地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

カテゴリ: ヤマト外伝小説

 海王星沖での戦闘で損傷を受けた『薩摩』は、戦闘終了後に土星の衛星タイタンへと向かっていた。これは被害が思いの他大きかった『薩摩』には比較的大規模な修理が必要であり、それができる設備を有する一番近い基地がタイタン鎮守府の工廠だったからだが、堀田としては別の思惑もあった。

 (これからガトランティスと本格的なの戦闘が始まるなら、その前に土方さんと話をしておきたい)

 当時、地球のほぼ全艦隊の指揮権を委ねられていた土方は、土星のタイタン鎮守府で各外周、内周艦隊の指揮を執っていた。今回の海王星沖での戦闘の戦訓を報告すると共に、個人的な意見交換になってしまい公私混同と言われかねないのだが、今後の地球防衛艦隊の戦略について話をしたい。そう思っていたのである。


 タイタン基地に到着し、早速『薩摩』は入渠し修理に入る。作業にある程度の目途が立ってから、堀田は残務を三木に任せて、自分は土方に面会を申し入れた。
 相手は連合艦隊司令長官という要職にある人物だから、さすがにすぐに会えるわけではない。一日待たされたが、ともあれ許可が下りて土方と面会できることになった。

 「何をしに来た、自分の艦を放り出して」

 対面していきなり、土方はそう言った。だが、別にこれは叱責したわけではない。何せ堀田が士官学校の最上級生だったときから、生徒と校長してのみならず、教官と校長、そして戦場でも部下と上官として長く付き合ってきた間柄である。味方からも恐れられる人物とはいえ、堀田には多少なりとも気安さがあったのかもしれない。

 申し訳ありません、と謝罪してから、堀田は海王星沖における戦闘の状況を事細かく説明した。

 「……そうか、お前も撃つと覚悟したか」

 自分と同じように、波動砲艦隊構想に強硬に反対してきた堀田である。ヤマト乗員たちほどではなかったかもしれないが、沖田とスターシャとの約束を守りたいという気持ちが強いことを土方は知っていたから、波動砲の使用に至るまでどれだけ悩み、そして最終的に、それこそ身を削るような覚悟を秘めて引き金を引いたか、なまじ付き合いが長いだけにわかってしまうのである。

 「味方を見捨ててまで、自分の感情を納得させるようなことはしたくありません。それでは後々、より大きな後悔を生むだけだと思いました」

 そっけないと言えるような口調で堀田はそう答えたが、こういうときの彼は普通に話すときより、内心でよほど強い葛藤を抱え込んでしまっている。これもまた、土方には容易に理解できることであった。
 ここで、土方は話題を変えた。

 「それで、お前は実際にガトランティスと戦ってどう思った?」
 「……勝つために手段を選ばない相手であるようです。こういう相手に勝とうと思えば、戦力において相手が勝るであろうことを踏まえますと、容易ならざることと思いました」
 「味方を犠牲にしても勝ちを得ようとする……どうやら、少なくともかつて戦ったガミラスとは違ったメンタルを持った相手のようだな」
 「そう考えます。こちらはそうした戦いは許されませんが、並々ならぬ覚悟はしておくべきかと」
 「そうだな」

 ここで、堀田は気になっていたことを口にした。

 「話は変わりますが……艦隊の整備は順調に進んでいるのでしょうか?」
 「正直、捗々しいとは言えない。お前の指摘した通り、戦艦の数はともかくそれを護衛すべき巡洋艦、駆逐艦は相変わらず不足している。均整の取れた艦隊の整備はまだ道半ば、だな」
 「……」

 土方が艦隊司令長官に就任する前、防衛軍首脳部は波動砲搭載戦艦の建造に躍起になっていた。巡洋艦や駆逐艦の代替として波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型が建造されてはいたが、やはりこれら旧式艦では性能に限界はある。ようやく新鋭の巡洋艦や駆逐艦の建造が開始されたのだが、土方の言う通りやはりこれらの量産は道半ば、というしかない。

 「……こうなることがわかっていたはずなのに、なぜ首脳部は波動砲に偏重した軍備という愚かなことをしたのか」
 「堀田」

 思わず呟いた言葉を耳にされて、堀田は土方から厳しい視線を向けられた。

 「相変わらず直らないようだが、お前は上に対する言葉に容赦がなさすぎる。俺に対しては構わないが、そういう言動は慎まなければいずれ不興を買うぞ。そうなれば地球のために働く場を失うことにもなりかねないのだから、そういうところは俺の真似をするな」
 「……申し訳ありません」

 謝るしかない堀田だったが、この『上に対する言葉に容赦がない』という点がなければ、実は彼が土方に見出されることはなかったということは、土方本人が語らなかったので知る由もなかったのである。


 堀田が土方と出会ったのは、ちょうどガミラス大戦が始まった年のことだった。戦時にあたって優秀な士官を育成するため、土方は国連宇宙軍首脳部の要請を受け、航宙宇宙軍士官学校の校長を引き受けたのである。
 当時、堀田はその士官学校で最上級生だったのだが、ある日、事件が発生する。土方の元へいきなり堀田が押しかけていって、ある教官が一部の生徒と結託して別の生徒を虐待しているという件を、正規のルートを経ずに告発したのだった。

 当然のこと、これは軍規違反である。そのため校内で簡易軍法会議が行われたのだが、堀田はその場でこのように述べている。

 「仮にも教官たる者が、生徒と結託して別の生徒を虐待するなど看過できません。私が校長に直接告発したのは、自分の告発が握りつぶされるのを恐れたからです。告発にあたって正規の手続きを踏まなかったことに関しての罰は甘んじてお受けしますが、私の行為が軍紀を乱したという批判は納得できません。私は既に存在している軍紀の乱れを明らかにしたのみです」

 激烈な言葉に、これを聞いた多くが「堀田は退学させられるだろう」と思ったそうである。だが、実際に告発とこの言葉を聞いた土方はこう思った。

 (こいつ、俺と軍組織を試しているのか)

 確かに、堀田を異分子として排除するのは簡単である。しかし、不正を明らかにした人間を追い出してしまえば、国連宇宙軍は『不正を告発したものを追い出す、信用できない組織』と市民に思われるのは必定である。それ以上に、校長である土方がその断を下してしまったら、当然のこと彼の信頼も失われてしまうのだ。
 土方自身としては、自分の名誉などどうでもいいことである。だが、仮にも内惑星戦争の英雄として沖田と並び称され、国連宇宙軍でも指折りの名将と評される彼が不正に加担するような行動を取ってしまったら、全軍に与える影響は計り知れないのである。

 だが、そこは『鬼』と恐れられつつも、提督として部下から絶大な信頼を得ている土方だ。彼はいかにも『彼らしいやり方』でこの問題を処理することにした。

 まず、堀田が告発した教官および生徒を配置転換、および退学処分ですべて士官学校から追放した。優秀な教官や生徒が混じっていたこともあって反対論もかなり根強かったが「部下から信頼を得られない教官や生徒は必要ない」と押し切ったのである。
 そして堀田には『正規の手続きを踏まずに告発した』という一点だけを罪に問い、一カ月の停学処分を加えた。こちらにも厳罰を、という声も小さくはなかったが、土方はただ一言「必要ない」とだけ述べて取り合わなかったと伝えられている。

 堀田自身はこのとき「これで自分を退学させるような組織なら、戦場に出された時点で生き残れそうもない。それなら今ここで追い出されても同じことだ」と割り切ってしまっていたのだが、停学処分に止まったことに違和感を感じていた。だが程なく、彼は自分が土方から、退学より遥かに重い『処分』を喰らったと知ることになる。

 「軍の規律を乱し、そこまで上を批判したなら退学で済むと思うな。今は戦時であるから、戦場で責任を果たせ」

 直接、本人から言われたわけではない。しかし、その後の自分が受けた土方の『指導と言う名のしごき』から考えると、そうした課題を突き付けられたと思うしかなかったのである。


 こうして出会うことになった二人だったが、これは双方にとって『僥倖』と言うべきものであったろう。堀田は土方の『しごき』に不平ひとつ言わずよくついていき、その知識や経験を吸収していった。告発の一件以前はあまり教官たちから注目されるところがなかった堀田だったが、秘めた力量については申し分ないものがあった。それを見抜き、認めることのできる校長を得たことで、その才能は最上級生になって大きく開花したのである。
 そして土方もまた、自分の厳しい指導についていく堀田にいささかの驚きを感じつつ、その士官としての才能に期待するようになった。ガミラスとの厳しい戦いで生き残れるかわかったものではなかったが、もし運よく命永らえれば、いずれ連邦宇宙軍を支える士官になるかもしれない。そう思うようになったのだ。もちろん『上に容赦なさすぎる』という点は直さなければ出世がおぼつかず、自分の期待も画餅に終わってしまうのだが。

 堀田が諸々と留意したのか、とにかく無事に卒業した彼は順調に士官としての履歴を重ね『ヤマト完成以前、地球艦隊唯一の勝利』とされた第二次火星沖海戦にも参加して生還してきた。この直後、土方は士官学校校長としてある決断をする。

