D級戦艦の問題点と土星会戦
いわゆる『カラクルム落下事件』から始まったとされるガトランティス戦役開始の前後に量産、配備が本格化したD級戦艦の前期生産型(この項では中期生産型と呼ばれるA3型戦艦もこれに含む)であるが、艦隊側からは「戦艦として攻防性能と速力、運動性は十分であり、艦隊戦列の中核を成すに申し分ない性能を有する」と高く評価されている。
ただ、防衛軍が抱える慢性的な人員不足というやむを得ない事情があったとはいえ、艦各部において重要箇所の運用を相当にAIに依存していること、機関および兵装の制御を中央コンピュータによって一括して行うというシステムについては「コンピュータに何かしらの損傷が発生した状況において、艦の戦闘、航行能力の発揮について多大なリスクを伴うのではないか?」と不安視されていた。
ただ、防衛軍が抱える慢性的な人員不足というやむを得ない事情があったとはいえ、艦各部において重要箇所の運用を相当にAIに依存していること、機関および兵装の制御を中央コンピュータによって一括して行うというシステムについては「コンピュータに何かしらの損傷が発生した状況において、艦の戦闘、航行能力の発揮について多大なリスクを伴うのではないか?」と不安視されていた。
更に重大な問題とされたのは、D級戦艦が搭載している一式41cm集束圧縮型陽電子衝撃砲の散布界に関してだった。これは艦隊に十分な数の戦艦が配備されていれば問題は少ないとされていたが、一個戦隊(3隻)のみによって主砲の一斉射撃を行った場合、特に遠距離砲戦における散布界は許容範囲を超えており、敵艦に対して有効な射撃が困難であると評価されていたようである。
A3型戦艦から装備され、それ以前に建造された艦にも追加された主砲の発砲遅延装置は散布界問題への対処の一環だったが、同装置を搭載してもなお「D級戦艦の主砲散布界問題は解決したとは言えない」と艦隊側は考えていた。そのため艦政本部および技術本部は更なる主砲射撃管制用AI並びにコンピュータの改良を継続して行うこととし、艦隊側のほうも、戦況に応じて主砲を一斉打方ではなく独立打方(D級戦艦の場合、三連装砲の右砲ないし左砲から0.2秒程度の間隔を開けて射撃することを指す)による射撃を行い、これによってエネルギー弾発射時の衝撃波の相互干渉を抑制する工夫を行っている。
だが、D級戦艦に付きまとうこれら問題点については、ガトランティス帝国との交戦が本格化した戦時下ということもあり、抜本的な対策は行えないままとなっていた。こうした状況で、地球防衛軍はその歴史においても最大級となった艦隊戦である土星会戦を迎えることとなる。
会戦勃発時、D級戦艦は地球防衛艦隊に各タイプ総計で42隻が配備されており、このうちほぼ同時期に十一番惑星宙域において生起した艦隊戦に参加した『出羽』以下の5隻と、土星基地から地球へと後送される輸送船団護衛の任に当たった『ボロディノ』を除く36隻が、土星本星宙域における決戦に参加した。
土星宙域での艦隊戦において、D級戦艦は当初期待されていた艦隊の中核を成す戦列艦、並びに波動砲艦として存分な働きを見せたのだが、戦後に各艦隊から提出された戦闘詳報から、先述したD級戦艦の問題点がこの会戦において様々な方面から噴出したことが伺える。
それらに曰く、
・主砲の散布界が、特に遠距離砲戦において著しく過大。そのため有効命中弾数が過少となり、仮にアウトレンジ射撃を行った場合においても敵艦を短時間で撃破することが困難。特に艦隊の戦艦数が少なく、濃密な弾幕を形成できない場合においてこの傾向が顕著である(なお、この問題は土星会戦における第6艦隊(ヒペリオン艦隊)の早期壊滅の原因の一つとされている)
