地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

カテゴリ: 地球防衛軍艦艇史

パトロール艦の供給問題

 さて、実戦に投入されたパトロール艦が艦隊側から好評を博したのは既に述べた通りだが、ガトランティス軍との戦闘が日に日に激化していく中で、偵察行動中にせよ艦隊の戦列にあっても、相応に損耗が生じるようになった。既に村雨改型巡洋艦が実質駆逐艦として運用されるようになっており、金剛改型戦艦が巡洋艦の任務を代替しているような状況だったとはいえ、当然のことパトロール艦は期待の新型巡洋艦として、前線から損耗の補充は要求されたし更なる戦力増強も要望されていた。

 だが、地球防衛軍と艦政本部は、この艦隊側からの要求に対応し切れなかった。そして、それは波動砲艦としてより強力な戦艦に注力していたから、という艦隊側の一部と防衛軍首脳部の対立とは、全く別の要因で起こった事態だった。

 結論だけを述べると、パトロール艦は『建造費が高すぎた』のである。

 一説には『パトロール艦の建造費はD級戦艦の7割弱』と言われたこの建造費の高騰は、主に装備している強力な電探などの探知、通信機器に起因していた。その索敵能力だけならD級戦艦すら上回ると評されたパトロール艦の能力を支えるためには、大型電探や新旧問わず各種の探知、通信機器を多数搭載する必要があったのだ。そして当時の防衛軍には、パトロール艦を大量建造するために必要なそれら機材を揃えるだけの予算も不足していれば、機器そのものの製造能力も限界に達していたのである。
 そのため「このような貴重な艦を最前線に投入するのが間違いである」という批判が、防衛軍首脳部から艦隊側に向けられたこともあった。しかし艦隊側はこれに対し「探知能力も貴重ながら、パトロール艦が装備する波動砲や長砲身ショックカノンの兵器としての威力は無視できるものではなく、これを単に偵察艦としてのみ使用するのは戦力の無駄遣いである」と反論したのである。

 再び防衛軍首脳部と艦隊側の対立か、という懸念が各部門で生じたこともあり、とりあえず艦政本部が金剛改型戦艦に小型波動砲を搭載する改設計を行うことになった。しかし波動砲を搭載するのはよいとしても、金剛改型戦艦に長砲身ショックカノンを間に合わせに装備したところで、艦の構造上、パトロール艦と同等以上の火力を与えるのは、航洋性に悪影響を与えることもあって難しい。それに元々、金剛改型戦艦の巡洋艦運用に関しては『艦型がやや過大』という指摘もなされていたから、このような間に合わせだけで艦隊側が納得するはずもなかった。

 事ここに至って、防衛軍首脳部と艦政本部はようやく『まっとう』と言える判断を下す。それは『パトロール艦をベースにし、探知能力を低下させ建造費を圧縮した新型巡洋艦を設計、量産する』というものであった。


新型巡洋艦への再設計と量産

 パトロール艦を『純然たる戦闘艦艇としての巡洋艦』として再設計することについて、艦政本部はそれほど難しいと考えていなかったようである。元よりパトロール艦の規模と能力は巡洋艦として特に過不足なく、強いて言えば前線からの『敵の大型艦の比率が徐々に上がっているため、更なる戦闘力の向上を求む』という要求に応えられれば十分だったからである。
 まず、パトロール艦が装備していた波動砲と、三式融合弾などの実弾発射に対応した主砲はそのままとされ、前方への火力は維持された。ただし雷装強化の要求が艦隊側からあったため、探知機器を降ろして余剰となった重量とスペースを利用して艦下方両舷の魚雷発射管を三連装から四連装へと強化している(上方の発射管は次発装填装置の配置の関係上、三連装のままとされた)。

 また、パトロール艦はその主砲の射界がかなり艦後方にも広く取られていたが『艦の前後双方に向けられる火力の増強』が考慮されたことから、艦橋構造物下方の両舷に九八式15.5cm三連装陽電子衝撃波砲塔が一基ずつ、舷側砲として装備された。この砲塔の装備方式はD級戦艦の北米管区試作艦『アリゾナ(Ⅰ)』で試みられて失敗したものだったが、このときは実弾発射の機能が求められず揚弾機構の装備が必要なかったこと、砲塔天蓋の装甲圧を舷側装甲と同等まで強化したこともあり、実戦において特に問題は生じなかったようだ。
 なお、艦橋構造物後方に20.3cm連装砲を更に一基追加する案も出たが、この場所は機関部の至近で主砲塔を配置するには狭隘だったこと、また『個々の艦の任務によって、当該箇所の装備を変更する可能性がある』ことが想定されたため、原設計においては何も装備されていない。なお現場においては、対亜空間戦闘も考慮した八連装爆雷投射機や、宙雷戦隊旗艦として必要な通信用アンテナをこの箇所に装備した例が多かった。

 個艦としての探知、通信能力は、パトロール艦からは当然大きく削減されたが、巡洋艦としては当時の標準的な装備が維持された。これによってかなりの重量が余剰となったが、船体規模の関係で兵装強化の余裕に乏しかったため、この重量は主に防御力の強化に充てられた。そのため艦の重量はパトロール艦と大差なかったが、技術の進歩により主機関の出力が向上しており、速力はそれまでのパトロール艦より若干ながら向上している(なお、この新型主機関はパトロール艦の中期生産型以降の艦にも搭載されている)。

 2201年半ば、パトロール艦の派生として建造が決定された巡洋艦の性能は、以下のように纏められた。

全長 180m
全幅 31.9m

波動砲 零式タキオン波動集束砲 1門
主砲  零式二型20cm(実口径20.3cm)連装陽電子衝撃砲 3基6門
副砲  九八式15.5cm三連装陽電子衝撃砲 2基6門(艦尾)

その他武装
    九九式三連装魚雷発射管2基 同四連装2基(艦前方)
    九八式対空迎撃ミサイル発射管 単装8基(二番主砲塔直後両舷)
    九八式短魚雷発射管 単装8門(片舷あて4門)
    一式40mm連装拡散型対空パルスレーザー砲 2基(司令塔後方)
    その他、艦の全周各部に埋め込み式対空パルスレーザー砲を装備(門数不明)
    (零式八連装対亜空間爆雷投射機 1基(艦尾 オプション装備))

主機  艦本式次元波動エンジン 1基

搭載機 九八式汎用輸送機『コスモシーガル』1機
    救命艇1機
    その他救命ボートなど


 元来が実績のあるパトロール艦の派生ということもあり、改めて試作艦を建造する必要も認められなかったことから、設計終了後直ちに予算獲得と量産準備が行われ、村雨改型巡洋艦を代替し、パトロール艦の不足を補う新型巡洋艦として建造が各地の造船所で開始された。特にD級戦艦に比して100mほど短い船体は、D級戦艦の建造を可能とする規模を持たない小規模な造船所での建造も可能にしていたから、この時期、さすがに「量産が追いついていない」と防衛軍首脳部を焦らせていたD級戦艦を補完する艦として大いに期待されていたことが、当時の資料から散見することができる。なおこの期待は、まだ宇宙軍の規模が小さい地球連邦所属の国家にとって、A型巡洋艦が主力艦足り得る性能を有していたことにも起因していたと思われる(実際、この時期の小規模な宇宙軍の基幹戦力として運用されたA型巡洋艦は数多い)。

 そして、量産が開始された新型巡洋艦には『A型巡洋艦』という名称(同時にパトロール艦には『A型パトロール巡洋艦』という名称が付与されている)が与えられ、北米管区で最初に竣工した『ノーザンプトン』がクラス名となった。この時期、前線における村雨改型巡洋艦の能力不足、パトロール巡洋艦の不足が深刻化していたこともあって、A型巡洋艦は続々と建造されて前線部隊へと配属されていった。


A型巡洋艦の評価とガトランティス戦役

 A型巡洋艦の前線での評価は「長砲身ショックカノンおよび副砲により、巡洋艦としての火力は十分である」など好評であったが、当初から近接対空兵装の不足が指摘されており、この点については「早期に改善を求む」という要望が艦隊側から出されていた。しかしガトランティス帝国との戦闘が日々激化している状況下で、艦政本部としても新たな装備をA型巡洋艦に施す余裕はなく、当面は装備の改良などは行われなかった。もっとも、パトロール巡洋艦のほうは装備機器の不足が相変わらず解消されず、建造予定の艦が間に合わずA型巡洋艦に振り替えられるような状況だったから、この時点ではどうしようもなかったと言える。

 ただ『戦役後の改良として考慮する』ことを前提にいくつかの改良案が出されていたのも確かで、以下に列挙しておく。

・主砲および副砲を収束圧縮型衝撃波砲に換装、対空戦闘能力の強化
・パルスレーザー砲の増備など、対空兵装の強化
・艦後部に飛行甲板を設け、少数かつ限定的な艦載機の運用能力を付与する

 これらの案は出された時点では日の目を見なかったが、ガトランティス戦役後にA型巡洋艦の後期生産型が建造される際に参考になったとされている。

 そしてガトランティス戦役が本格的に開始され、運命の土星会戦を迎えたその日、A型巡洋艦はパトロール巡洋艦9隻を含めた70数隻が、連合艦隊の戦列において巡洋艦戦隊や宙雷戦隊の旗艦としてこの戦いに臨むことになるのである。

