パトロール艦の供給問題
さて、実戦に投入されたパトロール艦が艦隊側から好評を博したのは既に述べた通りだが、ガトランティス軍との戦闘が日に日に激化していく中で、偵察行動中にせよ艦隊の戦列にあっても、相応に損耗が生じるようになった。既に村雨改型巡洋艦が実質駆逐艦として運用されるようになっており、金剛改型戦艦が巡洋艦の任務を代替しているような状況だったとはいえ、当然のことパトロール艦は期待の新型巡洋艦として、前線から損耗の補充は要求されたし更なる戦力増強も要望されていた。
だが、地球防衛軍と艦政本部は、この艦隊側からの要求に対応し切れなかった。そして、それは波動砲艦としてより強力な戦艦に注力していたから、という艦隊側の一部と防衛軍首脳部の対立とは、全く別の要因で起こった事態だった。
結論だけを述べると、パトロール艦は『建造費が高すぎた』のである。
一説には『パトロール艦の建造費はD級戦艦の7割弱』と言われたこの建造費の高騰は、主に装備している強力な電探などの探知、通信機器に起因していた。その索敵能力だけならD級戦艦すら上回ると評されたパトロール艦の能力を支えるためには、大型電探や新旧問わず各種の探知、通信機器を多数搭載する必要があったのだ。そして当時の防衛軍には、パトロール艦を大量建造するために必要なそれら機材を揃えるだけの予算も不足していれば、機器そのものの製造能力も限界に達していたのである。
そのため「このような貴重な艦を最前線に投入するのが間違いである」という批判が、防衛軍首脳部から艦隊側に向けられたこともあった。しかし艦隊側はこれに対し「探知能力も貴重ながら、パトロール艦が装備する波動砲や長砲身ショックカノンの兵器としての威力は無視できるものではなく、これを単に偵察艦としてのみ使用するのは戦力の無駄遣いである」と反論したのである。
再び防衛軍首脳部と艦隊側の対立か、という懸念が各部門で生じたこともあり、とりあえず艦政本部が金剛改型戦艦に小型波動砲を搭載する改設計を行うことになった。しかし波動砲を搭載するのはよいとしても、金剛改型戦艦に長砲身ショックカノンを間に合わせに装備したところで、艦の構造上、パトロール艦と同等以上の火力を与えるのは、航洋性に悪影響を与えることもあって難しい。それに元々、金剛改型戦艦の巡洋艦運用に関しては『艦型がやや過大』という指摘もなされていたから、このような間に合わせだけで艦隊側が納得するはずもなかった。
事ここに至って、防衛軍首脳部と艦政本部はようやく『まっとう』と言える判断を下す。それは『パトロール艦をベースにし、探知能力を低下させ建造費を圧縮した新型巡洋艦を設計、量産する』というものであった。
新型巡洋艦への再設計と量産
パトロール艦を『純然たる戦闘艦艇としての巡洋艦』として再設計することについて、艦政本部はそれほど難しいと考えていなかったようである。元よりパトロール艦の規模と能力は巡洋艦として特に過不足なく、強いて言えば前線からの『敵の大型艦の比率が徐々に上がっているため、更なる戦闘力の向上を求む』という要求に応えられれば十分だったからである。
まず、パトロール艦が装備していた波動砲と、三式融合弾などの実弾発射に対応した主砲はそのままとされ、前方への火力は維持された。ただし雷装強化の要求が艦隊側からあったため、探知機器を降ろして余剰となった重量とスペースを利用して艦下方両舷の魚雷発射管を三連装から四連装へと強化している(上方の発射管は次発装填装置の配置の関係上、三連装のままとされた)。
また、パトロール艦はその主砲の射界がかなり艦後方にも広く取られていたが『艦の前後双方に向けられる火力の増強』が考慮されたことから、艦橋構造物下方の両舷に九八式15.5cm三連装陽電子衝撃波砲塔が一基ずつ、舷側砲として装備された。この砲塔の装備方式はD級戦艦の北米管区試作艦『アリゾナ(Ⅰ)』で試みられて失敗したものだったが、このときは実弾発射の機能が求められず揚弾機構の装備が必要なかったこと、砲塔天蓋の装甲圧を舷側装甲と同等まで強化したこともあり、実戦において特に問題は生じなかったようだ。
