『とある~2202』をご愛読下さっている皆様にはお判りかと思いますが、主人公である堀田真司さんはヤマト計画に参加する予定があってその乗員たちとも士官学校教官、あるいは部下として繋がりが強いという面はありますが、逆に言えばそれだけの話であって、彼らの意を汲んで波動砲艦隊否定に回る理由は、厳密に言えば『存在しません』。出世に興味のない人ですが、わざわざ防衛軍の主流派に背を向けてその反感を買う理由が、例えば土方提督のように明確なものがないのです。
作者がこうした政治的な問題を作品の主題に置いていないため、書ききれなかった(当然、物書きとしての技量不足という面も多々ありますが…)部分が多かったので、時にツイッターのTLで話題になる『波動砲艦隊』と自作主人公の関係をもう少し細かくお話しておこうと思い、この記事を書くことにしました。しかし、自分で自分の作ったキャラを考察じみた扱いするってどうなの……と正直なところ笑いたくなってしまうような話ではあるのですが。
そんなこと言っている場合ではないだろうというのはさておき、とにかく始めましょう。なお本記事はとりあえず『とある~2202』時点でのお話ですので、この先シリーズが続けば変更される部分が生じる可能性があり、また当然ながら本編とは全く無関係なお話ですので、適当に読み流していただければ幸いに思います。
・『波動砲艦隊否定』と『波動砲の全否定』の違い
堀田さんを語るとき、恐らくこれが一番重要なことだろうと思います。
第六話で拡散波動砲を撃つのをためらう堀田さんが描写されていますが、これはあくまで「彼の個人的な心情」の問題であって、実際にそのためらいは短い間に終わってすぐ波動砲発射に頭を切り替えています。これは彼が『波動砲という兵器を全否定はしていない』証拠となり得ると思います。味方を救うことと、自分の心情のどちらかを優先するとなれば、この主人公さんの思考は割と明快になろうかとも筆者としては思っています。
また第一話で高石宙将補と会話の中で「波動砲なしで地球を守れるか?」と問われた際、堀田さんは返事が出来ませんでした。限られた艦隊戦力で地球を守るためには、波動砲という絶大な火力を持つ兵器が必要であるということは、宙雷とはいえ仮にも戦術科の教頭を務める彼に理解できていないはずはないのです。なので、作者としても一度も『堀田さんは波動砲という兵器を全否定している』という描写は一度もしていないと認識して書いているつもりです(そう見えていなかったら作者の凡ミスなので、修正が必要ということになるのですが……)
・ではなぜ『波動砲艦隊反対派』でいるのか
これには、いくつかの理由が考えられます。
1.一つの兵器に対する依存=偏った軍備への危険を理解している
2.戦術研究の専門家でもあるため、波動砲が抱える多大な制約(発射時のタイムロスなど)を無視できない
3.地球の恩人と一度交わした『約束』を『諸般の事情から棚上げするしかない』とするならやむを得ないが『あからさまに反故にする気でいる』政府上層部が信用できない
4.何より『波動砲の威力の凄まじさ』に、人類がいずれこれに魅了されてしまい侵略に回るかもしれない、という懸念が捨てきれない
筆者としては、裏の面も含めて設定したのはこのあたりといったところです。3と4については後に触れることにして、まず1と2について話をすることにしましょう。
堀田さんについて筆者は『足を止めて撃ち合うという発想がない』という記述をしました。これは自身が宙雷の専門家であることが最大の理由ですが(当時の地球には、まだ長距離統制雷撃戦を行えるだけの素地がないものと本編から筆者は認識しています)、常に数的劣勢を強いられるであろうと多くの士官が覚悟しているはずの(その覚悟がないとしたら、ガミラス大戦の戦訓が全く無視されているということになってしまう)地球防衛軍の艦隊士官として、ただ漫然と敵と撃ち合えば数で負けることはもはや常識になっていると思われるからです。
