地球防衛軍艦艇史とヤマト外伝戦記(宇宙戦艦ヤマト二次創作)

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(旧作、リメイクは問いません)に登場する艦艇および艦隊戦に関する二次創作を行うために作成したブログです。色々と書き込んでおりますが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

カテゴリ:ヤマト外伝小説 > とある士官と戦艦と地球防衛軍 2202

 ガルノー・ゲーア少佐。ガミラス太陽系方面軍、海王星基地駐屯艦隊の指揮官である。

 彼は先のガミラス戦役時、当初はシリウス方面にて作戦していたが、冥王星基地の壊滅から始まる地球側の太陽系宙域奪還作戦『レコンキスタ』に対応し、太陽系内で地球艦隊と戦闘を行った経験があった。
 だが、その戦いは彼にとって無念さを禁じ得ないものだった。特に初戦となったアステロイドベルト宙域の会戦では、地球防衛軍の新型駆逐艦部隊に味方駆逐艦部隊は翻弄され、実に参加した11隻の駆逐艦のうち7隻を失うという惨敗を喫した。この駆逐艦の大量損失による偵察能力、敵軽快部隊に対する対応力の低下が、ガミラスが地球側の言う『レコンキスタ』で最終的な敗北を喫した理由の一つとなってしまったため、同僚や部下を多く失った彼の悔恨は更に深いものとなったのである。

 (あの『蒼い駆逐艦』……)

 地球側の新鋭駆逐艦部隊の、恐らく司令駆逐艦。この艦の見事な戦術機動と麾下の艦艇への指揮が、彼の見る自軍駆逐艦部隊の最大の敗因であった。そしておよそ三年が経過し、太陽系に赴いた機会にその駆逐艦を率いていた艦長の存在を求めていたのだが、彼はようやく見つけたのである。

 彼の言う『蒼い駆逐艦』が『レコンキスタ』戦当時、現在の防衛軍でパトロール巡洋艦などが採用している偵察艦用の青色迷彩を試験的に施していた『神風』であり、その艦長かつ駆逐隊司令代行だったのが『薩摩』艦長である堀田真司であることを、今のゲーアは承知していた。そして、今度は友軍となった堀田の実力をもう一度見極めると共に、訓練の場とはいえ内心密かに雪辱を期していたのだった。


 「海王星軌道も間もなくだ、艦の状況を報告してくれ」

 堀田が言うと、各部門の責任者がまず副長の三木に報告する。それを取りまとめた三木が言った。

 「各部、異常ありません。いたって順調とのことです」
 「そうか。これからの訓練は相当に実戦に近いものとなるだろうから、準備は怠らないようにな」
 「了解、伝えます」

 その訓練の相手が、かつて自分が敗北を味あわせた士官だということを、今の堀田は知らなかった。

 (海王星のガミラス艦隊は宙雷戦隊だと聞くが、その力量はなかなかのようだ。戦艦で宙雷襲撃にどう対応するか……私にとっては『逆の戦い』とも言えるが、色々試してみることにしようか)

 そんなことを考えていると、船務長の沢野から報告が入った。

 「海王星軌道に到達、海王星を確認しました」
 「そうか、パネルに……」
 「待ってください、これは……?」

 沢野が戸惑ったような反応を見せた。

 「どうした、船務長」
 「はい、少し海王星付近の様子が……パネルに出します」
 「頼む」

 艦橋のスクリーンが海王星とその周辺宙域を映し出す。沢野がなぜ戸惑った反応を見せたか、堀田以下他の乗員たちもすぐ理解した。

 「これは、何があったんだ?」

 海王星の周辺にガミラス艦隊の姿はなく、そこには自軍……つまり地球防衛軍のパトロール艦と護衛艦が合わせて10数隻ほど待機していた。これらは最近、軍備の変更で金剛型戦艦や村雨型巡洋艦と入れ替わりに配備されていた艦隊で、主に太陽系外周の哨戒を任務としていたため今回の訓練に参加する予定はなかった。

 「いずれにせよ、ガミラス艦隊がいないのは妙だな。通信長、海王星基地に通信を送ってくれ」
 「了解……海王星基地、出ます」

 スクリーンが今度は海王星基地の内部を映す。しかし、そこに現れたのは海王星基地司令の姿ではなく、堀田にとって会ったことのない士官の姿だった。階級章を見ると三佐のようだ。

 「海王星基地補給参謀、真壁誠三佐です。現在、基地司令は手が離せませんので、僭越ながら私が代わりに応対させていただきます」
 「『薩摩』艦長の堀田真司だ。真壁三佐、よろしく頼む。まずは現状、何が起こっているか説明してもらいたい」
 「はい。先ほど我が基地の偵察艦が、哨戒中にガトランティス艦隊を発見。ガミラス艦隊はこれを迎撃に向かいました」
 「敵艦隊だって! その規模は!?」
 「確認しただけでも40隻程度、若干の未確認艦も存在する可能性があります」
 「我々からすれば大艦隊だぞっ! なぜガミラス艦隊と共に迎撃に出なかった!?」

 堀田は大声で怒った。海王星基地艦隊は哨戒部隊とはいえ、パトロール艦も護衛艦もショックカノンは当然のこと、波動砲さえ装備しているのだ。それだけ一定の戦力として期待できる艦隊をなぜこんなところで遊ばせているのか? まさかガミラス艦隊を見捨てたのかという疑問を禁じ得なかったのだが、真壁はあくまで冷静な表情と口調で答えた。

 「敵戦力が強大であるため、当方はいったん軍民共に海王星から避難することを進言しましたが、ガミラス艦隊のゲーア司令が受け入れなかったのです。『我々が敵を食い止めている間に脱出せよ』と言われましたので、現在、我々は民間人を乗せた輸送船団の準備を行っています」
 「あちらが先走ってしまったのか……怒鳴ってすまなかった」

 そうは言ったものの、このままガミラス艦隊を放置しておいてよいのだろうか。堀田の脳裏にはこのとき、様々なことが去来していた。

 (かつての怨敵、か……)

 自分とて、婚約者をガミラスとの戦いで奪われた過去がある。この『薩摩』に乗り込んでいる乗員たちも、ガミラス戦役で家族や友人など大切な人々を奪われた者は少なくない。そうした事実を知るが故か、今の『薩摩』艦橋の全員が半ば呆然として堀田の様子を見ている。しかし、彼はこういう状況で動かないような腰の重い人間ではない。

 (いや、そんなことを考えている場合ではないな)

 気を取り直し、再びスクリーンの真壁に視線を向ける。

 「真壁三佐。海王星基地艦隊だけで、民間人を乗せた船団を後送することに問題はないか?」
 「敵の大部隊に奇襲されなければ、問題ありません。しかし……」
 「そうか、ならば君から聞くべきことはここまでだ」

 何か言いたげな真壁の言葉を、強引に遮った。

 「『薩摩』はこれより、ガミラス艦隊の援護に向かう。基地司令にはそう伝えてくれ」
 「……了解しました、ご武運を」
 「そちらも無事を祈る」

 最後まで表情を変えないまま敬礼する真壁がスクリーンから消えると、堀田は直ちに命令を下す。もちろん真壁が言ったように、目の前のガトランティス艦隊の他に敵艦隊がいないとも限らず、その別動隊に避難船団が攻撃される危険はある。だが、ガミラス艦隊が突破されてガトランティス艦隊がこの宙域になだれ込んでくれば、足の遅い避難船団は追い付かれて蹂躙されるだけだ。
 危険な賭けだが、堀田の手元にあるのは戦艦とはいえ1隻のみ。ここはまず、ガミラス艦隊が突破されることを防ぐしか方法はないと判断したのだ。

 「これより、ガミラス艦隊と共同してガトランティス艦隊の迎撃に向かう。全艦、第一種戦闘配置!」
 「「了解!」」

 幹部乗組員たちの声が気持ちよく響く。『薩摩』にとって初めての実戦は、あまりに唐突な状況で行われることになった。


 「くそっ、敵の数が多すぎる!」
 「あいつら、こっちの陽動に乗ってこない。どうする!?」

 味方艦から飛び交う通信を、ゲーアは苦々しく聞いていた。

 (何故だ、何故奴らは陣形を崩さない?)