・主要火器および機関を中央コンピュータによって一括して艦橋から管制するため、艦橋ないしコンピュータに損害を被ると即座に戦闘不能となる状況が発生し、その復旧を戦闘中に行うことがほぼ不可能。また、砲塔内に要員が配置できず照準機構も搭載されていないため、非常時に砲側照準による射撃を行うことができない
・近接対空火力の不足により、敵航空機およびミサイルに対する有効な迎撃手段が十分とは言い難い
・砲塔の構造に起因する問題として、特に天蓋の防御力が不十分
また、会戦の最終段階で連合艦隊はガトランティス都市帝国の攻撃によって壊滅的な被害を受けたのだが、このときの戦闘に関する波動砲の運用についての所見が残っている。それには「拡散波動砲は対艦戦闘における破壊力は極めて大なるも、集束モードに変更して射撃を行った場合、要塞など大型の固定目標に対しては次元波動爆縮放射機(ヤマトに搭載されたの波動砲のこと)に比して威力が劣る。対艦戦闘に特化した結果として、その他の目標に対する攻撃能力が不十分である」と記述され、艦隊に所属していた波動砲艦の総力が、拡散波動砲を搭載した戦艦と威力の低い集束型波動砲しか持たない巡洋艦であったことを悔いるような表現がされている。
筆者としては、さすがにガトランティス都市帝国のような大規模な移動要塞が襲来してくるとこの時点で想定するのは極めて困難と判断するしかなく、当時の軍備に不備があったとは言い難いように思う。なお、これらの戦訓は当然、その後の防衛軍の軍備に大きな影響を与えることになるのだが、詳細は以降その他の記述に譲ることとしたい。
損傷修理および戦訓への対応工事
ガトランティス戦役終結時、残存していたD級戦艦(この時点で戦艦籍から除かれていた艦は含めない)は以下の通りである。
A1型d 『出羽』
A2型 『ドイッチュラント』『デラウェア』『デュプレスク』
改A2型a『リヴェンジ』
改A2型b『相模』
A3型 『薩摩』『エマニュエレ・フィリベルト』
(他にA2型戦艦『河内』とA3型戦艦『オルデンブルク』が土星周辺の衛星にそれぞれ擱座していたが、この2隻は防衛軍が土星宙域を回復した後の調査で復旧不能と判断されたため、解体された)
戦役に参加したD級戦艦が34隻もの損失を生じ、戦艦戦力が激減したという事実は、他にヤマト及びD級戦艦に近い火力を持つ航空母艦3隻も残っていたとはいえ、土星以遠の太陽系宙域にガトランティス残存軍が跳梁している状況下とあっては、地球防衛軍の焦燥を駆り立てるには十分な苦境だった。
そうした事情から、また生き残った8隻のD級戦艦も大半は大規模な修理が必要だったこともあり、防衛軍は戦力補充のためD級戦艦の『後期生産型』となる新造艦の建造に着手することを決定する。後期生産型の詳細は後に譲ることとするが、同時期に残存するD級戦艦への修理と共に、ガトランティス戦役の戦訓へと対応させるための改装工事が行われている。
艦によって改装の規模や詳細は異なるのだが、共通する点として主砲散布界の減少、中央コンピュータ損傷時におけるリスク分散、対空兵装の増強などを目的とする工事が行われた。一例として『薩摩』の改装状況を以下に挙げる。
・主砲を一式一型改41cm集束圧縮型陽電子衝撃砲に改造、発射時の衝撃波を減圧して散布界の向上を図る
・砲側照準を行うため主砲塔内に小型レーダーおよび測距儀を搭載、要員の座席も配置
・主砲以外の各種兵装および機関も、非常時に乗員の操作によって制御可能なように改修
・中央コンピュータ室の装甲および隔壁を強化
・両舷側の九八式短魚雷発射管を全門撤去し、同所に砲座を設け76mm連装パルスレーザー砲を片舷あて4基装備
・主砲塔天蓋に増加装甲を追加
これらの工事には主砲の射程および貫通力の低下、雷撃戦能力の減少、主砲最大仰角の低下など代償を伴ったが、ガトランティス戦役における戦訓への対応としては十分なものと評価されることになる。特に主砲の改造によってD級戦艦の主砲散布界の問題はほぼ解消されており、このことは艦隊側からも大いに歓迎された。
