波動砲搭載を要求された駆逐艦
艦政本部から提出された新型護衛駆逐艦の試案には、将来の発展を見込んで小型ながらも設計に相応の余裕があったとされる。だが、当時波動砲艦隊の整備に邁進していた防衛軍首脳部は「艦内の余剰空間を整理し、確保したスペースに既存の波動砲を小型化して搭載すべし」という命令を下したのである。
当時の技術力であっても、量産が開始されたばかりのA型巡洋艦が搭載していた集束型波動砲を小型化して搭載することはさほど困難ではなかった。だが波動砲を搭載すれば当然のこと、その関連設備に限られた容量しかない駆逐艦用の小型波動機関のリソースを振り分けねばならなくなる。それでは防御面で波動防壁への依存が大きくなることを避けられない駆逐艦の防御力が不足するのではないか。そして、そのようなリスクを冒してまで駆逐艦にまで波動砲を搭載することに意味があるのか、という意見も艦隊側から出されていた。
この問題は、それまで新型駆逐艦の建造について対立していた防衛軍首脳部と宙雷閥の強硬派の士官たちのみならず、宙雷閥の穏健派やその他の兵科の士官まで巻き込んだ論争に発展した。新型駆逐艦への波動砲搭載を反対する士官たちは、こうした決戦兵器を搭載することによって運用側が護衛艦としての本分を忘れて波動砲使用に傾斜することを恐れていたようである。
だが最終的にこの議論は、防衛軍首脳部の「敵カラクルム級戦艦に対して有効な打撃を与えるため、小型であっても波動砲は必要である」という主張に押し切られる形となった。実際、艦隊側もガトランティス帝国軍のカラクルム級戦艦に難渋している現状、それに対抗するために必要だと言われれば、反論も困難になり沈黙を余儀なくされたのだった。
(それでも一部の宙雷閥の士官や艦隊士官たちは「護衛艦への波動砲搭載は運用の硬直に繋がる」と主張していたが、最終的にこれらの意見は無視される形となった)
2201年末、波動砲を搭載した新型『護衛』駆逐艦の設計が以下のようにまとめられた。なお、今回の護衛駆逐艦の量産、および搭載兵装の供給については北米管区が中心になって行うことが早期に決まっており、それに伴い、これ以前に建造された多くの艦艇が極東管区(日本)で整備された兵装を装備していたのに比して、北米管区が設計、製造した兵器の搭載が増えているのが特徴と言える。
全長 113.3m
全幅 18.5m
波動砲 零式タキオン波動集束砲改一型 1門
主砲 Mk.42 12.7cm連装集束圧縮型陽電子衝撃砲 3基6門
その他兵装 Mk.33 76mm連装パルスレーザー砲 4基8門(艦尾全周)
Mk.32 324mm宇宙魚雷三連装発射管 4基(艦前部全周)
零式53cm宇宙魚雷発射管 2基2門(艦首下部)
一式四連装対空ミサイル発射管 2基(艦橋基部側面)
零式四連装対艦グレネード投射機 2基(対空兼務 船体側面)
主機 艦本式次元波動機関 1基
搭載機 一式一一型艦上戦闘機『コスモタイガーⅡ』1機
(連絡、偵察用。戦闘装備での搭載は不可)
救命ボート複数
乗員 44名(戦時定数 35名程度で戦時運用が可能)
波動砲を搭載すべきか否かで論争があった新型駆逐艦ではあったが、波動砲以外の兵装は「村雨型と同等の戦力を維持する」という当初の要求を概ね満たすもので、艦の規模に対して相当な重武装艦としてまとめられた。他方、特に前方に集中した主砲と魚雷兵装は防衛軍首脳部と艦政本部、そして宙雷閥との妥協の産物と言うべきもので、突撃戦法を考慮したものと(少なくとも表向きは)説明された。これを受けて、宙雷閥の士官たちもいったんはその不満を鎮静化させることになったのである。
A型駆逐艦の特徴
設計がまとめられた後、この新型駆逐艦には『A型護衛駆逐艦』という制式名称が付与された。その一番艦は北米管区で建造された『フレッチャー』だったため、クラス名は『フレッチャー級』とされたのだが、本稿では『A型駆逐艦』の名称で通すことをご了承いただきたい。
A型駆逐艦はタイプシップとなった『神風』型駆逐艦と同様の紡錘形船体を持ち、武装の配置は主砲塔が一基増えた以外はほぼ共通していた。ただ『神風』型は対空能力が不足しているという評価があったため、A型駆逐艦ではヤマトに装備された12.7cmパルスレーザー砲を集束圧縮型陽電子衝撃砲に改設計したMk.42 12.7cm連装砲が搭載された。この砲の特徴はその長砲身であり、貫通力と発射速度を重視しそのエネルギー弾の総量で敵艦を圧倒することを主眼に置いていた。もちろん原型がパルスレーザー砲ということもあって、対空兼用の両用砲としても高く評価されている。また補助砲(副砲と対空砲を兼務するもの)として76mm連装パルスレーザー砲を装備して艦後方への備えとした。