 内心でそう思う。敵はラスコー級巡洋艦やククルカン級駆逐艦を中心とした軽快部隊であり、ゲーアとしてはガトランティス艦より自軍のケルカピア級高速巡洋艦やクリピテラ級駆逐艦の機動力が勝ることを生かし、機動戦で敵戦力を漸減するつもりでいたのだ。そうすれば勝算も十分にあった。
 だが、何故か敵はこちらの機動戦に乗ってこない。どれだけ撃沈、撃破艦を出しても、あくまで球形陣を崩さぬままにこちらの攻撃へ応戦してくるだけなのだ。

 そうなると、数の上で不利なガミラス艦隊のほうが厳しくなる。敵が機動戦に乗ってこない以上、こちらも足を止めて撃つしかないのだが、こうした消耗戦ではいずれ全滅するのは味方のほうなのだ。

 (このまま海王星方面へ転進し、地球艦隊と合同で仕切り直すか……)

 冷静にゲーアはそうも考えたが、すぐそれを打ち消した。それでは海王星の地球、ガミラス双方の民間人に被害が及ぶ可能性があり、何より自分が「敵を足止めする」と強硬に主張して出てきてしまったのだ。ここで退くのはガミラス軍人の誇りが許さなかった。

 「司令、我が軍の損失8艦! どうしますか!?」

 海王星に駐屯するガミラス艦隊の総数は24隻。すでに1/3の艦艇を失ったことを告げる通信士の悲鳴に近い言葉にも、ゲーアはすぐに命令を下すことができなくなっていた。


 「艦長、前方に交戦中のガミラス、ガトランティス艦隊発見!」
 「メインスクリーンに出してくれ」

 『薩摩』はレーダーの探知可能範囲限界から、交戦中の両艦隊を捕捉する。その状況を見て、堀田はすぐガミラス艦隊の不利な状況を理解した。

 (敵が機動戦に乗ってこない……あれではガミラス軍の長所が殺されて不利だが、敵も損害が大きくなる。いったいどういうことか)

 敵の意図が読めない。しかし、この状況をひっくり返す方法を『薩摩』は持っていた。

 (あれを、使うのか……)

 拡散波動砲。既に第八浮遊大陸戦で用いられていたため、それ以前にかけられていた使用制限が解除されていたからここで発射は可能だ。そして敵の密集した陣形は、この場から最大射程で拡散波動砲を発射すれば、間違いなく壊滅に追い込める状況なのだ。

 普通の士官なら、何のためらいもなく撃つ局面だったろう。だが……

 (それで、本当にいいのか?)

 沖田はじめヤマト乗組員たちの志を汲んで、自分も波動砲艦隊に猛反対してきた。その膨張を防ぐため、恩師である土方を無理やり全艦隊の指揮官に引っ張り込んだ。そこまでやった自分が、沖田とスターシャの約束を踏みにじることになるのだ。ためらいを覚えるなというほうが無理な話ではあったろう。

 「艦長……」

 林がつぶやくように声をかけてきた。彼女は戦術長として、今の状況で拡散波動砲を撃つ意味を理解していたはずである。だが、自分たちの艦長がこれまで何をしてきて、何を考えてきたか。それも承知しているから、押し切ることができないのだ。

 ほんの短い時間。しかし、当事者たちにとっては永遠とも思えるような時間が『薩摩』艦橋に流れていた。

 「ガミラス艦隊、戦力半減! 限界ですっ!」

 沈黙を破る沢野の声を聞き、堀田は顔を上げた。

 「やろう」
 「艦長!」
 「確かに、私は波動砲艦隊に反対してきた。沖田さんの遺志を無駄にしたいとも思わない。だが、ここは撃つべきだ。どんなことがあっても、味方を見捨てる戦いは地球防衛軍にはない。沖田さんや土方さん、ヤマトの彼らとてきっとここなら撃つ。私もその覚悟で臨もう」

 一つ、堀田は深呼吸する。そして、いつも以上に通る声で命令した。

 「拡散波動砲、発射用意!」
 「了解……拡散波動砲、発射シークエンスに入ります」

 三木が冷静に、しかしここぞを得たりと返事をする。

 「戦術長、すまないが引き金は私がもらうよ」
 「艦長、それはっ!」
 「これは、私が乗り越えなければならない壁だ。君らこの『薩摩』乗員や今、目の前にいるガミラス艦隊だけではない。これから先、多くの人を生かすための戦いに必要なことなんだ。だから、頼む」
 「……わかりました、お任せします」
 「ありがとう……通信長、船務長が示す座標から退避するよう、ガミラス艦隊に伝えてくれ」
 「了解、すぐ伝えます」

 その返事を聞き、艦長席の椅子で姿勢を正す。目の前には既に波動砲発射用のトリガーが準備されていた。

 (沖田さん、申し訳ありません。撃ちます!)

 引き金に指をかけ、内心でそう詫びる。それが済んだ次の瞬間、もう堀田の心から迷いはなくなっていた。

 「拡散波動砲、発射10秒前! 対ショック、対閃光防御!」

 全員が準備を整え、堀田がカウントダウンを始める。そして、ガミラス艦隊の退避が完了した直後……

 「3、2、1……拡散波動砲、発射!」

 目一杯の力で引き金を引く。そして次の瞬間『薩摩』の艦首から青白い、眩いばかりの閃光が打ち出された。

 (……行けるかっ!)

 閃光は、周囲のデブリを消滅させながらガトランティス艦隊に向けて直進していく。そしてその閃光は、着弾点の少し手前で『傘のように』拡散した。
 『薩摩』艦橋で見守る全員の前で大爆発が起こる。密集し『薩摩』の存在を探知するのが遅れていたであろうガトランティス艦隊は拡散波動砲になす術がなく、たちまちほぼ全艦がエネルギー流に飲み込まれて爆発、炎上して燃え尽きていた。

 「……敵艦隊、ほぼ消滅。ガミラス艦隊が残存艦の掃討に入った模様です」
 「了解した」

 短く答えた堀田だったが、映像でしか見たことのない波動砲の威力。そのあまりの破壊力に、彼らしくもなく呆然としていた。

 (『私たちのような愚行を繰り返さないでください』か……)

 スターシャが沖田に語ったという言葉が頭をよぎる。このような兵器に魅せられてしまっては、いずれ地球人もかつてのイスカンダル人のような愚行を繰り返すのかもしれない。いや、そんなことはさせない。それが自分の役目だと、改めて堀田は自覚するのだった。

 だが、その思考も長くは続かなかった。

 「航海長っ!」

 沢野が大声を上げた。

 「は、はいっ!」
 「今すぐ転舵……いや、この座標から離れて! 早く!」
 「わ、わかりましたっ! 右舷スラスター全開!」

 初島が『薩摩』を強引に左方向へと移動させる。これには堀田も驚いたが、更なる衝撃は次の瞬間だった。
 突如、炎の塊が『薩摩』の右舷を通過していった。それが何であるか、ヤマトの戦闘詳報も念入りに研究していた堀田は瞬時に理解した。

 (火焔直撃砲! まさかっ!)

 敵艦隊にメダルーサ級戦艦がいたのか、と思ったと同時に、沢野と初島に感謝しきれなかった。自分が一瞬、呆然となった瞬間を狙ったかのように、敵は火焔直撃砲を撃ってきたのだ。もし沢野が声を上げず初島も対応しなければ『薩摩』は撃沈されていたのである。何たる油断かと自分を責めつつも、優秀な自分の艦の乗員をありがたく思うのだった。

 「船務長、敵にメダルーサ級戦艦がいたのか?」
 「いえ、探知していません。探知したのは転送システムのエコーだけでした。それでもしやと思い……」
 「いや、見事な判断だった。船務長、そして航海長、ありがとう」

 二人に礼を言うや、前方で敵艦隊を掃討中だったガミラス艦隊から通信が入った。

 「艦長、先ほど撃破した敵艦隊の後方に主力と思われる艦隊を発見したとのことです。構成はメダルーサ級1、カラクルム級4、ククルカン級2」
 「わかった、ガミラス艦隊にはこちらへの合流を要請してくれ。本艦もただちに前進する」

 河西に指示を与えておいてから、堀田は下命した。

 「これより、敵主力艦隊を攻撃する。『薩摩』第一戦速にて前進!」

 海王星宙域での戦いは、未だ終わる気配を見せていなかった。

 「艦長、ガミラス艦隊の司令から通信です」
 「パネルに出してくれ」

 パネルを見上げると、そこにゲーア少佐の顔が映し出される。この二人、互いの能力に関する限りは高く評価しあっていると言えたが、まだ面識はなかった。

 「ガミラス軍海王星駐屯艦隊司令、ガルノー・ゲーア少佐です。救援、感謝します」
 「戦艦『薩摩』艦長、堀田真司です。救援が遅れて申し訳ない。ゲーア少佐、そちらの艦隊の状況を教えていただきたい」
 「現在、残存艦は12。しかし、2隻は大破して戦闘不能ですので、海王星基地に撤退させます。残る10隻で、我が艦隊はこれより『薩摩』の指揮下で戦闘を継続します」

 一応、階級は堀田のほうが上になるから、こうなるのは必然である。

 「了解、僭越ながらお受けする。ゲーア少佐、火焔直撃砲への対処は貴艦隊は?」
 「可能です。ですが、我が艦隊は探知機能が不足していますので、データ収集はそちらにお願いしたく」
 「わかりました、では本艦からのデータを全艦リンクするようご命令いただきたい」
 「承知……では堀田一佐、ご命令を」
 「敵は戦艦である『薩摩』を狙ってくるはず。本艦は敵メダルーサ級戦艦へ接近戦を敢行するので、援護をお願いしたい」
 「了解、ザー・ベルク」