新型巡洋艦計画の停滞

 2200年にガミラス大戦が終結した当時、地球防衛軍の主力巡洋艦といえば、言うまでもなく多数建造された(大戦における損耗が激しく、この時点で残っている艦はほんの一握りだったが)村雨型巡洋艦だったが、一隻だけ、村雨型とは全く異なる外観を持つ巡洋艦が存在した。それは『レコンキスタ』作戦において太陽系宙域回復艦隊の旗艦を務めた『矢矧』という艦だった。

 『矢矧』は、同じくレコンキスタ戦のために先に建造された駆逐艦『神風』の設計を拡大した艦型を持った、現在の地球防衛軍では『軽巡洋艦』と言うべき規模と武装(主砲は15.5cm連装砲3基)を有する艦であった。戦時の新規設計かつ急造による粗製乱造が原因で運用には相当な苦労を伴ったと伝えられているが、戦場において発揮した性能はほぼ満足すべきものであり、ガミラス大戦終結後の一時期、防衛軍もこの『矢矧』を発展させた新型巡洋艦の建造計画を立案しようとした形跡が認められる。
 だが、この新型巡洋艦はやはり戦時の急造艦であり、戦訓などの再検討の結果、艦の問題の多くが原設計に起因していることが判明した。もし、この『矢矧』をベースに新型巡洋艦を量産するのであれば設計の手直しが必要になるのだが、ガミラス大戦において艦隊戦力の大半を失っていた地球防衛軍にそのような悠長さは許されず、当面、波動機関搭載の量産艦としては既存の金剛型戦艦および村雨型巡洋艦を改装して用いることになった。そのため『矢矧』も早期に特務艦に艦種類別が変更されて第一線を退き、更にガトランティス軍との対戦における『カラクルムショック』の影響で早急に新型量産戦艦(後のD級戦艦)を設計、建造する必要が生じたため、地球防衛軍の艦艇設計を司る艦政本部は、この時点で新型巡洋艦の量産はおろか、設計を行う余裕すら失ってしまったのである。

 この状況下で、当面は見送られた新型巡洋艦の計画であるが、当時の地球防衛軍としてはこれにそこまで焦りを感じてはいなかったようだ。その理由の最たるものは、既に波動機関搭載の改良を行った金剛改型戦艦や村雨改型巡洋艦が、実質的に巡洋艦あるいは駆逐艦が行う任務を代替できていたからである。そこへ量産が決定されたD級戦艦が戦列に加われば、早急に新型巡洋艦を整備せずとも、ある程度バランスのとれた艦隊を編成できると防衛軍首脳部は考えていたらしい。
 この時点においては、その思惑は成功したと言えるだろう。しかしガトランティス軍との戦闘が激化するにつれ、地球防衛軍は巡洋艦においてもなお「既存艦艇の力量不足」という無視できない課題に直面することになるのである。


「装備兵器の能力不足を痛感す」

 波動機関を搭載した金剛改型、および村雨改型はその機動力に関しては、それぞれケルカピア級巡洋艦、クリピテラ級駆逐艦に匹敵すると評価され、ガトランティス帝国軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦にも対抗するに不足はなかった。だが、地球防衛軍にD級戦艦の設計、量産を決断させたカラクルム級の存在が、ここでも大きな問題となって立ちはだかることになったのである。
 無論のこと、波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型のこの時期の実質的な運用は、それぞれ巡洋艦、駆逐艦のそれに相当していたから、カラクルム級に正面切って挑むことまでは要求されなかった。あくまで『機動力の優越によって包囲し、これを撃破する』ことが前提になっていたのだが、問題はその『包囲してからの』戦闘にあった。

 金剛改型の一個戦隊(通常四隻編成)でカラクルム級一隻を包囲しても、撃沈するのが極めて困難だったのである。カラクルム級は戦訓の分析から『正面装甲は極めて強固だが、側面および下方は比較的脆い』と評価されていたのだが、金剛改型が装備していた36cm短砲身ショックカノンでは、その『脆い』という評価の側面や下面すら、確実に貫通して致命的な打撃を与えることが極めて難しかった。そのため金剛改型の戦隊でカラクルム級の撃沈を狙う場合、一番確実な方法とされたのは『宇宙魚雷および誘導ミサイルの飽和攻撃』となり、それも実戦においては、金剛改型が搭載するこれら実弾兵器の全弾を使用してようやく撃沈に持ち込んだという状況が多発していたのだった。

 (他にも『艦首48cmショックカノンの砲撃を繰り返す』ことでも撃沈は可能とされたが、カラクルム級と正面切って撃ち合うには金剛改型では性能不足が甚だしかったため、早期にこの戦術は放棄されている。この戦法が再検討され実施されたのは、金剛改型の艦首ショックカノンを小型波動砲に換装した艦が戦場に投入されてからであった)

 まだD級戦艦が量産されていない以上、金剛改型は当面は地球防衛艦隊の主力として活動することが求められていた。その一個戦隊でようやくカラクルム級一隻を撃沈できるかどうかとなると、それほど大量の艦艇を揃えられるわけではない地球防衛軍にとっては由々しき事態だった。撃沈できるだけまだいい、という考え方もできたが、一隻のカラクルム級に対してほぼ全ての宇宙魚雷や誘導弾を使い果たすような戦術は、その後の継戦能力が維持できないという点が艦隊側から問題視されたのである。
 まして、カラクルム級以外の艦艇との戦いでも短砲身ショックカノンの威力不足はかなり深刻な問題と受け止められていたようで『波動機関により機動性が大幅に向上した』と好評を得た金剛改型、あるいは村雨改型が一定の戦果を挙げられたのも、その短砲身ショックカノンでも接近戦に持ち込む機動力があるため敵ガトランティス軍のラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦に対して威力不足を露呈せずに済んだという認識さえ、艦隊側の一部には存在していたとされている。ある戦闘の詳報で『装備兵器の能力不足を痛感す』という記述を見ることができるが、それが金剛改型、あるいは村雨改型が抱えている最大の問題点であるのは確実だった。


新型巡洋艦の設計と求められた任務

 地球防衛軍首脳部としても、艦隊側から指摘されたこの事態を傍観するわけにはいかなかった。D級戦艦の設計と試作に目途が立った頃、ようやく艦政本部も本腰を入れて新型巡洋艦計画を開始できる状況が整ったこともあり、早速、検討が開始されている。だが、この時期の防衛軍はいわゆる『新型巡洋艦』に、既存の村雨改型、あるいは実質的に巡洋艦として運用されるようになった金剛改型とは別の任務も求めていた。

 それは、D級戦艦を中心とする新鋭艦隊の『目』となる偵察艦としての任務だった。この時期、地球防衛軍は一定の航空母艦とそれに付随する艦載機の量産は続けていたが、搭乗員を多数失ったガミラス大戦の影響は大きく、当時の防衛軍の航空隊は攻撃戦力として以上に偵察能力の十分な確保さえ難しい状況だったのだ。まして、広大な太陽系のしかも外縁まで偵察活動を行うとなると、基地航空隊を含めても、航空機だけでは万全な哨戒網を張り巡らすことは困難と判断されたのである。
 そこで、偵察巡洋艦による哨戒を定期的に行うことにより、太陽系外周艦隊の運用を有機的に行うことが構想されたのである。当時のこうした哨戒網は探査衛星や偵察艦に改造された磯風改型駆逐艦を中心に、少数ながら探知能力を強化した村雨改型巡洋艦が投入されてはいたのだが、探査衛星は純粋に数が足りず、磯風改型や村雨改型はこと偵察艦としては間に合わせの急造艦という感が否めず、十分な索敵能力が確保されているとは言えなかった。防衛軍首脳部としてはまず、この『偵察能力の不足』を解消することに重点を置き、純粋な戦闘艦艇としての巡洋艦は当面のところ、D級戦艦の就役によって巡洋艦としての運用に切り替わることが予定されていた金剛改型によって賄うつもりであったようだ。

 しかし、艦隊の偵察艦としても太陽系宙域を哨戒する警備艦としても、村雨改型に毛が生えた程度の戦闘力では能力不全となることは明らかだった。艦隊の先頭に立つ偵察艦として、あるいは単独で哨戒中に敵艦と接触する可能性のある新型巡洋艦には、村雨改型を上回る攻撃力と可能な限りの継戦能力を必要とした。そして『継戦能力が必要』ということは、言い換えれば搭載量の関係で有限であるミサイル、魚雷兵装に大きく依存するのではなく、一定の威力を確保した中口径ショックカノンを用いることが前提になることは言うまでもなかった。
 この条件で新型巡洋艦を設計することになった艦政本部は、ここで『レコンキスタ』で活躍した『矢矧』に目を付けた。『矢矧』には、当初ヤマトの副砲の候補として開発された九八式15.5cm陽電子衝撃砲が搭載されていたのだが、この中口径ショックカノンはエネルギー量という点では金剛改型や村雨改型に優越するものではなかったが、長い砲身を有することで装甲貫徹力に関しては格段の差があった。これなら、同じショックカノンの門数(6門)でも村雨改型を大幅に上回り、砲の門数で勝る金剛改型に比しても伍する火力を与えられる。しかも『矢矧』というベースとなる艦が存在する以上、設計にもさして時間はかからない。当時の艦政本部にとっては渡りに船と言うべきものだった。