また、波動機関という新たな動力源を得た地球防衛軍の士官として、これによって得た機動力を有効利用しない理由は見当たりません。それまで自殺同然だった突撃戦法も洗練すれば、旧来より機動力の向上した地球防衛艦隊なら生き残る道を見いだせる。堀田さんがガミラスの戦法に傾倒して研究を重ねている描写があるのは、これに由来します。一番身近なかつての敵手に学ぶという意味では、少なくとも不健全ではないだろうと筆者は考える次第です。
こうした『機動戦主体の戦法』を志向する堀田さんからすれば、波動砲に『頼り切った』戦いは全く相容れないものになってしまうのは仕方ありません。大幅な技術革新がない限り(原作完結編の拡大波動砲のような、動きながら速射できる波動砲が存在するなど)、波動砲戦は必ず足を止めて行う必要がある。敵が波動砲または類似した兵器を知らないというなら別ですが、2202年当時戦っている相手はガトランティス帝国であり、火焔直撃砲という近似とも言える兵器を有しているのですから、最初の一度はともかく、一度波動砲戦をやってしまってはその後は何かしら対処され通用しない場面が出てくるかもしれない、という危惧を抱くのも当然でしょう。
ここに『波動砲戦の研究自体はしている』という、士官学校の教官をやっている身としては当然な要素を加えると、堀田さんとしては波動砲については『撃てるときに機を見て撃つ』という発想が根底にあると思われるので、むやみに統制波動砲戦『だけ』ですべてを解決しようとする『波動砲艦隊』に賛成できる要素は基本として存在しない、逆に波動砲を搭載する戦艦は一定数必要なことは認めている、という思考に繋がるのは自然だと筆者は愚考します。
ちなみに堀田さんは巡洋艦や駆逐艦への波動砲搭載には猛反対しているのですが、これには、
・最優先すべき機動力の低下を招く
・乗員が波動砲に依存してしまい、巡洋艦や駆逐艦がやるべき機動戦のノウハウが失われる
・防御力が不足する巡洋艦以下の波動砲は、チャージ前に沈められるなどして有効活用が困難
といった考え方がある、という設定をしています。
・政治家たちへの不信感
上記の3と4に関わることと、相当に重要な裏設定が含まれているような気がしますが、第二話で土方さんを説得するときに明言していますので、書いてしまいましょう。結論から書くと、堀田さんは2202年時点の連邦政府および防衛軍の首脳部に対して、藤堂長官ら一部の例外を除いて、基本的に『信用していない』のです。
これは、彼が『ガミラス大戦が何故勃発したか』について、2199年より以前から既に『公式発表を疑っていた』からです。ただ、本編で『地球側から仕掛けた』というのが明らかにされていますが、これは軍機でありヤマトに乗っていなかった堀田さんはその事実を知りません。ですが、彼は自分なりの推察によって「この戦争は地球から仕掛けたものではないか?」と疑っている、あるいはほぼ確信しているのです。
理由は以下の3つです
・開戦前に沖田提督が解任された経緯への不信感。その後、彼の部下になったことでむやみに厭戦的な態度を取る人間でないと確信できたので、解任された理由が「攻撃に反対したから」としか思えなかった。
・ガミラスが最初から戦争を仕掛けるつもりで来たのなら、ファーストコンタクト時にやってきた艦隊の規模が小さすぎると見た
・戦争が始まった後に、ガミラスは冥王星に基地を建設した。最初から侵略を意図しているのなら、事前に基地の整備など準備しているはずで、わざわざ戦争状態になってから冥王星に基地を建設するのは不自然に思えた