なお、艦橋構造物後方に20.3cm連装砲を更に一基追加する案も出たが、この場所は機関部の至近で主砲塔を配置するには狭隘だったこと、また『個々の艦の任務によって、当該箇所の装備を変更する可能性がある』ことが想定されたため、原設計においては何も装備されていない。なお現場においては、対亜空間戦闘も考慮した八連装爆雷投射機や、宙雷戦隊旗艦として必要な通信用アンテナをこの箇所に装備した例が多かった。
個艦としての探知、通信能力は、パトロール艦からは当然大きく削減されたが、巡洋艦としては当時の標準的な装備が維持された。これによってかなりの重量が余剰となったが、船体規模の関係で兵装強化の余裕に乏しかったため、この重量は主に防御力の強化に充てられた。そのため艦の重量はパトロール艦と大差なかったが、技術の進歩により主機関の出力が向上しており、速力はそれまでのパトロール艦より若干ながら向上している(なお、この新型主機関はパトロール艦の中期生産型以降の艦にも搭載されている)。
2201年半ば、パトロール艦の派生として建造が決定された巡洋艦の性能は、以下のように纏められた。
全長 180m
全幅 31.9m
波動砲 零式タキオン波動集束砲 1門
主砲 零式二型20cm(実口径20.3cm)連装陽電子衝撃砲 3基6門
副砲 九八式15.5cm三連装陽電子衝撃砲 2基6門(艦尾)
その他武装
九九式三連装魚雷発射管2基 同四連装2基(艦前方)
九八式対空迎撃ミサイル発射管 単装8基(二番主砲塔直後両舷)
九八式短魚雷発射管 単装8門(片舷あて4門)
一式40mm連装拡散型対空パルスレーザー砲 2基(司令塔後方)
その他、艦の全周各部に埋め込み式対空パルスレーザー砲を装備(門数不明)
(零式八連装対亜空間爆雷投射機 1基(艦尾 オプション装備))
主機 艦本式次元波動エンジン 1基
搭載機 九八式汎用輸送機『コスモシーガル』1機
救命艇1機
その他救命ボートなど
元来が実績のあるパトロール艦の派生ということもあり、改めて試作艦を建造する必要も認められなかったことから、設計終了後直ちに予算獲得と量産準備が行われ、村雨改型巡洋艦を代替し、パトロール艦の不足を補う新型巡洋艦として建造が各地の造船所で開始された。特にD級戦艦に比して100mほど短い船体は、D級戦艦の建造を可能とする規模を持たない小規模な造船所での建造も可能にしていたから、この時期、さすがに「量産が追いついていない」と防衛軍首脳部を焦らせていたD級戦艦を補完する艦として大いに期待されていたことが、当時の資料から散見することができる。なおこの期待は、まだ宇宙軍の規模が小さい地球連邦所属の国家にとって、A型巡洋艦が主力艦足り得る性能を有していたことにも起因していたと思われる(実際、この時期の小規模な宇宙軍の基幹戦力として運用されたA型巡洋艦は数多い)。
A型巡洋艦の前線での評価は「長砲身ショックカノンおよび副砲により、巡洋艦としての火力は十分である」など好評であったが、当初から近接対空兵装の不足が指摘されており、この点については「早期に改善を求む」という要望が艦隊側から出されていた。しかしガトランティス帝国との戦闘が日々激化している状況下で、艦政本部としても新たな装備をA型巡洋艦に施す余裕はなく、当面は装備の改良などは行われなかった。もっとも、パトロール巡洋艦のほうは装備機器の不足が相変わらず解消されず、建造予定の艦が間に合わずA型巡洋艦に振り替えられるような状況だったから、この時点ではどうしようもなかったと言える。
ただ『戦役後の改良として考慮する』ことを前提にいくつかの改良案が出されていたのも確かで、以下に列挙しておく。
・主砲および副砲を収束圧縮型衝撃波砲に換装、対空戦闘能力の強化
・パルスレーザー砲の増備など、対空兵装の強化
・艦後部に飛行甲板を設け、少数かつ限定的な艦載機の運用能力を付与する
これらの案は出された時点では日の目を見なかったが、ガトランティス戦役後にA型巡洋艦の後期生産型が建造される際に参考になったとされている。
そしてガトランティス戦役が本格的に開始され、運命の土星会戦を迎えたその日、A型巡洋艦はパトロール巡洋艦9隻を含めた70数隻が、連合艦隊の戦列において巡洋艦戦隊や宙雷戦隊の旗艦としてこの戦いに臨むことになるのである。