 スクリーンからゲーアの姿が消えると、堀田は改めて敵艦隊の陣形を確認する。

  (さて、接近戦を挑むとしてどうするか)

 4隻のカラクルム級戦艦が横隊を組み、中央を突破しようとする敵艦に集中砲火を加えようとしている。だが、隻数が少ないためだろう、1隻ごとの間隔は広めになっていた。

 「航海長」
 「はい」
 「全速で敵艦隊の中央、カラクルム級の間を突破する。回避運動を取りながらの機動になるから、衝突に注意してくれ」
 「艦長、少し強引ではありませんか?」

 三木が冷静に言うが、堀田は考えを変えなかった。

 「死中に活を求める形になるが、やむを得ない。迂回、あるいは正面切っての砲撃戦ではかえって被害が増えるだろう。何、この艦はそう簡単には沈まないさ」
 「わかりました」
 「すまない。それと、私が指示したら波動防壁を展開、その防御を以て敵の砲火を突破する」
 「了解、準備します」
 「よし……『薩摩』全速前進! 敵旗艦への接近戦を敢行する。戦術長は敵中央のカラクルム級を集中砲火で順次撃破してくれ。航海長、操艦には船務長からの情報に常に気を配ってくれ。あの火焔を一撃でも受けたらお終いだぞ!」
 「「了解!」」


 (さて、あの『蒼い駆逐艦』の艦長……どう戦うのか)

 通信を終え、ゲーアは考えた。正直、堀田真司という人物はもっと武人然とした風貌だと想像していたが、見ると歳に不相応な童顔の優男である。もちろん、それで侮る気にはならなかったが、もしこの戦いで無様な指揮を見せるようなら、自分たちは戦闘を放棄して離脱する。そういう考えが彼の中になかったら嘘になるのだった。

 だが、そんなことにはなるまい。かつての『神風』の戦いを知るゲーアは、そうも思っていた。

 「さあ、仕切り直しだぞ! 全艦、全力でテロン戦艦の突撃を援護しろ! ガミラス軍の戦いぶりを見せてやれ!」

 そう叱咤すると、部下たちも歓声を上げて応じる。この指揮官もまた、部下たちから相当な信望を集めていることが想像された。


 堀田の想像通り、敵旗艦は明らかに火焔直撃砲で『薩摩』を狙っていた。ガミラス軍は旗艦こそデストリア級重巡洋艦だが、残存艦の多くは駆逐艦である。火力において敵にとって最大の脅威が『薩摩』である以上、当然のことだった。
 ガミラス艦隊の援護があるとはいえ、集中砲火で『薩摩』に被弾が相次ぐ。しかし、そこは防衛軍が誇る新型主力戦艦である。多少のことではびくともしなかった。

 「波動防壁、展開!」

 頃合いを見て、堀田が指示する。敵が火焔直撃砲を回避してくる『薩摩』への集中攻撃を強化する気配を見せる直前だったが、この防御で多くの火力が無効化されてしまった。

 その間も、火焔直撃砲による攻撃は続いている。

 「来ますっ! 方位430!」
 「全速回避っ!」

 沢野の指示で初島が艦を動かす。ここまで、堀田も三木も操艦の命令は一切下していない。息の合った二人のコンビネーションに全て任せていた。
 林もまた、敵カラクルム級に主砲で砲撃を続けている。カラクルム級は正面装甲こそ強固だが、側面は脆い。艦が急速機動中で照準が困難な状況ではあったが、林はよく機を見て敵艦、それも側面を狙い撃ちして有効打を与え続けており、たちまち4隻のカラクルム級のうち、1隻を轟沈に追い込んだ。

 ガミラス艦隊も奮戦していた。重装甲のカラクルム級相手ではあったが、動きの鈍さに付け込んだ機動戦で次々とミサイル、魚雷を敵艦に叩き込み、こちらも1隻撃沈の戦果を挙げる。このあたりの練度は、堀田が評した通りガミラス艦隊に一日の長があるようだった。

 「敵旗艦、間もなく主砲射程に入る!」

 林の報告を受け、堀田は正面の敵旗艦を見据える。と、ここで旗艦の直衛艦らしき2隻のククルカン級がこちらに向かってきた。

 「戦術長、護衛艦から撃破!」
 「わかりました!」

 『薩摩』の一、二番主砲塔が青い閃光を放ち、先行していた敵駆逐艦1隻を爆沈させる。と、ここで敵旗艦が後進で後退を始めた。

 「逃がさないっ!」

 林が声を上げ、初島も更に艦を増速させる。その『薩摩』の正面に立ち塞がるように、敵駆逐艦が艦首を向けて突っ込んできていた。

 (これは……っ!)

 それを見て、堀田はとっさに声を上げた。

 「航海長! 上昇スラスター全開、急上昇っ!」
 「は、はいっ!」

 初島が慌てて艦を急上昇させた直後だった。敵の火焔直撃砲がククルカン級……つまり味方を貫いて爆発させ、その火焔は『薩摩』の艦底部アンテナの半ばを切断して突き抜けていった。

 「艦底部アンテナ、使用不能!」
 「危なかった……しかし、生き残るためには味方も犠牲にすることを厭わないとはな」

 堀田が苦々しく言った。こんな指揮官でありたくないと思うしかなかったが、まだ戦闘は続いている。

 「よし、降下角30で敵旗艦に突っ込め! 戦術長、遠慮はいらんから主砲、全弾叩き込め!」

 敵のメダルーサ級も主砲で応戦し、既に波動防壁の効力が切れている『薩摩』は更に被弾を増やす。各部に相応の被害と火災が生じていたが、今はとにかく前に出るしかない。そのうち、後方からも生き残っているカラクルム級からの砲撃が襲い掛かってきた。

 「後方から敵戦艦2隻、接近!」
 「構うな! 敵旗艦に主砲連続射撃の後、敵艦下方へ突き抜ける!」
 「了解!」

 初島が応じると同時に、林が声を上げた。

 「主砲、撃ちまくれっ!」

 『薩摩』の41cm三連装砲塔が連続射撃を続ける。相次ぐ命中弾でメダルーサ級は艦橋付近から爆炎を上げていたが、まだ沈む気配はない。その艦首すれすれを『薩摩』は全速で駆け抜けていった。

 「三番砲塔、敵火焔直撃砲ユニットを狙え」
 「わかりました! 三番砲塔、最大仰角……テーッ!」

 林の掛け声と同時に発射されたエネルギー弾は、見事敵旗艦の火焔直撃砲ユニットを直撃。これで恐らく火焔直撃砲は使用不能になったはずだ。
 しばらく、堀田は艦が全速降下するに任せる。それから程なくして、初島に言った。

 「航海長、見事な操艦だった……減速、反転してくれ」
 「りょ、了解……しかし、敵がまだ」
 「うん? そうだね、だけど」

 堀田は、沢野に戦場をスクリーンに出すよう命じた。

 「ガミラス艦隊が、よろしくやってくれたようだ」

 既に沈没寸前だったとはいえ、敵旗艦はガミラス艦隊による集中雷撃が功を奏し、大爆発を起こして轟沈した。そして生き残った最後のカラクルム級が爆沈して程なく、海王星宙域の戦場に静寂が訪れたのだった。


 この戦闘における『薩摩』の被害は中破と判定された。主要防御区画は概ね無事であったが、被弾は大小合わせて20数発に及んでおり、それに伴う火災も含めて決して軽い損害とは言えなかった。
 何より、今度の戦いでは乗員に2名の戦死者が出た。堀田にとって、部下に戦死者を出したのは『レコンキスタ』戦における『神風』での5名のそれ以来だった。

 (無茶な突撃をしてしまったが、それがなければ彼らは死なずに済んだだろうか……)

 勝ち戦なのに、ついそんなことを考えてしまう。そして、戦いが終わると常に『もっとよい戦い方はなかったのか?』と自省する。そんな心理が、堀田を『防衛軍屈指の研究熱心な士官』にさせている最大の理由だったかもしれなかった。
 三木からの報告が終わった頃、ゲーア少佐が『薩摩』を訪れてきたので、艦長室に通すよう命じた。

 「堀田艦長、重ねながら救援感謝いたします」
 「ゲーア司令、こちらこそ海王星の艦隊が動かなくて申し訳ない。おかげでそちらに多くの犠牲を出してしまった」
 「いえ、撤退を判断した基地司令の判断は正しかったかと。小官としましては、むしろ自分が無謀な命令を出したと部下に申し訳なく思っております」

 この一言で、堀田はゲーアが信頼できる指揮官であると判断した。

 「……自軍の不備をそちらへ口にするのも申し訳ないですが」

 堀田は、少し口調のトーンを低くした。

 「ここは海王星、仮にも最前線と言うべき場所です。ガトランティスとの戦いが続いているこの現状で、この星に相応の兵力を配備していないということが問題だったのです」
 「……」
 「もちろん、艦隊司令部はそれを理解しています。しかし、今まで波動砲装備艦に軍備が偏重した弊害で、適切な兵力配備をしようにも艦の不足でできない状況になっているのです。これは現在の司令長官が上と掛け合っていますから、今度の戦いもよい教訓となるでしょうし、いずれそちらへの負担は少なくできるかと考えています」