 この新鋭巡洋艦には既存の村雨改型巡洋艦と区別する意味合いで『パトロール巡洋艦(現場では『パトロール艦』と呼ばれることが多かったため、以下はこの呼称で記述する)』という名称が付与され、早速、設計が行われた。『矢矧』というベースが存在していたため設計は順調に進んだが、その途上、防衛軍首脳部の一部から横やりが入ったことで作業が一時停滞してしまう。
 それは、このパトロール艦に『波動砲を搭載せよ』というものだった。確かに船体規模からすれば、小型の集束波動砲であればギリギリ搭載できるのは確かだったが、本来は艦隊行動ではなく単独、少数による偵察活動を前提にした艦である。そんな艦に『波動砲は不要では?』という声が艦隊側の一部からも上がったが、この時期の防衛軍首脳部の多く、そしてその裏にいる連邦政府首脳部の一派が結びついたことで生み出された『波動砲艦隊構想』の影響から逃れることはできず、パトロール艦にも波動砲の搭載が強行されることになった。

 波動砲搭載という不測の事態こそあったが、パトロール艦の設計は順調に進み、早速試作および量産が開始された。だが、試作艦を含めて8隻が建造されたところで、艦隊側から『実戦の使用に耐え得る艦にあらず』という評価を下されてしまい、このため艦政本部と艦隊側の協議、および実艦を用いた各種実験が行われることになった。

 その結果、この新型パトロール艦の最大の問題点として、以下の要件が結論として導き出された。

 『波動砲艦としての防御力、搭載するショックカノンの威力と探知能力のいずれもが不足している』

 一言で言ってしまえば『与えられた任務に対して性能が中途半端だった』ということである。波動砲チャージ完了まで敵の攻撃に耐えられない防御力。短砲身砲より優れているとはいえ、巡洋艦として用いるには威力不足なショックカノン。そして、もっとも重視すべきであった探知能力が、艦の規模を村雨改型より大型化することが許されなかったことによって、同時に搭載機器の大型化も不可能となってその力量不足を露呈したこと。これらの問題点が重なった結果、艦隊側からの『実戦で戦力になり得ない』との評価に繋がったのだった。

 艦政本部はこれらの指摘を再検討したが、こうした問題の多くは『艦が小型すぎた』ということに起因しているという結論を出した。パトロール艦、ひいては巡洋艦として十分な能力を与えるには、艦を大型化する必要がある。防衛軍首脳部から許可を得た艦政本部は、早速既存のパトロール艦を大型化する改設計に着手することになった。純粋に艦型を変更せず大型化して能力を強化するのだから、さして手間のかかる作業ではなかったと思われる。設計は早期に終了し、再度の建造が決まった『新・新型パトロール艦』は以前のパトロール艦より大型化(全長152m→180m)され、同時に主砲もヤマトがイスカンダルへと出撃する直前に副砲として搭載した『九九式20cm(実口径20.3cm)陽電子衝撃砲』に換装して量産が再開されることとなった。

 この再設計が行われ、建造が再開された新型パトロール艦は、波動砲艦として用いることが可能な最低限の防御力、巡洋艦として相応と評価できる火力、そして大型化した船体に合わせて強化された探知機器による高い偵察能力を艦隊側からも高く評価され、一躍、D級戦艦と共に重要な量産艦として建造が継続されることになったのである。

 しかし、好事魔多し。一定数が艦隊に配備され、当初の偵察、哨戒任務のみならず時にガトランティス帝国軍との艦隊戦も経験することになったこの新型パトロール艦は、当初の防衛軍の思惑を超えたところで弱点を露呈し、その対策を防衛軍に強いることになったのである。

(※筆者注 本文内のD級戦艦のスペックに関しては、あくまで筆者の二次創作として原作『さらば』『2』に登場する『主力戦艦』も含めて考慮した独自のものとなっており、原作およびリメイク版『2202』の公式設定とは全く関係ないものとなっていますので、その点はご了承ください)

仕様決定と量産の開始

 四管区による試作艦建造とその試験を経て、最終的には『ドレッドノート(Ⅰ)』の船体に『出羽』の機関を搭載する、という決着を見た新型量産戦艦の仕様だったが、その他、細かい箇所の再検討などが再び艦政本部で行われ、2201年10月、その決定により新戦艦は以下の性能にまとめられ、防衛軍首脳部はこれを承認した。

全長 280m
全幅 69.8m
全高 99.7m

波動砲 一式タキオン波動拡散砲(通称・拡散波動砲)1門
主砲  一式41cm三連装集束圧縮型陽電子衝撃砲 3基9門

その他武装
    九九式短15.5cm六連装陽電子衝撃砲 1基(司令塔頂部)
    零式四連装対艦グレネード投射機(対空兼務 前甲板両側面)
    一式亜空間魚雷発射管 単装4門(艦首両舷)
    零式小型魚雷発射管 単装8基(艦首両舷)
    九八式対空迎撃ミサイル発射管 単装8基(艦底部)
    九八式短魚雷発射管 単装12門(片舷あて6門)
    一式多連装小型ミサイル発射管 16門(片舷あて8門)
    司令塔防護用ショックフィールド砲 3基(司令塔前部および基部)
    零式短砲身六連装光線投射砲 2基(司令塔基部側面)
    九九式40mm連装対空パルスレーザー砲 2基
    一式76mm三連装拡散型対空パルスレーザー砲 2基
    その他、艦の全周各部に埋め込み式対空パルスレーザー砲多数(門数不明)

主機  艦本式次元波動機関 1基
補機  ケルビンインパルス機関 2基
    懸架式亜空間航行用機関 2基

搭載機 一式一一型艦上戦闘機『コスモタイガーⅡ』10機(うち2機は偵察機仕様)
    九八式汎用輸送機『コスモシーガル』2機
    救命艇2機
    その他救命ボートなど

 武装の特徴として、ヤマトに比して対空兵装が大幅に削減されたことがまず目につくと思われる。これは拡散型パルスレーザー砲の採用で十分な弾幕が形成できると判断されたこと、また主砲塔が大仰角を取れるように設計されており対空砲として使用可能なことが考慮された結果だが、後にこれが問題を引き起こす原因になった。ただ、その詳細については先に譲りたい。
 また本艦の搭載機についてだが、ヤマトと同様に艦載機運用にいささか不自由があったこと、後に本級を改造した航空母艦の建造が決定されたこと、原則として艦隊での運用が常であり単艦で行動することがほとんどなかったこと、そもそも搭載すべき戦闘機が搭乗員も含めて不足していたなどの理由が重なり、偵察機を除いた戦闘機を搭載して作戦行動を行ったという記録は現状見つかっていない。

 なお、本艦の補給、給糧設備に関しては『ヤマトほどの長期航海は前提としない』『長期航海を行う場合は補給艦の随伴を検討する』『状況が許せば、ガミラス基地からの補給も求める』などが考慮された結果、ヤマトのようO.M.C.S(食料合成装置)や大規模な艦内工場、慰安、給糧施設は省略されており、その代わり乗員一人当たりの居住スペースを拡大することで居住性の向上が図られていた。ただ、自艦の修理および弾薬の補給に必要な工場設備、乗員用の物資保管のスペースは必要と想定された状況に応じて十分に準備されている。

 設計完了後『波動砲艦隊』の早期実現を望む防衛軍首脳部と、カラクルム級という現有艦艇では対抗困難な強敵を抱えていた艦隊側の双方から早急な新戦艦を望まれたこともあり、ただちに量産計画が立てられた。防衛軍にとってはもちろん、地球連邦政府にとってもガミラス大戦からの復興期に、それもヤマトを除けばかつてない大型戦艦の量産は難行に違いなかったのだが、ガトランティスという目前の敵の存在、そしてガミラスとの政治的駆け引きを考慮すれば、躊躇する余地はなかったものと思われる。

 2202年度の予算要求で、D級戦艦(本来はA型戦艦と呼ぶべきだが、D級という通称が広く知られており、後のアンドロメダ級の通称『A級』と紛らわしいことから、以降は必要のない限りこの表記を用いる)はまず18隻分の予算が求められた。
 これは、当時の地球防衛軍の戦艦戦隊が4隻編成だったため、4個戦隊と予備艦2隻分の要求だったのだが、防衛軍士官学校において行われた、波動砲戦を含めた戦艦戦隊の戦闘要領の研究結果として『戦艦戦隊は3隻編成とし、2隻が波動砲発射体勢に入った際に1隻がこれを支援するのが最適』との意見が出されたこと、また当時の防衛軍に新造戦艦を予備として遊ばせておく余裕もなかったため、6個戦隊分に編成替えされている。
 (ただし、実戦部隊において4隻編成による戦隊が構成されたことも多々あり、少なくともガトランティス戦役当時においては、まだ3隻編成が完全に一般化していたわけではないようである)

 前例を見ない大型艦の大量、かつ急速建造であり、予算の折衝も難航すると思われたのだが、前述した通り『波動砲艦隊』を目指す連邦政府首脳と、ガミラス大戦による戦禍によって『自国の軍備が弱いことで何が起こるか』を理解せざるを得なかった多くの市民から支持を受け、予算案はすぐに成立。早速、防衛軍が立案した計画に従って建造作業が各地のドックで開始された。
 当初は一番艦が『ドレッドノート(Ⅰ)』ということもあり、艦名の頭文字のアルファベットをDに揃えることがイギリスから提案されたようだが『旧来の伝統ある艦名を継承できない』と多くの国から反発を受け、断念されている。以下は艦名を示しつつ、ガトランティス戦役終結までに量産されたD級戦艦をタイプ別に紹介したいと思う。