 「堀田一尉(当時)を、士官学校宙雷科の教官として迎える」

 一尉という階級はまだしも、当時の堀田はまだ23歳だった。若すぎる教官の登用にやはり反対論は多かったが、土方はまたしてもこの人事を強行した。そして、堀田はこの抜擢に対して『上に厳しく下に優しく、自分に対しては度を越して厳格ですらある』と評される公正な人格と、カ二号作戦から生きて帰ってきた戦場での経験、何よりも優れた宙雷戦術の専門家として土方の期待以上に見事な教官ぶりを発揮した。この教官時代に養われた人脈が後の堀田にとって大きな財産になったことも含めて、これもまた互いにとってよい人事であったと言うべきだったろう。
 更に時代が下り、ガミラス大戦末期においては、ヤマトの帰路確保と太陽系宙域回復作戦である『レコンキスタ』において、土方は地球残存艦隊の総司令長官として、堀田はその麾下にあった駆逐艦『神風』の艦長として、やはり縦横の活躍を見せた。こうしたことが続き、いつしか堀田は土方の『愛弟子』という評価を、周囲からされるようになったのである。


 こうした良好な関係にある二人だったが、そこは公私の別をよくわきまえたもの同士である。互いに立場に甘えることなく、あくまで『それぞれが己の責任を全うする』というスタンスで関係を継続していた。そうでなければ、どちらかあるいは双方がこの関係に見切りをつけてしまったであろうことは言うを待たない。彼らはそういう人間だった。

 「上に対してはともかく……」

 堀田が口を開く。

 「今の状況で、ガトランティスの大艦隊が押し寄せてきたとして、勝てるのでしょうか?」

 まさか大艦隊『以上』のものが襲来するなど、この時の堀田に想像するのは不可能だった。

 「勝てなければ、地球と人類が滅びる。それだけだ」
 「……」
 「勝つための戦いをするのが、地球の全艦隊を預かった俺の役目だ。お前が心配することではない。余計なことを考えず『薩摩』艦長、そして一個戦艦戦隊の司令官代理としての責任を果たせ。『自分の責任から逃げるな』と、俺はお前に教え続けてきたつもりなのだがな」
 「はい、出過ぎました。申し訳ありません」

 わかればそれでいい、と土方が答えたところで、面会の時間が終わりを告げた。そのため退出しようとする堀田の背中に、土方が声をかけた。

 「堀田、お前は今年で何歳になった」
 「?……32になりましたが、それが何か?」
 「そうか、今の防衛軍にとっては、もう熟練の士官と言うべき立場になったな」

 そう言って、土方は何故か少しだけ、表情を緩めたように見えた。

 「これからは、士官学校の教官としてだけでなく、若い者たちにより多くのことを教えなければならんな。そのために……お前が俺に艦隊司令の役目を押し付けたとき、俺は『俺より先に死ぬことは許さん』と言ったが、それは決して忘れるな」
 「……わかりました、微力を尽くします」
 「よし、それから」
 「?」
 「あのヤマトの無鉄砲……古代進は、お前も縁のある相手だ。今度のことを考えると、これからあいつはお前以上に苦労することになるだろう。だが同時に、あいつはお前と同じくらい、いやそれ以上に、多くの機会できっと地球と人類を救うような存在になり得るはずだ。俺はそう思っている」
 「進君であれば、さもあろうと私も思います」
 「そうか。ならばお前は古代の先輩として、今後色々と力になってやってほしい。あいつには真田くらいしか頼れる先輩がいない。子供のころから付き合いのあるお前が何かと力になってやれば、心強かろう」
 「……あまりひいきをしたいとは思いませんが、正直、教え子ということもあって彼のことは気にかけています。ですので、できる限りのことはしていきます」
 「それならいい、用件はそれだけだ」

 そう言われて再び背を向けた堀田に、また土方が声をかけた。

 「堀田」
 「……何でしょうか?」

 土方らしくないしつこさに、ここで堀田は違和感を感じていた。

 「死ぬなよ、いいな」
 「……」

 何か答えようとしたが堀田だったが、どうしても言葉が出てこず、黙って敬礼して土方の部屋を退出するしかなかった。

 恩師と生徒、その絆と縁を超えた関係で繋がっていたこの二人が、面と向かって直接会話をしたのは、このときが最後のことであった。

 「艦長、ガミラス艦隊の司令から通信です」
 「パネルに出してくれ」

 パネルを見上げると、そこにゲーア少佐の顔が映し出される。この二人、互いの能力に関する限りは高く評価しあっていると言えたが、まだ面識はなかった。

 「ガミラス軍海王星駐屯艦隊司令、ガルノー・ゲーア少佐です。救援、感謝します」
 「戦艦『薩摩』艦長、堀田真司です。救援が遅れて申し訳ない。ゲーア少佐、そちらの艦隊の状況を教えていただきたい」
 「現在、残存艦は12。しかし、2隻は大破して戦闘不能ですので、海王星基地に撤退させます。残る10隻で、我が艦隊はこれより『薩摩』の指揮下で戦闘を継続します」

 一応、階級は堀田のほうが上になるから、こうなるのは必然である。

 「了解、僭越ながらお受けする。ゲーア少佐、火焔直撃砲への対処は貴艦隊は?」
 「可能です。ですが、我が艦隊は探知機能が不足していますので、データ収集はそちらにお願いしたく」
 「わかりました、では本艦からのデータを全艦リンクするようご命令いただきたい」
 「承知……では堀田一佐、ご命令を」
 「敵は戦艦である『薩摩』を狙ってくるはず。本艦は敵メダルーサ級戦艦へ接近戦を敢行するので、援護をお願いしたい」
 「了解、ザー・ベルク」

 スクリーンからゲーアの姿が消えると、堀田は改めて敵艦隊の陣形を確認する。

  (さて、接近戦を挑むとしてどうするか)

 4隻のカラクルム級戦艦が横隊を組み、中央を突破しようとする敵艦に集中砲火を加えようとしている。だが、隻数が少ないためだろう、1隻ごとの間隔は広めになっていた。

 「航海長」
 「はい」
 「全速で敵艦隊の中央、カラクルム級の間を突破する。回避運動を取りながらの機動になるから、衝突に注意してくれ」
 「艦長、少し強引ではありませんか?」

 三木が冷静に言うが、堀田は考えを変えなかった。

 「死中に活を求める形になるが、やむを得ない。迂回、あるいは正面切っての砲撃戦ではかえって被害が増えるだろう。何、この艦はそう簡単には沈まないさ」
 「わかりました」
 「すまない。それと、私が指示したら波動防壁を展開、その防御を以て敵の砲火を突破する」
 「了解、準備します」
 「よし……『薩摩』全速前進! 敵旗艦への接近戦を敢行する。戦術長は敵中央のカラクルム級を集中砲火で順次撃破してくれ。航海長、操艦には船務長からの情報に常に気を配ってくれ。あの火焔を一撃でも受けたらお終いだぞ!」
 「「了解!」」


 (さて、あの『蒼い駆逐艦』の艦長……どう戦うのか)

 通信を終え、ゲーアは考えた。正直、堀田真司という人物はもっと武人然とした風貌だと想像していたが、見ると歳に不相応な童顔の優男である。もちろん、それで侮る気にはならなかったが、もしこの戦いで無様な指揮を見せるようなら、自分たちは戦闘を放棄して離脱する。そういう考えが彼の中になかったら嘘になるのだった。

 だが、そんなことにはなるまい。かつての『神風』の戦いを知るゲーアは、そうも思っていた。

 「さあ、仕切り直しだぞ! 全艦、全力でテロン戦艦の突撃を援護しろ! ガミラス軍の戦いぶりを見せてやれ!」

 そう叱咤すると、部下たちも歓声を上げて応じる。この指揮官もまた、部下たちから相当な信望を集めていることが想像された。


 堀田の想像通り、敵旗艦は明らかに火焔直撃砲で『薩摩』を狙っていた。ガミラス軍は旗艦こそデストリア級重巡洋艦だが、残存艦の多くは駆逐艦である。火力において敵にとって最大の脅威が『薩摩』である以上、当然のことだった。
 ガミラス艦隊の援護があるとはいえ、集中砲火で『薩摩』に被弾が相次ぐ。しかし、そこは防衛軍が誇る新型主力戦艦である。多少のことではびくともしなかった。

 「波動防壁、展開!」

 頃合いを見て、堀田が指示する。敵が火焔直撃砲を回避してくる『薩摩』への集中攻撃を強化する気配を見せる直前だったが、この防御で多くの火力が無効化されてしまった。

 その間も、火焔直撃砲による攻撃は続いている。

 「来ますっ! 方位430!」
 「全速回避っ!」

 沢野の指示で初島が艦を動かす。ここまで、堀田も三木も操艦の命令は一切下していない。息の合った二人のコンビネーションに全て任せていた。
 林もまた、敵カラクルム級に主砲で砲撃を続けている。カラクルム級は正面装甲こそ強固だが、側面は脆い。艦が急速機動中で照準が困難な状況ではあったが、林はよく機を見て敵艦、それも側面を狙い撃ちして有効打を与え続けており、たちまち4隻のカラクルム級のうち、1隻を轟沈に追い込んだ。

 ガミラス艦隊も奮戦していた。重装甲のカラクルム級相手ではあったが、動きの鈍さに付け込んだ機動戦で次々とミサイル、魚雷を敵艦に叩き込み、こちらも1隻撃沈の戦果を挙げる。このあたりの練度は、堀田が評した通りガミラス艦隊に一日の長があるようだった。

 「敵旗艦、間もなく主砲射程に入る!」

 林の報告を受け、堀田は正面の敵旗艦を見据える。と、ここで旗艦の直衛艦らしき2隻のククルカン級がこちらに向かってきた。

 「戦術長、護衛艦から撃破!」
 「わかりました!」

 『薩摩』の一、二番主砲塔が青い閃光を放ち、先行していた敵駆逐艦1隻を爆沈させる。と、ここで敵旗艦が後進で後退を始めた。

 「逃がさないっ!」

 林が声を上げ、初島も更に艦を増速させる。その『薩摩』の正面に立ち塞がるように、敵駆逐艦が艦首を向けて突っ込んできていた。

 (これは……っ!)