 これまでの堀田の言葉をゲーアは黙って聞いていたが、内心、その率直さに呆れを禁じ得なかった。つい2年ほど前までは敵だった自分たちに対して、ここまで身内の不備を嘆いて見せるとは。しかも、かつての仇敵であったはずの自分らへの気遣いまで見せる。彼の呆れは、そのまま堀田への好意の裏返しになっていた。

 「堀田艦長」

 ゲーアが口を開いた。

 「あなたのお気遣い、ガミラス軍人として心から感謝します。しかし、我々は先の戦争であなた方を絶滅寸前にまで追い込んでいます。それは我ら一介の軍人にはどうにもならなかったとはいえ、今の我々はその償いをしなければならないと考えているのです。何より……」
 「?」
 「あなたは、我々の攻撃で婚約者を亡くされたと聞いております」

 一瞬、堀田は表情を厳しくしたように見えた。が、次に発せられた言葉はあくまで穏やかなものだった。

 「……それは、戦争という状況を考えればどうすることもできないことです。それに、私も先の戦争で多くのガミラスの人たちを殺している。つまり、私は自分でも私のような境遇の人間を多く生み出したということでもあります。戦争にどちらが良い、悪いもないですから」
 「しかし……」
 「ともあれ、かつてはともかく今は地球とガミラスは盟友です。だからこうして、我々は協力して共通の敵を打ち破ることができた。紆余曲折があったとはいえ、今はそうした状況になったことを喜びたい。それが私の正直な気持ちですよ」
 「艦長……」

 ゲーアは、過去へのこだわりを持っていた自分のほうが恥ずかしくなっていた。太陽系に駐屯するガミラス軍人の間で、堀田は『研究熱心だ』という評判と同時に『過去にこだわらなさすぎる変わり者だ』という評価もあったのだが、今それが何を意味しているかよく分かったような気がした。そして、この『蒼い駆逐艦の艦長』が決して単なる戦術家というだけでなく、人物として極めて信頼に値すると理解したのである。

 (今度の借りは、私の命に替えても返さなければなるまい。それがガミラス軍人としての自分の生きる道だ)

 そう覚悟を決めさせたことが、後に堀田を大いに後悔させることになってしまうのだが、今の段階では先の話であった。


 ゲーアが『薩摩』を退艦するのを見送って、堀田が艦橋に戻ってみると、通信長の河西が三木に青ざめた表情で報告していた。

 「副長、通信長、何かあったか?」
 「か、艦長……十一番惑星の前線基地に、ガトランティス軍の攻撃があったとの知らせが入りました」
 「何だって!?」

 堀田は驚いたと同時に、それが極めて危険な知らせであることを瞬時に理解した。海王星に押し寄せた敵艦隊は撃滅したが、代わりに十一番惑星基地が敵に占領されては、どのみち敵に前線基地となり得る惑星を与えてしまうことになって元も子もない。あるいは敵の本当の狙いは十一番惑星であり、海王星への攻撃は陽動だった可能性もある。
 いずれにせよ、戦闘で損傷した『薩摩』に十一番惑星へ向かう余力はない。そうと考えるに至って顔色を変えた堀田に、三木が声をかけた。

 「艦長。ですが幸い、十一番惑星基地を攻撃した敵艦隊はヤマトがこれを撃退。駐屯していた空間騎兵隊も20数名の生存者ながら、ヤマトに収容されたとのことです」
 「そうか……それなら地球侵攻のための前線基地を敵に作られる危険は、とりあえず避けられたということだな」

 ひとまず落ち着いた堀田ではあるが、その内心は決して楽観できる要素があったわけではなかった。

 (いよいよ、本格的に太陽系に敵の手が伸びることになるのか……)

 そうなれば、今まで辛うじて避けられていた地球とガトランティスとの全面戦争が勃発することになる。土方の手による地球防衛艦隊の再編も未だ途上だ。勝ち目がある、などと言い切れるものではない。

 (一度、土方さんと話をしておいたほうがいいかもしれない)

 そう思った堀田は、新たに命令を下した。

 「これより『薩摩』は、艦の修理のため土星宙域タイタン鎮守府の基地へと向かう。総員、準備にかかってくれ」

 自分が地球防衛軍全艦隊の司令長官という職務を『押し付けた』相手と直接会うことが叶えば、それは1年半ほど以来ということになるのだった。

 海王星沖での戦闘で損傷を受けた『薩摩』は、戦闘終了後に土星の衛星タイタンへと向かっていた。これは被害が思いの他大きかった『薩摩』には比較的大規模な修理が必要であり、それができる設備を有する一番近い基地がタイタン鎮守府の工廠だったからだが、堀田としては別の思惑もあった。

 (これからガトランティスと本格的なの戦闘が始まるなら、その前に土方さんと話をしておきたい)

 当時、地球のほぼ全艦隊の指揮権を委ねられていた土方は、土星のタイタン鎮守府で各外周、内周艦隊の指揮を執っていた。今回の海王星沖での戦闘の戦訓を報告すると共に、個人的な意見交換になってしまい公私混同と言われかねないのだが、今後の地球防衛艦隊の戦略について話をしたい。そう思っていたのである。


 タイタン基地に到着し、早速『薩摩』は入渠し修理に入る。作業にある程度の目途が立ってから、堀田は残務を三木に任せて、自分は土方に面会を申し入れた。
 相手は連合艦隊司令長官という要職にある人物だから、さすがにすぐに会えるわけではない。一日待たされたが、ともあれ許可が下りて土方と面会できることになった。

 「何をしに来た、自分の艦を放り出して」

 対面していきなり、土方はそう言った。だが、別にこれは叱責したわけではない。何せ堀田が士官学校の最上級生だったときから、生徒と校長してのみならず、教官と校長、そして戦場でも部下と上官として長く付き合ってきた間柄である。味方からも恐れられる人物とはいえ、堀田には多少なりとも気安さがあったのかもしれない。

 申し訳ありません、と謝罪してから、堀田は海王星沖における戦闘の状況を事細かく説明した。

 「……そうか、お前も撃つと覚悟したか」

 自分と同じように、波動砲艦隊構想に強硬に反対してきた堀田である。ヤマト乗員たちほどではなかったかもしれないが、沖田とスターシャとの約束を守りたいという気持ちが強いことを土方は知っていたから、波動砲の使用に至るまでどれだけ悩み、そして最終的に、それこそ身を削るような覚悟を秘めて引き金を引いたか、なまじ付き合いが長いだけにわかってしまうのである。

 「味方を見捨ててまで、自分の感情を納得させるようなことはしたくありません。それでは後々、より大きな後悔を生むだけだと思いました」

 そっけないと言えるような口調で堀田はそう答えたが、こういうときの彼は普通に話すときより、内心でよほど強い葛藤を抱え込んでしまっている。これもまた、土方には容易に理解できることであった。
 ここで、土方は話題を変えた。

 「それで、お前は実際にガトランティスと戦ってどう思った?」
 「……勝つために手段を選ばない相手であるようです。こういう相手に勝とうと思えば、戦力において相手が勝るであろうことを踏まえますと、容易ならざることと思いました」
 「味方を犠牲にしても勝ちを得ようとする……どうやら、少なくともかつて戦ったガミラスとは違ったメンタルを持った相手のようだな」
 「そう考えます。こちらはそうした戦いは許されませんが、並々ならぬ覚悟はしておくべきかと」
 「そうだな」

 ここで、堀田は気になっていたことを口にした。

 「話は変わりますが……艦隊の整備は順調に進んでいるのでしょうか?」
 「正直、捗々しいとは言えない。お前の指摘した通り、戦艦の数はともかくそれを護衛すべき巡洋艦、駆逐艦は相変わらず不足している。均整の取れた艦隊の整備はまだ道半ば、だな」
 「……」

 土方が艦隊司令長官に就任する前、防衛軍首脳部は波動砲搭載戦艦の建造に躍起になっていた。巡洋艦や駆逐艦の代替として波動機関を搭載した金剛改型や村雨改型が建造されてはいたが、やはりこれら旧式艦では性能に限界はある。ようやく新鋭の巡洋艦や駆逐艦の建造が開始されたのだが、土方の言う通りやはりこれらの量産は道半ば、というしかない。

 「……こうなることがわかっていたはずなのに、なぜ首脳部は波動砲に偏重した軍備という愚かなことをしたのか」
 「堀田」

 思わず呟いた言葉を耳にされて、堀田は土方から厳しい視線を向けられた。

 「相変わらず直らないようだが、お前は上に対する言葉に容赦がなさすぎる。俺に対しては構わないが、そういう言動は慎まなければいずれ不興を買うぞ。そうなれば地球のために働く場を失うことにもなりかねないのだから、そういうところは俺の真似をするな」
 「……申し訳ありません」