A2型(前期生産型)
『ドレーク』『デヴァステーション』『ダンカン』
『ドイッチュラント』『ヘッセン』『バーデン』
『デラウェア』『ノース・ダコタ』『サウス・カロライナ』
『デュプレスク』『デュケーヌ』『ド・グラース』
『ドヴィエナザット・アポストロフ』『ペトロパブロフスク』『セヴァストーポリ』
『山城』『河内』『摂津』

 当初の予算案による18隻枠で建造された、D級戦艦最初の量産艦である。

 機関のみ『出羽』のそれが用いられた以外は、概ね『ドレッドノート(Ⅰ)』に準じて設計されたが、先述した旗艦設備の強化と、旋回性能の不足が指摘されたことから船体各部にスラスターが増設されるなどの改良が行われている。
 強化された旗艦設備は、戦艦戦隊旗艦から分艦隊(当時の地球防衛艦隊では30隻程度が想定されていた)旗艦まで問題なく務めることが可能とされ、当面は十分なものとされた。ただ、ガトランティス戦役が本格的に開始された頃に更なる旗艦設備強化の要望が艦隊側から出された関係で『バーデン』『サウス・カロライナ』『デュケーヌ』『ペトロパブロフスク』『河内』に小規模な改造工事が行われている。この5隻の艦橋構造物後方には艦隊司令部専用の通信アンテナが追加されているため、未改造艦との識別は容易である。

 また、当初から戦時定数150名程度、最低90名程度での戦時運用が要求されていたD級戦艦だったが、当時の深刻な人員不足は90名の乗員を確保することすら難しかったため、試作艦のそれ以上にAIなどを用いた自動化、省力化が推進された。これはこの時期の判断としてはやむを得ないものであったが、当時も艦隊士官の一部から『十全たる戦力発揮に不安あり』との指摘も存在しており、後のガトランティス帝国との戦いにおいても問題となっている。

 ともあれ、このA2型戦艦はガトランティス帝国が太陽系に侵攻してきた際は、文字通り艦隊の『主力戦艦』として第一線を担ったクラスだったと言える。それだけに損耗も多大なものとなったのだが、戦歴については今後紹介するタイプも含めて、別項にて記述したいと思う。


改A2型a(電探強化型 パトロール戦艦)
『テネシー』『リヴェンジ』

 2201年後半に追加建造が決まった4隻のD級戦艦のうちの2隻である。この頃はまだガトランティスとの本格的戦闘は始まっていなかったが、前線から『カラクルム級との遭遇機会が増えており、今後、敵に大規模な作戦を行う気配が感じられる』という報告があったため、一部の金剛改型、村雨改型の建造予算を転用する形でD級の追加建造が決まったのである。

 本型はその最初のものだったが、量産中のA2型戦艦とは運用目的が異なっていた。当初、本型は電探ならびに通信施設を強化することで、100隻を超えた大艦隊(当時、土星会戦における地球艦隊の総数200隻前後の艦隊編成は考慮されていなかったようだ)を指揮、統制するために建造が計画された。
 だが、実際には強化するとはいえ、D級程度の艦の規模で100隻以上の大艦隊を指揮するのは荷が重く、この判断が『戦略指揮戦艦』たるアンドロメダ建造の契機となる。そして、浮いた形になったこの2隻の戦艦枠に関しては、電探、通信能力の強化はそのままに、遊撃部隊として敵侵攻軍(当然、その仮想敵はガトランティス帝国軍である)の後背で破壊活動を行うべく編成が構想された第三艦隊に配備するための戦艦として計画が変更され、起工された。

 ところが建造開始直後、連合艦隊司令部から、その第三艦隊にD級戦艦に近い火力とより優れた航空機運用能力を有する空母(戦闘空母、としたほうが適切と思われる)の配備が構想され、これが防衛軍首脳部も認めるところとなったため、再びこの両艦が宙に浮くこととなった。
 とはいえ、搭載すべき武装や電探、通信整備は既に用意されていたため建造中止にすることもできず、艦政本部は再びこの両艦に若干の改設計を加え、今度は地球防衛軍にとって最前線と言うべき冥王星、海王星基地に配備される警備艦隊の旗艦用戦艦として建造が続行されることとなった。

 ベースとなったA2型戦艦からの、最終的な改造点は以下の通りである。

・艦隊旗艦用司令部施設と司令部要員用の居住区画を拡大
・改A2型パトロール巡洋艦と同型の大型電探を艦底部に装備、その他の探知機器もパトロール巡洋艦より更に強化して搭載
・代償重量として艦底部の九八式対空迎撃ミサイル発射管8門を撤去。ミサイル弾薬庫を縮小
・大出力通信機器に対応した専用アンテナを艦各所に追加

 この改造により、一見すると後に建造された『アンドロメダ』のようなアンテナ類が林立する特徴的な外見を持つこととなった。なお本艦の評価としては「通常型に比して機動性が若干低下し、操艦が難しくなった」というものが伝わっているが、兵装は概ね維持されていたし、また旗艦能力や探知、通信機能が非常に高かったため、実際に運用した冥王星、海王星の警備艦隊からは概ね好評だったようだ。

 本型は警備艦隊以外の運用は考慮されていなかった、という説もあるようだが、実際は平時における哨戒活動の他に、警備艦隊を率いて第一、第二外周艦隊との共同戦闘訓練を行っており、戦時においては警備艦隊と共に連合艦隊の戦列に加わることが既定事実となっていたようである。
 そのため、地球防衛軍において最大の艦隊決戦となる『土星会戦』にもこの両艦は参加しているのだが、その際の状況については別項に譲りたいと思う。


改A2型b(主砲換装タイプ前期型)
『相模』『コンテ・ディ・カヴール』

 改A2型a戦艦と同時に計画された艦だが、この両艦は誕生の経緯が少々特殊なものだった。

 詳細は後に譲るが、この時期のD級戦艦はいわゆる『一式41cm砲の散布界問題』に悩まされていた。そのため各種の解決法が艦政本部や技術本部で議論、実験されていたのだが、その中でこのような提案がなされていた。

 『ヤマトが搭載した九八式48サンチ陽電子衝撃砲を、D級戦艦に搭載することは可能だろうか?』

 確かに九八式48サンチ陽電子衝撃砲は、戦時下でそれが許されなかったという事情があったとはいえ、散布界過大など致命的な欠陥が発生しないよう、極めて堅実な性能で纏められた艦砲だった。そのためイスカンダルへの航海においても大きな問題は発生しなかったのだが、この砲をD級戦艦に搭載しようというのである。
 だが、この『九八式48サンチ陽電子衝撃砲を搭載したD級戦艦』は、既にロシア管区が建造した『ボロディノ』で試みられ、船体の大型化によって量産艦としては不採用になったという経緯がある。それを踏まえてのこの提案には、当然のこと『ボロディノ』とは違う特徴があった。

 『バーベット径の拡大を防ぐため、連装砲塔にて搭載してはどうか?』

 実はヤマトの設計案において、九八式48サンチ陽電子衝撃砲の連装砲案が存在しており、連装砲塔の設計も完了していた。これを流用すれば、D級の船体に対して最低限の改造を施せば、九八式48サンチ砲を簡易に搭載する目途があったのだ。
 そのためこの案は採用されたが、当時既に九八式48サンチ陽電子衝撃砲は砲身の生産が行われておらず、その建造にはガミラス大戦末期にヤマトの予備用として製造された砲身を転用するしかなかった。それでも、一隻でもD級戦艦の数が欲しい防衛軍首脳部と艦隊側の思惑が一致したこともあり、この改A2型b戦艦の建造は行われることになった。

 そうして実際に完成した改A2型b戦艦であったが、実際に運用した艦隊側は『主砲威力の向上、および散布界問題の解消は歓迎できるが、発射速度の遅さに大きな問題がある。可能であれば九八式二型48cm陽電子衝撃砲(2202年大改装後のヤマトが搭載した48cm砲)への換装を望む』と評価した。
 しかし、この提案が検討される前にガトランティス戦役が本格化、太陽系への攻撃が始まったため、両艦とも既存の主砲のまま戦役に参加している。


A3型(中期生産型)
『クイーン・エリザベス』『バーラム』『ヴァリアント』
『ノース・カロライナ』『ワシントン』『アラバマ』
『薩摩』『周防』『丹後』
『レジーナ・マルゲリータ』『エマニュエレ・フィリベルト』『サルディーニャ』
『ナッサウ』『ヘルゴラント』『オルデンブルク』
『ペレスヴェート』『シノープ』『ポペーダ』

 当初は2202年前半に、前期生産型各艦が戦闘によって損耗することを見越して9隻の整備が決まったものだったが、いわゆる『カラクルム落下事件』(当時はそう呼ばれず、単なる事故として扱われていたが)によって地球の座標がガトランティス側に露呈したのを受けて『可及的速やかに、かつ可能な限り多数を量産する』ことが決定され、戦時予算による更なる追加建造が決まったグループである。
 前期生産型であるA2型からは、以下の改良が施されていた。