さて、実戦に投入されたパトロール艦が艦隊側から好評を博したのは既に述べた通りだが、ガトランティス軍との戦闘が日に日に激化していく中で、偵察行動中にせよ艦隊の戦列にあっても、相応に損耗が生じるようになった。既に村雨改型巡洋艦が実質駆逐艦として運用されるようになっており、金剛改型戦艦が巡洋艦の任務を代替しているような状況だったとはいえ、当然のことパトロール艦は期待の新型巡洋艦として、前線から損耗の補充は要求されたし更なる戦力増強も要望されていた。
だが、地球防衛軍と艦政本部は、この艦隊側からの要求に対応し切れなかった。そして、それは波動砲艦としてより強力な戦艦に注力していたから、という艦隊側の一部と防衛軍首脳部の対立とは、全く別の要因で起こった事態だった。
結論だけを述べると、パトロール艦は『建造費が高すぎた』のである。
一説には『パトロール艦の建造費はD級戦艦の7割弱』と言われたこの建造費の高騰は、主に装備している強力な電探などの探知、通信機器に起因していた。その索敵能力だけならD級戦艦すら上回ると評されたパトロール艦の能力を支えるためには、大型電探や新旧問わず各種の探知、通信機器を多数搭載する必要があったのだ。そして当時の防衛軍には、パトロール艦を大量建造するために必要なそれら機材を揃えるだけの予算も不足していれば、機器そのものの製造能力も限界に達していたのである。
そのため「このような貴重な艦を最前線に投入するのが間違いである」という批判が、防衛軍首脳部から艦隊側に向けられたこともあった。しかし艦隊側はこれに対し「探知能力も貴重ながら、パトロール艦が装備する波動砲や長砲身ショックカノンの兵器としての威力は無視できるものではなく、これを単に偵察艦としてのみ使用するのは戦力の無駄遣いである」と反論したのである。
再び防衛軍首脳部と艦隊側の対立か、という懸念が各部門で生じたこともあり、とりあえず艦政本部が金剛改型戦艦に小型波動砲を搭載する改設計を行うことになった。しかし波動砲を搭載するのはよいとしても、金剛改型戦艦に長砲身ショックカノンを間に合わせに装備したところで、艦の構造上、パトロール艦と同等以上の火力を与えるのは、航洋性に悪影響を与えることもあって難しい。それに元々、金剛改型戦艦の巡洋艦運用に関しては『艦型がやや過大』という指摘もなされていたから、このような間に合わせだけで艦隊側が納得するはずもなかった。
事ここに至って、防衛軍首脳部と艦政本部はようやく『まっとう』と言える判断を下す。それは『パトロール艦をベースにし、探知能力を低下させ建造費を圧縮した新型巡洋艦を設計、量産する』というものであった。
新型巡洋艦への再設計と量産
パトロール艦を『純然たる戦闘艦艇としての巡洋艦』として再設計することについて、艦政本部はそれほど難しいと考えていなかったようである。元よりパトロール艦の規模と能力は巡洋艦として特に過不足なく、強いて言えば前線からの『敵の大型艦の比率が徐々に上がっているため、更なる戦闘力の向上を求む』という要求に応えられれば十分だったからである。
まず、パトロール艦が装備していた波動砲と、三式融合弾などの実弾発射に対応した主砲はそのままとされ、前方への火力は維持された。ただし雷装強化の要求が艦隊側からあったため、探知機器を降ろして余剰となった重量とスペースを利用して艦下方両舷の魚雷発射管を三連装から四連装へと強化している(上方の発射管は次発装填装置の配置の関係上、三連装のままとされた)。
また、パトロール艦はその主砲の射界がかなり艦後方にも広く取られていたが『艦の前後双方に向けられる火力の増強』が考慮されたことから、艦橋構造物下方の両舷に九八式15.5cm三連装陽電子衝撃波砲塔が一基ずつ、舷側砲として装備された。この砲塔の装備方式はD級戦艦の北米管区試作艦『アリゾナ(Ⅰ)』で試みられて失敗したものだったが、このときは実弾発射の機能が求められず揚弾機構の装備が必要なかったこと、砲塔天蓋の装甲圧を舷側装甲と同等まで強化したこともあり、実戦において特に問題は生じなかったようだ。
なお、艦橋構造物後方に20.3cm連装砲を更に一基追加する案も出たが、この場所は機関部の至近で主砲塔を配置するには狭隘だったこと、また『個々の艦の任務によって、当該箇所の装備を変更する可能性がある』ことが想定されたため、原設計においては何も装備されていない。なお現場においては、対亜空間戦闘も考慮した八連装爆雷投射機や、宙雷戦隊旗艦として必要な通信用アンテナをこの箇所に装備した例が多かった。