 謝るしかない堀田だったが、この『上に対する言葉に容赦がない』という点がなければ、実は彼が土方に見出されることはなかったということは、土方本人が語らなかったので知る由もなかったのである。


 堀田が土方と出会ったのは、ちょうどガミラス大戦が始まった年のことだった。戦時にあたって優秀な士官を育成するため、土方は国連宇宙軍首脳部の要請を受け、航宙宇宙軍士官学校の校長を引き受けたのである。
 当時、堀田はその士官学校で最上級生だったのだが、ある日、事件が発生する。土方の元へいきなり堀田が押しかけていって、ある教官が一部の生徒と結託して別の生徒を虐待しているという件を、正規のルートを経ずに告発したのだった。

 当然のこと、これは軍規違反である。そのため校内で簡易軍法会議が行われたのだが、堀田はその場でこのように述べている。

 「仮にも教官たる者が、生徒と結託して別の生徒を虐待するなど看過できません。私が校長に直接告発したのは、自分の告発が握りつぶされるのを恐れたからです。告発にあたって正規の手続きを踏まなかったことに関しての罰は甘んじてお受けしますが、私の行為が軍紀を乱したという批判は納得できません。私は既に存在している軍紀の乱れを明らかにしたのみです」

 激烈な言葉に、これを聞いた多くが「堀田は退学させられるだろう」と思ったそうである。だが、実際に告発とこの言葉を聞いた土方はこう思った。

 (こいつ、俺と軍組織を試しているのか)

 確かに、堀田を異分子として排除するのは簡単である。しかし、不正を明らかにした人間を追い出してしまえば、国連宇宙軍は『不正を告発したものを追い出す、信用できない組織』と市民に思われるのは必定である。それ以上に、校長である土方がその断を下してしまったら、当然のこと彼の信頼も失われてしまうのだ。
 土方自身としては、自分の名誉などどうでもいいことである。だが、仮にも内惑星戦争の英雄として沖田と並び称され、国連宇宙軍でも指折りの名将と評される彼が不正に加担するような行動を取ってしまったら、全軍に与える影響は計り知れないのである。

 だが、そこは『鬼』と恐れられつつも、提督として部下から絶大な信頼を得ている土方だ。彼はいかにも『彼らしいやり方』でこの問題を処理することにした。

 まず、堀田が告発した教官および生徒を配置転換、および退学処分ですべて士官学校から追放した。優秀な教官や生徒が混じっていたこともあって反対論もかなり根強かったが「部下から信頼を得られない教官や生徒は必要ない」と押し切ったのである。
 そして堀田には『正規の手続きを踏まずに告発した』という一点だけを罪に問い、一カ月の停学処分を加えた。こちらにも厳罰を、という声も小さくはなかったが、土方はただ一言「必要ない」とだけ述べて取り合わなかったと伝えられている。

 堀田自身はこのとき「これで自分を退学させるような組織なら、戦場に出された時点で生き残れそうもない。それなら今ここで追い出されても同じことだ」と割り切ってしまっていたのだが、停学処分に止まったことに違和感を感じていた。だが程なく、彼は自分が土方から、退学より遥かに重い『処分』を喰らったと知ることになる。

 「軍の規律を乱し、そこまで上を批判したなら退学で済むと思うな。今は戦時であるから、戦場で責任を果たせ」

 直接、本人から言われたわけではない。しかし、その後の自分が受けた土方の『指導と言う名のしごき』から考えると、そうした課題を突き付けられたと思うしかなかったのである。


 こうして出会うことになった二人だったが、これは双方にとって『僥倖』と言うべきものであったろう。堀田は土方の『しごき』に不平ひとつ言わずよくついていき、その知識や経験を吸収していった。告発の一件以前はあまり教官たちから注目されるところがなかった堀田だったが、秘めた力量については申し分ないものがあった。それを見抜き、認めることのできる校長を得たことで、その才能は最上級生になって大きく開花したのである。
 そして土方もまた、自分の厳しい指導についていく堀田にいささかの驚きを感じつつ、その士官としての才能に期待するようになった。ガミラスとの厳しい戦いで生き残れるかわかったものではなかったが、もし運よく命永らえれば、いずれ連邦宇宙軍を支える士官になるかもしれない。そう思うようになったのだ。もちろん『上に容赦なさすぎる』という点は直さなければ出世がおぼつかず、自分の期待も画餅に終わってしまうのだが。

 堀田が諸々と留意したのか、とにかく無事に卒業した彼は順調に士官としての履歴を重ね『ヤマト完成以前、地球艦隊唯一の勝利』とされた第二次火星沖海戦にも参加して生還してきた。この直後、土方は士官学校校長としてある決断をする。

 「堀田一尉(当時)を、士官学校宙雷科の教官として迎える」

 一尉という階級はまだしも、当時の堀田はまだ23歳だった。若すぎる教官の登用にやはり反対論は多かったが、土方はまたしてもこの人事を強行した。そして、堀田はこの抜擢に対して『上に厳しく下に優しく、自分に対しては度を越して厳格ですらある』と評される公正な人格と、カ二号作戦から生きて帰ってきた戦場での経験、何よりも優れた宙雷戦術の専門家として土方の期待以上に見事な教官ぶりを発揮した。この教官時代に養われた人脈が後の堀田にとって大きな財産になったことも含めて、これもまた互いにとってよい人事であったと言うべきだったろう。
 更に時代が下り、ガミラス大戦末期においては、ヤマトの帰路確保と太陽系宙域回復作戦である『レコンキスタ』において、土方は地球残存艦隊の総司令長官として、堀田はその麾下にあった駆逐艦『神風』の艦長として、やはり縦横の活躍を見せた。こうしたことが続き、いつしか堀田は土方の『愛弟子』という評価を、周囲からされるようになったのである。


 こうした良好な関係にある二人だったが、そこは公私の別をよくわきまえたもの同士である。互いに立場に甘えることなく、あくまで『それぞれが己の責任を全うする』というスタンスで関係を継続していた。そうでなければ、どちらかあるいは双方がこの関係に見切りをつけてしまったであろうことは言うを待たない。彼らはそういう人間だった。

 「上に対してはともかく……」

 堀田が口を開く。

 「今の状況で、ガトランティスの大艦隊が押し寄せてきたとして、勝てるのでしょうか?」

 まさか大艦隊『以上』のものが襲来するなど、この時の堀田に想像するのは不可能だった。

 「勝てなければ、地球と人類が滅びる。それだけだ」
 「……」
 「勝つための戦いをするのが、地球の全艦隊を預かった俺の役目だ。お前が心配することではない。余計なことを考えず『薩摩』艦長、そして一個戦艦戦隊の司令官代理としての責任を果たせ。『自分の責任から逃げるな』と、俺はお前に教え続けてきたつもりなのだがな」
 「はい、出過ぎました。申し訳ありません」

 わかればそれでいい、と土方が答えたところで、面会の時間が終わりを告げた。そのため退出しようとする堀田の背中に、土方が声をかけた。

 「堀田、お前は今年で何歳になった」
 「?……32になりましたが、それが何か?」
 「そうか、今の防衛軍にとっては、もう熟練の士官と言うべき立場になったな」

 そう言って、土方は何故か少しだけ、表情を緩めたように見えた。

 「これからは、士官学校の教官としてだけでなく、若い者たちにより多くのことを教えなければならんな。そのために……お前が俺に艦隊司令の役目を押し付けたとき、俺は『俺より先に死ぬことは許さん』と言ったが、それは決して忘れるな」
 「……わかりました、微力を尽くします」
 「よし、それから」
 「?」
 「あのヤマトの無鉄砲……古代進は、お前も縁のある相手だ。今度のことを考えると、これからあいつはお前以上に苦労することになるだろう。だが同時に、あいつはお前と同じくらい、いやそれ以上に、多くの機会できっと地球と人類を救うような存在になり得るはずだ。俺はそう思っている」
 「進君であれば、さもあろうと私も思います」
 「そうか。ならばお前は古代の先輩として、今後色々と力になってやってほしい。あいつには真田くらいしか頼れる先輩がいない。子供のころから付き合いのあるお前が何かと力になってやれば、心強かろう」
 「……あまりひいきをしたいとは思いませんが、正直、教え子ということもあって彼のことは気にかけています。ですので、できる限りのことはしていきます」
 「それならいい、用件はそれだけだ」

 そう言われて再び背を向けた堀田に、また土方が声をかけた。

 「堀田」
 「……何でしょうか?」

 土方らしくないしつこさに、ここで堀田は違和感を感じていた。

 「死ぬなよ、いいな」
 「……」

 何か答えようとしたが堀田だったが、どうしても言葉が出てこず、黙って敬礼して土方の部屋を退出するしかなかった。

 恩師と生徒、その絆と縁を超えた関係で繋がっていたこの二人が、面と向かって直接会話をしたのは、このときが最後のことであった。

 タイタンでの修理を終えて、月面基地に帰還した『薩摩』は、これまた接触事故による損傷の修理を終えた『周防』『丹後』と共に再び戦隊を編成した。なお、ヤマト発進時に堀田が行った独断行動に関しては、そもそも発端であるヤマトの発進が『当初から命令されたものだった』という形で処理されたためか咎められることもなく、上官たる安田からも何も言われずに終わった。