 それを見て、堀田はとっさに声を上げた。

 「航海長! 上昇スラスター全開、急上昇っ!」
 「は、はいっ!」

 初島が慌てて艦を急上昇させた直後だった。敵の火焔直撃砲がククルカン級……つまり味方を貫いて爆発させ、その火焔は『薩摩』の艦底部アンテナの半ばを切断して突き抜けていった。

 「艦底部アンテナ、使用不能!」
 「危なかった……しかし、生き残るためには味方も犠牲にすることを厭わないとはな」

 堀田が苦々しく言った。こんな指揮官でありたくないと思うしかなかったが、まだ戦闘は続いている。

 「よし、降下角30で敵旗艦に突っ込め! 戦術長、遠慮はいらんから主砲、全弾叩き込め!」

 敵のメダルーサ級も主砲で応戦し、既に波動防壁の効力が切れている『薩摩』は更に被弾を増やす。各部に相応の被害と火災が生じていたが、今はとにかく前に出るしかない。そのうち、後方からも生き残っているカラクルム級からの砲撃が襲い掛かってきた。

 「後方から敵戦艦2隻、接近!」
 「構うな! 敵旗艦に主砲連続射撃の後、敵艦下方へ突き抜ける!」
 「了解!」

 初島が応じると同時に、林が声を上げた。

 「主砲、撃ちまくれっ!」

 『薩摩』の41cm三連装砲塔が連続射撃を続ける。相次ぐ命中弾でメダルーサ級は艦橋付近から爆炎を上げていたが、まだ沈む気配はない。その艦首すれすれを『薩摩』は全速で駆け抜けていった。

 「三番砲塔、敵火焔直撃砲ユニットを狙え」
 「わかりました! 三番砲塔、最大仰角……テーッ!」

 林の掛け声と同時に発射されたエネルギー弾は、見事敵旗艦の火焔直撃砲ユニットを直撃。これで恐らく火焔直撃砲は使用不能になったはずだ。
 しばらく、堀田は艦が全速降下するに任せる。それから程なくして、初島に言った。

 「航海長、見事な操艦だった……減速、反転してくれ」
 「りょ、了解……しかし、敵がまだ」
 「うん? そうだね、だけど」

 堀田は、沢野に戦場をスクリーンに出すよう命じた。

 「ガミラス艦隊が、よろしくやってくれたようだ」

 既に沈没寸前だったとはいえ、敵旗艦はガミラス艦隊による集中雷撃が功を奏し、大爆発を起こして轟沈した。そして生き残った最後のカラクルム級が爆沈して程なく、海王星宙域の戦場に静寂が訪れたのだった。


 この戦闘における『薩摩』の被害は中破と判定された。主要防御区画は概ね無事であったが、被弾は大小合わせて20数発に及んでおり、それに伴う火災も含めて決して軽い損害とは言えなかった。
 何より、今度の戦いでは乗員に2名の戦死者が出た。堀田にとって、部下に戦死者を出したのは『レコンキスタ』戦における『神風』での5名のそれ以来だった。

 (無茶な突撃をしてしまったが、それがなければ彼らは死なずに済んだだろうか……)

 勝ち戦なのに、ついそんなことを考えてしまう。そして、戦いが終わると常に『もっとよい戦い方はなかったのか?』と自省する。そんな心理が、堀田を『防衛軍屈指の研究熱心な士官』にさせている最大の理由だったかもしれなかった。
 三木からの報告が終わった頃、ゲーア少佐が『薩摩』を訪れてきたので、艦長室に通すよう命じた。

 「堀田艦長、重ねながら救援感謝いたします」
 「ゲーア司令、こちらこそ海王星の艦隊が動かなくて申し訳ない。おかげでそちらに多くの犠牲を出してしまった」
 「いえ、撤退を判断した基地司令の判断は正しかったかと。小官としましては、むしろ自分が無謀な命令を出したと部下に申し訳なく思っております」

 この一言で、堀田はゲーアが信頼できる指揮官であると判断した。

 「……自軍の不備をそちらへ口にするのも申し訳ないですが」

 堀田は、少し口調のトーンを低くした。

 「ここは海王星、仮にも最前線と言うべき場所です。ガトランティスとの戦いが続いているこの現状で、この星に相応の兵力を配備していないということが問題だったのです」
 「……」
 「もちろん、艦隊司令部はそれを理解しています。しかし、今まで波動砲装備艦に軍備が偏重した弊害で、適切な兵力配備をしようにも艦の不足でできない状況になっているのです。これは現在の司令長官が上と掛け合っていますから、今度の戦いもよい教訓となるでしょうし、いずれそちらへの負担は少なくできるかと考えています」

 これまでの堀田の言葉をゲーアは黙って聞いていたが、内心、その率直さに呆れを禁じ得なかった。つい2年ほど前までは敵だった自分たちに対して、ここまで身内の不備を嘆いて見せるとは。しかも、かつての仇敵であったはずの自分らへの気遣いまで見せる。彼の呆れは、そのまま堀田への好意の裏返しになっていた。

 「堀田艦長」

 ゲーアが口を開いた。

 「あなたのお気遣い、ガミラス軍人として心から感謝します。しかし、我々は先の戦争であなた方を絶滅寸前にまで追い込んでいます。それは我ら一介の軍人にはどうにもならなかったとはいえ、今の我々はその償いをしなければならないと考えているのです。何より……」
 「?」
 「あなたは、我々の攻撃で婚約者を亡くされたと聞いております」

 一瞬、堀田は表情を厳しくしたように見えた。が、次に発せられた言葉はあくまで穏やかなものだった。

 「……それは、戦争という状況を考えればどうすることもできないことです。それに、私も先の戦争で多くのガミラスの人たちを殺している。つまり、私は自分でも私のような境遇の人間を多く生み出したということでもあります。戦争にどちらが良い、悪いもないですから」
 「しかし……」
 「ともあれ、かつてはともかく今は地球とガミラスは盟友です。だからこうして、我々は協力して共通の敵を打ち破ることができた。紆余曲折があったとはいえ、今はそうした状況になったことを喜びたい。それが私の正直な気持ちですよ」
 「艦長……」

 ゲーアは、過去へのこだわりを持っていた自分のほうが恥ずかしくなっていた。太陽系に駐屯するガミラス軍人の間で、堀田は『研究熱心だ』という評判と同時に『過去にこだわらなさすぎる変わり者だ』という評価もあったのだが、今それが何を意味しているかよく分かったような気がした。そして、この『蒼い駆逐艦の艦長』が決して単なる戦術家というだけでなく、人物として極めて信頼に値すると理解したのである。

 (今度の借りは、私の命に替えても返さなければなるまい。それがガミラス軍人としての自分の生きる道だ)

 そう覚悟を決めさせたことが、後に堀田を大いに後悔させることになってしまうのだが、今の段階では先の話であった。


 ゲーアが『薩摩』を退艦するのを見送って、堀田が艦橋に戻ってみると、通信長の河西が三木に青ざめた表情で報告していた。

 「副長、通信長、何かあったか?」
 「か、艦長……十一番惑星の前線基地に、ガトランティス軍の攻撃があったとの知らせが入りました」
 「何だって!?」

 堀田は驚いたと同時に、それが極めて危険な知らせであることを瞬時に理解した。海王星に押し寄せた敵艦隊は撃滅したが、代わりに十一番惑星基地が敵に占領されては、どのみち敵に前線基地となり得る惑星を与えてしまうことになって元も子もない。あるいは敵の本当の狙いは十一番惑星であり、海王星への攻撃は陽動だった可能性もある。
 いずれにせよ、戦闘で損傷した『薩摩』に十一番惑星へ向かう余力はない。そうと考えるに至って顔色を変えた堀田に、三木が声をかけた。

 「艦長。ですが幸い、十一番惑星基地を攻撃した敵艦隊はヤマトがこれを撃退。駐屯していた空間騎兵隊も20数名の生存者ながら、ヤマトに収容されたとのことです」
 「そうか……それなら地球侵攻のための前線基地を敵に作られる危険は、とりあえず避けられたということだな」

 ひとまず落ち着いた堀田ではあるが、その内心は決して楽観できる要素があったわけではなかった。

 (いよいよ、本格的に太陽系に敵の手が伸びることになるのか……)

 そうなれば、今まで辛うじて避けられていた地球とガトランティスとの全面戦争が勃発することになる。土方の手による地球防衛艦隊の再編も未だ途上だ。勝ち目がある、などと言い切れるものではない。

 (一度、土方さんと話をしておいたほうがいいかもしれない)