個艦としての探知、通信能力は、パトロール艦からは当然大きく削減されたが、巡洋艦としては当時の標準的な装備が維持された。これによってかなりの重量が余剰となったが、船体規模の関係で兵装強化の余裕に乏しかったため、この重量は主に防御力の強化に充てられた。そのため艦の重量はパトロール艦と大差なかったが、技術の進歩により主機関の出力が向上しており、速力はそれまでのパトロール艦より若干ながら向上している(なお、この新型主機関はパトロール艦の中期生産型以降の艦にも搭載されている)。
2201年半ば、パトロール艦の派生として建造が決定された巡洋艦の性能は、以下のように纏められた。
全長 180m
全幅 31.9m
波動砲 零式タキオン波動集束砲 1門
主砲 零式二型20cm(実口径20.3cm)連装陽電子衝撃砲 3基6門
副砲 九八式15.5cm三連装陽電子衝撃砲 2基6門(艦尾)
その他武装
九九式三連装魚雷発射管2基 同四連装2基(艦前方)
九八式対空迎撃ミサイル発射管 単装8基(二番主砲塔直後両舷)
九八式短魚雷発射管 単装8門(片舷あて4門)
一式40mm連装拡散型対空パルスレーザー砲 2基(司令塔後方)
その他、艦の全周各部に埋め込み式対空パルスレーザー砲を装備(門数不明)
(零式八連装対亜空間爆雷投射機 1基(艦尾 オプション装備))
主機 艦本式次元波動エンジン 1基
搭載機 九八式汎用輸送機『コスモシーガル』1機
救命艇1機
その他救命ボートなど
元来が実績のあるパトロール艦の派生ということもあり、改めて試作艦を建造する必要も認められなかったことから、設計終了後直ちに予算獲得と量産準備が行われ、村雨改型巡洋艦を代替し、パトロール艦の不足を補う新型巡洋艦として建造が各地の造船所で開始された。特にD級戦艦に比して100mほど短い船体は、D級戦艦の建造を可能とする規模を持たない小規模な造船所での建造も可能にしていたから、この時期、さすがに「量産が追いついていない」と防衛軍首脳部を焦らせていたD級戦艦を補完する艦として大いに期待されていたことが、当時の資料から散見することができる。なおこの期待は、まだ宇宙軍の規模が小さい地球連邦所属の国家にとって、A型巡洋艦が主力艦足り得る性能を有していたことにも起因していたと思われる(実際、この時期の小規模な宇宙軍の基幹戦力として運用されたA型巡洋艦は数多い)。
そして、量産が開始された新型巡洋艦には『A型巡洋艦』という名称(同時にパトロール艦には『A型パトロール巡洋艦』という名称が付与されている)が与えられ、北米管区で最初に竣工した『ノーザンプトン』がクラス名となった。この時期、前線における村雨改型巡洋艦の能力不足、パトロール巡洋艦の不足が深刻化していたこともあって、A型巡洋艦は続々と建造されて前線部隊へと配属されていった。
A型巡洋艦の評価とガトランティス戦役
A型巡洋艦の前線での評価は「長砲身ショックカノンおよび副砲により、巡洋艦としての火力は十分である」など好評であったが、当初から近接対空兵装の不足が指摘されており、この点については「早期に改善を求む」という要望が艦隊側から出されていた。しかしガトランティス帝国との戦闘が日々激化している状況下で、艦政本部としても新たな装備をA型巡洋艦に施す余裕はなく、当面は装備の改良などは行われなかった。もっとも、パトロール巡洋艦のほうは装備機器の不足が相変わらず解消されず、建造予定の艦が間に合わずA型巡洋艦に振り替えられるような状況だったから、この時点ではどうしようもなかったと言える。
ただ『戦役後の改良として考慮する』ことを前提にいくつかの改良案が出されていたのも確かで、以下に列挙しておく。
・主砲および副砲を収束圧縮型衝撃波砲に換装、対空戦闘能力の強化
・パルスレーザー砲の増備など、対空兵装の強化
・艦後部に飛行甲板を設け、少数かつ限定的な艦載機の運用能力を付与する
これらの案は出された時点では日の目を見なかったが、ガトランティス戦役後にA型巡洋艦の後期生産型が建造される際に参考になったとされている。
そしてガトランティス戦役が本格的に開始され、運命の土星会戦を迎えたその日、A型巡洋艦はパトロール巡洋艦9隻を含めた70数隻が、連合艦隊の戦列において巡洋艦戦隊や宙雷戦隊の旗艦としてこの戦いに臨むことになるのである。