磯風型駆逐艦の後継艦

 A型護衛駆逐艦フレッチャー級、およびB型駆逐艦綾波型は、特に前者は『護衛』という任務をクラス名に冠しているとはいえ、ガミラス大戦時に量産された磯風型突撃宇宙駆逐艦の後継と見るべき艦艇である。
 しかし厳密に言えば、波動機関への更新による性能向上に限界があり、早期に艦隊戦列の第一線から退いた磯風改型駆逐艦の代替として配備が決まったものではなく、特にその建造開始に至るまでに、波動砲艦隊を推進したい防衛軍首脳部と、艦隊側、特にガミラス大戦時における磯風型駆逐艦の大量生産によって拡大した突撃戦法を重視する宙雷閥との確執に巻き込まれたこともあって、なかなかに難産となった艦としても知られている。

 本稿ではその数奇な誕生から多彩な戦歴まで可能な限り、フレッチャー級および綾波型について紹介していければと思うので、お付き合い頂ければ幸いである。


神風型駆逐艦とガミラス大戦後の磯風型駆逐艦

 本題に入る前に、先に建造が開始されたフレッチャー級護衛駆逐艦のタイプシップとなった、神風型駆逐艦について少々語っておくことにする。

 その一番艦『神風』はガミラス大戦末期、ヤマトが竣工する直前から極秘裏に建造が開始された艦で、当初は『駆逐艦A』と呼ばれていた(『神風』という艦名は乗員の公募によって非公式に命名されたもので、星還作戦(ヤマトの帰路確保と太陽系宙域の奪還を目的とした作戦)の開始直前に司令部から追認された)。艦の形状はフレッチャー級より後に設計された綾波型のほうに酷似していたが、最終的にガミラス大戦終結までに同型艦3隻が追加建造され、この4隻の駆逐隊は新たに装備された中口径ショックカノンと空間魚雷の威力をもって、星還作戦の成功に大きく貢献したのである。
 だが、この神風型駆逐艦は大戦末期における戦時急造のため設計が未成熟で運用に難しい面があり、同時に星還作戦における酷使で船体各部を大きく消耗させたことも手伝い、4隻とも戦後の戦力としては用いられず、各々特務艦などに艦種類別が変更されて第一線を退いた。

 また、戦中において突撃戦法による戦果の代償として大損害を出した磯風型駆逐艦も、大戦を潜り抜けた僅かな艦が残存してはいたが、こちらも戦時急造に伴う粗製乱造のため第一線任務に耐えられる艦は限られており、一部に波動機関への換装工事が施された以外はやはり予備役ないし後方任務への転属を余儀なくされている。(波動機関を搭載し)新たに量産、配備して再編成されると目されていた宙雷戦隊の中核に、という声も上がったのだが、磯風改型駆逐艦(波動機関を搭載した磯風型駆逐艦は任務、用途を問わずこのクラス名で総称されている)では攻防性能の不足から再び艦隊戦力に組み込むのは困難と防衛軍首脳部は判断したようで、磯風改型駆逐艦は後日、拠点防衛用の雷撃艇やレーダーピケット艦に改設計された艦が追加建造されたにとどまり、金剛改型戦艦や村雨改型巡洋艦ほど多数の追加建造が行われることはなかった。


防衛軍首脳部と宙雷閥の対立

 2201年夏、この時期の防衛軍首脳部は新型戦艦(後のD級戦艦)の計画が控えていたことなどから、新戦艦の量産が軌道に乗り次第、金剛改型戦艦を巡洋艦相当、村雨改型巡洋艦を駆逐艦相当にそれぞれ格下げさせることを考えていたとされる。これによって金剛改型戦艦を旗艦とする村雨改型巡洋艦によって「波動機関を搭載した艦によって構成される」宙雷戦隊が編成されることが構想されたのだが、この構想自体が一部の艦隊側士官には「防衛軍首脳部が艦隊型駆逐艦の整備を放棄した」と映ったもののようである。

 そのため、特に艦隊士官の中で宙雷閥に属する者たちの一部が、首脳部の決定に強い不満を抱くことになった。先にも述べたが、地球防衛艦隊の宙雷閥というものは、ガミラス大戦時における磯風型駆逐艦の大量投入とその魚雷、ミサイルなどの実弾攻撃によって相応の戦果を残したことで拡大した派閥であったから、新たな艦隊型駆逐艦を整備して新鋭の宙雷戦隊を編成すべしと考えていたのだ。

 一方で防衛軍首脳部、あるいはその上にある連邦政府上層部としては、まず波動砲艦たる戦艦の兵力を充足させることで、当時交戦中だったガトランティス帝国、あるいは同盟国であるガミラスに互する艦隊戦力を整備したいという軍事的、政治的双方の思惑があったから、正直なところ限られた造船資源を用いて新たな艦隊型駆逐艦を整備することに意味を感じていなかった。もちろん、先のガミラス大戦において突撃駆逐艦部隊が大損害を出したということも、人的資源が極度に不足していた当時の地球にとっては無視できる要素ではなく、新たな艦隊型駆逐艦(宙雷閥が求めた新型突撃駆逐艦、と言ったほうが適切かもしれない)を整備するのに二の足を踏む理由も十分にあった。