・艦各部の簡易化(これは戦時下のためというより、量産による経験の蓄積から過剰と判断された部分を削った、と言うべきものである)
・艦内構造の一部変更、防御隔壁の強化
・電探、通信設備。並びに各種AI機器の更新
・散布界問題に悩まされていた主砲に、新型の発砲遅延装置を装備(本タイプ以前の艦にも逐次装備されている)
・中規模艦隊(50隻程度)向けの旗艦設備を標準装備

 特に艦内構造の変更は『ガイデロール級をモデルシップにした』本型にとっては大きな変更点であり、地球がガイデロール級を基礎にしつつ、独自の大型艦設計を行う契機となったと言えるだろう。

 戦時下ということで本タイプの量産は急がれ、ここに艦名を挙げた18隻はいずれも土星会戦に最新鋭艦として参加している。なお、艦隊側の運用評価はA2型戦艦とほぼ変わるところはなかったが、発砲遅延装置の搭載とAIの改良にも関わらず、相変わらず散布界問題が解決していないことが問題視されている。これは土星会戦においても大きな問題を引き起こしているのだが、詳細は別項にて触れたい。

 なお予定艦名が不明なため省略したが、A3型戦艦はこの18隻以降も追加建造が行われるはずだった。しかし太陽系に敵勢力が侵入する状況下で、連合艦隊司令部から『戦艦以上に、それを護衛する巡洋艦や駆逐艦の不足が深刻である』と強硬な要望があったことや、土星会戦後の太陽系各惑星および地球本土への攻撃によって工廠ごと失われた艦も多く、戦後はD級戦艦の建造が後期生産型へと移行したこともあって、最終的なA3型戦艦の整備は18隻で終了している。

暗黒星団帝国戦役から銀河系中央部戦役まで

 重核子爆弾の投入という奇襲攻撃によって始まった暗黒星団帝国戦役に、当初地球防衛軍はほとんど有効な対処を取れなかった。この戦役の特に初期は防衛軍にとって計算外の事態が多発したのだが、その大きなものの一つに「太陽系への侵略に対すべき迎撃戦力が、外惑星基地の要員が全滅し機能しなかった」ということがある。

 もちろん、これは艦隊にとっても極めて重要な問題であった。A型戦艦に限定すると、外惑星基地に配備されていた「カイオ・デュイリオ」「テネシー」「ドレッドノート(Ⅱ)」「ネルソン」は全乗員を失って戦闘力を喪失、その後の戦局に全く寄与できなかった。
 また、改装あるいは整備のため地球の工廠に待機していた「ストラスブール」「ネヴァダ」「メリーランド」は、侵攻してきた暗黒星団帝国軍に拿捕されるのを防ぐため主要部を爆破する措置を取らざるを得ず、いずれも戦役後に修復不能と判定され解体されている。

 重核子爆弾襲来の直前に演習のため金星基地へと移動していた「金剛」は無事であったが、地球本土が占領されている状況で金星から動くことができず、ヤマト隊によるデザリアム星攻撃が成功するまで行動していない。その後の暗黒星団帝国地球残存勢力に対する作戦には参加しているが、敵艦隊の多くがヤマト隊追撃に出払っていたため大きな戦果は残せなかった。

 唯一、戦役勃発前にシリウス星系へ派遣された練習艦隊に参加していた「薩摩」がヤマトとの合流に成功し、デザリアム星到達までに発生した艦隊戦で相応の戦果を挙げた。ただ本艦が搭載していた連続ワープ機関は限定的な改造に留められていたため艦隊への追従にいくらか不自由が生じており(ヤマト隊は無人艦との混成部隊だったため、致命的なものではなかった模様)、特に最終盤のデザリアム星崩壊時の脱出の際に連続ワープが成功したのは「全くの幸運でしかない」と戦闘詳報に記載されている。

 暗黒星団帝国戦役終結後、防衛軍は戦役によって生じた損害を補うための軍備拡張を計画した。しかし今回の戦役では艦艇以上に人的損失が大きく、また地球本土そのものの被害が甚大であったことから、既存艦艇に対する改装は予算の確保が難しくなり、A型戦艦に関しては当時の公式文書のいくつかから判断すると「極力規模の小さい改装を行い、他艦艇と性能を均衡化する」という観点で改装されることになったようだ。
 改装の内容については、B型戦艦の量産が決定される前に作成されたと思われる「現有A型戦艦への改装に関して」と題する資料が残っているため、そこから要約する。

・波動砲の換装(この資料には新波動砲と爆雷波動砲のどちらを用いるかは明記されていない)
・主砲を換装し二式波動徹甲弾(波動カートリッジ弾)に対応させる(主砲の換装については「二式波動徹甲弾への対応のため」と資料内で明記されているが、全艦を40cm砲ないし46cm砲に統一することが検討されたかははっきりしない)
・主砲塔内部に砲側照準による射撃を行うための設備を追加(装備済みの「薩摩」「ドレッドノート(Ⅱ)」は除く)
・パルスレーザー砲の追加および換装により対空兵装を強化
・ミサイル兵装の更新
・機関を単艦で連続ワープが可能なものへと改造

 規模を最小限にしつつ、暗黒星団帝国戦役の戦訓も反映させる改装になるはずだったが、ここでA型戦艦の置かれている状況に大きな変化が生じた。A型戦艦の後継として計画が進められていたB型戦艦の量産が決定されたのである。
 このため、現存するA型戦艦は「B型戦艦の充足まで、現状艦隊の主力として欠かすことができない」「B型戦艦を量産する以上、現有の戦艦に改装を加える意味は薄い」という双方の事情が考慮され、その結果「当面は工事を行うことが難しい」と判断されて改装はいったん棚上げされることになった。ただし「ドレッドノート(Ⅱ)」のみは量産が決まったB型戦艦と同じ爆雷波動砲と46cm衝撃波砲を搭載していたことから、砲術練習艦として用いるため主砲を九九式三型46cm衝撃波砲(暗黒星団帝国戦役時のヤマトの主砲。二式波動徹甲弾に対応済み)に換装、少数ながら二式波動徹甲弾の配備も行われている。
 (なお、以降のA型戦艦各艦に共通する問題として「船体規模が小さく二式波動徹甲弾を搭載する弾庫が確保できない」というものがあり、「ドレッドノート(Ⅱ)」では即応分の1砲塔あて2発を砲塔内に搭載することで対応したが「砲塔被弾の際に誘爆の恐れがあり、装填作業の一部に人力を要するため乗員への負担が大きく作業自体も危険」と艦首脳部が指摘した文書が存在する)

 しかし短期間に再び状況が変化し、今度は太陽の核融合異常増進と第二の地球探査、それに伴ってガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦の紛争に巻き込まれる事態に陥った。もちろん人類移住のための移民船を確保するのが最優先と防衛軍は認識していたが、同時に船団を護衛する戦力として艦隊が必要と考えられたこと、大規模な星間国家同士の紛争に板挟みとなっている現状から移住開始前に太陽系が侵略される可能性も考慮され、結果、A型戦艦の改装について防衛軍は「最前線に戦力として配備しつつ、状況が許せば可能な限り性能改善工事を行う」という、中途半端ながらやむを得ない決断を下すこととなった。

 銀河系中央部戦役終結までのA型戦艦各艦がどのような状況であったか、個別に追っていくこととする。なお、同戦役最後の戦いとなった太陽周辺での会戦はボラー艦隊の長距離ワープによる奇襲という形で開始されたため、この時期ボラー連邦の侵攻に備えて太陽系外周に配備されていたA型戦艦はいずれも参加できなかった。


「カイオ・デュイリオ」

 本艦は引き続き外惑星練習艦隊の旗艦任務に充当されており、遅くとも戦役中盤までに対空兵装の追加工事(内容は「薩摩」と同じで、装備された火器も旧来のもの)と主砲砲身基部への増加装甲の追加が行われている。なお、戦役中に敵艦隊との交戦機会はなかった。

「テネシー」

 太陽系外周無人艦隊旗艦の任を解かれた後、ケンタウルス座のアルファ星第4惑星に駐留する警備艦隊の旗艦として派遣された。戦役中にアルファ星系がガルマン・ガミラス軍の攻撃を受けた際はドック内で整備中で、そこを攻撃され大破炎上し艦歴を終えた。ただ一部の火器は現在も使用可能であり、同地にて防空砲台として用いられている。
 なお、本艦はイスカンダル戦役終結以降、無人艦隊旗艦として必要な司令部施設の整備が続行して行われたが、その他の装備は喪失までほぼ変化はなかったようだ。

「薩摩」

 艦底部のミサイル兵装を九九式二型垂直軸ミサイル発射管(発射速度向上)に換装する工事が行われている。完了後は乗員の訓練に従事し、戦役後半にはカイパーベルト宙域に進出しボラー連邦艦隊との小規模な戦闘のいくつかに参加した。

「ドレッドノート(Ⅱ)」

 「カイオ・デュイリオ」と同様の対空兵装強化が行われた。戦役開始時は砲術練習艦として活動していたが、戦役後半に「薩摩」と共にカイパーベルト宙域での艦隊戦に参加している。
 なお、砲塔の形式が他のA型戦艦と異なる本艦は砲塔天蓋への増加装甲は不要と判定され、追加工事は実施されなかった。