 そう思った堀田は、新たに命令を下した。

 「これより『薩摩』は、艦の修理のため土星宙域タイタン鎮守府の基地へと向かう。総員、準備にかかってくれ」

 自分が地球防衛軍全艦隊の司令長官という職務を『押し付けた』相手と直接会うことが叶えば、それは1年半ほど以来ということになるのだった。

 ガルノー・ゲーア少佐。ガミラス太陽系方面軍、海王星基地駐屯艦隊の指揮官である。

 彼は先のガミラス戦役時、当初はシリウス方面にて作戦していたが、冥王星基地の壊滅から始まる地球側の太陽系宙域奪還作戦『レコンキスタ』に対応し、太陽系内で地球艦隊と戦闘を行った経験があった。
 だが、その戦いは彼にとって無念さを禁じ得ないものだった。特に初戦となったアステロイドベルト宙域の会戦では、地球防衛軍の新型駆逐艦部隊に味方駆逐艦部隊は翻弄され、実に参加した11隻の駆逐艦のうち7隻を失うという惨敗を喫した。この駆逐艦の大量損失による偵察能力、敵軽快部隊に対する対応力の低下が、ガミラスが地球側の言う『レコンキスタ』で最終的な敗北を喫した理由の一つとなってしまったため、同僚や部下を多く失った彼の悔恨は更に深いものとなったのである。

 (あの『蒼い駆逐艦』……)

 地球側の新鋭駆逐艦部隊の、恐らく司令駆逐艦。この艦の見事な戦術機動と麾下の艦艇への指揮が、彼の見る自軍駆逐艦部隊の最大の敗因であった。そしておよそ三年が経過し、太陽系に赴いた機会にその駆逐艦を率いていた艦長の存在を求めていたのだが、彼はようやく見つけたのである。

 彼の言う『蒼い駆逐艦』が『レコンキスタ』戦当時、現在の防衛軍でパトロール巡洋艦などが採用している偵察艦用の青色迷彩を試験的に施していた『神風』であり、その艦長かつ駆逐隊司令代行だったのが『薩摩』艦長である堀田真司であることを、今のゲーアは承知していた。そして、今度は友軍となった堀田の実力をもう一度見極めると共に、訓練の場とはいえ内心密かに雪辱を期していたのだった。


 「海王星軌道も間もなくだ、艦の状況を報告してくれ」

 堀田が言うと、各部門の責任者がまず副長の三木に報告する。それを取りまとめた三木が言った。

 「各部、異常ありません。いたって順調とのことです」
 「そうか。これからの訓練は相当に実戦に近いものとなるだろうから、準備は怠らないようにな」
 「了解、伝えます」

 その訓練の相手が、かつて自分が敗北を味あわせた士官だということを、今の堀田は知らなかった。

 (海王星のガミラス艦隊は宙雷戦隊だと聞くが、その力量はなかなかのようだ。戦艦で宙雷襲撃にどう対応するか……私にとっては『逆の戦い』とも言えるが、色々試してみることにしようか)

 そんなことを考えていると、船務長の沢野から報告が入った。

 「海王星軌道に到達、海王星を確認しました」
 「そうか、パネルに……」
 「待ってください、これは……?」

 沢野が戸惑ったような反応を見せた。

 「どうした、船務長」
 「はい、少し海王星付近の様子が……パネルに出します」
 「頼む」

 艦橋のスクリーンが海王星とその周辺宙域を映し出す。沢野がなぜ戸惑った反応を見せたか、堀田以下他の乗員たちもすぐ理解した。

 「これは、何があったんだ?」

 海王星の周辺にガミラス艦隊の姿はなく、そこには自軍……つまり地球防衛軍のパトロール艦と護衛艦が合わせて10数隻ほど待機していた。これらは最近、軍備の変更で金剛型戦艦や村雨型巡洋艦と入れ替わりに配備されていた艦隊で、主に太陽系外周の哨戒を任務としていたため今回の訓練に参加する予定はなかった。

 「いずれにせよ、ガミラス艦隊がいないのは妙だな。通信長、海王星基地に通信を送ってくれ」
 「了解……海王星基地、出ます」

 スクリーンが今度は海王星基地の内部を映す。しかし、そこに現れたのは海王星基地司令の姿ではなく、堀田にとって会ったことのない士官の姿だった。階級章を見ると三佐のようだ。

 「海王星基地補給参謀、真壁誠三佐です。現在、基地司令は手が離せませんので、僭越ながら私が代わりに応対させていただきます」
 「『薩摩』艦長の堀田真司だ。真壁三佐、よろしく頼む。まずは現状、何が起こっているか説明してもらいたい」
 「はい。先ほど我が基地の偵察艦が、哨戒中にガトランティス艦隊を発見。ガミラス艦隊はこれを迎撃に向かいました」
 「敵艦隊だって! その規模は!?」
 「確認しただけでも40隻程度、若干の未確認艦も存在する可能性があります」
 「我々からすれば大艦隊だぞっ! なぜガミラス艦隊と共に迎撃に出なかった!?」

 堀田は大声で怒った。海王星基地艦隊は哨戒部隊とはいえ、パトロール艦も護衛艦もショックカノンは当然のこと、波動砲さえ装備しているのだ。それだけ一定の戦力として期待できる艦隊をなぜこんなところで遊ばせているのか? まさかガミラス艦隊を見捨てたのかという疑問を禁じ得なかったのだが、真壁はあくまで冷静な表情と口調で答えた。

 「敵戦力が強大であるため、当方はいったん軍民共に海王星から避難することを進言しましたが、ガミラス艦隊のゲーア司令が受け入れなかったのです。『我々が敵を食い止めている間に脱出せよ』と言われましたので、現在、我々は民間人を乗せた輸送船団の準備を行っています」
 「あちらが先走ってしまったのか……怒鳴ってすまなかった」

 そうは言ったものの、このままガミラス艦隊を放置しておいてよいのだろうか。堀田の脳裏にはこのとき、様々なことが去来していた。

 (かつての怨敵、か……)

 自分とて、婚約者をガミラスとの戦いで奪われた過去がある。この『薩摩』に乗り込んでいる乗員たちも、ガミラス戦役で家族や友人など大切な人々を奪われた者は少なくない。そうした事実を知るが故か、今の『薩摩』艦橋の全員が半ば呆然として堀田の様子を見ている。しかし、彼はこういう状況で動かないような腰の重い人間ではない。

 (いや、そんなことを考えている場合ではないな)

 気を取り直し、再びスクリーンの真壁に視線を向ける。

 「真壁三佐。海王星基地艦隊だけで、民間人を乗せた船団を後送することに問題はないか?」
 「敵の大部隊に奇襲されなければ、問題ありません。しかし……」
 「そうか、ならば君から聞くべきことはここまでだ」

 何か言いたげな真壁の言葉を、強引に遮った。

 「『薩摩』はこれより、ガミラス艦隊の援護に向かう。基地司令にはそう伝えてくれ」
 「……了解しました、ご武運を」
 「そちらも無事を祈る」

 最後まで表情を変えないまま敬礼する真壁がスクリーンから消えると、堀田は直ちに命令を下す。もちろん真壁が言ったように、目の前のガトランティス艦隊の他に敵艦隊がいないとも限らず、その別動隊に避難船団が攻撃される危険はある。だが、ガミラス艦隊が突破されてガトランティス艦隊がこの宙域になだれ込んでくれば、足の遅い避難船団は追い付かれて蹂躙されるだけだ。
 危険な賭けだが、堀田の手元にあるのは戦艦とはいえ1隻のみ。ここはまず、ガミラス艦隊が突破されることを防ぐしか方法はないと判断したのだ。

 「これより、ガミラス艦隊と共同してガトランティス艦隊の迎撃に向かう。全艦、第一種戦闘配置!」
 「「了解!」」

 幹部乗組員たちの声が気持ちよく響く。『薩摩』にとって初めての実戦は、あまりに唐突な状況で行われることになった。


 「くそっ、敵の数が多すぎる!」
 「あいつら、こっちの陽動に乗ってこない。どうする!?」

 味方艦から飛び交う通信を、ゲーアは苦々しく聞いていた。

 (何故だ、何故奴らは陣形を崩さない?)

 内心でそう思う。敵はラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦を中心とした軽快部隊であり、ゲーアとしてはガトランティス艦より自軍のケルカピア級高速巡洋艦やクリピテラ級駆逐艦の機動力が勝ることを生かし、機動戦で敵戦力を漸減するつもりでいたのだ。そうすれば勝算も十分にあった。
 だが、何故か敵はこちらの機動戦に乗ってこない。どれだけ撃沈、撃破艦を出しても、あくまで球形陣を崩さぬままにこちらの攻撃へ応戦してくるだけなのだ。

 そうなると、数の上で不利なガミラス艦隊のほうが厳しくなる。敵が機動戦に乗ってこない以上、こちらも足を止めて撃つしかないのだが、こうした消耗戦ではいずれ全滅するのは味方のほうなのだ。

 (このまま海王星方面へ転進し、地球艦隊と合同で仕切り直すか……)

 冷静にゲーアはそうも考えたが、すぐそれを打ち消した。それでは海王星の地球、ガミラス双方の民間人に被害が及ぶ可能性があり、何より自分が「敵を足止めする」と強硬に主張して出てきてしまったのだ。ここで退くのはガミラス軍人の誇りが許さなかった。

 「司令、我が軍の損失8艦! どうしますか!?」

 海王星に駐屯するガミラス艦隊の総数は24隻。すでに1/3の艦艇を失ったことを告げる通信士の悲鳴に近い言葉にも、ゲーアはすぐに命令を下すことができなくなっていた。


 「艦長、前方に交戦中のガミラス、ガトランティス艦隊発見!」
 「メインスクリーンに出してくれ」

 『薩摩』はレーダーの探知可能範囲限界から、交戦中の両艦隊を捕捉する。その状況を見て、堀田はすぐガミラス艦隊の不利な状況を理解した。

 (敵が機動戦に乗ってこない……あれではガミラス軍の長所が殺されて不利だが、敵も損害が大きくなる。いったいどういうことか)

 敵の意図が読めない。しかし、この状況をひっくり返す方法を『薩摩』は持っていた。

 (あれを、使うのか……)

 拡散波動砲。既に第八浮遊大陸戦で用いられていたため、それ以前にかけられていた使用制限が解除されていたからここで発射は可能だ。そして敵の密集した陣形は、この場から最大射程で拡散波動砲を発射すれば、間違いなく壊滅に追い込める状況なのだ。

 普通の士官なら、何のためらいもなく撃つ局面だったろう。だが……

 (それで、本当にいいのか?)