 (まあ正直なところ、こういう個人的な綱渡りに部下を付き合わせるのは感心できないな。今後は戒めることにしよう)

 内心でそう思い、再び訓練に次ぐ訓練の日々に戻った堀田だったが、それからさして間を置かないある日のこと、安田に呼び出されてその執務室を訪れていた。

 「我が戦隊を第一外周艦隊に、ですか」
 「そうだ。いよいよガトランティスとの本格的な戦闘が開始されると土方長官も見ているようだ。そこで、現在の月面基地艦隊の戦艦戦隊で最も練成が進んでいる第28戦艦戦隊を前線に送りたい、と命令が下った」

 第一外周艦隊は天王星基地を根拠地とした、太陽系防衛における最前線を担う艦隊である。ただ『薩摩』が海王星宙域にてガトランティス軍の小規模艦隊と交戦した際は演習中で、その援護に間に合っていなかった。
 この『前線にあってなお、援護が間に合わなかった』というのは大問題であったが、同時に現在の地球防衛艦隊の苦しい現状を示している事態でもあった。第一線に配備されている艦隊が、その根拠地周辺で訓練を繰り返さなければならないほど、乗員の練成が進んでいなかったのである。それ以前に乗員の数が揃わず苦しいやりくりが続いている地球防衛軍であるが、質的な問題まで抱えているとなれば、当然のこと今後のガトランティスとの戦いは苦戦を免れまい。

 「何より、君の戦隊は『薩摩』のみとはいえ実戦も経験した。それに俺の目から見ても、君の部隊の練成が一番進んでいるのは指揮官たる君の手腕によるところが大きいと思っている。それを前線部隊である第一外周艦隊で生かしてもらいたいのだが」
 「はい……」

 褒められているのはわかるが、それはあくまで自分の手の内に入れた一個戦艦戦隊での話である。これから新しい任地に配属されれば、当然のこと周囲には面識の浅い、あるいはない相手のほうが多いのだ。そこであまり腕を振るってしまうと、嫉妬を買ったりして全軍の和を乱しかねない。堀田は他人の評価をそう気にする性格でもなかったのだが、そういう内輪のもめ事に関しては軍にとって致命傷になりかねないという意味において、決して鈍感ではなかった。
 それに堀田にとって、配属先が第一外周艦隊というのも、一つの問題となるのだった。

 「……そういえば、君は谷さんとは仕事をしたことがあったか?」
 「いいえ」

 谷鋼三宙将補。現在の第一外周艦隊の司令長官であり、決して多くない現在の地球防衛軍の宙将補の中でも最年長の提督である。『思索生知』を座右の銘とする合理主義者として知られた人物で、その意味で言うなら、同じく合理的思考の強い堀田と相性が悪いとは考えにくい。だが、実は別の問題があった。
 谷は、堀田が反対した波動砲艦隊の推進派であり、かつその実行者として知られる人物でもあった。例えば波動砲を艦隊単位で発射するための陣形を『マルチ隊形』を呼ぶのだが、これを考案、命名したのも谷であるように、徹底した波動砲戦の研究家というのが衆目の一致するところである。そんなところに、波動砲艦隊に強く反発した自分が行って大丈夫なのか? 堀田としては谷のことを詳しくは知らないという事情もあり、全く不安がないと言えば嘘になってしまうのだ。
 しかし、安田としてはそのあたりの堀田の心理について、どうやらお見通しのようであるらしかった。

 「堀田君、君は上官を少し安く見過ぎているように見えるが?」
 「……」
 「谷さんは、君が波動砲艦隊に反対したからと言って、それで君を冷遇するような人ではない。俺はあの人と一緒に仕事をしたことが何度もあるが、有能で、公正な指揮官だと保証できる」
 「はい」
 「だから、安心して君の腕を振るって来い。何なら『波動砲を使わない』君の戦いを存分に見せてくればいい。そして、君は君の知らない波動砲を有効利用した戦い方を学べばいい。多くを学ぼうとする者に対して、谷さんは無碍な扱いをする人ではないからな」
 「わかりました、肝に銘じます」

 そう言って敬礼し、退出した。もちろん不安すべてを払拭できたわけではないが、ともあれ今度の任地は最前線なのだ。余計なことを考えている余裕などあるはずもないから、まずは自分の役割に集中しよう。そう思い直す堀田であった。


 そして、第28戦艦戦隊は数日のうちに月基地を出港、天王星基地へと向かった。なお、前線部隊への異動に伴って『薩摩』を旗艦とするこの戦艦戦隊は名称がが変更され、以後は『第3戦艦戦隊』として活動することとなった。
 天王星基地に到着してすぐ、堀田は谷に面会した。

 「君が堀田真司一佐か。海王星での君の奮戦は聞いている。我々の援軍が間に合わなかったこと、申し訳なく思う」
 「恐縮です」

 まずは丁寧と言うべき、谷の対応だった。

 「ところで、君は波動砲艦隊に反対だと聞いているが、今でもそう考えているかな?」
 「……実際に波動砲を用いて思いましたが、過去のことはさておき、現状ガトランティスから地球を守るために、あの力は必要だと痛感しました。ですが」
 「うん?」
 「あの力がいつか使われずに済む世界が来ることを、私は望まずにはいられません」

 あえて思うところを隠さず述べたが、谷は表情を変えず、むしろ考え込むような様子を見せてから口を開いた。

 「……私が言うと信じてもらえないかもしれんが」
 「?」
 「私としても、あの波動砲というものの恐ろしさは、私なりにだが理解しているつもりだ。あれは、確かに使わずに済めばそれに越したことはないと私も考えている。だが、今の地球の状況はそれを許さないとも思う」
 「……」

 堀田は表情を消して黙っていたが、波動砲艦隊推進派の谷からこのような言葉を聞くとは、正直なところ考えてもみなかった。何より、波動砲の恐ろしさを知った上でなお使わざるを得ないと判断したのは、結局のところ自分も同じなのである。その『恐怖』を理解しているだけ、この指揮官もまた信頼に足る人物と見てよいように思えたのだった。

 「安田君から聞いたが……」

 谷が話題を変えた。

 「君は、戦艦戦隊の司令官代理にしては珍しく、運動戦による戦艦の運用を研究していたようだな」
 「はい。確かに波動砲や大口径ショックカノンの威力は絶大ですが、常にそれが使用できるとは限りません。私が宙雷を専攻していたということもありますが、使える手は幅広く持っておくのがよいと考えましたので」
 「なるほど、理にかなっているな」

 谷が、わずかに感心したような表情を見せた。

 「正直、私がそう仕向けておきながら言うのはおかしいが……今の防衛艦隊の若い士官は波動砲に傾斜した者が少なくない。そのために、波動砲が使えなくなった時点で思考が停止するものさえ出る始末なのだよ」
 「それは……」

 大問題ではないですか、と言いたくなったが、ここで谷に批判めいたことを言っても意味はない。

 「あえて言ってしまうが、君をここに呼んだのは安田君の推薦があったからだ」
 「安田提督の?」
 「私が『波動砲に頼らないで戦える士官はいないか?』と問うたら、君を紹介された。申し訳ないが、いささか履歴も調べさせてもらった。もちろん、私は波動砲戦の専門家としてその威力は大いに生かしたいと考えているが、同時に『それ以外のことができる士官』もまた欲しているつもりだ」
 「……」
 「これもまた『思索生知』と思うのだよ。君はこの艦隊で波動砲戦や通常の戦艦による戦いを学び、私やこの艦隊の士官は君からそれ以外の戦いを学ぶ。そうして皆が強くなれば、地球と人類を守り抜くこともできると私は信じている。君がここで存分に力量を振るうこと、期待させてもらおう」
 「承知しました、全力を尽くします」

 政治的な立場は、確かに異とした相手である。だが、谷もまた信頼に値する艦隊指揮官だと、今のやり取りで理解した堀田であった。


 「第3戦艦戦隊には『鬼』がいる」

 そんな評判が第一外周艦隊の内部で広がるのに、そう時間はかからなかった。

 谷から暗黙の了解を得たこともあり、堀田は月面基地以来の自分のやり方を一切変えずに、第一外周艦隊での任務に就いていた。それは当然のこと、波動砲戦や遠距離砲戦に終始したこれまでの第一外周艦隊の演習とは全く異なる、艦隊あるいは個艦の連続機動による運動戦に重点を置くものだった。
 当初、この第3戦艦戦隊の運動戦についていける戦艦戦隊はほぼ皆無であり、新たに配備された新型巡洋艦を有する戦隊ですら、追従できた部隊のほうが少ないという有様だった。これは練度の低さも問題だったが、波動砲艦隊に賛意を示さなかった士官の多くを後方勤務に追いやったこと、ガミラス大戦で機動戦を得意とするはずの宙雷士官の多くが命を落としていたことも原因ではあった。

 しかし、この現状は堀田を嘆かせるというより、焦燥感を与えるには十分すぎるものだった。

 (同じような戦いを同じようにするだけで、最終的に敵に勝てると思うのか?)