「ネルソン」「金剛」

 この2隻はB型戦艦充足まで戦艦戦力の中核と見なされていたため太陽系内で温存されており、戦役最終盤に冥王星基地へ移動した以外は特に戦歴はない。改装は戦役初期に「カイオ・デュイリオ」と同じ対空兵装強化と、二式波動徹甲弾に対応する「一式二型40cm衝撃波砲」への換装と主砲砲身基部への増加装甲追加、および「薩摩」と同様にミサイル装備を更新、主砲に砲側照準による射撃を可能とするための装備が追加されている。ただ「ドレッドノート(Ⅱ)」と異なり両艦に二式波動徹甲弾が配備された記録は現在に至るまで見つかっていない。
 (筆者の推定だが、この時期の二式波動徹甲弾の生産は46cm砲弾に絞られており、その影響で配備できなかったものと考えられる)

 ちなみに、A型戦艦各艦が第二の地球探査に派遣された調査船団に参加しなかったのは、元々の設計に起因する「無寄港で長期間の航海を行うには他艦の支援が必要である」点が問題となり、検討の結果「運用に労力が多く船団の足手まといになる可能性が高い」と判断され、護衛艦リストから外されたことが公式文書により判明している。
 また、この時期の大口径衝撃波砲に共通するボラー連邦艦艇に対するエネルギー通常弾の威力不足問題については「薩摩」「ドレッドノート(Ⅱ)」の戦闘詳報に「至急の対応が必要である」との記載があり、特に二式波動徹甲弾に未対応だった「薩摩」が戦闘で難渋したと伝わる。


ディンギル戦役

 銀河系中央部戦役が終結して程なく、移民船建造のため縮小されていたB型戦艦の量産も順次再開され、続々と新造艦が竣工していった。この時期は白色彗星帝国戦役以前よりなお参謀本部が波動砲搭載戦艦に大きな期待を寄せていたから、B型戦艦の建造ペースは当時の状況から考えても相当に早いものとなっていた。

 それに伴い、A型戦艦各艦は順次第一線を退いて二線級戦力として維持される方針が決定された。これは過去の戦役から得た戦訓を考慮した場合、艦齢が比較的若いとはいえA型戦艦の性能が少なからず陳腐化しているのは否めなかったからである。特に参謀本部はB型戦艦に波動砲の性能で大きく劣るのが最大の問題としていたことが資料からもうかがえる。
(なお艦隊側も、この時期の戦闘演習に関する所見で「A型戦艦は全般的にB型戦艦に比して性能が劣り、実効戦力としての価値に疑問がある」と述べている)
 この問題を改善するため大規模な改装を行うべきという意見もあったが、そうした改装を実施したとしても、新造のB型戦艦に伍して戦える艦とするのは極めて難しいと考えられた。そのためか、少なくとも前期生産型の2隻については代艦としてB型戦艦を追加建造するべく予算の折衝が行われるところであったようだ。

 その状況で発生したのがディンギル戦役である。

 当時、B型戦艦は15隻が完成しており、この全艦が木星圏でディンギル侵攻艦隊と交戦した。しかし有力なハイパー放射ミサイルを用いた敵艦隊の攻勢を支えきれず、B型戦艦を主力とした地球防衛艦隊はこの一戦で壊滅的な被害を受けた。

 A型戦艦各艦はこの時点では予備兵力扱いであり、木星会戦には参加せず地球および内惑星基地に待機していた。しかし主力艦隊が壊滅し、未だ冥王星宙域には機動要塞を始めとする多数の敵戦力が存在する、同時に水惑星アクエリアスのワープ阻止を行わなければ人類の滅亡は避けられない。この非常事態に防衛軍は残存する艦艇をかき集め、修理が必要な艦にも最低限の修理を施して戦線に投入するという決断を下した。
 この決定と前後して地球本土にディンギル軍の空襲が行われ、そのとき「金剛」が主機関に大きな損傷を被り作戦への参加が不可能になった。そして「第二次冥王星会戦」と呼ばれるディンギル太陽系侵攻軍との戦闘には「カイオ・デュイリオ」「薩摩」「ドレッドノート(Ⅱ)」「ネルソン」が参戦し、このうち「ネルソン」は防空を担当するC1型駆逐艦10隻と艦隊を編成して囮部隊の一翼を担い、他の3隻は本作戦の主力と目される第一遊撃部隊にB型戦艦の残存艦「マサチューセッツ」「スラヴァ」と共に編入された。

 しかし、最終的には敵機動要塞を撃破し会戦に勝利した防衛軍であったが、ディンギル軍の攻撃により「ネルソン」と「カイオ・デュイリオ」が撃沈され、残る2隻も大破してその後の戦闘継続が不可能となった。これはB型戦艦を始めとする他の艦も概ね同様の状況であり、敵の本拠地である都市衛星ウルクに突入したのがヤマト1隻となったのはこの会戦の損害が大きかったことによる。

 第二次冥王星会戦におけるA型戦艦については、戦闘詳報において性能全般の不足、および改装が統一されていなかったため各艦の性能が不均衡で運用に支障が生じている、と指摘された。また一方で「かかる状況において、性能で劣るとはいえ艦隊内に戦艦が存在していたのは幸いであった」という記述も残されている。


A型戦艦の現状と今後

 ここからは、2204年現在および今後のA型戦艦について、僅かではあるが触れてくことにする。

 現存する「薩摩」「ドレッドノート(Ⅱ)」「金剛」は、編成上は第二戦艦戦隊の所属となっているが、実際に3隻揃って行動したという記録は今のところ見つかっていない。これは建造時期や改装の内容が異なるため、性能が均一化されておらず戦隊の構成に不利と見なされているからと思われる。

 理由は様々だが、ディンギル戦役後の地球防衛軍は水雷戦隊が用いる波動魚雷と、航空隊が装備する波動ミサイルに多くを期待していて、現状の軍備はそれらに重点が置かれている。
 そのため戦艦の価値は相対的に低下を余儀なくされているが、地球防衛軍の戦力が絶対的に少ない現状としては、既存艦を全て捨てて新しい軍備にというわけにもいかないようで、A型戦艦も性能不足を指摘されながら未だ第一線の現役艦として就役を続けることが決定された。

 最近公表された艦隊編成によると、A型戦艦各艦は艦隊戦力の次期主力と目される水雷戦隊(編成はC3型嚮導駆逐艦1隻とD型駆逐艦9隻)に1隻ずつ付属することが判明している。これは戦艦としての火力と抗鍛性を発揮し、水雷戦隊の雷撃戦を掩護することが想定されていると思われる。
 同時に、既存艦より高速化された駆逐艦群で構成される水雷戦隊に追従するためには性能、特に速力とワープ能力に難があるA型戦艦であるため、来年一番艦が就役すると発表されたヤマト後継の新型戦艦が艦隊に編入され次第、順次想定された任務に必要とされる改装が行われることになった。

 現状、防衛軍から発表されている改装内容を以下に示す。

 ・波動砲を全艦、二式二型タキオン波動集束可変砲に換装(同砲はB型戦艦に搭載された爆雷波動砲の簡易型で、当初はB型巡洋艦の後期建造艦に搭載が予定されていた)
 ・主機関をB型巡洋艦と同様のものに換装し、連続ワープを可能とする
 ・補助機関を換装し、主機関と共に出力を強化し速力を向上させる
 ・三番砲塔後方に爆雷投射装置を追加し、戦闘機用格納庫の一部を爆雷搭載庫に改造(これにより戦闘機仕様のコスモタイガーⅡの運用が不可能となる)
 ・ミサイル兵装および対空パルスレーザー砲を全門、新型に換装
 ・電探、通信機器の更新

 これらの改装により艦容は相応に変化すると思われるが、特に現在搭載している波動砲が連装砲である「金剛」はこの工事で船体ラインが「薩摩」「ドレッドノート(Ⅱ)」と同様のA型戦艦オリジナルのものになるとされている。
 そして、この改装が終了すれば、太陽系外周までという運用の制限はあるにせよ、A型戦艦は地球防衛軍の戦力の一角として再生できると見てよく、更に今後の動向が注目されると言えよう。

 防衛軍内での価値が低下したとはいえ、侵略者からの視点に立てば「相手に戦艦が存在する」という事実は抑止力として大きいと推測される以上、戦艦の存在そのものにはまだ多少なりとも意味があるだろう。再度の改装工事が決定したことによってA型戦艦もしばらくは現役の戦艦として艦隊の一翼を担うことになりそうであるし、いつか退役するその日まで、A型戦艦に対して太陽系防衛の戦力としての期待を込めて、この項の終わりとさせていただきたいと思う。


おわりに

 長々と書き連ねたが、A型戦艦の一番艦「ドレッドノート(初代)」が完成してから3年ほどしか経過していない。多くの兵器がそうであるように、当初は様々な欠陥を抱えて誕生した本型ではあるが、研究と戦訓を重ねて熟成されていき、時に外的要因で紆余曲折が生じたこともあったが、地球防衛軍の戦艦戦力の中心として量産が行われ、数多くの戦役を主力艦として戦い抜いたのは評価するべきだろう。
 また技術面においても、多くの試行錯誤を重ねながら高い戦闘力を維持し、後に続く戦艦のみならず、多くの艦艇に与えた影響も無視することはできない。

 同時代にヤマトやアンドロメダといった武勲艦が存在するがゆえに地味な存在となることが多い本型だが、地球防衛軍の軍備について語るときには決して欠かせない存在であり、現在もなお限定的ながら主要戦力として防衛軍の一翼を担い続けているA型戦艦は、文字通り地球防衛軍の「主力戦艦」と呼ぶにふさわしい存在ではないかと、筆者は考えるのである。