 沖田はじめヤマト乗組員たちの志を汲んで、自分も波動砲艦隊に猛反対してきた。その膨張を防ぐため、恩師である土方を無理やり全艦隊の指揮官に引っ張り込んだ。そこまでやった自分が、沖田とスターシャの約束を踏みにじることになるのだ。ためらいを覚えるなというほうが無理な話ではあったろう。

 「艦長……」

 林がつぶやくように声をかけてきた。彼女は戦術長として、今の状況で拡散波動砲を撃つ意味を理解していたはずである。だが、自分たちの艦長がこれまで何をしてきて、何を考えてきたか。それも承知しているから、押し切ることができないのだ。

 ほんの短い時間。しかし、当事者たちにとっては永遠とも思えるような時間が『薩摩』艦橋に流れていた。

 「ガミラス艦隊、戦力半減! 限界ですっ!」

 沈黙を破る沢野の声を聞き、堀田は顔を上げた。

 「やろう」
 「艦長!」
 「確かに、私は波動砲艦隊に反対してきた。沖田さんの遺志を無駄にしたいとも思わない。だが、ここは撃つべきだ。どんなことがあっても、味方を見捨てる戦いは地球防衛軍にはない。沖田さんや土方さん、ヤマトの彼らとてきっとここなら撃つ。私もその覚悟で臨もう」

 一つ、堀田は深呼吸する。そして、いつも以上に通る声で命令した。

 「拡散波動砲、発射用意!」
 「了解……拡散波動砲、発射シークエンスに入ります」

 三木が冷静に、しかしここぞを得たりと返事をする。

 「戦術長、すまないが引き金は私がもらうよ」
 「艦長、それはっ!」
 「これは、私が乗り越えなければならない壁だ。君らこの『薩摩』乗員や今、目の前にいるガミラス艦隊だけではない。これから先、多くの人を生かすための戦いに必要なことなんだ。だから、頼む」
 「……わかりました、お任せします」
 「ありがとう……通信長、船務長が示す座標から退避するよう、ガミラス艦隊に伝えてくれ」
 「了解、すぐ伝えます」

 その返事を聞き、艦長席の椅子で姿勢を正す。目の前には既に波動砲発射用のトリガーが準備されていた。

 (沖田さん、申し訳ありません。撃ちます!)

 引き金に指をかけ、内心でそう詫びる。それが済んだ次の瞬間、もう堀田の心から迷いはなくなっていた。

 「拡散波動砲、発射10秒前! 対ショック、対閃光防御!」

 全員が準備を整え、堀田がカウントダウンを始める。そして、ガミラス艦隊の退避が完了した直後……

 「3、2、1……拡散波動砲、発射!」

 目一杯の力で引き金を引く。そして次の瞬間『薩摩』の艦首から青白い、眩いばかりの閃光が打ち出された。

 (……行けるかっ!)

 閃光は、周囲のデブリを消滅させながらガトランティス艦隊に向けて直進していく。そしてその閃光は、着弾点の少し手前で『傘のように』拡散した。
 『薩摩』艦橋で見守る全員の前で大爆発が起こる。密集し『薩摩』の存在を探知するのが遅れていたであろうガトランティス艦隊は拡散波動砲になす術がなく、たちまちほぼ全艦がエネルギー流に飲み込まれて爆発、炎上して燃え尽きていた。

 「……敵艦隊、ほぼ消滅。ガミラス艦隊が残存艦の掃討に入った模様です」
 「了解した」

 短く答えた堀田だったが、映像でしか見たことのない波動砲の威力。そのあまりの破壊力に、彼らしくもなく呆然としていた。

 (『私たちのような愚行を繰り返さないでください』か……)

 スターシャが沖田に語ったという言葉が頭をよぎる。このような兵器に魅せられてしまっては、いずれ地球人もかつてのイスカンダル人のような愚行を繰り返すのかもしれない。いや、そんなことはさせない。それが自分の役目だと、改めて堀田は自覚するのだった。

 だが、その思考も長くは続かなかった。

 「航海長っ!」

 沢野が大声を上げた。

 「は、はいっ!」
 「今すぐ転舵……いや、この座標から離れて! 早く!」
 「わ、わかりましたっ! 右舷スラスター全開!」

 初島が『薩摩』を強引に左方向へと移動させる。これには堀田も驚いたが、更なる衝撃は次の瞬間だった。
 突如、炎の塊が『薩摩』の右舷を通過していった。それが何であるか、ヤマトの戦闘詳報も念入りに研究していた堀田は瞬時に理解した。

 (火焔直撃砲! まさかっ!)

 敵艦隊にメダルーサ級戦艦がいたのか、と思ったと同時に、沢野と初島に感謝しきれなかった。自分が一瞬、呆然となった瞬間を狙ったかのように、敵は火焔直撃砲を撃ってきたのだ。もし沢野が声を上げず初島も対応しなければ『薩摩』は撃沈されていたのである。何たる油断かと自分を責めつつも、優秀な自分の艦の乗員をありがたく思うのだった。

 「船務長、敵にメダルーサ級戦艦がいたのか?」
 「いえ、探知していません。探知したのは転送システムのエコーだけでした。それでもしやと思い……」
 「いや、見事な判断だった。船務長、そして航海長、ありがとう」

 二人に礼を言うや、前方で敵艦隊を掃討中だったガミラス艦隊から通信が入った。

 「艦長、先ほど撃破した敵艦隊の後方に主力と思われる艦隊を発見したとのことです。構成はメダルーサ級1、カラクルム級4、ククルカン級2」
 「わかった、ガミラス艦隊にはこちらへの合流を要請してくれ。本艦もただちに前進する」

 河西に指示を与えておいてから、堀田は下命した。

 「これより、敵主力艦隊を攻撃する。『薩摩』第一戦速にて前進!」

 海王星宙域での戦いは、未だ終わる気配を見せていなかった。

 その日『薩摩』は月面基地にて出撃準備を整えている途中だった。

 といっても、戦場に赴くための準備ではなかった。先日、ガミラス軍海王星基地駐屯艦隊から『地球防衛軍の一個戦艦戦隊と共同で演習を行いたい』との申し出があり、これを受けた防衛軍は、間もなく慣熟訓練を終える予定であった第28戦艦戦隊を差し向けることに決定したのである。
 だが、今回の訓練には『薩摩』のみが参加することとなっていた。先日の訓練中『丹後』と『周防』が接触事故を起こしてしまい、現在は両艦ともドックにて修理中だったからだ。

 「月面基地艦隊以外のガミラス軍との演習は、初めてですね」

 艦橋で言う三木の言葉に、艦長席に座った堀田もうなずく。

 「そうだな。聞くところでは、海王星艦隊は数こそ少ないが指揮官はなかなかに出来ると評判があるようだ。『薩摩』だけになってしまうのは残念だが、いい経験になるだろう」
 「艦長は、ガミラスの戦い方もかなり研究されたと聞きますが、どう思われます?」
 「やはり機動戦という点ではあちらに一日の長がある。波動機関を装備した艦に熟練していることもあるし、こちらは先の戦役で宙雷科の士官が壊滅しているからね……」

 その中に自分の先輩や同僚、後輩それに教え子が何人いたことか。今更ガミラスを恨もうとも思わないが、堀田もどうしても感傷的にはなってしまう。

 「だからこそ、学ばなければならない。同盟軍とはいえ、そうそう戦場で後れを取るわけにはいかないから」
 「そうですね」

 そう三木が言い終わった瞬間だった。

 「何だ?」

 突然、月基地全体に警報が鳴り響いた。明らかに異変を知らせるそれは、先日、地球の大気圏内まで突入してきた敵カラクルム級戦艦のことを思い出させた。

 「通信長、敵襲かどうか基地本部に問い合わせてくれ」

 堀田が河西にそう声をかけたが、河西はどうやらどこかと通信中のようだった。そしてそれが終わったと見るや、穏やかで比較的冷静な通信長の顔は明らかに青ざめていた。

 「か、艦長! 防衛軍本部より、き、緊急電です」
 「敵襲か? それとも事故か?」
 「いえ、違います。『これより『薩摩』は直ちに月基地を出撃。木星軌道上にて訓練中の『アンドロメダ』と合流せよ』とのことです」
 「何だって?」

 先に声を上げたのは三木だった。堀田はまだ表情を崩さない。静かに河西に問う。

 「通信長、本部は理由を言ってきたか?」
 「は、はい。それが……」
 「早く言いなさい」
 「はっ……『叛乱艦『ヤマト』を追撃せよ』とのことです」

 聞いて、堀田と三木は顔を見合わせていた。

 「か、艦長……どういうことでしょうか?」
 「……」

 三木もまた青ざめていたが、堀田はこのとき、先日自分が抱いた疑念がとうとう現実になってしまったことに強い悔恨の念を抱いていた。

 (また後手に回った。また、何もできなかったのか……)