 このようになった原因の多くを防衛軍首脳部に求めることができるから、実際に現場の士官たちを叱りつけても意味はない。だが、放置しておけば本当に波動砲とショックカノンによる遠距離戦しか対応できない艦隊が出来上がってしまう。その前に自分がここに来れたのは幸いだったと思うしかないのだ。
 そうなれば、堀田は一佐として実はこの第一外周艦隊の中で最先任だったこともあり、積極的に艦隊訓練の方法に関して意見具申を行った。全てが取り上げられたわけではなかったが、谷が一定の理解を示したこともあり、堀田はこの時期の第一外周艦隊の訓練課程の殆どを管理していたと伝わっている。それゆえに、またその訓練の厳しさ激しさあればこそ、堀田は「第3戦艦戦隊の『鬼』」などと呼ばれるようになったのである。

 しかし、当然のことその厳しさは、堀田自身と彼の率いる第3戦艦戦隊にも向けられたものだった。彼は他の艦に運動戦中心の訓練を強いつつ、自らとその部隊には、これまで自分の不慣れから不十分だった波動砲戦の訓練を積極的に行っていた。そこで堀田が新たに発見したことも数多く、また練成不十分とはいえこの時期の地球防衛軍にあって『主力艦隊』と言うべき第一外周艦隊に身を置いていたことも幸いして、この頃の堀田が組み上げた訓練プログラムは自身のみならず、これ以降の地球防衛軍の将兵育成に大いに貢献する材料となるのである。もっとも、この時点ではそれはまだ未来のことではあったのだが。


 そうして訓練に明け暮れる日々を送っていた時期の堀田に、というより地球防衛軍に対してある知らせが届いた。

 『ヤマト、テレザート星の解放に成功せり』

 また、これに付随してもたらされたヤマトからの情報により、ガトランティス軍による大規模な地球侵攻作戦が開始されることが判明した。これに伴い、地球防衛軍の各艦隊は第一級戦闘配備に入り、来るべき決戦に備えることとなった。

 「いよいよですね、艦長」

 三木に言われて、しかし堀田は即答できなかった。先日、土方との会話であったように、地球防衛軍が『バランスの取れた艦隊』を手にしているとは言い切れない現状、襲来が予想されるガトランティス軍の大艦隊に対応するだけの力が自分たちにあるのか。自信があるとはとても言い切れなかったのである。
 黙ってしまった堀田に、その内心を理解したのか三木が言った。

 「艦長、今は土方さんはじめ、諸先輩と将兵たちを信じましょう。それに、この第一外周艦隊……地球の主力艦隊は貴方が鍛えたようなものではありませんか。それを疑ってどうするのです」
 「……そうだな、すまなかった」

 詫びて、思考を切り替える。確かに戦力的には不安が大きい。だが、太陽系内で戦うなら地の利と補給線の短さ、何より『地球と人類を守り抜くための防衛戦争』ということで将兵たちの士気も高い。今はそれらの要素を信じて戦うしかない。否応なくそういう時期に来たのだと、堀田は理解したのだった。

 それから、数日が経過する。その日、土方から第一外周艦隊……否、地球防衛艦隊の全てを激震させる命令がもたらされた。

 「太陽系第一、第二外周艦隊は1宇宙時間以内に合流、直ちに土星基地へと集結せよ」

 後に『人類の運命を賭した一大艦隊決戦』として歴史にその名を残す『土星会戦』は、もう間もなくへと迫っていた。

 土方からの「全艦隊、土星基地へと集結せよ」という命令が、第一外周艦隊……否、地球防衛軍の全艦隊に激震をもたらしたのは当然と言えたろう。本来、地球防衛軍の基本戦略は『敵艦隊の太陽系への襲来に際しては、太陽系各地に配備した艦隊の連続投入によって漸減作戦を行う』ことであり、当初から全艦隊を一カ所に集結させての迎撃は、基本的には考慮されていなかったからである。しかも、土星以遠の基地を放棄してまで、その基地に配備されている艦艇をも集結させるとなると、もはや防衛軍の戦略を完全に覆す、独断専行としか言えない命令だった。

 ただ、土方との付き合いが長いせいか、堀田個人としては少なくともこの命令に違和感を感じてはいなかった。

 (土方さんが考えなしにこんな命令を出すはずもない。ということは、襲来する敵艦隊の規模が防衛軍首脳部の想定を大幅に上回っている、そんなところだろうな)

 とはいえ、この命令に現在の上官である谷が従わなければどうしようもない。そこがいささか不安ではあったが、谷としても土方の命令に思うところがあったのか、すぐその指示に従い、第二外周艦隊との合流を麾下の全艦艇に命令したのだった。
 そして、第二外周艦隊との合流を終えた直後、太陽系へと向かっているガトランティス艦隊の規模が伝わってきた。それによると、現状確認できる艦艇だけでも500隻近くに達する大艦隊である、ということであった。

 (それほどの艦隊がやってくるとは……そうであれば、全軍を集結して立ち向かうより他にないな)

 何しろ、現在太陽系にいる外周、内周艦隊および各惑星基地配備の艦艇をかき集めても、やっと200隻に達する程度である。そこへ太陽系に駐屯するガミラス軍太陽系方面軍の艦隊を加えたとしても、敵に対してその兵力は半分にしかならない。そこに来て当初の漸減作戦にこだわっていては、地球防衛艦隊は各個撃破の対象となって壊滅するしかなかったろう。土方の決断は、下した時期も含めて最適だったと堀田は判断するに至った。

 (だが、苦しい戦いになるぞ)

 現状を鑑みれば、艦隊集結それ自体は何とか間に合うと判断できる。だが、それでも地球防衛軍の連合艦隊はこれから倍の数を誇る敵艦隊と交戦することになる。
 しかも、その敵艦隊はガトランティス軍の主力部隊ではない。いや、艦隊という機動戦力としては主力なのかもしれないが、白色彗星を有するガトランティス軍の本隊がそれに後続しているのだ。味方に倍する『前衛艦隊』の後に控える白色彗星……これから始まろうとしている戦いが『人類の存亡を賭けたものになる』と、堀田のみならず現状を知った将兵たちはおのずと覚悟を強いられたはずである。

 (だが、今は目の前の敵艦隊を叩くしか方法がない)

 堀田はそう割り切った。割り切るしかないのである。どのみち、前衛と言うべき敵の大艦隊に敗北すれば、その艦隊の攻撃によって地球は焦土と化し、人類は滅亡に追い込まれるしかないのだ。白色彗星が控えているということを理由に土方の戦略に異を唱えた防衛軍首脳もいたと聞くが、そのような先のことを考える余裕など、実際にはあろうはずもなかった。

 土星に到着する直前、堀田は『薩摩』以下の第三戦艦戦隊に所属する乗員に、指揮官として短い訓示を行った。

 「これから、我々地球防衛艦隊には苦しい戦いの連続になる。本戦隊もその一翼として奮闘しなければならないが、自分たちに求められるのは『勝ち続けること』となる。その覚悟を以て、諸氏の全力を尽くしてもらいたい」


 土星基地に到着してみると、既に土星以内から集まってきた外周、内周艦隊や基地に配備されていた艦艇の集結が始まっていて、タイタンの鎮守府には糸が張り詰めたような緊張感が漂っていた。確かに地球防衛艦隊の全戦力が集結すれば壮観な眺めになるだろうが、それに浸っている余裕など、少なくとも堀田にはあろうはずもなかっただろう。
 そして土星に到着したその日、堀田は個人的にも無視できない情報に接することになった。

 『十一番惑星に駐屯する第十一、第十六艦隊が敵ガトランティス艦隊と交戦、これを撃滅せり』

 第十一、第十六の両艦隊は、土方からの艦隊集結命令を受け取る直前に、主力とは別と思われるガトランティス艦隊を捕捉していたため、土星基地へは向かわずこの敵艦隊の迎撃にあたっていた。この艦隊は恐らく陽動部隊と思われたが、それでも100隻は軽く超すほどの規模を誇っていたというから、敵の戦力の底が知れたものではない。
 ただ、この会戦で総指揮を執ったのは、第十一艦隊を率いる堀田の同期である高石範義だったのは、堀田にとっては喜ばしいことだった。親友が生き残ってくれたこともさることながら、第十一、第十六の両艦隊は恐らく土星での決戦にこそ間に合わないだろうが、逆にこれを予備兵力と考えれば敵艦隊を挟撃できる可能性も生じる。まずはよしとすべき結果であった。