白色彗星帝国戦役時におけるA型戦艦

 A2型戦艦から本格的に量産、配備が開始されたA型戦艦であるが、就役後に艦隊側からはバランスのとれた攻防性能と機動力、居住性について概ね良好な評価を得ている。

 ただ、主砲である一式40cm衝撃波砲に関しては度重なる改良にも関わらず、散布界は未だに大きいこと。それと艦橋砲として装備した零式15.5cm六連装砲は戦闘訓練で連続発砲した場合、艦橋への振動など影響が大きく実用性がないという点が問題として指摘されていた。
 しかし、参謀本部や艦政本部は艦橋砲は特殊砲弾を用いる以外は使用停止にすればよく、主砲についても複数艦の射撃によって弾幕を形成する際には、むしろある程度の広さをもつ散布界が必要ではないかと考えており、更なる散布界縮小を目指した根本的な改善は行われなかった。

 A型戦艦の前期生産型である38隻のうち、地球の工廠に係留されていた「ドレッドノート」と輸送船団護衛の任務に従事していた「ボロディノ」を除く36隻が、土星宙域におけるバルゼー艦隊との戦闘に参加した。
 この会戦でA型戦艦各艦は当初期待された波動砲艦、および艦隊の中核を成す戦列艦として十分な働きを見せたのだが、戦後に各艦隊から提出された戦闘詳報によって、A型戦艦が内包していた重要な問題点がこの会戦で噴出したことが示されている。

 それらに曰く、

・主砲の散布界が遠距離砲戦において著しく過大。これが原因で有効命中弾数が過少となり、敵艦隊をアウトレンジした場合においても敵戦力を早期に減少させることが難しい。特に艦隊内の戦艦数が少なく濃密な弾幕を形成できない場合においてこの傾向が顕著である(なお、この散布界問題は土星会戦における第6艦隊壊滅の一因とされている)
・主要火器を管制コンピュータによって艦橋から指揮するため、艦橋に損害を被ると即座に戦闘不能となる場合があり、その復旧を戦闘中に行うことが困難。また砲塔内に要員が配置できず照準機構も搭載されていないため、非常時に砲側照準による射撃を行うことが不可能である
・近接対空火力が不足し、敵航空機およびミサイルに対して有効な迎撃手段を有していない
・全般的な防御性能は十分であるが(砲塔の構造に起因して)砲塔天蓋の防御力が不足。また船体構造の強度に不安があり、非主要防御区画への被弾が衝撃として船体を伝わり装備機器に悪影響を与える場合がある

 また、会戦の最終段階で連合艦隊は彗星都市帝国の攻撃によって壊滅的な被害を受けたのだが、この戦闘における波動砲についての所見が残っている。
 それによると「拡散波動砲は対艦戦闘においてその破壊力は極めて大なるも、要塞など大型の固定目標に対しては集束型波動砲に比して明確に威力が劣る。対艦戦闘に特化した結果として、その他の目標に対する攻撃能力が不十分である」とし、艦隊に配備された波動砲艦が拡散波動砲搭載の戦艦と、威力の低い集束型波動砲しか持たない巡洋艦しかなかったことを悔いる記述がなされている。

 これらの戦訓はさっそく参謀本部でも検討されたが、結果、波動砲に関しては当時開発中だったエネルギー集束率の変更が可能な新型砲(後の爆雷波動砲)の実用化を促進させるとし、主砲の散布界過大については貫通力と射程の減少を忍んで初速を低下させ集弾性の確保を行うことになった。

 この決定は彗星帝国戦役終結直後に各部からの承認を受け、戦役を生き残った前期生産型の各艦に施された改装と、続いて建造されることになった後期生産型にも反映されている。前期生産型の残存艦と後期生産型については別項で触れることにしたい。


暗黒星団帝国戦役直前までのA型戦艦残存艦の動向

 彗星帝国超巨大戦艦の撃沈によって区切りとされる白色彗星帝国戦役であるが、その時点で残存していたA型戦艦は以下の通り。

A2型:「カイオ・デュイリオ」
改A2型:「テネシー」
A3型:「薩摩」「ストラスブール」

 この他に当時の防衛軍が保有していた戦艦はヤマト1隻で、太陽系内に彗星帝国の残存軍が存在する状況においては艦隊戦力の不足が否めず、しかも建造工廠の多くが彗星帝国の攻撃によって破壊されたため、新規に多数の艦を建造することもままならなかった。
 ただ同時に、太陽系内で多くの戦闘が行われた結果、撃沈された艦の残骸などから希少金属を調達するのが比較的容易であり、また内惑星基地の被害はほぼ皆無だったので、これらの要素から既存艦の修理と小規模な新規建造は可能という見通しも存在していた。そのため、この時期の防衛軍は主に彗星帝国残存軍との戦闘を前提として、艦艇の修理と少数ながら新造艦の建造を行っている。

 新規建造艦については次項に譲り、ここでは残存していたA型戦艦各艦について追っていく。

 「テネシー」は白色彗星帝国戦役時の損傷が大きく、彗星帝国残存軍との戦闘には参加していない。残る3隻は優先的に修理が施され、後述する後期生産型と共に戦艦戦隊を構成して活躍、損失なしで残存軍との戦いを終えた。また、同時期に発生したイスカンダル戦役では「ストラスブール」に限定的な連続ワープ(無人艦による先行誘導が必要となる)を可能とするべく機関の改装を行い、ヤマト以下によって編成されたイスカンダル救援艦隊に所属し暗黒星団帝国軍との戦闘に参加、大きな損害もなく帰還している。
 これら一連の戦役が終結した後、A型戦艦にはそれ以前に収集された戦訓に対応する改装工事が行われることになった。ただ、この時期は艦隊戦力および人員の不足を無人艦隊の整備によって補うという状況だったため、行われた改装は艦によって微妙に異なるものとなっている。ここでは個艦ごとに取り上げることとし、共通する改装の項目については重複することをご容赦いただきたい。


「カイオ・デュイリオ」

・主砲を一式一型改40cm衝撃波砲に改造(一式40cm衝撃波砲の初速を低下させ散布界を改善したもの、代償に貫通力と射程が減少)
・艦底部に九九式垂直軸ミサイル発射管を2門追加(配置はA3型と同様)
・電探と通信機器を改A3型と同じものに換装
・非重要防御区画を中心に船体構造を一部補強

 改装は比較的小規模だった模様で、工事完了後の本艦は外惑星練習艦隊の旗艦として活動している。

「テネシー」

・主砲を一式一型改40cm衝撃波砲に改造
・無人艦で編成される中規模程度の艦隊を統制するため旗艦設備を更新
・電探と通信機器を改A2型パトロール巡洋艦の後期生産型と同じものに換装
・非重要防御区画を中心に船体構造を一部補強

 本艦の改装は白色彗星帝国戦役時の損傷修理と並行して行われているが、前線復帰が急がれたため改装自体の規模は小さい。工事完了は彗星帝国残存軍との戦闘が終了した直後で、イスカンダル戦役終結後は冥王星に配備された太陽系外周無人艦隊の旗艦となっている。
 ちなみに本艦と「カイオ・デュイリオ」はA3型以降の艦と異なり完成時から艦橋砲を装備していたが、機材の撤去が行われたという記録が存在しないため、実戦での実弾射撃を停止する措置が取られたのみと判断される。

「薩摩」

・主砲を一式一型改40cm衝撃波砲に改造
・主砲塔内を改造し、砲側照準による射撃を可能とするための設備を追加
・砲塔天蓋の防御力改善のため、主砲砲身基部に増加装甲を装備(これに伴い最大仰角が若干減少している)
・両舷側の九九式短魚雷発射管を全門撤去、同所に対空砲座を新設し零式76mm連装パルスレーザー砲を片舷あて4基装備
・機関を「ストラスブール」と同様の限定的な連続ワープに対応可能なものへと改造
・戦隊旗艦設備の更新
・電探と通信機器を改A3型と同じものに換装
・非重要防御区画を中心に船体構造を一部補強

 「薩摩」の改装はイスカンダル戦役が終結した直後に開始されており、他艦より比較的規模の大きいものとなった。改装工事の完了は暗黒星団帝国戦役開始の直前で、この状態で戦役勃発を迎えたものと考えられる。

「ストラスブール」

 イスカンダルから帰還後、本艦も「薩摩」改装の終了と入れ替わりに改装を行う予定であったが、暗黒星団帝国戦役勃発のため実施されていない。内容は機関を除き概ね「薩摩」と同様とされている。

 なお、改装された各艦に共通する主砲の改造と船体構造の補強、電探その他の装備更新は「その効果は大と認める」と評価された。特にA型戦艦を悩ましてきた主砲の散布界問題はこの工事によって大幅な改善が見られ、懸念された貫通力と射程の減少も最低限に収められていたため、艦隊側からは大いに歓迎されている。


後期生産型の建造

 前述したとおり、白色彗星帝国戦役後の地球防衛軍に残された戦艦は5隻に過ぎず、加えて彗星帝国残存軍が太陽系外周に存在している状況であり、艦隊戦力の整備は必要不可欠であった。
 このため防衛軍は既存艦の修理と巡洋艦と駆逐艦の追加建造、および無人艦隊の整備に注力することにしたが、彗星帝国残存軍に戦艦など大型艦が多数含まれる模様であること、無人艦隊はまだ研究が終わったばかりで実戦で確実に戦力として期待できるかが不透明という問題もあり、最低限ながら戦艦の追加建造も行うことが決定された。この段階で建造が決まったのがA型戦艦の「後期生産型」で、予算は未成に終わったA3型、A4型戦艦のものが転用されている。