 いつもそうだ。自分は実戦部隊にいるから、確かに広い視野に立って何かをするということは難しい。しかし、今度のことは全く予想できなかったことでもなかった。対応はできなかったのかという自責を禁じ得なかったが、今はそのような繰り言を口にしている余裕はない。

 「艦長、防衛軍本部が返信を求めていますが……」

 河西の言葉に、堀田は手のひらを前に出して「少し待ってくれ」という意思表示を示した。

 (さて、こうなった以上私はどうするべきなのだろうか……)

 仮にも地球を救った英雄たちが、今度は叛逆者の汚名を着ようとしている。それだけでも尋常なことではないが、堀田真司という人間にとって、今の防衛軍首脳とヤマト乗組員たち、どちらを信じるべきなのか? その一点だけを考えれば、およそ結論を出すにはそう時間はかからなかった。

 艦長室のコントロールパネルから、堀田は機関室への音声マイクのスイッチを入れた。

 「……出撃は不可能だ」
 「えっ?」
 「本艦『薩摩』は訓練航海への出撃準備中、機関部に破損を発見した。修理におよそ一日はかかる。突貫工事を行うが、即時の出撃は不可能である。防衛軍本部にはそう返事をしてくれ」
 「で、ですが……」

 それが嘘だと承知している河西は戸惑ったが、堀田の表情をしばらくまじまじと見つめるや、黙って口を開いた。

 「……了解しました。こちら『薩摩』。本艦は現在、機関部に発見された破損を修復中。出撃まで一日程度を要する。繰り返す……」

 河西の声を聞きながら、堀田は今度は三木を見やる。こちらも納得したような表情を見せていた。

 「やはり、守さんの弟さんは止められませんか」
 「だろうね。そして、今度の行動にはきっと何か重大な理由がある。私は進君たちヤマト乗組員らの判断を信じることにしたい」
 「個人的な思い入れからですか? それは」
 「全くないとは言わない。だが、多分そのほうが地球のためにもなると信じている」
 「わかりました。副長として、艦長がそのお覚悟なら何も申し上げることはありません」

 直後、機関室から来島の声が聞こえてきた。

 「艦長、機関破損って何のことです? それに……」
 「詳しい話は後だ、機関長。とにかく本艦の機関は『破損して』いるんだ。一日やるから、じっくりと修理にかかってくれ」
 「……へいへい、じゃ、取っかかるとしますか」
 「頼む」

 言い終わるや、堀田は三木に「しばらくここを頼むよ」と告げ、いったん自室へ引き取った。


 それから一時間ほど経っただろうか、何やら自室で物思いにふけっていた堀田は、艦長室に戦術長の林を呼んだ。

 「戦術長、今回の訓練航海に必要な物資が増えたのでね。ここに一覧を作っておいたから、主計長と相談して早速の積み込み頼む」
 「は、はい……」

 人の口に戸は立てられぬ、というが、林をはじめ『薩摩』乗員たちのすべてに、もう『ヤマト叛乱』という噂は流れていた。
 堀田から受け取った必要物資が網羅された紙を見て、林は明らかに愕然としていた。

 「こ、これは……これでは本艦は、ヤマトの叛乱に加担することになるのではないでしょうか?」
 「ヤマトが叛乱? 誰がそんなことを言ったんだい?」
 「艦長!」

 冗談では済まない。防衛軍からはもう『ヤマトを追撃せよ』という命令が下っているのだ。その命令を嘘をついてまで従わず、しかも自分が手にした紙に書いてある物資まで積み込むなど、林にはもはや正気の沙汰とは思えなかった。
 困惑している彼女に、堀田は静かに言った。

 「戦術長、私はこの艦の命名式のときに言っている。『最後に艦の責任を取るのは私だ』と。申し訳ないが、今回は命令違背を許すことはできない。もし私が罰せられたとしても、君たち『薩摩』乗員の他の誰一人として、累が及ばないようにする。今は私を信じてもらえないだろうか」
 「……」

 林は沈黙し、迷いの表情を見せる。しかし、それも長いものにはならなかった。今の防衛軍で、自分のこの上官以上に信じられる士官がいるのか? いないのである。

 「……わかりました。ご命令、直ちに実行いたします」
 「ありがとう」
 「しかし、もしこの基地の司令部から何か言ってきましたら……?」
 「私の命令だと言っておけばいい。ついでに『これからの任務に必要だから』と付け加えておけば、恐らく文句は出ないだろうよ。出たら、私がごり押しするから任せておきなさい」

 了解しました、と答えて下がる林の背中を見つつ、堀田は内心で考えていた。

 (安田さんなら、気づいても私の邪魔はしないだろうな)

 邪魔をする気なら『薩摩』が出撃命令を不可とした時点で、陸戦隊が乗り込んできて自分の艦の指揮権を奪うくらいの手が打たれているはずだ。堀田は決して、安田俊太郎という提督の人格と力量を見誤ってはいなかったのである。

 「アンドロメダが、ヤマトの追跡を開始したそうです」

 艦橋に戻ると、三木からそう報告を受ける。「そうか」とだけ答えると、堀田は艦長席に座ってまた考え始める。

 (進君、後は土方さんを納得させることができるかどうかだ……それ次第ではあるが)

 それが難問であることなど、もちろん百も承知であった。


 数時間ほどして、堀田はある二尉の訪問を受けた。想像通り、と言うべき来訪だった。

 「何かあったか、加藤君」

 やってきたのは、加藤三郎二尉だった。

 「はっ、非常に手前勝手なお願いではありますが……」
 「その前に、こちらから聞こう」

 加藤の言葉を遮り、続けた。

 「真琴さんは……君の細君は、何と言って君を送り出した?」
 「は?」
 「何と言って君を送り出したのか、と聞いている」

 このときの堀田の目には、まるで容赦がなかった。

 「『格好いい父ちゃんでいてよ。翼のために、そして……私のために』と」
 「……」

 一瞬、考え込む。それから、堀田は静かに口を開いた。

 「そうか、それならいい」
 「えっ?」
 「君が何を頼みに来たのかは、わかっている。『ヤマトに連れていけ』だろう?」
 「……」

 完璧に見透かされていて、加藤は返す言葉がなかった。

 「細君が止めるのを振り切ってきたのなら、私は君を無理やりにでもこの艦から降ろすつもりだったが、そういうことならそれでいい。君の頼み、引き受けることにするよ」
 「きょ、教官っ!」
 「ただし」

 堀田は、更に真剣さを増した表情を見せた。

 「生きて帰ってこい。そして、格好いい父ちゃんの姿を翼君に見せてやれ。それが細君だけではない、私との約束でもあると心得ておいてくれ」
 「はいっ!」
 「で、だ。君が乗る飛行機だが……どうする?」
 「あっ……」

 どうやら、そこまでは頭が回っていなかったらしい。今更、艦載機でヤマトを追いかけても途中で燃料が尽きてしまう。だから『薩摩』に連れて行ってほしいと要望に来た加藤だったが、身一つで行ったところで働きようがない。

 「それについては……」

 表情を変えず、堀田は言った。

 「これから、この艦の格納庫を見ておいてくれ。それで納得したら、ヤマトで存分に働いてくるといい」
 「……?」
 「ヤマトがなぜ発進したか、いろいろ聞きたいことはある。だが、それは本艦が出撃してからにするとしよう。さあ、格納庫を確認したら、君は密航者なんだ。主計長に言って仮の部屋を用意してもらいなさい」

 訝しさを残したまま、加藤は敬礼して艦長室を出る。だが格納庫に行ってみると、そこに自分が使っていたコスモタイガーⅡを見出して、驚愕と共に堀田に深く感謝するのであった。

 「艦長」

 一人の密航者を乗艦させてから数時間後、林が堀田の元へ報告にやってきた。

 「九八式48cm砲用の三式融合弾24発、本艦弾薬庫に収納いたしました」

 九八式48cm砲は、ヤマトに主砲として搭載された艦砲である。『薩摩』は41cm砲搭載艦であり、そしてこの月面基地には現在、九八式48cm砲を搭載した艦は配備されていなかった。

 「ありがとう、手間をとらせたね」
 「いえ……艦長」
 「何だい?」
 「この贈り物、生きるといいですね」
 「……そうだな」

 このヤマト主砲用と言うべき三式融合弾、そして加藤が月面基地で訓練に使っていたコスモタイガーⅡ、いずれも堀田が林に命じて『薩摩』に搭載させたものだった。出撃を一日引き延ばしてヤマトへの追撃に参加せず、これらの『贈り物』を準備した上でワープ航法によってヤマトを追いかける。
 それが、堀田の最初からの考えであった。自分が罰せられることを覚悟した上で、ヤマト乗組員たちの判断に彼は賭けたのである。ヤマトは決して間違っていない、と。

 (まあ、個人的な思い入れというだけのことではあるのだろうがな……)

 自分もやはり、現実の見えない夢見がちな船乗りなのだろう。そんな自嘲めいた心境になる堀田だったが、いよいよ『薩摩』出撃まで一時間となった翌日、再び防衛軍から全軍に緊急電が届いた。

 「司令部より、太陽系全域の地球艦隊に達する。ヤマトの追跡を中止せよ。ヤマトに対する叛乱の嫌疑は晴れた。繰り返す……」

 まずはよし。土方さんや藤堂長官を納得させられたらしい。もちろん何の力がそうさせたかなど堀田には見当もつかなかったが、彼としては自分の部下たちも叛乱の巻き添えにしなくて済んだことを安堵するしかないという心境であった。