 この時期、防衛軍首脳部と宙雷閥の士官たちによる議論は、後者に属さない艦隊士官たちも交えて継続して行われていたのだが、その主張は平行線のままで一向に進展しなかった。双方の思惑が異なりすぎるため無理からぬことであったのだが、結局、このまとまる気配のない議論に決着をつけたのは、ガトランティス帝国軍と交戦中の前線からもたらされた村雨改型巡洋艦の問題点の指摘、そしてその解決を目指して整備が決定された新型巡洋艦(後のA型巡洋艦)の計画によってもたらされた状況の変化だった。


急遽決定された新型『護衛』駆逐艦の整備

 村雨改型巡洋艦の前線における問題点を一言で言ってしまえば、それは「搭載する兵装の数量と威力の不足」というものだった。これらは、もともと20cm砲という比較的小口径の短砲身ショックカノンや搭載数の限られた宇宙魚雷を装備していた村雨改型においては避けられない問題であり、ガトランティス帝国軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦に対してはほぼ単独で対抗可能だったものの、それ以上の戦艦級の艦艇と交戦すると一個戦隊(この時期は通常4隻編成)をもってしても対処がほぼ不可能になるというのは、さすがに艦隊戦力の一翼を担うべき艦として力量不足が過ぎるという見方が、防衛軍首脳部および艦隊側双方から強いものがあった。
 (この問題への対処として武装強化改装を受けた村雨改型巡洋艦も一定数存在していたが、必要な費用や工数に対して効果が限定的とされ、一部の艦への施工にとどまっている)

 そうしたこともあり、防衛軍は既に就役していたパトロール巡洋艦の武装を強化したA型巡洋艦の建造を決定した。この新鋭巡洋艦は艦隊全体の戦力底上げを図ると同時に、当時D級戦艦を建造、運用する能力を持たなかった中小国家にとっても宇宙艦隊の基幹戦力になると期待されていたのだが、こうした構想が具体化する過程で別の問題が生じたのである。

 それは、A型巡洋艦を中心とする艦隊の外周を固めるべき適当な艦種が、当時の地球防衛軍には存在していなかったことだった。この任務に村雨改型巡洋艦を充てる、ということも考慮されたようだが、A型巡洋艦の予定建造費よりは安価な村雨改型とはいえ、一定規模の艦隊を編成するところまで量産するための工数その他はA型巡洋艦に比してさほど軽くなるとは言えず、費用対効果が悪いと判断されるに至ったのだ。
 こうしたことから、地球連邦を構成する主に中小国から防衛軍に、A型巡洋艦と共に艦隊を構成することが可能な小型艦艇の建造が要望された。そして、それに乗じる形で防衛軍内部の宙雷閥も新たな小型艦(当然のこと、彼らが建造を想定していたのは「新型駆逐艦」だった)の建造計画発案に動き「新たに小型軽快なる艦艇を設計、即時量産すべき」という意見が日々高まることとなった。

 防衛軍首脳部の多くはこの提案に乗り気ではなかったようだが、国家レベルの要望を無下にするというわけにもいかなかったし、宙雷閥を別にしても艦隊士官の多くから「現有艦艇で艦隊を構成する場合、その質的あるいは量的にも不足は否めない」という意見が出されている現状からも、やはり何らかの対策が必要との最終結論に至ったようである。そのため、A型巡洋艦の設計を終えた艦政本部に対して、ただちに「新型『護衛』駆逐艦の設計を行うべし」との下命があった。

 この『護衛』という、任務を限定した文言が要求に組み入れられたことに関しては、現在に至るまで謎が多く真相は諸説あって定かではない。ただ筆者の推測になるが、防衛軍首脳部の考えるところの新型駆逐艦は「A型巡洋艦(もしくはD級戦艦)の護衛艦」であって、宙雷閥が要求した突撃駆逐艦ではないことを明確にしたかったのではないかと思われる。実際、この『護衛』という文言を組み込むことに宙雷閥の士官の多くは反対を示していたことから、信憑性はそれなりにある説だろうと考える次第である。

 さておき、新型護衛駆逐艦建造を命ぜられた艦政本部だが「最低でも村雨改型巡洋艦に匹敵する戦闘力を維持すること」という防衛軍からの難題に直面しつつも、先に述べたガミラス大戦末期に建造された『神風』をタイプシップとして選定したことにより、その設計を比較的早期にまとめ上げることに成功した。
 だが、設計案が提出された段階で防衛軍首脳部から「ある要求」が付け加えられたことにより、この護衛駆逐艦の建造は直前になって再びいくつかの派閥を巻き込んだ論争を招くことになったのだが、そのあたりは次項にて説明していきたいと思う。