがボラー連邦のものと判明したのは後のことだが)の技術を転用した艦によって構成された火星艦隊に苦慮していた国連宇宙軍からすれば「最低限、敵艦に対抗し得る艦」としての建造が最優先されるべきものであって、逆に言えば、それ以外の幅広い用途をこの時点で前提とする余裕がなかったのである。
 ただ、村雨型巡洋艦は当面の敵艦である火星艦(と戦時中に俗称されていた)への対抗を第一義としつつも、かつての海上海軍における「巡洋艦」の任務として多くの国が考慮した、航路の保護や通商破壊艦への対抗、もちろん艦隊戦力の一翼を担う戦闘艦でもあるという「多用途に用いることが可能な汎用艦」として運用する艦へと発展させるべく「改良が可能な拡張性」も当初から与えられており、後になって様々なバリエーションを生むことになる。この村雨型の設計思想は後続に「主力艦」として開発、設計が行われていた金剛型戦艦の存在もある程度意識したと考えられるが、金剛型戦艦の一定数整備が進めば、当面は艦隊の主力艦として位置づけられた村雨型巡洋艦は順次、艦隊戦力を下支えする汎用艦としての用途に切り替えられる予定になっていたようだ。実際、国連宇宙軍の宇宙艦隊に関するこの構想は2183年の内惑星戦争終結までには概ね達成され、巡洋艦、戦艦にやや遅れて量産が開始されていた磯風型駆逐艦も加えた艦隊構成を維持したまま、地球はガミラス大戦を迎えることとなる。

 村雨型巡洋艦はガミラス大戦の全期間において、ガミラス軍に比して大型艦の比率が少なかった国連宇宙艦隊の中核戦力の一翼を担い奮闘したが、搭載する兵器が敵艦に対して無力化されることが多々あり、また、これは巡洋艦という艦種が海上海軍時代から抱える宿命とも言うべきなのだが、威力の大きい兵器と強固な防御力を有する戦艦と、軽快な運動性と高威力の魚雷(特にガミラス大戦において、宇宙魚雷による近接戦は陽電子衝撃砲開発以前はガミラス艦に対して最も有効な戦法であったことも手伝い)を兼備した駆逐艦の間に挟まれ、その性能が時に「中途半端である」と用兵側に評されるのもやむを得ないことではあった。このときの戦訓が、後に地球防衛軍の宇宙艦隊として再編するための巡洋艦戦備に大きな影響を与えたことは恐らく間違いないであろう。


 いわゆる「波動砲艦隊」と呼ばれるガトランティス戦役時の地球防衛艦隊に関する戦備が計画された際、地球防衛軍が当初構想した巡洋艦戦力は、いわゆる「ハイローミックス」と言うべきものだった。すなわち、計画当初「前衛航宙艦」と通称された12インチ砲搭載のD級戦艦初期案と「パトロール艦」として現在も知られるパシフィック級偵察巡洋艦の二本立てである。
 当初、アンドロメダ級(大型)戦艦と対になる形で前衛航宙艦が構想されたのは、ガミラス大戦において村雨型巡洋艦の装備する兵器の多くがガミラス艦に対して有効な打撃を与えるのが困難だったことに由来していた。友好条約を結んだ相手とはいえ、当時の地球はガミラスおよびイスカンダル以外と異星文明と緊密な接触を持っていなかったから、当然、仮想敵として設定できるのはガミラスの他になかったからである。その相手との戦いにおける戦訓を生かし、時に戦艦クラスとの交戦を考慮した「前衛航宙艦」が構想されるのはある意味で当然だったし、その前衛航宙艦が任務とするには「艦型過大」とされた艦隊前方の偵察任務に充当すべく、中型の巡洋艦であるパシフィック級パトロール艦の開発が訓令されたのも至極もっともと評価するべきだろう。