 そして5月6日、タイタン鎮守府で連合艦隊にとって最後となる作戦会議が行われた。ここでの会議で主な議論の的となったのは、敵艦隊がどのような進路で土星宙域に侵入してくるか、ということであった。
 土方の指示により、各地から集結した艦艇は連合艦隊として六個艦隊に再編されていた。そして土方からこの会議で示された連合艦隊の陣形は、明らかに『敵艦隊は正面突破を狙ってくる』ことを前提にして組まれたものだった。

 「この陣形では、側面を突かれた場合に対処できないのではないか?」

 幾人かの提督、艦長がその不安を指摘したが、土方は断言した。

 「敵は、必ず正面から来る」

 この断定的過ぎる発言は多くを驚かせたが、土方はいつもの口数の少なさからは想像しにくい勢いで自らの戦略を披露した。敵は数において、そして個艦の性能でこちらに優越しているという、ある種の『驕り』があるはずだ。その敵が数で劣る敵を前に小細工などするはずがない。必ず正面からこちらを叩き潰しに来る。それは、現状多いとは言えないが集めることができた偵察情報で判明した敵艦隊の兵力配備から見ても間違いない。
 一通り、土方が語り終えたとき、敵が側面から来たらどう対応するかと不安に思う者はいなくなっていた。それだけ土方の言葉には説得力と、そしてそれ以上に迫力があった。『鬼竜』とはよく言ったものだと、堀田は恩師の言葉を聞きながら内心で納得していたのだった。

 この会議が終わった直後、最終的な艦隊の配置が通達された。そのとき、堀田は自分に対する意外な命令に驚くことになる。

 『堀田真司一佐を代将待遇とし、第五艦隊の司令長官代理とする』

 第五艦隊は、土星本星のカッシーニの隙間に配置されることとなっていた、今回の会戦では『予備兵力』と位置付けられた艦隊である。本来は第一艦隊に所属するはずの、まだ竣工から日が浅く乗員の練成が不十分とされた艦で編成されたいくつかの戦隊に、ガミラス軍太陽系方面艦隊を加えた50隻の混成艦隊で、正直なところ、地球側の所属部隊は曲がりなりにも第一外周艦隊で猛訓練を積んでいた第三戦艦戦隊に比べると『大人と子供ほど』には練度の差があった。
 一方でガミラス艦隊は、太陽系という外地に派遣されてきた艦隊だからそれなりに練度は期待できたが、機動力にこそ優れるものの軽巡洋艦と駆逐艦が大半を占める編成であり、ガトランティス軍が保有する大型艦相手には正直なところ質量共に不安はある。こうなると、海王星沖で『薩摩』が経験した戦いでの損害が惜しまれてしまうところだった。

 そんな、戦力としては大きく期待できそうもない艦隊を預けるのに、防衛軍にとって数少ない将官を充てるのは難しいと言わざるを得なかった。そうなると、この第五艦隊で階級としては最上位にいる堀田が代将として艦隊を率いるのはやむを得ない。自分などには荷が重い、などという泣き言は、堀田自身も言っている場合ではないし土方も許してくれないだろう。黙ってお前の責任を果たせ、という土方の無形の言葉を、ただ受け入れるしかなかったのである。


 第五艦隊がタイタン鎮守府を出撃する直前、堀田は『薩摩』でガミラス太陽系方面艦隊の指揮官の訪問を受ける。だが、その相手はもう見知った相手だった。

 「堀田一佐、お久しぶりです」
 「ゲーア少佐! あなたがガミラス艦隊の指揮官だったか」

 先の海王星沖での戦闘で、結果的に堀田が『命を救う』形になったゲーアが、今はガミラス大使であるバレルの指示でガミラス太陽系駐屯艦隊の全軍を率いているという。

 「あなたがガミラス艦隊を率いているとは心強い。予備戦力扱いということで申し訳ないが、機会が訪れれば存分に戦っていただきたい」
 「お心遣い、感謝いたします。小官も先日の海王星でのご恩、お返ししたく思っております」

 お互い、その力量と人格には信頼を置いているのだから、ことに堀田としては心強い限りだった。もっとも、実は堀田がガミラス艦隊を含む第五艦隊の代将に任じられた理由の一つが、ゲーアが「我らは地球艦隊の指揮下で戦うことに異存はないが、それならば是非堀田一佐の麾下で戦いたい」と土方に強く希望したからでもあったのだ。もちろん、堀田自身はそのことを知る由もなかったが。

 「先日の海王星での戦いは、あなたに命を助けられた。私の麾下にはそのとき命を永らえたものもおりますから、皆、そのときのご恩をお返ししようと張り切っております」
 「……いや、あのときは我が軍の不備もありましたから。それに、味方を見捨てる戦いは地球防衛軍にはないものです。そのことはもう気になさらず」
 「いえ、ガミロン軍人として一度受けた恩を返さずにいるのは恥というもの。僅かな戦力ではありますが、我が艦隊の総力を挙げてこの戦いに望む覚悟でいます」
 「……」

 表情だけは穏やかさを装ったが、堀田は二の句が継げなかった。確かに決戦を前に高揚しているということもあろうが、ゲーアの『覚悟』が妙な気負いなように感じられたのだ。海王星のときも彼は独断で敵艦隊の迎撃に出たのだが、それは蛮勇というより『自分たちが何とかしなければ』という責任感の発露だろうと堀田は思っていたから、自分に示したこの強い覚悟が悪いほうに向かなければいいのだが……と考えるしかなかったのだ。

 (それをうまく抑えて、無駄死にに追い込まないことも私の仕事、ということになるだろうな……)

 ゲーアに「あなた方の奮戦に期待しております」と、社交辞令的に声をかけて見送ることになった堀田は、内心でそう思いつつも言い知れぬ不安感を拭いされずにいた。そして、悲しいかなこの不安は現実のものになってしまうのである。


 そして、ついに連合艦隊全艦に出撃命令が下る。実は半日ほど前、堀田の上官だったこともある安田俊太郎宙将補が率いる第三艦隊(空母機動部隊)がヤマトと共に出撃していたのだが、これは敵主力艦隊の後方に『いると思われる』敵空母部隊への奇襲を企図した艦隊であった。空母の数が違い過ぎるから、まともな航空戦になれば制空権は必ず敵に明け渡すことになる。敵の所在が不特定という意味で賭けではあるが、制空権喪失を防ぐために航空先制攻撃を仕掛けるというのも、至極まっとうな戦略だと堀田は考えたのだった。

 (自分も、土方さん始め諸先輩のようにまっとうに艦隊を率いられるのかどうか……)

 カッシーニの隙間への移動中、内心でそう考える。これまで堀田が率いてきた最大級の兵力は一個戦隊がいいところで、今の第五艦隊より規模が小さい分艦隊の指揮を執った経験すらない。それが予備兵力とはいえ、代将として決して規模の小さくない50隻の艦隊を率いろというのである。しかも同盟国であるガミラスの艦隊まで預けられたというのは、本音を言えば土方に「正気ですか?」と詰め寄りたいくらいだった。
 しかし、仮に詰め寄る機会があったとしても、土方が取り合ってくれる見込みもなかった。ある『薩摩』乗り組みの士官が小耳に挟んだという話をたまたま聞いたところによると、実際、堀田に代将として第五艦隊を率いさせることには反対意見も多かったようだ。その方がむしろ当然だから堀田としては腹を立てようもないのだが、土方はその意見に全く耳を貸そうとしなかったのだという。

 (『試され続ける』ということはどこまでも変わらない、か)

 思えば、士官学校最上級生のときに知己を得てから、土方は常に自分に重すぎる課題を与え、それに応えることを要求してくる。今まで何とかしてこれたからこそ今の自分の立場があると堀田も頭では理解しているが、楽はさせてもらえないな、と時折思う。もっとも、自分とて土方に連合艦隊司令長官という今の立場を押し付けたのだから、人のことを言えた義理もないのだが。
 しかし、いきなり一個艦隊を預けてくるという今回の課題は、失敗することが絶対に許されない。まず多くの将兵の命を預かっているということはもちろん、これから戦われる会戦は文字通り人類の命運がかかっている。そこで一個艦隊が戦力にならないという事態を招けば、味方の敗北に繋がることは必至だ。これまでの自分に与えられた責任とは重さが明らかに違うことを、堀田は自分なりにだが理解しているつもりだった。

 そして、理解しているからこそ、その責任から逃げるつもりもない。今後、ガトランティス帝国との戦いがどのように進み、いつまで続くか想像もつかない。しかし、誰が相手でも勝ち続けるしか道はない。そうでなければ、地球と人類には滅びの道が待っているだけだ。

 「第五艦隊、全艦配置につきました」

 報告を受けて、堀田は立ち上がって檄を飛ばす。

 「さて、苦しい戦いになるだろうが、勝って地球と人類を守り抜こう。各員、全力を尽くしてくれ!」

 土星会戦、その『本戦』と言うべき艦隊同士の激突が、間もなく始まろうとしていた。

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