 月面基地を出撃した『薩摩』は太陽系内では殆どの艦が行わないワープ航法を用い、半日後、土星空域を少し過ぎたところでヤマトに追いついた。

 「ヤマト、発見しました」

 船務長の沢野から報告されると、堀田は言った。

 「ヤマトの様子はどうだ? こちらを探知した気配は?」
 「その様子はありませんが……それが何か?」

 沢野の答えを聞くや、今度は林にいつも通りの静かな声をかけた。

 「戦術長。一番砲塔、射撃用意」
 「ええっ!」

 林はもちろん、艦橋にいる全員が驚いた。ヤマトへの嫌疑が晴れたというのに、ここで攻撃してどうするというのだ。だが、堀田は薄笑いすら浮かべているような表情を見せていた。

 「こちらに気づいてないということは、叛乱の嫌疑が晴れて彼らも安心し切っているのだろう。それで油断するようでは先が思いやられる。ここで一発、喝を入れてやるとしよう」
 「で、ですが……」
 「慌てるな戦術長、もちろんエネルギー量を最小まで絞った上での威嚇射撃だ。それでヤマトがどう反応するか、見物しようじゃないか」

 でなければ、今までのこちらの苦労が報われないのだ。多少のいたずら心はあるにせよ、教え子たちが多く乗艦するヤマトにはそれくらいの指導はしてやらねばなるまい。

 「わかりました。主砲一番、発射用意……準備完了!」
 「テーッ!」

 堀田の命令一下『薩摩』から発射されたエネルギー弾はヤマトの艦橋上を通り過ぎていく。その直後、スクリーンに映るヤマトはもう三番砲塔と二番副砲でこちらへの反撃の構えを見せていた。

 「さすがに歴戦の艦、油断はないようだ」

 内心嬉しい堀田だったが、まともに撃ち返されてはたまらないので、すぐ河西に通信を送るように命じるのだった。
 ヤマトから通信が入る。『薩摩』艦橋のスクリーンに映し出されたのは古代の顔だった。

 「……堀田艦長、悪戯が過ぎます」

 渋い顔をする古代である。

 「いや、油断していたら先が思いやられると思ってね……ところで、今のヤマトは君が指揮官か?」
 「はい、自分が艦長代理を務めています」
 「わかった。そちらの飛行隊長である加藤二尉と、月面基地に保管してあった三式融合弾を届けに来た。こちらも任務があってあまり時間がない。すぐに引き渡したいので接舷を許可されたい」
 「了解、感謝いたします」

 古代が敬礼するや、スクリーンからその顔が消える。そして『薩摩』は加藤機を発進させ、それからヤマトに接舷して弾薬庫に搭載した三式融合弾の移送を開始したのだった。



 その作業中、堀田はヤマト艦橋背面にある展望室で古代と話をすることにした。もちろん加藤からもある程度話を聞いているが、今回の計画の『首謀者』たる古代から、より詳しい話を聞く必要があった。

 「今回は思い切ったことをしたものだが、いったい何があったんだ? まさか理由もなしに君たちが叛乱覚悟で出撃するとも思えないが」
 「……申し訳ありません、教官にはご心配をおかけしました」
 「それはいいから、今は理由だけ教えてくれないか」
 「はい」

 古代の口から発せられた『理由』とは、ある程度わかっていたとはいえ驚くべきものだった。

 まず、第八浮遊大陸でのガトランティスとの戦いの直後、元ヤマト乗員たちだけが見た、死んでいった近しい人たちの『幻』。そして、それを彼ら彼女らに見せた女性『テレサ』の存在。
 そのテレサに導かれた者は、あるべき未来に従って成すべきを成さねばならない。これはガミラスの地球大使であるバレルから情報を得たのだというが、ガトランティスがこのテレサを狙っているということ。それが地球やガミラスのみならず、宇宙にとって脅威になるということ。

 (あるべき未来を成す、か……)

 それは、恐らく今の地球と違ったもののはずだ。堀田にもそんな想いが芽生えていたのは間違いなかった。

 「……それで、ヤマトはそのテレサという人を助けに行くと?」
 「はい、自分は沖田艦長から『ヤマトに乗れ』と言われました。それは助けを求めている人、それが例えどんな遠い宇宙にいようとも、ヤマトは行かなければならないということだと。自分を含めて、今この艦に乗っているクルーたち全てがその想いでいます」
 「……」

 やはり、古代も自分も、船乗りはみんな同じだ。夢見がちで、時に現実から足が離れる。しかし、そうした『希望にすがり、見出す心』がなければヤマトの航海は成功しなかった。地球の未来はなかったのである。だが、そのヤマトが持ち帰ったはずの『未来』は、間違いなく歪み始めている。堀田とてその自覚はある。ただ、自分には古代と違って行動を起こすための勇気と知識を欠いていた。それだけのことなのだろう。

 「不確かな話ではあるね、正直な感想としては」
 「……」
 「だが、止めはしない。今だから言えるが、もっと半端な覚悟と理由だったら、叛乱の嫌疑が晴れたというだけでは君たちを行かせるつもりはなかった。しかし」

 手すりに手をかけて、堀田は宇宙を眺めていた。

 「叛乱者の汚名を受けるところまで腹をくくったのなら、教官として、あるいは上官として。そして……」
 「……」

 振り返り、古代の左肩にそっと手を乗せる。

 「後輩の弟だ、快く送り出してやらないとな」
 「……堀田さん!」
 「私の手土産は、無駄にはならなかったらしい。後は、一つだけ約束してくれ」

 堀田の目は、これまでになく真剣だった。

 「君には艦長代理としての器がある。それは私が教官として保証する。後は、必ず生きて帰ってこい。そして君がそうと思っている、今のろくでもない未来を叩き壊せ。私もこれからの戦いを生き抜いて、君たちのために力を惜しむつもりはない」
 「はいっ、お約束します」
 「それを聞けて、今は満足だ。航海の無事を祈る」

 堀田がそう締めくくり、互いに敬礼を交わす二人であった。


 ヤマトへの物資移送が完了し、接舷状態を解く。『貴艦ノ航海ノ無事ヲ祈ル』と発光信号でヤマトに送信するや、堀田は命じた。

 「これより、ガミラス艦隊との共同訓練を行うべく、海王星に向かう。『薩摩』発進!」

 この命令が、これから始まる『薩摩』の戦いの引き金を引くことに繋がろうとは、もちろん堀田以下『薩摩』乗員たちにとっては想像だにしないことであった。

 竣工し、公試運転を終えた『薩摩』は、当面は月面基地の練成艦隊に配属されることになった。いずれ後続の艦が完成すれば、A3型戦艦3隻で戦艦戦隊を構成することも既に決まっていた。
 その戦艦戦隊の司令官であるが、これは本来宙将補のポストである。しかし現在の地球防衛軍はガミラス大戦でベテランの士官を多く失った影響で、上級士官、特に将官は極めて不足していた。その数少ない将官はたいていどこかしらの艦隊を指揮しているものであり、とても一個戦隊の指揮官に回す余裕などない。

 「自分が戦艦戦隊司令官の代理を兼務、ですか」

 『薩摩』が月面基地に配属されたその日、基地艦隊を率いる安田俊太郎宙将補の元へ挨拶に出向いた堀田は、まずそう告げられた。
 この安田宙将補は堀田が砲雷長を務めていた頃の『キリシマ』艦長で、現在は防衛軍士官学校で校長を務めている山南修と同期であり、地球防衛軍においては艦隊航空戦術の専門家として知られる人物だった。また、堀田の初陣でもある『カ二号作戦』では、第二次火星沖会戦にて支援隊を率いて獅子奮迅の活躍を見せた、熟練の艦隊指揮官でもある。

 「そうだ。『薩摩』と戦隊を組む艦の艦長は二佐が予定されているから、君が最先任の士官となる。『薩摩』のみならず、残る二艦の指揮も同時並行で行うことになると承知しておいてくれ」
 「了解しました」

 幸い、自分には三木という艦の指揮に関しては信頼できる副長がついている。実は駆逐隊司令代理の経験が一度しかなく戦隊指揮に熟練しているとは言い難い堀田ではあるが、そこは『薩摩』らの訓練と共に自分を鍛えていくよりないだろう。

 一連の報告と命令が済んでから、安田が少し砕けた口調で声をかけてきた。

 「そういえば、山南が言っていたのが君か。堀田君」
 「はい?」
 「『俺の艦(『キリシマ』のこと)に面白い砲雷長がいる』と聞いていた」
 「は、はあ……」

 いささか戸惑った返事を返した堀田だったが、それを見た安田はにやりと笑った。

 「とにかく勉強熱心で研究心が旺盛、必要とあれば味方はおろか敵の模倣すらいとわない。生き残れればいずれ防衛軍にとって有用な人材になるだろうとも聞いたな」
 「それは、買い被りではないかと……」
 「いや『レコンキスタ』での君の奮戦を見ていて、山南の言っていることは間違いないと思った。君も慣れない戦艦の艦長という職務で苦労は多かろうが、きっと実力を発揮してくれると俺は期待しているよ」
 「ありがとうございます、最善を尽くします」

 その返事を聞いて、安田は少し表情を真剣なものへと変えた。

 「ときに堀田君、君は航空戦術を研究したことはあるか?」
 「いえ、専門的なことはまだ殆ど。偵察機による弾着観測など、基本的なことはある程度学んだつもりでいますが、実戦で有効に航空隊を生かすところまではまだまだかと……」
 「素直だな、そうとわかっているならそれでいい」