 だが、前衛航宙艦構想は「ここまで艦が大型化するのであれば、もはや純然たる戦艦として建造したほうが性能的にも充足し、建造費用も大差ない」という各所からの指摘を受け、41cm砲を搭載したD級戦艦へと発展的解消を遂げた。このような結果になった要因としては、地球の国力から来る予算と造船能力の問題、また当時の波動機関に関する技術を用いて前衛航宙艦に巡洋艦として必要な機動力や運動性能を与えることが困難だったという側面もあったとされる。
 一方でパシフィック級パトロール艦の計画はそのまま推進されたが、これを村雨型巡洋艦の後継として艦隊戦力を構成する巡洋艦にするべく量産した場合、探知機器が過剰な割に武装が不十分であり、また前者の装備を整えるために建造費用が有する戦力に大して過大になるという評価も存在した。そのためパシフィック級をベースに探知機器を削減して武装を強化、同時に建造費をある程度圧縮したノーザンプトン級「艦隊巡洋艦」が計画され、パシフィック級と共に量産が開始された。ノーザンプトン級は後により砲兵装を強化した妙高型「重巡洋艦」へと発展し、ガトランティス戦役の戦前戦中における地球防衛軍の巡洋艦戦備は、若干の村雨改型巡洋艦の建造続行を除けば、一般的に「A型巡洋艦」というグループ名で呼ばれる重巡洋艦とパトロール艦の量産によって行われることとなったのである。


 ガトランティス戦役は辛うじて地球の勝利に終わったが、防衛軍の損害は明らかに許容範囲を超えていた。特に艦隊戦力が実質的に壊滅してしまったことにより、艦そのものの不足以上に乗員として乗せるべき人的資源の枯渇が深刻な問題として捉えられることとなる。そのため当面の防衛戦力として、防衛軍は残存する艦隊戦力を補完するための無人艦隊の整備を決定した。
 実際に整備された無人艦隊には大型艦と小型艦があったが、一般的には大型艦が戦艦、小型艦が巡洋艦と捉えられることが多い。ただ無人艦は有人艦が有する様々な制限から解放されたことにより、大型艦は巡洋艦並み、小型艦は駆逐艦と同程度の運動性能を有していたと評価されている。後のことを考えると、この艦種による運動性の差異が縮小したことも、やはり後の巡洋艦(と同時に戦艦)の戦備に影響を与えたと考えるべきだろう。

 なお、A型巡洋艦と呼ばれるグループも俗に言う「後期生産型」へと移行して建造が続けられていたが、当時仮想敵とされていたボラー連邦、そして同盟国であるガルマン・ガミラス帝国において、巡洋艦が大型化し地球の戦艦程度に、戦艦はそれ以上に艦型が拡大するという事態を受け、A型巡洋艦グループでは艦隊戦力の一翼を担う巡洋艦としての能力が不足をきたしつつある、という指摘が存在した。特に前線においてA型巡洋艦の能力不十分、特に火力の不足を痛感するという戦訓が前線の各所から噴出したことから、この方面の強化が早急に求められる状況であった。
 地球防衛軍としても新型巡洋艦の設計作業は早期に開始したかったようだが、ガトランティス戦役とそれに続くデザリアム戦役で地球本土が被害を受けた影響もあり、なかなか新型巡洋艦の建造へと踏み切れなかった。また、この時期の「既存艦艇の能力不足」については特に戦艦と駆逐艦についてより深刻だったため、それらの新型艦の設計、建造が優先されたことも、要求される能力を満たすべき巡洋艦の戦備が遅れた要因と言えた。


 それでも日に日に高まる新型巡洋艦を求める声に対し、防衛軍は秋月型(C型)駆逐艦および紀伊型(B型)戦艦の設計が完了して程なく、後にアラスカ級(B型)巡洋艦と呼称される艦型の量産計画に着手する。この新型巡洋艦の任務の第一義は「敵中型戦艦に対して十分に対抗し得ること」とされ、それまでの巡洋艦が相応に重視していた、艦隊内における汎用性については二義的なものとすることが決定された。これは既存の駆逐艦より「飛躍的に」大型化した秋月型駆逐艦が既存のA型巡洋艦によって賄われていた任務を代替できると判断されたことによって可能となったのだが、同時に拡大波動砲など新機軸の採用によって建造費が高騰した紀伊型戦艦の不足を補うため、という要素もあった。
 そうした事情から、アラスカ級巡洋艦は主砲に既存巡洋艦の砲であった8インチ砲を超えてD級戦艦と同等となる41cm砲が採用され、艦それ自体もA型巡洋艦のほぼ倍程度まで拡大された。同時にそれまでの巡洋艦の枠を超えた防御力とA型巡洋艦に比して劣らない運動性も付与され、秋月型や紀伊型でも重視された外宇宙における航洋性、居住性も完備するなど、文字通り既存の巡洋艦の概念から突き抜けた艦として完成することとなった。