 この後期生産型は戦時急造型と言うべきもので、その建造にあたってはあらゆる方面で省力化が図られており、特に兵器などの艤装関連は製造能力や設計時間の不足から既存品の流用によって賄われた部分が多いのが特徴である。なお未成艦の船体モジュールも再利用されたが、前期生産型各艦が後日の改装で行った船体構造の補強は建造中に実施されている。

 6隻が建造された後期生産型は二つのタイプに分類される。以下で紹介したい。


改A3型(主砲換装型、後期生産型・甲)「ドレッドノート(Ⅱ)」「山城」「ネヴァダ」

 後期生産型の最初のタイプ。一番艦「ドレッドノート(Ⅱ)」の艦名が引き継ぎなのは、地球の工廠で全損となり解体された先代から多くの部品が流用されたことに由来する。

 この改A3型の最大の特徴は、主砲がそれまでのA型戦艦とは異なる九九式二型46cm連装砲塔3基に変更されていることだが、この決定に至った事情は以下の通りである。
 建造が決まったA型戦艦の後期生産型だが、当面の問題として「一式40cm砲の砲身不足」というものがあった。これは彗星帝国の超巨大戦艦の砲撃により地球各所の工廠が大きな損害を受け、同時に既存艦向けの予備として用意されていた一式40cm砲の砲身の多くも炎上して使用不能となり、結果として深刻な砲身の不足が発生したのである。無事な在庫は当然かき集められたが、既存艦の修理のため、あるいは予備部品として使う必要も生じていたため、新造艦に向けて供給できる砲身が3隻分しか確保できない見通しとなった。
 (余談だが、この砲身不足問題に対処するため、当時残存していたA型航空母艦から主砲の砲身が撤去され他艦への供給に回されている。ディンギル戦役終結までA型航空母艦各艦が予備艦として実質放置されていたのは搭載機不足が最大の理由だが、この砲身転用も一因であったようだ)

 このため艦政本部は対策を迫られたのだが、ここで技術本部から「ヤマトが搭載している九九式二型46cm衝撃波砲の砲身であれば、研究用として用意されたものが一定数存在している」と知らせがあった。
 これを受けた艦政本部は、早速A型戦艦への九九式二型46cm衝撃波砲の搭載を検討した。結果、砲口径が大型化するため連装砲塔による搭載で忍ばざるを得ないが、幸い46cm連装砲塔の設計はかつて巡洋艦拡大の戦艦試案の際に行われていて、それを流用することも可能であり実現性は十分と判定され、この改A3型戦艦へ同砲が装備されることになった。
 (ただ、40cm三連装砲塔と46cm連装砲塔はバーベット径が異なるため、改設計と建造工事の際には相応の手間を要したと伝えられている)。

 艦隊側の一部から主砲6門では不足が生じるのではないかとの指摘もあったが、九九式二型46cm衝撃波砲は白色彗星帝国戦役の戦訓から良好な命中率と威力が高く評価されていたため戦艦の火力としては十分と判断されており、その後の実戦でも大きな問題は生じていない。また、本型が搭載した46cm連装砲塔はヤマトの三連装砲塔を縮小した設計だったため当初から砲塔内に照準機構が装備されており、この点は好評であったようだ。

 波動砲に関しては、それまでのA型戦艦に搭載された一式タキオン波動拡散砲を集束型に改造した「一式一型改タキオン波動集束砲」の搭載が決定された。既存の波動砲を用いながら完全な流用にならなかったのは、今後彗星帝国の都市衛星のような巨大移動要塞と遭遇した場合、拡散波動砲装備艦が多くを占める現状の戦艦戦力では対抗が難しく、一定数の集束型波動砲搭載戦艦を整備しておきたいという思惑からであった。
 なお「山城」と「ネヴァダ」は予定通り一式改一型タキオン波動集束砲を搭載したが、「ドレッドノート(Ⅱ)」は技術本部から「次期主力戦艦に装備予定の爆雷波動砲を新造戦艦1隻に試験的に搭載したい」との提案がもたらされたことにより、建造中に搭載済みの波動砲を爆雷波動砲に改造して完成している。
 (ただし「ドレッドノート(Ⅱ)」が装備した爆雷波動砲は制式兵器である「二式タキオン波動集束可変砲」とは仕様が異なり、各種機材が小型化されていたため戦闘詳報で威力不足とエネルギー充填時間が想定より長いことが問題視されているが、船体規模の小ささから改善はできなかった模様である)

 これら以前のA型戦艦とは相違点のある改A3型戦艦だが、他は電探などが最新型に更新された程度で、ほとんどの装備は未成に終わったA3型戦艦用に準備されたものがそのまま使用され、艦橋構造物に含まれる艦橋砲も同じく特殊砲弾発射用に限定されたものが搭載されている。

 同じ後期建造型であるA5型戦艦より起工が早かった本型は、完成後直ちに彗星帝国残存軍との戦闘に参加し活躍したが、11番惑星宙域での会戦において「山城」が敵駆逐艦の体当たり攻撃を受けて大破、総員退去後に爆沈し、彗星帝国残存軍との戦闘で唯一失われた戦艦となった。

 残る2隻はイスカンダル戦役終結まで太陽系にて待機していたが、その後の暗黒星団帝国戦役勃発まで大きな改装は行われていない。ただ艦隊側から「(砲塔の設計が旧式なため)主砲の仰角が不足し対空射撃が困難」との指摘があり、これを改善するべく砲塔天蓋装甲を防御に支障がない程度に一部切除し仰角を若干引き上げる小規模な工事が実施されている。


A5型(旗艦戦艦型、後期生産型・乙)「メリーランド」「ネルソン」「金剛」

 後期生産型、ならびにA型戦艦で最後に建造されたタイプ。本型も白色彗星帝国戦役時における軍備計画の影響を強く受けたものとなっている。

 白色彗星帝国戦役の初期に「A型戦艦以上の強力な戦艦を追加建造し艦隊戦力を強化する」目的から、アンドロメダ型戦艦の追加建造が行われることが決定した(一般には10隻が計画され5隻が起工されたと言われる)。そのための資材は用意されたのだが、戦役中盤は量産性で勝るA型戦艦の優先度が高くなり、細々と建造が続けられた艦も最後は彗星帝国の超巨大戦艦の砲撃により全て失われ、1隻も完成することはなかった。

 このA5型戦艦の主砲と装甲鈑、そして既存のA型戦艦と異なるアンドロメダに類似した艦橋といった装備は、未成に終わったアンドロメダ型戦艦のために用意されたそれを転用したものである。これは既存品の流用という最大の目的もさることながら、比較的規模の大きい艦隊を統率する能力を有する戦艦を、新規に装備を製造せず建造できるという点に防衛軍が魅力を感じたこともあったようだ。機関も重量増加への対策が考慮された結果、建造中止となったA4型戦艦用に準備された3隻分の波動機関をそのまま搭載している。

 波動砲は、船体規模の違いからアンドロメダ型のものを流用できなかったため「零式一型改タキオン波動連装集束砲」と呼称される、使用停止措置に伴い損傷修理時などに撤去、あるいは製造されたが余剰となっていたA型巡洋艦用の波動砲を連装に改造したものが搭載されることになった。しかし実際には連装砲への改造に手間取り、各艦とも彗星帝国残存軍との戦闘への参加が急がれた関係で、完成時は船体構造に含まれる砲身を除いた波動砲関連の機材を省略して工事を終え、発射口に装甲鈑を装着した状態で艦隊に編入されている。
 (余談だが、波動砲発射口に装甲鈑を装着した状態の本型の映像が流布した際、いくつかの専門誌に「波動砲未搭載の新型戦艦」として紹介されたことがある。これと波動砲搭載後の本型が混同されたりもして「防御が強化されたA型戦艦(俗に「後期生産型・丙」と通称される)が別に存在する」という誤解が生じていた時期がある)

 以上のようにありあわせの部品をかき集めて建造されたA5型戦艦であるが、実戦ではアンドロメダ型譲りの装甲防御と既存A型戦艦より優れた指揮能力、重量が以前の同型艦より増大したにも関わらず機動力も維持されていた点が高く評価された(ただ機関については「扱いが難しい」とする記録が存在する)。彗星帝国残存軍との戦闘においても指揮戦艦として活躍し、損失なしでイスカンダル戦役までを終えている。

 暗黒星団帝国戦役勃発前の改装は、予定されていた波動砲の装備と主砲の一式一型改40cm衝撃波砲への改造が全艦に行われたのみであった。ちなみに波動砲装備後の本タイプは艦首の波動砲身が他のA型戦艦より幅広で重く「前トリムの傾向が強く、特に大気圏内での操艦が難しい」と評されたと伝わる。

 なお、A型戦艦はイスカンダル戦役後に追加建造が検討された形跡がある。詳細は不明だが、仮に計画として具体化されてもB型戦艦の建造開始と暗黒星団帝国戦役が勃発した時期から考えて、恐らく実現しなかったものと推定される。

↑このページのトップヘ