 安田が続ける。

 「自分で言うのも何だが、俺はその方面では一家言あるつもりだ。幸い、今は基地航空隊や空母戦隊もこの月面基地で練成を行っている。今後、君が戦艦戦隊の指揮官、あるいは戦艦艦長として航空隊と共同して戦う気があるのなら、俺も多少は教えられることがあるかもしれんな」
 「それは何よりです、是非学ばせて頂ければ私も幸いに思います。どうぞよろしくお願いします」

 土方、水谷、沖田、山南と、これまで『師と仰ぐ』先輩士官たちを得てきた堀田であるが、どうやら安田もまたその列に加わることになったようである。


 『薩摩』が月面基地に配属されてから程なく、共に戦隊を組むことになるA3型戦艦の8、9番艦『周防』『丹後』が配備されてきた。当面、この戦艦戦隊には『第28戦艦戦隊』という戦隊名が付与され、約三か月と設定された慣熟訓練が開始された。

 「厳しくやるつもりだから、覚悟しておいてもらえるとありがたい」

 面会一番『周防』『丹後』の艦長らにそう告げていた堀田だったが、その訓練の厳しさは月面基地でも評判になるほど常軌を逸していた。

 とにかく波動砲を主兵装とするはずの……これはあくまで防衛軍中央の認識であるが、その戦艦で構成される戦隊であるにも関わらず、運動戦の演習がこれでもかと続いたのである。波動砲発射の演習ですら、一隻、あるいは二隻が波動砲発射の体勢に入ったら残りの艦はこれを援護するという、他の隊では重視されないことも重点的に行っていた。また、訓練の過程で巡洋艦戦隊や宙雷戦隊との共同演習が繰り返され、ひたすら『足を止めて撃ち合うことを考えるな』という堀田の戦術思想が色濃く反映された訓練が続いていたのである。
 当然、階級の上下を問わず、他の戦艦乗員に比べて第28戦艦戦隊の人員に対する負担は大きくなった。当初はこれに不満を漏らす者も少なからずいたが、最上級の指揮官である堀田が自ら睡眠時間を削って演習を指揮し、終わればすぐその成果と課題を整理して次の訓練に備えている……などという熱心さを見せつけられ、また堀田の『休ませるときはきちんと休ませる』という姿勢が徐々に浸透したこともあって、そうした不満の声は程なく聞こえなくなった。

 この間、堀田自身は自らの戦隊指揮官としての未熟を自覚しつつ『薩摩』単艦の指揮は時に三木に任せつつも、可能な限り『薩摩』乗員と信頼関係の構築に勤しんだ。幹部乗員はともかく、それ以外の若い乗員たちは堀田をよく知らないものも多かったから、今のうちにと思ったのである。後に「『薩摩』とはすなわち堀田一家である」などと評されるようになるが、それはこの時の彼の努力によるところが大きかったようだ。
 また、安田に師事して本格的な航空戦も学びだした堀田は、自分が研究してきた宙雷襲撃との共通点や相違点、あるいは相互補完が可能な部分などを興味深く見るようになっていた。

 (宙雷襲撃は常に大損害というリスクがあるが、航空隊との共同作戦でそれを緩和できる可能性はないものかな?)

 この思考もまた、後の堀田にとって大きな財産となるのだが、今はまだ先の話であった。


 厳しい訓練の日々にも、ときには休日というものがある。そんなある日、堀田は月面に建設された『遊星爆弾症候群』の治療を行うサナトリウムに、とある一家を訪ねていた。

 「教官、すみません。お忙しいときに」
 「加藤君。来たくて来ているのだから、気にしなくていいよ」

 出迎えたのは、防衛軍の航空隊でもトップエースとして知られる加藤三郎二尉だった。航空隊と宙雷科ということでそれほど深い関係があるわけでもなかったが、堀田が士官学校宙雷科の新米教官だったころからの顔見知りである。もっとも、より深い縁があるのはその夫人のほうであった。

 「真琴さんと翼君の様子はどうだい?」
 「真琴はいいですが、翼は……」
 「そうか……」

 加藤の顔には生気がない。それだけで『翼』と呼ばれた加藤の息子の容態がよくないことを示していた。

 「会えないようなら帰るが、どうかな?」
 「いえ、会っていってください。二人とも喜びますから」
 「それはありがたい」

 翼のベッドに案内されると、加藤の妻の真琴が椅子に座り、翼が寝息を立ててベッドに横たわっていた。

 「堀田一佐、来てくださったんですか」
 「ああ、今日は訓練が休みなので。翼君とお話できるとよかったんですが……」
 「申し訳ありません」
 「いや、いいですよ」

 加藤真琴。旧姓原田だが、彼女は元ヤマトのメディックで、同じくメディックだった堀田の元婚約者である高室奈波の後輩である。
 真琴と会うと、堀田はどうしても嫌なことを思い出してしまうのだった。

 (誰が悪いわけでもない、などということは先刻承知なのだがな……)

 実は、奈波が遊星爆弾によって犠牲となったその日、彼女の行った現場に行くはずだったのは真琴だったのである。たまたま真琴が風邪をひいて代わりに奈波が出かけた結果が今の現実だった。奈波の葬式の時、真琴は「私のせいでっ……!」と泣きじゃくっていた。
 無論、堀田に真琴を責める気持ちはいかほどもなかった。

 「あなたのせいではない。もし奈波さんのことが気にかかるなら、こんなご時世であるけれど、あなたが幸せになればいい。それが奈波さんへの何よりの供養になると思ってほしい」

 そう声をかけたのが、昨日のことのように思い出される。そして真琴が加藤と結ばれ子ができたことは嬉しかったし、だがその翼が病魔に侵されていると知った時の絶望感はひとしおだった。
 そんなこともあって、月面基地に配属されてからの堀田は、時折このサナトリウムに顔を出して、加藤一家を極力励ましてきたのである。今では翼からもすっかりなつかれていたのだった。

 この日はあいにく翼が寝ていたので、堀田は真琴と世間話を始めた。

 「どんな難病でも、人間はいつか克服してきた。翼君もきっと元気になると、私は信じていますよ」
 「……ありがとうございます」

 知り合った頃に比べると目に見えて痩せた真琴と、最後にこんな会話を交わす。彼女は堀田を見送りに来たのだが、加藤は翼のところについていてこの場にはいなかった。

 「……堀田一佐、私」
 「はい?」
 「最近、サブちゃん……いえ、夫がいつか遠いところに行くような気がしているんです」
 「えっ?」

 驚くべき言葉である。そしてこのとき、堀田はいつ頃からか……確か先日、第八浮遊大陸宙域で地球・ガミラス連合軍とガトランティス軍が戦闘を交えた直後と記憶しているが、その頃から流れてくる『噂』を思い出していた。

 それに曰く『元ヤマト乗組員たちに何か不穏な動きがある』。

 どうしてそのような事態になるのか、堀田には見当がつかなかった。政治に無関心であるがゆえに、彼には中央への情報網などといったパイプがない。高石にそれとなく訪ねたこともあったが、これといった返事は受けられなかった。

 「もし、夫に何かあったら……」

 真琴が静かに言う。それは、殆ど独り言に近いように堀田は思えた。

 「一佐は……いえ、堀田さんは夫のすることを理解してくれるでしょうか?」
 「……私は軍人だから、その立場から逸脱することは許されません。だけど」

 堀田もまた、静かに答える。

 「加藤君もあなたも、翼君も、みんな私の好きな加藤家の人たちだ。私という個人においては、決して悪いようにはしません。それはお約束します」
 「……ありがとうございます。つまらないことを言ってしまって、申し訳ありません」
 「いえ、気にせずに。では、これで」

 そう言って真琴と別れた堀田だったが、帰り道の途中で考え込んでいた。

 (ヤマトの元乗組員たちに不穏な動き……そうだな、進君なら今の状況に不満もあろうし、彼なら間違いなくヤマト乗員たちを引っ張っていく力がある。この場合は悪い意味になってしまうが……)

 古代進、ヤマト元戦術長。

 彼の兄である守は堀田にとって、士官学校における幹部候補生教育課程の後輩であった。同じ戦術科に配属されていたことから親しくしていたこともあって、その弟である進ともその少年時代から交流があり、進が士官学校に入校してからは教官として戦術の基礎を教えた間柄でもある。

 そして何より、もし『メ号作戦』で堀田が負傷していなかったら、進が座っている席には堀田が座っていたはずだったのである。

 (私が進君の立場だったら、あるいは……)

 暴発しない、とは言い切れない。堀田は自分の理性にそこまで自信がなかったし、何かきっかけがあれば、漠然とながら忌々しさを感じずにいられない現状に立ち向かう行動を起こすのも、確かに考えられることだ。
 もちろん、今はどういう形でヤマト元乗組員たちが動いているかなど知る由もないが、その彼ら彼女らを引っ張っていくだけの統率力を進は間違いなく持っている。元々、一見すると大人しい性格だが秘めた情熱と軍人としての才能を高く評価していただけに、そしてそれがイスカンダルへのヤマトの航海で証明されているだけに、堀田は急に不安を禁じ得なくなっていた。

 (進君、焦るなよ……)

 そう祈るしかないが、何が起こっているかすらわからない身としては、できることなどあるはずもないのだ。深刻な疑念を感じながらも、今は『薩摩』艦長として自分の責務を果たすことしか考えようのない堀田であった。

↑このページのトップヘ