 だが、アラスカ級は艦隊側の一部からいささか皮肉を込めて「超甲巡」と呼ばれたように、巡洋艦として考えた場合、その任務を艦隊主力の中核として運用することに特化しすぎた感は否めなかった。また、既存巡洋艦の概念を変えるほどの大型化により(戦艦より安価とはいえ)建造費が増大し、巡洋艦として必要な数量を揃えることが難しくなってしまったという面も間違いなく存在していたのである。
 このため用兵側から「巡洋艦をこれほど大型化するのなら、D級戦艦の高速戦艦化ではいけなかったのか」という意見もあったと伝わっており、その能力の高さを認められつつも、巡洋艦として「小回りの効く」運用に用いるには様々な面で過剰になってしまった、という側面があったのは紛れもない事実であろう。


 ディンギル戦役が勃発した時点において、艦型の拡大などに伴う量産開始の遅れから、アラスカ級巡洋艦が艦隊において巡洋艦戦力を構成するための数量を充足させることができなかったのが、この戦役の初期において地球防衛艦隊が壊滅した一因とされたのは不運だったと言うしかない。だが、この「既存の中小型艦より大型化した」弊害は秋月型駆逐艦の数量不足においても戦役後の戦訓として指摘されており、この時期の地球防衛軍が抱えていた大きな問題であったことは事実だろう。
 防衛軍はこれを受けて、外宇宙で用いる駆逐艦として秋月型駆逐艦の改良型を用いると同時に、太陽系内の防備や拠点防衛用として水雷戦隊を構成する島風型(D型あるいは中型)駆逐艦の量産を決定する。いわゆる「小回りの効く艦隊への注力」はこの島風型が端緒となるが、戦艦および巡洋艦については当面替わる艦の設計に時間がかかることから、紀伊型戦艦およびアラスカ級巡洋艦の建造をそのまま続行することとなった。

 一方で「艦隊戦に特化したとはいえ、敵大型艦と交戦した場合、アラスカ級巡洋艦の戦闘力でもまだ十分とは言えない」という指摘も存在したため、防衛軍はアラスカ級の船体を延長して主砲塔一基を追加した「装甲巡洋艦(巡洋戦艦とも)」の建造計画を近頃発表した。これは様々な要因からかつてのD級戦艦ほど数量が揃えられないであろう紀伊型戦艦の戦力を補完する要素をより強めたもので、実質的にはD級戦艦のほうの後継艦と言うべき艦となるようだ。なお、この装甲巡洋艦は「劔型装甲巡洋艦」と呼称される予定である。
 かつてA型巡洋艦のグループによって充当されていた任務が秋月型駆逐艦によって代替できるようになったことで、地球防衛軍の中で「巡洋艦」と呼ばれる艦種は、今後もし建造されるならより艦隊戦を重視した艦型になる可能性が高いように思う。あるいはかつての海上海軍において、大型化した駆逐艦が巡洋艦を飲み込み消滅させたようなことが、今の時代の宇宙海軍でも起こるのかもしれない。そのあたりは今後も注視していきたい。


 地球防衛軍の「巡洋艦」とは、当初は曲がりなりにも汎用艦として出発したものが、様々な外的、内的要因によって次第に艦隊戦において戦艦の補助、あるいはその代替を行う戦闘艦へと変貌していったもののように見受けられる。
 それは地球上における海上海軍の巡洋艦が発達していった道をほぼなぞっており、今後、その艦種自体が飲み込まれる可能性をはらんでいるということもまた類似している。これを奇異と捉えることもできるかもしれないが、先述したようにおよそ「巡洋艦という艦種」が内包している要素が、海上においても宇宙においても同様の現象を誘発しているのではないかと考えるのは、果たして的外れなものなのであろうか。それは後世の評価を待ちたいと思う次第である。