また本編を見る限り、ガミラスとのファーストコンタクト時に地球側が交渉などやるべきことをした上で攻撃を決断したか、筆者としては相当に疑問があります(でなければ、沖田提督が解任されるまで反対するほうが不自然になる)。これは勝手な設定に近い推測ですが、この時期の地球の国連あるいは宇宙軍は、火星との戦争に苦戦しながらも勝利したことで慢心し、相手のことを理解していないにも関わらず攻撃命令を出したのではないか? と疑っています。そうであれば、沖田提督を解任してまで攻撃せよ、と命令するのもわかるような気がします(奇襲効果を狙ったと弁護したい面もありますが、あまりに相手のことを理解せず攻撃して実際に惨敗してしまった以上、どのみち失策によって人類を絶滅寸前に追い込んだ大戦を招いたことに変わりはありません)。
この『慢心説』が事実かは本編からは窺えませんが、もし事実だったら、といいますか筆者の創作ではこの『慢心説』に基づいて創作を行っているので、ガミラス大戦当時は士官学校の最上級生だった堀田さんは微妙にそれを感じ取っていたと想定しています。
そして、堀田さんはガミラス大戦で婚約者を亡くしています。上官、同僚、部下、士官学校の教え子まで含めれば、失った近しい人間の数は相当なものになるはずです。堀田さんは「ガミラスを不思議に憎めないでいる」という面がありますが、それはこの『自陣営の上層部への不信感』に起因します。
ただ、この推測を公言してしまえば軍どころか連邦政府内部に爆弾を投げ込むようなものなので、彼自身の精一杯の自制心で口にはしていません。2202で和解した地球とガミラスのファーストコンタクトがどういう扱いになったかは不明ですが、この疑惑が常について回ることは避けられそうもなく、かつ表に出すような暴発もできない理性が働く以上、結局のところ彼の『大切な人を失ったことへの恨み』は当時の政府上層部に向くしかありません。これは感情の問題なので、表に出さないのが精一杯でしょう。
こんな経緯が想定され、そして恩人との約束を簡単に『反故にしようとする』政府や防衛軍首脳部を信用して受け入れろと言うのは、軍人であるという立場を考えても難しいとしか言えません。軽々しく不信感を口に出さず、命令や任務に忠実でいるだけよしとしてほしい、というのが筆者としての思いです。
なお、堀田さんは2202あたりでは芹沢さんを毛嫌いして能力すら疑っていますが、これは『沖田提督を解任した直接の人物だから』というのが理由です。ただ2202最終話で真田さんに語ったような「君たちがうらやましい」という言葉なりを聞けば、彼とは少なくとも表向きだけでも和解できる可能性があると筆者は思っています。2202最終話のような展開になれば、堀田さんは芹沢さんに向けていた自分の評価が「偏見だった、あの人もやるべきことをやっているだけだった」と反省するくらいの度量は持っているでしょうから。
・まとめ
堀田さんが『波動砲自体は否定しないが、波動砲艦隊は反対だ』という、ある意味で中途半端とも言える立場に収まった理由をまとめると、
1.軍人として、特定兵器に対する依存への危惧がある
2.自国の政治家、自分が所属する組織の上層部に対する信頼感が薄い
3.恩師や教え子の多くに反対派がいて、彼らの主張も一定レベルで理解できる
といったところだろうと思います。ただ『土方さんやヤマト乗員が反対したから自分も反対した』という要素は正直、あまり考慮しなくてよい『ついで』くらいのものと思います。彼らは堀田さんにとって大切な人たちではありますが、その人間関係を理由に『使うべき兵器を使うべきときに使わない』という選択肢は堀田さんにはありませんでした。
ただ、これは若干のネタバレを含みますが、芹沢さんとは和解できる可能性が高いものの、それ以外の波動砲派閥(アンドロメダ級の進宙式で芹沢さんの後ろに並んでいた連中)と分かり合える余地が今のところ見当たらないため、今後、昇進を重ねれば重ねるほど、堀田さんの道は割と茨だらけのように思えます。ただ、そこをどう乗り越えるかを描くのが筆者の腕の問われるところなので、精々頑張って描写していければと思います。まずは2202を完結させるのが先決ではあるのですが……
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