なお、残存艦で唯一48cm陽電子衝撃砲を搭載していた『相模』の散布界は特に問題ないとされていたが、修理の際に発射速度向上のため、主砲を当時のヤマトと同じ九八式二型48cm陽電子衝撃砲へと換装している。
なお、残存艦で唯一48cm陽電子衝撃砲を搭載していた『相模』の散布界は特に問題ないとされていたが、修理の際に発射速度向上のため、主砲を当時のヤマトと同じ九八式二型48cm陽電子衝撃砲へと換装している。
一方で「規模に優る敵艦隊に対処するため、艦隊内に一定数必要である」とされた拡散波動砲搭載艦について、防衛軍はD級戦艦の前期生産型をもってこれに充てるとし、対要塞砲として集束モードを強化した波動砲の搭載は後期生産型の艦へと行われることに決定された。そのため改装された前期生産型の各艦はこの時点で就役時に搭載していた拡散波動砲を継続して搭載しており、波動砲関連の目立った改造は行われていないようである。
更にこの時期、後続の後期生産型を含めてD級戦艦は一部で塗装の変更が行われている。特に火星基地に配備された赤色塗装の艦や月面基地(本国艦隊)所属艦の青色塗装などが知られるが、就役時の灰紫色塗装を継続して使用した艦もあるなど必ずしも防衛軍全体で統一された規格は存在していないようで、これらのバリエーションについては今後の調査が待たれるところと言えるだろう。
後期生産型の計画と建造
広義において『D級戦艦の後期生産型』とは、その派生型であるヒュウガ級戦闘空母やアスカ級補給母艦・強襲揚陸艦も含むのだが、これらは当初から想定された任務が戦艦とは異なるし、後に別のクラスとして分類され直されたものなのでここでは扱わない。あくまで『戦艦として』建造された後期生産型について記述していきたいと思う。
後期生産型の計画、設計にあたって、要点となったのは以下の通りである。
・減少した戦艦戦力の早急なる補充により、仮想敵が有する大型艦への対処
・対要塞砲として集束型波動砲の搭載、ないし艦隊最前衛を担うべく防御力の大幅向上を視野に入れた波動砲の撤去
・多用途の任務に対応させるべく艦型、装備の再検討(この項目がヒュウガ級戦闘空母やアスカ級補給母艦・強襲揚陸艦の建造に繋がっている)
・今後の新型戦艦量産を踏まえた実験的要素、特に開発中の新型波動砲(後の拡大波動砲)を最優先とした新型装備の追加、実用試験
これらを踏まえ、D級戦艦の後期型は地球防衛軍が標榜するところの『地球の規模に見合った軍備の最適化』を目指す新たな軍備の代表としてその建造計画が立案されている。なお、これらD級戦艦の後期建造型の予算については、土星会戦後に様々な理由から建造中止となっていたA3型戦艦の予算と準備された資材の一部を転用して行われることとなった。
当時の防衛軍の仮想敵はあくまでガトランティス残存軍であり、かつてのガミラスあるいはガトランティス帝国ほど強大なものとは判断されていなかったことが当時の資料から伺える。そのため(一応)戦時下とはいえガトランティス戦役開始直後におけるA3型戦艦の急造ほどは後期生産型の増備は急がれておらず、戦艦戦力補充のため先行して起工された各種タイプ9隻(戦闘空母型や補給母艦・強襲揚陸艦型は含まない)を除いた艦の建造はやや遅れて開始された。これは時間的余裕があるという理由もあったようだが、地球周辺などに浮遊していたガトランティス帝国軍の艦艇の残骸から希少金属を再利用しての建造が予定されていたため、それらの回収に期間を要したという側面もあると考えられている。
戦艦として建造されたD級戦艦の後期生産型は4タイプ、17隻からなるが、その詳細については次項に譲りたく思う。