魚雷兵装は、波動砲を装備したことにより大型魚雷の搭載スペースが減少したため、北米管区が開発したMk.32 324mm宇宙魚雷の三連装発射管が4基装備された。この魚雷はガミラス大戦末期に開発された零式53cm宇宙魚雷より威力で劣ったが、敵軽艦艇に対抗するには十分な威力があると判断され、対空ミサイルと兼用という形で採用が決まった(なお、大型艦艇については艦首下部に装備された53cm魚雷で対応することとされた)。また、対艦グレネードおよび小型の対空ミサイルも必要最低限の装備が施されている。
波動砲は、当時A型巡洋艦が装備していた波動砲を小口径化した「零式タキオン波動集束砲改一型」が搭載されている。この砲の威力は1門の斉射ではカラクルム級1隻の撃破までは困難とされる程度だったが、代わりに当時の波動砲としてはエネルギーチャージの時間がやや短く、また一個駆逐隊(3~4隻)の一斉射撃であればカラクルム級1隻を確実に撃破できると判断されたため、艦隊単位の波動砲戦においてはその火力が期待されていたことが当時の記録からもうかがえる。また波動砲搭載艦ならではの特徴として、このクラスの小型艦としては波動砲射撃時の測距などに必要な探知機器が比較的充実していたことも挙げられる。
なお、本艦は連絡機としてコスモタイガーⅡを1機搭載することができたが、格納庫のスペースが不足し戦闘状態での搭載は不可能で、またコスモタイガーⅡの慢性的不足から、連絡機としては他の旧式の機材を搭載したり、任務によっては救命ボート以外の搭載機を有さないことのほうが多かったようである。
量産、実戦投入と問題点の発覚
設計が完了、承認されて間もなく、A型駆逐艦は北米管区を中心とした各地の管区で量産体制に入った。いかに威力が劣るとはいえ、防衛軍首脳部が「絶対数が不足している」としていた波動砲搭載艦ではあったから、A型戦艦やA型巡洋艦を護衛する、あるいは波動砲艦としてそれらを補完する戦力として、このA型駆逐艦にかけられた期待は、少なくともこの時点では決して小さなものではなかった。
そうして量産されたA型駆逐艦群は続々と完成し、逐次ガトランティス帝国軍との戦闘に投入されたのだが、ここでA型駆逐艦は艦隊側から猛烈な批判にさらされることになった。以下にその一部を抜粋する。
・新鋭駆逐艦であるにもかかわらず、機動力が村雨改型巡洋艦に対して大きく優越しておらず、敵巡洋艦および駆逐艦を機動力で圧倒できない。総じて運動性が駆逐艦としては低いと言える
・波動砲艦としては明確に防御力が不足しており、他艦に比して短いチャージ時間の間すら持ち堪えるのが困難。また、通常戦闘時においても波動防壁の耐久時間が短すぎる
・波動砲を搭載したことで予備魚雷を配置するスペースが不足し、継戦能力に問題がある
こうした問題から、いったんはその不満を収めた宙雷閥の強硬派からも「この艦で突撃戦法を行うのは困難を極めるため、至急の改善を望む」という声も上がり、再び防衛軍首脳と宙雷閥との間で緊張状態が生じることとなってしまった。
(ただし、一部の宙雷士官はA型駆逐艦について「戦機を見るに敏である必要があるが、状況が許せば本艦の性能があれば突撃戦法は不可能ではない」という評価を下していたという)
また、こうした実戦面での問題に加え、A型駆逐艦の波動砲を含めた重武装についても問題になっていた。小型の船体に最大限の武装を施すというコンセプトを採用したことにより、建造費用が駆逐艦という艦種としては高価なものとなってしまっていたのである。また多数の武装を採用したことにより、駆逐艦として必要な隻数を揃えるための武装の生産も間に合わず、A型戦艦やA型巡洋艦に建造枠や予算が圧迫されたこともあり(これは当時の防衛軍首脳部がいかに波動砲搭載の大型艦を重視していたかがわかる話と言えよう)、艦隊側からは「性能の問題を忍ぶとしても、現状まずは純粋に艦の数が足りない」という声が上がるようになっていた。
(筆者は2202年中期の艦隊内におけるA型駆逐艦の充足率に関する資料を目にしたことがあるが、数字に多少の変動があるとはいえ、概ね必要な隻数のおよそ5割程度しか満たせていなかったようである)
純粋に駆逐艦の数が足りないということに関しては、正直なところ、波動砲艦隊の建造に注力していた当時の防衛軍首脳部の多くがどれだけ深刻にとらえていたか疑わしいもののように思う。だが一部の首脳たち、特に2202年になって設立された地球防衛軍連合艦隊司令部がこの事態を重く見たこともあって、さすがに防衛軍首脳部の総意としても、何らかの対策が必要と判断するに至った。
ガトランティス帝国軍という敵と交戦中の現在、彼らが出した結論は「より戦時に適応させた、量産性の高い駆逐艦を建造、配備する」というものであった。
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